ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
カルガモのカルーの背に乗り、ミス・ウェンズデー、改めネフェルタリ・ビビは闇の中を急ぐ。
背後から迫る、裏切り者を始末するために遣わされたペアをまくために。
「見つかった………‼ 急いでカルー‼ サボテン岩の裏に船が泊めてあるわ‼」
「クエーッ!!!」
「キャハハハッ‼」
「無駄なあがきだ」
必死なビビたちを嘲笑うように、バロックワークスから派遣されたエージェント、Mr.5とミス・バレンタインは嘲笑うように追いかけていく。
その時、ビビたちの向かう先に、丸太を担いだ見覚えのある大柄な人影が割り込んだ。
「ミス・マンデー‼」
「行きな! ここを抜けたら船に乗れる」
思わず立ち止まったビビに、ミス・マンデーは背後に親指を向けて先へ行くように促す。
戸惑うビビに、ミス・マンデーは彼女を庇うように立ち、Mr.5ペアを見据えた。
「あたしは、ここであいつらを食い止める」
「だけど…」
「あの怪力剣士と魔術女のお陰で、どのみちあたし達は任務失敗のバツを受ける。どうせなら、友達の盾になってブチのめされたいもんだ……‼」
事情は知らないが、ビビが何かしらの想いを背負っていることを察していた。
ビビのペア、Mr.9もビビを逃がすために犠牲となったことで、ビビはためらうように歯を食いしばった。
「行きな!!!」
「ありがとう‼」
ミスマンデーはそんな彼女の背中を押し、自らが盾となって丸太を構える。
Mr.5はそれを、安い三文芝居でも見せられているかのような苛立たしげな表情で眺めていた。
「Mr.9に続きお前もか、ミス・マンデー」
「キャハハ、茶番ね」
Mr.5に賛同するように、ミス・バレンタインも大きな嘲笑の声を上げる。
雄叫びとともに丸太を振りかぶるミス・マンデーの前で、Mr.5は自分の服の袖をまくり上げ、大きく振りかぶった。
「この…バロックワークスの、恥さらしがァ!!!!」
Mr.5の腕がミス・マンデーに触れた瞬間、ミス・マンデーの上半身が一瞬で爆炎に包まれた。
凄まじい爆発に、ビビはカルーの背に乗ったまま大きく目を見開くも、悔し気に顔をしかめて逃走を続けた。
「おれは全身を起爆することのできる爆弾人間。この〝ボムボムの実〟の
倒れたミス・マンデーを蹴りどかしたMr.5は、なぜか自分の鼻の穴に指を突っ込み、中にたまっていたものをほじくり丸め始める。
それを親指の先に乗せ、中指を丸めるとビビに向けて構えてみせた。
「おれ達からは決して逃げられねェ。〝
Mr.5の指が、丸めた鼻くそをビビに向かって弾き飛ばす。
悪魔の実の力によって小さな爆弾となったはなくそが、急速な勢いでビビに迫った、その時だった。
突如ビビの背後で地面が盛り上がり、壁となってはなくその爆発を受け止めたのだ。
「ふぃ~~~~っ!!! 間一髪だったぜ!!!」
「まにあってよかった!!!」
自分への攻撃が防がれたことで、驚愕で立ち止まったビビの前に、二つの影が割って入る。
小柄な金の髪の青年・エドワードと鎧の大男・アルフォンスが、汗をぬぐうようなしぐさをしながらビビを守るように立ちはだかった。
「ミ…
「どうしてもこうしてもあるかよ!」
「ボク達はもともと、あなたを助けるためにここにいるんですから!!!」
「え…どういうこと…⁉ それに………あなたは一体…?」
ウィスキーピークでたびたび顔を合わせていた鎧の大男だけでなく、初めて見る青年に救われたことで、ビビはより困惑した様子を見せる。
一方でMr.5は、突然現れた二人組を忌々し気に眉間にしわを寄せて見つめていた。
「…そうか、組織の中に裏切り者がいるという報告はあったが、それが貴様らのことだったとは」
「それにMr.10、あなたが本当は二人組だったとはね。その無駄に大きな鎧がいい隠れ蓑になっていたワケね?」
「んん? それで、なぜアラバスタの王女をかばう」
「いろいろ事情があるんだよ」
律儀に答えることなく、エドワードは手の甲から刃を生やしながら身構える。
Mr.5もこの場で問いただすことに価値を感じず、青年と鎧の大男をただの障害として扱うことを決めた。
