ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「デーン! ひっさしぶりだねェ~会いたかったぞォ~~♡」
一目散に出迎えてくれた黒い犬に抱きつき、エレノアは思う存分撫でまくる。
デンも久しぶりに会えた客人に思いっきり甘え、ベロベロと顔中を舐め回していた。
「コラコラ。あたしより先に犬に挨拶とは随分じゃないかい」
「にゃははは…ごめんごめん」
放ったらかしにされたピナコがニヤリと笑みを浮かべ、我に返ったエレノアは苦笑する。
かなり親しい仲に見える二人を見下ろし、ゾロは目を丸くした。
「こいつがお前の義足を作った奴か」
「ん? あァ違う違う。ピナコさんも
デンと戯れる手を止め、関係性を説明しようと顔を上げたエレノアだったが、不意にその耳がピクリと動いた。
「コラァ‼ エレノア‼」
「おっと!」
とっさに手を伸ばし、飛んできた金属製の棒状のものを受け止める。
寸前でスパナを受け止め、冷や汗を拭う仕草をするエレノアの元に、若い娘の怒鳴り声が響いてきた。
「メンテナンスに来る時は先に電伝虫使えって言ってあるでしょ――――!!!」
「ちょっとちょっとウィンリィ‼ あいさつ代わりにスパナ投げんのホントにやめてってば!!!」
ドスドスと荒々しい歩き方で店の奥から顔を出したのは、金の長い髪をポニーテールにした作業着の少女。
快活さと気の強さが表情に表れた、若々しさに溢れた彼女はエレノアと向き合うと、やがて満面の笑みを見せた。
「あはは! ひさしぶり‼」
変わらぬ親友の笑顔の出迎えに、エレノアも嬉しそうに笑い声を上げていた。
「んな――――――――!!?」
が、歓迎ムードはそれで終わりだった。
エレノアの義足の成れの果てを目の当たりにした少女ウィンリィは、まるで宝物を壊されたかのような悲壮な表情で固まってしまった。
「いやーごめんごめん。こんなんなっちゃった」
「あ…あああ、あんた⁉︎ 何がどうなったらあたしが丹精こめて作った最高傑作の超高級
「ちょっと魚人とバトっちゃって、ごめんね?」
「ぎょじっ……バカじゃないの!!?」
あまり悪びれる様子のないエレノアの前で、ウィンリィはよろよろと壁にもたれかかって頭を抱える。
流石にエレノアも多少は罪悪感を抱いていた。
「あーも―……あんたと言いエドと言い、あたしの顧客はなんで機械鎧を大事にしないやつらばっかりなのよォ…」
「あ、エド来たんだ。元気にしてた?」
「ええ、そりゃもう元気でしたよ…機械鎧がボロッボロになるぐらいにはね…」
長く顔を見せていなかった幼馴染のことを思い出し、ウィンリィは深いため息をつく。
思えばあいつらとこの子は似たところが多いな、と嘆きながら。
「………こんなガキが、あんな高性能な義足を作ったのか」
ベテランの風格を見せるピナコではなく、ウィンリィのような若い娘があれだけの代物を作ったのだと知ったゾロが思わず呟く。
すると、見知らぬ顔ぶれがいたことを思い出したピナコとウィンリィが視線を向けた。
「こちらは?」
「ロロノア・ゾロ。今世話になってる海賊一味の切り込み隊長さん」
「…悪くねェな、その呼び名」
「そうかい、あたしはピナコさ。んで、こっちは孫のウィンリィ」
「は、はじめまして」
「おう」
ピナコは海賊と紹介されたにもかかわらず堂々と、ウィンリィは少し緊張しながら挨拶を交わした。
普通ならそう歓迎されるものではないだろうが、エレノアに対する信頼の方が優っているのだろう。
「リハビリを1年で切り上げるとは、お前さんも思い切ったことをしたね。本来なら2、3年はかかるところだよ」
「船長が17歳で旅立つって決めてたらしくってさ。機会がその時しかなかったんだよ。…時々後悔するけど」
「それでまたこっちに転がり込んでちゃ世話ないわよまったく…」
困ったようにエレノアにぼやくと、二人の技師はエレノアの
といっても、その必要がないほどに悲惨な有様となっていたのだが。
「残った方もだいぶガタが来てるね。こりゃァ、まとめて交換しちまった方が早い」
「あんたはも~…あたしが丹精込めて作った機械鎧をこうもズタボロに……」
「でも武装と自爆機能は役に立ったよ?」
「ならばよし」
「おめェかよ!!! あんな危ねェ兵器取り付けたのは!!!」
海賊たちに使っていた銃器や刃、魚人の戦士に使っていた爆薬のことを思い出し、思わず声を上げるゾロ。
役に立ったのは確かだが、義足につけるような機能でないのは確かだった。
「んじゃ、一応身体検査だけしとこっか。どうせ自分で大きさかえられるだろうけど」
「まーね…じゃ、ゾロ君。あとでね?」
「おォ…」
メジャーを持ったウィンリィに促され、エレノアは松葉杖をつきながらその場を後にする。
残されたゾロが、工房のあちこちにおかれている
「………あの子は元気でやってるかい?
