ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第275話〝酔狂者〟

「うお────っ!!! 高ェ───っ‼︎ 速ェ───っ‼︎」

 

 変化していく窓からの景色に、ルフィが歓声をあげる。

 ウソップとチョッパー、ついでにヒナも同じく、全体が硝子張りとなった壁に貼り付き、わーぎゃーと騒ぎまくっている。

 

 他の面々は落ち着きつつも、動く部屋に驚愕の目を向けていた。

 

「こりゃあ………エレベーターってやつだよな…? こんな高くまで登れるモンなのか?」

「ウォーターセブンにこれと似たようなのあったろ」

「原理がまるで違う、どうやって登ってんだコリャ」

 

 凄まじい速さで空に向かっていく部屋に、船大工であり技師でもあるフランキーが眉をひそめる。彼からしても驚異の技術力であるらしい。

 

「動力は電気です。詳しい構造は最重要機密ですので言えませんが、当社の機械は全て電力によって稼働しています」

「そこは言われなくてもわかる。おれだって科学をかじった人間だ…………おれが気になってんのは燃料の方だ」

 

 じろり、と鋭い目で、解説をしてきた一味の案内役を担う女性───敏腕秘書サトナカを見やる。

 ただの案内役だという彼女に、フランキーは終始疑いの目を向けている。

 

「家一個分はあるこんなデカい箱を持ち上げられるエネルギーってのァ一体何だ。何から抽出されてる? …まさかそれも機密事項とやらじゃねェだろうな」

「警戒するのも当然ですけど、込み入ったお話は会長に直接お聞き下さい」

 

 大柄な男、それも海パン姿の変態に凄まれても、サトナカは眉尻一つ動かさない。それが気に入らず、つい舌打ちが溢れてしまうのだが。

 

「オゥフランキーてめェ…レディにンな厳ついツラで迫ってんじゃねェ…‼︎ オロすぞコラ」

「お前な」

「状況わかってんのかエロコックが…」

 

 と、美女にのみ紳士なサンジが空気を読まず割り込み、フランキーに凄み返し、お前は誰の味方だ、とその場にいた全員に呆れた視線を向けられる。

 エレノアも同じく溜息をこぼし、二人の間に割って入った。

 

「はいはいやめやめ。フランキーも熱くならないの!」

「悪ィ……けどどうもああいう女を見てるとカリファの奴を思い出しちまってな」

「ああ〜…」

 

 ウォーターセブンに秘書として潜入し、冷徹無情にかつての仲間を裏切り任務を遂行しようとした美女の事を出され、エレノアは思わず納得する。

 確かに、美人で有能そうという共通点があり、身構えたくなるのも納得の怪しい雰囲気だ。

 

「……今更なんだが、おれ達も混ざっててよかったのか…? たまたまあの場に一緒にいただけなんだが………」

「あそこで放っておくのも不安ですし、構わないでしょう。恩人を置き去りにしたままでは私、かつての仲間に顔向けできません。向ける顔面ないですけど」

「………もし何かあっても近くにいてくれた方が守りやすいしね」

 

 居心地悪そうに佇むシンゴにそう返すブルック。

 エレノアも同意し、頷きながら、不安げにヒナの方を何度も向くシンゴの肩を叩く。自分より妹の身を案じる兄に、思わず頬が緩む。

 

「………さて、まァそれはそれとして」

 

 そう呟き、エレノアはちらりと窓際を見やる。正確には、窓際ではしゃいでいる青年達に混じる、同じく謎多き少女に目を向ける。

 

「ふおおォお……!!! 部屋が登ってる………‼︎ 何だィこれァ……⁉︎ 何だィ⁇」

「子供が増えた!!!」

「まァ…さっきみたいに落ち込んでるよりはいいんじゃないのか?」

 

 先程までの気怠げな雰囲気とは打って変わって、きらきらと目を輝かせて動く景色に興奮する様子を見せるエール。

 見た目に似合わぬ幼さが垣間見え、どっと肩から力が抜けてしまう。

 

「………ああしてるのを見ると、あの大暴れはなんかの間違いだったのかなって思えてくるわね。〝よくばりおおさま〟だなんて思えない…」

「でも何か関係があるのは間違いないわ、少なくともね……」

 

 一瞬疑い、警戒していたナミもじっとエールを見つめて呟く。疑いが晴れた、というよりは疑うのが馬鹿らしくなった気がする。

 

 ロビンと共に様子を伺っていると、はしゃいでいたエールは唐突に窓から離れた。

 

「……………………うん、まァ、やっぱり騒ぐほどの事でもないかねェ」

「「「また冷めた!!!」」」

 

