ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「敵が〝罠〟だと教えてくれたあのマーク…‼ さっきルフィとぶつかったときにはそれが背中にかかれてた。犯人はそばにいたあのやる気なさそーな女に違いねェ。原因は1つだ!!!」
ウソップはカルーの背に乗り、Mr.5とミス・バレンタインの追跡から逃れながら仲間のもとへと向かっていた。
ルフィに起きた異常の原因を独自に理解し、自分が倒すべき敵を見つけ出したのだ。
「急げっ!!!」
「クエーッ!!!」
カルーを走らせるウソップは、ついに広場へと戻って来る。
だがウソップは、全てが真っ白に染まった光景に目を見張り、立ち尽くしてしまった。
ゾロも、ナミも、ビビも、アルフォンスも、そしてブロギーも、みんなろうで覆い尽くされてしまっていたのだ。
「あ――、お茶がうめェ…」
「お前ら…何を!!?」
肝心のルフィは、エドワードとともに暢気に茶を飲んでいる。
何を考えているのかと思えば、二人は湯飲みを握りしめたまま屈辱と怒りで顔を歪め、ぶるぶると身体を震わせていた。
誰よりも二人が、動けないことをくやしがっていた。
「お茶が…」
「うめェ…」
「バカヤロウ…」
暗示に逆らうこともできず、牛のように鼻息荒く座らされ続けているルフィとエドワードに、ウソップはぎりりと歯を食いしばる。
ウソップを追い続けていたMr.5の姿が見えると、ウソップはなんとルフィたちに向かってゴムパチンコを構えた。
「必殺!!!〝火炎星〟!!!」
「「うわあああああっ!!!」」
爆炎に包まれ、二人は燃えながら吹き飛ばされる。
突然の強硬に眉を顰めながら、Mr.5は自分の取り出した拳銃を構える。その弾は、悪魔の実の能力によって起爆する自分の息だ。
「〝
息を弾としてバレルに備えることによって、Mr.5の射撃は不可視のものとなる。
銃口によって射線を予測していたウソップにも、これは躱すことはできず爆発を食らってカルーとともに地面に倒れ伏すこととなった。
「ハァ……ハァ……………おい‼ 目ェ醒めたかよ、てめェらっ!!!」
全身を焼き焦がされながら、ウソップは二人に向かって怒鳴る。
ここまで体を張ったのに、仲間の希望を一身に背負っていたのに、情けない姿をいつまで晒しているつもりだと、その声は告げていた。
「ああ、さめた…サンキュー。もうくらわねェぞ、あんな絵の具」
「自分の単純さ加減に……腹が立つ…!!!」
黒煙の中から、座り込んでいた二人が立ち上がる。
暗示の絵の具をつけられていた衣服は、ウソップの狙撃によって燃やされ、ボロ布となって捨てられていた。
「ハァ――‼ ハァ――っ!!! 一人だって死なせてたまるか!!!!」
「全部まとめて……‼ 倍にして返すっ!!!」
火傷の痛みを罰とこらえ、黒焦げにされながらも、ルフィとエドワードは怒りに満ちた目でMr.5達を睨みつけた。
「もう手遅れさ、てめェら」
「その通りだガネ……!!! 手遅れにして…更なる〝絶望〟を味わえ!!!」
森の奥から、吹き飛ばされていたはずのMr.3の声が聞こえてくる。
バキバキと樹々をへし折りながら姿を現したのは、白いろうの鎧。凄まじく分厚いろうで顔以外を覆った、ロボットのような姿になったMr.3だった。
「出撃‼︎〝キャンドルチャンピオン〟!!!」
元のMr.3の貧弱な体からは想像できないゴツイ鎧が、ズシンズシンと地面を踏みしめながら機敏に登場する。
凄まじい重量であることが、踏み固められた地面の足跡から予想できた。
「うわああ〜っ‼︎」
「何だあいつ」
「コイツァ…かつて4千2百万の賞金首を仕留めたという」
「Mr.3の最高美術!!!」
