ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第266話〝オーバーテクノロジー〟

「まったくヒヤヒヤさせやがるぜ。こいつがなかったら一体どうなってたか………」

「ついてたな、ししし‼︎」

「言ってる場合か無銭飲食常習犯」

 

 賑わう町の通りを歩きながら、サンジが半目をルフィに向ける。

 危うく尻の毛まで抜かれかねない気迫を味わい、全員がほっと安堵の息をついていた。

 

「そもそもお前、そんなモンどこで拾ってきたんだ? まずこいつは一体何だ?」

「さー、何だろな。なんかズボンが妙に重いなとは思ってたんだけどよ…………おい見ろ、なんかカッチョいいマーク入ってんぞコレ」

 

 懐にまだ残っていた硬貨を掲げ、首を傾げるルフィ。

 よく見れば確かに何かの紋章が……翼を広げた鳥の衣装が刻まれているのがわかった。

 

「こりゃあ……鷹か? 他にも象やら虎やら動物の絵が入ってるが…ガキのオモチャみてェな代物だな」

「本当にどこで拾ってきたのやら…うわ、私の靴にも入ってら」

 

 じゃらじゃらと掌の上で硬貨を弄び、サンジは眉をひそめる。

 ふとエレノアが靴の中から違和感を感じ、ひっくり返してみるとさらにこぼれ落ちてくる。

 

「ねェヒナちゃん! 本当に支払いはこれでよかったの? コイツが知らないうちに持ってただけのものなんだけど」

「いいよと思うよ? むしろみんなそれ使って買い物してるくらいだし。専門のお店があって、そこならそれとお金を交換してくれたりするんだよ」

「フ〜ン……変な物を欲しがる人がいるのねェ」

 

 チヨ子のちょっとした暴走を止められなかった負い目か、まだ案内を続けてくれている兄妹に問いかけ、思わず唸るナミ。

 金ではないのは確かだが、それがこの島では財宝より価値があるというのだから驚きだ。

 

「まァいいわ…………ルフィ、他にこのメダルを持ってたら全部出して。可能な限り換金するわよ」

「切り替え早っ‼︎」

「財宝をお金にできないんじゃ仕方がないわ。ここがどこなのか把握するにも時間がかかるだろうし、当面の生活資金を確保するためにも使えるものは使わないと。ほら跳んで。跳べ」

「カツアゲか!!!」

 

 天候棒を突きつけ、目をBではなく謎の硬貨の形にしたナミがルフィに促す。完全によくに突き動かされたその姿に、ルフィも流石に怒りを見せる。

 

「交換してくれるのって、どこのお店?」

「……あそこで」

 

 エレノアが問うと、シンゴは山の方を指差し───そこに聳え立つ硝子張りの巨大な建物を示す。

 

 陽光を受け、燦然と輝くそれはまるで未来の城。

 圧倒的な存在感を放つそれに気付き、ルフィ達ははーっと感嘆の声を漏らした。

 

「うお、何だあのでかい建物」

「何年か前にこの島にやってきた富豪が建てた………会社だって。メダルを持って行ったら金や道具と交換してくれるんだ」

「ふーん………」

 

 慄くサンジにシンゴが説明を続け、全員の視線が硝子の城に集中する。

 エレノアだけは、巨大な建物をどこか胡散臭そうな眼差しで射抜いていた。

 

「道具ってあっちにあったいろんな道具か⁉︎ トリのやつとかバッタのやつとかか⁉︎」

「ああ」

「スッゲーな!!! あれ作ってるとこなのか〜〜〜」

「あァ…町のあちこちで使ってるちっこい機械の動物だろ。アレと交換できんのか? そりゃいい」

 

 途中に何度も見かけた円柱状の機械。変形して生物の形になる不思議な道具の事を思い出し、ルフィは目を輝かせサンジも羨む。

 しかしそれ以上に、それだけの技術を持つ組織がこの地にいる事が不思議でならなくなる。

 

「なんだってまたこんな小さな島にあんなデカイ建物おっ建ててんだ? その金持ちとやらは」

「さァ………おれ達、そういうのは詮索しないから」

「でもおじさんは凄く気さくでいい人だよ。お誕生日を迎えた人に絶対にケーキをプレゼントしてくれるの!!! すっごいハイテンションで」

「いい奴だな〜」

 