「まァ…いいさ。いずれにしろおれ達の敵だろ、邪魔だな」
「キャハハ、そうね邪魔ね。だったら私の能力で…地面の下にうずめてあげるわ」
鼻くそを準備し始めるMr.5と帽子を外したバレンタインの宣告に、エドワードとアルフォンス、そしてビビに緊張が走る。
「いくぞ、アル。5番以上の相手だ…気ィ引き締めろ」
「うん…!」
「手ェ貸そうか? 錬金術師」
そんな二人に、すぐ近くの屋根の上から聞いた声が届けられる。
振り向いた青年は、先ほどまで敵対していた緑髪の剣士が、どこか苦虫を噛み潰したような表情で近づいてくる姿を捉えた。
「お前…⁉」
「海賊狩りのゾロさん⁉」
「畜生っ、なんて、しつこい奴。こんな時にっ!!!」
「早まるな。助けに来たんだ」
さらに警戒を強める二人に、ゾロは眉間にしわを寄せて制止をかける。
困惑で目を見開く三人に、ゾロは刀を構えると青年たちと同じ方向を睨みつけた。
「かなり不本意だが…おれもあいつらと事を構えねェといけなくなっちまった。安心しろ。エレノアの奴にはあとでとりなしてやる」
「「ああ、それは正直ものすごく助かる」」
ゾロの最後の言葉に、途端に態度を変えたエドワードとアルフォンスは視線をMr.5とミス・バレンタインに戻す。
エレノアにあのまま追いかけ回されるのは、ゾロと敵対するよりも相当恐ろしかったらしい。
「いずれにしろおれ達の敵だろ、邪魔だな」
一人が加わったところで、Mr.5の態度に変わりはない。能力に相当な自負があるのか、ゾロたちをさしたる障害とさえ認識していないようだった。
不安げなビビが見守る中、三人と二人が激突を目前に緊張を高める、そんな時だった。
「ゾロ~~~~~~~~~!!!!」
「今度はなに?」
両者が相対する通りに、今の今まで眠りこけていた麦わら帽の男の声が木霊する。
エドワードは、異様に腹を膨らませたその男に訝しげな目を向けた。
「! ありゃあ確か…3千万の賞金首の」
一瞬目を見開いたゾロだったが、それがルフィだとわかるとすぐさま警戒を解いた。
が、当のルフィはなぜかゾロを仇かなにかのように鋭く睨みつけ、獣のように荒い呼吸をくり返していた。
「ルフィ…どうした。手伝いなら要らねェぞ。それともお前もあの女に借金が?」
「おれは、お前を許さねェ!!!! 勝負だ!!!!」
「「「はァ!!!?」」」
突然の宣戦布告に、ゾロの他にエドワードとアルフォンスも思わず声を上げて呆けてしまった。
「てめェはまた何をわけのわかんねェこと言い出すんだ!!!」
「うるせェ!!! お前らみたいな恩知らずはおれがブッ飛ばしてやる!!!」
「恩知らず………⁉」
「そうだ!!!」
何をそんなに怒っているのか全く分からないゾロが若干呆れていると、ルフィは全身から怒りを噴出させるように怒号を放った。
「絶対許さん…おれ達を歓迎してうまいもんいっぱい食わせてくれた親切な町のみんなを!!! 一人残らず、お前らが斬ったんだ!!!!」
「……………‼ いや…そりゃ斬ったがよ…」
「な…なんてニブイ奴なの」
「姉弟子が不憫だ………!!!」
「何であんな人のところにいるんだ………!!!」
自分が今まさにカモにされていたこともつゆ知らず、ズレたことを吠えるルフィ。
ゾロは血管を浮き立たせながら固まり、ビビは言葉を失い、エドワードとアルフォンスは一緒にいたエレノアに同情し地面に膝をついた。
「おいルフィ…よく聞けよ。あいつらは実は全員」
「言い訳すんなァア!!!!」
「なにィイ⁉」
説明しようと口を開いたゾロに、ルフィは全力で拳を放つ。
家屋を粉砕するほどのその威力に、ゾロは大きく目を見開いて頬を引きつらせた。
「殺す気かァ!!!」
「ああ、死ね‼」
正気かと疑うゾロに、ルフィはにべもなくそう言い放つ。
その後もルフィは避け続けるゾロに向けて殴りかかり、あちこちに瓦礫や砂塵を撒き散らしていった。
「てめェ、話を聞けェ!!!」
どうにか止めようと叫ぶゾロだが、頭に血が上ったルフィに聞き入れる様子はない。
次第にゾロの方の堪忍袋の緒も、切れる寸前まで迫っていった。
「…なァおい、アル? おれ達はどうすりゃいいんだ?」