 すん、と先程までの興奮ぶりが嘘のように真顔に戻り、黙り込む。

 あまりにもいきなりすぎる豹変に、側で景色を楽しんでいたルフィ達が目を剥いて驚いた。

 

「それで……? その会長さんとやらは私達に何の用なのかしら。何か企んでるならムダよ、コイツらはそうそう操れたりしないし、制御なんてできると思わない方がいいわ」

 

 子供四人を放置し、今度はナミがサトナカに問う。すでに不思議な機械に心奪われている船長に代わって、得体の知れない相手の目論見に立ちはだかる。

 しかし彼女や他の者から睨まれてなお、サトナカはやはり表情一つ変えない。

 

「それに………あんた達が知ってる事って、何? 私達が何を探してるのか知ってて言ってるワケ?」

「一つや二つじゃないわよ。できる事なら、強引にでも聞き出したいくらいには気になってる」

「…その点に関しても、会長から直接お聞き下さい」

「あんたは案内するだけ? 不親切ね」

「ご質問へのお答えは業務外ですので」

 

 どれだけ脅しても、サトナカは何も答えない。

 まるで機械のように融通が利かず、冷たい態度に、招かれた側である一味に苛立ちが募る。

 

「着きました。…お足元にお気をつけ下さい」

 

 そうこうしているうちに、動く部屋は目的地、最上階へ到達して停止し、がらりと扉が左右に開く。

 颯爽と降り、歩き出すサトナカの後ろを、一味は渋々ながらついていく。

 

 広がっていたのは、広く豪華な部屋だった。

 一軒の家より余程大きく、おかれた家具も全てが一眼で高級品とわかる上品さを備えている、海賊にはそうそう縁のない一室。

 

「すげ〜〜〜〜ッ!!!」

「超豪華〜〜〜〜‼︎」

 

 きらきらと輝くその部屋に、素直に驚くルフィ達以外、ナミ達は平静を取り繕いつつも内心で呻き声を上げていた。

 

「お待たせ致しました、会長…………皆様をお連れしました」

 

 かっ、と靴音を響かせて立ち止まったサトナカが、部屋の奥に向けて冷静に告げる。

 するとその声に、椅子に腰掛けていた一人の男が。

 

 ……町医者の伊達マルが、なぜかおでんを口にしながら振り向き、気軽に手を挙げた。

 

「よォ、さっきぶり」

「お前かよ!!!」

 

 まさかの人物の登場に、一味から突っ込みが迸る。

 一体どんな存在か、と身構えた後の展開に、全員が目を吊り上げて吠える。

 

「は⁉︎ ちょ……まさかコイツ⁉︎ コイツが会長!!?」

「ウソだろ…‼︎ 全然そんな奴に見えねェぞ…⁉︎」

「いいえ、この方はただの当社の雇われです」

「「「「紛らわしいわ!!!」」」」

 

 ざわざわと騒めいていると、サトナカが若干面倒臭そうに眉をひそめた状態で否定し、一味は再び吠える。

 勝手に勘違いしただけだが、それでも誰もが怒鳴りたかった。

 

「だったら何でお前がこんなトコにいんだよ!!?」

「ひやー、ほれおひゃっひかいひょーはんりひょはれははっはへよ。まらはんもひへへらふっへ」

「何言ってっかわかんねーし!!! まず食うのをやめろ!!!」

「………てかこの島、おでんあったんだ」

「もぐんぐ…なんか、前にこの島に来た奴が教えてったらしいぞ? よくは知らねェけど」

 

 もぐもぐとおでんを頬張る伊達マルに詰め寄る一味。一度緊張を解いたせいで、気怠さがこれでもかと襲ってくる。

 はぁ、と項垂れ溜息をつくナミ達に、サトナカが再び冷静に告げる。

 

「皆様、ご静粛に……会長の御前です」

 

 ルフィ達は改めて、サトナカが示す方に振り向く。

 先程のやりとりのせいで緊張感が足りないが、油断は禁物とどうにか気を取り直し、奥に立つもう一人の男を見据える。

 

 そしてやがれ、その男がくるりと振り向き。

 

ハッピーバースデイ!!!! ようこそ勇敢なる荒くれ者達よ!!!

