ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第298話〝狂気の儀式〟

 ───都合のいい話だよなァ…‼︎

    勝手に増えてくゴミ共を材料に…世界を手に入れる力が作れちまうなんてよ。

 

 走る、走る。森の中を駆け抜ける。

 目撃した衝撃の事実から……聞いてしまった悍ましき言葉から逃げるように、ひたすら距離を取る。

 

 だがそれでも、エールの耳には彼らの言葉がはっきりとこびりついていた。

 

 ───ゴミ共を1人残らず〝石〟の材料にしちまう……。

    こんないい方法をなんで今まで思いつかなかったんだろうな?

    今まで勿体無いことしてたぜまったく…‼︎

 

 遺体を沈めながら、兄達は笑っていた。恐ろしい苦悶の表情を浮かべて沈黙する肉の塊を沼に沈めながら、下卑た笑みのままだった。

 

 ───アイツらも喜ぶだろうぜ‼︎

    無価値なゴミが最期におれ達の役に立てるんだからよ‼︎

 ───オイオイ…。

    ゴミなんて言い方はよせよ。

 

 走っている間にも、彼らの表情はまぶたの裏にしっかりと浮かぶ。

 人間の悪意。これまで自分に向けられてきた罵倒など、児戯だったとしか思えないほど醜悪で、怖気が走る顔だった。

 

 ───アレは豚だ。

    エサをやればやるほどぶくぶく肥え太ってく都合のいい家畜………アイツらはおれ達の食糧だ。

    おれ達にはアイツらが必要なんだよ……世界を手に入れる為にはな。

 

    血の一滴までしっかり役立って貰わないとなァ…じゃなきゃ、今まで散々食わせてやった意味がねェ。

 

 ばたん、と我が家に飛び込み倒れ込む。

 急いで扉を閉め、膝と頭を抱えて震え上がる。今この瞬間にも、彼らが追ってきて殺されるかもしれない……そんな恐怖に囚われていた。

 

「……あ……兄様達は…………父様は…狂ってる……!!! 怨念と憎悪で…………完全におかしくなっちゃってる…!!!」

 

 以前から傲慢な人格ではあった。だが、ここまで狂ってはいなかった。

 自分以外の人間を下に見る、所謂良い王ではなかったが、ただの物として見るほどではなかったはずだった。

 

「何をする気なの…⁉︎ 島のみんなを……豚って……材料って…………みんなを…‼︎ 何に巻き込む気なの…⁉︎」

 

 エールがいくら考えても、何が起こるのかなどわかるはずもない。

 ただ、碌な事が起こらないのは間違いない。

 

「………いや…違う、巻き込むんじゃない……最初から()()()()何かをする為に…父様は…………!!!」

 

 ───すべてだ!!!

    我はすべてを手に入れ‼︎

    すべてを与える!!!

    最強たる我が力をもって…貴様らに永遠の栄華を授けてやろう!!!

 

    こんな畜生(もの)がゴミに思える程のなァ!!!!

 

 10年前、突如森の強大な獣に勝利し、凱旋を始めた頃の父の言葉が思い出される。

 

 考えてみれば、あの言葉は違和感があった。

 強欲な〝王〟何かを与えるなど、その見返りとなる何かを人々から巻き上げるつもりだったのではないか。

 

 現に今、何かを奪われた人々が無慈悲に捨てられる姿を見たばかりだ。

 

「し…知らせなきゃ、みんなに知らせて………………!!!」

 

 震える体に叱咤し、強引に立ち上がろうとする。父や兄達の所業を知らせ、皆を助けなければと衝動的に腰を浮かせる……だが。

 

 ───もう飢えとはオサラバだァ!!!

 ───〝強欲王〟様サマだぜ‼︎

 ───〝よくばりおおさま〟バンザーイ!!!

 

 それ以上、体が動かない。

〝王〟のもたらした恵み、繁栄に喜び、心から笑う人々の顔が、声が脳裏に浮かび、体が凍りつく。

 

(…信じない。誰も……手離す筈がない。今を…全てが満たされているこの楽園を…………真実がどうだったとしても……みんな……受け入れたりしない)

 

 エールを頼る者は、今や誰もいない。

 より裕福で、より楽で、より幸福な生活を望む彼らが、果たしてそれをもたらしてくれる〝王〟を疑うだろうか。

 

 役立たずの小娘の言葉に、耳を貸すだろうか。

 

(みんな………私の言葉なんて…無価値な私の言う事なんて…………信じない)

 

