ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第71話〝魔女のいる城へ〟

「よし、おれも行く!!!」

「私も行くっ‼」

「ではボクも、同行します‼」

 

 重病の身でありながら、ナミが自らDr.くれはのもとに向かうと決断した後、当然護衛をつける必要があった。

 サンジが名乗りを上げるのは当然のことであったが、意外にもエレノアとアルフォンスも真っ先に手を挙げていた。

 

「ならおれも行くぜ!!! じっとなんかしちゃいられねェ‼」

「あんたはダメでしょ」

「あァ⁉ 何でだよ姉弟子‼」

「ほら、これ」

 

 慌てて自分もついて行こうとしたエドワードだったが、エレノアにコンコンと足を叩かれて気付く。

 エドワードの義足は金属製、極寒の大地では逆に危険な枷になりかねないものだった。

 

「…………あ」

「そんなものぶら下げていったら一発で凍傷で死ぬよ、エドくん」

 

 なまじ幼馴染の作った機械鎧(オートメイル)の性能がいい分、時々義足であることを忘れる困った弟弟子に、エレノアは思わずため息をつく。

 しかしエドワードは諦めきれず、自分よりも厄介な両足を持つエレノアに指摘した。

 

「じゃあ姉弟子だって…‼」

「おあいにくさま。私は事前にウィンリィに特別製の機械鎧(オートメイル)に換装してもらったから。…じゃあね」

「くっそォ…」

「まァまァ兄さん…あとはボクに任せてよ」

 

 肝心なところで詰めが甘いことを示唆され、エドワードは悔しさに唇をかみしめるが、アルフォンスになだめられ渋々引き下がる。

 生身の体ではないアルフォンスならば、どれだけ過酷な状況であってもうまく立ち回れるだろうと、エドワードも任せることに決めたようだ。

 

「お前が一度でも転んだらナミは死ぬと想え!!!」

「えっ!!! 一度でもかっ⁉」

「待って…じっとしてて………‼ ちゃんと縛っておかなきゃ…」

 

 サンジから注意を受けている間に、ビビがルフィの背中にしっかりとナミの体を縛り付ける。

 ナミの呼吸に負担がかからない程度に、けれど決して離れることがないようにしっかりと紐を結びつけた。

 

「これでいいわ。私はここで待たせてもらうから! かえって足を引っぱっちゃうし」

「不本意ながらおれもな…」

「おれもだっ!!!」

 

 心配そうなビビと不満げなエドワード、そしてなぜか堂々とした態度のウソップに見送られ、ルフィたちは準備を終える。

 一刻の猶予も許されない現状、仲間同士の会話も最低限にしなければならなかった。

 

「わかった! ナミ、じゃあ、しっかりつかまってろよ‼」

「うん……」

「…本気なら…止めるつもりはないがせめて反対側の山から登るといい…ここからのコースには〝ラパーン〟がいる…‼ 肉食の凶暴なうさぎだ…集団に出くわしたら命はないぞ‼」

「うさぎ? でも急いでるんだ…平気だろ? なァ」

「あぁっ、蹴る!!!」

「だめですよー」

 

 ドルトンの忠告もほどほどに聞き流し、ルフィたち四人は遥か高い山頂を目指して豪雪の中を走りだす。

 ザクザクと真っ白な世界に足跡を刻みながら、目指すは〝魔女〟のいるという元王の住まう城だ。

 

「じゃ、いくか‼ サンジ!!! アル!!! エレノア!!! ナミが死ぬ前にっ‼」

「「「縁起でもないことを言うなっ!!!」」」

 

 余計なことを口にするルフィにツッコミを入れ、一同は未だ吹雪き続ける中を突っ走る。

 その背中が純白にかき消されて見えなくなってから、ドルトンがどことなく不安げな様子で呟いた。

 

「本当に大丈夫かね…」

「まあ…あの4人は心配ねェが」

「ナミさんの体力がついていけるかどうか…‼」

「あとはまァ…あいつら任せだな」

 

 姿が見えなくなっても、ビビたちはその場から動こうともせずに立っていた。

 ドルトンが促すように自宅のドアを開けても、じっと山脈の方を見上げたままであった。

 

「…どうした君達。中へ入りたまえ…外は寒い…」

「…いいです…私は…外にいたいから…‼」

「おれも」

「おれも!」

 

