ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第290話〝無の力〟

「ォオオアアアアアァア!!!」

 

 大気を切り裂き、押しのけ、紫の竜が飛翔する。

 両手両足から生えた鋭い爪を振りかざし、羽搏きと共に冷気を撒き散らし、破壊の化身は力を振るう。

 

 ガラはそれを一瞥し、一度手を振るい、重く巨大な防壁が目の前に迫る。だが、暴走し意識を半ば飛ばしたエールは止まらない。

 迫り来る岩壁に向けて凄まじい速度で爪を振り上げ、一瞬で、麦わらの一味が散々苦戦していた防壁を粉々に破壊してみせた。

 

「〝無〟のメダルか………よりにもよってそれを我に向けるか」

「ガァアアァア!!!」

 

 舌打ち混じりに呟くガラに、エールはさらに迫る。

 次から次へと、右から左から向かってくる邪魔な岩壁を殴り、裂き、薙ぎ払う。自分の前に立ちはだかる全てのものを壊し続ける。

 

 その圧倒的な力と、()()()()()に柄は苛立たしげな声を漏らす。

 

「他のメダルとは異なる特殊な性質ゆえ、グリーズ化させず保管していた6種目………〝恐竜〟のメダル」

 

 ずばっ、とエールの肩から伸びる角。岩壁をたやすく砕き貫くそれを、ガラは初めて自ら動き、躱す。

 

「絶滅した生物…そして幻獣の力を凝縮し生み出した力………!!! 存在しないものを強引に世界に存在させたという矛盾ゆえに…………その力の性質は、〝無〟」

 

 ぼこぼこと蠢き、天井や壁や地面から伸びる巨岩の槍が、竜の力で尽く粉砕されていく。

 硬い岩壁が、まるで飴細工のように簡単に、跡形もなく砕かれていった。

 

「他のコアメダルの無限の力を〝無〟に還す、最も危険な力…!!! 誰からも求められず、居場所もなく、価値なき存在でしなかった貴様に宿るとは………皮肉な話だ」

「あああああああああああ!!!」

「手負いの獣そのものだな………………だが」

 

 音を置き去りにする速さで、エールはガラに肉薄し拳を突き出す。

 憎悪に突き動かされ、他の何も見えなくなりながら、ただ一人の仇敵を討ち果たさんと放たれた一撃が。

 

 反対に放たれたガラの、紫の異形に変じた腕によって防がれる。

 

「!!?」

「たった3枚で何ができる」

 

 同じ気配、同じ力を感じさせる腕で、逆にエールを捕らえる。

 そして一瞬、驚愕のあまり正気に戻ってしまった彼女に、至る方向から衝撃が襲いかかる。

 

「貴様が〝王〟とは笑わせる………身の程を知れ、小娘が。元より貴様は…〝器〟ではなかった」

 

 炎が、熱が、雷が、水が、重力が、そして冷気を全身に浴びせ、少女を鎧ごと呑み込む。

 吹き飛ばされたエールは、その身に纏った紫の鎧を霧散させられる。仇敵に冷たく見下ろされながら、遥か空へと放り出される。

 

「800年……長い時をよくぞ耐えた。もう何もする必要はない………何に耐える必要も、何をする必要もない。お前の行いは全て水泡に帰す。お前は道端の塵と同じく…無意味に地に転がっているがいい」

 

 エールはもう、彼を見る気力もない。

 痛々しい姿のまま、地上に向けて……今度は誰にも受け止められる事なく、一人ぼっちで墜とされた。

 

「さらばだ…王でも何でもない、ただ一つの価値もなき、ただの小娘よ」

 

⚓️

 

「あらあら大変な事になってるわねェ…」

「どーなってんだありゃあ…⁉︎」

 

 聳え立つ謎の建物を見上げ、チヨ子は困り顔で小首を傾げる。他と比べると希薄だが、かなり本気で戸惑っているようだ。

 どよめく人々の端で、シンゴ兄妹もそれを見上げて立ち尽くしている。

 

「一体何が…………あ‼︎ ヒナ!!!」

 

 シンゴが呆然と呟いていると、突如ヒナが走り出す。

 向かう先に、聳え立つ建物の脚の一角が突き刺さっているのに気付き、慌てて引き止める。

 

