ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
【ドリルアーム】
「ィよいしょォ!!!」
鎧を纏った伊達マルの右腕に、何やら機械の部品が集まる。
一瞬にして鋭利な掘削機へと変貌したそれを構え、伊達マルが鍬形虫の異形を殴り飛ばした。
「「「うおおお〜〜〜〜!!!」」」
「何なんだあのヘンテコ鎧は……‼︎」
変身に次ぎ変形、更にはドリル。
男心を擽る戦闘法に目を輝かせるルフィ達をよそに、サンジは只管に胡乱げになる。
彼が見ているのは伊達マルだけではない。
伊達マルと共に暴れ回り、次々に異形を屠っていく島の屈強な男達も訝しげに凝視していた。
「すげェ……頼もしいぞあいつら」
「さっき言った高額賞金首だけじゃない………各海で名を馳せてきた猛者達があっちこっちに……‼︎ でも………どいつもこいつも行方知れずになってたハズじゃ…」
「それが何だってこんなところに…⁉︎」
「んなもん私が知るか‼︎」
随分と昔に手配書で見てそれっきりな海賊達が、目の前でごく当たり前のように戦っているその姿にエレノアも困惑する。
その時、立ち尽くす彼女の後ろで、航海士が目を異様に光らせて声を荒げてきた。
「ちょっと何やってんのよあんた達!!! 急がないと先を越されるわ‼︎ せっかくのメダルをぶん取られる気!!?」
「ナ…ナミ…? なんか……いつものナミと違くない……⁇ 目ェ血走ってるよ…」
金の亡者である事はいつも通りなのだが、今の彼女はそれがいきすぎて見える。なんというか、欲が暴走しているような。
困惑していた仲間達は、不意にはっと息を呑む。
示し合わせたように一斉に飛びのいた直後、彼らの輪の中心に蟷螂の異形が斬りかかってきた。。
「ぎゃ────っ!!!」
「ふぎゃあああっ!!!」
危うく真っ二つにされかけたナミとエレノアが悲鳴をあげ、地面を転がる。
蟷螂の異形はゆっくりと立ち上がり、へたり込んだナミをぎろりと見据え、一歩一歩近づき始める。
「ナミさん!!!」
「もっと欲望を高めろ………もっと…もっとだ…………‼︎」
「ヒィイイ‼︎ ごめんエレノア!!! ルフィ‼︎ サンジ君!!! もう稼げとか言わないから助けてェ〜〜!!!」
目前に迫った命の危機に、流石に正気に戻ったナミが必死に助けを乞う。
すぐさまサンジが助けに向かおうとするが、複数の異形が割り込み壁となり、救いの手を許さない。
絶体絶命。ナミが涙目で絶叫しかけたその瞬間。
「〝春一番・三葉葵〟!!!」
───斬!
突如、聞き慣れぬ男の声が響き渡り、蟷螂の異形が一刀両断される。
上半身と下半身に分かたれた異形はごぱっ、と血の代わりに硬貨を吐き、やがて無数の銀の粒に変じて四散した。
「…大事ないか、娘御よ」
ひゅん、と癖なのか刀を振ってついてもいない血糊を払う、ちょんまげに着物姿の男。
上等そうな装いをした彼───通りすがりの風来坊・新ノ介は、振り返ってナミに手を差し伸べた。
「立てるか? ここは危ない、急ぎ我らに任せて離れるのがよかろう。そら、掴みなさい」
「あ…ありがとう」
おずおずと手を伸ばし、新ノ介の手を借りて立ち上がる。
そこへ案の定、遅れて異形達を蹴り飛ばしてなぎ倒してきたサンジが勢いよく向かってくる。
「コンニャロてめェ人の出番横からブン盗りやがってありがとよコンチクショウコラァ!!!」
「礼を言うのか罵倒すんのかどっちかにしろよ」
「悪ィな、ありがとよおっさん‼︎」
突如現れ、仲間の危機を救ってくれた男にすぐさま礼を言うルフィ。
隙も与えず、向かってくる猫の異形を殴り飛ばし、構えながら、ルフィは島の住人と思わしき彼に問う。
「なァおっさん‼︎ コイツら何なんだ⁉︎」
「よくはわからぬ。だが、時折現れ島に悪さをするモノノケの類である事は確かだ。……女、子供は下がっておれ、我々で片付ける」
ちき、と愛用の名刀を鳴らし、ルフィ達をかばうように異形に向かって歩き出す新ノ介。その言葉に嫌味はなく、純粋に彼らの身を案じるものだ。
が、気の強い麦わらの一味に、その言葉は禁句だった。
かちん、と目を吊り上げたルフィ達は、新ノ介の隣を駆け抜け、真っ直ぐに敵に襲いかかる。
「〝ギア2〟!!!〝ゴムゴムの〟………‼︎」