 遠慮するビビと同じように、ずるっ!と垂れてきた鼻水をすすり、エドワードとウソップも意地を張るように誘いを拒否する。

 ルフィたちが無事に戻って来るまで断固として動かない、そんな意志を見せられているように感じ、ドルトンはふっと微笑んだ。

 

「……………そうか…では…私もつき合おう…」

 

 そう言って隣に腰を下ろすドルトンに、少しだけ驚いた様子のエドワードが笑みを浮かべる。

 しばらくしてドルトンは、遠い目をしながら物憂げに語り始めた。

 

「…昔はね…エドワード君たちの言う通り、ちゃんといたんだよ」

「え?」

「医者さ…理由あって、全員いなくなってしまっったんだ…」

「………イッシー20だろ? なんでだ?」

 

 この島、元ドラム王国に滞在経験があるエドワードは、当時の医療を担っていた集団のことを思い出して首を傾げる。

 問われたドルトンは、その質問に対し苦し気に眉間にしわを寄せた。

 

「一年にも満たない数ヵ月前に…この国は…一度、滅びているんだ…海賊の手によって…!!!」

「え…」

「国が……!!?」

 

 語られた唐突な内容に、ビビたちは驚愕をあらわにする。

 しかっ直ぐに、きたばかりの頃の住人達の反応を思い出し、それぞれで納得の表情を浮かべた。

 

「…海賊相手にえらくピリついていたのはそのせいか…」

「そうだ…みんな海賊という言葉にはまだどうもね」

 

 苦笑し、ドルトンはまた遠い目になる。

 襲撃を受けた当時のことを思い出しているのだろうか、その目には悲しみの他に、件の海賊達に対する怒りも混じっていた。

 

「…たった5人の海賊団だった…船長は〝黒ひげ〟と名乗り…我らにとって絶望的な力でこの国をまたたく間に滅ぼした…」

「…たった5人の海賊に…!!? うそでしょう………!!?」

「〝黒ひげ〟……⁉」

 

 予想以上の規模の小ささと、聞きなれない海賊の名にビビもウソップもエドワードも、信じられないと目を見開く。

 しかしドルトンはなぜか吹っ切れた様子で、むしろ吐き捨てるように答えていた。

 

「だが…この国にとってはそれでよかったと言う者もいる…‼」

「国が潰れて…いいわけないじゃない‼」

「そうだ、そんなバカな話があるか………!!!」

()()()()()()()()な……確かにあの野郎の国なら、滅んだほうがよかったかもしれねェ」

 

 反論するビビとウソップだが、それに答えたのはエドワードだった。

 彼はドルトンが見せる反応の理由に気づき、納得と同時に落胆のため息をつくと、その口元をヒクヒクと引き攣らせて笑みを浮かべた。

 

「ようやく思い出したぜェ……!!! どっかで見たことのあるツラだったんだ………()()()()()…『ワポル』の野郎…‼」

「!!! そうだ、あの男…!!! 思い出したっ!!!」

「ワポルゥ!!!?」

 

 エドワードが呟いた名にドルトンがうなずき、その名にビビとウソップが大きく反応した。

 何故ならドラム王国に着く直前、突然メリー号を襲撃してきた太った海賊が呼ばれていた名こそ、ワポルだったのだから。

 

「君達…!!! ワポルを知っているのか!!?」

「知ってるも何も、おれ達の船を襲ってきやがった海賊の名だ…‼ まー、おれが追い払ってやったが。今思い出してみりゃ、確かにドラム王国がどうとか…」

「ええ…間違いないわ。はっきりと思い出した…私、子供の頃に父に連れられて行った王達の会議で………うっ!!!」

 

 危うく秘密の情報まで口にしかけたビビの横腹を、エドワードが無言で肘で打つ。

 しかしドルトンは聞き逃さなかったようで、ビビに訝しげな視線を向けていた。

 

「王達の会議…⁉ 君は一体…」

「ナンデモナーイナンデモナーイ」

「あ…いえ…その、とにかく………!!! 会いました、ワポルに‼ 昨日のことです。ここへ来る途中に…」

「………‼ それは本当かね………‼」

 

 ドルトンは本気で驚いた様子で、言葉も出ないようで襲撃を受けたというビビたちを凝視している。

 エドワードは頭の隅に引っかかっていたもやもやが晴れた気分で笑みを浮かべていたが、しばらくして眉間にしわを寄せて振り向いた。

 

