ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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お久しぶりです。
ようやく書き切れたので投稿させていただきます。


第5章 アーロンパーク
第32話〝アーロンパーク〟


「うわあああああん…」

 

 広い広い海のど真ん中で、なぜか一人の男が号泣する声が響く。

 海上レストラン『バラティエ』の荒くれコックたちに見送られ、男泣きしながら出発した一行であったが。

 

「……なんであんたが泣くのよ、ヨサク」

「だっで感動じだんでやんず!!! あっぱれな別れっぷりでじだコックのアニギ…………!!!」

「お前、この進路ちゃんとあってんだろうな…」

 

 当のサンジはとっくに泣き止んでいるというのに、ほとんどバラティエにいなかったはずのヨサクが一番泣いているという謎の状況。

 チクチクと地道にフードを直すエレノアがジト目になってしまうのも仕方がなかった。

 

「あー早くナミ連れ戻して〝偉大なる航路(グランドライン)〟行きてーなー‼︎」

「やけに嬉しそうだな。ナミさんが帰って来てもまだ、たった6人だろ? 本当に6人で〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ行く気かよ」

「あの海をナメるなって、いつも言ってるんだけどねェ…」

「仲間集めなら〝偉大なる航路(グランドライン)〟でもできるさ! なんたって『楽園』だもんなー」

「『楽園』? 『海賊の墓場』だろ⁉︎」

 

 不思議そうな顔で尋ねるサンジに、ルフィは夢と期待に満ちた表情で答えてみせた。

 

「レストラン出る前にさ、オーナーのおっさんが教えてくれたんだ。〝偉大なる航路(グランドライン)〟を『楽園』と呼ぶ奴もいるんだと‼︎ しししし‼︎」

「…………クソジジイがそんなことをね……まァ、おれはナミさんとエレノアちゃんが一緒なら、たとえ三人だけでも…」

「甘すぎるっすアニキ達!!!」

 

 呑気に笑うルフィと、二人の美女と一緒に航海する光景を妄想して鼻の下を伸ばすサンジ。

 そんな二人に、ヨサクは鬼のような形相で待ったをかけた。

 

「だいたいアニキ達はエレノアの姉貴の言う通り〝偉大なる航路(グランドライン)〟を知らなさすぎる!!! 今回だってその辺の知識があれば、ゾロのアニキ達もあっしと一緒に引き返してきたはず!!! ナミの姉貴が向かった場所がどんなに恐ろしい奴のもとかってことくらい理解できたはずなんす!!!」

「メシにすっか」

「そうしよう?」

「そこになおれ!!!」

「なんかごめんねヨサク」

 

 せっかく忠告のつもりで話しているのに、全くのガン無視をかまして食事の用意を進めようとしている二人に、ヨサクは思いっきり怒鳴りつける。

 気を使ってくれるエレノアはともかく、この二人の認識はあまりにも酷すぎた。

 

「これから行く場所について、あんたがたも知っておかなきゃならねェ‼︎ そもそも〝偉大なる航路(グランドライン)〟が海賊の墓場と呼ばれるのは…」

「君臨する三大勢力…〝海軍本部〟〝七武海〟〝四皇〟のせい、でしょ?」

「その通りっす‼︎ わかってるのはあんただけっすよ!!!」

「そんな泣かなくても…」

「七ブカイ?」

 

 聞きなれない名称にルフィが首をかしげる。

 エレノアは苦虫を噛み潰したような顔で振り向き、深いため息をついてからこの海の()()を教えてやることにした。

 

「簡単に言えば、世界政府公認の七人の海賊達のこと。未開の地や海賊を略奪のカモとして、その収穫の何割かを政府に収めることで海賊行為を許された海賊達だよ」

「他の海賊達にいわせりゃ〝政府の狗〟に他なりやせんが、奴らは強い!!!」

「あの〝鷹の目〟だって七武海の一人だからね。正直この先で相対するのは避けたいよ」

 

 やれやれと言った様子で肩をすくめるエレノアだが、ルフィにとってはとんでもない真実であったらしい。パンパンとサンダルを鳴らして興奮しまくっていた。

 

「そりゃすげーっ‼︎ あんなのが7人もいんのかよ‼︎ 7ブカイってすげェ‼︎」

「…で? なんでナミの行き先に七武海が関連するわけ?」

 

 相変わらず海の知識に乏しい船長にジト目を向けながら、エレノアはヨサクに注目を戻した。

 ヨサクはやっとかというようにため息をつき、神妙な顔で身を乗り出した。

 

「問題はその七武海の中の一人、魚人海賊団の頭〝ジンベエ〟‼︎」

「魚人か! おれ、まだ会ったことねェよ!」

「魚人といやあ〝偉大なる航路(グランドライン)〟の魚人島は名スポットなんだろ? そりゃあ、もう世にも美しい人魚達がいるって話だぜ」

 

 別の注目でまた話が脱線しそうになり、エレノアはルフィとサンジをギロッと睨みつけた。しかしすぐに自分を落ち着かせ、ヨサクに話の続きを促した。

 

「〝海俠〟のジンベエ? あの人が何をしたっていうの?」

「ジンベエは〝七武海〟加盟と引きかえに、とんでもねェやつをこの東の海(イーストブルー)へ解き放っちまいやがった」

「こういうのかな」

「お前、そりゃキモい魚だよ」

「あんた達に集中力はねェのか‼︎」

「あいつらはもういいから、さっさと話進めてよ」

 

