ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「な、なんだあいつは……⁉」
「あのガキ……‼ って天族ぅ~~~~!!?」
突如海兵たちの前に現れた、巨大な翼をもつ少女に驚愕の声が続々と上がる。
特にヨキは、聞き覚えのある声に怒りが再燃しかけたところで、その相手が伝説の存在であったことを知って、これ以上ないほどに目を見開いていた。
「ば、バカな⁉ 天族が実在したというのか!!?」
「嘘だろ…⁉ 船乗りの守り神が何で海賊狩りを……⁉」
海兵たちにとっても、天族の存在は神聖的なものである。
海を守る彼らにとって、自分たちにとっても守り神であるはずの存在が敵の味方をするという事が信じられなかった。
そんな視線を丸ごと無視して、エレノアは磔になったままのゾロのもとに近寄った。
「よ。なんかうちの船長があんたを勧誘するって聞かないもんだからさ、どうしようかと思ってたんだけど…人を見る目はあるみたいだね」
「え、エレノアさん、その羽根…!」
「………‼ お前、あの野郎の……?」
「詳しい話はあとにしようか。……どうせもうすぐここに来るし」
得意げな顔で、エレノアがそう言った直後。
「ゴムゴムのォ~~~~ロケットォ!!!」
声と同時に、エレノアたちのすぐ近くに飛び込んでくる影が一つ。
盛大に砂埃を巻き上げて降り立ったそいつ…ルフィは、パンパンとズボンをはたきながら立ち上がり、へたり込んでいたコビーに手を上げた。
「よぉコビー。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよ!!! ほら、こんなに血が!!!」
「そんだけ叫べるなら大丈夫でしょ」
「…てめェら一体、何者なんだ」
どこからか走らないが、猛スピードで突っ込んできて平気な顔をして居るルフィと、伝説の天使の少女が和気あいあいと話し合っている様にゾロは呆然とする。
するとルフィは、恥ずかしげもなくこう言った。
「おれは、海賊王になる男だ!!!」
しばしそのセリフに目を見張っていたゾロだったが、ルフィが差し出した三本の刀を見て我に返った。
「あ、そうだゾロ。お前の宝物どれだ? わかんねぇから3本持ってきちゃった」
「三本ともおれのさ…俺は三刀流なんでね…」
満足げに不敵な笑みを浮かべるゾロを見て、エレノアは挑戦的な目を向けた。
その背後には、包囲網を組む数十人の海兵たちがいる。
「さてゾロ君。ここで私たちと一緒に海軍と戦えば、晴れて政府にたてつく悪党だ。このまま死ぬのとどっちがいい?」
「てめェ、天族のくせに悪魔みてェな奴だな…」
小悪魔的な眼差しに、ゾロはやや呆れたようにつぶやく。
だが、すぐにその挑戦を真っ向から受け止める不敵な笑みを浮かべる。
「まァいい…ここでくたばるくらいならなってやろうじゃねェか…、海賊に!!!」
「そう来なくっちゃね!」
勧誘が成ったことに満足し、エレノアはパチンと指を鳴らす。
そのままゾロの縄を解きにかかるエレノアを前にして、海兵たちは完全に引け腰になっていた。
無理もない、彼らは船乗りの守り神に引き金を引いてしまったのだ。
「た、大佐‼ あんなのが相手じゃ、我々にはどうにも…‼」
戦意を喪失しかけている海兵たちが、助けを求めてモーガンに視線を集める。
命令したのは彼なのだから、彼にこそこの状況を何とかしてほしい、そんな責任転換の意志が表れていた。
しかしこの男は、微塵も臆した様子はなかった。
「うろたえるんじゃねェ‼︎ 神だの天使だのが実在してたまるか!!! 確かにありゃ、ただの人間じゃねェ…噂に聞く、あの『悪魔の実シリーズ』の何かを食いやがったに違いねェ」
「…あの海の秘宝を!!?」
「まさか…じゃあ今の能力は悪魔の…!!!」
自分が最も偉いと信じ、神をも恐れない彼にとって、先ほど銃弾を弾いたのも何かしらのトリックがあるのだと考える。
根拠のない憶測だったが、それだけ悪魔の実の力という説得力は大きく、海兵たちに活力が戻り始めた。
「
「「「「お…うおおおおお‼」」」」
いまだためらう海兵はいるものの、命令を受けた海兵たちは一斉に剣を抜いて突進を開始する。
もはやヤケクソな勢いだったが、追い詰められた人間の勢いと力はすさまじいものであった。
「早くほどけ早く!」
「せかすなよ。この結び目固くってよォ」
「わー‼︎ きてますきてますって!!!」
迫りくる海兵たちにゾロとコビーは焦る。
ルフィはなぜかのんびり縄をほどきにかかっているが、動けないゾロや戦えないコビーには危機が刻々と迫ってきている。
段取りの悪い船長と友達を見て、エレノアは深いため息をつき、パチンと両手のひらを打ち合わせた。
