ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「ゴムゴムのッ!!!〝JET
全身から煙を吐き、足裏を合わせて作った突きが高速で放たれる。
音を置き去りにする程の速度で伸びる一撃だが、それは蠢く岩壁でたやすく防がれてしまう。
「〝JETバズーカ〟!!!」
構わず続けて、両手の掌底を放つ。邪魔をする岩壁ごとぶち抜く勢いで掌を叩きつけるが、鈍い轟音ばかりが響いて貫けない。
「〝
黒く染め、固めた拳を分銅のように振り回し打ち付け、頭突きを放ち、目にも留まらぬ連打を浴びせかける。
その尽くが防がれ、遺跡の中で爆音が響き続ける。それでもなお、ルフィは攻撃の手を緩めない。
「三刀流……〝鷹波〟!!!」
「〝
ルフィとは別の方向から、岩どころか鉄をも斬り裂く剣と、燃え盛り回転する炎の刃が異形に向かう。
だがやはり、天井から生えた別の岩壁によって防がれ、虚しく霧散してしまった。
「…鬱陶しい」
「マズい…‼︎ やっぱりアイツ……エールを通じてこの遺跡を操って……いや!!! 支配権を奪って乗っ取ろうとしてるんだ!!!」
遺跡の主、いや、遺跡そのものであるエール。
囚われ縫い付けられた彼女に何か細工をし、この状況を生み出しているのだと察し、エレノアが焦りの声を漏らす。
「完全に乗っ取られたらこの遺跡の全部が私達の敵になる!!! アイツをなんとか……エールから引き離さないと……‼︎」
「で…でもどうすんだ⁉︎ あの壁メチャクチャ硬ェぞ!!! エレノアでも壊せなかったじゃねェか!!!」
最初に遺跡に分断された時の事を思い出し、喚くウソップ。
分解し再構築する錬金術も通じない壁をどうやって抜けばいいのか、と。
「だが通じてねェわけじゃねェ………あの硬ェ壁も無敵じゃねェ。叩き続けりゃ必ず砕ける‼︎ あのスカした野郎のツラにむけてどんどん撃ち込め!!!」
「ぬおおおおォ!!!」
「クソ野郎が‼︎ エールちゃんに汚ェ手で触れてんじゃねェ!!!」
左腕の銃器を構え、連射しながらフランキーが叫ぶ。それに応じるように、チョッパーも人型で壁を殴り、サンジも烈火の蹴撃を放つ。
轟音が立て続けに、休みなく起こる中。
異形の術師は悠々と、少女の体に細工を続ける。
「ゥ……ア……ア…!!!」
「ハッ……さァご覧あれ〝姫〟よ。裏切り者のお前を助けようと木っ端人間共が必死に抗っているぞ。なんとも美しく………滑稽な姿ではないか」
白目を剥き、痙攣を続けるエールにガラは嗤って告げる。
未だ一撃も届かない青年達の抗いを嘲笑い、少女の苦悶する姿を見下ろす。
「貴様も頑固な娘だ…………抵抗などせず素直に開け渡せば苦しまずに済むものを、無駄な抵抗を続けおって………実に度し難く愚かしい娘よ」
「……!!! だ…れ、が……!!!」
ぎり、と歯を食い縛る音が鳴る。みしみしと血肉を引き絞るような音が鳴る。
胸を貫かれ、体の中を弄られ、凄まじい苦痛に苛まれ続けながら。
少女は目の前の因縁の相手を、鋭く睨み吐き捨てる。
「誰が………お前に……!!! 渡す………もんか……………!!!」
「…それが愚かだというのだ」
ばりばりばりっ!
