ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第66話〝裏方の仕事〟

 残されたエドワードとウソップは、ため息をついて肩をすくめる。

 すると、炎の中から何とか逃げ延びたMr.5とミス・バレンタインが憎々しげに彼らを睨みつけた。

 

「ナメたマネを…!!!」

「やってくれるじゃないあなた!!! もう余興はおわりよ‼︎」

 

 もうショーだ余興だと楽しんでいる場合ではない、この手で直接たたき潰してやると意気込む二人だったが、ミス・バレンタインの背後に突然巨大な影が迫った。

 ミス・バレンタインが気付いた時には、その巨大な影が彼女の顔を張り倒していた。

 

「まったくもう…‼︎ こんな炎、ボクはともかくナミさんたちがどうなっていたか…‼︎」

「ぜいたく言うな、弟よ」

「助かっただけありがてェと思え」

 

 抗議の声を受けたエドワードとウソップは、少し鎧を焦げさせたアルフォンスにそう告げる。

 アルフォンスは苦笑しながら、同じく命からがら脱出したナミとビビは安堵のため息で答えた。

 

「そうね…ありがとっ」

「ウソみたい。私達…生きてるのね」

 

 いまだに信じられない様子で自分の体を見下ろすビビ。

 衣服はさすがに焼けてあられもない姿になってしまっているが、死なずに済んだことを考えれば儲けものだった。

 

「いやでも本当に助かりました…実はボクだけあの状態でも意識保ってまして」

「あ? じゃあお前だけ無傷じゃねェか‼︎」

「でも………死ぬことも動くことも許されず、誰一人答えてくれることなく真の意味でひとりぼっちの時間を過ごす羽目になっていた可能性も…」

「「「いやあああああああああ!!!」」」

 

 ぼそりとアルフォンスが呟いた、考えたくもない未来にウソップたちは一斉に抱き合って悲鳴を上げる。

 不死には不死なりの苦労があるのだと知らされ、それを聞いていたエドワードもサッと頬を引きつらせながら視線を逸らしていた。

 

「チッ…ろうが溶けたか‼ めんどくせェな。もう任務をしくじるわけにはいかねェんだよ‼」

 

 そんな中、ミス・バレンタインがやられたことに眉間にしわを寄せるMr.5が迫る。

 ウソップはすかさず、Mr.5に向けてゴムパチンコで弾を放った。

 

「必殺!!!〝火薬星〟っ!!!」

「バカが。爆弾人間の、このおれには〝火薬〟は効かねェと何度も証明したはず!!!」

「くらいついたな」

 

 腹の中で無効化してやろうと、ウソップの弾を飲み込んだMr.5は、告げられた言葉にハッと表情をこわばらせる。

 ウソップはにやりと意地の悪い笑みを浮かべ、安易に手を出したMr.5を逆に嘲笑った。

 

「悪ィな、おれはウソつきでね。そりゃ火薬じゃなくて〝特製タバスコ星〟だ!!!」

「ぐお――――――――っ!!! 辛―――――――――っ!!!」

「だっはっはっはっはっは、効力は身をもって立証済みだ!!!」

 

 いつかの自分のように口から火を噴いて苦しむMr.5に、ウソップは悪戯が成功した時のような愉快気な笑い声を上げる。

 しかしMr.5は、辛さだけではまだ倒れなかった。

 

「おのれ海賊ども!!! カッカッ…カッ!!! 〝全身起爆〟で吹き飛べ!!!」

 

 ギラリとサングラスを光らせ、Mr.5がウソップに組み付く。

 悲鳴を上げるウソップや、救い出そうと駆け寄るエドワード達もまとめて吹き飛ばそうと、Mr.5が能力を発動させようとした。

 その時だった。

 

「〝焼鬼斬り〟!!!!」

 

 いまだ燃え続ける業火の中から飛び出した影が、三本の燃える刃を携えてMr.5に斬撃を浴びせる。

 予測しない一撃を食らったMr.5は、もともとかなり弱っていたこともあって、さしたる抵抗もできず地に伏した。

 

「燃える刀ってのも悪くねェ…」

 

 ゾロは刀が纏っていた炎を払い、静かに鞘に納める。

 ほっと安堵の息をつく一同は、続いて聞こえてきた地鳴りに振り向いた。

 

「よォ………命あってなによりだ」

「……フフ…………ああ」

「師匠……」

 

