ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第264話〝孤島の国〟

「うーおー‼︎ すげーでっけー町があんな!!!」

 

 森を抜け、丘を登り、辿り着いた平地。

 そこに広がる広い町……島の規模からは考えられないほど発展した人里を目の当たりにし、ルフィは歓声をあげる。

 

「島の反対側はこんな賑わってたのか〜‼︎」

「島の地形が急勾配が多くて、人が住める土地は全部こっちに集中してるんだ。こっちの方は海も穏やかだし……」

「そーなのかー」

 

 道案内をしてくれたシンゴとヒナの説明に耳を傾けながら、ルフィの視線は町から離れない。視界に映るあらゆるものが新鮮で、驚きだった。

 

 魚人、巨人、腕長族に足長族。

 見た事のある種族や、見た事のない種族、あらゆる外見を持った人々が、ごく当たり前のように暮らしていた。

 

「おんもしれ〜〜やつらがいっぱいいるなァ!!! 魚人も巨人もなんか見た事ねェやつもいるぞ!!? あれなんだ!!?」

「さァ………そういうの詮索しないから」

 

 未知の人種に大興奮するルフィに対し、シンゴは冷めた態度のまま。

 見慣れた島の住民だからか、ひどく無関心に見えた。

 

「ん?」

 

 ふと、ルフィはあるものに気付く。

 町を行き交い、交流する人々……彼らの手元に、何やら小さな何かが忙しそうに動き回っていた。

 

「はいはい、おつかれさん。コレ、お駄賃ね」

 

 とある八百屋の女店主の元に、袋を首に下げた赤い鳥が舞い降りる。店主がそれを受け取り、貨幣らしき銀色の円盤を渡すと、鳥はどこかへ飛び立ってった。

 

 またあるところでは、大工らしき魚人の元に緑色の蝗が跳んできている。

 

『おゥ、テステ〜ス。親方から連絡だ。今日はマッつぁんが腰痛めたらしいからおれら2人だけで残りの箇所片付けろってよ』

「アァ!!? またかよ、あのヤロウ‼︎ こないだもそうやって休みやがったろアイツ!!!」

『おれに怒鳴んじゃねェよ‼︎』

 

 蝗からは野太い男の声が響き、それに相手の大工が怒鳴りつけている。電伝虫のような通信能力があるようだ。

 

 また、通りを飛び抜ける小さな翼竜を子供達が追いかけていく姿もある。

 元気一杯の彼らの姿に、道端で寛ぐ老夫婦が微笑みを浮かべていた。

 

「いや〜〜……ホントこの子らは便利だねェ…ありがたいねェ…」

「そうじゃのう、バアさんや」

 

 ルフィは唖然とした顔で立ち尽くし、その光景を凝視していた。

 あちらこちらで動き回る、金属でできた小さな動物達。島の住民達は、それをまるで当たり前のように使役しているのだ。

 

「スッッッゲェ〜!!! なんだこの島‼︎ 何だ!!? おんもしれ〜モンがそこら中に!!! なァなァ‼︎ アレなんだ!!?」

「ハイハイわかったわかった…………いいからもう行くぞ」

「あのちっこいヤツ何だ!!? 鳥のやつとかバッタのやつとか!!! おれもほし〜」

「あとで説明するっての…」

 

 大興奮してばしばしと背中を叩かれ、シンゴは辟易した顔でルフィの手を引く。

 ずるずるとその場を離れたがらないルフィを引きずっていると、兄に代わってヒナが満面の笑みで語り出した。

 

「アレはカンドロイドっていってね? だいぶ前にこの島に来たどっかの偉い人だっていうおじさんが、島の発展のためにって持ってきたものなの。いろんな種類があって便利なんだよ」

「へー、そんなもん持ってきてくれるなんて、そのおっさんはいいやつだな〜」

「うん! ヒナもそう思う!」

 

 ルフィが顔も知らぬ男を賞賛すると、ヒナは力強く頷く。彼女にとってもお気に入りの人物のようだ。

 意気投合する妹と漂流者に、シンゴは呆れて深々と溜息をこぼし。

 

「おい、いい加減お前の仲間を………」

「あれ、どこ行ったら手に入るんだ? おれも使いてェ」

「アレはねー、島のあっちこっちにある機械にコレを入れてねー、欲しいカンドロイドの下のボタンを押してー」

「…………聞けよ」

 

