ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第9章 強者の誇り
第59話〝古代の島〟


 腕にはめた記録指針(ログポース)の針が差す方向を、ナミはじっと凝視する。

 その先にあるのは、広大な海にポツンと存在する一つの島だ。

 

「間違いない‼ サボテン島と引き合ってる私達の次の目的地は、あの島よ‼」

「アレかァ~~~~~っ!!!〝偉大なる航路(グランドライン)〟2つ目の島だァ~~っ!!!」

 

 最初の困難を乗り越え、長い航海を終え、ようやく見つけた次なる目的地。

 着実に夢に至るための道を進んでいることに興奮するルフィは、両手を上げて歓喜をあらわにしていた。

 しかし喜びをあらわにしているのはルフィだけで、他の面々は不安が隠しきれていなかった。

 

「―――……気をつけなきゃ……………ミス・オールサンデーの言っていたことが気になるわ」

「か……‼ か……‼ 怪物でも出るってのか!!?」

「さァ、わからない」

「そろそろ食料を補給しねェとな。…この前の町じゃ何も貯えてねェし」

「――っつってもおい…こりゃあ…」

 

 青い顔で右往左往するウソップを横目に、サンジはじっと島の入り口を睨む。

 島を横断する形で続いている水路、その左右に広がっているのは、巨大な木々が生い茂るまさに大自然の奥地であった。

 

「……まるで秘境の地だぜ…生い茂るジャングルだ」

 

 草木が囁く音や、正体不明の生物の鳴き声が反響するその地を、若者たちはごくりと息を呑みながら進む。

 ふとした瞬間にでも脅威が襲い掛かってきそうなほど、森は不気味さに満ちていた。

 

「ここが〝リトルガーデン〟……………‼」

「――そんなかわいらしい名前の土地には見えねェぜ? どの辺がリトルなんだ………⁉」

「………大体見てよ‼ こんな植物…私、図鑑でも見たことないわ」

 

 聳え立つ太く高い樹々を見ながら、ナミが震える声で呟く。

 普段見るような広葉樹とは異なり、柱のように立つ幹の最上部から傘のように葉が広がっている。その周囲の草木も見た事がない形状で、豊富な知識を持つナミでも答えが見つからずにいた。

 その時、ガサガサと葉が擦れる音とともに生物の咆哮が聞こえてくる。

 ナミは思わず耳をふさぎ、きょろきょろと辺りを見渡して慄いた。

 

「きゃあ!!! 何!!? 今のっ!!!」

「……ナ…ナミさんったらかわいい♡ 大丈夫さ、ただの鳥だよ。そしてここはただの密林(ジャングル)、心配ねェ‼」

「……ただの鳥に、〝カギヅメ〟があるのかねェ」

 

 空を見上げていたエレノアが、ふとそんなことをつぶやく。

 ルフィとともに興味深そうに見つめる先に飛んでいたのは、翼にカギヅメを備えた、嘴に牙を生やした鳥のような生き物。

 そんなものが見えたかと思えば、今度はどこかから爆発音が響き渡る。腹の底にまで響くその音に、ナミとウソップは思わずびくりと肩を震わせた。

 

「これが…ただのジャングルから聞こえてくる音なの!!?」

「まるで火山でも噴火したような音だぜ、今のはっ!!?」

 

 おろおろと狼狽する二人の肩に手を置いたエレノアは、クンクンと鼻を動かして見せた。

 

「……うん、ウソップ君の言った通りみたいだね。硫黄の匂いがするし、気候も火山付近の島々と同じくらいの状態………たぶんこの島には、活火山があるんだよ」

「うそでしょ…⁉」

 

 島によっていろいろな環境があるのはわかってはいたが、島の中に活火山があるなどまるで古代の世界である。

 頬を引きつらせるナミが次に目撃したのは、木々の間から彷徨い出て、ドサッと倒れ伏す傷だらけの大きな虎の姿だった。

 

「普通じゃないわっ‼ 絶対、普通じゃない!!! 何で〝密林(ジャングル)の王者〟の虎が血まみれで倒れるの!!?」

「え? わりとありふれてることじゃないの?」

「そんなもんがありふれてたまるか!!! こ…この島には上陸しないことに決定っ‼」

 

