ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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お待たせしました皆々様……ついに鋼の錬金術師側のメインキャラが登場の回です。


第6章 船出の時
第42話〝偉大な海から来た女〟


「うわちゃー…やばいよナミ。私の所持金が尽きそうだ」

 

 甲板の上に並べた貨幣を前に、エレノアが愕然とした表情を浮かべる。

 新聞売りのカモメ(ニュース・クー)から新聞を買ったナミは、そんな彼女に呆れた視線を送っていた。

 

「いや…あんた所持金が尽きそうって、いくらでも作れるでしょ」

「わかってないなァ。……一応説明すると、錬金術師にはある二つの暗黙のルールがあるんだよ」

 

 ガックリとうなだれながら貨幣を財布に入れ直したエレノアが、やれやれといった風に肩をすくめてナミに向き直り、人差し指を立てた。

 

「一つ〝金を造るべからず〟。あまりに多すぎる金を急に造っちゃえば物価が大きく変動して、札束がただの紙切れになることだってある。よっぽどのバカじゃなきゃそんなマネはしないんだよ」

「ふーん…難儀ねェ。もう一つは?」

「もう一つは〝人を創るべからず〟。人間が人間を作り出そうなんてのは神への冒涜だって、倫理的な理由でずっと禁じられてきたの」

「……それはなんかわかる気がする。そんな事が出来ちゃったら、もはやそいつの事を人間なんて思えないわ」

 

 凄まじい力を持つイメージのある錬金術師だが、思った以上に制約が強いらしい。

 しかしそういう事情があったにせよ、ナミにはエレノアがそこまでの素寒貧になる理由がわからなかった。

 

「そもそもあんた、いつそんなにお金使ってるのよ? 胃袋が無限のルフィじゃあるまいし」

「これだよこれ」

 

 困り顔で、エレノアは自分の義足をコンコンと叩く。

 もはや以前ほどの動きは見せられず、松葉杖なしでは移動も困難なほどの哀れな相棒の姿に、エレノアは深いため息をついた。

 

機械鎧(オートメイル)を維持するにはいろいろ物入りなんだよ。油も特殊だし、予備パーツも安くはないし、メンテナンスも欠かせないし………私の場合、中の武器の整備にも使うからさ、あっても足りなくなるばっかりさ」

「不便ねェ…」

「ナミ、次の島についたらお金貸してくれない? 一回全部専門の人に預けなくちゃいけないから、ちょっと困ってるんだよ」

「いいわよ? 利子つくけど」

「……他あたるわ」

「いいじゃねェか貸すぐらい。お前、もう金集めは済んだんだろ?」

「なに言ってるの、あの一件が済んだからこそ今度は私のために稼ぐのよ。ビンボー海賊なんてやだもん」

 

 何やらシートを引いて何かをいじくっていたウソップが口を挟むが、今や一味の財布の紐を担う彼女にしてみれば看過できない状況らしい。

 するとその時、どこからともなく吹き飛ばされてきたルフィがウソップと激突した。

 

「さわるなァ!!!」

「うわァ!!!」

「ぎいやあああああ!!!」

 

 ルフィはそのまま甲板を転がり、今まさに作っていたタバスコ星なる香辛料入りパチンコ玉を目に食らったウソップが盛大な悲鳴を上げる。

 原因たるサンジは、メリー号の一部に植えられたミカンの樹々の前で仁王立していた。

 

「ここはナミさんのみかん畑!!! このおれが指一本触れさせねェ。ナミさん‼ 恋の警備万全です‼」

「んっ! ありがとサンジくん♡」

「いいように使われちゃってまー…」

 

 ナミに色仕掛けされ、ベルメールの形見でもあるミカンの木の護衛役に抜擢されたサンジにエレノアは呆れた目を向ける。

 プライドもへったくれもない。

 

「…しかし、世の中もあれてるわ。ヴィラでまたクーデターか」

「あれま、昔は陽気な街なんて呼ばれてたのに……時代は変わるもんだねー」

 

 買ったばかりの新聞の記事に目をやるナミは、書かれている不穏な内容に眉を寄せる。

 すると、新聞と一緒に挟まれていたらしい二枚の紙がヒラヒラと落ちた。

 

「ん?」

 

 足元に落ちたそれに目を向けたナミは、一瞬固まってから大きく目を口を開く。

 ナミが見せる驚愕の表情に、気になった他の面々も顔を寄せていき。

 

「あ…」

「あ…」

「あ」

「ぐー……ん?」

「お」

「あ、やば」

 

 エレノアを除く全員の表情が、驚愕で固まった。

 

「「「「あああああ――――っ!!!」」」」

 