 さっさと漂流者に対する役目を終わらせたいのに、全くいうことを聞かない。どうしたものかと、引っ張る腕に力を込めながら額を押さえるシンゴ。

 

 そこへ、近くの茶店の軒先に屯していた男達が、シンゴ達に気付き訝しげな視線を向けてきた。

 

「…ん? よォ、シンゴ。こっちに来るとは珍しいな。………そいつは誰だ?」

「新入り。今朝流れ着いたらしい」

「ほォ……そうかそうか、早くに馴染めるといいがな」

 

 シンゴが簡潔に説明すると、男はすぐに事情を理解したのか何度も頷く。

 同情的な視線を向けられている事に気づいたルフィは、思わず男の方に困惑の表情を向けた。

 

「よく荒波を生き延びてこの島に来たな…歓迎するぞ、新入り。まァ窮屈な島だが、のんびり暮らす分にゃ困らねェ。ゆっくりしていけ」

「ん?」

「町の近くは土地が足りなくなってきてっから、家を建てるんなら隣の半島か山奥に行かねェと確保できねェぞ。仕事は自分でおいおい見つけてくれや」

 

 何やら親切に色々と教えてくる男。ルフィが聞き返す暇もなく、喋るだけ喋るとさっさと顔を逸らしてしまう。

 咄嗟に訊ね返そうとすると、また別の島の住人が親しげに話しかけてきた。

 

「あら? ヒナちゃん、そちらのお兄さんはどなた?」

「新しく流れ着いた人だってー!」

「あらそうかい………昨日の嵐で流されて来ちゃったんだねェ、大変だったろう」

 

 買い物帰りらしい中年の女性に今度はヒナが説明し、またしても同情の視線が向けられてくる。

 ルフィが振り向くと、女は買い物袋の中から果物を取り出し手渡してきた。

 

「はい、リンゴ! 持っておいき!」

「ん? お…おォ。ありがとな」

 

 何の脈絡もない気遣いに、ルフィは呆然としたままそれを受け取る。そしてその場でしゃくりとかじる。美味いがどうにも味に集中できなかった。

 

 すると彼らを皮切りに、近くにいた他の住人達が続々と集まり始めた。

 

「新入りだって?」

「久々じゃないか?」

「今回は長く持つといいな」

「仲良くやろうぜ‼︎」

 

 全員が全員、誰一人敵意を向ける事なく親しげに話しかけてくる。

 魚やら野菜やら、何かしらの品を持ってきながら、ルフィの肩を叩き歓迎してくる。やはり誰しもが、労りの視線と言葉を向けてきている。

 

「祝いの品だ‼︎ 持ってきな‼︎」

「代わりに私らが困った時はぜひ助けておくれよ」

「島の新しい仲間に乾杯‼︎」

「遠慮なんかするんじゃねェぞ‼︎」

「この島はみんな誰でも助け合いだ‼︎」

 

 わらわらと住民達に集まられ、ルフィの両手はあっという間に贈り物でいっぱいになる。

 好き勝手に出迎えの言葉を投げかけもてなした住民達がさっさと離れていく様を見送りながら、ルフィは改めてシンゴ達に問いかけた。

 

「……さっきから新入りって何の話だ? おれ別にこの島に住むつもりなんてねェけど」

 

 何か勘違いしているのではないだろうか、と彼らしからぬ申し訳なさそうな表情を浮かべるルフィに、シンゴはどこか困り顔になって見える。

 やがて、重く閉ざしていた口をかすかに開いて答えた。

 

「…………いずれわかる。準備だけは進めとく事だ」

「どういう意味だ?」

「あとで説明する。今は急ぎの用があるだろ」

「あ‼︎ そーだ‼︎ そーだな‼︎ 急いで探さねェとやべェ!!!」

 

 シンゴに指摘され、はっと我に返る。

 面白いものと奇妙な歓迎のせいで、危うく大事な事を忘れるところであったと、大荷物を抱えたルフィが歩き出す。

 

 案内役を置き去りにするほど焦る彼の背中を見つめ、シンゴは再び溜息混じりに呟いた。

 