「おれに逆らう奴ァ全員死刑だァ!!!」
モーガンの盛大な宣言とともに、海兵たちの刃が一斉に振り下ろされる。
だが、響いたのは肉が裂けて血が噴き出す音ではなく、無数の金属同士がぶつかり合う甲高い音。
パラパラとちぎれ落ちた縄を踏み、解放された男が船長の前に刃を携えて立ちふさがる。
両手に一本ずつ、口に一本の刀を構え、数人の海兵の刃をたった一人で受け止めたゾロが、そのままの体制で海兵たちを睨みつけた。
「てめェらじっとしてろ。動くと斬るぜ」
「ひい…‼ ……!!!」
凄まじい殺気を放つ男の目に、海兵たちは恐怖で顔を真っ青にする。
ルフィは目を輝かせ、コビーは安堵のせいか気絶するように倒れこみ、エレノアは感嘆の口笛を吹く。
するとゾロは、ルフィの方をぎろりと睨みつけた。
「海賊にはなってやるよ…約束だ‼ だが、いいか‼ 俺には野望がある!!! 世界一の剣豪になることだ!!! こうなったらもう名前の浄不浄もいってられねェ‼ 悪名だろうが何だろうが、俺の名を世界中に轟かせてやる!!! 誘ったのはてめェだ‼ 野望を断念するようなことがあったら、その時は腹切っておれにわびろ!!!」
「いいねえ世界一の剣豪‼ 海賊王の仲間なら、それくらいなってもらわないとおれが困る!!!」
「ケッ、言うね」
壮大な野望に壮大な野望で返され、ゾロは獰猛な笑みを返した。
目的は違えども、ともに野望をかなえるために同じ船に乗る仲間が一人、ここに集った瞬間だった。
新たな仲間の誕生に、エレノアは満足げに笑う。
「なにボサッとしてやがる!!! とっととそいつらを始末しろ!!!」
動かない部下を怒鳴りつけるモーガンの声に、ルフィとエレノアはキッと視線を鋭くする。
「しゃがめ、ゾロ‼ 〝ゴムゴムの…鞭〟!!!!」
「死にたくなけりゃとっとと下がりな…!〝
ちょうどよくゾロの周りで集まった海兵に、そして銃を構えたまま待機している海兵たちに、ルフィとエレノアは標的を定める。
ルフィの足が回し蹴りの勢いで勢い良く伸び、強烈な鞭の一撃をお見舞いする。
そして両手を合わせたエレノアの周囲で空気が凝縮し、数条の風の矢となって銃を持った海兵たちの腕に突き刺さった。
「…!!!」
バタバタと倒れていく部下に、モーガンの怒りがさらに募っていく。
「や…やった‼ すごいっ!!!」
「てめェらは一体…‼」
コビーは称賛するが、人外の技を見せつけられたゾロは瞠目する。
それに対して二人は、自信満々に言ってのけた。
「ゴム人間と」
「錬金術師だ!!!」
あっけにとられているのは海兵たちもだった。
もう一人が能力者だったことも驚きだが、何もない空間からなにか武器のようなものを作り出したエレノアの姿を見て、全員の表情が恐怖と後悔に彩られていく。
「あ、あいつも悪魔の実の能力者だったのか…⁉」
「ていうかやっぱりあの天族本物じゃないか!!?」
「た…大佐‼ あいつら…‼ 我々の手にはおえません‼」
「ムチャクチャだ‼ あんな奴ら…‼」
「それに…、ロロノア・ゾロと戦えるわけがない…‼」
次々に弱音を吐き、後ずさっていく海兵たち。
彼らにモーガンは、平坦な声で言い放った。
「大佐命令だ。今…、弱音を吐いた奴ァ…頭撃って自害しろ」
「!!!」
「このおれの部下に、弱卒は要らん!!! 命令だ!!!」
「……‼」
あまりにも理不尽な命令に言葉を失う海兵たちだが、次第に全員が銃を掲げ、自分のこめかみに銃口を当てていく。
ただモーガンが強いからではない、恐怖が体の奥底に染みこんでしまっているために、逆らうことができないのだ。
(わ、私は言ってない‼ 言ったのは他のやつだ…‼ し、死にたくない…‼)
ただ一人ヨキだけが内心で言い訳を吐いているが、内心で無理かもしれないと思ったために、自分も粛清対象に入っているのではないかという恐怖心を抱いていた。
「どうかしてるぜ、この軍隊は……‼」
徹底した恐怖政治に、ゾロが思わず嘆息する。
だがその時、じっとそれを見ていたエレノアが大きく息を吸いこみ始めた。
「おいぼんくらどもォ!!! 耳の穴かっぽじってよく聞きなさい!!!」
腹の底まで響いてくるほどの怒号に、海兵たちはビクゥッと肩を震わせて、引き金を引こうとしていた指を硬直させた。
情けない顔をさらしている海兵たちに、エレノアは心底軽蔑した目を向け、怒鳴りつけた。
「尻尾ふって生きながらえるだけがあんたたちの生き方なの⁉ あんたたちにとってこいつがどんだけ怖いかは知らないけど、
思わぬ相手からの説教に、海兵たちの顔に戸惑いと迷いが生まれる。
その声は、敵に対する怒りの感情などではなく、まるで母親が子供を叱るときに向ける慈愛のようなものを感じたのだ。
「てめェの意志を、いっぺんでも通してみろよ!!!