突如登場した新たなろうの武器に、ウソップとルフィはともかくMr.5やミス・バレンタインまでもが息をのむ。
味方にも恐れられている、Mr.3の最大の武器が、今まさにお披露目されたようだ。
「さァミス・ゴールデンウィーク‼︎ 私に塗装を施したまえ‼︎ 美術的に‼︎ あの生意気な麦わらボーシと金髪小僧をひねり潰してくれるガネ!!!」
「そしたら休んでていい?」
「ああ、構わんとも‼︎ むしろ手は出さんでくれたまえよ‼︎ こうなった私はもはや無敵っ!!! 鉄の硬度を誇る〝ドルドルのろう〟でまろやかに体を包み込んだ、この鎧に死角はないっ!!!」
ズシンズシンと大地を踏みしめ、巨体に似合わない機敏さを見せるろうの鎧。
滑らかな光沢を有した鎧の拳をかざしながら、Mr.3は凄まじい形相でルフィ達を睨みつけた。
「本来であれば〝
自身の能力に絶大な自信を持つMr.3は、敗北など微塵も考えていない。数々の実績が、Mr.3に己の勝利を確信させていた。
そして、そんなMr.3の鎧を目の当たりにしたルフィは、キラキラと目を輝かせていた。
「カッチョいい…‼︎」
「見とれてる場合か‼︎ 戦え‼︎」
敵の武器に目を奪われてどうする、とウソップが怒号を放つ。正直言えばウソップもああいったものは大好きだが、さすがに空気を読んで騒いだりはしなかった。
しかしそんな中、エドワードだけがMr.3の鎧を鼻で笑っていた。
「ハッ…ロクでもねェ芸術だな‼︎」
「何ィ!!?」
カチンときた様子で睨みつけてくるMr.3に、エドワードはびしっと義手の指を突きつける。
返される不敵な笑みには、自分とは相容れない美学に対する挑戦がありありと表れていた。
「そっちがそうくるなら…こっちだって見せてやるぜ‼︎ 本物の芸術ってやつをなァ!!!」
エドワードはそう告げ、自分の両手のひらを合わせて地面に力強く叩きつける。
青い閃光が地面に走り、土を盛り上げて原子を組み替え、見る見るうちに巨大な金属の塊を作り上げていく。
「鋼の…義手……!!? まさか…‼」
ただの人間にはできない、しかし悪魔の実の能力者でもないはずの青年の業にMr.3は目を見張り、そしてエドワードの
若くしてすさまじい錬金術の腕前を持つ青年の名に、聞き覚えがあったからだ。
(そうか…‼〝
Mr.0からの指令にあった、王女ビビとともに葬るように伝えられた名前。
アラバスタ王国〝王女〟ビビ、〝
彼に与えられた二つ名は、バロックワークスにも知れていた。
「史上最年少で国家錬金術師の資格を取得した……海軍少佐クラスの権限さえも有する『人間兵器』!!!」
青い閃光に照らし出される鋼の腕を見ながら、Mr.3は合点がいったというように笑みを浮かべた。
「そうか………!!! 貴様が…〝鋼〟の錬金術師……!!!」
どんっ、とより一層閃光が凄まじさを増し、エドワードの周囲を錬成された金属が覆い尽くしていく。
閃光の中で金色の瞳を輝かせながら、エドワードは鋭い目でMr.3達を睨みつけ続けていた。
「来いよド三流…!!! おれとお前の格の違い、教えてやるぜ」
黒い鋼がエドワードを覆い隠し、さらに形を変えていく。
分厚い鋼に覆われた胴体に、地面にめり込む強靭な足、人間を鷲掴みにできそうな巨大な腕、そして赤い一つ目が光る頭部。
男たちの浪漫を乗せた鉄の巨人が、強烈な蒸気を放ちながら立ち上がった。
「緊急出動‼︎〝エドワードロボ(仮)〟!!!」
ギリギリと金属を軋ませ、誕生した巨人がMr.3に向かって一歩踏み出す。
自分の鎧とそう変わらない大きさの、しかし自分とは全く美的センスの異なる物体が創造されたことで、Mr.3は腹立たし気に眉間にしわを寄せていた。
「何なのだガネ、その趣味の悪い鉄クズは…‼︎」
「「カッチョいい〜〜〜〜!!!!」」
