ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「ぎゃあああ~~~~っ!!!」
「恐竜~~~っ!!!」
「うわああああああ……あ、ボクは別に平気か」
鬱蒼と生い茂る森の中を、ナミとウソップとアルフォンスがわき目もふらずに走っていく。
が、途中でアルフォンスは自分が襲われる心配はそんなにはない事を思い出し、頭をかきながら立ち止まった。
「ていうか二人とも早っ‼」
しかしその間にナミとウソップはすさまじい速度で走っていき、あっとうまに姿が見えなくなってしまう。
その情けない後ろ姿に、アルフォンスは思わず大きなため息をついていた。
「困ったなァ…完全に取り残されちゃった。あんなんで言ってたような勇敢な海の戦士なんてなれるのかな…?」
さっきまで巨人たちの戦いに憧れていた時に呟いていた、誇り高き戦士になりたいと言っていた彼の横顔を思い出すが、今の姿とどうしても重ならない。
どうしたものかと辺りを見渡していたあるは、森の中に見覚えのある人が影があることに気づいた。
「兄さん‼ もしかして迎えにきてくれたの?」
自分に向かって手をあげて立っているエドワードのもとに、アルフォンスはうれしそうな声を上げて近寄っていく。
だがすぐ近くにまで寄ると、アルフォンスは何か違和感を抱いた。
「…兄さん?」
すぐ目の前にまで近づいたのに、兄は一言もしゃべってくれない。
どちらかといえばおしゃべりな方であるエドワードが黙りこくっていることに、いやな予感を覚えた時だった。
「うわあああああああっ!!!」
恐竜たちの住まう森の中に、アルフォンスの悲鳴が木霊した。
「はっ!!!」
走って走って、背後から迫る恐竜から逃げ続けて、ようやくウソップは我に返った。
気付けば隣にいたはずのナミとアルフォンスの姿はなく、自分一人だけが広大な森の中に取り残されている。
「………ナ…ナミ? アルフォンス?」
一応周囲に声をかけてみるものの、当然返事などあるはずがない。
バタバタと忙しなく走り始め、あちこち見渡してみるものの、やはり彼女たちの姿は影も形も見当たらない。
「ナミ!!! ナミ!!! アルフォンスゥ!!? えらいこっちゃ…ルフィ~~~~~~~~~~~~っ!!!」
パニックに陥ったウソップは、狂ったように手足を動かして森の中を爆走する。
いつの間にか森を抜けたかと思うと、偶然にもそこはルフィたちが足止めを食らってるドリーの家の前だった。
「大変だ!!! 二人が恐竜に食われた!!!!」
「本当かァ!!!?」
山の下敷きになっているルフィにぎょっとなるものの、ウソップはそれどころではないとルフィに訴える。
話を聞いたルフィは目を見開いて驚愕し、動けない自身を嘆くようにもがき始めた。
「恐竜から逃げるために一緒に密林を走ってたら突然いなくなって…!!! どうしよう、おれは仲間を見殺しにィ!!!」
「ん? おい…ちょっと落ち着け」
頭を抱えて己の無力を嘆くウソップに、エドワードが何か違和感を覚えたのか待ったをかけた。
「突然消えたっつったか? じゃあ…確認はしてねェんだな?」
「確認なんて恐ろしくてできるかァ!!! 恐竜じゃなけりゃ猛獣だ!!! 他に何がいるんだ!!!」
「恐竜はともかく猛獣ならアルが負ける道理はねェよ‼ おれたちゃガキの頃、猛獣だらけの無人島で修業してたこともあるんだからな‼」
どことなく自慢げに鼻息を吐くエドワードの言葉で、少し落ち着いたのかウソップは口をつぐむ。
エドワードはウソップが現れた森を睨み、姿を消した弟たちのことを考えて顔をしかめさせた。
「だが何かがいることは間違いねェんだ…‼ おっさんの飲んだ酒に細工をしたクソったれどもがな…!!!」
「もしかしたら…バロックワークスの追手かも…‼ 2人のうちウソップさんだけが無事だったことにも納得がいく…だってあなたはバロックワークスの暗殺リストにおそらく載っていないから」
ビビは事件が起きてからその可能性を考えていたのか、ウソップの報告で確信を得た様子で呟く。
ウソップは聞き捨てならないビビの言葉に、訝し気に目を細めた。
「酒…⁉ おっさんの酒ってどういうことだ…⁉」
事情を知らないウソップに、エドワードとビビが先ほど起きた一件について説明する。
するとウソップは、怒りを覚えると同時に焦りを抱いた様子で頬を引きつらせた。
「なにィ!!? 胃袋で酒が爆発……!!? じゃあそんなボロボロの体で決闘場に!!?」
聞き間違いではないのかと聞き返すウソップに、エドワードとビビは神妙な表情で頷く。
