ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
───遺跡探索開始より、5時間。
偶然8つの班に分かれた一味は、目の前に続く遺跡の道を……否、謎の巨大生物の体内をひた歩く。
数々の罠と敵、窮地を潜り抜けながら、それぞれで〝王〟の眠る場所を目指し、〝宝〟を探して進み続ける。
遺跡内──〝大動脈大路〟
ルフィ&エールペア
「んでよォ、そしたらナミの奴がこうきやがるんだ!『私……諦める、10億ベリー』だぞ!!? いろんな冒険の中でもあれ以上にビビった事はねェ…‼︎」
「…………!!!」
遺跡内──〝大腿部静脈水路〟
ライドベンダー隊Bチーム
「全隊ッ、構え〜〜〜!!! 撃てェ!!!」
サトーの号令で、三人の兵士は一斉に銃を構える。
硬貨の力で強力な銃弾が発射され、前方から迫る無数の包帯の異形達に次々に炸裂する。
「ゥオオォ…!!!」
「アアアァア……」
火花を散らし、爆発四散していく異形達。
瞬く間に数体が幾枚もの硬貨の欠片となって飛び散るが、その後ろから続々と増援が現れ出す。
「くっ…‼︎ 毎度毎度………あのバケモノ共はおれ達の邪魔をしやがって…………!!! しかも毎度毎度どこから出てきやがるんだ!!?」
「あれを生物の括りに入れるのはやめておけ…‼︎ 我々の常識の通用しない相手だ‼︎ 考える時間も無駄だ!!!」
クトーのぼやきにヤトーが怒鳴るように返す。
たった三人ですでに何十体もの敵を屠り、体力も精神力も限界に近付きつつあった。
「ダメだサトー、押し返される!!!」
「チィッ……‼︎ 総員撃ち方やめ‼︎ 先程のポイントまで撤退する!!!」
撃っても倒しても、際限なく湧き続ける異形の敵。
圧倒的不利な状況に、兵士達は悔しさに顔を歪めつつ、元来た道を大急ぎで引き返し始めた。
遺跡内──〝膀胱貯水池〟
ライドベンダー隊Aチーム
ごごご、と振動する狭い通路を、頭を抱えて走る三人。
イトーを先頭に、二人の部下が泣き出しそうな顔で追いすがる。
「急げ急げ‼︎ 通路が塞がれる前に突っ切るんだ!!!」
「もう勘弁してくれよォ!!!」
逃げる三人の後ろの通路が、消えていく。上下左右の壁がまるで粘土のようにせり出し、あっという間に埋もれていく。
足を止めれば彼らもその一部になってしまうのだ。
調査どころではなく、雇われの戦士達はもう、足を動かすだけになっていた。
「コンチクショウがァ〜〜〜〜!!!」
遺跡内──〝足裏縁部〟
ライドベンダー隊Bチーム
「畜生ォ〜!!! やってられないんスよこんなの〜〜〜!!!」
「待て貴様ァ!!!」
「勝手に先に行くんじゃない!!!」
泣き出したムトーがわめきながら、通路をひた走る。
先輩二人を置き去りに、我が身可愛さに何もかもを投げ捨て、ただただ外に出ようと無茶苦茶に走り続ける。
「ボーナスもいらねェ‼︎ 報酬もいらねェ‼︎ あの会長のわがままにこれ以上付き合ってられないっスよ!!! もうヤダ…お母ちゃ〜〜〜ん!!!」
ぎゃんぎゃんと幼子のように泣き叫び、不満をここぞとばかりにぶちまける。
そんな彼の声が鬱陶しかったのだろうか。
突如、三人の足元の床がばかっと開き、三人の体が宙に浮いた。
「「「ギャアアアァァ……!!!」」」
ムトー達は悲鳴をあげ、穴の中を落下する。
そしてどぼんっ、と水音が三つ立て続けに起こり、それ以降何も聞こえなくなってしまった。
遺跡内──〝胃付近通路〟
ウソップ・チョッパー・フランキーチーム
ぐつぐつと煮えたぎる、真っ赤に溶けた鉄の沼。
その淵に突如、がっと人の手がかかり、3つの人影がずるずると這い出してくる。
「やっっっと出られたぜ…………‼︎ スーパー疲れたぞクソォ……!!!」
「…2、3回三途の川が見えかけた…」
「ごわがっだァ〜〜〜…!!!」
