ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「チェス…‼ 今朝からのおれ様の献立を言ってみろ…」
「はっ‼ …え~~船内にて〝大砲のバターソテー〟1門と〝生大砲〟1門、〝砲弾と火薬のサラダ〟に村で〝焼きハウス〟一軒分となっておりますが」
「何食ってんだお前」
「雑食この上ねェな…」
チェスが読み上げるリストに、ルフィとサンジが揃ってツッコミを入れ、エレノアが半目になる。
人間の食べ物ではないものをさもそれっぽく語る光景は、あまりに滑稽だった。
「見るがいい…食後こそバクバクの真の能力…!!! 食物はやがて血となり肉となる…!!!〝バクバク
ワポルが叫んだ直後、樽のような体がみるみるうちに変形していく。己の口で取り込んだあらゆるものを、己の肉体に変換させているのだ。
そうして自身を改造し、ワポルは煙突の生えた家のような体を持った、より大きな体へと変貌した。
「『ワポルハウス』!!!」
「家!!?」
「スゲ―――っ!!!」
「驚くのはまだ早い……!!! これが王技‼〝バクバク
ギラリと光ったワポルの目が、目の前の二人の配下に向けられる。
ワポルはニヤリと笑うと、ギョッと目を剥く二人に向かって大きく口を開け、思いっきり食らいついた。
「ぎゃあああああ!!!」
突如始まった凄惨な行為に、ルフィとサンジ、エレノアは顔色を変えてどよめく。どう見ても、相手か自分の目がおかしくなったとしか思えない光景だった。
「仲間を食ってんぞ!!!」
「共食いだァ―!!!」
バリバリボリボリと、ワポルはチェスとクロマーリモを噛み砕き、ゴクリと飲み込む。
すると頭と両腕の煙突から煙を噴き出させ、体内の機関をフル稼働させた。
「さァ見るがいい〝奇跡の合体〟‼ いでよ!!!」
「何……⁉ まさか二人の人間が…」
「合体⁉」
戦慄するルフィ達の前で、ワポルの腹の扉がゆっくりと開かれていく。
暗い穴の中に二組の光が灯り、大きな腕がドア枠をつかんで、創造された巨体を外へと引きずり出す。
「「我こそは…ドラム王国最強の戦士…チェスマーリモ‼」」
現れた怪物が、元の二倍近くにもなった体で立ち上がり、ルフィ達を見下ろす。
しかしその姿はどう言い繕っても、融合とか合成とかではなく。
「いや、肩車しただけじゃねェのかよ」
「すっっっっげ―――――――!!!」
「すごくねェだろ!!!」
ただ縦にくっついただけのような、いうほどの変化はなくサンジがががっくりと肩を落とす。
ただエレノアとくれはだけが、異様な能力を見せたワポル達を油断なく睨みつけていた。
「ここまで体を張って…宮仕えも本当に大変ですね……では私も。ちょっとこの毛カバ借りますね」
「ん? おお…使え使え。好きに使え」
「モフッ!!?」
見た目以上に戦闘能力を増した二人を見て、タッカーも少しやる気になったのか、後ろに控えていた毛カバの方に向かう。
複雑な模様が描かれたゴム手袋をはめると、大砲や銃などを背に積んだ毛カバに手をかざした。
「私は戦いとは無縁の研究者でね………代わりに君にやってもらうことにするよ」
嫌な予感がした毛カバ・モブソンだったが、いざ逃げようとするよりも早く、タッカーがゴム手袋でモブソンと銃器に触れた。
その直後、最低最悪の所業が再び行われた。
「モ"ォオオオ!!!」
バシン、と赤い閃光が走り、モブソンと銃器がメキメキと無理やり形を変えさせられていく。
生物と武器が粘土のように形を変えていく光景は、錬金術の行使を初めて生で見るチョッパーに大きな衝撃を与えた。
「なっ……何だありゃあ……!!?」
「! 賢者の石!」
目を見開くエレノアの前で、変形した毛カバと銃器が一つになっていく。
背負っていたバズーカや大砲は背中から、ライフルやピストル、マシンガンは体のあちこちから生えていき、毛カバはあっという間に痛々しい姿に変わり果てていった。
「ワポル様のおかげで…国家錬金術師だったころとは比較にならないほど研究がはかどりましたよ……こんなこともできるほどに。感謝してもしきれないぐらいです」
