ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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さて皆様、お待たせいたしました。
ついに()()の登場です。


第53話〝ウィスキーピークの稼ぎ頭〟

「照準よし、力場安定、発射用意完了……‼︎」

 

 シャキン、と展開した爪先の刃を携え、エレノアは再び賞金稼ぎ達のいる方に躍り出る。

 賞金稼ぎ達はすぐさま気づき、銃口や武器を向けてくるがそれよりも早く、エレノアの刃が目にも留まらぬ速さで突き出された。

 

魔竜殲剣(グラム)〟!!!

 

 無数の刺突をくらい、空中に縫いとめられる賞金稼ぎ達。

 最後に繰り出された鋭い一撃により、格好の的となった賞金稼ぎ達は一斉に吹っ飛ばされ、血反吐を吐いて家々に突っ込んでいった。

 

「ぎゃあああ!!!」

「ほんっとに軽いね、この子…」

 

 バタバタと倒れ伏していく賞金稼ぎ達に目を向けることもなく、エレノアは新たな機械鎧(オートメイル)の予想以上の性能の高さに嘆息する。

 そして感心しながらも、次々に襲い掛かってくる男たちをひらりひらりと躱し、軽々と屋根の上に飛び乗り、翻弄し続けていた。

 しかしそのうち、不安定な足場に追い込まれ囲まれてしまう。調子に乗って、周囲の確認をおろそかにしてしまったようだ。

 

「今だァ!!!」

「囲んで袋にしちまえェ!!!」

 

 ここでならさっきのような回避はできまいと、賞金稼ぎ達が馬鹿の一つ覚えのように殺到してくる。

 エレノアは呆れたため息をつき、パンッと手のひらを打ち合わせた。

 

「的が多いと、絞る必要がないから楽だね」

 

 重ねた手のひらの間で急激な気圧の変化が生じ、それによって凄まじい勢いの風が収束し弓の形を作っていく。

 それを夜空に向かって構え、光と風でできた矢をつがえると、エレノアはそれを真上に向かって撃ち放った。

 

「〝雷霆神矢(ヴィジャヤ・ヴァジュラ)〟!!!」

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 撃ち上げられた矢は、空中で無数に分裂して周囲に降り注いでいく。

 まるで夜空の星が全てやとなって降ってくるかのような幻想的な光景が生み出され、賞金稼ぎ達はその無数の光に貫かれていった。

 ぼとぼとと落下していく賞金稼ぎ達を見て、Mr.8達は冷や汗を流して凍り付いていた。

 

「………‼ やはりさすがは1億の賞金首………‼ そう簡単には首を取らせはせんか…‼」

「というかこいつが本当の船長なら納得がいくぞ…‼ あの手配書は海軍のミスだな…⁉」

「なるほど…だったらそのつもりで戦わなきゃね………そうよね、あんなニヤケた奴が3千万なんておかしいと思った…‼」

 

 まともに時間稼ぎにもならないほどの力量差に、Mr.8達は警戒をさらに上げる。

 なぜか船長であるルフィが勘違いされていて、格下に思われてしまうルフィの人徳のなさにため息がこぼれた。

 

(……なんか知らないけど、うちのアホ船長がディスられてる…)

 

 否定したいが、正直事実を知らなければエレノアも同じ感想を抱いていたので黙っておくことにする。というか単純に説明するのが面倒くさかった。

 

「〝イガラッパ〟!!!」

「よっ」

 

 渋い顔で立ち尽くすエレノアに向けて、Mr.8の散弾銃が襲い掛かる。

 余裕の表情でそれを躱していると、Mr.9とミス・ウェンズデーのペアが動いた。

 

「いくぞ、ミス・ウェンズデー!!!」

「ええ、Mr.9!!! 来なさいカル―――っ!!!」

「クエーッ!!!」

 

 先行するMr.9に続き、ミス・ウェンズデーが指笛を吹き、何かを呼び寄せる。

 それに答えたのは、凄まじい跳躍で屋根の上に飛び出した、ダチョウと見間違えそうなほどに大きなカルガモだった。

 

「〝お手〟じゃなくてここへ来なさい!!!」

 

 なぜか屋根の端で手を差し出すカルガモに怒鳴り、ミス・ウェンズデーが自分から駆け寄っていく。

 いまいち何がしたいのかわからない残念な美女に、エレノアはつい半目で立ち尽くしてしまった。

 

「あれは放っておこう…」

「ハッハッハッハッハ‼ 余所見をしていてもいいのか? この、おれのアクロバットについて来れ…」

「あーうっとうしい」

「をオ!!!!」

 

 金属バットを両手で持ち、妙に派手な動きで向かってきたMr.9を、エレノアは容赦なく蹴り飛ばし、屋根の上から蹴り落す。

 だんだん敵の扱いが雑になり始めていた。

 

「あああああ!!!」

「はい、おしまい」

 

 悲鳴も破壊音も聞こえないふりをし、深く深くため息をつく。

 だんだんこの賞金稼ぎ達の相手をすること自体が、恥ずかしく思えてきていた。

 