 さっきから全く関係ない話で盛り上がっている二人にヨサクがキレかけるが、半ば諦めたエレノアは放置を決めた。

 ヨサクもあまり込み入った話をしても仕方がないと思ったのか、同じようにため息をつくと続きを話した。

 

「ややこしい戦いの歴史はとっぱらいやす。今あっしらが向かっているのは〝アーロンパーク〟!!! かつて〝七武海〟の一人ジンベエと肩を並べた魚人の海賊〝アーロン〟の支配する土地です!!!」

「〝ノコギリ〟のアーロンか…個人の実力なら、首領クリークをしのぐだろうね。あんたがそこまでビビるのも仕方がないか」

 

 ヨサクが告げた海賊の名から以前見た手配書の賞金額を思い出し、エレノアは眉間にしわを寄せる。

 普通に考えれば、これまであってきた賞金首たちの額を大きく上回る魚人が相手なのだ、ヨサクが恐れるのも仕方がない。

 

「…………でもよ…、お前途中で引き返してきたんだろ? 何でナミさんがそこへ行くってわかるんだ? 同じ方角の別の場所かもしれねェだろ」

「あっしとジョニーに少し心当たりがありやしてね………‼︎ 進路踏まえてよォく今思い返してみると…‼︎ 確かに姉貴はアーロンの手配書ばかりじっと見てた。そしてアーロン一味が最近また暴れ出したってことをあっしらが口走った直後…」

「宝をもって船を出したと…確かに偶然にしてはできすぎてるね」

「きっと何らかの因縁が…」

 

 なかなか見えてこない真相に真剣な表情で悩むエレノアとヨサク。

 その横で、ルフィはさっき書いた魚人の絵を新しく描き直したものを見せていた。

 

「みろ‼︎ これは⁉︎」

「そりゃさっきの魚を立たせただけじゃねェか。しかしナミさん、その魚人に何の用なんだろうなァ。もしかして彼女は人魚だったりしてな! あのかわいさだもんなー」

「いや関係ないでしょ」

 

 タバコの煙をハートの形にして、デレデレしただらしのない顔を見せるサンジに、エレノアは冷たい目を向ける。どうしてさっきからこの男はこんなことしか考えられないのか。

 サンジのセリフを聞いたルフィは、戸惑った様子で自分の魚人の絵にオレンジ色の髪を付け足した。

 

「……え?」

「ブッコロスぞてめェ‼︎」

「あんたがたあっしの話ちゃんと理解したんですか⁉︎」

 

 ナミが変な化け物に変えられたことでキレるサンジに、流石に我慢の限界に達したヨサクが叫ぶ。

 そんな彼に、ルフィは相変わらずの笑顔を見せた。

 

「ああ、強い魚人がいるんだろ。わかったよ」

「いいえ、わかってやせんね‼︎ だいたい強さをわかってねェ‼︎」

「そんなもん着きゃあわかんだろうがよ」

「そうそう、心配しないでよヨサク」

「あっしの話した意味がねェっ!!!」

 

 せっかく真剣な話をしていたのに、警戒させることもできなかったヨサクは思わずがくりと膝をつく。

 その肩をエレノアがよしよしと優しく叩いてやっていた。

 

「とにかく飯にしようぜ。何が食いたい?」

「骨ついた肉のやつ!!!」

「あっしモヤシいため!!!」

「カルパッチョでも頼もうかな」

「よし‼︎ 任せろ‼︎」

 

 吹っ切れたのか一緒になって騒ぎ出したヨサクに苦笑しながら、エレノアもリクエストを出す。

 しばらくして香り出すいい匂いに、ルフィは実に幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「ん――いいよなー、コックがいると」

「おれはお前らなんかより、早くナミさんにお食事作ってさし上げてェよ。あ、エレノアちゃんもいっぱい食べてくれると嬉しいな‼︎」

「はいはい」

「あっし! モヤシ! 大盛りで!」

 

 さりげなく口説いてくるサンジを適当にあしらいながら、エレノアはヨサクが教えてくれた航路の先を見つめる。

 この先にいるのは、七武海の一人によって解き放たれたおそるべき海賊が支配する島。それを思うと、エレノアの眉間には深いシワがよるのだった。

 

「アーロンパーク…ねェ。こりゃあ〝偉大なる航路(グランドライン)〟に行く用事がもう一つ増えちゃったな」

 

 その呟きは他の仲間たちに届くことはなく、不穏な雰囲気を残したまま風に消えるのだった。

 

 

「ンッンーンーンンッンンー♪ そろそろ時間か‼ モーム!!! メシの時間だぞーっ!!!」

 

 口先が長く伸びた、六本の腕を持つタコの魚人が陽気に鼻歌を歌っている。

 その手には、こんがりと香ばしく焼けた大きな豚が丸々一匹刺さった棒を持っている。

 彼は自分の口を掴むと、まるでラッパのような軽快な音を鳴らして海の中にいるある怪物を呼び出そうとした。

 しかしいつまで経っても水面に影が現れることはなく、静かな時間だけが過ぎて行った。

 

「っっっっかシーな⁉ あのヤロー⁉ ブタの丸焼きはあいつの好物なのにな⁉ もうメシ済ましちまったのかな⁉ おれが食っちまうかな⁉ なァフカ爺いいかな⁉」

「ぐがー…」

 

 流石におかしいと思ったのか、訝しげな顔で首をかしげるタコの魚人は傍で仰向けになって眠りこけている魚人の老人に話しかける。

 しかし老人は大きないびきをかいたまま、反応することはなかった。

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