ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第52話〝賞金稼ぎの巣〟

 湧き上がる歓声、あこがれと期待に満ちた眼差し、風に乗って舞い降りてくる花吹雪。

 予想だにしない盛大な歓迎を受け、誰もが言葉を忘れてしまっていた。

 

「おお?」

「何だ化け物どころか歓迎されてるぞおれ達」

「どうなってんだ……⁉」

 

 当然ルフィたちは困惑し、しかし向けられる好意的な感情に喜色を浮かべ始める。

 キラキラと輝く子供の笑顔や、麗しき娘たちの黄色い歓声に、サンジやウソップは目を輝かせた。

 

「か…かわいい娘も、いっぱいいるぜ…‼」

「感激だァ!!! …やっぱ海賊ってのはみんなのヒーローなんじゃねェのか!!?」

「うおおお――――――い!!!」

 

 何が何だかわからないとはいえ、歓迎されて機嫌を悪くする輩はそういない。

 盛大な歓声に迎えられるまま岸に船をつけた一味は、整列した民衆の前に進み出た大柄な男と向かい合った。

 

「いら˝っ……‼ ゴホン、マーマーマーマーマ~~♪ いらっしゃい、私の名はイガラッポイ。驚かれたことでしょうが、ここは酒造と音楽の盛んな町ウィスキーピーク。もてなしは我が町の誇りなのです」

 

 長い髪をいくつもの筒状に丸めた、奇抜な髪形の男性、イガラッポイに紹介を受け、ルフィたちは思わず警戒を解く。

 すでに敵意はないと判断したのか、そういう事なのかと納得した様子さえ見せていた。

 

「自慢の酒なら海のようにたくさんございます。あなた方のここまでの冒険の話を肴に宴の席を設けさせては頂けま˝ぜ、ゴホン、マーマーマ~♪ 頂けませんか……‼」

「喜んで~~っ!!!」

 

 町の雰囲気に呑まれ、騒ぎ始めるルフィたちに呆れた視線を送るエレノア。

 

「ねェ、ところでこの島の『記録(ログ)』はどれくらいでたまるの?」

「ログ? そんな堅苦しい話はさておき、旅のつかれを癒してください‼」

「わ」

「さァみんな宴の準備を‼ 冒険者達にもてなしの歌を‼」

 

 あれよあれよという内に、イガラッポイ達に町の中へと連れ込まれてしまう麦わらの一味。

 記録指針(ログポース)の期間についての質問もはぐらかされたナミと視線を合わせれば、やはり彼女もすでに疑っている様子。

 エレノアは小さくため息をつくと、やがてにやりと黒い笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、前夜祭といきましょうかね……」

「宴だァ!!!」

 

 すでに宴を楽しむ気でいるルフィに呆れながら、エレノアはこれから起こる別の〝宴〟に思いを馳せる。

 はたして罠にかかったのはどちらなのか。

 沈みゆく夕陽には、真相を目の当たりにすることはできそうになかった。

 

 

「そこで、おれはクールに、こう言ったんだ。『海王類どもめ、おれの仲間達に手を出すな‼』」

 

 しゃっくりをこぼしながら、ビシッと指を突き出した鼻の長い青年に向かって、娘たちの黄色い歓声が響いた。

 

「すてき――っ♡ (キャプテン)・ウソップ‼」

「まァ、あの〝凪の帯(カームベルト)大脱走〟に関しちゃあ、さすがのおれも少々震えたね…〝武者震い〟ってやつだ」

 

 酒場の一席を占領したウソップが、ジョッキを片手に持つと娘たちの前で胸を張る。

 その堂々とした態度は、海王類たちを前にガタガタと震えていたことなどつゆほども感じさせなかった。

 

「うっぷ‼」

「まいった」

「どあ――っすごいぞ10人抜きだァ!!!」

「おりゃ――っ‼」

「やっほ――ゥ!!!」

「うあ――っこっちの姉ちゃん達は12人抜き!!! 何という酒豪たちだァ!!!」

 

 また別の席では、町の酒豪たちを相手にゾロとナミとエレノアが住人達と呑み比べ対決に励んでいる。

 あたりには空の瓶やジョッキが転がっていて、すでにいくつもの熾烈な戦いが繰り広げられていたことが伺えた。

 

「おかわり―――――ィ!!!」

「もーかんにん」

「うげ――こっちで船長さんがメシ20人前を完食‼ コックが倒れたー!!!」

 

 その隣の席では、腹を風船のようにぱんぱんに膨らませたルフィが、空の皿をもって催促する。相変わらずの底なしの胃袋である。

 

「うおおっ‼ こっちのにーちゃんは‼ 20人の娘を一斉にクドこうとしてるぞォ‼ 何なんだこの一味はァ!!!」

 

 そのさらに隣の席では、両手どころか背中にも数人の麗しき女性たちを侍らせたサンジがだらしのない笑みを浮かべている。

 一味は歓迎ムードでいっぱいの酒場で、存分に宴を楽しんでいた。

 