 

 ぐわっ、と凄まじい声量による奇妙な挨拶の言葉が、津波のごとく浴びせられる。

 

 濃い顔立ちに浅黒い肌、がっちりした体つきという。

 居るだけで暑苦しさを感じる男による、凄まじい初対面だった。

 

「会長が一番静粛じゃねェじゃねェか!!!」

「すまないね!!! 君達の到着を心待ちにしていたものでつい力が入ってしまった!!! 騒がしい歓迎になってしまった事を心から詫びるよ!!!」

「常にうるせェ!!!」

 

 きーん、と鼓膜が震え異音に苛まれながら、ウソップが思わず吠えると、男はその声をさらに超える爆音の声を響かせてくる。

 保たれていた緊張感が、そのせいで粉微塵に吹き散らされてしまっていた。

 

「急な招待に応じてくれてありがとう!!! 私はこのコウガミコーポレーションの会長!!! コウガミ・コウセイ!!! こちらは秘書のサトナカ君だ!!! 君にはぜひ会ってみたいと思っていたんだよ〝麦わら〟のルフィ君!!!!」

「ハッピーバースデーって何だよ、今日はおれ達誰も誕生日じゃねェぞ」

「私達の出会いそのものへの祝福だよ!!! 出会いとは新たな運命の誕生!!! 異なる道を歩んできた者達が遭遇する事により、人生は予想もつかない局面に遭遇する事もある!!!」

 

 がっしゃがっしゃと手にした器の中でクリームを混ぜつつ、男───コウガミは濃い笑顔で語る。何かの演説でもしているようだ。

 

「だからこそ私は祝う!!! この出会いに!!! 私達の人生の変換点に!!! ハッピーバースデイ!!!!」

「落ち着きのねェおっさんだなー」

「なんか…身構えて損した気分だわ」

「お…おいおい。本人の目の前でそんな事言ったら」

 

 がっくりと、安堵やら落胆やらで肩を落とし、悪態を口にするルフィ達。

 その中ではっと、ウォーターセブンで似たような場面に遭遇した事を思い出したウソップが動揺する、が。

 

「やかましいのは事実なので問題ありませんよ」

「冷静!!!」

「上司が色々言われてる事に思う事はないのか‼︎」

「業務内容に『会長を敬う事』は含まれておりませんので」

「忠誠心ゼロか!!!」

 

 こちらの秘書は一切気にした様子もなく、一仕事終わったとばかりに勝手に椅子に腰を下ろしている。まるでやる気の感じられない酷い態度だ。

 

「…こんな秘書で大丈夫なのか…おっさん……」

「問題ないよ‼︎ いつもの事だからね!!!」

「悲しいな!!!」

 

 気にしているのか諦めているのか、濃い笑顔のまま全く感情を悟らせないコウガミがやかましく答える。

 コウガミはクリームの器を隅の机に置き、一味を部屋の中央の、無数の料理が並べられた大机へと誘った。

 

「さて…立ち話もなんだ!!! 私自らが用意した歓迎の食事はいかがかな!!? まずは挨拶がてら(パーティー)といこうじゃないか!!!」

「うおー‼︎ おっさんいい奴だなー‼︎」

「存分に食べて飲んでくれたまえ!!! 私も宴が大好きなのだよ!!!」

「うまそー‼︎」

「甘そー‼︎」

 

 食べ物と見るや、目の色を変えて評価を改めたルフィが、チョッパーを引き連れ早速机に突撃しようとする。

 が、すぐにナミとエレノアがその襟首を掴んで引き止める。

 

「はいはいちょっと待てバカ共。ちったァ疑え」

「そうね………ここで呑気におしゃべりする気はないわ」

 

 言うことを聞かない愛玩動物を止める気分で、ずるずると彼らに引きずられつつ、じろりとナミがコウガミを見据える。

 ここまでの相手の態度で、彼女達の疑念はますます強まっていた。

 

「こんな見るからにお金のかかってそうな上流階級者の一室で、豪華な料理とお酒でもてなして、それで私達に会いたかっただけなんて…………ありえないでしょ?」

「…用心深いね!!!」

「当たり前でしょ? こっちは海賊なのよ?」

 

 何も信じるつもりはない、と言わんばかりに鋭く見据えられ、しかしコウガミはさして気にした様子もなく笑ったまま。

 そういう反応は予想済みだ、と暗に告げているようだ。

 

「歓迎して油断している隙に………グサリ‼︎ ってな」

「一度食らったもんなァ…ま、おれには無意味だったがな」

「元賞金稼ぎのおれからしても………疑う理由にゃ充分だな」

「そもそも歓迎される事自体ありませんもんねェ、ヨホホホホ」

「知りたい事を教えるとか、求めてる答えがあるとか、そんな餌で誘っといて、結局のところ何か用事があるから呼んだんでしょ? それも…海賊を相手にしなきゃならないような、真っ当じゃない何かが……………」

 

 一部を除く一味全員が同じ考えで、コウガミに対して警戒心を一切隠そうともしない。

 

 自分達は世に言う悪人であり、世の中からすればな敵。

 ここまであからさまな懐柔の手に、思惑がないと疑わない方がおかしい……はずなのだが。

 