 へなへなと、足から力が抜けて座り込む。

 どうすればいいのか、何をすればいいのか。動かなければならないのに、一度諦観を覚えてしまった体は言う事を聞いてくれなかった。

 

「………どうしよう。私……どうしたらいいの…アンク」

 

 この場にいない友人に問いかけるも、帰ってくるのは虚しい沈黙だけだった。

 

⚓️

 

「おれらに用ってなんだろうな、なァ兄弟‼︎」

「さァてなァ………わざわざこんな真夜中に呼ぶくらいだ……秘密で重要な話があるんじゃねェか? 兄弟‼︎」

 

 真っ暗な道を歩く双子の兄弟。ほとんど同じ筋骨隆々の体に、そっくりな顔をした双子が、やかましく騒ぎながら深夜の森の道を進む。

 

「なんにせよ、あの〝王〟がとうとうおれ達『拳闘兄弟』の力を必要としたって事は確かだ。なァ兄弟‼︎」

「島に巣食う化け物退治におれ達の力が求められてるってわけだな兄弟‼︎」

「そういう事なら仕方ねェ………ここらで一旗あげて、この世にドでけェ記憶を刻んでやろうぜ、なァ兄弟‼︎」

「おうよ‼︎ この人生にド派手な華を咲かせてやろうぜ兄弟!!!」

 

 意気揚々と、自分達を待っているであろう名誉と地位を目当てに、軽い足取りでどんどん進む。

 

 そんな双子を、木陰に身を潜めた少女が窺う。

 エールはじっと息を殺し、去っていく双子の後を細心の注意を払いながら追いかける。

 

「ワダとカム……しばらく見ない間に………なんかゴツくなったねェ」

 

 先日目撃した遺棄現場。あの場所を中心に捜索し、ようやく見つけたこの道。

 一体どこに通じているのか、何があるのか、エールは飛び出し双子を呼び止めたい気持ちを抑え、監視を続けた。

 

「あの2人を……なんだったか……〝石〟だかなんだかの材料にするのかィ…? そもそも………人間を石にするってのァどういう意味なんだィ……?」

 

 疑問は尽きない。だが、探らなければ何も掴めない。

 新たな犠牲になるやもしれない二人に申し訳なさを感じながら、エールはじっと機を待つ。

 

 そしてやがて、双子の前に大きな建物の入り口と、見覚えのある人影が現れた。

 

「…ようこそおいでくださいました、御二方。私めがご案内を勤めさせていただきます」

(ラケル…!!?)

 

 思わぬ人物の登場に、エールはひゅっと息を呑み硬直する。

 

 なぜ彼女がここに、何の為に。

 目を見開くエールに気付く様子はなく、ラケルは双子を入り口に案内する。

 

「さァ、こちらへ…〝王〟が首を長くしてお待ちにございます」

 

 静々と歩き出すラケルに、双子はそわそわ待ちきれない様子で、しかし従順に後に続く。それでも逸るのか、しきりにラケルに話しかけていた。

 

「なァおいお嬢さん?〝王様〟は一体おれ達にどんな用があるんだィ?」

「気になって仕方ねェぜ、お嬢さん」

「………それは、〝王〟より直接お話がございますゆえ、私めが勝手に話す事はできかねます」

「お嬢さん、いいじゃねェか!」

「ちっとだけ教えてくれよォ‼︎ お嬢さん」

「……それは後のお楽しみ、でございます」

「「え〜〜〜〜⁉︎」」

 

 謎の建物の入り口をくぐり、闇に消えるラケルと双子。

 エールは恐る恐る木陰を出ると、松明に照らされた入り口の前に立つ。

 

 秘密は、この向こうにある。例えようのない不安と恐怖が胸中を占めるが、首を振ってそれを払いのける。

 意を決し、エールは自ら闇の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 建物の中は、ひたすらに長く、そして難解な通路が続いていた。

 深く深く降りていく階段にやたらと現れる十字路。かろうじて見えるラケル達の背中を辿らなければ、道などまるでわからなくなる。

 

「まったく…‼︎ 呆れるくらい広いねェ……知らない間に……ずいぶんとまァ贅沢な建物が建ってたもんだ」

 

 向こうに聞こえないよう気をつけながら、思わず湧いた悪態を吐く。

 こんなにも意味のわからない建物を造るくらいなら、島の住民が暮らせるより頑丈な家を作ってやればいいものを。

 

 労力は全て、自分の欲望の為。

 あの父は、強欲な〝王〟は結局何も変わっていない。

 