ガラの腕を中心に閃光が迸る。
体内を侵す力が強まり、堪えかねたエールの体はがくがくと尋常ではない痙攣を起こす。
「ガァアアアアァ!!!」
悲鳴は断末魔とほぼ変わらない、喉が裂けそうなほど痛々しい。
人ならば既に絶命しているような熱と衝撃なのに、人ではないせいか、エールは意識すら失えない。
拷問じみた行いに、ガラの顔に笑みが浮かび始めた時。
「必殺‼︎〝アトラス彗星〟!!!」
ぼかん、とガラを中心に爆発が起こる。岩壁の防御の隙間を抜くように向かってきた弾が術師の顔面に炸裂した。
びりびりと走る振動に、ウソップはぐっと拳を握り、掲げた。
「隙間から喰らったわ…‼︎」
「ウソップすげー!!!」
「ガハハハどーだバケモノめコンニャロー!!!」
ついに敵に直接的な攻撃を加えた事実に、チョッパーに賞賛されたウソップは鼻高々といった様子で得物を掲げる。
その空気を裂くように、冷や汗を垂らしたエレノアがぼそりと呟いた。
「…あれ、エールは?」
その言葉に、はっ‼︎とはしゃいでいた男達が息を呑み黙る。
もしや一緒に、と戦々恐々としながら、振り向き爆煙の中を窺う、そして。
ゆっくりと晴れていく煙の中から───傷一つ、火傷一つないガラが、苛立った目でウソップを睨みつけた。
「んげ!??」
「………黙っていれば、つけあがるなよ人間が……!!!」
「ギャ〜〜〜〜ッ!!?」
蠢き、変形し、巨大な手となって迫る岩壁。あわやウソップが、巨大な手に捕まって握り潰されようとした刹那。
【クレーンアーム!】
「ほいきた一本釣り‼︎」
「おわあああああ!!?」
聞き覚えのある声の直後、ウソップの襟首が何かに掴まれ、引っ張られる。
まさしく釣りのごとく、機械の鎧から発射した鉄の紐を引っ張り、ウソップを窮地から脱出させた。
「ふィ〜〜…間一髪ってとこだ」
「お…おおお…‼︎ た……助かったぜ⁉︎」
一仕事終えた、というように腰に手を当てる伊達マルに、戸惑いながらも礼を言う。釣り上げられた際に頭を強かにぶつけたが、命には替えられない。
「伊達マルさん⁉︎ アレとやる気ですか⁉︎」
「状況はまだよくわからんが………とりあえずここはお前らに協力した方が良さそうだな。……アレはどう見ても悪役だ。ゴトーちゃん、サトナカちゃん、そういう感じでいい⁉︎」
「くっ…‼︎ わかりました…!!!」
「了解です。………業務外労働に対する請求は会長にさせていただきます」
状況の急展開につき、様子を伺っていたゴトーとサトナカも、伊達マルの決定に頷き銃を構える。
腰の機械に鈍色の硬貨を入れながら、伊達マルは自らの背後を軽く睨む。
「ついでに会長…………大事な事色々黙ってやがった事について後できっちり慰謝料貰うからなァ!!!」
戦いの邪魔にならない、棺の間の入り口付近で無言で佇むコウガミに向け、叫ぶ。
意味深な笑みを浮かべ、身を隠す事もしない彼を不気味に思い、怪しみながら、伊達マルは背中に新たな武器を喚び出す。
【カッターウィング!】
「あどっこい…しょォ!!!」
背中に生えた刃の翼。伊達丸はそれを引っ掴み、思い切りぶん投げる。
くの字に曲がった刃は空中を舞い、ガラを狙う。しかし岩壁の腕が横から弾き、止められてしまった。
「いい加減にしろ…………しつこい虫けら共め」
ガラの苛立ちが募る。それでも、ルフィ達に対する意識の高さは足元の蟻にも劣る。
さっさと叩き潰してしまおう、そう思って再度岩壁を動かそうとした時。
「その不躾な手……いい加減離してもらえないかしら?〝
ロビンの鋭い眼光がガラを射抜き、花弁が舞う。
ガラの体から八十本のしなやかな手が生え、十本ずつ四本にまとまり、大きな腕となる。
腕は互いに絡み合い、異形の首と腕をがっちりと固めてみせる。
「〝
「ぬゥ…!!!」
ぎしっ、とガラの動きが止まる。
本来なら骨をへし折る恐ろしい技だが、強靭な異形の体は動きを止められただけ。
だが、彼らはその隙を決して見逃さない。
「いくぞお前らァ!!!〝ゴムゴムの〟ォ…!!!」
「三刀流…!!!」
「〝
「〝聖杯献火《グレイルフレア》〟…!!!」
蒸気が吹き荒れ、刀身が黒く染まり、燃える脚と髪が唸りを上げる。
一斉に飛び出した一味の強者達は、目の前で盾になる岩壁の一点にめがけて、それぞれの一撃を同時に叩き込んだ。
「「「「〝
炎と打撃と斬撃、強烈な一つの攻撃が岩壁に炸裂する。
びしびしと表面に入ったひびが深く深く食い込み、そして次の瞬間。
ばかっ!と、岩壁は無数の破片となって砕け、ガラが一瞬無防備になる。
「よっしゃ───!!! 砕けたァ!!!」
「そのままいっちまえェ!!!」
「愚か者めらが………肝心の我に届いてもいないのに」
喜びをあらわにするウソップ達に、ガラは舌打ち混じりに目を細め、再び手を動かす。砕けた壁の代わりの壁を作り出そうとし、はたと気付く。
「はい、そちらに気を取られてる間に斬っちゃいました」
とん、と背後から聞こえる足音。
微かに目を見開き、顔だけ背後に向けたガラは、自分の背後でゆらりと空気が揺れ、一人の長身の紳士が幻のように現れた様を目のあたりにする。
その隣には、青い棍を回す少女の姿があった。
「〝
「〝陽炎三丁〟………〝矢筈斬り〟!!!」
きん、といつの間にか抜かれていた仕込杖の刃が鞘に収められた瞬間。
───斬!