壁伝いの決死行からようやく生還したウソップ・チョッパー・フランキーの三人が陸地にぐったりと横たわる。
もう三人とも、生を喜ぶ余裕すら残っていない様子だった。
しかしフランキーは、疲れ切った体に叱咤し、立ち上がって二人に促す。
「休んでる場合じゃねェぞお前ら……‼︎ これ以上コイツに食われたままなんざ御免だ‼︎ さっさと出口を探してコイツの腹の中から脱出するぞ!!!」
「待て待て待ってくれアニキ………もう少しだけ休ませてくれ……!!!」
「消化されるのはイヤだァァ〜〜…」
「甘えんじゃねェ!!!」
ぜーひゅーと荒々しい呼吸を繰り返す弟分達に怒鳴り、自分も倒れ込みたいのを我慢して歩き出す。
渋々その後につきながら、ふと、チョッパーは首を傾げた。
「………なァウソップ、おれ…ここにいるとなんか誰かの事が頭に浮かんでくるんだけど……誰だっけ?」
「ぜェ……ぜェ……そんなもん…………おれが知るかよ…」
犬のように舌を出し、喘ぐウソップにはそんな疑問に答える余裕もない。
チョッパーは眉間にしわを寄せたまま、てこてこと二人について歩き出した。
遺跡内──〝上腕部動脈水路〟
ゾロ・ナミ・ブルックチーム
「二刀流…‼︎〝二斬り〟‼︎」
きん、とゾロが構えた二刀が甲高く鳴る。
蠢く異形達に向け、鋭い刃が目にも留まらぬ速さで食らいつく。
「〝
「〝鼻唄三丁〟…〝矢筈斬り〟!!!」
異形達の首を刈り取る斬撃の近くでは、骸骨紳士の放った無音の剣技が迸る。異形達は次々に斬られ、硬貨の欠片へと成り果てていく。
「あァもう! こっち来ないでよ‼︎〝サイクロン=テンポ〟!!!」
ナミが放った攻撃の結果、強烈な暴風が吹き荒れ、異形達がまとめて宙を舞う。だが、しばらくすると起き上がり、呻き声と共に再びナミ達に向かい始めた。
「もういや〜ッ!!! なんでアイツらこんなわらわらわらわら出てくんのよ〜〜!!!」
「ぜェ……ぜェ……‼︎ わ、私本気で疲れてきました………‼︎ もうイヤ〜〜〜〜ッ!!!」
「うるせェ‼︎ 黙って走れてめェら!!!」
このまま戦い続けてもまずいと、三人は隙をついて走り出す。
幸い、包帯の異形達はさほど速くは動けないようで、ぞろぞろと鈍く後を追ってくるだけだ。
泣き叫ぶナミとブルックの先頭に立ちながら、ゾロはある事を考えていた。
───エレノアにしごかれたお陰で………昔はわからなかった事が少しずつわかる様になってきた……。
これまで感じたあの感覚が……明確になってきやがった。
今の経験と、過去の経験。
二つの我が身に覚え込まされた感覚が、ゾロにある確信を抱かせる。
この状況を知っている、そんな感覚を彼に味あわせていた。
───間違いねェ…これは
遺跡内──〝腸迷路〟
サンジ&伊達マル・ゴトー・サトナカチーム
「『食事には礼を持って、お行儀よく』〝
ごっ、と普段以上に鈍い音を響かせ、強力な蹴撃が決まる。
鉛のように重い折檻の一撃を受け、異形は悲鳴をあげられないまま四散する。
すたっと降り立つサンジ。その後ろで、別の異形が銃弾を受けて倒れ込んだ。
「うお!!? てめっ‼︎ 今おれごと狙いやがったな!!?」
「のろいお前が悪い‼︎」
至近距離で炸裂する銃弾に、サンジが思わず抗議の声を上げるが、ゴトーは一切詫びず次の敵を狙い撃つ。
ぴくっ、とこめかみに青筋を立てたサンジは、だっと駆け出すと、ゴトーの顔面すれすれで蹴りを放ち、近付いていた異形を吹き飛ばした。
「………わざとか?」
「イヤイヤたまたまさ…誰かさんと違ってな」
「ンのやらァァ!!!」
「やるのか貴様ァ!!!」
もう敵すら放置して睨み合い、得物をぶつけ合うサンジとゴトー。
わらわらと異形達が包囲を狭めていても気にせず、目を吊り上げて罵り合う。
【キャタピラレッグ!】
【ブレストキャノン!】
「おーし、そこらへんさっさとどけ〜。一掃すんぞ〜」