「…………どうせ説明するなら、まとまってた方があとが面倒じゃなくていいし」

 

 ぼそりとこぼした、意味深な一言。

 それに気付く事なく、ルフィは広大な町を己の勘と嗅覚を頼りにし、爆走を始めた。

 

「今いくぞ!!! メシ屋!!!」」

「あれ!?? 仲間は!!?」

 

 

 

「チヨ子姐さ〜〜ん‼︎ こっち酒だけ追加で頼まァ!!!」

「はいは〜い♫ ちょっと待っててね〜」

 

 とある店で、店主を呼ぶでれでれとしただらしのない声が響く。

 店主の女性・チヨ子はそれに不快感を示す事は一切なく、厨房で器に酒を注ぎ、飲み物を作り始める。

 

 それを運ぶのは、麗しい少女や女性達だ。

 一貫性のない、あらゆる国の伝統衣装に身を包んだ女性陣が、これまた様々な国の伝統的な名物料理を運び、客はそれを堪能している。

 

 まとまっているのだかいないのだか、なかなか理解に苦しむ様相を見せつけていた。

 

「………なに、このカオスな店」

「あァ…カオスだな」

 

 思わず呟くナミの隣の席で、サンジも強く頷く。

 彼の目は世界中の料理に向けられ、それ以上に、配膳し接客する女性陣にしっかりと釘付けになっていた。

 

「あっちにはフローラルな美女…!!! あっちにはミステリアスな美女…!!! あっちにはエネルギッシュな美女!!! あちこちにおれの心をかき乱すレディが揃ってやがる!!! おれァ………おれァ一体この混沌とした心をどうすりゃいいんだ!!?」

「…コイツは」

 

 この場で最もだらしのない顔になり、女性陣一人一人に心を奪われる男に、エレノアが頭を抱えて項垂れる。料理人としてそれでいいのかと。

 

「ま…店の内装にいちいち文句つける気はないから別にいいんだけどさ。待ち合わせ場所にさせてもらってるだけだし」

 

 気を取り直し、後頭部で手を組んで寛ぐ。

 次いで、物憂げな顔で頬杖をついているナミに視線を向け、尋ねる。

 

「ナミ、記録指針は?」

「………またぐるぐるし始めちゃったわ。ほんっと意味がわからない」

 

 ちらりと手首の記録指針を見てみると、二つの方向を交互に指し示し、なかなか定まらない。こうなってはもう、普通の方位磁石と変わらない頼りなさだ。

 

 はぁ、と深い溜息をこぼし、ナミとエレノアは机の上に突っ伏した。

 

「島の外も難問だけど、私達にとってはこっちが一番の問題なのよね……………記録指針なしにまたあんな嵐に巻き込まれたら、今度こそ終わり。それに、次の島の魚人島さえ目指しようがないわ」

 

 気怠げな顔で、何度も深く嘆息するナミ。

 飲食店、人目のある場所で見せる態度ではないが、理不尽に通せんぼされている今の状況では仕方のない事だろう。

 

「エレノア、あんた磁場の原因とかわからない?」

「ん〜〜…なんか感じないかって言われたらビンビンに感じてるけど……アレをどう表現すべきか。言葉にするのが難しいんだよね」

 

 ナミに問われたエレノアが、外套の下でぴくぴくと耳を動かし〝声〟を探る。そうする事で、より一層()()の気配が強く感じられる。

 険しい表情のまま、嵐の中でも感じていた未知の気配を感じる方角を指差した。

 

「方向的には…あっち。太陽の位置的に東北東」

「地図でもあれば楽なんだけどなァ」

「ま、その辺はみんなで合流できたらおいおいね……」

 

 原因と思わしきものがあり、取り除けるのであればすぐさまそうしたいが、指針がないのなら地道に探索する他にない。

 便利さに毒された人間は、想定外の事態には翻弄される他にないようだ。

 

「…ていうかエレノア、あんたなんか妙に緊張してない? 人前でフード外さないのはいつもの事だけど、今日は妙に気を張ってるっていうか………

「……なんとなく」

 

 ふと感じた疑問に、ナミが少し訝しげになる。種族的に目立ちたくないのはわかるのだが、今は特に厳重に隠している気がする。

 その問いにエレノアが曖昧な返事だけを返していた時だった。

 