「そうだろうそうだろう!!! もっとおれ様を褒め称えろ!!! 安心しろ…今後はもっとたくさんの材料が手に入るぞ!!! まっはっはっはっは!!!」
これまで散々足として使ってきた乗り物のあげる、悲痛な叫びにも関心を向けず、ワポルとタッカーは愉快げに笑い続ける。
愚王と悪魔による身の毛もよだつ会話に、ルフィ達は背筋に震えを走らせていた。
「なんだあれ…!!? すげェ痛そう!!!」
「あれも錬金術によるものなのか……!!? ワポルとやってることは変わらねェが悍ましさは段違いだな…!!!」
「あのクソガキ……また性懲りもなく」
鳥肌を前進に立たせるルフィ達とは異なり、くれははその表情を強烈な怒りで歪めていく。
医者として、いや人間としても失格な姿に、怒りが爆発しそうになったその時だった。
「………おとう、さん」
チョッパー達の背後から、か細い声が聞こえてくる。
ハッとエレノアが振り向き、ワポルやタッカー達も鬱陶しそうに目を向けた。
「ん……⁉ まさか…ニーナかい…?」
かつて自分が犠牲にした娘を前にしたタッカーが、不安げな、しかし喜びを帯びた目で見つめてくる
チョッパーは首だけ向けて、戦場に足を踏み入れようとしている妹分を止めようとした。
「来るな、ニーナ‼︎」
「おとう―――」
「なんだ。まだ生きてたのか…」
だが、思わず駆け出そうとしたニーナにかけられたのは、そんな心ない言葉だった。
目を見開き、停止したニーナを見やり、タッカーは意外そうな顔でぽりぽりと頭をかいていた。
「思っていた以上に出来損ないになっちゃったから、そのうちどこかでのたれ死んでいるもんだと思ってたけど……そうかDr.くれはのところにいたのか。もの好きな人ですねあなたも…」
「…お前……それ以上口を開くんじゃないよ…‼」
実の娘に向けて絶対に行ってはいけない言葉を吐き続けるタッカーに、くれはとチョッパーはギリギリと歯をくいしばる。
事情をよく知らないサンジも、タッカーがどうしようもない下衆であることを察し、不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。
「そうだなァ…せっかく生きてるうちに再会できたんだ。そのうち
「お前……ニーナによくも…!!! 絶対許さねェ!!!」
返す言葉も見つからず、タガが外れてしまった父親を前に絶句するニーナに代わり、チョパーが激しい怒りを燃やす。
しかし彼の後ろには、それ以上の憤怒の炎を燃やす女が立っていた。
「さすがに…我慢の限界だよこの野郎……!!!」
パリパリとエレノアの両手に閃光が走り、彼女の凄まじい怒りが表される。
それに気づかぬ、自身に危機が及んでいるなど微塵も考えていないワポルは、自信満々にルフィ達を嘲笑った。
「ドラム王国憲法第一条『王様の思い通りにならん奴は死ね』‼ ――これがこの国の全てだ!!! なぜならこの国はおれの国で…この城はおれの城だからだ…‼」
そう言ってワポルは、城の天辺に掲げられた海賊旗ーーーヒルルクの信念の証を睨みつける。
「よりによって、あんなヘボ医者の旗なんぞかかげるんじゃねェよ!!! 城が腐っちまうぜ!!!」
ワポルの掲げた片腕の大砲が、ドカンと火を吹いて砲弾を発射する。
勢いよく飛び出した砲弾は城の屋根を破壊し、ヒルルクの旗をガラガラと真っ逆さまに崩落させた。
「まっはっはっはっはっはっ」
「……海賊旗。おいトナカイ、あの旗…」
哄笑の声をあげるワポルから目をそらし、ルフィは落下する旗を呆然と見つめるチョッパーを見る。
言葉を失い、目を見張っていたチョッパーは、やがて歯をくいしばるとワポルを強く睨みつけた。
「何してんだ、お前…ドクターのドクロマークに!!!」
「…ケッ、くだらん。殺っちまえ……‼」
チョッパーの怒りも意に介さず、ワポルの命令で配下達がチョッパーに向けて武器を構える。
しかしチョッパーはそれを持ち前の敏捷さでかわし、一直線にワポルの目の前に接近していった。
「ドクターは‼ お前だって救おうとしたんだぞ!!!!」
目を見開くワポルの襟首を掴み、片手を大きく振り上げたチョッパー。
だがその拳が振り下ろされることはなく、悔しげに顔をしかめた彼は引きしぼるように告げた。
