ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第7章 再会の約束
第47話〝いざ、偉大なる海へ〟


「おい大変だエレノア!!! 光がとぎれた、やべェな‼〝導きの灯〟なのにな」

「当たり前でしょ。灯台の灯なんだから途切れもするっての‼」

「そのために航海士(わたし)がいるんでしょ? 大丈夫、方角くらい覚えてるから」

 

 船首にぶら下がって騒ぐルフィに、エレノアとナミが冷静に指摘する。

 しかしナミは〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海図に目を向けると、眉間にしわを寄せてしまった。

 

「…………しかしまいったな…………このまま進むと噂通り…‼」

 

 自分の考えが正しければ、このまま進めば大きな問題が待っている。

 ナミは一旦全員を船内に呼び、海図を広げてある一点を指差した。

 

「〝偉大なる航路(グランドライン)〟の入り口は、山よ」

「山⁉」

「そう! 海図を見てまさかとは思ってたんだけど、これ見て」

 

 ナミが指す場所には、頂上から四方向に川が流れ落ちている山が描かれていた。

 しかし航海術を何も知らない男性陣は、困惑気味に首を傾げるだけであった。

 

「〝導きの灯〟が差してたのは間違いなく、ここ〝赤い土の大陸(レッドライン)〟にあるリヴァースマウンテン」

「………まさかこの運河を上るっていうの?」

「だってそう描いてあんだもん」

 

 唯一彼女の言いたいことを理解したエレノアの訝しげな質問に、ナミが胸を張って答える。

 その態度に、ウソップがじとっと呆れたような視線を向けてきた。

 

「ってかエレノア。おまえ〝偉大なる航路(グランドライン)〟から来たんなら行き方知ってんじゃねェのかよ?」

「何でもかんでも答えを求めようとするんじゃないよ……っていうか、これに関しては私も知らないよ。なぜなら飛んできたから」

 

 どちらかといえばこの長鼻の青年は、前持って情報を得て安心感を持って挑みたいと考えているようで、エレノアはため息をついてきっぱりと答える。

 ゾロはゾロで、また別の疑問に首を傾げていた。

 

「大体なんでわざわざ〝入り口〟へ向かう必要があるんだ。南へ下ればどっからでもは入れるんじゃねェのか?」

「あ、それは無理だよ」

「そうだ‼ それは違うぞお前っ‼」

「そう、ちゃんとわけがあんのよ」

「入り口から入った方が気持ちいいだろうが!!!」

「「違うっ‼」」

 

 ずれた考えを持っている船長の頭を、エレノアとナミが同時に叩く。

 その時、嵐で転覆しないかと外の様子を伺っていたウソップが声をあげた。

 

「おい‼ あれっ⁉ 嵐が突然止んだぞ」

「本当だ、静かだ」

「……え…そんなまさか…嵐に乗って〝入り口〟まで行けるはずなのに…」

「お――っいい天気だ―っ‼ どういうこったこりゃー、はっはっはっはっはっは‼」

 

 予想だにしない不思議な現象に、一味はぞろぞろと甲板に出ながら辺りを見渡す。

 その中で唯一、エレノアだけが大きく目を見開いて硬直していた。

 

「ナミ‼ マズイよ‼〝凪の帯(カームベルト)〟に入っちゃった!!!」

「やっぱり!!!」

 

 状況を理解したナミは慌てて方角を確認し、エレノアは船内からオールを持ち出してくる。

 何が起きているのかわかっていない男性陣は、様子の変わった彼女たちに困惑気味に視線を集めるだけであった。

 

「カームベルト? なんだそりゃ」

「お、向こうはまだ嵐だ。こっちは風もねェのにな…」

「のん気なこと言ってないで早く帆をたたんで漕げ‼ 嵐の軌道に戻さないと!!!」

「何あわててんだよ。お前、漕ぐってこれ帆船だぞ?」

「何で、またわざわざ嵐の中へ」

「いいから言うこと聞け!!!」

 

 面倒臭そうに反論する男連中に、エレノアが我慢の限界とばかりに怒号を上げる。

 それでも動きの鈍い男どものために、エレノアはナミに代わって説明役に回った。

 

「ゾロ君…何で南に下りて行けないのか説明するとね。〝偉大なる航路(グランドライン)〟はさらに二つの海域にはさみ込まれて流れてるの。それが、この無風の海域〝凪の帯(カームベルト)〟‼」

「〝(カーム)〟ね…どうりで風がねェ。――で? それが一体…」

「要するにこの海は………」

 

 海賊たちがこの海域を最も恐れる最大の要因を教えようとした時だった。

 凄まじい轟音とともに、麦わらの一味の乗る船が大きく揺れたのだ。

 

「うわっ、何だ地震か⁉」

「バカ、ここは海だぞ」

 