 安堵しているような、何もできなかったことを悔やんでいるような、複雑な表情で座り込むブロギーにウソップが小さくつぶやく。

 そして彼らは、Mr.3と彼を追っていったルフィのいる森の方へ眼を向けた。

 

「残る敵は、あと二人か」

 

 

「やっぱ変だろ、オイ。クソオカシーぜ。こんなに待ってんのに、なぜ誰も戻らねェ…」

 

 メリー号に戻ってきたサンジが、いつまでたっても誰も戻ってこないことに疑問を抱き、首をかしげる。

 ウィスキーピークでは顔を知られていなかった彼は、狩り勝負の最中に襲われることはなかったようだ。

 

「やっぱナミさんやビビちゃんやエレノアちゃんの身に何か起きたんじゃ……!!? だとしたらトカゲ料理の支度なんてしてる場合じゃねェな、おれは。よし、探そう。ナ――ミさ~~ん♡ ビ――ビちゃ~ん♡ エ――レノ――アちゃ~ん♡」

 

 すぐさまメリー号を降り、ジャングルの中へ入っていく。

 男たちは除外し、とにかく女性陣を探すことに集中していた彼は、途中で襲い掛かってきた牙の長い猫(サーベルタイガー)を乗り物代わりに森の中を探し回った。

 

「おーい、返事してくれーっ。好きだ――っ」

 

 ボコボコにした猫が鳴きながら走り回っていると、サンジはふと森の中に奇妙なものを発見した。

 

「ん? なんだこりゃ」

 

 猫を降りて近づいてみると、それはろうでできた一軒の小屋だった。

 訝しく思いながら、中を覗いてみれば、なんとそこには探していた女性の一人、エレノアが座っているのが見えた。

 

「なんだよエレノアちゃんたら…♡ こんな所でくつろぎタイムなんて、おれに言ってくれたらドリンクとかいくらでも用意したのにっ‼ あ、この家ももしかして錬金術で作ったり……」

 

 サンジが警戒もせずにドアを開けて入室すると、エレノアはやや厳しい目でサンジを見やり、眉間にしわを寄せる。

 そして何か考えると、猫なで声ですり寄ってくる彼に小さな声で話しかけた。

 

「………サンジくん、お願いがあるんだけどさ」

「なんなりと!!!」

 

 バッ、と大袈裟な動きで跪く彼にやや冷めた視線を向け、エレノアは有無を言わさぬ口調でさらに告げる。

 

「この空間に近づくヤツがいたら、できるだけ静かに仕留めといてくれる? 今からちょっと重要な仕事があってさ」

「え? あ、ああ…」

 

 さすがにいつものノリは求められていないことを察したサンジが、戸惑い気味に小屋の外に下がる。

 すると、二人の耳に奇妙な音、というか声が聞こえてきた。

 

『プルルル…プルルル…』

 

 見れば、小屋の隅に置かれた籠の中からその声が聞こえてくる。

 急ぎエレノアが近づき、籠の中から音の原因を取り出し、テーブルの上に置いた。

 それは、大きなカタツムリのような生物だった。管のついた装置が取り付けられたそれは、先ほどから口で音を鳴らしていた。

 

「電伝虫じゃねェか………‼」

 

 知っていたのかサンジが感嘆の声を上げるが、エレノアは口元に指をあててサンジを睨む。

 慌てて口を閉ざすサンジを横目に、エレノアは数回咳払いをすると、意を決したように殻に取り付けられた装置、受話器を外して口元に寄せた。

 

「……はい、こちらMr.3」

「………!!??」

 

 すると、エレノアの口から聞いたことのない男の声が響き、サンジが思わずぎょっと後ずさる。

 構わずエレノアは、電伝虫が口にする答えを待った。

 

『てめェ、報告が遅すぎやしねェか…?』

「……一応確認しますガネ、そちらはどなたですガネ?」

 

 冷や汗を流しながら尋ねるエレノアに、電伝虫は、いや、電伝虫の向こう側から離している人物は低く響く声を発した。

 

『おれだ。〝Mr.0〟だ……』

 

 サンジは目を見張り、エレノアと電伝虫を交互に凝視する。

 しかしすぐに表情を改めると、エレノアに言われていた通り、彼女の邪魔をするものが現れないか見張りに立った。

 

『おれが指令を出してから、もうずいぶん日が経つぞ。いったいどうなってる、Mr.3』

「…………」

『何を黙りこくっている。おれは質問をしているんだ。王女ビビと麦わらの一味………そしてあの女は抹殺できたのか?』

 