 こぼれ落ちたのは、二枚の手配書。

 一人は、東の海(イーストブルー)で暴れまわった名だたる海賊たちを討ち取ったことで名をあげた新星(ルーキー)

〝麦わら〟のルフィ、懸賞金3千万ベリー。

 前例のない最初の懸賞金額に対してもちろん驚きはある。

 しかし問題なのは、ともに落ちてきたもう一枚に書かれた名と懸賞金額であった。

 

妖術師(ウィザード)〟エレノア、懸賞金1億ベリー。

 

「い……1億ベリィ~~~~~!!!?」

 

 少なくとも東の海(イーストブルー)では聞いたことのない億越えの手配書に、ナミたちはルフィの手配書のことも忘れるほどに驚愕の悲鳴をあげていた。

 

「あちゃ~…やっぱりあのクズ大佐から伝わっちゃったかァ…ていうかこれ、絶対あのクズ大佐からの嫌がらせだよなァ」

 

 しまったと顔に手を当てるエレノアは、もうすでに支部に戻っているであろうネズミに憎々しい感情を抱く。

 もう1発ぐらい仕込んでおけば、このイライラを解消できたかもしれないのに。

 

「え…エレノアちゃんの首に、1億の賞金が……!!?」

「ど……どういうことよ!!?」

「…………!!!」

「どうって言われても…」

 

 聞き捨てならない情報に、ナミたちが一斉にエレノアに詰め寄る。

 困り顔で後ずさると、エレノアはその場でくるりと背を向け、翼を大きく左右に広げてみせた。

 

「こういうことだとしか」

 

 翼を通すために、背中が大きく開いた衣服をまとっているエレノアの白い背中。

 そこには華奢な肩甲骨から生える翼に挟まれるように、白い牙のようなひげをたくわえたマークが彫られていた。

 

「し…〝白ひげ〟のマーク……!!?」

 

 世界で最も恐れられているといっても過言ではない大海賊の証を目にし、一同はゴクリと息を飲む。

 只者ではないとは思っていたが、ここまでとは予想だにしていなかった。

 

「思い出した…‼︎〝妖術師(ウィザード)〟っつったら超有名な女海賊の名前じゃねェか‼︎ なんでそんな奴が東の海(イーストブルー)にいるんだよ!!?」

「リハビリ」

 

 エレノアの回答は単純明快であった。

 一瞬理解が遅れたウソップは、エレノアの義足と松葉杖を見てようやく落ち着きを取り戻していった。

 

「…………ああ、そうか」

「そりゃあ……その足じゃ〝偉大なる航路(グランドライン)〟の航海なんざ耐えられないわな」

「昔より体力落ちちゃってさー…一時期戦線離脱して、ある伝手からルフィのところで世話になってたんだよ」

 

 やれやれといった風に肩をすくめ、自由の効かない足を睨みつける。

 そもそもこんな状態でなければ、こんな騒ぎになることもなかっただろうが、自分で選んだ結果であるために我慢する他にない。

 

「だからって1億ベリーなんて…何したらそんな額が付くのよ!!? だいたい、なんでそんな大事なこと黙ってたのよ!!?」

 

 ややヒステリー気味にナミが詰め寄る。

 ルフィを超える賞金首であったことを隠されていて、少しばかりショックを受けているようだ。

 

「……だって」

 

 そんなナミに気まずげに目をそらし、エレノアはすぐそばにいるもう一人に視線を向ける。

 そこには、自分の手配所を凝視してわなわなと肩を震わせる青年の姿があった。

 

「ルフィが絶対わめきそうなんだもん」

「なんで船長(キャプテン)のおれよりおまえの方が懸賞金が高いんだよ!!? もの申すぞ3千万ベリー!!!」

「あー…」

「…いやあんたも最初の額にしては十分高いから」

 

 みっともないほどに声を張り上げるルフィの姿に、ナミたちの興奮が冷めていく。

 自分たち以上に取り乱している者の姿を見て落ち着きを取り戻したようだ。

 

「……考えてみりゃ、妥当かもしれねェな。世にも珍しい『天族』で不思議な『錬金術』の使い手、そのうえ名高き『白ひげ海賊団』の仲間(クルー)だ。海軍にとっちゃ、何しでかすかわからねェ女を放置するには危なすぎる逸材ってわけだ」

「そう考えてみると、1億ベリーでも安い気がしてきたわ」

「くっそー、絶対いつか超えてやるからな?」

「あーハイハイ…勝手にしてよ」

 

 恨めしげに睨みつけてくるルフィを適当にあしらい、エレノアは深いため息をつく。

 すると、別のやる気をみなぎらせていたルフィが、船の遠い前方に見える影に気づいた。

 

「おい、なんか島が見えるぞ?」

「見えたか……」

「ようやく、偉大なる航路(グランドライン)に近づいてきたね」

 

