ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第73話〝野生の力〟

「え!!? もう、この町を出た!!?」

 

 となり町へ辿り着き、とある店を尋ねたドルトンが絶句する。

 聞けばDr.くれはは、つい数時間前にいきなりこの店を訪れると、泣きわめく少年に治療を施すとあっという間に行ってしまったのだという。

 

「何てこった、すれ違いかよ」

「さっき僕の病気を治してくれたんだ」

 

 骨に細菌が侵入し炎症を起こすという恐ろしい病気だったらしいが、少年はもうピンピンしている。

 それだけDr.くれはの技術が高いことが伺い知れ、ますます目と鼻の先で会えなかったことが悔やまれた。

 

「ドクターを探してるのかい、ドルトンさん」

「急患なんだ。ドクターの行き先を知らないか⁉」

「ギャスタの方へ向かったと誰かが言ってたぜ」

「ギャスタへ⁉」

「どこだ、それ?」

「この町から、さらに北へ向かうとある湖畔の町だ。そうだな、あと…」

「あ、それ以外の情報はいらねェ」

「行きましょう‼ ここまで来たら迷ってるヒマはないわ」

 

 人がいいドルトンがどうでもいい情報まで口にしそうだったので即座に止め、話す時間も惜しいとビビが外へ促す。

 しかしその時、ドルトンたちのいる店の扉が勢いよく開かれ、一人の男性が慌てた様子で駆け込んできた。

 

「ドルトンさん‼ ドルトンさんはいるか!!?」

 

 突然飛び込んできた男性は相当焦っていたらしく、荒い呼吸でドルトンの名を叫ぶ。

 ドルトンは訝し気に眉間にしわを寄せ、膝をついた男性のもとに駆け寄ると、相手の顔を確認し眉を寄せた。

 

「どうした。君は確か今日の見張りでは…」

「おれ以外の見張りは全員やられちまった…!!! 突然、海岸から潜水帆船が浮上んできてみんなあいつらにやられたんだ‼ ドルトンさん助けてくれ!!! おれ達の力じゃ…」

「落ちついて話せ。一体誰にやられたんだ」

 

 一刻も早く伝えなければという焦燥のせいでうまく伝えられない男性に、ドルトンはまずは相手をなだめることに専念する。

 その甲斐あって、ようやく落ち着きを取り戻した男性は、衝撃の一言をドルトンたちに伝えた。

 

「ワポルの奴が、帰ってきやがった!!!!」

 

 耳に届いたその名に、店の中にいた全員が大きく目を見開いて硬直する。

 忘れるはずもない、それは国中の誰もがこの世で最も嫌い、憎み、怨んでいた最低の国王が、恥知らずにも帰って来たというのだから。

 

「ワポルが…!!?」

「奴は今どこに…」

「あんたの村だ…ビッグホーンが今、大変なことに!!!」

 

 聞くが早いか、ドルトンは店を飛び出し、停められていた馬に飛び乗って走りだしてしまった。

 村人が呼び止める暇もなく、ドルトンの姿はあっという間に見えなくなってしまった。

 

「あ、ドルトンさん‼」

「おい…そこに眼鏡をかけた気弱そうな男はいなかったか…?」

「え…!!? だ、誰だ君は…⁉」

「いいから答えろ!!!」

 

 突然怒鳴りつけてくるエドワードに困惑しながら、凶報を伝えてきた男性は必死に記憶を探る。

 ワポルの帰還で頭がいっぱいになっていたが、よくよく思い返してみればそんな男がいたような気がした。

 

「い……いたような気が…い、いや、確かにいた‼ 大人しそうだけどなんか不気味な奴が…‼」

 

 何度も力強く頷く男性を解放し、エドワードは見たことがないぐらいに憤怒で顔を歪める。

 ギリギリと食いしばりながら、エドワードは思い出すことも忌々しいその名を口にする。

 

「タッカー…!!!」

 

 怒りにごう、と燃え上がる金色の眼は、いまにも爆発しそうなほどに昂っていた。

 

 

「戦える者は‼ 武器を取ってビッグホーンへ!!!」

 

