ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「う……ぶはァ‼」
阻害されていた呼吸が一気に正常に戻り、エールは激しく咳き込む。
新鮮な空気を何度も肺に取り込み、涎と涙を流しながら、自分の傍に降り立った紅い巨影を呆然と見上げた。
「あ…アンク…!!?」
「ピィイ〜〜〜ヒョロロロロ!!!」
エールを守るように、両脚を広げて仁王立ちし、翼を広げて威嚇の声を上げる巨鳥・アンク。
羽搏く度に吹き荒れる暴風。
凄まじい殺気を伴って吠える怪物を前に、ガラ達錬金術師も驚愕の表情を浮かべた。
「こ…此奴は⁉︎〝空の王〟!!?」
「我らの罠を尽く潜り抜け…‼︎ 逃げ果せてきた鳥の王か!!! 何故ここに……!!?」
どよめきながら、襲い掛かる暴風に吹き飛ばされないよう踏ん張る。向けられる鋭い視線に臆し、何人かは息を呑み冷や汗を垂らしていた。
しかし凄まじい威圧を放つ巨鳥を相手に、反対に敵意を燃え上がらせる者がいた。
「チッ…見下してんじゃねェ!!!」
複眼を吊り上げ、べきべきと甲殻で覆われた指を鳴らしたウヴァが跳躍する。
右腕から生えた蟷螂の鎌のような刃を振りかざし、目障りな紅い羽毛を斬り裂きにかかる。
アンクは異形の接近に気付くと、羽搏いて宙に浮くと片脚を鋭く突き出した。
甲高い音を立てて鋭い爪がウヴァの刃を受け止め、更に火花を散らせながら弾く。
「ピィイイ〜〜〜!!!」
「ぬぐっ…!!? コノ…!!!」
弾かれたウヴァは、アンクが振るった翼の一撃で大きく吹き飛ばされる。鉄の塊が激突したのとほぼ同じ衝撃が、異形の甲殻に響く。
ウヴァの体は玉座の間の柱を幾つも破壊し、壁に激突してようやく止まった。
「コノ………クソがァ!!!」
「ピィイイィイイ‼」
ガラガラと崩れてくる瓦礫を小石のように払い除け、ウヴァが怒りの声を上げる。それに対し、アンクもまた憤怒の叫び声を返す。
双方の発した殺気が激突し、びりびりと大気が怯えたように震え続けていた。
「………アンク…こんなに強かったんだ」
アンクの足元で縮こまるだけのエールは、友人が見せる凄まじい力の瞠目し、絶句する。
仮にも『王』と呼ばれる、生態系の頂点に座す存在……その力の片鱗を見せつけられ、心も目も奪われ動けずにいた。
だが、畏怖すべきその力を前にしてもなお―――まるで変らぬ態度を貫く者がいた。
「…素晴らしい…‼︎ これほどの力を持つケダモノがまだ残っておったとは………」
「〝王〟よ、危険です‼︎ 近付いては──」
「ええい邪魔だ‼︎ どけ!!!」
玉座から腰を浮かせ、〝王〟が満面の笑みを……狂気と我欲に満ちた恐ろしい形相で浮かべてアンクの方へ近付こうとする。
羽交い絞めにして止めようとするガラを払い除け、〝王〟はウヴァを睨みつける。
「何をしておるウヴァ!!! 早う其奴を捕らえろ‼︎ 生け捕りだ‼︎ 決して殺すな⁉︎ 其奴こそ最後の1体に相応しい!!!」
「チィ…この…クソジジイが…!!!」
苛立つウヴァに気付かず、見もせず、〝王〟が興奮したまま喚き続ける。その力を目の当たりにしただろうに、それを欲するだけで肝心の捕らえる方法を何も考えない。
「ピィイイイィ…!!! ピィイ!!!」
「うわっ」
じろり、と〝王〟を睨みつけたアンクは、不意に首を伸ばすと、座り込んでいたエールを咥え、大きく羽ばたき飛翔する。
「あ……お…おい!!! 置いていくなよォ‼︎」
「おれ達も助けてくれよォオ!!!」
双子や巨鳥達が真下から叫ぶが、アンクは羽搏きを止めはしない。
あっという間に巨体は宙へ舞い上がり、凄まじい速度で彼が開けた天井の大穴へと向かう。突然の事に、エールは目を白黒させるばかりだ。
月明かりだけが照らす闇の中へ、紅き巨鳥が飛び出そうとした───刹那。
「逃がすなァ!!!」
ざくっ!
