ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第28話〝トリオ〟

 ミホークの襲来という未曾有の〝災害〟が去り、それでもなお航海の意思を見せるクリーク。

 苦言をこぼす部下は撃ち殺し、恐怖によって支配すると、再びバラティエに毒牙を向けようとしていた。

 しかし戦うコック達も、ただやられるだけではなかった。

 

「向こうもやる気みたいねー…」

「うほ――っ! 燃えてきた‼」

「パティとカルネは?」

「やる気満々だ、もう戦闘態勢さ! こういう時はたのもしいぜ、あいつら‼」

「こういうときだけな…操作室行って『ヒレ』開いて来い」

「え……いいのか⁉ 敵に足場与えることになるんだぜ⁉」

「店ン中戦場にしちゃクソジジイがうるせェだろ」

「なんか言ったかクソガキ」

「オー、うるせェっつったんだよ」

 

 圧倒的な戦力を前にしているとは思えない、やる気に溢れた様子のコック達に、クリーク一味の殺気も膨れ上がる。

 何よりも略奪を成功させなければ、自分たちの命がないのだ。

 

「その船を渡せコックどもォ――っ!!!」

「渡すわけないっての」

 

 ダンッと踏みならした義足の脛から刃が生え、陽光を受けて鋭く輝く。

 ルフィも手すりを掴んで腕を伸ばすと、ゴムの張力を利用して勢いよくクリーク海賊団に向かって行った。

 

「〝ゴムゴムの…ロケット〟!!! と‼ 〝大鎌〟っ!!!!」

 

 ゴムパチンコそのものの動きで接近し、伸ばした手で多数の男達にラリアットを食らわせる。

 予想できない動きに、海賊達は為す術もなく海へと叩き落とされて行った。

 

「やるじゃねェか雑用ォっ!!!」

「〝偉大なる航路(グランドライン)〟にゃ、こんな奴らがウヨウヨいるってのか…」

 

 ルフィに賞賛が送られ、サンジは驚愕の目を外せなくなる。

 これまで戦う姿を見ていなかったためか、大きな口を叩けるだけの力があることに感心していた。

 その時、何やら金属が噛み合う音が響き、バラティエの魚の船首が振動を始めた。

 

「出動―――――――っ!!! バラティエ海戦兵器‼『サバガシラ一号』!!!」

「死にたくねェ奴ァはだしで逃げ出せェ!!!」

 

 その中から、キコキコとペダルを漕ぐ音とともに、パティとカルネの威勢のいい声が響く。

 魚(サバ?)が独立して動き出し、二人乗りの船へと変化したのだ。

 

「なんじゃいあの謎のギミックは…」

「かっこいい―――っ!!!」

 

 エレノアは呆れるだけであったが、こういう合体・変形などの男のロマンに目がないルフィは目を輝かせる。

 少年の期待の眼差しを受けながら、コックコンビに操られるサバガシラ1号は、口の中に仕込んだ大砲を発射し始めた。

 

「パティ‼ カルネ‼ やっちまえ!!!」

「『ヒレ』開くぞォ――――――っ‼」

 

 パティとカルネが先制攻撃を開始するとともに、サンジに言われて店内に戻ったコックの一人が合図を出す。

 するとバラティエそのものが揺れ始め、海中から何かがせり上がってきた。

 

「存分に戦ってやろうじゃねェか、海賊ども」

 

 不敵に笑うゼフが言うと同時に、それは海の上に姿を現した。

 バラティエの真下に折りたたまれていた大きな木板が、まさにヒレのように開いて水平に広がる。

 本来であればより多い来客のための足場が、今回は戦闘の場のために用意された。

 

「海の中から足場が現れた!!!」

「おもしれ――――――っ!!!」

「…いいじゃない」

 

 ルフィほどではないにせよ、カラクリには多少興味があるエレノアも感心する。

 ロボには興味はないが、内部機構には大いに興味をそそられていた。

 

「海賊相手に‼ コックに何ができる――っ!!!」

「海のコックをナメンじゃねェ――っ!!!」

 

 足場は海賊達にとっても好都合。

 武器を手に、ざばっと勢いよく上がった彼らを、怒号をあげながらコック達が迎え討った。

 しかしコック達よりも早く、両方の爪先に刃を備えたエレノアが突撃し、かまいたちのように素早く振るった。

 

「いっくよー‼大怒剛剣(モラルタ)〟!!!