「〝アルティメット〟…‼︎」
「〝
「〝JET
「〝ハンマー!!!」
「〝仔牛シュート〟!!!」
怒りで威力を増した一撃が、重く硬い異形達にそれぞれ炸裂し、一切の容赦なく吹っ飛ばす。
異形達は硬貨を血反吐のように吐き、またも誰かの家の中に突っ込んだ。
「…ふむ。すまぬ、訂正しよう、お前達も只者ではなかったようだ」
「っったり前だァ!!!」
「ひっさびさにスーパー頭に来たぜ今の言葉はよォ‼︎」
「あいわかった。いや、本当にすまぬ。悪気はなかったのだ」
「………………それ、コイツらが一番ムカつく考えだよ、お侍さん」
子供扱いされた苛立ちからか、くわっと鬼の形相で怒鳴りつけられ、新ノ介は困った顔で頭をかきつつまた失言をこぼす。
ルフィ達の単純さに呆れつつ、エレノアがやれやれと肩をすくめた。
「だァ〜〜!!!〝火薬星〟‼︎〝火薬星〟!!! コノ‼︎ コンニャロ‼︎ 近付くんじゃねェ〜!!!」
「お前らなんか恐くねェぞコンニャロ〜〜〜‼︎」
主力の四人のうち三人が離れたせいで、ウソップとチョッパーが窮地に陥り涙目で抵抗する。さらには、新入りの記憶喪失の少女にまで怪物達の魔の手が迫り出す。
「ひゥ⁉︎」
「やらせませんよ‼︎〝
ぷかぷかと宙を浮き、牙を見せつけるピラニアの姿をした異形を前に、小さく悲鳴をこぼしたエール。
彼らが襲いかかる寸前に、ブルックが刺突を放って異形達をなぎ倒した。
「…あ…ありがとねェ」
「お気になさらずヨホホホ‼︎」
「おいブルック! なんか気合い入ってんな‼︎」
「入ったばかりの私ですが、彼女にとっては先輩という事になりますし………何よりお役に立たなければ男が廃ります!!! あ、廃るどころかすでに骨ですが、ヨホホホホ!!!」
話しながら、ききんと剣を鳴らしピラニア達と斬り結ぶ。
無数に攻めてくる怪魚達だが、一体一体はそこまで硬くはないようで、貫かれるとすぐさま硬貨の山に変わっていく。
だが、この異形達の厄介な箇所は、硬さでも重さでもなく───その異様な数であった。
「きゃあああああ‼︎」
「ヤバッ!!!」
逃げ遅れたらしい親子のもとに、数体の異形達が飛びかかる。
慌ててエレノアが駆け出し、ばしっと地面を叩き錬成し、真下から伸びるいくつもの石の槍を食らわせる。
石槍に貫かれ、異形達は硬貨を撒き散らして宙に舞った。
「ボーッとしない!!! 急いで逃げて逃げて‼︎」
「え…⁉︎ な……何? 何⁇」
へたり込む母親に促しながら、エレノアはぱんっと掌を合わせて今度は炎を生み出す。
剣の形に変わる極熱の様に、遠くで戦闘を繰り広げていた数人の元海賊の男達がぎょっと目を見開いた。
「………………⁉︎」
「ありゃあ………錬金術師か…‼︎」
何やら意味深な反応で、外套で素顔を隠した少女を凝視する島の住民達。
向けられる視線に気付かぬまま、というか構っている暇のないエレノアは、燃え盛る炎の剣を振りかざし蝗の異形を両断する。
「欲望の邪魔をするなァア!!!」
「ふぎゃっ!!?」
だが、燃える同類の死骸を踏み越え、太った猫の異形がエレノアに横薙ぎを放つ。
屈んだエレノアの頭上で、猫の爪がびりびりと外套を引き裂いてしまった。
「こいつら…‼︎ あったまきた‼︎ 全部叩きのめしてやる!!!」
お気に入りの外套を無残な姿にされ、びきっと青筋を立てたエレノアは外套の残骸を脱ぎ捨て、翼を羽ばたかせる。
「………!!? お前───…!!!」
「ぶった斬る!!!〝
なぜか一瞬、驚愕した様子で固まった猫の異形に構わず、エレノアは両手に集めた暴風を球状に固め、投げ飛ばす。
風の鉄槌は異形を殴り飛ばし、あっという間に四肢を弾けさせた。
「はっ‼︎ 図に乗るんじゃないよ!!! …………………………ん?」
外套の仇を取り、不敵に笑って胸を張るエレノア。
だが、いつの間にか周囲の視線が……異形も島の住民も全て含めた視線が自分に集まっているのを感じ、困惑の声を漏らす。
「天族………」
「天族だ……」
「悪魔の子孫だ…‼︎」
「…え? え………あの…何……?」
ざわ、ざわ、ざわ、と、周囲で蠢く異形達が口々にこぼす。
ぱちぱちと目を瞬かせ、異様な雰囲気にたらりと冷や汗を垂らした、その直後。
どごぉん!
