ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第58話〝罪人たち〟

「はァ…そりゃ惜しいことをしたが…まだ、おれにも活躍の場は残ってるわけだ。大丈夫‼ この眠れる騎士が目覚めたからには君の安全は保障する」

「は~~~~~~~~~~っ寝ててよかった~~~~~~~~っ」

 

 ウィスキーピークを後にしてしばらくし、ようやく目を覚ましたウソップとサンジがそんな反応を見せる。

 やたらとカッコつけるサンジに対し、ウソップは顔中に冷や汗を垂らしてほっとした様子を見せていた。

 

「ナミさんちょっとジェラシー?」

「べつに」

「まァ、だが援護はおれに任せとけ‼ ちまたじゃ手配書の3千万ベリーはおれの後頭部にかかってんじゃねェかって噂でもちきりだ」

「誰が言ってるんですかそれ…」

「雪降らねーのかなー」

「ふるわけねェだろ」

「あの天候の変化は最初の海だったからだよ。リヴァースマウンテンの磁力が全てを狂わせていて……」

「?」

「ダメだ姉弟子、こいつらみじんも理解してねェ」

 

 大変な事件に巻き込まれたというのに、全く悲壮な様子を見せない彼らに、ビビはただ呆れと困惑が混じった表情で立ち尽くしていた。

 次第に一味の興味は、ビビとともに旅に加わった二人組へと変わっていった。

 

「しっかし…賞金稼ぎ集団の中にエレノアの弟弟子がいたとはなー」

「一番驚いてるのはこっちだよ‼ 何だって〝国家錬金術師〟ともあろうものがあんな場所にいたんだか…‼」

「こっかれんきんじゅつし?」

 

 エレノアがジトッとした目を向けながら呟いた単語に、ルフィが首をかしげて尋ね返す。

 ビビだけが、驚いたように大きく目を見開いてエドワード達の方を振り向いた。

 

「ウソ……あなた、マルコー先生と同じ国家錬金術師なの!!? その若さで!!?」

「そーう!!! 何を隠そうおれたちこそが!!! 世界政府より〝鋼〟の名を賜りし、最年少国家錬金術師の資格を持つ兄エドワードと!!!」

「兄にも劣らぬ錬金術の腕前と鎧の体を持つ弟アルフォンス!!!」

「「二人合わせて最強エルリック兄弟!!!!」」

 

 ビシィッ‼とどこぞのヒーローのようなポーズをとるエドワードに、アルフォンスがひらひらと紙吹雪を散らせる。

 盛大に決める彼ら兄弟に対して、エレノアは冷え切った眼差しを向けて付け加えた。

 

「史上最()国家錬金術師と兄よりでかい弟と覚えてやってください」

「「姉弟子―――っ!!?」」

 

 あんまりな呼び名に、二人は涙目でエレノアに縋りつく。

 理不尽な評価に抗議もしない点を見るに、この力関係が長年続いていたのだろうと他の面々は察した。

 項垂れる兄弟に横目を向けてから、ナミはエレノアに耳打ちした。

 

「ねェ…国家錬金術師って一体何者なの?」

「簡単に言えば……〝王下七武海〟と同じく政府に忠誠を誓うことで、多大な研究費用と援助を受けている有能な錬金術師………軍の狗だよ」

 

 少し興味を示している様子のナミだが、エレノアの説明はかなり偏見が混じっている気がした。

 エレノアは深いため息をつき、咎めるような視線をエドワード達に向けた。

 

「『錬金術師よ、大衆のためにあれ』。この言葉を侵し、人々ではなく政府のためだけに術を使う人たちだから、あんまり好かれているとは言い難いかな。エドくんは自分の研究のために、世界政府に魂を売っちゃったのさ」

「言い方にトゲがある……!!!」

 

 言い返したいが事実であるためか、エドワードとアルフォンスは悔し気に拳を震わせたまま膝をついていた。

 錬金術師自体をエレノア以外に知らないルフィは、兄弟に対して何やら期待に満ちた視線を向けた。

 

「ふーん…そういやァ、お前らもエレノアみたいに手を合わせてバーンってやつできるのか?」

「兄さんはできるけど…僕はできないんだ。ご期待にそえなくてごめんなさい」

 

 ルフィからの問いに、アルフォンスは申し訳なさそうに頭をかく。

 それを聞いていたゾロは片眉を上げ、アルフォンスの背後に音もなく近寄ると、おもむろに彼の兜をがっしりと掴んだ。

 

「何言ってやがんだ。十分面白れェ身体してんじゃねーか」

「あっ」

 

 そのままガポッと兜が外され、アルフォンスの顔がさらされる…と思いきや首がないその体に、全員からぎょっとした視線が集中した。

 

「ぎゃ――――っ!!! 首がもげたァ――!!?」

「このみょうちきりんな体も…錬金術が関わってるのか?」

「ボクの頭で遊ばないでくださいよ!!!」

「どどどどうなって…」

 