と、黄色い何かが真横から鋭い一閃を放ち、アンクの巨体に大きな傷を刻みつける。
アンクは硬直し、白目を剥くと真っ逆さまに落下していった。
「うわあああァ!!!」
嘴から力が抜け、エールの体も離れる。ばたばたと手足を振ってもがくも、翼のない少女に為す術はない。
ずん、と凄まじい轟音を立てて墜落するアンク。そのすぐ横にエールも落下し、全身を強かに打ち付けられた。
ふっ、と一瞬意識が遠のく。次いで凄まじい痛みと熱さに襲われ、エールは強引に意識が戻り悶絶する羽目になる。
「ガ……ァ………‼︎ ァ…アン……ク…‼︎」
「アハハハハ…悪いね〝王様〟。力加減間違っちゃった、死んじゃったかも?」
そこへ、また聴きなれぬ声が響く。
ずるずると体を引きずるエールのすぐ後ろに、もう一体の異形がゆっくりと月光の下に歩み出てくる。
猫の顔に鬣を生やし、鋭い爪を両手に備えた黄色い異形。
嗜虐的欲望を隠そうともしないそれもまた、酷く悍ましい気配を放つ得体のしれない怪物だった。
「カザリ……ふん、そう言ってまだ生かしているくせに、器用な奴め」
「結構難しいんだよォ? 死ぬギリギリ手前で止めるの………どっかの誰かさんみたいな大雑把な奴にはまァ無理だろうねェ?」
「何だとてめェ…!!!」
獲物を取られた苛立ちからか、それとも元から馬が合わないのか、ウヴァはカザリと呼んだ猫の異形を睨みつけ悪態を吐く。
カザリもその態度に慣れているのか、むしろ彼を煽りより一層苛立たせる。ちょっかいをかけて遊ぶ猫そのものだ。
「…ありゃ、あっちの子はまだ元気だね」
ふと、カザリの目がエールに向く。
怪物達のやりとりに目を向ける事もなく、少女は必死の形相で巨鳥の元へと這いずっていた。
「っ……ふ…ゥ……!!! アンク……しっかり…すぐに………手当して…」
血を吐き、歯を食いしばり、ずきずきと痛む全身を酷使し、動かないたった一羽の友人を助けたい一心でもがく。
その手がようやく、アンクの真紅の羽毛に触れようとした時。
「あらあら悪い子だこと………〝王〟の獲物を横取りしようなんて、とんだ泥棒猫ねェ?」
ずりずるずる……と、暗闇の中から伸びた太く長い何かが───長大な蛸の足がエールの首に絡みつく。
こつこつと靴音を響かせて、さらなる異形が現れる。
鯱の顔に鰻のようなぬるぬるとした表皮、蛸足の外套を羽織った、女の外観の青い異形だ。
気付いたエールは抗う間も無く、首を絞められ中へと吊り上げられた。
「お仕置きが必要ね」
「うぐ……あああァア!!!」
青い異形が愉しそうに告げると、蛸足に一気に力がこもる。頚動脈を締め上げられ、一瞬で呼吸困難に陥る。
抵抗しようにも、痛む体はまともに動かない。苦痛に思わず上がる悲鳴も徐々に絞められか細くなっていく。
それでもどうにか意識を保とうとして……次の瞬間、エールに凄まじい衝撃が襲いかかり、壁に向けて吹き飛ばされた。
「う〜る〜さ〜い〜」
どごん、と轟く轟音。撒き散らされる瓦礫と粉塵。
エールを真横から吹き飛ばした者───もう一体の異形、犀と象と大猿を混ぜ合わせたような厳つい灰色の怪物が、鬱陶しそうに間延びした声を上げた。
「ウヴァ、またカザリにてがらとられた」
「黙れガメル…‼︎ おれがコイツに出し抜かれる訳があるか」
「だったらまずこの有様の言い訳をしてみたら? 相変わらず頭の作りは劣っているようね」
「アハハハハ…言われまくってんじゃん」
月光の下、真紅の巨鳥を背後に、四体の異形が揃い立つ。
虫の異形、猫の異形、水性生物の異形、重量級生物の異形……数々の生物の特徴を持ちながら、生物としてありえない気配を放つ存在。
瓦礫に埋もれながら、エールは真っ青な顔でごくりと息を飲んだ。
「バケ…モノ…‼︎」
「ほら〝王様〟、言われた通り捕まえたよ。さっさと実験の続きやったら?」
「言われるまでもない………手間をかけおって〝石〟共め」
「え〜、そりゃないんじゃない? せっかくアンタの言う事聞いてあげてるのに………」
戦慄の声を漏らすエール、だが誰も彼女を気に留めない。