「「「「ぎゃああああああああああ!!!!」」」」

 

 舞うように、華麗に剣技を見せるエレノアによって、勇ましく向かってきていた海賊達が吹き飛ばされた。

 空腹に苦しんだ直後とはいえ、荒波を超えてきた猛者達が気持ちいいほどに吹っ飛ばされる光景は、コック達の度肝を抜いた。

 

「うおおおおお!!!」

「す…すげェぞ新入り‼︎ 義足とは思えねェ!!!」

 

 華奢で不自由な体で、いったいどんな力を秘めているのか。

 出番を散らされた感のある戦うコック達は、呆然と天族の娘が暴れまわる姿を眺めることしかできなかった。

 

「ぎゃっはっはっはっはっは‼ やれやれェ‼ 戦うコックさんの力を見せてやれ!!!」

「おうパティ‼ 余所見してんじゃねェ‼ ヤツを狙うぞ!!!」

「よっしゃクリーク‼ 覚悟しろ!!!」

 

 砲撃をあらゆる場所に向けながら、好き勝手に暴れていたパティとかルネ。

 彼らが次に標的にしたのは、不甲斐ない部下を見下していた親玉クリークだった。

 だが、体当たりで吹っ飛ばしてやろうとしたサバガシラ1号が、突如その動きを止める。

 サバガシラ1号の鼻先に手を置いたクリークが、凄まじい剛力で押しとどめてみせたのだ。

 

「おれは首領・クリーク。世界の海を制す男だ………‼ てめェらの遊びにつきあってるヒマはねェ!!!」

 

 相手が予想以上の力を見せたことに、エレノアは警戒の度合いを上げる。

 ただの卑怯者ではなく、あれだけの人数を支配できるだけの力があると、評価を改めなければならなかった。

 

「…思ってたよりやるな」

「それはおれだっての‼」

 

 憤慨するルフィだが、クリークは気にも留めない。

 サバガシラ1号の鼻先をつかむ手に力を込め、なんと片手で持ち上げて投げ飛ばしてしまった。

 

「うわああああ――っ!!!」

「やべェ―店につっ込む―――っ‼」

 

 信じられない事態にパティもカルネもパニックになり、迫り来るバラティエを前にひしっと抱き合って騒ぐ他にない。

 そんな二人に向けて、深いため息をついて向かう黒い影があった。

 

「サンジ!!!」

 

 高く跳躍したサンジは、〝赫足〟のゼフを彷彿とさせる足技を披露し、猛スピードで迫るサバガシラ1号を蹴り返してみせたのだ。

 コック達がほっと安堵の息をつくそばで、エレノアも目を見開いて素直に驚いていた。

 

「お、サンジくんやるな……それに引きかえあんたたちは…‼」

「む…無茶言うんじゃねェよ新入り‼」

「ありゃサンジの奴の方がおかしいんだ‼」

「ハイハイ…」

「サンジてめェーーーーー!!!」

「あーもう、うるさいなァ…」

 

 元気に這い出してきたパティとカルネに呆れながら、エレノアが向かってきた敵の一人を切り捨て、踏みつけて海に蹴り落とすと、もう足場の上に残っている海賊の姿は見えなくなる。

 ほとんど無傷のコック達は、全くと言っていいほど出番がなかったことを嘆く他になかった。

 

「あ、あの女…‼ ほとんど一人でこれだけの数をのしちまった…!!?」

「やべェ…‼ なんでこんな奴が最弱の海(イースト・ブルー)にいるんだよ……!!?」

 

 海に蹴り出された海賊達が、戦慄の表情でエレノアを凝視する。

 クリークに負けずとも劣らない恐怖を感じ、逆らう意思が砂城のように崩れ落ちて行った。

 そんな時だった。

 波間に紛れて近づく、奇妙な人影に気づいたのは。

 

「何をやってんだか、君達は…」

「ん?」

 

 呆れたような声が聞こえると同時に、エレノアに強烈な風が襲いかかった。

 風はただ吹き飛ばそうとするだけではなく、含まれた水しぶきでできた小さな刃を運んで、エレノアやコック達の体を切り裂いてきたのだ。

 

「ぐっ……⁉︎」

 

 思わぬ攻撃に、エレノアの表情に初めて苦悶が浮かぶ。

 防御が間に合わなかったコック達や、隙ができたパティたちに突然打撃が襲いかかり、一瞬でほぼ全員が昏倒させられてしまった。

 

「ハァ―――ッハッハッハッハ‼ てっぺき‼ よって無敵‼」

「真打が登場だぜェ〜‼︎」

 