エールを縫い付けていたガラの腕が、二の腕から断たれた。
さすがの事態に、ガラの表情にも驚愕が浮かんだ。
「エール‼︎ つかまれェ‼︎」
「ル………フィ……!!!」
すかさず、ルフィがエールに向けて手を伸ばす。
壁は砕かれ、楔は絶たれた。少女を捕える檻がなくなった今こそが取り戻す絶好の機会だった───だが。
「…だから無意味だというのだ」
伸ばされた手を見上げ、腕を断たれたガラがぼそりと呟く。
その直後、ガラの口が大きく開かれ、喉奥から赤い光が漏れる。
そして、空中に留まるルフィ達に向けて、灼熱の咆哮が迸り、彼らを呑み込んだ。
「なっ…⁉︎ ぐあああああああ!!!」
「痛ェ!!! 熱ィ!!! 何だァ〜〜!!?」
「くっ……‼︎ さっきまで炎なんて使う素振り全くなかったのに……!!?」
炎に押され、ガラとエールから引き剥がされるルフィ達。
それまでと異なる攻撃を突如使い始めた敵に、体を焼く火を払いのけて起き上がったエレノアが吐き捨てる。
ふとその目が、ガラが掌の上で弄ぶ金縁の赤い硬貨を捉えた。
「あの赤いの…‼︎ あの鳥のか!!?」
孔雀の紋章が彫られたその硬貨に気付き、ルフィが驚愕の声を上げる。
僅かな間とはいえ、一度交戦した敵の使っていた能力。見覚えのある力が再び使われた事で、今起こっている状況を瞬時に理解する。
「オイ…つー事はあの野郎………‼︎」
「頭の足りぬ餓鬼の考えそうな事だ………奪られたくないものは隠す。それも全て同じ場所に……だからこうして簡単に奪われる。まァ、おかげで手間が省けたがな」
赤い硬貨だけではない。青、黄、白、何種類もの硬貨を取り出し、掌の上で見せつけるように鳴らすガラ。
彼の頭上に、岩壁が一つ近付き、大きな何かを吐き出してくる。
「ゥオオオアアアアァ!!! ウオオ〜〜〜!!!」
ばらばらと硬貨を撒き散らし、それ……虫の異形・ウヴァが顔を出す。両腕は引き千切られ、ぼろぼろだが、憎悪の声を上げて暴れ続けている。
それを見上げ、ガラがため息混じりに呟く。
「ウヴァか………相も変わらず煩く品のない奴め」
「!!! 貴様…ガラァァ〜〜〜!!!」
自分の真下で佇む術師に気付いたウヴァが、ぎろりとガラを睨み襲いかかろうとして。
ずぐり、と。
異形の腕に胸を貫かれ、緑の硬貨が抜き取られる。
「静かにしろ、物の分際で。メダルだけよこせ」
容赦なく核を奪われ、ウヴァは沈黙する。そしてじゃらじゃらと、無数の硬貨に変じて崩れ落ちた。
それを見て、エレノアがきっと目を吊り上げる。
「アイツ……!!! エールが捕らえたグリーズ達のメダルがここに集まるのを待って…‼︎ 漁夫の利狙いやがったな………!!?