「はっはっはっはっ、いや実にゆガ…ガ、ゴホン‼ マーマーマ~~♪ 愉快な夜だ…‼ 皆さんも楽しんでいただけている様で何よりです」

 

 イガラッポイが朗らかな笑顔を見せながら話すが、みんな酒盛りやら料理やらに夢中になっていて一切注意を向けていない。

 

「いやホント、何よりで…………」

 

 ただ一人、歓迎の町の町長は騒ぎはしゃぎ続ける若者たちを前に、静かに笑みを浮かべ続けるのだった。

 

 

 ウィスキーピークに、静かな夜が訪れる。

 客人たちの笑い声ももう聞こえてはこない。酒豪のゾロたちもとうとう潰れ、ルフィも胃袋に限界を感じ、サンジやウソップは美女たちの膝の上で心地よい眠りに落ちていた。

 

「騒ぎつかれて…眠ったか…よい夢を…冒険者達よ…」

 

 月光を背にそびえたつ巨大なサボテンの形の岩を眺め、イガラッポイが小さくつぶやく。

 その表情から、客人に向けられていた笑みは完全に消えていた。

 

「今宵も………月光に踊るサボテン岩が美しい…」

「詩人だねェ、Mr.8………‼」

 

 一人佇むイガラッポイの背後から、複数の声と足音が聞こえてくる。

 

「君達か…」

 

 現れたのは、一足先にウィスキーピークへとたどり着き、仲間へと得物の情報を伝えていたMr.9とミス・ウェンズデー。そしてナミと飲み比べをしていたシスター、またの名をミス・マンデー。

 

「奴らは?」

「堕ちたよ……地獄へな…」

「ああ神よ、…ウップ。よく飲むよく食う奴らだわ。こっちは泡立ち麦茶で競ってたってのに…‼」

 

 先ほどとは打って変わって、冷たい表情を見せるイガラッポイ改め、Mr.8。

 彼らこそウィスキーピークを拠点にし、やってきた海賊達をカモにする賞金稼ぎ達。酒と音楽で迎え、相手を油断させてから捕らえるという手法で、これまで稼ぎ続けてきた者達であった。

 ルフィたちも例外ではなく、全員の身ぐるみをはいだ後に賞金首は捕え、後の者達は始末する算段であった。

 

「しかしわざわざ〝歓迎〟をする必要があったのかねェ。あんな弱そうなたった6人のガキにだよ……⁉ 港でたたんじまえばよかったんだ。ただでさえこの町は今、食糧に困ってんだからね。…どうせクジラの肉も期待してなかったし」

「そういう言い方ってないじゃないのよ‼」

「そうだぞ、我々だって頑張ったんだ‼」

「まーまー落ち着け。とりあえずこれを見ろ。奴らについてはちゃんと調べておいた」

 

 まんまと騙された連中に落胆の様子を見せるミス・マンデーたちに、Mr.8はある2枚の手配書を見せる。

 そこに描かれていた顔写真と賞金額に、一同は驚愕をあらわにした。

 

「な…何ィ!!? い…1億と!!?」

「3千万(ベリー)!!?」

「海賊どもの力量を見かけで判断しようとはおろかだな、ミス・バン"…ベ、マ~~マ~~~♪ ミス・マンデー」

「………あいつらが…‼」

「め…面目ない……」

 

 咎めるような視線に、ミス・マンデーたちは素直に非を認めて頭を下げる。

 欲に駆られて真正面からぶつかっていれば、ただでは済まなかったのだと理解したようだ。

 

「……だがまァ……もう片はついている。社長(ボス)にもいい報告ができそうだ…。さっそく船にある金品を全て押収、奴らを縛り上げ…」

 

 さっそくイガラッポイが、貴重な食糧を消費して罠にはめた賞金首(カモ)たちを収穫しようとした時だった。

 

「…なァ悪ィんだが、あいつら寝かしといてやってくれるか。昼間の航海でみんな疲れてんだ……」

「昼間サボってた分、こういう時にこそしっかり頑張っておかないとねーゾロくん…」

 

 唐突に聞こえてきた男女の声に、Mr.8達はぎょっと目を見開いて振り向く。

 ルフィたちの眠りこけている酒場の屋根の上で、刀を抜いた男と翼を広げた女の姿を目の当たりにし、まさかという表情で固まってしまった。

 

「ミ…Mr.8‼ ミス・マンデー‼ いつの間にか二人、部屋から逃げ出して…」

「貴様ら…‼ 完全に酔い潰れたはずじゃ……!!!」

「剣士たるもの、いかなる時も酒に呑まれる様なバカはやらねェモンさ」

 

 どやどやと集まってくる賞金稼ぎ達に不敵な笑みを見せながら、ゾロは馬鹿にしたように告げる。

 その隣でエレノアは、若干呆れたような目を賞金稼ぎ達に向けていた。

 