 エレノアは今にも吐きそうな緊張を覚えながら、遠くから聞いていたMr.3の特徴を思い出しながら口を開いた。

 

「……ええ、任務は完了しています。あなたの秘密を知った輩は全員始末しました。ですのでもう追手は必要ありませんガネ」

『…そうか、ごくろう…』

「…ですが」

 

 満足げに返したMr.0に、エレノアはかねてから考えていた作戦を実行する。

 かなり危険な賭けにはなるが、一味を、そしてあの優しい王女を守るために必要な策だった。

 

「大変申し訳ないガネ……〝妖術師(ウィザード)〟だけが我々の包囲を破りまして、現在姿を消しています」

『…………逃がした、というのか』

「い、言っておきますが社長(ボス)‼ 私の能力とあの女の力では壊滅的に相性が悪い!!! それについてはご存知でしょう!!?」

 

 一気に不機嫌そうになるMr.0の声に、慌てた様子を装いながらエレノアが返す。

 事実、情報収集をした限りMr.3の能力は物質を作り出すもの。エレノアやエルリック兄弟ならば対処することは可能なはずだった。

 

『だが奴らの力にはある程度の制限がある……対処法については、どんな方法でも構わんから腕を封じろと教えておいたはずだぞ』

「そ、それはそうですが……‼︎ それに……もともとあの女は〝白ひげ〟の娘‼ 下手に手を出せばこちらが危険だガネ‼ 数の差を見てすぐさま撤退したところを見るに、王女とのつながりの薄い関係性のようですし……放置していてもさほど問題はないのではないかと」

『甘ェな、Mr.3…………あの女は自分の連れに手を出されて黙ってるタマじゃねェ。なぜ〝麦わら〟とかいう雑魚海賊と共にいるかは知らんが、近いうちに必ず報復に現れるぞ』

 

 エレノアは過大評価されていることにやや頬を引きつらせながら、それでも向こうが自分の考えにつられていることにほくそ笑む。

 しかし少なくとも、向こうの優先度に変動が起きたのは確かだと、エレノアは達成感を抱いた。

 

『………だが過ぎたことは仕方がねェ。今そっちに向かってるアンラッキーズから届け物を受け取ったら、お前はミス・ゴールデンウィークと共にアラバスタへ向かえ。時機がきた…おれ達にとって最も重要な作戦に着手する』

 

 告げられた内容に、エレノアはごくりとつばを呑む。

 いよいよ迫っているのだ。かつて初めて出会った時からその危険性を醸し出していたあの男の作戦が、動き出す時が。

 

『詳細はアラバスタへ着いてからの指示を待て』

「……了解」

 

 緊張で声が震えないように細心の注意を払いながら、エレノアが受話器を置こうとした時だった。

 小屋の外から、何回もの爆発音や粉砕音が響き渡ってきたのだ。

 

『何事だ』

「お気になさらず…‼ Mr.5達が島の生物相手に暴れてるだけでして…‼ すぐにすむガネ」

『…まァいい。とにかく貴様はそこから一直線にアラバスタを目指せ。なお……電波を使った連絡はこれっきりだ。海軍にかぎつけられては厄介だからな。以後、伝達は全て今まで通りの指令状により行う。…以上だ。幸運を…Mr.3』

 

 びくぅっ‼と肩を跳ね上げたエレノアは、思わず小屋の外にいるサンジに恨みがましい視線を送りながら慌てて誤魔化しきった。

 そしてやっと向こうが通話を終える音が聞こえると、エレノアも受話器を置いてがっくりと天を仰いだ。

 

「…………ぶはァ!!!」

 

 それまで真面に息をすることも忘れていたようで、肺が空気を求めて悲鳴を上げている。

 何より、無理矢理声を作った反動がきつくて仕方がなかった。

 

「あーもうやっぱこれ喉に負担かかるからキライだよまったく…‼ ゲホッ、とにかくこれでビビたちへの注意は…………私に向く」

 

 咳き込みながら、エレノアは覚悟を秘めた眼差しで虚空を見つめる。

 あの男にどこまで感づかれるか心配だったが、やはり電伝虫越しには声の違いは伝わらわなかったようで、うまくいったことにしきりに安堵していた。

 

「ていうかサンジくんうるさい。静かにって言ったよね?」

「あ、ごめんよエレノアちゃん! いやこのアホウドリどもが騒ぐもんでさァ…」

「……ハァ、もういいよ。なんとかごまかせたから」

 