「…取りあえず、放っておいたらいいんじゃないかな。あ、王女様は危ないからこっちね」
「あ…はい」
取り残されたエドワードとアルフォンスが、戸惑いながらもビビを背に庇う。
同じく呆れた様子のMr.5とミス・バレンタインも、自分たちのやるべきことを思い出して視線を戻した。
「Mr.5………あっちは別に私達の邪魔をしたいわけじゃなさそうよ?」
「そうらしいなミス・バレンタイン。じゃあ、おれ達は速やかに任務を遂行するとしようじゃねェか。アラバスタ王国王女ビビの抹殺と、不穏分子の排除を……」
一斉に駆け出すMr.5のペアに、エドワードが一歩前に出て刃を構える。
アルフォンスにビビを任せ、バロックワークスの強者である二人を迎え撃とうとした。
「かかってきやがれ…‼」
「いい加減にしろてめェ!!!!」
相打つ覚悟も決め、刃を振りかぶったエドワード。
だが両者が激突する寸前に、ゾロに蹴り飛ばされたルフィがぶつかり、四人はまとめて吹っ飛ばされていった。
「あ、しまった…あの
「兄さ―――ん!!!」
いい感じにカッコつけていたのに、まさかの味方からの攻撃で邪魔をされ、アルフォンスが思わず絶叫する。
吹き飛ばされたMr.5とミス・バレンタインは、瓦礫をどかしながら忌々し気に顔をしかめた。
「見事にまァ邪魔してくれるモンだぜてめェら…」
「あーもー何なの一体」
「そんなに仲間同士で殺し合いてェんなら、コトのついでに全員………」
「…オイ」
受けた痛みを倍にして返してやろう、そんな怒りを抱いてて立ち上がった二人。
その時、背後で上がっていた土埃の中から、ゆらりと影が立ち上がった。
「さっきからさんざんナメたこと言いやがって……しかも今度は敵とまとめてブッ飛ばしやがった………!!!」
パンッと炸裂音が響くと、次の瞬間青白い閃光が走る。
それは一振りの水でできた太い槍を生み出し、ミス・バレンタインを殴り飛ばしてゾロに向かって勢いよく投擲された。
「だァれェがァミジンコどチビか―――っ!!!」
「うおっ‼」
ドカァッ‼と地面に突き刺さって弾けた激流の大槍に、ゾロは戦慄の表情を見せながら飛び退る。
自分に非があることを理解していないゾロは、エドワードに苛立たしげな視線を向けた。
「チビ‼ てめェまで正気失くしてどうすんだよ!!?」
「また言った…‼ 三回だ…‼ 三回だぞコノヤロー…!!! てめェはもう三回もおれをチビと言った!!! その罪…万死に値する……!!!」
「面倒くせェ…‼」
凄まじい殺気を放ち、ずんずんと近づいてくるエドワードに、ゾロは呆れながらも警戒を深める。
兄と呼ぶことからわかるように、青年の力をよく知っているアルフォンスは、ゾロを気遣ってうしろから声をかけた。
「ゾロさん‼ 気をつけて‼ 兄さんあんなんだけどホントに強くて…」
「うるせェ!!! 今それどころじゃねェんだよ…!!!」
しかしゾロが警戒していたのは、エドワードだけではなかった。
青年と同じ場所から、ずるずると何かを引きずってもう一人の青年が顔を出したのだ。
「あー、いい運動して…やっと食いもん消化できた…」
すっかり元の体形に戻ったルフィが、ボコボコにしたMr.5を引きずって建物の中から出てくる。
その光景に、ビビは信じられないといった様子で固まった。
「ミ…Mr.5⁉ ウソ…‼ バロックワークスのオフィサーエージェントを」
「やっと本気出せる…」
「ルフィ…てめェ事態を余計にややこしくしやがって」
敵の一人を瞬殺しておきながら、まだ勘違いしたままの船長にゾロは目を吊り上げる。
仲間ではなく、町人に偽装した賞金稼ぎの言葉を信用するとは何事か、と怒りが込み上げてきたのだ。
「このウスラバカどもが!!! 全員まとめて叩きのめしてやる!!! 死んで後悔するな!!!」
「「上等だァ~~!!!」」
突如始まった三人の男たちによるバトルに、ビビもアルフォンスも困惑するほかになかった。
「ちょっと…どうなってんの⁉ あの二人…仲間じゃなかったの⁉
「何で兄さんまで!!?」
「ゴムゴムのォ~~~っ!!!」
「〝鬼〟…」
「〝
ルフィに対して怒りを燃やすゾロと、恩知らずを成敗しようと意気込むルフィ、身長のことでバカにされて怒り心頭のエドワード。