「もっとマシな奴いないのォ…?」

「マシな奴!!! それは私っ!!! 覚悟しなさい、Ms.エンジェル!!!」

 

 肩を落とすエレノアに、先ほどのカルガモの背の上に立ったミス・ウェンズデーが叫ぶ。

 うんざりした様子で振り向いたエレノアに、ミス・ウェンズデーは自分の衣服、いくつもの円が重なった模様をぐるぐると回しながら見せ始めた。

 

「さァ…私の体をじっと見…」

「スキだらけっだっつーの」

「きゃああああ!!!」

 

 何かしらの幻惑でも見せようとしていたのだろうが、そんなもの見なければ何の意味もないだろうとエレノアは容赦なく刃の蹴りを放つ。

 ミス・ウェンズデーが涙を浮かべてのけぞっている間に、エレノアは懐から宴でとっておいた肉をひと切れ摘み出した。

 

「ほれ、ごはんだぞー」

「クエッ!!!」

「なに釣られてんのよカルー!!!」

 

 鼻先にぶら下げられた食べ物に、カルガモは涎を垂らして身を乗り出す。

 主人に制されても止まる様子はなく、右に左に揺さぶられる肉をじっと凝視し続けていた。

 

「ほ~らほ~ら………とってこーい」

「クエーッ!!!」

「いやあああああ!!!」

 

 頃合いを見計らったエレノアが、ポイっと適当な方向に肉を放り投げる。

 完全に釣られたカルガモは、背中にミス・ウェンズデーを乗せたまま肉を追いかけ、そのまま屋根の上から悲鳴とともに落下していってしまった。

 

「〝イガラッパ〟!!!」

 

 ぽりぽりと頭をかいて立ち尽くしていたエレノアを、再びMr.8の散弾銃が狙う。

 いち早く察したエレノアが屋根から飛び降り、それを躱すと、Mr.8は忌々しそうに舌打ちして顔を歪めた。

 

「ちょこまかと…‼ 私の真の恐ろしさ、よく噛みしめろ」

「あの散弾銃(ショットガン)ちょっと厄介だな…どう攻略するべきか」

 

 避けるのはたやすいが、接近するのは難しいとさすがに攻めあぐねるエレノア。

 すると、すぐそばの瓦礫の下から血まみれになったMr.9が勢いよく顔を出した。

 

「どゥあアア~~‼ よくも非道い目にあわせてくれたモンだ……‼ 許すまァじ!!!」

「知らないよそんなの」

「〝カッ飛ばせ仕込みバット〟!!!」

 

 呆れた様子で棒立ちになっているエレノアの右脚に、Mr.9が突き出した金属バットの先端が絡みつく。

 からめとられた義足によって、エレノアの動きがかなり制限されてしまった。

 

「ハッハッハッハ脚一本封じたぜ!!! 今だ‼ やっちまえMr.8っ!!! ハッハッハッハッ逃がさねェぞ!!!」

「その通り‼ 下手に動くとあなたの大切な仲間の命まで奪うことになるわよ」

「ハッハッハッハいいぞ、ミス・ウェンズデー‼ これで貴様は逃げられもせず‼ 攻撃もできねェというわけだ!!!」

 

 さらに視線を向ければ、さっき落下していったミス・ウェンズデーが、眠りこけているルフィののど元に刃をつきつけているのが見える。

 命の危機にあるというのに暢気に鼻提灯を膨らませているルフィを見て、エレノアのこめかみに血管が浮き立った。

 

「…あいつ後でボコる」

「砲撃用~意!!!」

「はァ!!?」

 

 静かに怒りを燃やすエレノアに顔を向け、Mr.8がネクタイを引っ張る。

 すると筒状に丸められた髪の間から砲身が覗き、エレノアに照準が定められた。

 

「〝イガラッパッパ〟!!!!」

「オモチャかあんたは!!!」

 

 六問の大砲が火を噴く寸前に、エレノアはその場から大きく飛翔して直撃を防ぐ。左右に動くことはできずとも、上に逃れる事ならば可能であった。

 驚愕に大きく口を開けて固まる賞金稼ぎ達の前で、エレノアはもう一度パンッと手のひらを打ち合わせた。

 

「〝祭火神雨(パーシュパタ)〟!!!!」

 

 エレノアの右手の平の上で、青い光と風が眩い渦を巻く。

 見る見るうちに輝きを増していくそれを、エレノアは弓矢の形に変えて、Mr.8達の目前に向けて撃ち放つ。

 すると一気に風と光が炸裂し、凄まじい衝撃があたりのものを吹き飛ばしていく。まるで爆弾が至近距離で爆発したかのような威力に、彼らの意識は一瞬にして刈り取られてしまった。

 

「一丁上がりィ‼」

 

 誰一人動くものがいなくなった中、満足げな笑みを浮かべたエレノアが静かに降り立つ。

 月光を背に一人天を舞うその姿は、実に幻想的であった。

 

 

