ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第7話〝道化のバギー〟

「ナミ、てめェどういうつもりだァ!!! せっかくこのおれが部下に迎え入れてやろうってのに!!! あァ!!?」

 

 酒場の屋上に、道化のような赤い大きな鼻が特徴的な海賊、バギーの怒声が響き渡る。

 偶然出会ったルフィをダシにして、バギーに取り入って〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海図を手に入れようとした泥棒の娘・ナミだったが、部下になった証にと縛られて檻に入れられたルフィを大砲で吹き飛ばすように言い渡された。

 迷っているうちに他の部下に無理矢理点火させられそうになり、カッとなってその男を棍棒で殴り飛ばしてしまったのだ。

 

「なんだ、お前今さらおれを助けてくれたのか?」

「バカ言わないで‼」

 

 檻の中からルフィが不思議そうに等も、ナミは吐き捨てるように否定する。

 彼女は海賊が嫌いだった。憎むほどに。

 だからバギーのあの命令にだけは、従いたくなかったのだ。

 

「勢いでやっちゃったのよ‼ ……たとえマネ事でも、私は非道な海賊と同類にはなりたくなかったから‼ 私の大切な人の命を奪った、大嫌いな海賊と同類には…!!!」

「……あー、それで嫌いなのか、海賊が…」

 

 最初に出会い、仲間になろうといった時にどうして完全否定されたのかと思っていたルフィは、その言葉に納得する。

 だが、彼女の心情など彼らは察しない。

 裏切り者を処刑しようと、部下たちが一斉に襲い掛かっていった。サーカス団の曲芸師のごとく軽やかに、たった一人で立ちふさがるナミに襲い掛かっていく。

 

「ハデに死ねェ!!!」

 

 振り回した棍棒をたやすくよけられ、至近距離にまで接近されてしまう。

 死を覚悟したナミだったが、ふいに鈍い音がして目を見開いた。

 

「女一人に何人がかりだ」

 

 鞘に納めたままの刀で、手下たちの顔面をめり込ませるゾロと、顔面に容赦なくケリを入れたエレノアが割って入った。

 騒ぎの中心に向かって急ぎ、ようやく間に合ったのだった。

 

「ゾロォ!!!! エレノアァ!!!!」

 

 嬉しそうに名を呼ぶルフィを無視し、エレノアはへたり込んでいるナミに目を向けた。

 

「ケガはない?」

「…ええ、平気…」

「やー、よかった、よくここがわかったなぁ‼ 早くこっから出してくれ」

「………もうさァ、ほんっとにあんたってばさァ、いい加減にしてくれる?」

「おまえなぁ、何遊んでんだルフィ…! 鳥に連れてかれて見つけてみりゃ今度は檻の中か、アホ!」

「ドアホ!」

 

 面倒くさそうに刀を肩に担ぎ、罵倒するゾロと肩をすくめるエレノア。

 困惑気味に見つめてくるナミは、殺気を漂わせながら近づいてくるバギーの姿を目にして表情をこわばらせた。

 

「貴様、ロロノア・ゾロに間違いねェな。おれの首でもとりに来たか?」

「いや…興味ねェな。おれはやめたんだ、海賊狩りは…」

「おれは興味あるねェ。てめェを殺せば名が上がる」

「やめとけ、死ぬぜ」

「ウオオオやっちまェ船長‼ ゾロを斬りキザめェ!!!」

「本気で来ねェと血ィ見るぞ!!!」

「……! そっちがその気なら……‼」

 

 ナイフを指の間に挟み、戦闘準備に入った船長を手下たちがはやし立てる。

 船長が負けるなどとは微塵も思っていない、自信にあふれている手下たちに囲まれたアウェイな状況で、エレノアはルフィを閉じ込めている檻に近づいた。

 

「うっわ、この鉄格子ゴツぅ…壊すのちょっとめんどくさいな」

「そう言わず頼む」

 

 船長のほぼ自業自得で入っているのだから、もう少しこのままにしておいてやろうかと思うエレノア。

 悩んでいる間に、肉が裂ける音が背後から聞こえてくる。

 振り返ってみれば、バギーの胴と腕を一刀両断したゾロが刀を収めようとしている姿が見えた。

 

「………なんて手ごたえのねェ奴だ…」

「…終わった?」

 

 戦闘音がほぼ、というか全く聞こえなかったエレノアは拍子抜けして目をしばたかせる。

 ゾロの手に負えなければ自分も加勢しようとか、手下は自分が担おうとか思っていたのに、あまりにも決着が早すぎた。

 

(いくらゾロ君が強くても、一海賊団の頭がこんなにもあっさり…?)