 何を言っているのかといった様子で首をかしげるエレノアを放置し、ナミは今後の方針を勝手に決定する。

 多少の危険は航海につきものだが、できればそんなものは回避するに越したことはないのだ。

 

「…船の上で〝記録〟がたまるのを静かに待って…‼ 一刻も早くこの島を出ましょ…!!! は…早くアラバスタへ向かわなきゃね」

「理由はそれだけじゃなさそうだね……まァでも、私も賛成。リスクは最小限にとどめるべきだからね」

 

 自分の命の危険を考え発言するナミだが、エレノアはまた別の理由で頷く。

 エレノアが見つめる先には、一刻も早く自分の国へと帰還することを望んでいるビビの姿がある。

 だがそんな中、欄干にしがみついていたルフィが、体を震わせながら口を開いた。

 

「サンジ‼ 弁当っ‼」

「弁当オっ⁉」

「ああ‼『海賊弁当』!!!」

 

 生い茂り、来るものを拒む密林に向けられるルフィの目は、キラキラと興奮に輝いている。

 自分自身にも止められない好奇心が、彼を突き動かしていた。

 

「冒険のにおいがするっ!!!」

 

 満面の笑みを浮かべてそう告げるルフィに、ナミはぎょっと目を剥いて振り向く。

 自分の提案とは全く逆の希望に、船長の正気を疑ってしまっていた。

 

「ちょ…ちょっと待ってよあんた!!! どこいくつもり⁉」

「冒険。しししし‼ 来るか?」

「いくいく‼ おれも行く!!!」

「エドくん!!?」

「兄さん!!?」

 

 ルフィと同じくうずうずした様子で手をあげるエドワードに、今度はアルフォンスが言葉を失う。

 兄が待つなどという退屈な時間に耐えられないことはわかっていたが、担っている任務のことを考えれば愚かとしか言いようがなかった。

 

「何言ってんのさ!!? ボクらはあくまで王女様の護衛でしょ!!? 勝手なこと言わないでよ!!!」

「バカを言え……おれが理由もなく出歩くわけねェだろ。おれはただ………船の上でじっと待ってることが苦痛なだけだ」

「遊ぶ気満々じゃないか!!!」

 

 全く悪びれる様子もなくそう答えるエドワードに、アルフォンスはツッコミを入れる。

 だが兄はそんなこと一切気にした様子はなく、ルフィと肩を組んでわいわいとはしゃぎ始めていた。

 

「やっぱ男なら人生冒険すべきだよな⁉」

「おうよ‼ やっぱおめーわかってんなー‼」

「ダメだあれ……誰が言っても止まりそうにない」

「サンジ弁当ーっ‼」

「弁当よこせーっ‼」

「わかったよ、ちょっと待ってろ」

 

 実に楽しそうに島の探索に思いを馳せているルフィとエドワードを見て、アルフォンスはがっくりと肩を落とす。

 エレノアがそんなアルフォンスの肩を叩いて労っていると、不安気ながらもどこか期待を寄せるような表情のビビが手をあげた。

 

「………ねェ‼ 私も一緒に行っていい⁉」

「おう、来い来い」

「あんたまで何言うの⁉」

「ええ……じっとしてたらいろいろ考えちゃいそうだし、〝記録〟がたまるまで気晴らしに‼」

 

 未知の地に恐れを抱きながら、こんな機会は二度とないかもしれない、そんな衝動に押された王女は、ナミににっと笑みを見せた。

 

「大丈夫よ‼ カルーがいるから」

「……………‼ ……………!!!」

「本人、言葉にならないくらい驚いてるけど…」

「見ろ、アルフォンス。王女さんが行くならおれも行かなきゃダメだろ」

「ただのこじつけじゃないか!!!」

 

 大義名分を得た、とさらに笑みを深めるエドワードにアルフォンスは叫ぶが、もはやこの二人は止められそうにない。

 サンジから弁当を受け取った三人と一匹は、さっそく船を降りて密林の中へと入っていった。

 

「よし‼ 行くぞ!!!」

「おう!!!」

「おおよそで戻って来るからっ‼」

 