「…!!!」
悲痛な顔を浮かべていた海兵たちの目に、小さくも確かな火が灯る。
なにか、大切なものを思い出したかのような、そんな熱い炎が。
「な、なんなんだあいつは…⁉」
崇高な意思も、正義感もなく、ただ権力が欲しくて中尉の座を手に入れた男であるヨキは、その光景が理解できなくて戸惑うほかにない。
そんな彼に、エレノアはギン、と鋭い目で睨みつけた。
「あんた、散々あの男の下で甘い汁すすってたんだろ…?」
「!!!」
標的にされたことに気づいたヨキはぶわっと脂汗を吹き出させ、一歩を踏み出したエレノアに恐怖に満ちた表情を見せた。
エレノアは唯一、この男だけは許すつもりはなかった。
強いものに媚びへつらうもそれを恥とせず、むしろ同調して力のない人々を踏みにじり、子供まで手をかけようとした性根の腐った野郎。
この男がいてもいなくても、この島は腐っていただろう。
だが、それでもエレノアには、この男を許すつもりはなかった。
ほかならぬ島の人々の声を、その耳で聞いたのだから。
「五体満足でいられると思うなよ!!!」
「ヒッ……お、お前たち‼︎ 私を守れェ‼︎」
完全に腰を抜かしたヨキが、自分の屈強な部下たちを盾にする。
ためらいながらも、上司の命令を忠実に守ろうと、海兵たちが再びエレノアに斬りかかる。
「身分も低い、称号もねェやつらは…‼ このおれに逆らう権利すらない事を覚えておけ、おれは海軍大佐〝斧手〟のモーガンだ!!!」
「おれはルフィ! よろしくっ」
モーガンの相手は、ルフィが務めるらしい。
横目でそれを見たエレノアは、必死にその光景を見届けようとしているコビーの姿に気が付いた。
「ルフィさん‼︎ エレノアさん‼︎ こんな海軍つぶしちゃえ!!!」
声援を受け、エレノアはぐっとサムズアップで答える。
「うおおおおおこの化け物がァ!!!」
「こんなナマクラで、私を止められるわけないでしょ‼︎」
気合の咆哮とともに振り下ろされた新品の剣が、エレノアが振るった翼によって真っ二つに両断された。
再び使い物にならなくなった自分の剣と、金属の輝きを放つエレノアの翼、そして、エレノアの両手のひらの間で渦巻く炎を目の当たりにし、海兵達は腰を抜かす。
そして、エレノアの次の標的が自分であることに気づいたヨキは、涙を流しながら後ずさった。
「仕置の時間だ…………歯ぁ食い縛りなァ!!!」
ごうごうと唸りを上げていた炎が徐々に形を成し、一本の長い槍へと変わる。
空気を焼く炎の槍を構えたエレノアが紡ぐ乱雑な祝詞が、ヨキの魂魄に恐怖を刻み込んだ。
「〝
「ぎゃあああああああああ!!!!」
伝説の天使が操る炎の槍が全力で投擲され、ヨキの胸に突き刺さる。
直後、込められた力が爆発し、欲深な罪びとの体は真っ赤な炎に包まれたのだった。
2022 5/4 今話から技の詠唱を消していきます。