 突然の事態に、船の上で棒立ちになってしまう一同。

 そして船の揺れが止まった瞬間、彼らは気づく。船の真下に見える、無数の巨大な水棲生物たちに。

 そしてメリー号が、その中で最も大きな生物の鼻先に乗っていることに。

 

「大型のね…海王類の巣なの」

 

 やや現実放棄気味の引き攣った笑みを浮かべ、エレノアがようやく答えた。

 先ほどまではしゃいでいた一味も、この展開には驚愕のあまり声も出せずにいる。

 海王類は鼻先に乗る海賊船には気づかず、きょろきょろと辺りを見渡すだけであった。

 

「い…いいな、とにかく…‼ こいつが海へ帰っていく瞬間に思いっきり漕ぐんだ‼」

「お…おう!!!」

 

 ようやく再起動を果たしたルフィたちが、エレノアの持ってきたオールを手に即座に動けるように構える。

 海王類たちはしばらくすると、何事もなかったかのように海中に戻っていく。

 すると、鼻先に異物が乗っていることが不快だったのか、残った一匹の海王類が体をフルフルと揺らし始めた。

 

「……ンニッ…‼ ッキシ!!!」

「「「「「「なにいいい~~~~~っ!!!?」」」」」」

 

 まさかのクシャミ、しかも小島ほど巨大な生物が大きく体を揺らしたことで、メリー号は空中へと投げ出されてしまった。

 全員が半泣きで船体にしがみつく中、クワッと目を見開いたエレノアが叫んだ。

 

「クソったれェ‼ ホントに退屈しないよこの旅はァ!!!」

 

 怒りのままにパンっと掌を合わせ、その身に風の鎧を纏う。

 みるみるうちに大きく強くなっていくそれを携え、エレノアは船体に掌をくっつけ、風を帯びたまま思いっきり押し出した。

 

有翼飛鞋(タラリア)〟!!!!

 

 自らが強力な暴風となり、エレノアはメリー号を元の海域に押し戻す。

 しかしいくら錬金術の力があるとはいえ、船一隻を動かすことは相当な負荷がかかっていた。

 

「うおおおおっ!!!」

 

 ミシミシと体がきしむのを感じながら、エレノアはメリー号に体を押し付ける。

 その決死の奮闘の甲斐あり、船はどうにか〝凪の帯(カームベルト)〟を抜け出すことに成功し、荒々しい暴風雨の中に戻ることができた。

 

「…よかった…ただの大嵐に戻った…」

「これでわかった? 入り口から入る訳」

「ああ…わかった…」

 

 窮地を脱した一味が、甲板の上にぐったりと倒れる。

 偉大なる航路に挑む直前でこんな事態に出くわすとは、幸先悪いとしか言いようがなかった。

 すると不意に、ナミがハッとした様子で体を起こした。

 

「とりあえずこれで行き方はわかったね…」

「そうね………やっぱり山を登るんだわ」

「まだ言ってんのかお前、そんなこと」

 

 ナミは急いで船室に戻り、海図をもう一度広げて全員に見せた。

 その指が示すのはやはり、帯状の大陸の真ん中にある巨大な山であった。

 

「海流よ。四つの海の大きな海流が全て、あの山に向かってるとしたら、四つの海流は運河をかけ登って頂上でぶつかり、〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ流れ出る!!! もう、この船はその海流に乗っちゃってるから、あとは舵次第」

「そう言えば聞いたことあったね…〝偉大なる航路(グランドライン)〟は入る前に半分死ぬって話。誤って運河に入りそこなえば船は大破――海の藻屑………つまり成功するか失敗するか確率は二分の一ってわけだ」

 

 普通に考えればあり得ない話だ。

 だが海図の正確さとナミの航海士としての勘が、この考えが正しいと告げている。

 するとルフィが、訳知り顔で目を光らせた。

 

「ははーん、要するに〝不思議山〟なんだな?」

「まあ、わかんないでしょうけど…」

「ナミさんエレノアちゃんすげーぜ♡」

 

 女性陣の言うことには基本的にイエスマンなサンジが賞賛の声をあげるが、ゾロは未だ訝しげに海を見つめていた。

 

「聞いたことねェよ、船で山越えなんて」

「そんなゾロ君に一つ、いいことを教えてあげよう…」

 

 年上の風格を漂わせながら、エレノアが人差し指を立てる。

 小悪魔的な笑みを浮かべた天使の娘は、あの海で生まれ生きてきた者としての経験を一つ言って聞かせた。

 

「あの海に最もふさわしくない言葉…それは『ありえない』って言葉だよ」

 

 妙な説得力を孕んだエレノアのセリフに、ゾロは思わず言葉を失って凝視する。

 すると、進行方向を見つめていたルフィが声をあげた。

 

「不思議山が見えたぞ!!!」

「待て、その後ろの影は何だ⁉ バカでけェ!!!」

 

