ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
みなさん本当にありがとうございます!!!
「お前、もういっぺん言って見ろ、ブッ飛ばしてやるからな!!!」
「やめろルフィ‼ ジョニーにゃ関係ねェだろ!!?」
「デタラメ言いやがって!!! ナミがウソップを殺すわけねェだろうが!!!! おれ達は仲間だぞ!!!!」
「信じたくなきゃそうすればいいさ…‼ でも、おれはこの目で……‼」
ナミがウソップを殺したというジョニーの言葉によって、一味の中でよくない波紋が広がってしまう。
誰もが狼狽し、戸惑い、罪もないジョニーにきつい言葉を浴びせかけてしまう。ルフィには珍しく、自分でもどうしようもないくらいに感情を持て余してしまっていた。
その時だった、最も聞きたい声が聞こえてきたのは。
「誰が仲間だって? ルフィ」
背後から聞こえてきた声に、ルフィたちは目を見開いて一斉に振り向く。
言葉を失い、立ち尽くすルフィたちの前で、冷たい表情を浮かべたナミが気だるげに肩をすくめていた。
「何しに来たの?」
「何言ってんだ! お前は俺の仲間だろ、迎えに来た‼」
「大迷惑。〝仲間〟⁉ 笑わせないで、くだらない助け合いの集まりでしょ?」
真剣な目でナミを見つめ、大きな声で告げるルフィに、ナミは冷たく吐き捨てるように返す。
不穏な空気が流れる中、サンジがナミの姿を見て満面の笑みを浮かべて手を振った。
「ナ‼ ナミさ~~ん♡ おれだよ、憶えてる⁉ 一緒に航海しようぜ‼」
「サンジ君、悪いんだけど今そのテンションやめて」
「えェ…」
「ひっこんでろ‼ 話がややこしくなんだろうが!!!」
「アンだとコラ、恋はいつでもハリケーンなんだよ‼」
エレノアの咎める視線にがっくりと肩を落とし、ゾロの非難に逆に食ってかかる。
全く関係のない因縁が燃え上がる中、ジョニーが我慢の限界とばかりに声をあげた。
「言ったでしょう⁉ この女は魔女なんす!!! 隠し財宝のある村を独り占めするために、アーロンに取り入って平気で人も殺しちまう‼ こいつは根っから性の腐った外道だったんすよ!!! 兄貴達はずっとダマされてたんだ!!! この女がウソップの兄貴を刺し殺す所をおれは、この目で見た!!!」
ナミを指差し、自分の見てきた悲劇と抱いた怒りをぶちまけるジョニー。
その必死な形相をつまらなそうに見やったナミは、やがてフッと冷笑を浮かべた。
「…だったらなに? 仕返しに私を殺してみる?」
「‼ ………なに!!?」
「一つ教えておくけど、今〝ロロノア・ゾロとその一味〟をアーロンは殺したがってる。ゾロがバカなマネをしたからね。いくら、あんた達の化物じみた強さでも、本物の〝化け物〟には敵わないわ」
アーロンの戦力を笠に着て、憤怒の形相に変わるジョニーを微塵も恐れないナミ。
これまで見せてきた笑顔の全てを否定するような冷酷な態度を見せる彼女に、ゾロは今にも殺しそうなほど殺気を迸らせて目を細めた。
「そんなこたァどうでもいい、ウソップはどこだ」
「海の底」
「てめェいい加減にしろ!!!」
「いい加減にすんのはてめェだクソ野郎‼」
思わず斬りかかろうとしたゾロの腕に、横から割って入ったサンジの蹴りが炸裂する。
サンジはそのままゾロの前に立ち、ナミをかばうように睨みつけた。
「剣士ってのァ、レディにも手をあげんのか? ロロノア・ゾロ」
「なんだと? 何の事情も知らねェてめェが出しゃばるな!!!」
「ハッ…屈辱の敗戦の後とあっちゃイラつきもするか」
「あァ!!?」
〝鷹の目〟との戦いのことを持ち出され、ゾロの目に剣呑な光が宿る。
相手に強者と認められたとはいえ、手傷さえも負わせられなかった屈辱を思い出させられ、ゾロは頬をヒクヒクと痙攣させた。
「……おい、口にァ気をつけろ。その首飛ばすぞ」
「やってみろ大怪我人が」
度重なる挑発に、ゾロの標的が目の前のぐるぐる眉毛のコックに変更される。
殺し合いでも始まりそうなほど緊張感が高まり、互いが得物を構えあってじりじりと力を溜め始めた。
「いい加減やめれ」
「!!?」
が、ぶつかり合う寸前で割って入ったエレノアにより脳天に一撃ずつ食らわされる羽目になった。