 ルフィはすっかり謎の人物を気に入ったらしく、島の住民達を羨ましそうに眺めている。案の定、疑う素振りなど全く見当たらない。

 

「よし、おれもあとでこれとあのオモチャ交換してこよ」

「おれも行ってみるか………傍目から見ててもなかなか便利そうだったしな」

「何を羨ましがってるんだか…………アレぐらいなら、フランキーなら自分で作れるんじゃないの?」

「男のロマンってのはよくわからんね…」

 

 わくわくと胸を弾ませている男性陣に、女性陣が向けるのは冷めた視線だ。割と長く共に旅をしているが、彼らの感性は決して理解できないらしい。

 

 その時、ふとナミが隣の天使が見せる違和感に気付き振り向いた。

 

「エレノア、あんたさっきからなんか唸ってるけど、どうしたの?」

「………いや、さっき店にいたおっさん達が、な〜んかどっかで見たような気がしててさ。どこだったっけなって…」

「どっかって………賞金首?」

「多分…………でもなんか違和感強いんだよなァ」

 

 時折腕を組み、考え込むような仕草を見せていたエレノアに尋ねると、彼女自身も自信がないのか曖昧な答えが返ってくる。

 しばらくうんうんと悩み続けるが、なかなか答えが出てこないらしい。

 

「は〜〜…よっと。やっと運び終わったぜ、こき使いやがってアンニャロ〜〜〜……」

「まーまー。お世話になってるんですし文句はナシにしましょう。ヨホホホ‼︎」

 

 道の真ん中で固まり、片や鼻息荒く期待を抱き、片や訝しげに眉間にしわを寄せる一団。

 彼らの視界に割って入るように、一軒の家屋から二人の男が箱を抱えて姿を現した。

 

「あ」

「あ」

 

 ルフィ達が声をあげると、相手も思わず声を漏らす。

 その二人、ウソップとブルックはルフィ達の姿を捉えると、大きな驚愕と安堵の声をあげた。

 

「うおおルフィ!!! 何だよこっちにいたのかよ⁉︎」

「みなさんご無事で何より!!! いや実はこれから探しに行くところだったんですよヨホホホ‼︎」

「見つかってよかった〜探したぞお前ら〜‼︎」

「ウソつけ。いの一番にメシ屋探してたでしょ」

 

 箱を地面に置き、ルフィ達との再会を喜ぶ二人。

 調子のいい事をのたまったルフィには、エレノアからの痛い仕置きが奮われた。

 

「ゾロとロビンは? チョッパーとフランキーも一緒じゃねェのか?」

「ゾロとロビンはおれ達より先に目を覚まして、島を調べにいった。フランキーは知らねェが………チョッパーはこの診療所の手伝いしてるトコだ。()()()の診察代がわりにな」

「あいつ……?」

 

 突如ウソップが口にした名称に、誰の事だと考える。

 そしてやがて、一人の顔を───嵐の中、怪鳥から救い出された謎の少女の事を思い出した。

 

「あっ…そうだ忘れてた‼︎」

「あん時の鳥に食われてたヤツ‼︎」

 

 船が転覆する寸前の出来事が一気に蘇り、はっと目を見開く。

 考えてみれば、あの少女との出会いこそ、自分達がこの小さな島に流れ着く原因の一端であった。無論、最たる原因はあの巨鳥だが。

 

「あいつもこの島に流れ着いてたのか?」

「あァ………今チョッパーとおっさんが診てくれてる。まだ目は覚ましちゃいねェが、別に体調に異変はないってよ」

「そっかー、そりゃよかった………ん? おっさんって誰だ?」

 

 化け物のような大きさの鳥に食われて無事で済んでいるなど、奇跡という他にない。本人の運の良さに思わず誰もが感心する。

 そこで、エレノアがもう一人の仲間の行方について疑問を抱いた。

 

「なら残るメンツはフランキーだけか……どこに行っちゃったんだろ」

 

 ぼそりと呟き、虚空に目をやって彼の安否を誰にともなく問いかけた、その時。

 

 ぶぉん、ぶぉんと。

 どこからか、重く激しい唸り声のような何かが響き渡ってくるのが聞こえた。

 

「ん? 何、この音……」

「よゥおめェら!!! いま、おれの事を呼んだかよ!!!」

 