異質な力を見せつけた怪物達を前にしてなお、〝王〟は相変わらず玉座に陣取ったまま、尊大な態度で話し続ける。
異形達も反抗的な態度を滲ませるが、手を出す素振りは見当たらない。
「ただの
ぎろり、と血走った目で傲慢な言葉を吐き捨てる〝王〟。
異形達は肩をすくめ、鼻を鳴らし、溜息をこぼし、つまらなそうに欠伸をこぼし、いつも通りといった様子を見せていた。
そんな彼らに〝王〟も気にした様子を見せず、エールとアンクを見やって笑みを浮かべる。
「まァよい…今度こそ」
「お待ちを」
儀式のやり直しを命じようとしたところへ、ラケルの声が今度こそ響く。
邪魔をされ、鬱陶しそうに横目で睨みつける〝王〟に、ラケルは深く頭を下げる。
「その方を〝石〟の材料にするのはお止め下さい………どうかお待ちを」
「何を? ラケル、貴様も邪魔するか⁉︎ ……あァ、そうか。そういえば最初に貴様を拾ったのがコレだったな。情か。我には何の関係もない………目障りな役立たずを片付ける好機、邪魔をするな」
冷たく自分の血を引く娘を見やり、察した様子で鼻を鳴らす。彼からすれば他人の情などどうでもいい、無駄な手間でしかなかった。
しかし彼のその言葉に、ラケルは首を横に振った。
「………いえ、そうではございません」
「なに?」
「その方では〝石〟の材料になりえないのです。島の獣を口にしておりませんので」
ラケルの否定に、〝王〟は疑問の視線を返す。どういう事か、と視線で問われ、ラケルは〝王〟の注目がようやく向いた事に安堵しながら再度口を開いた。
「最初にご説明した通り………この〝石〟の生成には強靭な生物の他、深い〝欲望〟を持つ人間を必要といたします。…ですが両者は異なる生物であるがため、錬成の際に反発を生じさせる可能性があります」
「………‼︎」
「ゆえに、これまで島民全員に、食事を通して特殊な薬品と共に体内に同化させてきました。他の生物との融和性を高め、融合を実現しやすくするこの薬を」
エールが驚愕に息を飲む声を聞きながら、ラケルは丁寧に〝王〟に語る。
決して情が理由などではない……〝王〟や他の錬金術師達と同じ立場からの、効率を、成果を重視しての冷酷な忠告だった。
「…ですが、エールさんはそうではありません。頑なに皆との食事を避けていたために、材料としては不十分なのでございます。無理に錬成すれば、致命的な不純物となってしまう可能性も…………」
「忌々しい!!! 材料にもならんというのかこのゴミめは!!! どこまでもどこまでも足を引っ張るクズめ!!!」
理解した〝王〟は、己の娘を睨みつけて激しく喚き散らす。
足元を何度も踏みつけ、癇癪を手近なものにぶつけ、子供でも見せないような醜態を晒す。
それを、ラケルはただ静かに見つめているだけだった。
「……アンク……だい、じょうぶ……」
ずる、ずる、血肉を引きずる音がする。血の跡が残される。
動かない手足で芋虫のように這いずり、見ていられなくなる程見苦しい姿を晒して、エールは友人の元を目指す。
「こん、どは……わたしが…………アンタ…を………たす、けて……あげる………から……………」
まだ間に合う、助けられる。
横たわる赤い巨体から感じる命の気配を縁に、唯一動く右腕をゆっくりと伸ばし……
その手は、ウヴァによって無情に踏み潰され、蹴りどかされた。
「近付くなゴミが、〝石〟を作る邪魔だ」
がんっ、と再び壁に叩きつけられるエール。ずるずると崩れ落ちる少女に、〝王〟が唾を吐きながら吐き捨てる。
彼はそれ以降、二度と自分の娘を見る事はなかった。
「鳥がダメになる前に早う始めよ‼︎ 上質な材料がムダになるであろうが!!!」
〝王〟の命令の直後、再び床の円陣が光り輝く。異形達がぞろぞろと上から降り、残されたアンクと、先におかれた鳥の怪物達と双子に赤い閃光が食らいつく。
「ひぎゃあああァ…!!!」
「こんな……ごんな"死に"方イヤ…………だ…」
再び苦痛に悶絶し、叫ぶ双子と巨鳥達。今度は誰にも止められる事なく、声は徐々に途切れていき、やがて糸が切れたように崩れ落ちていく。