 国王の帰還の報は、多くの者たちの足を使って島中に伝えられた。

 みんな即座に各々の家に急ぎ、使い慣れようと毎日手入れをしていた武器を手に外へ飛び出していく。

 

「急げ‼」

「戦える者はビッグホーンへ!!!」

「ドルトンさんに続け!!! ワポルが帰ってきやがった!!! 武器を持て、戦うぞ!!!」

 

 かつては兵士たちや幹部、そしてワポルの力によって抑えつけられ、屈するしかなかった弱き民たち。

 しかし今は違う。またあの日々のような最悪の治世に戻るくらいならば、どれだけ傷つこうとも徹底抗戦する所存であった。

 

「おれ達の国を守るんだ!!! 武器を取れ‼ ビッグホーンへ!!!」

 

 国を脅かす、強力な力を持った愚者を追い出すために、人々はその目を闘志で燃やしていた。

 

 

 一方、ビビとウソップはドルトンが置いて行ったそりに乗り、〝魔女〟が向かったというギャスタに急いでいた。

 ドルトンがワポルのもとへ向かってしまったために、道案内の不在というかなり不安な状態でだ。

 

「おいビビ! 本当に、こっちであってんだろうな…‼ 魔女のいるギャスタって町は…‼」

「そう言われるとちょっと自信ないんだけど…」

「自信ないじゃだめじゃねェか」

 

 村のものにもらった地図を頼りに、ビビが案内するがそれも頼りない。

 土地勘がないために仕方がないが、今はこれしか頼るものがなかった。

 

「いいか⁉ もしナミ達がやっとの思いで城について医者がいなかったらあいつらオイ何やってんだ?ってことになる訳だ‼ 王女だろ、何とかしてくれ」

「関係ないじゃないそんなことっ‼ だったらウソップさんが見てよ地図」

「馬鹿言えっ‼ 一面雪だらけなんだぞ‼ おれは全くわかりません‼」

 

 無茶を言うウソップにビビがツッコミを一れるが、騒いでいても状況が好転するわけがない。

 もめるのもそこまでにして、ビビはもう一度地図で目的地を確認した。

 

「いい? …とにかくこの道の途中にギャスタへの看板があるはずなの。それを見落とさないで」

「OK、任せろ‼」

 

 勇ましく答えるウソップだったが、そのすぐ横をギャスタを示す看板が横切ったことに気づかない。

 そして何より、面子が一人足りていない事にも気づいてはいなかった。

 

「……あれ!!? そういやエドのやつどこ行ったんだ!!?」

 

 

「デ~~ルリリリリイ~~シャ~~ス‼」

 

 バリバリバキバキボリボリゴックン‼

 家屋をまるで菓子でもかじるかのように咀嚼したワポルが、腹をいっぱいにして歓喜の咆哮を上げる。

 何でも食べる〝バクバクの実〟の能力者にとっては、この世の全てのものが食糧であった。

 

「いいか国民どもよ、この国にあるものは全て、おれのおかし‼ おれ様がなぜに偉いのか教えてくれ、クロマーリモ‼」

「それはあなた様が王様であらせられるからです、ワポル様」

「その通りっ‼ やはり家はこんがり焼いたウェルダンに限るぜェ!!!」

 

 見るも無残な姿になったどこかの誰かの家の残骸の上で、ワポルが満足げに腹をさする。

 住んでいる者の悲しみなど気にも留めない。なぜなら自分は王であり、何をしても許される絶対の存在であると信じているからだ。

 

「して…情報ですがワポル様…‼ 恐れ多くもあの麦わらの一味、我らがドラム城へ向かっているという情報で」

「なにいっ!!? 何故だ!!!」

「それがまたしても恐れ多くもあの賊医者、Dr.くれはがドラム城に住んでいるからだと…!!!」

「なァにをォオ!!? あのババアがおれの城に!!!?」

 

 それ故に、自分の考えに逆らうものは誰であろうとも逆賊であった。

 自分の思い通りにならない者、言うことを聞かない者、自分に歯向かう者、邪魔なものはみんな追放し、処刑し続けてきたのだ。

 