「ヒナ‼︎ 待て‼︎ どこに行く気だ⁉︎ 危ないだろ‼︎」

「さっき見えたの‼︎ 麦わらのお兄ちゃん達があの変な建物の上から落ちてくるの!!!」

「だったなおさらダメだ‼︎ 何に巻き込まれるかわかったもんじゃない!!!」

 

 未だ戻らない、海賊を名乗りながら気のいい青年達の身を案じる妹に、シンゴは厳しい口調で告げ、少女の両肩を掴む。

 

「あの遺跡が危険な場所だってわかってるだろ…⁉︎ おれ達が行っても何もできない………おれ達には何の力もないんだ」

「でも…‼︎ でも!!!」

「アイツらは行ったけど……それで何かあっても自業自得だ‼︎ おれ達が助けに行く義理はない。同じ島の住民だとしても………全部を助けてやれるわけじゃない」

 

 他人を見捨てられない心優しい妹。善人の鑑とも言えるその在り方を誇らしく思うより前に、兄は強い危うさを抱く。

 

「結局アイツらは…他人なんだから」

 

 冷酷に聞こえる言葉を吐かれ、ヒナは黙り込んでしまう。

 相当効いたのか、表情が見えないほど俯く。

 

 抵抗が弱まった妹に、罪悪感を覚えながらもほっと安堵の息をつこうとしたシンゴだったが。

 

「お兄ちゃんのバカ〜〜〜〜ッ!!!」

「ぐああああ〜〜〜!!?」

 

 ヒナはわっと泣き出すと、そのまま踵を返し走り出す。肩を掴んだシンゴを引きずり、一目散に青年達がいるであろう場所を目指した。

 

 兄の悲鳴に聞こえないふりをしながら、ヒナはひたすら走り、そしてやがて、見覚えのある人影を見つける。

 

「あ…‼︎ いた!!! 麦わらのお兄ちゃ………」

 

 ぐったりと倒れた兄を放置し、駆け寄ろうとしたヒナは。

 

 泥の中に上半身を埋め、じたばたともがく青年の姿を目の当たりにし、ぎょっと目を剥いて停止した。

 

「むゴガ…むぐ……んン〜〜〜ッ!!!」

「え〜〜〜⁉︎ 何でそんな事になってんの!!?」

 

 苦しそうにもがき、両足を振り回すルフィらしき青年。

 ヒナは大慌てで泥に足を踏み入れ、ルフィの足を掴むと渾身の力を奮い、すぽーんと引っこ抜いた。

 

「ぶはァァ〜〜〜っ!!! し、死どぅかど思っだァ〜〜!!!」

 

 べちゃっ、と泥の上に倒れ込んだルフィは涙目になりながら、自身の無事を喜ぶ。そしてすぐ、二度も自分を救ってくれた恩人に頭を下げた。

 

「あんがとなヒナ!!! やっぱすげーなお前のバカ力」

「えへへ〜………………ん? ばかぢから?」

 

 褒められ、感謝されててれるヒナは頬をかく。途中で妙な評価をされた気がしたが、言ったルフィは全く気にしていない。

 けらけらと呑気に笑うルフィを、気を取り直したシンゴがきっと睨みつける。

 

「オイ…‼︎ あんた………何が起こったんだ。何をしたらあんな事が起こる⁉︎ あんた達あの遺跡で何やったんだ!??」

「ん? ああ…それがよォ」

 

 妹を庇うように前に出て、詰め寄るシンゴにルフィはつい先程までの怒りを思い出し、険しい表情で向き直る。

 詳しい説明を始めようとしたところで、彼ははっと、大事な事に気がついた。

 

「…………‼︎ エールは?」

 

 

 

「っ…‼︎ ここは………」

 

 全身にかすかな痛みを覚え、サトナカの意識が浮上する。

 冷たい床から身を起こし、辺りを見渡すと……目を疑う光景が視界に映る。

 

 一言で言えば、豪華絢爛。

 石造りの床、壁と天井、奥に据えられた玉座。それら全てが黄金に輝き、さらにそれを無数の宝石や宝物が飾っている。

 どこの国の王であろうと実現は叶わないであろう、眩い空間。

 