そして迸る閃光は、一点に収束していく。
命を食らった赤い閃光は〝王〟の足下におかれた石版に集い、それに開いた10の窪みの中で結晶と化していく。
物の数秒ののちに閃光は落ち着き───〝王〟の目の前に、10枚の硬貨が完成した。
「…………フ、フハ…‼︎ フハハハハハハハハ!!! 出来た…出来たぞ!!! 新たな〝宝〟が!!! ハハハハハハハハ…‼︎」
完成した硬貨───赤い鳥の〝コアメダル〟を石版ごと掲げ、〝王〟は狂ったように歓喜の声を上げ続ける。
錬金術師達もまた、頭上で輝くそれらに畏怖の視線と深い笑みを向けていた。
「美しい………実に美しい。これぞ我が欲した〝宝〟だ…!!! この輝き‼ この力…!!! 全てが我が使うに相応しい!!!」
「左様………そして我らは世界に復讐する……‼︎」
「我らから故国を奪いし奴らを滅ぼし…全てを取り戻す為に…‼︎」
「見える…‼︎ 見えるぞ!!! この力で…かつての我が王国を………いや‼︎ あれ以上の力を得た完全無欠の永遠帝国を手に入れる我の姿が!!!」
それはもう、正気の姿ではなかった。
悪魔に魂を売った愚者と、それをまるで〝神〟のように崇める者達……彼らはもう、人とは言えない怪物に成り果てていた。
「私こそが〝王〟だ!!! この世の全てを手に入れる最も偉大な〝王〟となる男だァ!!!!」
高々と叫び、名乗る〝王〟。讃え崇める錬金術師達。
そんな彼らに、異形達は冷めた目を向けて、心底つまらなそうに鼻を鳴らしていた。
「〝王〟だってさ………笑えるね」
「はっ…知るかよ」
一切の興味がない様子で囁き合うウヴァとカザリ。眠そうに目を擦るガメルとそれを母親のようにあやすメズール。
その時、カザリが足下で聞こえる呻き声に気付き、顔をしかめさせた。
「う〜わ、まだ生きてるよこの子。ウヴァってばほんと仕事雑〜」
「はっ……知った事か。無駄に頑丈なコイツが悪いんだ」
俯せでぶつぶつと呟き続けるエール。ほぼ意識も失われているのか、漏れ出る声に意味はなく聞こえる。
ぴくりとも動かない彼女に、ウヴァが無言で手を伸ばし髪を掴む。
物のように乱暴に引っ張り上げ、強引に顔を上げさせた。
「それで、このネズミはどうする? いてもいなくても同じなら捨てるも、殺すも同じだろう」
「どうでもよい……好きにせよ」
「じゃあそれ貰ってい〜い? 退屈しのぎのオモチャにしたいんだけど」
「あらダメよ、それなら私とガメルに頂戴な………この子ってば、あげたオモチャを片っ端から壊してしまうのだもの、新しいのが欲しかったの。使い道がないならちょうどいいじゃない?」
「ヒマ〜…たいくつ〜」
「その子もかわいそーにね…ウヴァがさっさと殺してあげれば苦しまずに済んだのに」
「そんな義理はないな」
本人が反応を見せないのも気にせず、〝王〟と異形達が好き勝手に宣い合う。
面倒そうに、引きずっていこうとしたウヴァだが、その手が不意に止まる。
なぜだか重く、動かせなくなった人間の少女に、虫の異形は邪魔臭さと共に困惑を覚えた。
「下ら……ない…‼︎」
ぎり、歯の軋む音が鳴る。
鋭く目を吊り上げ、髪を千切られる痛みも物ともせず、愛しい友を奪った父を……憎い仇を睨みつける。
その眼差しの凄まじさに、ウヴァだけでなく他の異形も一瞬気圧される。
「何が〝王〟だィ……何が…完全無欠だィ……!!! そんなもんの為に…‼︎ アンクを………‼︎ 島のみんなを巻き込みやがって…………!!!」
「………………」
「何なんだィ…お前らは!!? 何をやってるんだィ⁉ お前らは!!!」
もはや情などありはしない。
目の前で踏ん反り返っているあの男は───敵だ。
「お前みたいな〝王〟がいてたまるか!!! ガキみたいに駄々を捏ねて!!! 他人から奪う事しか考えられない…そんなクソみたいな〝王〟がいてたまるかァ!!!!」
目の前の愚かな男の欲望を、真正面から否定する。
己の死を招く発言だろうと関係ない。憎い男に決して屈さぬ意志を示すため、残された全力で本音を突きつける。