「……〝国〟ができて…〝城〟ができて……〝民〟がいて………何もかもが満たされてるってのに、これ以上何を望むんだィ……父様」

 

 ぎり、と食いしばった歯を軋ませ、ここ数年は会話どころかまともに顔を合わせてもいない父の顔を脳裏に浮かべる。

 

 そうやって余計な事を考えていたのが悪かったのだろうか。

 気付けば、ラケル達の背中はどこにも見当たらなくなっていた。

 

「─ってあれェ⁉︎ 見失っちまったかィ⁉︎ どこ行っちまったんだいあいつら………‼︎ え〜〜〜っと…こっちかねェ…?」

 

 慌てて案内役の痕跡を探すが、気配を探ってもまるで見つからない。

 ラケルの案内に頼りきっていた為に、どこをどう通ってきたかも思い出せず、戻る事もできなくなる。

 

 仕方がなく、当てずっぽうで進まざるを得なくなっていた。

 

「行けども行けども似たような道ばっかり………私はどこから来たんだったかねェ……? 困った事になった………!!!」

 

 まるで同じ道を延々と歩かされているようだ。均等に作られた通路が無限に続いているように見え、気が狂いそうになる。

 

 頭を抱え、悩みながら勘の赴くままに歩いていた───その時だ。

 

グルオオオォオォォ!!!

「ひィ⁉︎」

 

 通路の何処かから響いてきた、凄まじい声量の咆哮。地響きがするほどに巨大なそれに気圧され、思わずエールの口から悲鳴が漏れる。

 

 エールは怯えながらも、恐る恐る咆哮が聞こえる方へと足を進めた。

 

「ブオオォ!!!」

「ア"〜〜!!! ア"〜〜ッ!!!」

「キシャアアアァ!!!」

 

 覗き込んだある空間……そこは、無数の檻が並ぶ深く巨大な穴。

 円形の穴の壁面にびっしりと部屋が掘られ、それぞれが鋼鉄の格子で塞がれている。

 

 その中には、見覚えのある巨獣達が押し込められ、荒れ狂っていた。

 鰻に鷲、象に豹、どれもこれもエールが幾度か遭遇し、命からがら逃げてきた危険な猛獣達だ。

 

「〝沼の王〟…〝崖の王〟…〝泉の王〟…!!! 森の……海の……島中の猛獣達……なんでこんなとこに」

 

 どれだけ頑丈な檻なのだろう。巨獣達がどんなに暴れても歪む素振りも見せない。依然として、硬く巨獣達を閉じ込めたままだ。

 

「アンクは……!!? よかった…‼︎ アイツは捕まってないんだねェ…!!! …………でも、こんなに危ない猛獣達を集めて何しようってんだィ……⁉︎」

 

 咄嗟に唯一の友人の姿を探すが、見当たらずほっとひとまず安堵する。

 だが、相変わらず疑問は解けない。わざわざ捕らえて閉じ込めておくなどなんの意図があるのか、檻から出て暴れ出そうものならどれだけの惨事になる事か。

 

 戸惑うエール。彼女はその時もう一つ、聞き覚えのある〝声〟を捉える。

 

「…⁉︎ こっちから……声が?」

 

 

 

「オイ!!! どういうつもりだよ〝王様〟よォ!!!」

「なんでおれらがいきなり取っ捕まらなきゃならねェ!!!」

 

〝王〟の居城の奥の奥、玉座の間で双子の怒号が響く。

 両手両足を縛り上げられ、芋虫のように身動きが取れない状態で、〝王〟と錬金術師達の前に晒されていた。

 

「この野郎、冗談でも超えちゃならねェ線があんだろ‼︎ この縄とけ‼︎ さっさと解放しろ!!!」

「…こいつらはイキがいいな。2匹で十分か」

「左様ですな」

「しかし肝心の〝欲〟はどうか………」

 

 騒ぐ二人をよそに、〝王〟達は好き勝手に議論するばかり。

 無礼を働かれているのに相手にもされず、双子の怒りはより一層燃え上がった。

 

「クソ……‼︎ コノ…野郎…!!! こっちが下手に出て崇めてやってりゃつけあがりやがって……!!! これがてめェの本性ってワケかコウモリ野郎!!!」

「騙された!!! まんまと騙されちまったぜ兄弟!!!」

「おれ達をどうしようってんだクズ王め‼︎ 死んでもてめェの思い通りにゃならねェぞ!!!」

 

 動かない手足の代わりに、思いつく限りの罵倒を吠える。唾を吐き散らし、目を血走らせ、激情を思いっきりぶちまける。

 