 先程まで確実に暗く陰湿な墓地であった場所が、完全に変わり果てていた。

 

 そして顔を上げたサトナカは、すぐ目の前に立っている自分の雇い主に気付き、困惑の声を漏らした。

 

「会長…?」

「────お招き頂けるとは光栄だよ!!! 古の錬金術師(アルケミスト)ガラ!!!」

 

 思わず声をかけるが、コウガミは振り向かない。

 サトナカの目覚めにも、存在にも気付いていない様子で、玉座を凝視し立っている。

 

「わざわざ私だけここに残してくれるとは………一体どのような用件かな!!?」

「お前の存在がどうにも気になってな………〝王〟の血を引く男よ」

 

 贅の極み、欲望の限りを尽くした空間。

 それをあっという間に作り出した存在は、意味深にコウガミを見つめ、彼をそう呼んだ。

 

⚓️

 

 ざわざわと人里でどよめきが走る。

 町の中心に落ちてきた、ある一人の少女を囲み、住民達は困惑に眉を寄せ、立ち尽くす。

 

「お…オイ、コイツ、この間の…………」

「あ…あァ、ジイさんが言ってた古代の王って………大昔にこの島をムチャクチャにしやがったっていう……あの」

 

 彼らが見下ろす先で、少女が───エールが力なく横たわっている。

 

 謎多き彼女……古の恐ろしき〝王〟の力を持つ存在が、土に塗れ、襤褸雑巾のような格好で倒れている。

 いきなりすぎる状況に、人々はただただ戸惑うばかりだ。

 

「何でこんなボロボロで降ってくんだよ!!? あの辺な建物から落っこってきたよな⁉︎ コイツ……やっぱなんか関係あんじゃないのか⁉︎」

 

 先日の怪物達の襲撃、そしてその際に起こった少女の暴走。目に焼き付いたその光景が、住民達の恐怖感を誘う。

 

 そんな中、最初に騒ぎ出した者がいた。

 島の伝説を最もよく知り、最も恐れていた件の老人だった。

 

「何でもいい!!! こやつに何があったかなど‼︎ 早う追い出せ!!! ここから遠ざけろ!!! 災いが…古の災いが再び起こるぞ!!!」

「そ…そうだ‼︎」

「こいつは悪魔だ……危険な奴だ‼︎」

「こいつが現れてからおかしな事ばかり起こってる‼︎ どうにかしねェとおれ達が危ねェ!!!」

 

 老人の声で、住民達が次々に釣られ出す。

 事実がどうであるかよりも、疑わしい存在への忌避感が、彼らに行動を促す。

 

「このガキ……‼︎ よくもおれ達の島を──…」

 

 エールを見下ろし、一人の大男が嫌悪の表情を浮かべ、拳を振り上げる。

 激情の赴くまま、動かない少女を殴り飛ばそうとした時、隣に立っていた知人が彼の肩を掴んだ。

 

「あァ⁉︎ なんだ…こんな時に………」

「………お、おい。アレ見ろ」

「あ?」

 

 鬱憤ばらしの邪魔をされ、不機嫌そうに停止した大男は知人が指差す方向を振り向き、硬直する。

 

 町の入り口、大通りの始まり。

 そこにいくつもの人影が───騎士の姿をした何かが、無数に集結していたのだ。

 

「なっ…何だこいつらァ⁉︎」

 

 道いっぱいに列をなし、行進する騎士集団。

 ざっ、ざっ、と異様に揃った足音を鳴らして、向かってくるその様は不気味としか言いようがない。

 

「誰だ、お前ら…何の用で…………」

 

 戸惑う住民達の中の一人、青果屋を営む男が突如、背後から現れた騎士の一体に斬りつけられ、血飛沫を上げて倒れ込んだ。

 

「ギャアアアア!!!」

「キ……キャアアアアアアアア!!!」

「ぎゃああ!!?」

 

 一つの悲鳴がこだますると、次々に絶叫が上がっていく。そしてそれと同時に、無数の血飛沫が町中で飛び散り出す。

 少女への怒りと憎悪は一瞬で霧散し、悍ましき殺戮が始まった。

 