 咄嗟に辺りを見渡した一味は、轟音が響く方を見やりぎょっと目を剥く。

 

 土埃を巻き上げ、近付いてくるのは、黒い塊に乗ったフランキー。

 前後二つの車輪を回し、地面を削りながら、鋼鉄の騎馬が鉄人を乗せて一味の前へと向かってきていた。

 

「おォ〜〜‼︎ フランキー‼︎ 無事でよかっ………………何じゃそりゃカッチョいィ〜〜!!!」

「やっと戻ってきた………」

「お前…見ねェと思ったらそんなもん作ってたのか」

「おれも乗せてくれェ〜〜〜!!!」

 

 さらなる男の浪漫の出現に、ルフィが歓声をあげ駆け寄る。

 フランキーは仲間達の前で鋼鉄の騎馬を停め、サングラスを外して立ち上がる。

 

 彼は地面に降りたつと、鋼鉄の騎馬の一部を徐にぽんと押す。

 すると鋼鉄の騎馬はひとりでに起き上がり、直方体の箱へと変形してしまった。

 

「「カッチョいィイ〜〜〜!!!」」

「ウハハハ、どうだすげェだろ………まァ、コイツを作ったのはおれじゃねェけどな」

「え? そうなの?」

 

 真剣な表情に戻りつつ、フランキーはエレノア達に向き直る。ぎゃーぎゃーと鋼鉄の箱にまとわりつくルフィ達を放置したまま、難しい顔で語り出した。

 

「島を一回りしてみたんだが……この島、おれ達が思ってる以上に面白ェモンが揃ってるぞ。ただの絶海の孤島じゃなさそうだ」

 

 ごんごんと鋼鉄の箱を叩き、その中に収められた凄まじい技術力に感服しながらも、同時に薄ら寒さを覚え眉間にしわを寄せている。

 いつになく真面目な彼の様子に、エレノア達も思わず背筋を伸ばした。

 

「今、町とは反対側を見て回ってるロビンとゾロが───」

「ちょっとちょっとお兄さん!!! こんな所にバイク停めてくれないでよ!!! 患者が入れないでしょうが!!!」

 

 険しい面持ちでフランキーが話していた中。

 突如、彼らのすぐ目の前の家屋……ウソップ達が出てきた建物から一人の男が飛び出し、フランキーを叱りつけた。

 

「とりあえず!!! そこ‼︎ そこに隙間あるから!!! すぐ移す!!!」

「あ、スンマセン」

 

 白衣を纏ったその男のあまりの剣幕に、その場に屯していた一味全員がびくっと固まる。

 フランキーも普段の気の強さを忘れ、即座に鋼鉄の箱を運び出す。

 

 つい数秒前の緊張感など、粉微塵に跡形もなく吹き飛んでいた。

 

 

 

「コイツを……ここに入れて……」

 

 ちゃりん、と銀色の硬貨が箱に備わった穴に入れられる。

 その上にある棚の中、並んだ様々な色と模様の円柱の中から一つを選び、真下の出っ張りを押す。

 

【タカ・カン!】

 

 すると、音と共に選ばれた円柱が中で落とされ、効果を入れた穴から更に下に広がる空洞に現れる。

 落ちてきた円柱を取り出し、平たい面に備わった突起を引っ張ってひっくり返し、掌に乗せる。

 

 すると、円柱が十字に展開し、これまで島で何度か見てきた赤い小さな鳥の機械へと変じた。

 

「「「うおォオオ〜〜〜〜ッ!!!」」」

「ホー……こりゃ大したモンだ」

 

 大きな変形も好きだが、小さな変形も好きなルフィとウソップ、チョッパーが大興奮し、サンジもひゅぅと口笛を吹く。

 そんな彼らを、ナミがこれ以上ないくらい冷めた目で眺めていた。

 

「ただのオモチャじゃないのよ」

「バカヤロウ!!! ただのなんかじゃねェ!!! ものすげー技術が詰まったスーパーオーバーテクノロジーなオモチャだ!!!」

「はいはい…すごいのはわかったから」

 

 小馬鹿にするような言い方に、フランキーが目を吊り上げながら力説するも、暑苦しさから即座に拒否される。

 面倒臭そうに目を逸らしたナミは……そのまま机の上に置かれた無数の硬貨に釘付けになっていた。

 