 腹と背中、両手を巨大な真珠のついた盾で武装した大男と、見るからに柄の悪そうな男三人組が、倒れたコックたちに派手な名乗りをあげた。

 男たちは皆似たような顔つきながら、それぞれ坊主、モヒカン、黒髪を跳ねさせていると個性的な頭をしていた。

 

「おおっ!!! パールさん‼ それにエレメント・トリオだ!!!」

「エレメント・トリオが戻ってきた!!!」

「…何そのダサい名前」

 

 傷を押え、半目になったエレノアがボソッと呟くが、幸いにも聞こえていなかったらしい。

 

「パティ‼ カルネ‼ 無事か⁉」

「ハァ――ッハッハ‼ 無事じゃね~~よ、この、おれの殺人パンチ〝パールプレゼント〟をくらっちまったんだからよォ‼」

 

 硬い真珠と鋼鉄の盾による殴打で、皆大きなダメージを負って立てずにいる。

 新たな助っ人の参上で、クリーク海賊団の士気が再燃し始めた。

 

「あの人たちが来たからにはもうお前の好きにはできねェぞ‼」

「そうだ‼ 悪魔の実の能力者だろうが、敵じゃねェ!!!」

 

 傷を負っているエレノアを見て、調子に乗り始めたようだ。

 ばかにしたように笑っていると、エレノアの姿をよく見たエレメント・トリオの表情が変わった。

 

「ひょ――っ‼ なかなかかわいこちゃんがいるじゃねェか!!?」

「それにい~い身体してんじゃねェかァ~!!!」

「真っ裸に剥いてさっさと楽しもうぜェ~!!!」

「やっちまえ‼︎ ゲルプ‼︎ ブラオ‼︎ ロート‼︎」

 

 刻まれ、肌を所々露出させてしまっているエレノアに気分が上がったのか、下卑た声をあげて鼻の下を伸ばす男たち。

 羞恥に頬を染めることはなかったが、エレノアは嫌悪感に眉間にしわを寄せた。

 

「まずはその邪魔な布切れ‼ み~んなまとめて切り刻んじゃうよォ~!!!」

 

 ゲルプと呼ばれた男が、複雑な模様の描かれた指ぬきグローブを掲げてエレノアに向ける。

 すると、先ほどと同じ風の刃が生み出され、一斉にエレノアに襲いかかった。

 

「なんだありゃあ!!?」

「あいつらも…悪魔の実の能力者か!!?」

 

 錬金術を見たことがないコックたちは、勘違いしながら目を見開く。

 パールとともに海から出てきたことからそうじゃないことは分かり切っていたが、悪魔の実が身近にない彼らにとってはその程度の常識も知らなかった。

 

「風属性か…」

「次は俺だァ‼」

 

 服をさらに切り裂かれながら、かろうじて躱すエレノアに今度はブラオが挑む。

 海水に手を突っ込み、その流れを操って水の槍を作り出す。

 エレノアのスカートが貫かれ、その勢いによって大きく引き裂かれてしまった。

 

「水属性…‼」

「隙だらけだぜェ~!!! おらァ!!!」

 

 今度はロートが、オイルライターを構えて嗤う。

 シュボッと火がともされると、突然その勢いが増して蛇のようにのたうつと、エレノアに食らいついてきた。

 

「今度は火…!!?」

「何だこいつら⁉ 魔法使いか何かか!!?」

「新入りィ~~!!!」

「エレノアちゃん‼︎」

 

 翻弄されるエレノアに、動けないコックたちは悲鳴をあげるしかできない。

 体に攻撃が当たることはなかったが、そもそもトリオはエレノア自身を狙っているわけではなかった。

 みすぼらしく衣服をボロボロにされたエレノアの生肌を、徐々に晒していこうとしているだけであった。

 

「ひゃっはァ!!! おいロート!!! 今チラッと見えたぞォ!!?」

「ズリィぞゲルプ‼ 場所替われ‼」

「もっと剥いてやろうぜ、ブラオ!!!」

「………なんで最近の錬金術師って、こんな下品で最低な奴らばっかりなんだろうな」

 

 最近出会う同業者がゲスばかりなことを思い出し、エレノアはこぼれそうになる自分の胸を隠しながら嘆く。

 あれが世間一般的な錬金術師だと勘違いされることだけは、断固として止めたかった。

 

「風‼」

「水‼」

「火‼」

「三つの属性をそろえたおれ達に死角はねェ!!!」

「あんまり逆らうならァ…!!!」

「真っ白いお肌が傷だらけになっちゃうよォ~~~!!?」

 