「どこまでおれをコケにするのだあの反国ババアめっ!!! 叩き出して麦わら共々このおれが食い潰してくれるわ!!!」

「ああ…あの目障りな老婆ですか。ぼくも実はあのババアに張り倒された恨みがあるんですよね…」

「おおよお前も共に来いっ!!! 野郎ども、準備を!!! 城へ帰るぞ!!!」

 

 ワポルは苦い顔をするタッカーに同意し、さっそく反逆者を処刑するために城に向かおうとする。

 怒りで頭をいっぱいにする彼はその時、猛スピードで接近する大きな影に気づかなかった。

 

「そこまでだっ!!!」

 

 突如声が響き、乗ってきた毛の長いカバの上に立っていたワポルをバッサリと斬り捨てる。

 腹を切り裂かれたワポルが勢いよく倒れこむと、配下の二人と兵士たちが乱入してきた狼藉者を睨みつけた。

 

「何奴っ!!!」

「ぎゃ~~~~~~っ‼ 斬られたァ死ぬ~っ!!!」

「殺す気で来たのだ。死んでくれて結構」

 

 大袈裟に叫びまくるワポルに向けて、血の滴る大剣を構えた影、ドルトンは吐き捨てるように告げた。

 それまで遠巻きに状況を探っていたビッグホーンの住人達は、ドルトンの登場にパッと表情を晴らした。

 

「ウヌッ…‼ ドルトン!!!?」

「貴様、生きていたのか…!!!」

「よくもワポル様を……!!!」

 

 ワポルも配下の二人も、何のためらいもなく刃を向けてきたドルトンを憎々しげに睨みつける。

 ドルトンは構わず、耳障りな侵入者たちをさげすむように見下ろしていた。

 

「何て事なかろう。我らが『医療大国ドラム』の優秀な医師達の医療技術……そしてそこに居る〝綴命〟の錬金術師タッカーの術をもってすれば」

「そうとも、出でよ〝イッシー20〟‼ 外傷部隊前へ‼」

「「「「手術(オペ)を始めます」」」」

「ああ…私もですか」

 

 配下の一人、黒いアフロヘア―の幹部クロマーリモの合図で、数人の医者とタッカーが前に出る。

 そして彼らはあっという間に、傷を受けたワポルに治療を施してしまった。

 

「いや~~死ぬかと思ったね、実際」

「ああっ!!! いけませんワポル様、首の縫合がまだ済んでおりませぬゆえ」

 

 頭をかいて起き上がるワポルの首から上がないことに医者たちは慌て、すぐさま首の縫合に取り掛かる。

 王一人の治療に必死になる彼らを冷たく見やり、ドルトンは情けなさをはらみながら()()()に告げる。

 

「さァ…ワポル、出て行こう…‼ この土地にはもう我々は居てはいけないのだ…」

「………ワポル? ………ワポルさ・ま・だ!!! 我が家来ドルトンよ」

「ド…ドルトンさんはもう、あんたの家来なんかじゃないぞ!!! ドルトンさんは政府側の人間で唯一国のために戦ってくれたんだ!!! 命を賭けて…!!! 死にかけてまでも!!!」

「ハン…死ねばよかったのにな‼ ドラム王国守備隊長の名の下にな、まっはっはっは。医者のいないこの国で、よく助かったものだ」

 

 住民の一人の必死の叫びに、ワポルは実につまらなさそうに吐き捨てる。

 長く自分に仕えてきたのなら、当然自分のために命を捨てるのが正しいとでもいうような態度に、住民たちの怒りは否応もなく募っていった。

 

「………ドラムは、他国には医学の進んだ国だと認識されているが、誰が計り知れようか…‼ 実は優れた医者は、王の城の研究施設にたった20人、他の医者達は全員『国外追放』になっていようとは」

「仕方あるまい、これが我が国の政治なのだから‼」

「そんなものが政治であってたまるか!!! 国中を見渡しても医者は城にいる20人のみ、病人が出ればお前にひれふす以外に方法はない。これでは政治どころか国中の病人を人質にとった犯罪だ!!!」

 

 こんな男に長年仕えていたことさえ恥ずかしい、そんな感想が聞こえてくるような叫びをあげ、ドルトンはワポルたちを完全に敵と見定める。

 最初の勧告にもし応じれば余計な血を流さずに済んだのに、もはや力尽く以外に解決方法はないようだった。

 