「おれは…お前を殴らないから、この国から出て行けよ!!!」
「…………あ?」
てっきり殴られると思っていたワポルは、チョッパーの降伏勧告に呆れたような声を出す。
その言葉に唖然としたのは、くれはも同じだった。
「何言い出すんだいチョッパー!!! そいつが説得に応じる奴だとでも思ってんのかい!!?」
「………だって…やっぱり………」
チョッパーは未だ迷っていた。
どんなにクズで最低な相手でも、ヒルルクが最期まで救おうとした人間。それを自分が傷つけてもいいのかと。
だが葛藤するチョッパーに、ワポルが放った砲弾の火がまともに炸裂した。
「チョッパー!!!」
煙を上げて倒れこむチョッパーに、くれはは叫び、ワポルは下卑た笑みを浮かべる。
思わず眉間にしわを寄せるエレノアは、この場から一人姿を消したものがいることに気づいた。
「……ん? ルフィは…?」
「おい邪魔口!!!」
辺りを見渡したエレノアは、探している青年の声が頭上から聞こえてきたことに驚く。
「「ワポル様、あれを…!!!」」
「ん⁉ 麦わら‼」
声を聞いた全員が視線を上げれば、城の先頭によじ登っているルフィの姿がそこにあった。
折られた旗を、ナミから借りたコートの袖で結んで縛り付け、掲げるようにしてワポルを見下ろしていた。
「ウソッパチで、命もかけずに海賊やってたお前らは!!! …この
怒りをにじませた声で吠えるルフィだが、ワポルにはそんな感情を向けられる覚えはなかった。
意味のわからないことをほざく平民を、ワポルは全身を震わせて嘲笑していた。
「その旗の意味だと⁉ 麦わらァ! まっはっはっは‼ そんな海賊どものアホな飾りに意味なんぞあるか!!!」
「だからお前はヘナチョコなんだ‼」
「何ィ!!?」
ルフィは理解しようともしないワポルを、心の底から軽蔑し吐き捨てる。
決して侮ってはならないものを、この愚王は汚したのだから。
「これは‼ お前なんかが冗談で振りかざしていい旗じゃないんだ‼」
「カバめっ‼ 冗談でなきゃ王様のこのおれが海賊旗などかかげるか!!! その目障りな旗をいちいち立て直すんじゃねェよ!!!
一方的に訳のわからないことを言われて激昂したワポルが、今度はルフィに照準を合わせて大砲を発射させる。
威力は先ほど見せた通り、人間一人簡単に吹き飛ばせる凶悪な一発だ。
「ここは、おれ様の国だと言ったはずだァ!!!! 何度でも折ってやるぞそんなカバ旗など!!!」
「くっ…!!! また……!!!」
「よけろ危ない!!!」
サンジやチョッパーが呼びかけるが、ルフィはその場から一歩も動こうとはしない。
迫りくる砲弾も見ないまま、己の怒りを吠え続けた。
「お前なんかに折れるもんか。ドクロのマークは…〝信念〟の象徴なんだぞォ!!!!」
直後、砲弾が再び炸裂し、尖塔が炎に包まれる。
爆音と衝撃が辺りに四散し、柄狩り瓦礫がエレノア達の頭上に降り注いだ。
「ルフィ!!!」
「直撃したよ」
「吹き飛べカバめ!!!」
「なんともまァ……意味がわからないな」
言うだけ言って吹き飛ばされた、何処の馬の骨ともわからぬ男の最期に、ワポルもタッカーもチェスマーリモも呆れて笑いが止まらない。
しかし、そんな余裕も長くは続かなかった。エレノアだけが、表情一つ変えずその場に佇んでいた。
「ほらな。折れねェ」
ルフィはまだ、そこに立っていた。
己の手で旗を掲げ、自らが支えとなったまま、黒焦げになりながらも立ち続けていた。
そこに宿る遺志を、代わりに表すように。
「な………………!!! バカな!!! イカレてやがる!!!」
「これが一体どこの誰の海賊旗かは知らねェけどな…これは
ルフィの掲げる不動の信念に、ワポル達は言葉を失い立ち尽くす。
己の道を阻む敵を貫く槍にして、決してくじけることなく己を示し続ける旗。
その姿に、ワポル達は圧倒されていた。
「お前なんかが、へらへら笑ってへし折っていい旗じゃないんだぞ!!!!」
大気を震わせるような、ルフィの堂々とした言葉。
エレノアはゾクゾクと背筋を震わせ、微かに笑みを浮かべ、その隣のチョッパーはただ、目を奪われていた。
―――これが海賊…!!!