 

 聞いていた話や、バギーの賞金額のことを想いながらエレノアは首をかしげる。

 現に船長が倒されたというのに、手下たちはへらへらと笑ってばかりで激昂も狼狽えもしていない。

 

「へっへっへっへ…」

 

 不気味な笑い声が気になったが、戻ってきたゾロに気を取られて考えが及ばなかった。

 

「おいエレノア!その檻は壊せねェのか?」

「え、いや壊せないわけじゃないけど…こいつにはもうちょっとここで反省してもらおうかと思って」

「そうか、その手があったか」

「やめてくれ!」

 

 割と本気で考えているゾロとエレノアの提案に、焦ったルフィががしゃがしゃと檻を揺らす。

 この間にも手下たちは手を出そうとはせず、むしろ先ほどよりも馬鹿にした様子で笑い声をあげていた。

 

「へっへっへっへっへ‼︎」

「あーっはっはっはっは‼︎」

 

 さすがに不審に思ったエレノアが、意図を読もうと視線を巡らせる。

 誰一人として、この状況で慌ててなどいない。まるで、船長が倒されることが予想通りだったとでも言うようだ。

 

「何が、そんなにおかしい‼︎」

「笑ってないでこの檻の鍵を渡して‼︎ 私たちはあんたたちと戦う気はないよ‼︎」

「………? おっかしな奴らだなァ………」

 

 気味の悪さに、ゾロとエレノアが声を張り上げた時だった。

 エレノアは、先ほどまで真っ二つにされて倒れていたバギーが姿を消していることに、そしてその場に、一滴の血も流れていないことに気が付いた。

 そしてようやく、手下たちの嘲笑の意味に気が付いたのだった。

 

「!!? ゾロっ!!?」

「ゾロ君!!?」

「何よあの手⁉︎」

 

 その場のバギー一味以外の全員が、目を見開いて驚愕する。

 ゾロの脇腹に、一本のナイフがひとりでに突き刺さったのだ。いや正確には、手首から先の人間の手がナイフを握り、空中に浮遊してナイフを突き立てていた。

 異様な光景に、ナミやルフィが声を張り上げた。

 

「ぎゃっはっはっはっはっは‼︎」

 

 血を吐き、がくっと膝をついたゾロをバギー一味があざ笑う。

 ゾロは乱暴に抜かれたナイフと、それを持つ人間の腕を切り払おうとしながら、激痛に顔をしかめる。

 

「くそっ‼︎ なんだ、こりゃあ一体…!!!」

 

 浮遊する腕はゾロの剣を悠々と避け、嘲笑するようにくるくるとナイフを弄ぶ。

 そのありえない現象に、エレノアはハッと息をのんだ。

 

「手が浮いて………まさか、バラバラの実の能力⁉︎」

「その通り‼︎ それが、おれの食った悪魔の実の名前だ!!! おれは斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!!!」

 

 歓声を上げる手下たちやルフィたちに見せつけるように、バギーはバラバラになった自分の体を元通りにくっつけて見せた。

 どういう原理か、斬られた服までもが元通りにくっついている。悪魔の実らしい、異常な能力であった。

 だがエレノアは素直に驚く暇もなかった。

 膝をつくゾロの出血がひどくなっていたからだ。

 

「……‼︎ 急所ははずれてる…でもあの出血はまずい‼︎」

 

 いったん引こうと、ゾロのもとへ向かうエレノア。

 しかしその直前、彼女の体を大きな影が覆った。

 

「!!!」

 

 とっさに足を振り上げ、迫ってきた巨大な人影を受け止める。

 ガキン!!!と甲高い音を立て、エレノアの足に人影の鋭い爪がぶつけられ、押されたエレノアはルフィの檻に押し付けられた。

 

「よォ、ガキィ!!! おれの名を知ってるかァ!!?」

 