 どこかから聞こえてくる轟音が、ある一軒のボロ家のベッドの上にいた男の眠りを覚ました。

 申し訳程度にかけられた毛布を蹴飛ばし、涎を垂らしていた彼は、不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、気だるげに体を起こした。

 

「…………んァ? 何だ、外がずいぶん騒がしいな…」

 

 バリバリと金色の髪をかきむしると、その頂点でピンッと一房アンテナのように立ち上がる。

 あくびをこぼす彼に、ボロ家の外から入ってきた大柄な人影が説明した。

 

「昼間に来た海賊が暴れてるらしいよ、兄さん…なんかもうほとんどやられちゃってるんだって」

「かーっ‼ なっさけねェなァ‼『おれ達だけで十分だ』なんて大口叩いといてザマァねェぜ‼」

 

 ベッドの上で胡坐をかき、話にあった同僚たちの不甲斐なさを嘆いて、完全に馬鹿にしたように吠える。

 やれやれと言った様子で肩をすくめていた彼は、やがて面倒くさそうに腰を上げると、壁に掛けてあった赤い外套を掴んで歩き始めた。

 

「しょうがねェ。ちょいと暴れてやるか」

 

 口ではそんな風に言いながらも、彼の表情は獲物を待ちわびた狩人のように、確かな興奮を滲ませていた。

 

 

「ぎゃああああああああ!!!」

「ミ……ミス・マンデー!!!?」

 

 女性にしては大柄な体躯を持つミス・マンデーが、顔面を一人の剣士に掴まれて悲鳴を上げる。

 額から血を流したゾロは、獰猛な獣のような笑みを浮かべながら、さっきこの女性から受けた一撃のお返しとばかりにさらに力を強めた。

 

「どうした力自慢。力比べが望みじゃねェのか?」

「あ…ああ‼」

 

 ミス・マンデーはまともに返答することもままならず、どうにかゾロの手を外させようともがき続けるも、さしたる効果を見せられないでいた。

 周りにいた賞金稼ぎ達は、自分たちの上司にあたる女性が手も足も出せずにいる光景に戦慄の表情を浮かべ、腰を抜かしかけていた。

 

「うわああ‼ ミス・マンデーが力で敗けたァ!!!」

「あり得ねェ!!! ウソだァ!!!」

「続けようか〝バロックワークス〟。ケンカは洒落じゃねェんだぜ?」

 

 口元を流れ落ちる自身の血をなめ、ゾロは挑発的に彼らに告げる。

 明らかに馬鹿にされているとわかっていても、挑もうと思う恐れ知らずはこの場にいなかった。

 しかししばらくすると、何かに気づいた様子の彼らはその表情を一変させ始めた。

 

「………!!! は…ははははは!!! 調子に乗っていられるのも今のうちだ!!!」

「あ?」

 

 急に態度を変え、ドサッとミス・マンデーを打ち捨てたゾロを挑発し始める賞金稼ぎ達。

 訝し気に眉を寄せたゾロは、次の瞬間背後に感じた殺気にゾクリと震えを走らせた。

 

「うォお!!?」

 

 とっさの判断で、ゾロがその場から跳躍すれば、さっきまで彼が立っていた場所に巨大な拳が突き立てられた。

 凄まじい轟音とともに、地面にミス・マンデー以上の亀裂を走らせたその影、分厚く大きな鎧を纏ったその人物は、辺りを見渡して呆れた様子を見せた。

 

「うわァ…ホントにみんなノされちゃってるよ。頼りないなァホント……」

 

 見るからにいかつい鎧の大男は、見た目に似合わない幼い子供の声で、あちこちに転がっている賞金稼ぎ達を見やる。

 鎧の大男は兜の奥の目を光らせると、周囲の惨状の原因であるゾロをじろりと睨みつけた。

 

「とりあえずお兄さん。恨みはないけど捕まってくれないかな? ボクらにも生活があるんだ」

「やっちまえェ‼ Mr.10!!!」

「ウィスキーピーク一番の稼ぎ頭ァ!!!」

 

 鎧の大男が告げると、たちまち勢いを取り戻していく賞金稼ぎ達に呆れつつも、ゾロは萎えかけた注意を引き戻し、再び構えた。

 

「……ようやく、主力の登場ってところか」

 

 にやりと笑みを見せ、ゾロは和道一文字を咥え、残りの二本を両手で持つ。

 全力の状態である三刀流の構えをとったゾロに対して、鎧の大男は右足を一歩引いて身体を斜めにする拳法の構えをとった。

 

「バロックワークス稼ぎ頭Mr.10。〝海賊狩り〟のゾロ………相手にとって不足はないですよ!」

「面白ェ。他の奴ら相手じゃちと不完全燃焼気味だったんだ…お前が相手なら楽しめそうだ」

 

 相手が確かな実力の持ち主であることを察し、ゾロは自身の闘気を高めていく。

 ピリッとゾロと鎧の大男の纏う空気が張り詰め、かすかな風の音だけが響く静寂があたりを支配し始めた。

 

 ちなみに、両者が睨み合っている間に、他の賞金稼ぎ達はこれ幸いとスタコラサッサとその場から逃げ出していたのだった。

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