そこへ、機械の音声と伊達マルののんびりした声が響く。
両足にキャタピラを、胸に大砲を装備した伊達マルは、腰の機械にさらに硬貨を追加し、砲身の中に光を溜め込み出す。
「ちょっ…伊達マルさん!!?」
「おわ──っ待て待て待て!!!」
【セル・バースト!】
「〝ブレストキャノンシュート〟おらァ!!!」
二人が慌てて、伊達マルの前から左右に飛びのいた直後。
凄まじい轟音をたて、砲口から赤い閃光が放たれ異形達を呑み込む。
強烈な熱と衝撃に包まれ、異形達は微かな声を残して一瞬で鈍色の欠片と化し、四散していった。
「…………よし! ケンカも襲撃も止まったな、めでたしめでたし」
「よしじゃねェよ!!! めでたくもねェよ!!! 死ぬとこだったわ‼︎ テメーまさか今のケンカの仲裁のつもりか!!? 扱い雑か!!!」
「だってお前らずっと止まんねェじゃねェか」
満足げに頷く伊達マルの頭をサンジが手刀で叩く。危うく巻き込まれかけたというのに、本人に反省の色は皆無だ。
「無駄な体力をお使いになる前に、さっさと道案内をお願いできますか? 時間の無駄です」
「…サトナカちゃんはもう、コワイくらい冷静だね…」
「いいからさっさとやれ、エセ紳士」
「うるせェワカメ!!! てめェに言われる必要はねェ!!!」
サトナカとゴトーにそれぞれ文句を言われながら、他の仲間との合流の為に意識を集中させる。
だが一歩を踏み出しかけたその前に、また新たな影が湧いて出てくる。
「ゥゥウ…ウゥオォォォ…‼︎」
「次から次へと……!!!」
ずるずると体を引きずり、向かってくる異形達。
辟易した様子を隠さぬまま、しかしなにかの予感がした伊達マルが仮面越しに顎を撫でる。
「襲撃頻度が上がってきてんな………もしかして…遺跡の深部が近いんじゃねェか?」
「その上案の定…‼︎ レディ達のいる方に蔓延ってやがる。連中を駆逐しねェとナミさん達が危険だ………‼︎」
迷宮の踏破どころか、合流すらままならない状況にサンジの顔が険しくなる。
こうしている間に、愛する女性陣に何かあったら、そう思うと彼は居ても立ってもいられなかった。
「でしたら…余計に皆さんとの合流が望ましいですね。罠の個数も増えています。少数のまま奥へ向かうのは危険でしょう」
「確かにな………‼︎ そういうワケだ‼︎ 頼むぞ騎士!!!」
「だから野郎の声援なんざいらねェっつってんだよ!!! 今やってるから黙ってろ‼︎」
気を引き締めつつ、囃し立てる伊達マルに吠える。
舌打ちと共に背を向けてから、サンジは冷や汗を垂らし、異形達遠くへ続く通路を見据えた。
───……レディ達の居場所を捜す為に使うたび……‼︎
おれの〝見聞色の覇気〟が鍛え上げられてより広範囲の状況が詳細に感知できるようになってくる………‼︎
野郎共の位置までわかるようになったのはまァいいとして………………問題はそこじゃねェ。
エレノアの指導によって目覚め始めた新たな力。
他の気配を感じ取る力が使う度に研ぎ澄まされ……サンジの警戒を強めさせていた。
───人間の…生き物の…‼︎
動いてるヤツの気配が尋常じゃねェ数だ…………!!!
コレ全部があのメダルの化け物って事なのか……⁉︎
そして…何よりも……‼︎
後ろの三人に聞こえないよう、小さく息を呑みながら、それの存在を探る。
比べる事すら馬鹿らしくなるほど、圧倒的な存在感を放つそれを感じ取りながら、女性陣の一人の態度を思い出す。
───エレノアちゃんが再三………嫌な予感がすると口にしていた理由が今はっきりとわかった……!!!
彼女はコレを恐れていたのか……!!?
異形達を蹴り飛ばし、粉砕し、罠を越えながらその全貌を俯瞰する。
得体の知れない不気味さが、正体を知った事で恐怖に変わりつつある事を自覚し、食いしばった歯を軋ませる。
───ここは遺跡でも迷路でもねェ!!!
ここは……コイツは!!!