その眼に映る姿は、亡き父から聞いたものとまるで同じ。
あらゆる荒波に挑む不屈の意志を見せる猛者の姿を、チョッパーは確かに目の当たりにしていた。
すると突如、立ち尽くすチョッパーに向けてルフィが視線を移した。
「おいトナカイ‼ おれは今からこいつらブッ飛ばすけど、お前はどうする?」
「おれは…?」
思ってもみなかった誘いに、チョッパーはつい考え込んでしまう。
何をすべきなのか、してもいいのか、そんな迷いがチョッパーの行動を阻害してしまっていた。
それを見逃すワポルではなかった。
「このカバ野郎めが!!! そんなに旗を守りたきゃずっと、そこで守ってろ!!!」
「!!! ………やめとけよ、その辺で!!!」
またしても船長を狙おうとしている砲門に、サンジがすぐさま走り出す。
だがその瞬間、サンジの背中に強烈な痛みが襲いかかった。
「アウ!!?」
「イッたか、背骨…当然だ………暴れすぎだよ。ドクターストップ!!!」
ビタッと動きを止めたサンジに向けて、くれはが思いっきり飛び蹴りをかます。
うつぶせに倒れたサンジは、激痛に加えてくれはに上からのしかかられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「まっはっはっは何をしてるんだおめェらカバ共が‼ 見物していろ、奴を塵にかえてやる‼」
「「ワポル様、危ない…‼」」
「ん?」
内輪揉めをしているようにも見えるサンジ達をみていたワポルは、チェスマーリモの声で我に返る。
油断していたワポルに、二つの影が襲いかかったのだ。
「やめろォ!!!」
「いい加減にしやがれィ!!!」
振り上げられた拳と義足は、チェスマーリモと改造された毛カバによって阻まれてしまう。
攻撃を阻まれても、闘志を絶やさずにいる二人に向けて、ルフィが城のてっぺんから声援を送った。
「そ~~~~さっ!!! やっちまえトナカイ!!!」
「ヒッヒッヒ、ハナったれどもがいっちょ前に根性みせやがって」
ようやく動いた弟子と患者の戦意に、くれはは楽しげに笑みを浮かべる。
一方でエレノアとチョッパーの前に立ちふさがった配下達は、見下すような笑い声をあげて相手を睨みつけた。
「「ムハハハハ、残念だったな。ワポル様にはこのおれが指一本触れさせんっ‼」」
「ちょっと困るなァ…私の雇用主なんだから」
チェスマーリモは目の前に立つチョッパーを見やり、人でも獣でもない奇妙な生物を観察し、改めて嘲笑う。
「「しかしおかしな生物がいたもんだ。一時期国民が雪男だと騒いでいた元凶はお前だな。どうせ誰からも好かれねェ人生を送って来たんだろう、哀れな怪物よ」」
ニーナが心配そうに見つめる中、チョッパーはチェスマーリモの挑発に表情を険しくする。
かかった、と思ったチェスマーリモは、さらに追い詰める言葉を重ねた。
「「一人ぼっちのお前が何のために、この国を救おうってんだ!!! 笑わせるな!!!」」
「うるせェ!!! 仲間なんていなくたっておれは戦えるんだ!!! ドクターの旗がある限りおれは…!!!」
いまにも飛び出しそうなほどに怒りを募らせるチョッパー。
挑発に乗せられるまま、不用意に飛び出しそうになった時だった。
「仲間ならいるさ!!! おれが仲間だ!!!」
城の天辺から飛んできたルフィが、勢いよくチョッパーとチェスマーリモの間に着地する。
盛大に雪煙を上げたルフィは、帽子を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「にっしっしっし」
「麦わら帽子‼ お前大丈夫かっ!!?」
「おれは平気さァ、ゴムだから」
「ゴム⁉」
さっきも聞いたが、今だに信じられない不思議な体の持ち主に、チョッパーは目を丸くしたままになる。
ルフィはチョッパーに目を向けると、試すように問いかけた。
「おいトナカイ。お前、あいつを仕留められるか?」
「なんて事ねェ!!! あんな奴」
「エレノア、そいつ頼むぞ」
「もとよりそのつもりだっての…‼︎」
「じゃあ決まりだな」
揃った三人の勇士が、誇りを踏みにじる愚者達とそれぞれ相対する。
譲れぬ信念を巡る戦いが、今ようやく始まろうとしていた。