頭を抑えて悶絶する二人を見下ろし、エレノアは深いため息をついた。
「あんた達がはり合ってどうすんのよ……時間のムダよまったく」
「そういうこと‼ ケンカなら島の外でやってくれる? 他所者がこれ以上この土地のことに首つっこまないで!!!」
勝手に喧嘩を始める二人に嫌悪の混ざった目を向け、ナミは腰に手を当てて告げる。完全にルフィたちのことを邪魔者としか見ていないようだ。
「まだわかんないの⁉ 私があんた達に近づいたのはお金のため!!! 今の一文なしのあんた達なんかには何の魅力もないわ!!! 船なら返すから航海士見つけて、〝
まくしたてるように罵声を浴びせかけ、ナミはルフィたちを睨みつける。
徐々に彼らとの間に壁と距離ができていくのが見えるようで、エレノアは悲しげに眉をひそめることしかできずにいた。
「さようなら」
一応の挨拶といった風に告げ、ナミはルフィたちに背を向ける。
その宣告にルフィはしばらく黙りこくり、やがてゆっくりと体を傾がせ、ばたりと仰向けに倒れこんだ。
「ねる」
「寝るゥ!!? この事態に!!? こんな道の真ん中で!!?」
「島を出る気はねェし、この島で何が起きてんのかも興味ねェし…ちょっとねむいし、ねる」
「…勝手にしろ!!! 死んじまえ!!!」
馬鹿にしているとしか思えないルフィの態度に、ナミは激高したように叫び、足早にその場を離れていく。
その背を見つめていたエレノアは、彼女の姿が見えなくなる寸前で呼び止めた。
「ナミ!」
「…‼ なによ…」
もういい加減にしろ、とでも言いたげな視線を受けながら、エレノアは悲しげに目を細める。
その視線は、ナミの手の甲に巻かれた包帯に向けられていた。
「左手の傷、もういいの?」
「………!!!」
エレノアの指摘に、ナミは一瞬しまったというように目を見開くが、唇を噛んで視線をそらすとそのまま走り出していってしまう。
返事ももらえなかったエレノアは、呆れたようなため息をついて肩をすくめた。
「…頑固者め」
エレノアの心配するような態度に待ったをかけたのは、ヨサクとジョニーだった。
「あんた達おかしいぞ‼ あのイカレ女はあの通り‼ ウソップの兄貴も殺された!!! おれ達ァアーロンに狙われてるんだぜ⁉ 何の理由があって、ここに居すわるんだ‼ あっしもジョニーの言葉を信じる‼」
「短ェ付き添いだったが、おれ達の案内役はここまでだ。みすみすアーロンに殺されたくねェしな‼」
「おう」
「いろいろ世話になっちゃったね…」
流石にこれ以上は危険に付き合わせるわけにもいかないだろうと、ゾロもエレノアも快く彼らを見送る。
敬愛するゾロに対しては最低限の礼儀を尽くし、ヨサクとジョニーは深々と頭を下げてその場を後にした。
「じゃまた、いつか会う日まで!」
「達者でなー、兄貴達‼」
「お前らもな!」
「体に気を付けて!」
一人、二人と抜け、馴染みのない道の端に取り残されたルフィたち。
木の幹に背を預けて寝転がったゾロは、ブスっとした顔で虚空を眺める。そんな彼に、サンジが無遠慮に声をかけた。
「オイ」
「あァ⁉」
「ナミさんは本当にあの長っ鼻を殺してねェのか?」
「どうかね、おれが一度〝小物〟ってハッパかけちまったから、勢いで殺っちまったかもな」
「小物⁉」
ゾロの一言に、サンジの目がぎらりと剣呑に光を放つ。
嫌な予感がすると腰を浮かせたエレノアよりも早く、サンジは再びゾロに片足を振りかぶった。
「ナミさんの胸のどこが小物だ…ぶごはァ!!!」
「ぶごッ!!!」
「セクハラァ!!! …あ」
至極どうでもいい反論を持ち出したサンジの横っ面に、エレノアの怒りの回し蹴りが炸裂する。
しかしその瞬間、一つだけうめき声が多かったことに気づき、エレノアは思わず頬を引きつらせて言葉を失った。
サンジの顔とエレノアの足に挟まれるように、いつの間にか混ざっていたウソップが巻き込まれていたのだ。
「生きてたよ」
「いや、死んだぜこりゃ…」
「………ゴメン」
涙目で崩れ落ちるウソップに、エレノアはそう返すことしかできなかった。
「ウソップ――――――っ!!! お前これ、ナミにやられたのか!!?」
「…ゴメン、本当にごめんなさい」