と背後から象の異形が巨腕を振り下ろし、咄嗟に飛びのいたエレノアの背後に巨大な穴を開けた。
「ふぎゃ───────ッ!!? 何すんじゃ貴様ァア!!!」
「………………悍ましき…悪魔の一族…!!!」
「悪魔……」
「悪魔の種族…!!!」
抗議の声を上げるエレノアに、象の……いや、他の異形達も口々に囁くように、呪うように同じ言葉を呟き出す。
目を爛々と輝かせ、人ならざる者達が一つの塊のように蠢く。
「悪魔…?」
「忌まわしき悪魔を殺せェエ〜〜〜!!!!」
「「「「「ウオオオオオオオオオ!!!」」」」」
「え"──っ!!?」
一体の咆哮を皮切りに、その場にいる無数の異形達が一斉にエレノアに迫る。
覚えのない恨み、聞いた事のない罵倒の言葉に困惑している間に、殺意の漲る異形達が地響きを立てて向かってくる。
「ふぎゃああああ〜〜〜〜っ!!! ちょっ…まっ…‼︎ 助けてェ〜〜〜!!!」
流石の数に、エレノアも立ち向かう事なく逃亡を選択する。
しかし距離を稼ごうにも周囲を取り囲まれ、飛ぼうにも助走距離を確保できず、必死で彼らの魔の手から逃れる事しかできない。
「オイオイ……………どーなってんだこりゃ…‼︎」
「なんで急に全部から狙われてんの⁉︎」
「エレノアさん………一体どこであんなに恨みを買ったんですかねェ」
「言ってる場合か!!!」
急に狙われ出した仲間の姿と敵の変貌に、一味は戸惑い思わず立ち止まる。
彼女らしからぬ展開に、咄嗟に行動が取れなくなっていた。
「ぐ…‼︎ 奴らめ卑怯な……‼︎ あの様な幼子を大勢で追いかけ回すとは!!!」
「あーいや、違うんだアレは…」
「間違っちゃいないんだがそうじゃねェんだよ…」
「呑気に喋ってんじゃねェ〜〜〜助けてっつってんでしょーがァ!!!!」
一人、義憤にかられる侍をなだめるルフィとウソップに、目に涙をためたエレノアが声を荒げて助けを乞う。
身に覚えのない恨みで追い回される恐怖で滲んできたようだ。
「悪魔を殺せェエエ〜〜〜!!!」
「ふぎゃあああ!!?」
そしてついに、鍬形虫の異形に追いつかれ、首元を牙で狙われる。
逃げ続け、徐々に体力を削られ、避ける余力を奪われたエレノアの首と胴体が危うく離れようとした、その刹那。
「オイ、こいつを斬られちゃ困るぜ。大事なうちの船長の姉貴分だ」
ぎぃん、とどこからともなく降り立った緑髪の剣士が二刀を割り込ませ、左右からの斬撃を受け止める。
ぎりぎりと鍔迫り合いを続けていると、異形の体から無数の手が生える。
「失礼、ちょっとお話しさせて貰える?」
幾本もの腕が絡み合い、太い腕に変わり、異形に組みつく。そしてぼぎん!と関節技をかけて一瞬で仕留める。
硬貨の山に崩れ落ちる相手を見て、エレノアはほっと安堵の息をついた。
「ゾロ!!! ロビン!!!」
「ロビンの趣味の付き合いから戻ってみりゃ…………何だこの状況は。お前、何やらかしたんだ?」
「だからそれやるとしたらルフィでしょ」
「そりゃそうか」
「おい!!! さっきから濡れ衣着せすぎだろ!!! おれだって傷つくぞ‼︎」
何の責もないのに二度も名指しで冤罪を被せられ、ルフィがまた抗議の声を上げる。しかし日頃の行いのせいなのでやはり誰からも擁護がない。
そこへ、美女と共に登場した事が気に入らないサンジがすぐさま喧嘩腰でゾロに詰め寄った。
「オウてめェクソマリモコラァ!!! ぬァに勝手にロビンちゃんとランデブー決め込んでやがんだよこの野郎!!!」
「あァ? うるっせェんだよエロコックコラ。こっちゃ頼まれて付き合ってたんだ。てめェが妄想するような事は何もねェよ」
「してんだろうが現在進行形でよォ!!!」
「自由に歩き回るのに何でてめェの許可がいるんだよ!!!」