「海賊に手紙出せってのも無茶じゃねェのか?」
「はっ! そりゃそうだ‼」
ゾロの冷静なツッコミに、ピナコは豪快に笑って返す。
妙に肝の座った様子の老婆に呆れながら、ゾロはずっと気になっていたことを思い切って尋ねた。
「……あいつの両脚、何があってああなった?」
「あたしの口からは何とも言えないね…ただあの娘がここに転がり込んできた時には驚いたもんさ……〝
ピナコは作業机の席に着き、いくつかのコードや部品を取って組み立てていく。手慣れた様子でパーツが組み上がっていき、見覚えのある
「伝説上の存在とさえ言われる天族、そしてあの〝白ひげ〟の娘が何であんな姿になっちまったかはあたしもよくは知らない……だがあの子は今のあの姿を嘆いちゃいない。誇ってさえいる……あたしにできんのは、あの子が望む代わりの脚を作ってやることだけさ」
ふとピナコは手を止め、制作途中の部品を置いて肩を落とす。
ゾロはじっと、何か思い出している様子のピナコを見下ろしていた。
「あの脚が苦痛じゃなかったはずがない…あの海へ戻ると告げたときも、大人でさえ悲鳴を上げる
そしてまた作業を再開し、呆れているような、不安そうな複雑な表情を浮かべてため息をこぼした。
「そして、そこまで強いからこそどこかで何かの拍子にくじけてしまった時、立ち直れるだろうかと心配になる」
「………長い付き合いなのか?」
「あの子の弟弟子が、あたしの馴染みの酒飲み仲間の子供でね……その付き合いでそれなりの時間を一緒にメシを食ってきたんだ」
ちらりと向けられた先にあるのは、壁に貼られた無数の写真。
ピナコの若い頃の写真や、ウィンリィの幼い頃の写真、見知らぬ金髪の少年たちの写真、そしてエレノアがともに写っている写真を見て、ピナコはふっと笑みを浮かべた。
「まったく、三人そろって心配ばかりかけさせるんだから……」
苦笑するピナコを、ゾロは何も言わずに見つめる。
そうこうしているうちに、エレノアとウィンリィが戻ってきた。
「ばっちゃん! おわったよ」
「おォそうかい…それじゃ、ぼつぼつ始めようかね」
ある程度組み立てた部品を広げ、ピナコとウィンリィはエレノアの足元に陣取る。
調べた座高の高さをメモした紙を見ながら、ピナコはブツブツと呟いた。
「身長は変わらないから、お前さんの分は作るのは楽だね」
「いっつも気になってるんだけど……あんたどっちが本当の姿なわけ?」
「知らない。結構ポンポン姿変えるからわかんなくなっちゃった」
「ますますわけがわからん種族だ…」
あっけらかんといった感じに答えるエレノアに、ゾロは思わず険しい顔になる。
構わずピナコとウィンリィはエレノアの義足の分の作業工程を確認し始めた。
「既存の部品を組み立てて、微調整、接続、仕上げと…まァ半日もあれば十分か」
「急がせちゃって悪いね。連絡手段ないから急な訪問になっちゃったし」
「いいわよ、あんたなら仕方がないし。…どこぞのバカは連絡ならいつでもできるくせにしないし」
「あはは…」
ウィンリィの言うどこぞのバカのことを思い出したのか、エレノアは困ったように笑い声をこぼす。
いつかそのうち再会できるのだろうか、そんなことを考えていた。
「…おれは、もういいのか?」
「あ、うん。手間かけちゃってごめんね? 私はしばらくここにいるから、気にしないで」
「そうか、なら後で迎えに来るか?」
「ううん。足ができればあとは一人で十分だよ。……ってそうだった」
手持ち無沙汰になったゾロに礼を言い、エレノアはパタパタと手を振る。
ふと、思い出したように目を見張り、出て行こうとしたゾロを呼び止めた。
「ここの前の通りをずっと行ったところに刀を売ってるところがあるからそこにいくといいよ。店主さんケチだけど、刀を見る眼はいいから」
「そうか…わかった。助かる」
「じゃ、後でねー」
「おう」
今度こそ出ていくゾロの背中を見送り、エレノアは一仕事終えたように息をつく。
静かになった工房で、ウィンリィがためらいがちにエレノアの元に近寄っていった。
「エレノア…」
先ほどとは打って変わった不安げな声に、エレノアは訝しげに眉を寄せて振り向いた。
「…また、あの海に行くのね」
「うん。あの人たちのところに、一日でも早く追いつきたいからさ」
ウィンリィの問いに、エレノアはどこか誇らしげに答える。
それ以外に自分が選ぶ選択肢はないのだ、とでも言うような堂々とした態度に、ウィンリィは納得していないように見える。
「両足がこんなことになって………辛い目にしか会ってないのに、どうしてそこまでするの…?」
「あの場所でしか見えない景色があるからさ。…この体を突き動かす好奇心を、私は止められないし止めたくない。だから行くんだ」
「まったく…頑固なところはあいつと一緒か」
この場にいない、ずっと旅に行ったままの幼馴染達のことを思い出し、ウィンリィは困ったように肩をすくめ、やがて笑みを浮かべる。
命知らずのバカが手助けを求めているのなら、存分に付き合ってやるだけだ。
そんな思いを抱いているように見えた。
「それじゃ、冒険に耐えられる完璧な足を用意するから待ってなさい! あ⁉︎ でもあんたももうちょっと大事に使いなさいよね!!?」
「あー、はいはい。わかってるってば」
耳にタコができるほど聞かされた小言に顔をしかめ、それでもエレノアは笑顔になる。
心配や迷惑をかけてばかりの自分を、ここまで助けてくれる友達の貴重さを、改めて実感しながら。
「ありがとね、ウィンリィ」
「アンタたちの願いを支えるって決めたんだから…頑張りなさいよ?」
そう言って腕まくりをするウィンリィは、誰よりも頼もしく見えた。