「…って言うか、どういうことだ⁉ 国は滅んだってのにあの野郎は健在で、しかも海賊になってるだと⁉」

「海賊など一時のカモフラージュだろう。ワポルはこの島へ帰ろうとして海を彷徨っているにすぎない」

「…だったらあの船に乗ってた人達は、この国を襲った海賊に敵わず…島を追い出された兵達なのね…」

 

 無惨に国を追われたというのに、恥知らずにも賊に身を堕として生き延びているというのは、確かに情けない話だろう。

 しかしドルトンは、納得しかけたビビの言葉を即座に否定した。

 

「敵わず…⁉ 違う!!! …あの時国王(ワポル)の軍勢は…()()()()()()()()()()()…!!!」

 

 ドルトンの言葉に、ビビだけではなくエドワードも目を見開く。

 理解がまだ追いついていない彼らに対し、ドルトンは怒りと悔しさを隠しきれない様子で苦々しく語った。

 

「こともあろうに…海賊達の強さを知ったとたんに…あっさりと国を捨て‼ 誰よりも早く国王(ワポル)は海へ逃げ出したのだ!!!」

 

 国王ワポルが見せたというとんでもない行動に、ビビたち三人は絶句する。

 国のトップが、国民を守り導くべき存在がそれをためらいなく見捨てるなど、あってはならない事だった。

 

「あれには国中が失望した…‼ これが一国の…」

「それが一国の王がやることなの!!?」

 

 ドルトンが口にしようとした言葉を、怒りを表したビビが叫ぶ。

 王族の血を引く彼女が抱く憤怒に、ウソップもエドワードもかける言葉を見失ってしまった。

 

「ビビ…」

「ひどすぎる!!! そんなの…王が国民を見捨てるなんて」

「その通りだ……だが、とにかくもうワポルの悪政は終わった。この島は、もう残った国民達のものだ…‼ 町村の復興も順調に終わっているし、いま団結して新しい国を作ろうとしている」

 

 つい安堵しそうになるが、エドワードは脳裏によぎった不安で眉間にしわを寄せる。

 ワポルと遭遇したのは、それほど遠い場所ではない。何らかの偶然が重なれば、あの男が戻ってくる可能性もなくはないのだ。

 

「だから我らが今一番恐れているのはワポルの帰還、王政の復古だ。人々が不安定な今、それだけは避けねばならん‼ この島に新しく平和な国を、築くために………!!!」

 

 確固たる決意を抱き、ドルトンは厳しい表情でビビたちにそう告げる。

 ただの守備隊長どころではない、人々を導き守れる器を持った男の姿に、ビビは思わず胸を熱くしていた。

 そんな時、どこか迷った様子を見せながら、エドワードがドルトンに耳打ちした。

 

「ところでよォ…ドルトンさん。気になってたんだが………ニーナは、どこいった?」

「………先にアルフォンス君が会うことになるだろう」

「ってことは……あのバアさんのところかよ!!?」

 

 先ほどとは違う理由で苦々しい表情のドルトンに教えられ、エドワードは思わず顔をしかめてしまう。

 ウソップとビビは聞きなれない名前が気になり、頭を抱えるエドワードに思い切って尋ねてみた。

 

「誰だ、その…ニーナって」

「…………友達だよ。おれ達が絶対に忘れちゃいけねェ…大事な」

 

 かつての縁を思い出し、エドワードはどことなく切なげな表情で答える。

 それだけ言うととたんに口を閉ざしてしまった彼に代わって、ドルトンがエドワードに感謝の視線を向けながら軽く語ってくれた。

 

「…この国には、もう一人………〝悪魔〟がいたんだよ…エルリック兄弟は………そいつを見つけ出してくれたんだ……」

「………何もできなかったよ、おれ達は………」

 

 ドルトンは褒め称えるが、その対象であるエドワードは全く嬉しそうではない。

 むしろ、語り聞かせられることが苦痛な様に表情を歪め、ドルトンから気まずげに視線をそらしている。何となく触れてほしくなさそうな雰囲気を感じ取り、ビビもウソップもそれ以上の追求はできなかった。

 するとそこで、エドワードはハッと顔を上げてドルトンに振り向いた。

 

「…ん? おいちょっと待て…じゃあ、タッカーの野郎は⁉」

「……〝黒ひげ〟の襲撃を受けた際、そのどさくさに紛れておそらくはワポルと共に……!!!」

「クソッ‼ あの野郎……あの船にいたんならまとめて海に沈めてやったってのに…!!!」

 