一方でルフィとウソップは、現実に目の前に現れた巨大ロボを前に感動で目を輝かせていた。
唸るスチームに軋む身体、いろいろゴチャゴチャしたものが付いているが、それがまた武骨な格好良さを表現していて非常に好みだった。
「おい、ウソップとカルー。お前らにはちょっとやっといてほしい事があるんだわ」
「ん?」
「クエ?」
ウソップとカルーは、エドワードロボ(仮)に乗ったエドワードにそう話しかけられ、困惑しながらも耳を貸す。
やがてMr.3はもう我慢の限界だというように、ルフィとエドワードロボ(仮)に向かって突進を開始した。
「〝チャンプファイト〟‼『おらが畑』!!!!」
「〝
二体の巨大ロボが、蒸気と土片を巻き上げながら激しく激突する。
ガシン‼と凄まじい轟音が鳴り響き、互いの立つ地面が大きく陥没する。巨人たちの激突には劣るが、それでも十分派手なぶつかり合いが繰り広げられた。
まるで絵空事のような戦いに、純粋な男子の心を持つルフィは感動の涙を流していた。
「〝ゴムゴムの……スタンプ〟!!!」
「フハハハハハ‼ ムダだガネ‼ このキャンドルチャンピオンに死角はないっ!!!」
ルフィもエドワードロボ(仮)の力になろうとMr.3を狙うが、むき出しの顔面を狙った蹴りは簡単に弾かれてしまう。
エドワードロボ(仮)の拳がろうの鎧を砕こうと突き出されるが、鋼と同程度かそれ以上の硬度を誇る鎧は一向に傷を刻むことはなかった。
「食らうがいい‼︎〝ドルドルランチャー〟!!!」
Mr.3は飛び退くルフィに向けてろうの拳を向ける。
すると拳の先端が形を変え、大砲のように大きな穴を開けると大量のろうの弾を発射し始めた。
「すっげェェ‼︎ でも危ねェ!!!」
一発でも食らえばロウで全身固められてしまうであろう攻撃を、ルフィは目を輝かせながら逃げ回る。
エドワードは巨大な腕で防ぐが、ろうの重量を受けることで徐々にその機動力が削がれ始めていた。
「フハハハハ!!! 錬金術の行使には陣が必要と聞いていたが、貴様の場合は
「くっそォ、よけいなこと知りやがって……おれが姉弟子にしばかれるじゃねェか!!!」
無限に放たれるろうの弾に苦戦し、歯を食いしばり苛立ちを表すエドワード。
彼にはMr.3や敵に馬鹿にされた挙句、不利に追い込まれることよりも、あとでエレノアに雷を落とされることの方が恐ろしかった。
「ギャーッ!!! ギャーッ!!?」
「グエ―――ッ!!!」
「ちょこまか鬱陶しいんだよ…‼︎」
その周囲では、カルーとウソップがそれぞれ別々に逃げ回っている。
あちこちで上がる火柱は、Mr.5が放つ爆発する息の弾によるものだ。
「フン…逃げ回るだけのクズが、足手まといとはこのことだ‼︎」
「キャハハハ無様ね!!!」
みっともなく逃げ続ける一人と一匹を嘲笑い、しかしなかなか仕留められないことに次第に焦れてくる二人。
刻一刻と迫る自分が告げたタイムリミットに、Mr.3は愉快そうに笑い声をあげた。
「フハハハハ‼ 諦めろ諦めろ‼ 奴らは私の〝美術作品〟になったのだ!!!」
「ふん‼ そんなもんにさせるか‼」
「あいつらの命はお前なんかにやらねェよ!!!」
あざ笑うMr.3に向けて、エドワードロボ(仮)は大きく右腕を振りかぶる。
そしてまたしても砲門を構えるMr.3に向けて、フルスイングで拳を文字通り放った。
「オラくらえ‼︎〝おもちゃで遊んでたらよくある事故パーンチ〟!!!」
「ぬあ!!?」
エドワードロボ(仮)の腕が関節から外れ、すっぽ抜けた拳がろうの鎧に炸裂する。
Mr.3がバランスを崩したたらを踏むと、ろうの鎧をエドワードロボ(仮)が片腕で抑えつけ、飛び上がったルフィがMr.3の特徴的な髪を掴む。
いまだに煌々と燃え続けている髪の先についた火を手にし、ルフィはにんまりと勝利を確信した笑みを浮かべた。