 大興奮してはしゃぐルフィの横で、視界に映る赤い何かを見たウソップが目を凝らす。

 同じく視線を向けた一味は、大きく目を見開いて絶句した。

 船の向かう先に広がる、巨大な崖。はるか高くそびえ立つその大地は、彼らの行く先を阻むように存在していた。

 

「あれが…〝赤い土の大陸(レッドライン)〟か、雲でてっぺんが見えねェ!!!!」

「吸い込まれるぞ!!! 舵しっかり取れ!!!」

「まかせろォ!!!」

「すごい」

「ウソみてェだ…本当に海が、山を登ってやがる…」

 

 まるでたきが逆流しているような激流を前に、一味は慌ただしく動き出す。

 エレノアもまたロープをしっかりと押さえつけながら、船員たちに挑戦的な笑みを見せた。

 

「ようこそ野郎ども…!!! ここが地獄の一丁目にして、世界で一番偉大な海の入り口だァ!!!」

 

 海流の向かう先に、荘厳な作りの巨大な門の入り口が見える。

 伝説の海へと挑む冒険者たちを迎えるその入り口へと、メリー号は半ば引き摺り込まれながら突き進んでいった。

 

「ずれてるぞ。もう、ちょっと右!!! 右!!!」

「おもかじいっぱぁ~~~い!!!」

「おらァア~~~っ!!!」

 

 船内でウソップとサンジが、舵を思いっきり倒して方向を変えさせようと奮闘する。

 だが、力を入れすぎたのか、船の要である舵は根元からポッキリと折れてしまった。

 

「ぶつかる――――――っ!!!」

 

 突然の悲劇に、全員が悲壮な顔で凍りつく。

 しかし船が門柱に激突する寸前、帽子をゾロに投げ渡したルフィが飛び出した。

 

「〝ゴムゴムの……風船〟っ!!!」

 

 大きく息を吸い込み、巨大な風船となったルフィは船と柱の間に割って入り、クッションとなる。

 ゴムの弾力は強く、門柱に激突するところであったメリー号は強引に入り口の中へと入り込んだ。

 

「助かった!!!」

「ルフィ捕まれ!!!」

「ぬ!!!」

 

 ゾロがすかさず手を差し出し、腕を伸ばしたルフィがそれを掴む。

 ルフィが船に戻ってきた瞬間、一味は歓声をあげて最初の関門を突破したことを実感した。

 

「「「「「「入ったァ―――っ!!!」」」」」」

 

 激流は船を運び、山頂まで一気に流れていく。

 頂上を超え、船は一瞬浮遊するとそのまま、偉大なる海の元へ一気に斜面を流れ落ちていった。

 

「行け――っ!!!」

 

 あとはもう突き進むのみ、船首につかまったルフィが大はしゃぎする中、エレノアはただ命を拾ったことに安堵のため息をついていた。

 しかし、その時だった。

 

 ―――どこにいるの!!?

 

 凄まじい〝想い〟が、他人には聞こえない声となってエレノアの耳朶を叩く。

 顔をしかめたエレノアは、声の主を探して鋭い目をあたりに向けた。

 

「誰…⁉」

「おい何だ、何か聞こえたか?」

「知るか―――行け――――!!!」

「風の音じゃない? 変わった地形が多いのよ、きっと」

 

 聞こえたのは自分一人かと思っていたが、異なる音を他の者も聞いていたらしい。

 ますます困惑気味に視線を巡らせるエレノアに、再び同じ声が聞こえてきた。

 

 ―――いつになったら会えるの!!!?

 

 激流の音に負けない声にエレノアの眉間にシワが寄る中、一味の表情に動揺が走り始めた。

 船の進行方向状に、巨大な()()()が見えたからだ。

 

「オイ…何だありゃ…」

「ナミさん‼ 前方に山が見えるぜ‼」

「山? そんなハズないわよ! この先の〝双子岬〟を越えたら海だらけよ」

 

 一味が騒いでいる間にも、エレノアに耳には声ならぬ声が届き続けている。

 エレノアはその大きさもだが、声に含まれている苦しみや悲しみにも苦痛を感じてしまっていた。

 

 ―――ずっと待ったよ!!!

    だから…!!!

 

 前方を凝視していたルフィが、やがて驚愕をあらわにしながら大きく口を開けていく。

 激流の水飛沫や視界の狭さに邪魔され、相当近くまで近づいてようやくその正体に気づくことができた。

 

「山じゃねェ!!! クジラだァ!!!」

「アイランドクジラァ!!?」

 

 この場にいるはずのない超巨大なクジラを目の当たりにし、ルフィもエレノアも呆然となってしまっていた。

 彼らが立ち尽くしている間も、押さえつけられているエレノアの耳には、悲痛な声が届き続けていた。

 

 ―――みんなのところに行かせてよ!!!

「ブオオオオオオオ!!!!」

 

 天に、山に向かって吠え続けるそのクジラは、ただただそのことだけを願い続けていた。

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