 エドワードはドルトンからの答えを聞き、苛立ちを表すように頭をかきむしった。

 敵意どころか殺意まで感じる豹変ぶりに、さすがにウソップは何があったのか気になり、エドワードの肩を掴んで問いかけた。

 

「お…オイどうしたんだよ!!? 何をそんなに苛立ってんだよ!!?」

「……言いたくねェ。むなくそ悪ィからな」

 

 顔を覗き込まれ、問われたエドワードだったが、答えることはせずにまたそっぽを向いてしまう。

 自分の腕と足や弟の体のことといい、うっかり踏むととんでもないことになる地雷を持っている相手ゆえに、ウソップも渋々それ以上の追求は避けるほかになかった。

 ドルトンは詳しく知っているのか、エドワードの苛立ちに同意するように嘆息し、次いでルフィたちが向かった山々の方へ視線を移した。

 

「それよりも…大丈夫かねェ………彼らは…〝ラパーン〟に出遭わないといいんだが」

「でも肉食っつってもうさぎだろ⁉」

「おう…うさぎの機敏さに熊の体格をかねそなえているうえに、集団で襲ってくるけどな」

「え……熊!!?」

 

 勝手に抱いていたイメージと全く異なる姿に、ウソップもビビも思わず後ずさる。

 うさぎという言葉だけで、もっと小さくて愛嬌のあるものを想像してしまったことに激しい後悔がわいてきていた。

 

「だ…大丈夫かしら、そんなに大きいの…⁉」

「姉弟子やアルがいるから何とかなるとは思うがな…」

 

 急いでいたために詳しい説明を忘れていたエドワードがそう呟くが、時間が経つにつれて一同には不安が募っていく。

 そんな中、先ほどドルトンとすれ違った熊に似たおばさんが、やや急いだ様子で話しかけてきた。

 

「ドルトンさん、ドルトンさん! あなたDr.を探してるらしいわね」

「ええ…その通りですが…しかしたった今病人は…」

 

 また勘違いして一礼するウソップを無視し、ドルトンが説明しようとした時、おばさんは信じられない情報を彼らにもたらした。

 

「ちょうど今ね! となり町に降りてきてるらしいわよ‼」

「な……!!? 何ですと!!?」

 

 寝耳に水な言葉に、ドルトンとエドワード達は思わず大きく口を開け、その場に立ち尽くしてしまっていた。

 

 

 同じ時。

 しんしんと雪が降り注ぐ海上を進む、カバの船首の海賊船『ブリキング号』。

 その見張り台の上で、ピエロのような男が声を上げていた。

 

「おお…おお、ワポル様…」

「どうした、チェス‼ やつらの船は見つかったか!!!」

 

 苛立った様子で、反応を見せるピエロの男に怒鳴るつける太った男、元ドラム王国国王ワポル。

 そんな彼にチェスと呼ばれた男は落ち着いたまま、しかし高揚した様子で前方を指さした。

 

「いいえワポル様、とうとう帰り着きました………」

「何!!?」

「苦節何ヵ月経ちましたことでしょうか…」

 

 チェスの報告に、ワポルは自らも船の前方を見つめ、見えてきた影に目を見開く。

 その影こそ、ワポルたちが数ヵ月もの間探し続けていた場所、帰るべきと思っている故郷であった。

 

「我らが故郷!!! ドラム島です!!!!」

「本当かァ――っ!!!」

 

 歓喜の声を上げ、ワポルは満面の笑みをたたえて騒ぎだす。

 その隣に、どことなく頼りなさげで気弱そうな、眼鏡をかけた細身の男が、ずいぶんと疲れた様子で顔を出した。

 

「ずいぶん長くかかってしまいましたね……私の家もどうなっていることか…」

「まはははは‼ 家などおかしぐらいにしか役に立つまい‼ お前は今後おれ様の城に来るのだからな!!! あの憎たらしいガキに折られた大事な歯をカンペキに治せるお前を手放すわけねェだろうが!!!」

 

 ワポルは途端に上機嫌になり、掴めば小枝のようにヘシ折れそうな男の背中をバシバシと無遠慮にたたく。

 やや迷惑そうに苦笑する男―――タッカー・ショウは、頭をかいて答えた。

 

「はは…光栄です。ワポル様」

 

 どう見ても危険など感じられない、しかしそれ以上の不気味さを感じさせる男が、笑みを浮かべてひび割れた眼鏡を光らせる。

 

 ようやく自由を得た島に、史上最低の王と最悪の悪魔が、帰還しようとしていた。

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