ウソップはきつく拳を握りしめ、肩を震わせながら眉間にしわを寄せた。
「でもあの2人は100年間…‼ 全力でぶつかって互角の戦いをしてきたんだぞ!!! たぶん…世界で一番誇り高い戦いなんだぞ!!!? そんな勝負のつき方があるかよ!!!!」
ウソップが吠えたその瞬間。
はるか離れた場所、巨人たちの決闘の広場から、真っ赤な血飛沫の柱が立ち上がるのが見えた。
夥しい量の血が噴き出し、雨のように真下に落ちていく光景を、ルフィたちはただ口を大きく開けて呆然と凝視しているほかにできなかった。
「誰だァアア!!!!」
憤怒に満ちたルフィの叫びが、ただの木霊となってむなしく消えていく。
何処かに潜む敵の声が、何もできずに這いつくばるしかないルフィたちを嘲笑っているように聞こえた気がした。
「…よし、ルフィ」
歯を食いしばり、ルフィと同じだけの怒りを燃やしていたウソップが、動けないルフィに変わって自身を指さした。
つきあいは短いとはいえ、自分の目指すべき未来を指示してくれた師ともいえるべき人物に起きた凶事。放っておけるわけがなかった。
「どこの誰だか分かんねェが…!!! おれが行って仕留めてきてやる!!!」
「お前だけにやらせるかよ!!! おっさんの弔い合戦…おれも付き合うぜ!!!」
「私も行くわ‼」
「よし! 是非ついて来てくれ‼ 心強い‼」
「足ガックガクじゃねェかよ!!?」
しかしやはり恐怖が強いのか、凍えているかのように震えるウソップを見てエドワードも呆れる。
ちょっと感心したと思えばすぐ情けない様ばかり魅せるこの男は、果たしていつになったら頼る事が出来るのか。
だがそんなウソップの決心を踏みにじる声が、唐突にかけられた。
「その必要はねェ…‼」
草むらをかき分け、姿を現した人影をルフィは睨みつけ、そして敵意を募らせる。その顔に、見覚えがあったからだ。
「お前らかァ!!!!」
「こいつは返す‼ …必要ねェ…」
「キャハハハハ」
現れた二人組、ウィスキーピークにいたMr.5とミス・バレンタインが、タイミングをはかったかのように悠々と現れる。
そして、ボロボロになったカルーをビビの前に放り捨てた。
「カルーッ!!!」
いつの間にか姿が見えなくなっていた相棒の変わり果てた姿に、ビビは悲痛な悲鳴を上げて縋り寄る。
ウィスキーピークでは眠りこけたままだったウソップは、Mr.5らに見覚えこそないものの、明らかに危険な相手だということは察しているようだった。
「おい…あいつら誰だ…っ!!?」
「まえの町にいた奴らだ‼」
「…なぜあんた達が………!!? カルーには関係ないじゃない!!!」
「そうとも、この鳥には一切関係ねェ…!!!」
ビビの抗議に、Mr.5は忌々しそうに答える。
カルーを睨むその目は、役に立たないゴミを見るような嫌悪感が宿っていた。
「だが、おれ達が危険視していたのは、そこの〝麦わらの男〟と〝錬金術師〟。そいつらと一緒にいる王女をおびき寄せるために、この鳥に鳴いてもらおうと思ったんだが、何とも強情な奴でね…!!!」
それだけで何が起きたのか察したビビは、Mr.5を殺意を込めて睨みつける。
Mr.5はさして気にした様子もなくビビの殺気を受け流し、次いで山の下敷きになっているルフィを見て鼻で笑って見せた。
「だが、まァ…見てみりゃ〝麦わら〟は勝手に動けなくなってた。チビももはや脅威じゃねェ…だから、もうコイツに用はねェのさ…」
「カルー……!!! あんた達…」
懸命に仲間を守ろうとしたカルーをきつく抱きしめ、そんな優しさを踏みにじった悪人たちへの闘志を募らせる。
一方でエドワードは全く関係ない理由で怒りを燃やし、ウソップはドリーたちの戦いを汚した男たちに標的を定めた。
「またチビって言いやがった…!!!」
「お前らなのか!!! 酒に爆弾を仕込んだのは!!!」
「ん? ああ、そうだとも」
プルプルと肩を振るわせるエドワードとウソップを、全く敵としてみていないMr.5はそれがどうしたといった様子で答える。
そして、見覚えのない男が一味に混じっていることに疑問を抱いたように首をかしげた。
「てめェ誰だ…リストにいたか?」
「いいえ。でも、きっと仲間よ。消しておきましょ」
たいした脅威と認識していないのがまるわかりの態度で、ミス・バレンタインがMr.5にそう告げる。
その馬鹿にした態度が、エドワード達の堪忍袋の緒を切らせた。
「お前らが巨人達の決闘を……!!! くらえ、必殺!!!〝火薬星〟っ!!!」
「消えるのはあんた達よ!!!