その直後、ウヴァの手でエールは地面に俯せに叩きつけられた。
「はァ……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまで脳の足りん出来損ないとはな」
「う……ぐ」
「我は言った………永遠の栄華を与えてやると」
押さえつけられ、額から血を流すエール。それでも強引に顔を上げ、〝王〟を見据え鋭く射抜く。
しかし相手は玉座についたまま、詰まらなそうに頬杖をつき呆れた溜息をついた。
「我は初めに告げた通り……かつてないほどの贅沢を味わせ、享楽の限りをもたらし…そしてこれ以上ない満足を与えてきた。───どれもこれもゴミ共には勿体ない程の幸福だ……!!!」
「……‼︎」
「それを与えたのは我だ………我はあ奴らに全てを与えてやった。奴らにとって我は即ち〝神〟に等しき存在となった」
深く深く、笑う。心底楽しそうに、誇らしそうに嗤う。
嘲っているわけではなく、本気でそれが人々が喜ぶ褒美だとでも思っているかのようだった。
「その〝神〟の為に死ねるのだ…………永遠に、我が偉大にして至高の欲を満たす道具となってな………!!! これ以上の名誉があろうものか」
「うわあああああァ!!!」
我慢の限界に達したエールが獣のような声を上げて暴れる。
だが、手足を負傷し頭を押さえつけられている今、もがく以外に何もできない。溢れた血が涙と混じって地面に流れ落ちていく。
「もののついでだ………お前が馬鹿にした〝王〟の力を見せてやろう」
悲痛なエールを、〝王〟はまるで狂人でも見るようにして、やがてにやりと笑みを浮かべる。
手にした石版、10の穴にはまった赤いコアメダル。
〝王〟はそのうちの1枚、中央にはまった鷹の意匠のコアメダルを取り外す。
「奪う事しかできぬだと? 浅はかな………我は全てを手に入れる男だぞ。今の我は────〝創造〟すら自在だ」
石版の中で、残る9枚のコアメダルがかたかたと揺れ始める。まるで生物のように……意思を持ったかのように。
すると次の瞬間、石版が激しい音を立てて砕け、9つの効果が宙に飛び上がった。
「さァ目覚めよ………強欲の力により生まれし怪人よ……!!! その力を以って…!!! 我が忠実なる下僕となるのだ!!!」
縦横無尽に宙を舞うコアメダルが、円陣の中央に舞い降りる。
赤い輝きはもう二度と動かない紅の巨鳥と鳥の怪物達に触れると、その巨体をみるみるうちに無数の鈍色の硬貨に変えていく。
じゃらじゃらと音を立てる無数の硬貨。それは徐々に動き、一つに固まっていき。
───やがて、一体の人影へと変化した。
「…………アンク?」
現れたのは、赤い異形だった。
孔雀の尾羽などの羽毛を模した衣服を纏う、鳥の顔の異形……奇しくも、今しがた消え去った〝空の王〟に似た貌の存在。
一瞬呆けたエールは、再びもがきながらソレに呼びかけた。
「アンク……‼ アンクゥ!!!」
少女の声に、赤い鳥の異形がぴくりと震える。
伏せていた目をゆっくりと上げ、響く声の方に向けた異形は、よく通る声で答えを返した。
「…誰だ、お前」
ぴたりと、エールの声が途切れる。
同時に、ウヴァに抵抗する力も消え去り、完全に沈黙してしまった。
「……メズール、これ、動かない」
「あらあら、遊ぶ前から壊れちゃったみたいね?」
動きを止めたエールをつんつんと突き、ガメルがつまらなそうに呟く。
黙り込んだ少女を見下ろし、カザリも落胆したように肩を落とした。
「なーんだ………もう抵抗しないんだ。つまんないな…もっと泣いたり叫んだり苦しんだりすればいいのに。ガッカリだ」
「フン……相変わらず趣味の悪い奴め」
「ふゥん………あれがキミの心の支えだったのかな? それが目の前で奪われちゃったと…………わァ、かわいそ」
その場にしゃがみ込み、項垂れたエールの顔を覗き込む。
光を失い、ただ呼吸するだけのただの肉の塊と化した少女を前に、猫の異形はつまらなそうに告げた。
「もういいや、これもうい〜〜〜らない」