 さらに辱めてやろうと、エレメント・トリオは同時に錬金術を発動させる。

 くだらない目的に利用される三つの力を半目で見やると、エレノアは静かに掌を合わせた。

 

「〝防陽冷盾(スヴェル)〟」

 

 その瞬間、トリオが出現させていた風、水、炎が霧散し、跡形もなく消えてしまった。

 

「「「…………は⁉」」」

 

 両手をあげた間抜けなポーズで固まる三人に、エレノアは激情を押さえ込んだ能面のような表情を見せた。

 

「三人がそれぞれ得意な属性の錬金術を使う陣形…そんなもの、各個撃破すればたいした脅威じゃないんだよ」

 

 パンッともう一度掌を合わせ、今度はそれを自分の刃に当てる。

 すると、刃が真っ赤に熱され、空気が揺らぐほどの高熱を発し始める。

 大気をも焼く烈火の刃を振り上げ、エレノアは軽やかに舞うように走り出し、トリオに迫った。

 

「その命、すべて貰い受ける……‼︎」

 

 慌てふためく三人に向けて、エレノアは刃を容赦なく振るう。

 その姿はまるで、死を目前にした罪人を裁く死神のような恐ろしさであった。

 

心音殺奪(ザバーニーヤ)〟!!!

 

 

 目にも止まらぬ速さで斬り倒された三人は、手を出そうとしたことを激しく後悔しながら吹き飛ばされる。

 いつも以上に力のこもったその一撃は、半分以上エレノアの私怨によるものであった。

 

「がはっ…!!?」

「エレメント・トリオがやられたーーーーー!!!?」

「格の違いが分かったかな? 三流錬金術師諸君」

 

 血反吐を吐き、海に沈んでいく三人に海賊たちは慌て、エレノアは満足げに笑みを浮かべる。

 勝ったことよりもまず、色々と危ない自分の格好をどうにかしたかった。

 

「身の危険‼ 身の危険‼」

「え?」

 

 だがその時、ガツンガツンと何かをたたき合わせる音と、興奮した荒い呼吸が聞こえてきた。

 

身のキケ――ン!!!

「うわわわわ!!?」

 

 エレノアが振り返ると同時に、バラティエの足場に炎が撒き散らされた。

 慌てて飛び退いたエレノアは、もう一人残っているパールの相手をしていたサンジを睨みつけた。

 

「あんた何しちゃったの!!?」

「い…いやおれァ別に」

「なんか鼻血出したらああなったんだ」

 

 困ったように頭をかくサンジと、鼻くそをほじるルフィ。

 変わって答えたのは、狼狽した様子のクリーク海賊たちだった。

 

「やべェ‼ 出ちまった‼ ジャングル育ちの悪いクセ!!!」

「猛獣の住むジャングルで育ったパールさんは、身の危険を感じると火をたいちまうクセがあるんだ!!!」

「何その迷惑な病気!!!」

「おれに近づくんじゃね―――っ‼〝ファイヤーパ~~~~ル〟!!!〝大特典〟‼︎」

 

 興奮し、味方のいうこともクリークの命令さえも聞かなくなったパールが、取り出した真珠を発火させて投げつけまくる。

 一気に炎が燃え広がり、あたり一面火の海へとなってしまった。

 

「あつあつあつっ!!!」

 

 羽に引火したら一大事と、エレノアは慌てて海の中に飛び込む。

 正直濡れて動きづらくなるのが嫌だったが、背に腹は変えられなかった。

 

「ぶはっ‼」

 

 一旦顔を出すと、サンジが火を恐れることなくパールに蹴りかかっている姿が目に入った。

 懐にやすやすと入り、防御を抜いてダメージを負わせているものの、火の勢いはますます強くなるばかりであった。

 

「ハァ…ハァ…‼ こうなったらこの辺の海水錬成して氷漬けに…‼」

「ぬあ‼」

 

 どうにか援護できないかと考えていた時、ゼフのうめき声が聞こえてハッと目を見開いた。

 その先にあったのは、苦悶の表情を浮かべて倒れふすゼフと。

 

「もうやめてくれ、サンジさん。おれはあんたを殺したくねェ!!!」

「く……‼」

「オーナー‼」

 

 その頭に銃を突きつけている、ギンの姿だった。

 

「ギン‼」

「ギン、てめェ…!!!」

 

 料理長(ゼフ)が踏みにじられている光景に、サンジの目に怒りの炎が灯った。




2/6 諸事情により、エレノアの技名を変更しました。
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