「着いた──!!! メシ屋──…!!!」

 

 ばんっ、と店の扉が勢いよく開かれ、お待ちかねの麦わら帽の青年が姿を見せる。涎を垂らし、満面の笑顔を浮かべた彼の顔を見つけた途端。

 

 ひゅん、と一瞬で姿を消したエレノアが、鬼の形相で襲いかかった。

 

「よくもニオイにつられてのこのこ出てきやがったなバカ船長がァァァ!!!」

「ほぎゃ────!!?」

「「ギャ─────!!?」」

 

 どごん、とルフィの脳天に機械鎧の踵が振り下ろされ、轟音が辺りに響き渡る。絶叫するルフィが床に叩きつけられ、それを見た兄妹が悲鳴をこぼす。

 大の字に倒れ伏したルフィを見下ろし、エレノアはふんと鼻を鳴らした。

 

「まったく…‼︎ 仲間ほったらかしにして真っ先にメシ屋に走るとは………予想通りとはいえほんっとバカなんだから!!!」

「ごべんなしゃい…」

「…………どういう力関係なんだよ、お前ら」

 

 伏したまま弱々しく謝るルフィに、エレノアの説教は続く。

 あれだけ自由気ままな青年が叩きのめされる様に、シンゴは戦慄し、ヒナは彼にしがみつきがたがたと震え上がっていた。

 

「おっ、ルフィこの野郎やっと目ェ覚ましやがったのか………悪いなシンゴ、手間ァかけさせてよ」

「気にしないでくれ…助け合いが島のルールだから」

「ヒナちゃんもありがとね〜♡ このバカを見張っとくの大変だったでしょ?」

「平気だよ! 麦わらのお兄ちゃん、面白いから」

 

 ずっと眠っていた船長が姿を見せたため、サンジとナミが彼の方に近付き迎える。

 そして自分達を引き上げてくれた少年と少女に改めて礼を言い、頭を下げる。

 

 そこへ、冷水を注いだ器を盆に乗せたチヨ子が満面の笑みと共にやって来る。

 

「あなたがエレノアちゃん達の船長さん? 嵐の中大変だったわねェ」

「ん? この店の奴か? 平気だ、俺の仲間はみんな強ェししぶてェからよ‼︎」

「あらあら、頼もしいのねェ」

 

 ひりひりと痛む頭をさすりながら体を起こし、強気な言葉を吐くルフィ。

 本気で感心しているのか、冗談と捉えたのかは不明だが、さして目立った反応を見せる事なく、チヨ子は冷水をルフィに渡して背を向ける。

 

「島の暮らしに慣れるまで時間はかかるだろうけど、期限なんてものはないからゆっくりしてってね」

 

 ぱたぱたと手を振り、その場を後にするチヨ子の背中を見つめ、ルフィはまた首を傾げる。やはり、島の住民達と同じ反応を示された。

 

「…………なァお前ら、この島の奴らはさっきから何の話してんだ?」

「さァ? どういう意味なのか聞こうとは思ってたんだけど、みんな当たり前みたいによろしくって言ってくるもんだから言い出しづらくって」

「あァ……全員が全員、妙に気安くってな。滅多にねェ事だからつい反応が鈍っちまった」

「どういう意味なんだろうねェ………まるで」

 

 島の住民達の奇妙な物言いや態度を思い出しながら、四人は首を傾げ問いかけ合う。それを見つめるシンゴの複雑そうな視線に気付かぬままに。

 

「私達が全員、二度とこの島から出られないみたいな…」

 

 

 

 ひゅうひゅうと吹きすさぶ、海風。崖下に広がる広い広い海原。

 

 遥か先まで見渡せる絶景を前に、フランキーは独り、絶句していた。

 平地では見つけられなかった、島の住民達の態度の背景にある同仕様もない理不尽を前に、ただただ言葉が見つからない。

 

「オイオイ…………こんなもん…どうしろってんだよ………!!!」

 

 彼が見下ろす先で、荒れ狂う幾つもの巨大な渦潮。

 何百mも先まで続き、怪獣の唸り声のような轟音を響かせるその光景を前に……彼は、ひたすらに打ちのめされていた。

 

 島一つをぐるりと囲む天然の牢獄の檻を目の前にして。

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