「つまりこういうことだろ…? ここは〝賞金稼ぎ〟の巣、意気揚々と〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入ってきた海賊達を出鼻からカモろうってわけだ…‼」

「けっこうそれ…この先の海じゃ使い古された手なんだよねェ…」

 

 後頭部で腕を組み、つまらなそうに身体を傾ける天族の娘の言葉に、賞金稼ぎ達は悔し気に歯を食いしばる。

 しかしその表情も、二人が口にしたセリフで一瞬で驚愕のものに変化した。

 

「「相手になるぜ、〝バロックワークス〟」」

「!!!? き…貴様らなぜ我が社の名を…!!!?」

 

 社の規則である〝秘密〟。それがさっそく侵されていることに動揺の声が広がり、焦燥じみた冷や汗が噴き出していく。

 そんな彼らを、ゾロはさも滑稽そうに見下ろしていた。

 

「昔おれも似た様なことやってた時に、お前らの会社からスカウトされたことがある。当然ケったけどな」

 

 面白いように慌てている賞金稼ぎ達を見下ろし、ゾロはくつくつと笑い声をこぼす。

 船に乗りこんだMr.9とミス・ウェンズデーの名を聞いた時点で、ゾロはその正体に気づいていた。そしてわざわざ正面から叩き潰すために、今の今まで泳がせていたのだ。

 

「………‼ こりゃ驚いた…‼ 我々の秘密を知っているのなら消すしかあるまい…また一つ…いや二つ、サボテン岩に墓標が増える…!!!」

 

 何も知らないカモを狩り続けていた彼らが、初めて経験する罠にかかるという展開に、静かに怒りを燃やすMr.8とその配下たち。

 雲で陰っていた月が再び顔を出した瞬間が、開戦の合図であった。

 

「殺せっ!!!!」

 

 Mr.8のの命令で、一斉に銃を構える賞金稼ぎ達。

 しかしその時には、ゾロとエレノアの姿は屋根の上から消え失せていて、どこにも見当たらなかった。

 

「いないっ…!!! どこへ消えた!!?」

「ここで~す」

 

 慌ててあたりを見渡す賞金稼ぎ達のもとに、気の抜けた声が届く。

 ハッと気づいた時には、賞金稼ぎ達の中に交じった二人が暢気に視線を交わしているのが見えた。

 

「…オシ」

「戦りますか?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、チャキリと各々の武器を構えるゾロとエレノア。

 見下され、侮られているのだと察した賞金稼ぎ達は、怒りのままにエレノアたちに銃口を向けなおした。

 

「…野郎ナメやがって!!!」

「撃て!!!」

 

 暢気に突っ立ったままの格好の標的に、全方向から銃弾が襲い掛かる。

 しかし、囲んだ状態で飛び道具で攻撃するのは愚行中の愚行、再び姿を消した二人にかすりもせず、賞金稼ぎ達は互いに銃弾を受ける羽目になった。

 

「バカどもが…………!!!」

「また消えたぞ‼ 速いっ!!!」

「さっさと殺せ‼ たかが剣士一匹と小娘一匹…」

 

 不甲斐ない部下たちに眉間にしわを寄せるMr.8だが、その顔の真横にスッと刃が突き出される。

 気づけばいつの間にか背後に回ったゾロが、不敵な笑みとともにMr.8の髪に刀を差し入れて佇んでいた。

 

「聞くが、増やす墓標は一つでいいのか………?」

 

 少しでもズレれば、一瞬で首から上が胴体から離れるかもしれない恐怖に固まるMr.8。

 微塵も動く事が出来ないMr.8に気づいた賞金稼ぎ達が、再び銃口をゾロに向けた。

 

「いたぞ、そこかァ!!!」

「バ…バカよせ‼ おれごと撃つ気か、やめろ!!!」

 

 このままでは自分も死ぬと慌てたMr.8が怒鳴ると、引き金にかけられた賞金稼ぎ達の指が止まる。

 その隙にMr.8は、なぜかどこからともなくサックスフォンを取り出し、思いっきり吹き鳴らした。

 

「〝イガラッパ〟!!!!」

 

 吹き鳴らされたサックスフォンから無数の弾丸が飛び出し、周囲に飛び散って食らいついていく。

 仲間のはずの賞金稼ぎ達も犠牲になるが、その中にゾロとエレノアの姿はなかった。

 

「おっかないなァ…あのサックス」

 

 物陰に隠れ、いったん出直したエレノアが機械鎧(オートメイル)をトントンと踏み鳴らしながら呟く。

 しかし言葉とは裏腹に、その表情はわくわくと期待と興奮に輝いていた。

 

「さァ…新しく生まれ変わった私の相棒の力、ぞんぶんに試させてもらおうかね…‼」

 

 親友の手によって新調された、自らの攻撃の要たる義足が、月光を反射して武骨ながらも美しい輝きを放った。

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