「ところでー……どうしちゃったワケ? この大量のメダルの山は」

「目がおかしいんだが!!?」

「あの子を怪鳥が吐き出した時に一緒に出てきたんだよ。まだあと何枚もあるぞ」

 

 ぎらぎらと怪しい光を放つ目に戦慄しながら、チョッパーが一枚を摘んで説明する。

 そう言われて、一味はすぐ近くの寝台に寝かされている例の少女を見やり、そして彼女を最初に見た時の事を思い出す。

 

 確かにその通りだった。

 巨鳥を仕留めたと思った直後、ルフィ達が鈍色の何かに呑まれ、そしてその中からあの少女が吐き出されたのだ。

 

「あー、あん時かー」

「何でメダルなんか食ってたんだ? あの鳥………」

「さァ…カラスは光るものが好きっていうし、集めるうちに飲み込んじまってたんじゃねェか?」

「ついでに人肉も好きだったようですが、ヨホホホ」

 

 硬貨の出所はわかったが、それ以上に謎が深まり頭を悩ませる。

 ブルックの笑えない冗談も適当に流され、やや重苦しい空気になった頃。

 

 いち早く我に返ったエレノアが、少女の診察をしてくれている白衣の男に向き直り、ぺこりと頭を下げた。

 

「ていうか……すみません伊達マルさん、診察所ほぼ貸し切るみたいになっちゃって」

「あーあー、気にしない気にしない。困った事があったらお互い様なのがこの島のルール‼︎ 遠慮なんざするこたねェよ」

 

 名を、伊達マルというらしい小さな診療所の医者。

 しん、と誰も駆け込んでくる様子のない静かな診療所を占領する形となった事を詫びるが、本人にまったく気にした様子がない。

 

 にこやかに笑う彼だが、視線が少女に戻るとやや険しい表情に変わる。

 

「しっかし…起きないねェ、おたくらの眠り姫さんは。診た感じどっこも異常はないんだが………全然起きやしねェ」

「うん……おかしなところはどこにもない。健康体だと思う」

 

 チョッパーも診察に入るが、どちらも同じ答えを口にし、悩ましげなうなり声が漏れる。名医にもわからない異常らしい。

 

「聞く話によると、バカでかい鳥に食われてたんだろ? 異常がないとむしろおかしいんだがねェ………鳥の消化は早ェ。そんな化け物鳥に食われてたんなら、多少なりとも溶かされててもおかしかねェだろ」

「食べられたばかりだったんですかねェ……」

「さァ……詳しい話は聞いて見ない事にゃわからんが、こうも眠ったままじゃねェ…」

 

 いつもの冗談じみた呟きも、少女の不可思議さを前にすると通じないようで、ブルックは軽く落ち込んで項垂れてしまう。

 いつまでたっても目を覚まさない少女に、やがてルフィが立ち上がった。

 

「腹でも減ってんじゃねェか? もっぺんオバちゃんトコにメシ食いに行こう!」

「それ、あんたが食べたいだけでしょ」

「待て待て、どうせ食って貰うんならおれが作る。作りたいです」

「下心しか感じないじゃないのよ!!!」

「では僭越ながら私が一曲………」

「大演奏で無理やり起こそうとすんな!!!」

「おめェらさっきから医者の前でやかましく騒ぎすぎなんだよ!!!」

 

 わいわいがやがやと、目覚めないのをいい事に好き勝手に騒ぎ始めてしまうルフィ達。伊達マルが止めるが、まるで落ち着きそうにない。

 

「ああもう‼︎ いい加減にしなさいあんた達!!! 病人………かもしれない人の前でこんな騒いだら余計体調が悪くなるで────」

 

 腰に手を当て、騒ぐルフィ達を一喝するエレノア。

 少女を庇うように背にし、じろりと鋭い目で睨みつけ……突如、ルフィ達の声がぴたりと止む。

 

「? ……何よ……………!!??」

 

 外套の下で訝しげに眉を寄せた天使は、はたと気付き振り向く。

 それまで沈黙し、寝台に横になっていた少女が、いつの間にか体を起こし、自分達を見つめていた事に。

 

「……………………ここ…どこ?」

 

 虚ろな眼差しを宙に向け、その少女は掠れた声で問いかけた。

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