ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第269話〝メダルの怪物〟

 どかん!

 

 すぐそばの店の入り口が爆発し、瓦礫が辺りに撒き散らされる。

 突然の異変に、町中の人々が仕事の手を止め、戸惑いの表情で轟音がした方に振り向いた。

 

「ああああああおうちの店がァ!!?」

「野郎……どこの大バカ野郎だ畜生ォ!!!」

 

 濛々と立ち込める土煙の中から飛び出してくる、服屋の女店主と表を通りがかっただけの人。

 一気に騒々しくなる現場を、シンゴとヒナが不安げに見やる。

 

「何だ……⁉︎ まさか………()()あいつらが出てきたのか…⁉︎」

「お兄ちゃん‼︎」

 

 帰路につこうとしていた二人は、明らかな異変が起こっている方角を見つめ、動く事ができず立ち尽くすばかり。

 

 現場にて、吹き飛んだ服屋の入り口を凝視し、麦わらの一味も呆然と固まっていた。

 

「なんだなんだ…? 何が起こった⁇」

「おい‼︎ 大丈夫かお前らァ〜!!?」

「んナミすァ〜〜〜ん!!! エレノアちゅわァ〜ん!!! ゥエールちゅわァァァァんぬ!!!」

「うるせェよ!!!」

 

 彼らの見つめる先で、ばさっと翼を羽ばたかせたエレノアがナミとエールを抱えて飛び出してくる。辛うじて顔は隠したままだが、焦りの感情が透けて見えた。

 

「────だらァこなくそァ!!! いきなりなんだってんだチクショウめ!!!」

 

 片側に傾きそうになるのを必死にこらえ、これ以上ないくらいの悪態を吐くエレノア。

 もうもうと立ち込める砂埃の奥を睨みつけていると、我に返った仲間達が近くに集まってくる。

 

「何だエレノア、なんかやっちまったのか?」

「ンなわけあるか‼︎ ルフィじゃあるまいし」

「おい!!! 失敬だぞおめェ!!!」

 

 名指しで挑発されたルフィが目を吊り上げて抗議の声をあげるが、エレノアは取り合わず、土埃の奥の敵を見据え続ける。

 戸惑う一味の目の前に……それはやがて姿を現した。

 

 ひた、ひたとぎこちなく進み出てくる、人影。

 全身を分厚い包帯で隠した、明らかに生者ではない何かが、呻き声を上げて外に出てくる。

 

「何だあのヤロウは………!!?」

「ミ……ミイラか? ゾンビの次はミイラか…!!?」

 

 散々前の島で脅かしてくれた敵と似たような存在に、ウソップが怯えながら弱々しく構える。

 彼らの目の前で、謎の異形は片手に持った大量の硬貨を口元に掲げ、じゃらじゃらと放り込み始めた。

 

「あ〜〜〜‼︎ それ私のメダル〜〜!!!」

「この状況で嘆く事か………」

「だって〜〜〜!!!」

「何アレ………………メダルを食ってる?」

 

 悲鳴をあげるナミに呆れながら、エレノアは目を細める。こんな異様な状況でよくも自分の欲を優先させられるものだと、逆に感心してしまう。

 

「……ゥ‼︎ オ、おォ…おおおォお…………!!!」

 

 すると、大量の硬貨を口に含んだ異形に、変化が現れる。

 

 全身を覆う包帯がぼろぼろと崩れ落ちたかと思うと、その下から瑞々しく逞しい肉体が剥き出しになったのだ。

 まるで、蛹から成虫に変じるように、明確な変化だった。

 

「──あァ、まだ足りない…!!!」

 

 蟷螂に似た頭部と、鋭利な鎌を両手に宿した異形は、刃を舐めるような仕草と共に目前のルフィ達を睥睨する。いつの間にか、呻き声も明白な言葉に変わっていた。

 

「姿が変わった⁉︎」

「ていうか…口を利かなかったかアイツ!!!」

「カマキリィ!!?」

 

 数々の冒険を繰り広げ、不思議なものと対面してきた彼らだが、今までの経験を凌駕する相手の登場に目を剥く他にない。

 

 そして、相手の蟷螂の異形が徐に動く。

 先程のぎこちない動きが嘘のように俊敏に飛び出すと、ルフィ達に向けて容赦なく、両手の鎌を振りかざしてきた。

 

 

 

 どぉん、と遠くから響く轟音。

 ルフィ達が後にした茶屋の軒先に腰を下ろしていた一人の男が、ため息混じりに団子を食う手を止めた。

 