「コイツらいつもの…あの動物もどきのメダルのバケモノ共じゃねェ!!!」

「なんなんだよ⁉︎ 何が起こってんだァ!!?」

 

 獣の本能のままに暴れる普段の怪物達とは異なる、整えられた武器と装備で効率的に命を狙ってくる。

 まるで人間を相手にしているようだが、感じられる気配は人外のそれで、立ち向かう強者達は動揺を禁じ得ない。

 

「見ろ‼︎ あそこだ‼︎ やべェぞ島の奴らに囲まれてる!!!」

「アイツらまたエールちゃんに汚ェ罵詈雑言と暴力を………!!!」

 

 徐々に大きな声が上がり出す町。

 そこを目指し、麦わらの一味が大急ぎで走る。

 

 遺跡から追い出され、突き落とされ、墜ちた先の森からようやく生還した彼らは、囲まれるエールの姿に表情を変える、が。

 

「⁉︎ なんか…エールだけの騒ぎじゃないっぽいよ…⁉︎」

「チッ…あの野郎、またなんか妙な事始めやがったな……!!!」

 

 瞬時に異常事態に、そして騒ぎの元凶に気付いたサンジが険しい表情で歯を食い縛る。自分達がやられた直後のこの事態、勘違いの筈もない。

 

「ヒッ…ヒィイエエエ!!!」

 

 彼らの向かう先で、老人が腰を抜かした様子でへたり込んでいた。

 ずるずると後ずさる彼の前には、騎士の異形がじりじりと、剣を手ににじり寄っている。

 

「い…いやじゃ……た、た、たすけてくれェ…‼︎ し…しし…死にたくない…死にたくない…!!!」

 

 言葉が通じるかも怪しい相手に、老人は必死に命乞いを続ける。涙と鼻水で顔中ぐちゃぐちゃにし、震えながら慈悲を祈る。

 しかし、そんな彼の願いも虚しく、騎士は剣を振り上げ、そして。

 

 ───ざくっ!

 

 老人は自身に振り下ろされた剣を前に目をつぶり、身を固める。

 だが、予想していた痛みはなく、やがてゆっくりと瞼を開き。

 

「ぐふっ…」

 

 胸に刃を受け、苦悶の声を漏らす少女の背中を目の当たりにし、硬直する。

 よろよろと後退り、膝をつくエールを凝視し、間抜けな表情で固まっていた。

 

「コンニャロォ!!!」

「このクソバケモンがァ!!!」

 

 エールを斬りつけた騎士は、駆けつけたルフィとサンジに吹き飛ばされる。

 がしゃん、とどこかに落下する異形を横目に、一味は大慌てでうずくまる少女に駆け寄った。

 

「エール!!! 大丈夫か⁉︎」

「チョッパー‼︎ 急げ‼︎」

「お…おおお、おォ!!! ってコレおれでいいのか⁉︎ おれでどうにかなんのか!??」

 

 すぐさまチョッパーが治療を試みるが、血ではなく硬貨を流す患者にどう対処すべきかと手が止まる。

 そして戸惑っている間にも、また別の騎士が向かってくる。

 

「この非常時に……!!! 失せろバケツ頭!!!」

 

 迫る生物達に、エレノアが怒りに目を燃やし強烈な蹴りを放つ。

 再度あちこちに吹き飛んでいく騎士達を見やり、天使はふんっと満足げに花を鳴らす。

 

「うっし、おわり‼︎」

「上出来だ、おれの指示どーり‼︎」

「はいはい…」

「エレノア〜‼︎ やっぱおれじゃダメだ、診てくれ〜〜〜!!!」

「ああもうなっさけない声上げないでよドクター………いやコレ、私だって何をどうやったらいいのか」

 

 即座に泣き言をこぼ船医に呆れながら、エレノアもまた頭を抱える。

 しかしどうにかして治療を施そうとしていると、それまで黙り込んでいた老人が目を吊り上げた。

 

「き……‼︎ き…き…きさ、貴様らァァ〜…!!! またしても現れおったな………悪魔の使い共めらがァ…!!!」

 