迷宮内──〝脳画廊〟
エレノア・ロビン&コウガミ
「──答えるのは一向に構わない!!! 黙っていたのは、君達の船長に対する遠慮の為だったからね!!! 彼はおそらく、ネタバレや種明かしなどを嫌うタチだ!!! 違うかね!!?」
喉元に刃を突きつけられ、幾本もの腕に両腕を決められながら、コウガミはやはり顔色一つ変えずに答える。
エレノアとロビン、二人に睨まれてなお、彼の態度は変わらなかった。
「その配慮は当たりだけど………まさかそれでごまかせると思っちゃいないだろうね」
「ここまでの状況に巻き込んでおいて、それで済むとでも?」
「遠慮がないね!!! しかし本心さ!!! 欲しいものを手に入れる際!!! 障害は大きければ大きいほど手に入れた時の喜びは大きくなる!!! だからあえて言わなかったのさ!!!」
目は正気を失って見えるのに、言葉は本心そのもの。
笑ったままのコウガミをじっと見つめていたエレノアは、やがて溜息と共に刃を下ろした。
「…まァ、そっちはどうでもいいよ。素直に話すってんなら」
「それはありがたい!!! この状態結構辛くなってきたから!!! ────しかしそれなら私も教えてもらいたい!!!」
ふわっ、とロビンの腕が消え去ると、コウガミは関節の調子を確かめる。
同時に、ぎらぎらと光る目でエレノアを見つめ出す。
「君が…天族が気配に敏感な特殊能力に長けているのは知っていたが!!! どうやって気付いたのだね!!? 明らかに生物とは思えない異形の生態を相手に!!! なぜ生物だと断言できたのだい!!?」
暑苦しく、執着まみれの目で問いかけられ、エレノアは逆に冷めた目で彼を見つめる。
しばらくの間黙り込んだ彼女は、しゃこんと義足に刃を収めながら。
やがて、溜息混じりに語り出した。
「同じなんだよ……私の知り合いと」
───私達はあなた達人間より真理に近い存在。
進化をとげた新たなる人間の形…とでも言っておきましょうか?
───食べていい?
「この先に待っている秘宝は………かつての〝王〟が作らせたものは」
彼女の脳裏の浮かぶのは、つい数ヶ月前に出会い、姿を変えて別れた一人の男。
そして後二人……砂の国で遭遇した、異能を持つ男女の姿だった。
「あァン⁉︎ 思い出したって…どういうこった⁉︎ こんな訳のわからねェ場所を他に知ってるってのか!!?」
突如、背後で声をあげたチョッパーの言葉に、フランキーは心底意味がわからないという表情で振り向く。
目を剥いて立ち尽くすチョッパーは、あんぐりと口を開け、わなわなと震えながら自分の発見を叫ぶ。
「知ってるっていうか……似てるんだ‼︎ おれ達…………前にこの遺跡と似た存在と
「本気で言ってんのかシカゴリラおめー……⁉︎」
本人が動揺しまくっている所為か、言語が大分おかしくなっている。
医者なのに医者が必要な状態になっている彼を案じながら、ウソップも困惑の目をチョッパーに向ける。
「オイオイ待てよチョッパー…‼︎ おれの知らない間にどんな危ねェ冒険してきたんだよ、こんな場所に迷い込んでよく無事だったな⁉︎」
「場所じゃねェんだ!!! お前らも会った事あるだろ‼︎ ていうか………‼︎ フランキー!!! お前が一番よく知ってるだろ!!!」
「ア!!? おれが!!?」
指摘され、フランキーはさらに困惑に片眉を上げる。
いよいよ治療が必要か、と思いきや、チョッパーの目は正気で狂っているようには見えない。
立ち尽くす彼らに気付かせようと、船医はさらに続けて吠える。
「この遺跡………‼︎ いや‼︎ おれ達が遺跡だと思ってたこの場所は!!! 生き物みたいで生き物じゃないここは!!! アイツと同じ感覚がするんだ!!!」
「アイツ⁉︎」
「エレノアに〝覇気〟を教えて貰い始めて……わかる様になった!!! コイツとアイツは似てる…いや‼︎ ほとんど同じなんだ!!!」
「だからアイツって誰だよ!!?」
騒ぐ彼らの周囲で、壁が、床が、天井がまた動く。
べきべきと岩肌が、原子の一つ一つが独りでに動き、形を変えていく……仄かに、赤黒い閃光を走らせながら。
その様は、最強の盾を持つとある人造生命体に。
かつて一味と敵対し、後に共に戦った、強欲な人物の変形によく似ていた。
───ガッハハハハハ!!!
「グリードだよ!!! この遺跡‼︎ ここからする気配‼︎ 全部がアイツとそっくりなんだよ!!!」
「〝賢者の石〟………数多の命を材料に生み出される、史上最悪の兵器だ」