「ルフィ‼ 交替だ!!! その火をしっかり離すなよ!!?」
「おう!!! …っていいのかァ!!?」
エドワードはがバッと振り向くルフィをよそに、エドワードロボ(仮)の中でパチンと手を合わせ、ろうの鎧を抑え込んだままロボの中から飛び出す。
ルフィはすぐさまエドワードロボ(仮)の中に飛び込み、夢のロボの操縦に夢を馳せた。
「うおおおおおまきおわったぞコラァ!!!」
「クエーッ‼︎」
「よっしゃ‼︎ あとは任せろ!!!」
そこへ、どさーっとウソップとカルーが息を切らせながら飛びこんできた。
エドワードはきらりと目を輝かせ、ウソップとカルーが走り回った後にまかれている大量の粉に向けて、パチンと合わせた手のひらを叩きつける。
するとその直後、まかれていた粉が発光し、あちこちで軽い爆発を起こし始めた。
「ム…!!? 貴様‼︎ なにをした!!?」
「こっちはハナっからてめェなんざ狙ってねーんだよ!!!!」
「おいエド!!! 操縦できるのはうれしいけどこれよく見たらただの着ぐるみじゃねェか!!!」
「ガマンしろ!!! …ろうが霧になるってことは……火で溶けるってことだ!!!」
「フフン…‼ だが、そんなことが今さらわかろうと貴様らにはもう勝機も‼ 時間もない‼ もはや持って30秒!!! それで、そいつらの心臓は停止する!!!」
「30秒もいらねェっての…‼」
思っていたのと違ったルフィが、それでもMr.3を抑え込む任務をやり遂げながら叫ぶが、エドワードはそれを一喝して終わらせる。
その時、爆発が起きた地面にできた亀裂から、しゅうしゅうと大量の気体が噴き出す音が聞こえ始めていたからだ。
「なんじゃありゃ…⁉ ガスか!!?」
「ああ…ちょっとの火の気で大炎上するとびきり危険な
「なるほどな…‼︎」
エドワードの考えを読み取ったウソップが、オブジェのまわりに蔓延し始めるガスを見てにやりと笑みを浮かべる。
Mr.3達もその考えを悟ったのか、焦燥しながらもがき始めた。
「い、イカン‼︎ やめさせるガネ!!!」
「させるか‼︎」
「クソ…‼ 爆発もできねェじゃねェか‼」
「私がやるわ!!!」
自慢の爆発能力が使えないMr.5に代わって、ミス・バレンタインがエドワード達を止めるために走り出す。
だがその時にはすでに、Mr.3の頭の火を確保したルフィが、エドワードロボ(仮)を纏って走り出していた。
「もう遅ェんだよ!!!」
「みんな起きろォ!!!」
満面の笑みを見せたルフィが、Mr.3をガスの中に向けて突き出す。
凄まじい力で拘束されたMr.3はもはや逃れることも叶わず、ガスの中に頭から突っ込まされた。その直後。
「うあちゃああ!!!!」
ガスに引火した火が、とてつもない業火となって広場全てを埋め尽くしていく。
木々も、地面も焼かれ、そしてすべてのろうが溶かされ、どろどろの液体となって形を失っていった。
「熱っ熱ィ―――――っ!!! おのれ麦わら!!!」
「すげー火、大丈夫か⁉︎ あいつら」
溶かされたろうの鎧で危うく窒息しかけたMr.3が、慌ててるろうの中から顔を出すと、思った以上の炎の凄まじさにルフィが驚愕の声を上げる。
その隙に、Mr.3は全速力で逃走を開始した。
「よくも私のキャンドルサービスを…!!!」
「あっ!!! 逃がすかこんにゃろ!!!」
あっという間に森の中に姿を消していくMr.3を追い、ルフィも急いで森の中に急ぐ。カルーも一緒に、その後を追った。
いつの間にか姿を消したミス・ゴールデンウィーク共々、ルフィたちは許す気にはなれなかった。
「鳥!!! あいつらを許すな…
「クエッ!!!」
熱い怒りを胸に燃やし、ルフィとカルーは森の中を駆け抜けて行くのだった。