 一度命の危機を脱したお陰か、余裕を取り戻した老人は、自分の前に集まる青年達を睨みつけ、盛大に罵る。だが、正気ではないのは明らかだ。

 

「も…もも…もう終わりじゃ、破滅じゃ…破滅が目覚めおった………この世の終わりが目を覚ましおった…!!! もうこの島もこの世も終わりじゃああ〜〜!!!」

「クソ…またあのジジイかよ」

「お…おおお前達のせいじゃ!!! お前達が全ての元凶じゃ…‼︎ お前達が島に災いを呼び寄せおったんじゃ…‼︎ お前達が全てを滅ぼしたのじゃ………!!!」

 

 震える手で指差し、青年達に、彼を庇ったはずの少女すらも罵倒し続ける。

 誰も彼も、自分の身を守る事に必死でまるで聞いていない。だが、それでも老人は、汚く唾を撒き散らして叫び続けた。

 

「おぞましき悪魔と愚かな〝王〟が世界に破滅をもたらすんじゃあ……!!! 全て終わりじゃ‼︎ おしまいなんじゃァ〜〜〜!!!」

「おいジジイ…‼︎ てめェいい加減に………」

「フランキー、ダメよ…!」

 

 我慢の限界に達したフランキーが、怒りの形相で老人に迫る。

 ロビンに制止されても止まる様子はなく、この場で叩き潰さんとする勢いで一歩を踏み出そうとして。

 

「いい加減にせよ…‼︎」

 

 その寸前で、とある声が響き渡る。

 

 はっと我に返ったフランキーの目の前で、老人が指を突きつける手をがっしりと掴み、侍が───新ノ介が彼を厳しく睨みつけていた。

 

「何が悪魔…‼︎ 何が災い‼︎ 何が起こっているかもわかっておらぬくせに、勝手な想像だけで喚き散らすな!!!」

「ひィ…⁉︎」

「この娘は今、おぬしを助けた!!! こんなにもボロボロの体で、さぞ痛かったろうに、さぞ苦しかったろうに…‼︎ 自分の身を顧みずおぬしを庇った!!! おぬしは今、何を見ていた!!?」

 

 新ノ介に、自分よりはるかに若い男に叱られ、しかし凄まじい剣幕に押され、老人は何も言えなくなる。

 震える彼に容赦なく、侍はどこか必死さを滲ませ、吠え続けた。

 

「なぜ‼︎ 目の前のこの者を見ない!!! なぜその目で直に見てもいないあやふやな過去にばかり目を向ける‼︎ なぜ………何かあると疑わない!!!」

 

 彼の姿には、後悔のような何かが滲んで見えていた。

 自らの過ちを老人を通して見ているような、自らを叱りつけているかのような、そんな強い感情が見えた。

 

 彼の剣幕に、ルフィ達も思わず黙り込んでしまう。

 

「おっさん…」

「す…全てこやつらが現れてからだろう!!! バケモノ共の襲撃が増えたのも‼︎ わしらがこんな目に遭っているのも!!! 全てこやつらが元凶ではないか!!!」

 

 引くに引けなくなったのか、一度黙った老人は再び勢いを取り戻す。

 血走った目で青年達と侍を凝視し、喚き続ける。

 

「敵じゃ!!! この娘もお前達もみんな敵じゃ‼︎ 害悪じゃ!!! 何を疑う余地がある!!!」

「こンのジジイ…‼︎ いい加減黙らねェと…」

 

 いつまでもいつまでも、無意味な罵倒をやめない。

 今度こそ黙らせよう、とフランキーが再度拳を掲げたその時。

 

 この惨劇の状況に似つかわしくない、軽快なベルの音が町中に鳴り響いた。

 

「ご静粛にお願いいたしま〜〜〜す♫」

 

 音と合わせて、女の声がする。殺戮の中で、似合わない間延びした声が響く。

 戦闘中の者も、逃げ惑っていた人々も、皆がその声がした方に振り向き、困惑する。

 

 騎士達を従え、佇む一人の道化の少女を見つめて。

 

「我が主からの、お知らせでございま〜〜〜〜す♪」

 

 彼らに向けて、少女はにっこりと。

 どこか薄ら寒さを感じさせる笑みをたたえて口を開いた。

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