「…ふむ、今日は一日団子でも食しながらのんびりさせてもらおうかと思っていたのだが…………そううまくはいかぬものか」

 

 そう言って、男は傍に置いた刀を掴んできん、と音を鳴らす。

 

 また異なる場所、町で唯一の医者の根城からは、伊達マルが慌てた様子で飛び出していた。その手には、奇妙な形状をした銃器が握られている。

 

「とっとっとっと…‼︎ おいおい何の前触れもなく始まりすぎだろ………!!! 今日はもうちょいヒマだと思ってたのにねェ…」

 

 がしがしと頭をかき、深く溜息をついてから。

 町医者はそれまでとは打って変わり、鋭利で冷たい刃のような威圧感を放ち始めた。

 

 

 

 ずぱっ、と頭上を横一文字に刃が一閃される。

 寸前で背中を仰け反らせたルフィ達の背後で、斬り裂かれた建物がばらばらになり、降り注ぐ。

 

「おわ──────っ!!?」

「うおっ………なんつー斬れ味っ!!?」

「無作法にもほどがあるよ…コイツ‼︎」

「なんなのよ本当にもう………!!!」

 

 ウソップが悲鳴を上げて頭を抱える横で、後ろの惨状を目の当たりにしたフランキーが目を剥く。

 エレノアとナミが悪態をついていると、彼女達の背に庇われたエールが、異形を見つめて小さく声を漏らす。

 

「…ヤミー」

 

 小さな、微かな呟きは誰にも届く事なく。

 異形がさらに破壊する家屋の倒壊する音により、粉微塵にかき消された。

 

「野郎…!!! てめェよくもナミさんとエールちゃんを怖がらせやがったなこのクソバケモンが!!!」

 

 ぎろり、と額に青筋を立てたサンジが異形を見据え、勢いよく飛び出す。

 女性陣への暴挙のせいで、冷静さがやや失われた彼は一切の容赦なく蹴撃の構えに入る。

 

「サンジ君‼︎ 気をつけて‼︎ そいつなんか…ヤバい気配しかしてない!!!」

「〝首肉シュート〟!!!」

 

 首筋を狙い、放たれた渾身の一撃。しかし返ってきた反応はあまりに硬く重く、わずかに相手の体勢を崩すだけ。

 ぎらりと輝く刃を目にし、サンジはようやく相手を見誤った事を悟る。

 

「伏せろぐる眉!!!〝ストロングハンマー〟!!!」

「〝刻蹄〟『(ロゼオ)』!!!」

 

 異形の鎌が振るわれる寸前、フランキーとチョッパーが重い一撃をそれぞれ叩き込み、異形を仰け反らせる。

 サンジに窮地を脱させてから、今度はルフィが手を伸ばし、額を漆黒に染めながら凄まじい速度で飛び出した。

 

「〝ゴムゴムの〟ォ…‼︎〝手榴弾砲(ランチャー)〟!!!」

 

 覇気で威力を増した頭突きが異形の胴に決まり、硬く重い体が吹き飛ばされる。異形は家屋の壁に突っ込み、轟音と共に無数の瓦礫を撒き散らした。

 

 一撃を放ったルフィは、額を抑えて険しい顔になる。

 

「コンニャロ…‼︎ 重っもいな‼︎ 鉄に頭突きしたみてェだ」

「ぐ………ぬゥ…‼︎」

 

 ぼやくルフィの目の前で、異形は瓦礫の中から這い出し苦悶の声を漏らす。

 その際、口の部分からじゃらじゃらと、無数の硬貨を吐き出し続けていた。まるで、吐血しているかのように。

 

「………!?? ありゃあ……さっき食ってたメダルか⁇」

「足りない……まだ足りない……………!!! もっと欲望を……もっと力を………もっと…もっと…もっとォ…………!!!」

 

 ゆらゆらと、異形は覚束ない足取りで向かってくる。

 奇妙な外観といい、口から吐き続ける硬貨といい、意味のわからない呟きといい、何もかもが怪しく異質に見えた。

 

「不気味な野郎だ…‼︎」

「おいナミ‼︎ あの野郎一体なんなんだ!!!」

「わ…わかんないわよ⁉︎ いきなりお店の中に出てきて斬りかかってきて…………!!! ホントになんの前触れもなく現れたのよ!!!」

 

 相手の動きが鈍くなった頃合いを見計らい、ナミに詳しい情報を問うが、襲われた彼女もまるで理解ができず戸惑うばかり。

 眉間にしわを寄せ、エレノアがじりじりと近付いてくる異形を前に掌を合わせる。

 