 阿鼻叫喚へと変わる船上で、ぽんぽんと掌の上でボールかなにかのように兜をもてあそぶゾロに、アルフォンスが猛抗議する。

 深いため息をついたエドワードは立ち上がると、アルフォンスの鎧の胴を掴むと、その中身が見えるように傾けた。

 

「どうもこうも」

「こういう事で」

 

 そう言ってアルフォンスは、自分の体をゴンゴンと叩く。

 鋼の入れ物を叩いたような虚ろ音が響き渡り、その異様さを全員に視覚と聴覚で伝えた。

 

「なっ…中身がない…空っぽ…⁉」

「これはね、人として侵してはならない神の領域に踏み込んだ罪ってやつなんです。ボクも兄さんも…そして姉弟子も」

 

 アルフォンスはゾロから兜を奪い返すと、かぽっと元の位置に戻して黙り込む。

 妙に重苦しい空気が漂い始めた甲板で、エレノアが鋭い目を兄弟に向けた。

 

「エドくん…あんた達が捜してる資料ってやっぱり…」

「………ああ、ある国で出会った錬金術師が残したそいつには、全ての錬金術師が泣いてほしがる代物の作り方が書いてある」

 

 もはや隠し通せることではないと悟ったのか、エドワードは少しだけ躊躇ってから語り始めた。

 その目に、煌々と燃える覚悟の灯を覗かせながら。

 

「ある一説にはこうある…『それは苦難に歓喜を、戦いに勝利を、暗黒に光を、死者に生を約束する血のごとき紅き石。人々はそれを敬意をもって呼ぶ―――〝賢者の石〟と』!!!」

「ああ、前にエレノアがブッ壊してたアレか」

 

 ルフィは以前聞いたことがあったなとぼんやり思い出しながら、遠い目になった。

 その言葉を深く考えず、エドワードは強く頷くと腕を組んで続きを語った。

 

「そう…‼『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥラ』『第五実体』『鮮血の星』など数々の異名で呼ばれる、幻の錬金術式増幅装置。死者さえよみがえらせられるというこの伝説の代物の作り方が書かれた資料の手掛かりを、おれ達は何年も費やしてようやくつかんだんだ」

 

 ぐっ、と鋼の拳が握りしめられ、かすかに金属がきしむ音が響く。

 青年の胸の内に宿る強い思いを感じ取りながら、聞いていた一味はだんだんと「おや?」という表情を浮かべ始めた。

 

「アレさえあれば、おれ達は元の体に戻れる……‼︎ それまでは、どんな手段を使ってでもアラバスタに行かなきゃならねェんだ…!!!」

 

 そこまで言い切ったエドワードはようやく、ルフィが口にした言葉を思い出し、目をしばたかせた。

 そしてしばらくして、顔からぶわっと冷や汗を噴出させ始めた。

 

「「壊したァ!!!?」」

 

 驚愕のあまり、兄弟は仲良く同時に飛びのき、メリー号の欄干に背中から激突した。

 仲間達も驚愕の表情で固まる中、エレノアは冷静にエドワード達を見つめていた。

 

「ななななななな何てことしてくれてんだあんたァ!!!」

「ボっ…ボク達が何年も費やしてやっと手がかりをつかんだっていうのにィ…!!!」

「あ、これ言わない方がよかったか?」

「いいよルフィ…そのうち言っときたかったことだし」

 

 ものすごい勢いでエレノアに詰め寄るエドワードと、頭を抱えて天を仰ぐアルフォンス。

 この世の終わりのように嘆く二人にルフィは少しばかり罪悪感を感じたようだが、エレノアは静かにそれをなだめた。

 

「エドくん、アルくん…姉弟子として言っておくけど、アレには今後希望を持たないことをオススメするよ。……アレは人の手に余るものだ」

「んなもんわかってんだよ‼ 伝説級の代物なんだ…多少の無茶で釣り合いが取れるんだったらいくらでも……!!!」

「そういうことを言ってるんじゃないんだよ!!!」

 

 どれほど自分たちがそれを求めていたか、それがありありとわかるほどに激しい怒りをぶつけるエドワードに、エレノアはそれ以上の激情を返す。

 頭に血を昇らせていたエドワードは、その声に一気に勢いをそがれてしまった。

 

「姉弟子…?」

「…できればあんた達には、真実を知ってほしくない……私は怖いんだよ……強い心を持ってるあんた達が、心を折られて立ち止まってしまうことが……‼」

 

 姉弟子の見せる、見た事もない様な重い表情に、エドワードは思わず後ずさる。

 しかしそれでも、求め続けた秘宝が失われたショックからは立ち直れず、悔し気にエレノアから目をそらした。

 

「それでもおれ達には…〝賢者の石〟に頼るしかないんだよ……!!!」

 

 安易に割って入る事のできそうにない思い空気に、一味はしんと静まり返る。

 そんな中、ルフィはいつも通りの能天気な顔でエドワードの肩を叩いた。

 