「まとめてぶっ潰してやる‼」
ウソップがパチンコで、ビビが孔雀の尾を模した暗器で、エドワードが地面から錬成した二振りの剣で立ち向かう。
ウソップの放った爆薬は見事Mr.5に炸裂し、男は一瞬で火炎に呑まれた。
「よっしゃあ‼」
ガッツポーズをとるウソップだが、ミス・バレンタインが爆風で天高く舞い上がる姿を見て目を見張る。
そんな彼に、火炎の中から飛び出した二つの黒い小さな塊が襲い掛かった。
「〝
丸められた鼻くそが爆発し、ウソップが炎に包まれる。
火薬星の爆発の中から無傷で顔を出したMr.5は、つまらなそうにウソップを鼻で笑った。
「ウソップ!!!」
「キャハハハ、油断大敵よ‼ 1万キロプレス!!!」
爆炎に呑まれたウソップを案じたエドワードが振り向いた直後、空中で重量を増したミス・バレンタインが急降下しエドワードを踏みつけた。
高さと重さが加わった一撃は、たやすく少年の体を土の中にうずめてしまった。
「やあっ!!!」
「まァ…落ち着け。そうカッカしねェでもおれ達ァ、まだお前らを殺しゃしねェよ…‼ たださらいに来ただけだ」
暗器を回して斬りかかったビビを、足を爆発させて転ばせると、Mr.5は面倒くさそうにため息をつく。
あっという間に無力化させられた一味を満足げに見下ろし、Mr.5は笑みを浮かべた。
「Mr.3に言われてな…」
「Mr.3…!!!〝ドルドルの実〟の男…あいつがこの島に………!!!」
組織の中でも有名な名に、ビビは目を見開いて歯を食いしばる。
エージェントの中でも位の高い位置に座している男がいるとなれば、どんなに強いルフィたちといえども全滅させられてしまう可能性もあった。
しかしビビの考えを読んだのか、いち早くミス・バレンタインがビビの腕をひねり上げ、その場に拘束してしまった。
「あうっ!!!」
「キャハハハ、おとなしくなさい。あなたごときが………本気でバロックワークスの追手から逃げ切れるとでも思ってたの?」
ミス・バレンタインはさもおかしそうに倒れたエドワード達を、そしていまだ動けずにいるルフィを嘲笑う。
身動きの取れないルフィは、Mr.5の爆発する蹴りの格好の餌食となってしまっていた。
「さすがの3千万の賞金首もあれじゃあねェ…キャハハハ」
「フフ…ウィスキーピークでの礼ができてうれしいぜ。こういうデリケートな問題に海賊風情が首を突っ込むべきじゃなかったな。てめェの他の仲間は全員捕獲済みだ……‼ 一人を除いてだがな…」
吐き捨てるようにMr.5がそう呟くと、ルフィとエドワードはにやりと笑みを浮かべた。
彼の言う除いた一人が誰か、すぐに察したからだ。
「へェ…じゃあ残る一人を見つけなかったら……後悔することになるぜ…」
「ああ…あいつが一番……怒らせると怖ェんだ…‼」
「ほォ…まだ口がきけたか。 おれの〝
黒焦げになったルフィとエドワードの言葉を負け惜しみととらえたのか、Mr.5は見下したように笑う。
そんな彼の靴に、ルフィはペット唾を吐いた。
「ベ‼ おまえらしねっ‼」
Mr.5はこめかみに血管を浮き立たせ、動けないルフィたちに執拗に爆発の蹴りを食らわせる。
何度も何度も起こる爆発に、ビビは泣きそうな表情で唇を噛んだ。
「ルフィさん…!!! エドワードさん…‼ ウソップさん、カルー…」
「くたばれ!!!」
ビビの悲痛な声は、Mr.5の苛立った声と爆発音にかき消されてしまった。
誰もいなくなったドリーの家の前。
爆発によって黒く焦げた土の上で、ルフィがか細くしっかりとした声を吐き出した。
「ウソップ…エド…」
あれだけの爆発を受けても、ルフィの枷である山は動く気配を見せない。
それでもルフィは、Mr.5への怒りの炎を鎮火させる様子を見せなかった。
「あいつら許せるか?」
「論外…!!!」
「いィや!!! 許せねェ……!!!」
それはエドワードもウソップも同じようで、ギリギリときつく握りしめられた拳が、その悔しさを物語っている。
そこでルフィは、自分の目の前の土をくちばしで掘るカルーに気づいた。
「お前…くやしいのか………!!!」
涙を浮かべて土を掘り続けるカルーは、ルフィの問いに力強く鳴いて答える。
その目の光の強さに、ルフィはニッと不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「よし…‼ じゃあ4人で行くかっ‼ あいつらたたき潰しに……‼」