 だがそれでも、〝王〟は気にも留めない。

 それどころか鬱陶しそうに顔を歪め、くいっと顎をしゃくった。

 

「鬱陶しい……始めろ」

 

 次の瞬間、玉座の間の左右の壁が重い音を立てて持ち上げられていく。岩を引きずる耳障りな音の後、やがて巨大な入り口が開かれる。

 

 開かれた暗闇、その奥からいくつもの眼光が覗いた。

 

「クワカカカカ…!!!」

「グワァァッ!!!」

「「うわああああァ!!!」」

 

 ずしん、と踏み出される巨大な鳥の脚。羽搏きで生じる暴風。

 民家ほどもあろう巨体で通路をくぐり、それらは───何羽もの鳥の怪物達が姿を現した。

 

 双子の怒号は途切れ、悲鳴が迸る。

 

「コッ……コイツら…‼︎〝原の王〟に…〝荒野の王〟!!? なんでコイツらがここに…!!!」

「ま…まさかコイツらにおれ達を食わせる気じゃ…‼︎」

「イヤだァァ〜〜〜!!! そんな最期は死んでもイヤだァ!!! た…助けて…誰か助けてくれェ!!!」

「グアアアァ…!!!」

 

 猛獣達のうち、巨大な鶏が双子に一直線に迫る。だが、首と両足首に嵌められた鎖に阻まれ、後少しの距離が届かない。

 

 双子は〝王〟への怒りも忘れ、泣き叫んで命乞いをする。恥も外聞も捨て、顔中をぐしゃぐしゃにして首を横に振る。

 足の間を生暖かく濡らす彼らに、案内役のラケルが思わずため息を吐く。

 

「大人しくしていて下さいな………そう時間はかかりませんわ」

「此奴らもまたイキがいい…‼︎ さァさっさとやれ‼︎ また新たな〝宝〟の完成を我に見せるのだ!!!」

「…………御意に…」

 

 ラケルが呆れるほどの醜態にも、〝王〟はまるで興味を示さない。始終、玩具を買い与えられる前の子供のように目を輝かせ、玉座の上ではしゃぎ続ける。

 

 ラケルは嘆息すると、たん、とその場で足を踏み鳴らす。

 その瞬間、玉座の間全体の床が不気味な赤い光を発し始めた。

 

「ヒッ…‼︎」

「た……助け」

「お悔やみ申し上げますわ……御二方」

 

 足下が急に光り出し、怯える双子。より一層騒ぎ出す猛獣達。

 

 複雑な模様と文字がいくつも描き照らし出された円陣の中で、人間と猛獣達が光の中に囚われる。

 明らかに何か、よくない事が起ころうとしているのは確かだった。

 

 エールは入り口の陰に身を潜めながら、呼吸も忘れてその光景に目を奪われていた。

 

(何アレ……⁉︎ 何⁉︎ アイツら何やろうとしてんだィ…………!!? わ…私はどうしたら……)

 

 助けなければ、だがどうすればいいのか。

 異様な光景に圧倒され、まとまらない思考で必死に策をひねり出そうとして。

 

 エールは、背後に立った何者かに気付くのが遅れた。

 

 どごん!

 

 轟音が鳴り響き、壁の破片がごろごろと玉座の間に転がり込む。

〝王〟やラケル、錬金術師達が何事かと振り向く中、土埃にまみれたエールがどたっと倒れ込んだ。

 

「…うゥ」

「…⁉︎ エールさん……!!?」

 

 額から血を流して呻くエール。

 思わぬ人物の乱入に、初めてラケルの表情が変わる。

 

「何だ……大事な時に騒々しい………何の用だ、ウヴァ」

 

 乱入者にちらりと一瞥をくれた〝王〟は、次いで破壊された入り口から姿を見せたもの───緑の異形を睨む。

 昆虫の特徴を持ったその異形は、いらだたしげに〝王〟を睨み返した。

 

「チッ…見ての通りだ………紛れ込んだうろちょろと探ってるネズミがいたから狩ってやってただけ、むしろ感謝してしかるべきだろう」

「フン…そんな出来損ない一つ放っておいても差異などないわ」

「そうかよ」

 

 ウヴァと呼ばれた異形は心底面倒臭そうに、不本意そうに〝王〟に告げる。尊大な〝王〟の態度に、嫌悪さえ抱いているように見えた。

 

 ウヴァの足下で、エールは驚愕し、恐怖していた。

 異形から感じる、その異様な気配に。

 

(何だィ…コイツは⁉︎ 人…虫⁉︎ 何だこの異様な気配は……!!! 無数の蟲が密集して蠢いてるみたいだ……!!! こんな……こんなバケモノがこの島にいたのかィ!!?)