 背中に走る激痛に呻きながら、モヒカンヘアーに葉巻を咥えた大男を睨みつける。

 シャツを盛り上げる分厚い筋肉に覆われた大男は、鉤爪のついた迷彩柄の機械の腕を押し付けながら、猛獣のような目でエレノアを見下ろす。

 いかつい顔に浮かんでいるのは、他の人間を見下すような嗜虐的な目だった。

 

「……‼︎ 迷彩に鉤爪の機械鎧(オートメイル)………まさか、〝徹甲〟の錬金術師ブレスロー・ガンツ!!?」

「大当たりィ!!!」

 

 名前を言い当てられ、大男は心底嬉しそうに笑い、掴んだエレノアの足を振り回す。

 投げ出されたエレノアは慌てることなく、風を錬成してふわりとその場に降り立った。

 

「嬉しいねェ嬉しいねェ‼︎ おれ様の名がここまで有名になっていようとはァ!!!」

 

 何か琴線に触れたのだろう、先ほどよりもテンションを高くしながらガンツは機械の腕を振るう。

 エレノアは目を細め、不機嫌そうに大男を睨みつけた。

 

「いやっはァァ!!!〝タイガークロー〟!!!!」

 

 そのまま、虎のように強力な横なぎがエレノアの足に振るわれる。

 エレノアはそれに逆らうようなことはせず、後ろに弾き飛ばされる勢いを利用して距離を取る。

 一方で、ガンツは生身ではありえない音を立てるエレノアの足に肩眉を上げた。

 

「その足………お前もワケありだな⁉︎ いったいどんな業を背負ってやがるんだァ!!?」

 

 追撃しようと向かってくるガンツ。

 エレノアはパンッと両手のひらを合わせ、屋上に手を叩きつける。

 すると、地面からぼこぼこと無数の木の柱が伸び、ガンツの進行を妨害した。

 

「! 錬成陣もなしに…………!!? 面白れェ!!!」

 

 ガンツは一瞬目を見開くも、すぐにまた獰猛な笑みを浮かべて障害物を破壊していく。

 少しの足止めにしかならなかったが、その間にエレノアはルフィたちのいる方へと戻った。

 

「なんなのよ、こいつら…⁉︎ バラバラになったり地面を変形させたり…‼︎ バケモノばっかじゃない!!!」

 

 絶句するナミの後ろで、バギー一味の戦い方を見ていたルフィが顔を怒りでゆがませる。

 そしてやがて、爆発した。

 

「後ろから刺したり不意打ちしたり卑怯だぞ‼ デカッ鼻ァ!!!」

 

 言ってはならない言葉をためらいなく口にしたルフィに、バギーやナミの戦慄の目が集中する。

 特にバギーは一瞬だけ呆けたかと思うと、すぐさまその顔を怒りで真っ赤に染め上げた。

 

「誰がデカッ鼻だァああ!!!!」

 

 怒りのままに、今度はルフィに突き刺してやろうとナイフを握った腕を発射する。

 ビュン、と矢のように飛んだナイフだったが、なんとルフィはそれを歯で噛んで止めて見せた。

 ナイフの刃をかみ砕き、ルフィは笑顔でバギーに告げる。

 

「お前は必ずブッ飛ばすからな‼」

「ぶあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっブッ飛ばすだァ!!? 終いにゃ笑うぞ!!! てめェら4人、この場で死ぬんだ!!! この状況で、どうブッ飛べばいいんだおれは⁉ 野郎ども‼ 笑っておしまいっ‼」

 

 ゲラゲラとバギー一味が盛大に嘲笑する。

 そんな挑発に乗ることなく、ルフィはゾロとエレノアに目を向けた。

 

「逃げろ‼ ゾロ、エレノア!!!」

「!……何っ⁉」

「…………了解」

 

 一瞬驚いた様子のゾロとエレノアだったが、すぐさま船長の意図を察して笑みを浮かべた。

 戦慄の表情を浮かべるナミをよそに、エレノアはフードの下でにやりと笑い、パンッと手のひらを合わせて地面に触れる。

 今度は石材が錬成され、バギー一味が使っていた大砲の真下に石柱を作り出した。

 