 小屋の外で、いつか見たラッコとハゲタカを相手に暴れていたサンジにそう告げ、エレノアはさっさと歩き始める。

 そのあとに、サンジは心配そうな表情で続いた。

 

「さっきの電話……内容から察するに向こうの社長(ボス)の」

「うん。Mr.0……王下七武海の一人、〝砂漠の王〟クロコダイル」

 

 エレノアは頷くと、危険な仕事をさせてしまったことを悔やんでいるのかサンジが渋い表情を浮かべている。

 ため息をつくと、エレノアは自分の考えをサンジに語って聞かせた。

 

「向こうがどれだけこっちの情報を得ているかはわからないけど、少なくともいくつか布石を打っておくことは必要だからね。……私が一味とは別行動していると知ったら、きっとあいつはそっちに注意を割く」

「…自分の身を危険にさらすことになるよ」

 

 一人で行動しようとしていることを咎めるようなサンジの声に、エレノアは不敵に笑う。

 敵がこの島にいることを知りながら、情報収集を優先させたのは自分。だからこそ、今後自分の命を懸けなければならないのだ。

 

「たった16歳のあの子が命かけてんだもの…‼ お姉ちゃんもそれぐらい頑張らないとね‼」

 

 そう言ってむんと胸を張るエレノアに、サンジはため息をつくと同じく笑みを浮かべた。

 

「だったら………とことんお付き合いしますぜ、レディ?」

 

 

「ウオオオオオオオオオオオン!!!!!」

 

 広場には、今まさに凄まじい慟哭とともに巨大な虹がかかっていた。

 天に向かって吠え続けるブロギーが、両目から大量の涙を流し続けているのだ。

 

「…泣き方まで豪快ね……!!!」

「まるで滝だぜ……!!!」

「おい見ろ‼ 後ろっ、虹っ!!!」

「クエェ…!!!」

「耳が………‼」

「わかるぜブロギージジョオ!!!」

「さすがにこのスケールの差は……!!!」

「うんざりしてくるね……!!!」

 

 何から何までスケールの違う巨人の悲劇に、ある者は呆れ、ある者は驚愕し、ある者は同情する。

 しかしそんな感情は、次の瞬間あっという間に吹き飛ばされた。

 死んだと思われていたドリーが、むくりと体を起こしたのだ。

 

「気絶していたようだ…」

「……ドリー、お前…なぜ…!!!?」

 

 目が飛び出さんばかりに驚愕したブロギーは、傷口を抑えるドリーを凝視して言葉を失くす。

 ドリーは苦笑しながら、傍らに置かれた自分たちの武器に目を向けた。

 

「おそらく…………武器のせいだ…」

「武器………⁉ ……‼ そうか‼」

 

 告げられた言葉に、涙をぬぐっていたウソップはハッと気づく。

 ドリーとブロギーの武器は、刃こぼれだらけでひどい有様になっている。おそらく全力で振るい続けていれば、近いうちにぽっきりと折れていただろう。

 

「100年続いた巨人達の殺し合いにゃ……さすがのエルバフの武器もつき合いきれなかったってわけか…」

「途方もねェ…………豪快な奇跡だ」

「おいブロギー、抱きつくな。傷にひびく…」

「よくぞ生きていてくれた親友よっ!!! ガバババババ!!!」

「ゲギャギャギャギャ…」

 

 思わぬ偶然に救われたことで、ウソップたちも安堵のため息をつき、ドリーとブロギーも涙を浮かべて歓喜する。

 ゾロに至っては、その偶然に苦笑いを浮かべていた。

 

「奇跡なもんか……当然だ……100年打ち合ってまだ原型をとどめてるあの武器の方がどうかしてるぜ。その持ち主たちもな…」

「今日は何と素晴らしい日だ!!! エルバフの神に感謝する!!!」

「オウ、ブロギーよ。このおれをブッた斬って気絶させたことが、そんなに嬉しいか」

「バカ野郎、そんなこと言ってんじゃねェ!!!」

「痛っ、傷はさわるな! ゲギャギャギャ…………‼」

「ガバババババババ…」

 

 よほどうれしかったのか、それとも紛らわしいことをされたからかバシッとブロギーが肩を叩くと、また笑い声が上がる。

 しばらく穏やかな時間が流れていたが、その内妙な雰囲気になり始めた。

 

「やるのか貴様っ!!!」

「オォ、叩き潰してくれるっ!!!」

「何でまたケンカしてるのよっ!!!」

 

 突然立ち上がって睨み合う二人にナミは突っ込み、ルフィは笑い転げるのだった。

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