「いや、お前はいるだろ」
「うん、いる」
迷子常習犯があげる苛立ちの声に、仲間達から次々に否定の声が上がる。
ぎゃーぎゃーとうるさく話にならない男達を放置し、ロビンがフランキーに振り向き尋ねる。
「それで、どういう状況なの?」
「いきなりあのバケモノ共が泥棒猫達に襲いかかってきやがった! しかも何でか知らねェが…エレノアを重点的に狙ってやがる」
「ヒドい事するわね……〝クラッチ〟!!!」
ふぅ、と憂いを帯びたため息をこぼしながら、能力を発動し背後に近付いていた二体の異形の背をそれぞれへし折る。
ゾロとロビンが加勢し、敵は次々に屠られていく。
だが、それでもまだ異形達の勢いにまるで衰えは見受けられなかった。
「悪魔を殺せェ〜〜〜!!!」
「殺せェェェ!!!」
「何でさっきから私ばっかり狙われてんのよ〜〜〜!!!」
「ギャーッ‼︎ だからってこっちに逃げてきてんじゃねェ〜〜〜!!!」
もはや恥も外聞も捨てて、エレノアは泣きながら逃げ回る。
いつのまにか途中でウソップやエールを巻き込む始末で、わーきゃーと先程から悲鳴が鳴り止まない。
やがて、足をもつれさせたエールが転んでしまう。
「あぐっ………‼︎」
「エールちゃん‼︎ クソっ‼︎ どけよ!!!」
ずしん、と相変わらず女性としては重すぎる音を響かせた少女に、サンジが今度こそと駆け寄ろうとするも、異形の壁に阻まれ近付けない。
のろのろと起き上がるエールのもとに、獅子の姿の異形がじりじりと迫る。
「ヤベーっ‼︎ おいルフィ‼︎ あいつがやべェ!!!」
「逃げろエール!!! 早く走って逃げろ!!!」
「ギャーッ‼︎ エ──ル〜〜〜!!!」
何とか追跡から逃れたウソップが今にも倒れそうなほど荒々しい呼吸を繰り返しながら、頭を抱え悲鳴をあげる。
一味に急かされるも、少女は尻餅をついたまま動けない。
やがて、獅子の異形はエールの目と鼻の先にまで近付き、口の中から超高温の光を漏れ出させる。
「ゥ……はァ……‼︎」
「ゴルルルルルルル…………‼︎ ガァアア!!!」
目を見開き、硬直する他にない少女に向けて、獅子の異形は大気が歪むほどの熱波の咆哮を吐き出す。
生物など容易く蒸発させる、無慈悲な光が少女を呑み込もうとした、瞬間。
紫に光る何かが、少女の胸から飛び出し目前に迫った熱波をかき消してみせた。
「ウッ……」
呻き声を漏らし、エールは目を見開く。そして、ゆっくりと立ち上がる。
彼女の目が、不気味な紫色に輝いた直後だった。
【プテラ・トリケラ・ティラノ! プ・ト・ティラーノ・ザウルース!】
ばきばきばきばきっ‼︎
エールを中心とした全てが、一瞬のうちに真っ白な氷に覆われた。
「───ハッピーバースデイ、トゥーユー………ハッピーバースデイ、トゥーユー…♪」
とある場所、高級感あふれる一室。
遥か高くに設けられた、島全体を見渡せる広い広い部屋で、その男の歌は響いていた。
彼は歌いながら、いや、讃えながら手を動かす。
焼いた生地にホイップクリームを塗り、果実を飾り、チョコレートの板に文字を描く。
島で起こる騒動を全て把握しながら、ただ讃え続けていた。
「ハッピーバースデイ、ディア……………!!!」
恐怖におののく島の住民達、驚愕に目を見開く猛者達。
そして今日初めて島を訪れた若き海賊達が呆然と立ち尽くし、
「………オーズ」
全てを凍てつかせる冷気を全身から放ち、あらゆるものを真っ白に染め上げる、それを。
紫の鎧を身に纏い、仁王立ちする少女の目醒めの日を。
「ハッピーバースデイ……トゥ───ユ────…♫」
「うォああああああああああああ!!!!」
誰も知らない、極地の島で。
遥か昔の〝王〟が、狂気の産声をあげ天を仰いだ。