「うんめ〜〜〜〜!!! おいおっさん‼︎ このケーキすんげ〜〜うめーな!!!」

「気に入って貰えて嬉しいよ!!! 準備に何時間もかけた甲斐があるというものさ!!!」

「「「「おい!!!」」」」

 

 いつのまにかエレノアの拘束から抜け出していたらしいルフィが、ばくばくとワンホールケーキを丸ごと味わっている。そして知らぬ間にエールも一緒にぱくついている。

 真剣な空気が台無しになり、ナミ達からルフィに咄嗟に抗議の声が上がった。

 

「さァさァ君達も遠慮する事なく!!! 存分に楽しんでくれたまえ!!!」

「………バカ船長めェ」

「会長、おれもその用事がなんなのか聞いてないんだけど」

「まァ待ちたまえよ伊達マル君!!! ものには順序というものがある!!! ………君達に会いたかった!!! その言葉にウソはないよ!!! そして用事があるという君達の予想も正解だ!!! 是非とも君達に頼みたい事がある!!!」

 

 頭を抱えるエレノアをなだめようとしてか、コウガミは大仰な手振りと共に語り出す。

 ばっ、と舞台役者のように派手に手を広げ、ケーキで顔中クリームまみれのルフィに大声で問いかける。

 

「時に、麦わらのルフィ君────冒険は好きかね!!?」

「おう‼︎ 大好きだ!!!」

「ならば私と共に!!! この島の秘宝を探しに行かないかね!!??」

 

 その誘いの声に、消えかけた緊張の意図が再び張られるのを誰もが感じる。

 

 気付けばゾロやフランキーが各々の得物に手をかけ、抜けるように無意識のうちに動いていた。他の者も似たような反応を見せている。

 

「…何が目的…⁉︎ 海賊相手に一緒に宝探しだなんて………」

「私が見たいからさ!!! だが只人ではそれを目にする事も叶わない!!! 何百年もの間隠され続けてきた秘宝だ!!! 選ばれた強者にしかそれは手に入れられないのだよ!!! ()()でさえ!!! 叶わなかった事だ!!!」

 

 ロビンの呟きに、コウガミは一味の方に勢いよく振り向き告げる。

 この場にいない誰かの事を語る彼に、ルフィも食事の手を止め、一味と共に視線を向ける。

 

「彼ら……?」

「20年以上前の話だ………!!! この島にある海賊団がやってきた!!!」

 

 ───彼らはルフィ達と同じく、航海中に嵐に見舞われ、この島に流れ着いた。

 彼らはやがて、島の住民から()()()()の言い伝えを聞き、それが隠された場所を突き止めた。

 

 だが、彼らはそれを手に入れる事はできなかった。

 あと一歩のところで力及ばず、再び訪れた嵐の中に消えていったという───。

 

「──彼らはその後、見事に〝偉大なる航路〟の制覇を果たし!!! 莫大な財宝を手に入れた!!! 誰もが成し遂げなかった偉業を成し遂げ!!! 恐れられ!!! 羨まれ!!! そして妬まれた!!! 世間は彼らの長を世界最悪の犯罪者と定め、こう呼んだ────!!!」

 

 

 ───〝海賊王〟と!!!!

 

 

 ごくり、と誰かが息を呑む音がする。

 スリラーバークの戦利品から繋がった話に、誰もが疑うどころではなくなっていた。

 

「君達もまた…!!! 彼に導かれたのだろう!!? そして彼と同じように、その宝を求めているのだろう!!? 私には全てお見通しな事だ!!!」

 

 本当に考えを見透かされている気がして、思わずナミが顔をしかめる。

 どこまで彼の思惑の内なのだろうか。自分達がここにやって来る事も、そもそもあの手掛かりを得た事すら、彼の思惑通りだったのではないかと思えて来る。

 

「もう島の遺跡は見たところだろう!!! だが…………アレはほんの一部だよ!!! 見るべき真の遺跡は…‼︎ あそこにある!!! あの遺跡に、彼が手に入れ損ねた秘宝が眠っている!!!」

「あるのか──!!? 本当に…宝が!!!」

「ある!!!」

 

 絶句しているのはルフィ達だけではない。この場に呼ばれた伊達マルも、居合わせただけのシンゴとヒナも黙り込んでいる。

 拒絶の意思がない事を確かめたように、コウガミは続けて彼らを誘った。

 

「行ってみるかね!!? いや…!!! 行くしかないだろう!!? 彼の宝を探し求める酔狂者──海賊〝麦わら〟のルフィ!!!!」

 

 ただ一人……ケーキで口の周りを白く汚したエールだけが、大仰に語る謎多き男を、冷たく見据えていたのだった。

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