「まさか……‼」

 

 真下から伸びた石柱が大砲を押し上げ、支柱を中心に方向を180度変える。

 その矛先は、バギー一味だった。

 

「ぎいや―――――――っ大砲がこっち向いたァ―――っ!!!」

「ぬあ~~~~っ!!! あれには、まだ〝特製バギー玉〟が入ったままだぞ!!!」

 

 町を一発で破壊して見せる威力の砲弾が向けられていることで一味は慌てだす。

 そのすきに、ゾロがナミを檻の近くに寄らせた。

 

「よし、点火だ!!!」

「ほいきた!」

「え…」

 

 ゾロの合図で、指先に特殊な砂粒を纏わせたエレノアが手を大砲に向けると、パチンッと指を鳴らして見せた。

 砂粒がすり合わされ、エレノアの手で火花が散る。

 それが空気中のチリやホコリに伝わっていき、大砲の導火線でボッと炎に変化した。

 

「よせ!!! ふせろォ―――っ!!!」

 

 バギーが叫ぶも、もう遅い。

 火は大砲の火薬に点火され、凄まじい威力の砲弾がバギーたちに襲い掛かる。

 ドウン!!!と轟音とともに屋上が吹っ飛び、爆風が煙幕のように屋上に広がっていった。

 

「今のうちだ……‼ ところでお前、誰だ」

「私…、泥棒よ」

「そいつはウチの、航海士だ」

「バッカじゃないの、まだ言ってんの!? そんなこと言うひまあったら、自分がその檻から出る方法考えたら⁉」

「あー、そりゃそうだ。そうする」

「いや、問題ない。てめェは檻の中にいろ‼」

 

 ゾロはそう言い、ルフィが入ったままの檻を持ち上げていく。

 しかしその負荷はかなりのもので、刺されたわき腹の傷からブシッと鮮血が噴き出した。

 

「オオ…‼」

「おい、ゾロ、いいよ! 腹わた飛び出るぞ」

「痛い痛い痛い‼ 見てるだけで痛いって‼」

「飛び出たらしまえばいい、おれはおれのやりてェようにやる! 口出しすんじゃねぇっ!!!」

 

 あまりの痛々しさに、ルフィやエレノアから制止の声が上がるがゾロは頷かない。

 ナミはその姿を、困惑気味に見つめるほかになかった。

 

「あいつらどこだ!!!」

「いません船長っ!!! ゾロも‼ ナミも‼ 檻まで!!!」

「バカな‼ あれは五人がかりでやっと運べる鉄の檻‼」

 

 煙が徐々に晴れていき、散々暴れた連中が姿を消していることに怒りを燃やすバギーたち。

 そこからあまり離れていない建物の屋根の陰で、檻を置いたゾロが息をついていた。

 

「ふう…」

「くそっ、この檻さえ開けば!!! 開けば!!!」

「悪いけど、錬成反応で居場所バレるから自分で何とかしてよね」

「厄介なモンに巻き込まれちまった…‼ だが一度やりあったからには、決着(ケリ)をつけなきゃな‼」

 

 何とか逃げられたが、このまま終わらせるつもりはなかった。

 不意打ちで手傷を追わせられた分や、バカにされた分も返さねば気が済まない。

 そういうゾロに、エレノアは呆れた目を向けるばかりであった。

 

 

 がれきや気絶した部下たちが転がる、ボロボロの酒場の屋上。

 積みあがった瓦礫を投げ飛ばし、ホコリまみれになったバギーが立ち上がった。

 

「ナメやがってあの四人組っ!!!! ジョ―――ダンじゃねェぞ、おいっ!!!」

 

 名もないコソ泥一味にコケにされ、苛立つバギーが怒りの声を上げる。

 その横で、ガンツは物足りなさそうに舌を鳴らし、次いで待ち足りなさそうな舌なめずりをしていた。

 

「あのガキィ…‼ おれ様に恐れをなして逃げやがったかァ…? だが逃がさねェぜ‼ 全ての錬金術師を凌駕するおれ様の実力は、まだ半分も披露できてねェんだからなァ!!!」

 

 獲物を探す獣のような顔で、ガンツは目標をどのようにいたぶってやろうかと考えるのだった。

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