 ぞろぞろと興奮気味に集まってくるルフィたちの後ろで、エレノアが意味深な笑みを浮かべる。

 一同が今目指している場所。そこにある町こそ、東の海からへ渡る玄関口にして、この時代の始まりとなった場所であった。

 

「海賊王が死んだ町……‼」

「行く?」

 

 ルフィの答えは、もう決まっていた。

 

 

「ウ――ッ‼ でっけー町だー」

 

 大きく発展した、多くの人々で賑わう町の入り口でルフィが大声を上げる。

 かつて海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、処刑された町。終わりと始まりの町、それがここ『ローグタウン』である。

 

「ここから海賊時代は始まったのか」

「よし‼ おれは死刑台を見てくる‼」

「ここはいい食材が手に入りそうだ。あといい女♡」

「おれは装備集めに行くか」

「おれも買いてェモンがある」

「貸すわよ、利子3倍ね」

「気を付けてよ、骨の髄までしゃぶりつくされる前に」

「…おう」

 

 エレノアの忠告に、ゾロはわずかに頬を引きつらせる。

 ギラリと目を光らせるナミの言葉が、同にも冗談に聞こえなくなってきたようだ。

 ふと考えたエレノアは、武器屋に向かおうとしていたゾロの元に追いついた。

 

「あ、ゾロ。刀買いにいく前にちょっとつきあってよ。片足になっちゃったから戦いづらくってさ」

「ん? ああ、前に言ってたメンテナンスとかいうのか? この町でいいのか?」

「うん。ていうか、この町じゃなきゃダメなんだ」

 

 松葉杖をつきながら、笑みを浮かべているエレノアだったが、しばらくするとその表情に憂いを混ぜ始めた。

 

「……でも怒られるだろうなァ。前に来てから1年しかたってないもんなァ…憂うつ」

「あ? 海賊のお前が誰に怒られんだ?」

「うちの整備士に」

 

 ガックリとうなだれたエレノアは、困ったような顔でそう返した。

 

 

「これでよし」

 

 ある一軒の店先で、一人の小柄な老婆がスパナを置いた。

 義足の調整を受けた初老の男性は、目に見えるほどに調子のよくなった義足に笑みを浮かべた。

 

「おっ、いい感じです。さすがピナコ先生」

「どうだい。思いきって機械鎧(オートメイル)にしてみないかい?」

「はは…冗談でしょう?」

 

 煙管を燻らせる、ピナコと呼ばれた老婆の提案に、男性は苦笑いを返した。

 

「確かに便利かもしれませんが、手術後の痛みとリハビリが大変だというじゃありませんか」

「いい年して何をビビってんだい。右手と左足をいっぺんに機械鎧(オートメイル)にしたガキも、両足を取り換えた女もいるってのに」

「私にはそんな勇気はありませんよ。じゃあ」

 

 ズボンの下に義足を隠し、ややぎこちない足取りで去っていく男性に、ピナコは肩をすくめてため息をこぼす。

 彼女が店の中に戻ろうとした時、店先で寝そべっていた黒い犬が顔をあげて吠え始めた。

 

「ん? なんだい、デン」

 

 振り向いたピナコは、通りの向こう側からやってくる二人組の片割れを目にし、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「――おや、来たね」

 

 デンと言う名の、左前足が特製の義足となった飼い犬が駆け寄っていくのを見やり、ピナコは中にいるもう一人の家族に向けて声を張り上げた。

 

「上客が来たよ、ウィンリィ!」

 

 エレノアは朗らかな笑みを浮かべ、出迎えてくれたピナコに片手をあげて応えた。

 

「やっほー、ピナコさん。また頼むよ」

「フン…元気そうじゃないか、エレノア」




*技名について「イメージと違いすぎるのですが、別にオリジナルで良かったのでは?」と言う指摘をいただきました。
無論その通りなのですが、この連載を始める当初から主人公の技は「過去の英雄の武器・道具を錬金術で再現する」と言うコンセプトで考えていて、FGOの宝具は自分なりのイメージに合っていたんです。
詠唱に関しましてもご指摘を頂いた通り「ONE PIECEのイメージに合わない」と言う方がいらっしゃるのは確かです。
ですがいまの自分が一から詠唱を考えたところで、「FGOの技名をパクっただけのダサい名前」になってしまう可能性があったため、特に変えずに名前の響きやその場の状況によって描いています。
しかし、自分がFGOに対して理解が足りていないことは事実であり、今後よく調べ直した上で修正を加えていくつもりであります。
FGOをプレイしている読者の皆様にはご不快な思いを抱かせてしまうかもしれませんが、何卒ご理解ご了承の程をよろしくお願いいたします。

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