「能力者か………もしくはその産物か。いずれにせよ、いきなり町中で暴れるぐらいだし、ロクな相手じゃなさそうだけど」

「どうする⁉︎ やっちまうか!!?」

「できれば殺さず捕まえて、詳しい生態とか色々調べたいところだね………一体ぐらいなら何とかなるかな」

 

 ぱりっ、と電光を走らせ、捕縛のための道具を用意しようとするエレノア。

 手近な材料に触れようとしたその時、不意にウソップがはっと目を見開き、エレノアに振り向いた。

 

「エレノアァ!!! 後ろだァ!!!」

「え……」

 

 ウソップが叫んだ直後、一瞬呆けたエレノアもぎょっと目を剥き、すぐさまその場から飛び退く。

 その直後、エレノアの足下から巨大な昆虫の顔が飛び出してきた。

 

「ギュイイイイィ!!!」

「ぬわ⁉︎ くっ……この!!! 調子に乗んな‼︎」

 

 危うく下半身を食いちぎられかけたエレノアは、跳躍し逆さになると、義足の刃を展開して敵の眉間を切り裂いた。

 

「ギィ─────ッ!!!」

「他にもいたのか⁉︎ 大丈夫かエレノア!!!」

「おかげさまでね…………だいぶ育ってきたじゃないか、ウソップ君」

 

 悲鳴をあげる昆虫が悶えている間に、地面に降り立ち敵を見据える。

 

 新たに現れた敵もまた異形だった。オトシブミに似た外観だが、触角や足が人間の手の形をしている、通常の何百倍も巨大な怪物だ。

 しかも、先程エレノアに受けた傷跡からは、例の硬貨がとめどなく溢れ出している。

 

「何アレ……傷口からあのメダルが…!!!」

「どうなってやがる…!!?」

 

 さらに現れた未知の存在に、一味はただ驚く事しかできない。

 追撃を加えるよりも、その不気味さに距離を取る事を選択してしまっていた。

 

「正体など見当もつきませんが…………あの怪物さん達の体内にあのメダルが大量に入り込んでるのは確かなようですね………」

「じゃあ……つまり………!!!」

 

 生物としてありえない生態だが、現に目の前に広がっている異様な光景に、思わず呟くブルック。そして、ナミがその呟きに大きく反応する。

 

「あいつら全部ブッ飛ばせば、あのメダルが全部私のものに…!!?」

「やめろ‼︎」

「一攫千金のチャンスだわ!!! 行くわよあんた達!!! ………あ、間違えた。行くのよあんた達!!!」

「「「お前は!!?」」」

 

 ぎらり、と目を硬貨の形にしたナミに無茶振りをされ、男達は一斉に吠える。呆れるほどの欲望への忠実さに怒る気にもなれない。

 

 するとその直後、彼らのすぐ側の家屋が突如崩壊し、無数の人影が倒れ込んできた。

 

「うおわあああ!!?」

 

 びくっ、と飛び退くチョッパーとウソップの前に、それらは呻き声と共に立ち上がる。

 

 現れたのはまた異なる見た目の異形達。

 猫やら鮫やら牛やら、様々な動物を無理矢理人型にしたような怪物達が、ゆっくりとにじり寄ってきていた。

 

「うゥゥ…あァ…‼︎」

「おォォォォ…!!!」

「!!? い………いつの間にか囲まれてるぞ!!!」

「こいつら…全部あの化け物の同類か……!!?」

 

 見た目は違えども、漂ってくる雰囲気が同じ危険な相手だと本能に警鐘を鳴らさせる。それが何体、何十体と現れるのだから、歴戦の海賊といえど冷や汗が垂れて止まらなくなる。

 

「ちょうどいいじゃない…ボーナスタイムだわ‼︎ 倒して倒して出たメダル総取りよ!!!」

「無茶言うな!!! どんだけいると思ってんだ!!?」

「グオオオオオオオ」

 

 騒ぐナミを押さえ、怒鳴りつけている間に、獅子の姿をした異形が唸り声をあげて襲いかかってくる。

 

 だが、獅子の凶刃が一味に届く寸前。

 破裂音が辺りに響き、異形の姿が突如真横に弾き飛ばされた。

 

「!!? なんだ……」

 

 どどっ、と倒れ込んだ敵に目を丸くしつつ、一味は破裂音がした方を凝視する。

 そこに立つ、煙を上げる銃器を構えた白衣の男……伊達マルの不敵な笑みを浮かべた姿に、全員があっと声をあげた。

 