「いいたいことを言ってくれる!!! やっちまえ野郎どもっ‼ お前達の元隊長を!!!」

「仮にも、お前は私が世話になった先代国王の息子。いつの日か、きっと目を醒ましてくれると希望を抱いていたが…無駄だった!!!」

 

 怒りが頂点に達したドルトンの姿が、見る見るうちに変化していく。

 頭からは二本の立派な角が生え、全身が黒々とした毛並みに覆われていく。

 ワポルのような超人(パラミシア)系とは異なる、獣の力を秘めた海の悪魔の力が、顕現しようとしていた。

 

「うわっ出た〝ウシウシの実〟モデル『野牛(バイソン)』!!!」

「く…撃て!!! とにかく撃て!!!」

 

 兵士たちもその能力の凄まじさを肌身で知っているのか、攻撃を受ける前に仕留めようと容赦なく発砲する。

 だが、放たれた弾丸は一発も当たることがなかった。ドルトンの残像が見えた後を、虚しくすり抜けていくだけだ。

 

「あ…当たらねェ、よけられてる…!!!」

「元部下とて容赦はせんぞ…フィドル〝突撃(バンフ)〟!!!

 

 絶句する兵士たちに標的を定め、ドルトンは蹄でザッザッと雪を削る。

 全身の力が突進の為のエネルギーに変換され、瞬く間に放たれた一撃が兵士たちをまとめて薙ぎ払ってしまった。

 

「……‼ ふ…なんて迫力だ…!!!」

「強ェ…!!!」

「これが…動物(ゾオン)系〝悪魔の実〟の、野生の力……!!!」

 

 住人達は、圧倒的な力を見せるドルトンに畏怖の視線を集める。

 かつては憎い男の配下にあった彼は、もはや人々には欠かせない頼るべき英雄となっていた。

 ドルトンはフンッと凄まじい鼻息を鳴らし、残るワポルと配下たちを睨みつけた。

 

「もう、お前達には愛想が尽きた…!!! 国の危機に先頭切って逃げ出す様な王のいる国など…‼ 滅んだ方がよい!!!」

「この野郎め…生意気な口ばかりたたきやがって…!!!」

「我らと貴様は互角の『三幹部』。我ら2人が相手では勝機はないぞ」

 

 だがワポルたちは、それだけの力を見せつけられても全く臆す様子を見せない。

 ピエロのような格好をした配下の一人、チェスはにやりとそこ意地の悪い笑みを浮かべると、突如巨大な弓矢を見当違いの方向に構えだした。

 

「何より…付き合いが長い…‼ それが不運、お前の弱点など…熟知している…!!! 見てろ」

「な…」

 

 チェスが狙う先を見たドルトンが、武器を手に駆け込んでくる他の村の人々の姿を見つけて顔色を変える。

 ドルトンの体は、考えるよりも先に動いていた。村人たちの背丈ほどに大きな矢が放たれるよりも前に、その身を盾にするために飛び出そうとしたのだ。

 だが、ドルトンがその身に矢を受けることはなかった。

 

須弥ノ山(マウント・スメール)〟!!!

 

 いきなり聞こえてきた、乱暴な詠唱のようなものとともに、巨大な氷の壁が創造され、放たれた矢を弾いたからだ。

 城は役目を終えると粉々に砕け散り、キラキラと欠片を散らばらせて消えていく。

 

「こ……これは」

「…ったくよォ、無茶がすぎるぜドルトンさんよ。一人で突っ走んのを止められるってのはおれの方な気がすんだが…?」

 

 驚きで言葉を失っていたドルトンは、自分に向けられた聞き覚えのある声にハッと振り向く。

 ザクザクと雪を踏みしめ、何となく不機嫌そうに近づいてくる一人の青年の姿に、ドルトンは思わず大きく口をあけて固まってしまっていた。

 

「この国の王になるべき人間が……こんなところで死んでくれるなよ」

「エドワード君……!!!」

 

 ミシミシと機械鎧(オートメイル)の拳を軋ませ、不敵な笑みを浮かべたエドワードがそう告げる。

 かつて悪事を暴き、追放した悪魔を前にした少年が、再び怒りを携えて参戦を表明してみせた。

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