 

 今まで、ここまで醜悪な気配を放つ存在と遭遇した事はない。一体だけなのに、無数の化け物に囲まれているような感覚に陥る。

 これと比べれば、森の獣達が幾分可愛らしく思えてくるほどだ。

 

「ネズミを放っておいても差異がないなら…おれが見張りをする意味もないと思うがな。面倒な役目を押し付けられるこっちの身にもなってもらいたいもんだ」

「無駄口を叩くな……〝創造主〟の意思に従え、()め」

「チッ…」

 

 旋律の表情で見上げるエール。だがやはり〝王〟はほとんど注目を向けない。路傍の石と同じように、かすかに邪魔な存在としか見ていなかった。

 

「何だ⁉︎ 誰だ‼︎ そこに誰か来てるのか!??」

「誰でもいい!!! 助けてくれ‼︎ 何でもする‼︎」

 

 縛られたまま動けず、何が起こったのかわかっていない双子。

 それでも助けになるならと、巨鳥達の足の間から必死に呼びかける。無論、エールに彼らを助ける余裕などない。

 

「〝王〟よ………如何される? 奴隷の子と言えど一応は血の繋がりのある娘ですゆえ…」

「…構わん。これもついでに材料に加えよ」

「!!?」

 

 錬金術師ガラの問いに、〝王〟は一切の躊躇いなく告げる。

 ガラもまたその答えに戸惑う事なく、むしろ話が早くて助かると言わんばかりに頷き、エールの髪を掴んで持ち上げる。

 

 痛みに顔を歪めるエールは、ガラの向ける無機質な視線に息を詰まらせた。

 

「ヒッ…⁉︎」

「喜ぶがいい、役立たず………お前はようやく生みの親たる我の役に立てるのだ。無意味に出来た矮小なる塵芥に……今こそ意味を与えてやろう」

 

 そう言って、ずるずるとエールを引きずり円陣へと向かっていくガラ。

 痛みに悶えるエールはガラの手を掴んで抗うが、錬金術師は無慈悲に少女を運んでいく。その様に、我に返ったラケルが声を荒げる。

 

「〝王〟よ‼︎ それは………!!!」

「さっさと始めよ!!! 我はもう待ちきれんのだ‼︎ 我を至高にして唯一たる〝真の王〟に至らしめる〝宝〟の完成がすぐそこなのだ!!!」

「どうかお待ちを‼︎〝王〟よ!!!」

 

 ラケルの制止の声も、〝王〟はまるで意に介さない。

 

 円陣の淵に立ったガラは、少女の細い体を乱暴に放り捨て、エールは双子のすぐ側に押しやられる。

 呻きながらエールが起き上がろうとした時、ガラの口元に笑みが浮かんだ。

 

 次の瞬間、円陣の赤い光が強まり、毒々しい真紅の閃光が迸った。

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァ!!!」」」」」

 

 円陣の中に囚われた双子と巨獣達、そしてエールは、突如全身に走った苦痛に絶叫する。

 

 皮膚を無理矢理剥がされるような。

 臓器を無理矢理抉り取られるような。

 神経に鑢をかけられているような。

 

 言葉では表しきれない、尋常ではない苦しみが彼らに襲いかかる。

 

「ア……アァ……ア"…!!!」

「やめ…あ"………た…たす…ケ…‼︎」

 

 円陣の中で、双子と巨鳥達は涙と鼻水と唾液を溢れさせ、声にならない声で助けを乞う。呼吸すらままならず、意識がみるみる遠のいていく。

 

「ゔあ………あ、あ"……‼」

 

 白目を剥き、仰向けで胸をかきむしりながら、エールも激しく痙攣し悶え苦しむ。

 何かが体から引き剥がされる、死よりも恐ろしい何かをされている。まるでまとまらない思考の中、本能で自身の終わりを直感する。

 

「ア……ァ…………アン……ク………!!!」

 

 無意識に伸ばした手が、虚空を掴もうとする。

 何も触れず、掴まれず、徐々に力が抜けて、エールは虚しく崩れ落ち───

 

 

 

ピィイイイイ〜〜〜!!!

 

 

 

 ───その瞬間、空を閉ざす天井が砕け、真っ赤な翼と甲高い咆哮が天空より舞い降りた。

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