「やれやれ………想像以上の状況になってんじゃない」

「だ…伊達マル!!?」

「嬢ちゃん以来の急患もなく怪我人もなく、のんびりできるはずだったのにねェ。しょうがない…………もう一つのお仕事も始めますか」

 

 そう言って、伊達マルは銃器の引き金を引き光弾を発射する。

 放たれた銃撃を受け、フランキーのすぐ後ろに迫っていた異形がまたしても大きく吹き飛ばされた。

 

 フランキーは大きく目を見開き、見慣れない技術を操る男をまじまじと見つめる。

 

「オイオイ…おめェただの町医者じゃねェのか⁉︎ 何ださっきのすげェ威力のの銃は!!?」

「はいはい、あとで話すから。関係ない人らは下がって下がって…………こっからはおれのお仕事タイムだ…‼︎」

 

 伊達マルは気怠げにそう告げ、懐から何か、奇妙な機械のついた帯を取り出し、腰に巻きつける。

 そしてもう一つ、件の謎の硬貨を一枚摘み出し、ぴんっと親指で弾いてから握りしめる。

 

「変身」

「「「「変身…!!?」」」」

 

 呟かれたその言葉に、一味の男達が全員表情を変えて振り向く。

 

 伊達マルは硬貨を腰の機械の片側に開いた穴に挿入し、反対側のつまみをきりきりと回す。

 するとぽんっと音がなり、機械の中心に備わった半球が上下に開く。半球の中から飛び出した六つの球体が伊達マルの体に張り付き、展開する。

 

 あっという間に、伊達マルの全身が機械の鎧に───絵物語の英雄(ヒーロー)のような雄々しい装いに包まれた。

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 ルフィ達は目を子供のように輝かせ、目の前で行われた変貌に釘付けになる。女性陣がしんと無反応なのも気にせず、わーぎゃーと夢のような光景にはしゃぎまくった。

 

「さーて、一稼ぎしますか…‼︎ ィよいしょォ!!!」

 

 空想の中に登場しそうな戦士の姿で、伊達マルはぱんぱんと手を鳴らす。

 そして、手近にいた異形に向けて思い切り拳を叩きつけ、大きく吹き飛ばしてみせた。

 

「「「カッチョイイ〜!!!」」」

「………何者なんだよ……ていうかさっきから何なんだよこの島は…………‼︎」

 

 もはや戦う事も忘れ、伊達マルの活躍に目を奪われているルフィ達。

 男性陣で唯一冷静なサンジが、現実とは思えない怒涛の展開の連続に思わずぼやく。

 

 すると不意に、離れた場所から何やら雄叫びと怒号と絶叫が聞こえ始めた。

 

「ちぇェイ!!!」

「おらあああ!!!」

 

 エレノアが何事か、と振り向けば、見覚えのある男達が武器を手に異形達を返り討ちにしている様が目に映った。

 不気味な外観もものともせず、むしろより恐ろしい形相で異形達を次々に駆逐していっていた。

 

「バケモノ共が図に乗るんじゃねェ!!!」

「片っ端から畳んだらァ!!!」

「チヨ子さんの店の前で暴れてんじゃねェゴミクズ共めがァ!!!」

 

 どごん、ずばっ、どかん。

 容赦なく、無慈悲に、男達は無数の異形達を薙ぎ倒し、仕留めていく。

 

 暴れる彼らの中には、先程ルフィ達が腹を満たした料理店で出会った強面の男達の姿も混じり、派手に大暴れしていた。

 

「オバちゃんの店にいたおっさん達…‼︎ あんな強かったのかー‼︎」

「強ェ〜〜!!! ていうか恐ェ〜!!!」

 

 獅子奮迅の働きを見せる、ただの町人と思い込んでいた男達。

 想像もできない程の強さを見せつける彼らに、ルフィも思わず簡単の声をあげる。

 

 その時、彼らを見つめていたエレノアが目を瞬かせ、やがてぎょっと目を見開いた。

 

「ああああああァ!!! 思い出したァァ!!!」

「え?」

「〝六天〟のナーガ!!!〝灼炎〟のコア!!!〝銀河〟のレム!!! あいつら全員‼︎ 超高額賞金首の海賊達だ!!!」

「え────っ!!?」

 

 鬼神の如き暴れっぷりを前に、唐突に衝撃の事実を思い出すエレノア。

 あまりにもいきなりすぎる展開に、一味はもう驚き騒ぐだけの案山子と成り果てていた。

 

「何もんなんだよどいつもこいつもォ!!?」

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