 立ち止まってなどいられない、と小走りで進むルフィとエドワードの後を、やや申し訳なさそうにビビが、不安げにカルーがついていく。

 その頼もしい背中を、ナミとウソップは呆然と見送るほかになかった。

 

「度胸あるな、ミス・ウェンズデー」

「さすが敵の会社に潜入するだけあるわ」

「私も散策してくるかな…」

 

 三人の姿が見えなくなると、エレノアもそんなことをつぶやいて船を降りた。

 一味の中で最も頼りになるベテランの発言に、ナミは慌てて呼び止めにかかった。

 

「ちょっと待って⁉ あんたまで出歩く気なの!!?」

「船にある本全部読み尽くしちゃったし、研究するにも材料も触媒もないし、手ごろな素材がないか探してこようと思ってさー。いってきまーす」

 

 エレノアは全く不安を抱いていない様子でそう告げ、ナミが呼び止める間もなく森の中へと入っていった。

 するとそれに触発されたのか、ゾロも長旅で固まった首を鳴らしながら立ち上がった。

 

「じゃ、おれもヒマだし、散歩してくる」

「散歩⁉」

「ここにも度胸の塊いたわ…」

 

 未開の地を暇つぶしに歩くとほざく連中に、どいつもこいつも胆が据わりすぎている、とナミは頭を抱えてうつむく。

 するとそこで、慌てた様子でサンジがゾロを呼び止めた。

 

「おいゾロ‼ 待て待て‼」

「ん?」

「食糧が足りねェんだ。食えそうな獣でもいたら狩ってきてくれ」

「ああ、わかった」

 

 かなり仲の悪い二人だが、一味の仕事が関わればそこまで険悪にはならないようで、一見穏やかにゾロが頼みを聞き入れる。

 だがそこで彼は、余計な一言を口にしてしまった。

 

「お前じゃとうてい仕留められそうにねェヤツを狩ってきてやるよ」

「待てコラァ!!!」

 

 何気なくゾロが放った一言にカチンときたサンジが、くわっと形相をかえて吠える。

 鬱陶しそうに振り向くゾロに、サンジは欄干に足をかけて怒りに満ちた目を向けた。

 

「あァ⁉」

「聞き捨てならねェ…!!! てめェが、おれよりデケェ獲物を狩って来れるだと…⁉」

「当然だろ‼」

 

 ナミとウソップは、ここまでの流れでこの後の展開を予想し天を仰ぐ。

 予想通り互いに火花を散らせたゾロとサンジは、燃え上がる闘志を目に宿して互いに睨み合った。

 

「狩り勝負だ!!!」

 

 相容れない二人の突然の勝負の宣告。

 サンジはすぐさま船を降り、ゾロの向く方とは全く違う方に向かって歩き出した。

 幸い島はかなり広いために、勝負の途中で二人が出くわすということもそうそうなさそうに思えた。

 

「いいか‼〝肉何㎏狩れたか勝負〟だ」

「何tかの間違いだろ。望むところだ」

「…どいつもこいつもなんであいつら、あんなにこうなのかしら」

「わかるぜ、その気持ち。泣くな、おれはおめェの味方だよ…‼」

「………お二人とも、苦労してきたんですね」

 

 苦労しているのは姉弟子だけではないのだなぁ、とアルフォンスは涙を流すナミとウソップに同情の眼差しを送る。

 兄も大概だが、似たような人が集まる一味ではその負担もきっと大きいのだろう、と悲しい気持ちになっていた。

 

「「「は」」」

 

 だがそこで、三人はある重大な事実に気づく。

 ルフィ、エレノア、ゾロ、サンジ、エドワード。現在の一味の中で、戦いに長けた人物がみないなくなってしまっていることに。

 

「………こうなったら戦えるのはあんただけよ」

「……頼りにしてるぞ、弟」

「えええええっ!!? ボクですかァ!!?」

 

 覚悟を決めた目で、ナミとウソップはアルフォンスの両肩を叩く。

 いきなり期待を寄せられたアルフォンスは、喜びに駆られるどころではなかった。

 大きな不安を抱えたまま、三人は甲板に座り込む。その時ナミが何かを思い出したのか眉間にしわを寄せた。

 

「ん~~…でも、ちょっと待って…」

「ん?」

「何か本で読んだ記憶があるのよ‼ 聞きおぼえがあるの…………」

「〝リトルガーデン〟にですか?」

 