まったく違う方向を向いた青年たちが、雄叫びとともに激突した。
「〝バズーカ〟!!!!」
「〝斬り〟!!!」
「〝
ルフィの掌底、ゾロの斬撃、エドワードの大槍の水飛沫が激突し、凄まじい轟音と衝撃があたりに四散する。
それだけでは勢いは収まらず、三人は激情のままにさらなる一撃をぶつけ合った。
「「「ぬああああああっ!!!」」」
雄叫びとともに、全力の攻撃の応酬が繰り広げられる。
アルフォンスは完全に正気を失っている三人に、呆れたまま立ち尽くすばかりであった。
「あーあ…」
「…………どうしよう…逃げたいけど、今のうちに通っちゃって平気かしら」
「…たぶん、やめておいた方が…」
さっさとこの場から逃げ出したいビビだが、いやな予感を覚えたアルフォンスがそれを止める。
すると、家屋を粉砕しながら飛び出した三人が、ビビとアルフォンスのすぐ近くで再び激突した。
「がああああああ!!!」
「うああああああ‼」
「おらあああああ!!!」
「きゃあああ‼」
「わああああ!!?」
ビビたちはもはや、巻き込まれないようにその場で小さくなるしかない。
その時、ルフィとエドワードにノされていたMr.5ペアがうめき声とともに起き上がってきた。
「畜生……‼ こんな奴らにコケにされたとあっちゃ、〝バロック・ワークス〟オフィサーエージェントの名折れだぜ!!!」
「その通りよMr.5‼ 私達の真の恐ろしさ‼ あいつらに見せてあげましょう!!!」
「いくぜ‼ ミス・バレンタイン‼」
「ええ、Mr.5!!!」
任務を果たすため、そして屈辱を晴らすためにエージェントたちが激闘の中に飛び込んでいく。
が、それは完全に誤った選択でしかなかった。
「ゴチャゴチャうるせェな!!!」
ギロリ、と向けられた血まみれのエドワードの目に、Mr.5とミス・バレンタインは恐怖でその場に凍りついてしまう。
エドワードはパンッと手のひらを合わせ、地面に触れて青い閃光を迸らせた。
「どいつもこいつも………木っ端微塵に吹っ飛びやがれ!!!」
エドワードを中心に、凄まじい勢いで土が盛り上がり、大量の大砲を作り出していく。
そして戦慄の表情を見せるMr.5達に、全ての砲門が突き付けられた。
「〝
エドワードの咆哮とともに、無数の大砲が一斉に火を噴く。
Mr.5とミス・バレンタインは、その容赦のない砲撃に呑み込まれ、涙を流しながら吹っ飛ばされていった。
「…………ウザってェ!!!」
「何だあいつら」
「ものたりねェ…!!!」
ぐしゃっと落下していく二人に目もくれず、ルフィたちは苛立たし気に背を向ける。
その堂々とした立ち姿に、ビビはただただ圧倒されるばかりであった。
「…そんなバカな…………‼ …なんて強さ!!! こんな人がどうしてオフィサーエージェントじゃなかったの…!!?」
「兄さん………」
ビビやアルフォンスのつぶやきにこたえることなく、ルフィ、ゾロ、エドワードの視線は再び互いに向けられた。
「さあ
「おお」
「望むところだ」
示し合わせたように、三人は一斉に拳と武器を振りかぶる。
もはやそれは誰にも止められない、そう思った時だった。
「はいそこまでー」
突如、三人の真下から石柱が伸び、それぞれのあごにクリーンヒットする。
打撃の効かないルフィも、突然脳を揺さぶられたことで目を回し、三人は一瞬で無力化されてしまった。
「まったく、ナミに話を聞いてみれば………妙なことに巻き込まれたもんだよ」
「そうよ。危うく10億ベリーを逃す所だったのよ⁉ わかってんの⁉」
「いやそんな話は一言もしてない」
いきなりの展開に立ち尽くしていたビビとアルフォンスの前で、呆れた様子のエレノアと目を光らせるナミが近づいてきた。
「…あなた達…何の話を、どうして私を助けてくれたの⁉」
「そうね………その話をしなきゃ…。ちょっとね…契約をしない?」
「契約?」
困惑気味に繰り返すびびに、ナミは怪しい笑みを浮かべて頷く。
が、その前にいまだに殴り合いを続けるルフィたちを黙らせる必要があった。
「あばれるなっ‼」
三人の脳天にそれぞれ拳骨を落とすナミに、残された三人は冷や汗を流すのだった。