目を覚ましたルフィは、ボロボロで倒れているウソップを目の当たりにして激しく狼狽する。
エレノアは珍しく、しゅんと落ち込んだままウソップに頭を下げるばかりであった。
「おおルフィ、お前来てたのか」
「ああ」
「あ、おれも来たぜ。よろしくな」
「てめェいつか殺すからな‼」
思ったよりも早く復活したウソップは、自分の怪我の間接的な原因がヘラヘラと会話に入ってきたことで怒りを燃やす。
だがすぐにそんな場合ではないと表情を変え、ルフィたちに向き直った。
「問題はナミだ。おれはあいつに命を救われた‼ どうやらあいつが魚人海賊団にいることにはワケがあるとおれは見てる!!!」
「やっぱりね…いろいろ納得いかないもの」
ナミが自分が殺したと言っていたのに、ピンピンしている様子のウソップにエレノアが安堵のため息をこぼす。
先ほどのナミの言葉にも、色々と矛盾が混ざっていたのだ。
「さっきあの子、わかりにくいけど言ってたもの……〝アーロンが探してるから逃げろ〟って」
「…そういうことか」
「ナミさんってば素直じゃないんだからもォ~♡」
本当にアーロンに殺させる気なら、居場所を知らせるなり何も教えないなりすればいいのに、彼女はそうしなかった。
危険を知らせたり忠告したりと、どう考えてもルフィたちを逃がそうとしているようにしか思えない。
しかしその意図がわからず、考え込むエレノアたちの元に近づくある一人の女性がいた。
「無駄だよ。あんた達が何をしようとアーロンの統制は動かない」
「! ノジコ」
腰に手を当ててそう告げる、左肩にタトゥーを彫った青い髪の美しい女性に、ウソップが反応を返した。
「だれだ?」
「ナミの姉ちゃんだ」
「ンナ‼ …ナ‼ ナミさんのお姉さま♡ さすがお奇麗だ~~~♡」
「無駄ってのはどういうことだ?」
約一名無駄にテンションを上げている男がいるが完全に無視し、ゾロがノジコと呼ばれた女性の発言の意味を尋ねる。
全員の注目を受けると、半端な覚悟で聞くのなら承知しないと言った風に、ノジコは厳しい目をルフィたちに向ける。
「お願いだからこれ以上この村に係わらないで。いきさつは全て話すから、大人しくこの島を出な」
ますますわけがわからないと、眉を寄せるゾロとエレノア。
しかし、事情を知っているらしいノジコに対して、彼は全く興味を示すことはなかった。
「おれはいい。あいつの過去になんか興味ねェ‼」
はっきりと言い切ったルフィは、そのままノジコに背を向けて気ままに歩き出してしまう。
あまりの態度に、エレノアも流石に厳しい声で呼び止めていた。
「ちょっとルフィ‼ どこ行くの⁉」
「散歩」
「オイこら…」
わざわざこんな島にまでやってきたというのに、事情も聞く気がないらしいルフィに訝しげな目を向けるノジコ。
エレノアたちは苦笑し、しょうがないと言った風に顔を合わせた。
「………あいつは?」
「気にしないで。ああいう人だから」
やれやれと肩をすくめるエレノアに、ノジコは戸惑ったように眉を寄せる。
どうしたらいいのかと迷っている彼女に、後頭部で腕を組んだゾロが不敵な笑みを浮かべた。
「話ならおれたちが聞く。聞いて何が変わるわけでもねェと思うがね」
「…うん、そうだね」
たまにはいい気遣いを見せるじゃないかと、ゾロに感心した目を向けるエレノアであったが、振り向いた時にはすでにゾロは大きないびきをかいていた。
「って寝てるし‼」
「言ったそばから寝てんじゃねェよ!!!」
有言を微塵も実行できていない彼に、ウソップとサンジとエレノアから非難が殺到するが、ゾロは全く起きる気配を見せない。
呆れる三人は呆然と立ち尽くすノジコに気づくと、やる気を見せるように背筋をピンと伸ばした。
「…………おれは聞くぜ‼ 理解してェ」
「おれも♡」
「一応聞いとこうかな」
ウソップは単純に恩人を心配して、サンジは綺麗なお姉さんの話を聞きたくて、エレノアは今後の方針を決める参考として、ノジコが話し始めるのを待った。
ルフィやゾロを含め、五者五様の反応を見せる一味に、ノジコは思わず困ったような笑みを浮かべていた。
「なるほど…ナミが手こずるわけだ…」
その態度に毒気を抜かれてしまったノジコは語り始める。
今のナミを形作った、辛く悲しい過去について。