 キョトン、とした様子でアルフォンスが問うと、ナミはすぐさま書物を納めている部屋へ急ぐ。

 以前読んだ記述が乗った本を探し、ナミはバサバサと不要な本を本棚の外へと放り出した。

 

「これじゃない、これじゃない。どれだっけな、ド忘れしちゃった」

「そう言えばボクも、最近その単語を目にしたことがあるような……」

「あんた目、ないじゃない」

「そういうことじゃなくてですね⁉ …ん?」

 

 ナミを手伝い、自分の記憶を頼りに本を探し続けていると、やがてアルフォンスはそれを見つけた。

 そしてそのタイトルを目にした瞬間、アルフォンスとナミはぎょっと表情を変えて駆け出していた。

 

「ウ…ウソップさん‼ ウソップさん‼」

「何だ、どうした。本は見つかったのか?」

「大変よ‼ この島には…」

 

 甲板で一人で待っていたウソップは、血相を変えて駆け寄ってくる二人に胡乱気な視線を向ける。

 しかしその時、メリー号の泊まっている場所のちょうど目の前の森の中に、巨大な影が動くのが見えた。見えてしまった。

 

「いやああああああっ!!!!」

「ギャあああああ!!!」

「うわああああああ!!!」

 

 

「何じゃこりゃああああああああああ!!?」

 

 同じ時、それを目撃したエドワードが目を丸くして声を上げていた。

 三人と一羽が凝視する先、そこに居たのは()()()()()()()()()()()生物の姿。

 遥か長い首を伸ばす、巨大な古代の爬虫類―――恐竜の一種、雷竜であった。

 

「なんで陸に〝海王類〟がいるんだ⁉」

「いや違う‼ こいつは…恐竜っ!!!!」

「恐竜っ!!?」

「じゃあ…ここは太古の島…‼」

「マジかよ…ここが‼」

 

 初めて見る異形を前に、ルフィは興奮して目を輝かせる。

 対してビビとエドワードは、目の前で広がる光景に信じられないといった様子で立ち尽くしていた。

 

「恐竜たちの時代が、ここに閉じ込められているのよ。…〝偉大なる航路(グランドライン)〟にある島々は、その航海の困難さゆえに島と島との交流もなく、それぞれが独自の文明を築き上げているの」

「飛び抜けて発達した文明を持つ島もあれば…‼ 何千年も何万年もの間何の進歩も遂げずにその姿を残す島だってある‼」

「…〝偉大なる航路(グランドライン)〟のデタラメな気候がそれを可能にするのよ」

 

 普通ならばありえない、常識では語れない光景が、今まさに目の前に広がっている。

 本の知識などでは得られない驚愕と感動が、ビビとエドワードの中で溢れ出していた。

 

「だから…‼ この島は、まさに恐竜達の時代、そのものなんだわ………!!!」

「まさに生きた化石…‼ 本で知識は得ちゃいたが……まさかこの目で実際に見られるなんてな…!!!」

 

 エドワードは歓喜で顔をくしゃくしゃに歪め、ぶるぶると身体を震わせる。

 知識を追い求める彼にとって、これほどの衝撃はまさに得難い宝物に等しかった。

 

「くぅ~~~!!! やっぱり来てよかったぜェ~~~!!!」

「そんなことを言ってる場合じゃないわ…‼ こんな場所、停泊するには危険すぎ……」

 

 ビビは興奮するエドワードにそう注意するが、当の本人はすでに聞いてはいない。

 さらにそこでビビは、もう一人がさっきから静かなことに気づき、ハッと振り向いて目を見開いた。

 

「飛びつくなーっ!!!!」

 

 いつの間にか雷竜の首にしがみつき、よじ登っているルフィに、ビビの絶叫が響き渡るのだった。

 

 

 かつてある冒険家は、この島について変わった一説を残した。

 それがナミとアルフォンスが読んだ本の、もっとも有名なフレーズであった。

 

 ―――()()()()()にとって…まるでここは〝小さな庭〟の様だ。

 

 ―――巨人島〝リトルガーデン〟――この土地をそう呼ぶことにしよう。

探検家ルイ・アーノート

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