「ッカ〜〜………‼︎ ナメた真似してくれんじゃない……セコい事しやがって」
天を仰ぎ、不満を声に乗せて表した伊達マルが、仮面の下からガラを見据える。ちゃりんちゃりんと硬貨を機械に投入し、武装を次々に身に纏う。
「絶対ェそのツラにどデカいのぶちかましてや────…!!!」
重く硬く、我が身を機械の鎧で固める伊達マルが、反撃の一撃を加えようとしたその時。
突如、側頭部を押さえた伊達マルの体が、ぐらりと傾いだ。
「ウ……」
「どデカいのを……何だ?」
動きを止めた伊達マルに、ガラの腕が伸びる。
伊達マルは一切抵抗できないまま、突き出されたガラの腕に吹き飛ばされ、壁に激突し動かなくなった。
「伊達マルさん!!! コノ…」
倒れた味方を案じながら、ゴトーが銃の引き金を引き異形を撃つ。
ばちばちと異形の皮膚の上で火花が飛び、しかし一切傷をつけられぬまま、再び伸びた腕がゴトーの首を掴む。
「ガ……カハッ⁉︎」
「図に乗るなよ、石ころが」
青年の体を持ち上げ、叩きつける。たった一撃でゴトーは意識を持っていかれ、その場で銃器を手放し、沈黙してしまう。
倒れた二人から意識を外したガラは続いて、掌から大量の水流を発生させた。
「ぶわァ〜〜〜っ!!? 水ゥゥ〜〜!!?」
「ギャ〜〜〜!!?」
激流に呑まれ、能力者四人が壁際まで押される。海水ではないようだが、その場の全員が激流に囚われ、身動きが取れなくなる。
「キャア!!!」
「ナミさん!!! ……野郎よくも愛しのレディを次々と…おわ〜〜っ!!!」
流されていくナミやロビンの悲鳴に、すかさずサンジが救いに行こうとするのだが、彼自身水流に囚われ近付く事もできない。
誰一人抵抗できず、みるみる水かさを増していく激流の中に閉じ込められていった。
「くだらん。返せ返せと騒ぐくせして………噛み付く力も足りぬと見える。つまらん小僧共よ」
水で満たされる地下の密室、激流の渦の中を青年達が苦悶の表情を浮かべて流される。
それらをつまらなそうに見下ろし、ガラはちらりと、エールを見やる。
僅かに震え、呻くばかりの少女の首を掴み、目の前に掲げてみせる。
「そんなにこいつが欲しければ、くれてやる………もう用はない、もはやただの……抜け殻だ」
「ゥ……あ」
「よかったな、最期の最期で役に立てて。嬉しかろう…? 誰にも求められる事のなかった役立たずが………役割を果たせず棄てられた出来損ないが、虫ケラ共に群がって貰えて」
エールの首を掴む手が、ぱっと開かれる。
脱力した少女はそのまま、青年達と同じく激流の中へと落ちていく。
「そこで傷の舐め合いでもしていろ、クズが」
どぼん、激しく水飛沫を上げて沈むエール。重い体はすぐさま水底に沈み、見えなくなってしまう。
それを、壁際にしがみつきながら戦慄の表情で凝視していたナミとゾロは。
突如振動を始めた岩壁に、はっと息を呑んだ。
「……⁉︎ な、何…⁉︎」
「地震………いや、違う!!!」
びりびりと震える壁、荒れ狂う激流。
閉ざされた空間の中でも……何かが動いている、それだけはわかった。
その光景を、彼らは目撃する。
ゆっくりと、ゆっくりと隆起していた海の底の遺跡。
永き時を沈黙していた古の〝王〟の眠る墓が海上に、そして地上に姿を現した。
胎児に似た形をしていたそれが、変わり始める。
「何っっなんだありゃあ…!!?」
「遺跡が…」
「セ…セルメダルが…⁉︎」
遺跡が端から崩れていく。そして新たに形を成していく。
無数の、それこそ決して数え切る事のできない程の数の鈍色の硬貨へ変じた遺跡が、生物のように一塊になって集まる。
「ありゃあ…塔………いや、城か…!!?」
やがて出来上がっていく、何かの建物。
島の中心に巨大な足が立ち、頂点に尖った何かが形成される。
城にも塔にも、歪な卵のようにも見えるそれ───何か、明らかに危険な存在が住まう何かを見上げ、住民達はざわざわと戸惑いの声をこぼす。
「一体何が起ころうとしているのだ…!!?」
頭上の城を見上げ、溢れた新ノ介の呟きに答える声は、一つもなかった。
突如、地下の密室のはずの棺の間の壁が何箇所も開き、水流が流れを変える。その流れに押され、麦わらの一味は外へと流される。
「イヤ───ッ!!?」
「ぎゃああああっ!!!」
開かれた出口の先には、何もない。いつのまにか棺の間の外は島の上に移動しており、一味は掴まるものなど何もない空中に放り出される。
真下に広がる光景に、一味はもはや悲鳴も上げられず、重力に囚われる他になかった。
「…………ゴミはやはり、流すに限る」
誰もいなくなった空間で、ガラが満足げに呟く。
自らの邪魔をする者を一人残らず排除した達成感に満たされていた、その時。
───残った激流の中で、二つの紫色の光が灯る。
そして、灯った光を中心に、荒れ狂う水流が真っ白に染まり、凍り付いていった。
【プテラ・トリケラ・ティラノ! プ・ト・ティラーノ・ザウルース!】
「うおおおおおおおおお!!!」
氷の塊へと変じた水流を砕き、破壊し、紫の影が飛び出す。
怒りと憎悪に満ちた咆哮を上げ、巨大な竜の翼と尾を広げたそれ……古の鎧を纏ったエールが。
怪物の形相で古の錬金術師めがけ、襲いかかった。