「まーでもいいじゃねェか。ビビの国に行けば作り方がわかんだろ?」

「ああ、そりゃそうだ」

「悲観的になりすぎてた!」

 

 さっきまでの悲痛な表情はどこへやら、エドワードもアルフォンスもうっかりしていたとばかりに顔を上げた。

 あっはっは、と暢気な笑い声を上げる彼らに、一味の緊迫も一気に薄れていった。

 

「よくわからねェが……とりあえずお前らも目的地は同じなんだな?」

「錬金術師がさらに二人追加か…面白れェじゃねェか」

「歓迎するぜエルリック兄弟!!!」

 

 敵方にいた政府関係者という出自に、やや警戒気味だったゾロやサンジ、ウソップも、話せばなかなかわかる奴らと知ってか態度を軟化させる。

 味方内で疑い合うような事態は免れたようだ。

 

「ぜってー賢者の石を手に入れてやるぞ―――っ!!! 真実がなんぼのもんじゃ―――い!!!」

「おお―――っ!!!」

「うお――っ‼」

 

 エドワードとアルフォンスは、ルフィと肩を組んで海に向かって叫び始める。

 仲間の選考基準がおもしろくていい奴というルフィにとっては、これ以上ないくらいに好ましいメンツのようだった。

 

「………まァ、それでもあんた達がアレを求めるってんなら、私はもう止めないけどね……」

 

 エレノアはそんな彼らを呆れたように見やり、深いため息をついた目を反らす。どんな結果が待っていようと、彼らの決断に全て委ねることにしたようだ。

 ふとその目に、肩を振るわせてうつむく少女の姿が映った。

 

「………本当にごめんなさい……あなた達は自分のことだけでも大変なのに………こんな事態に巻き込んで……」

「ビビ……」

 

 自分の他にも悲しい運命を背負った己たちがいたのだと、ビビはその表情を重く沈ませる。

 エレノアはその姿をじっと見つめ、その肩を叩くと、ルフィたちの方に指をさした。

 

「あいつら全然聞いてないみたいだよ?」

「おい‼ 野郎ども‼ おれのスペシャルドリンクを飲むか!!?」

「「「「「おお――っ‼」」」」」

「………」

 

 シリアスな空気をものともしない男たちの歓迎の宴に、ビビのこめかみに静かに血管が浮き立つ。

 彼女のこのやりきれない気持ちは一体どう消化したらいいのだろうか。

 

「いいの⁉ こんなんで!!!」

「いいんじゃない? リラックスしてるなら逆に」

「シケでも来たらちゃんと働くわよあいつらだって…死にたくはないもんね。はい、あんたの」

「………それはそうだろうけど………なんか…気が抜けちゃうわ………‼」

 

 国を狙う悪党が待っているというのに、とてつもないプレッシャーがのしかかっているはずなのに、そんな気分を微塵も見せない連中にビビは困惑する。

 そんな気持ちも微塵も知らず、男たちはサンジの作ったドリンクに舌鼓を打っていた。

 

「うお‼ イケるクチだな、おい。うめェか⁉ どんどんいけよ⁉ アルフォンス、お前はどうだ?」

「あ、ボクはご飯食べられないんで…」

「なーウソップ、釣り道具作ってくれよ」

「釣りかー、いいなそれ」

「だったらおれに任せておけ。アーティスティックなつり竿を…」

「待て待て、お前だけにいいカッコはさせねェ!」

 

 わいわいがやがやと、絶好調で船旅を満喫している一味に、ビビは戸惑うばかり。

 ナミとエレノアは、そんなビビにサンジから受け取っドリンクを渡して明るい笑顔を向けた。

 

「悩む気も失せるでしょ、こんな船じゃ」

 

 ビビは戸惑いながらも、受け取ったドリンクを恐る恐る口にして海を眺める。

 心地よい風が吹き、ビビの長い髪を優しくなでていく。体の隅々まで染みわたる海風を浴び、ビビの口元には次第に笑みが浮かんでいった。

 

「…ええ、ずいぶん楽……」

 

 肩にのしかかっていたものが、僅かに軽くなったような気持ちになり、ビビは柔らかな表情を見せる。

 彼女本来の表情が見えたことに、エレノアはほっと安堵の息を吐いた。

 

「おい、みんな見ろよ! イルカだぜ」

「おお」

「わあっ、かわいい…」

 

 遠く海の彼方で跳ねたイルカを、一味は微笑ましげに眺める。

 しかし、そのイルカのもたらす影が次第に大きくなり、ついにはメリー号をも覆い隠すほどになると、ようやく一味は事の重大さに気づいた。

 

「デカイわ―――っ!!!」

「逃げろ―――っ‼」

「ほいきたキャプテン‼」

 

偉大なる航路(グランドライン)〟にまともな生物などいるはずがない。

 そんなことを今さら思い出しながら、一味は新たな窮地を脱するために一致団結し、総員でオールを漕ぎ始めるのだった。

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