ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第79話〝お前を否定する〟

「おれの相手は邪魔口だ!!!」

「おのれ麦わら、ビュンビュンと飛び回りやがって…!!!」

「…もう迷わないぞ…!!!」

「お前がおれを倒せるって!!? えェ!!? 化け物!!!」

「完膚なきまでに叩き潰す‼︎」

「はァ……なんだか面倒なことになってしまったな…」

 

 並び立った三人が、目の前のそれぞれの敵に闘志を燃やす。

 若干一名やる気が見られないが、それでも場の緊迫感は増す一方であった。

 

「モ……モブゥ……!!!」

「さっきからメソメソうるさいよ………仕方がないじゃないか、私に戦う力はないんだから」

 

 ボロボロと涙をこぼし、全身の痛みに苦しむモブソンにタッカーは鬱陶しそうに吐き捨てる。

 そのうちその口元に、にたりと悪魔の笑みが浮かべられた。

 

「戻してやるからしっかり働け」

 

 エレノアは耳に届いたその言葉に、きつく拳を握りしめた。

 決して出来もしない口約束を平然と口にする男に、尋常ではない殺意が募った。

 

「あんたにはもう……‼ 人の心がないんだね…!!!」

「は…何を怒ることがある? 医学に代表されるように、人類の進歩は無数の人体実験の賜物だろう? 君も科学者なら…」

「黙れ……!!!」

 

 同類扱いされるだけでなく、錬金術師としての矜持をも汚され、エレノアの眼に強烈な火が灯る。

 後ろにいるニーナから隠すように、タッカーの前で両手を合わせ、自分の体を成人サイズに変える。

 

「あんたのやったことは…‼ 誰かの役に立つものなんかじゃない…!!! あんただけが喜ぶあんただけの業………ただのエゴだ!!! こんな……命をもてあそんで!!!」

「命⁉ はは‼ 命ね! たとえばそう‼︎〝鋼〟の錬金術師‼ 彼の手足と弟‼ あれも君が言う()()()()()()()()結果………」

「違う!!!」

 

 ケタケタと狂ったように笑うタッカーをエレノアは即座に否定する。

 しかしタッカーの口は止まらず、意地になっているようにしか見えないエレノアに対して嘲笑する言葉をつづけた。

 

「ちがわないさ‼ 目の前に可能性があったから試した!!!」

「ちがう!!!」

「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!!!」

「黙れ!!! あの子たちとお前は違う……!!! 私は…!!!」

 

 ギン、と貫くような鋭い目でタッカーを睨むと、饒舌に語っていた口が慄いたように閉ざされる。

 ざわりと髪を揺らし、殺気を迸らせ、エレノアは決意する。

 

 目の前のこの男だけは、絶対に息の根を止める。

 

「私はお前を……!!! 全力で否定する!!!」

「ああもう……うるさいなァ、済んだことをいつまでも」

「まっはっはっはっは!!! わけのわからんことを言いやがって…‼ それより不死だ!!! 不死の生き血がおれ様の目の前にあるぞ!!! タッカー!!! さっさとあの女をとっ捕まえて連れて来い!!!」

 

 面倒くさそうにため息をつくタッカーに、会話の内容など一切理解しないワポルが口うるさく喚く。

 

「どいつもこいつも……馬鹿ばっか…!!!」

 

 あきれ果てるエレノアは、改めてタッカーと彼の従える毛カバに身構える。

 

「仕方がないですね……ほら、行っておいで」

「モブゥウウウ!!!」

 

 タッカーに命じられ、元に戻りたい一心のモブソンがガシャンと銃器を準備する。神経に繋がれた撃鉄や導火線が、大砲と銃に火を入れた。

 チョッパーはそれを横目に、自身はチェスマーリモに向き直り、懐から一つの金色の丸薬を取り出して掲げた。

 

「〝ランブルボール〟の効力は3分!!! 3分でお前を倒す!!!」

 

 チェスマーリモはただの丸薬を大層に構えるチョッパーに、見下した笑みを浮かべながら火のついた矢を構えた。

 

「「お前に何ができるんだって⁉〝雪解けの矢マーリモ〟!!!」」

「モ"ブゥゥゥゥゥ!!!」

「『ランブル』!!!〝脚力強化(ウォークポイント)〟」

 

 チェスマーリモの放った火矢と、モブソンの放った砲弾が一斉にエレノアとチョッパーに襲い掛かる。

 翼をはばたかせたエレノアと獣の姿になったチョッパーは、向かいくるそれらを素早く躱していく。

 

「「ハッ‼ 何をするかと思えば変形か‼ つまり、てめェは悪魔の実の能力者だな。ドルトンと同じ動物(ゾオン)系‼ トナカイ人間か‼」」

「違う‼〝人間トナカイ〟だ‼」

「同じだ‼ 貴様ら動物(ゾオン)系の『三段変形』ならおれは知り尽くしている!!!」」

 

 同じ幹部であったドルトンもまた、獣の力を備えた能力者。

 人と獣、そしてその中間という三つの姿への変形は確かに脅威だが、見る限りチョッパーはドルトンと同じ怪力型であると予測でき、

 

「「〝ドビックリマーリモ〟『四本大槌(クワトロハンマー)』!!! パワーで、おれに勝てるものか!!!」」

「『飛力強化(ジャンピングポイント)』」

 

 四つの大槌を別々に操り、チョッパーに向けて振り回すチェスマーリモ。

 だがそれらは、さらに異なる姿に変わったチョッパーによって空振りへと終った。

 

「「なんだ、あの形態はっ!!!」」

 

 チョッパーの姿は、跳躍力に特化したような形態に変化していた。

 素早さに特化した細身の人の半身に、崖を昇る強靭な両足。怪力型とは明らかに異なる変化に、チェスマーリモは言葉を失った。

 

「「『人獣型』はさっきのチビトナカイじゃねェのか!!? コザかしい!!!」」

「『毛皮強化(ガードポイント)』」

 

 高く跳躍したチョッパーを打ち落としてやろうと、もう一度大槌を振るうチェスマーリモ。

 しかし今度は、分厚く毛を生やした丸々とした姿に変わったチョッパーに受け止められ、ノーダメージで終わった。

 

「きかねェ」

「そうか…!!! 決闘(ランブル)か!!! 悪魔の実の変形の波長を狂わせて…三種類以上の変形能力を得る、戦うための薬か!!!」

「そうだ…‼ 5年間の研究で、おれはさらに4つの変形点を見つけたんだ!!!」

「「〝七段変形〟だと!!?」」

 

 ぶるぶると雪を払うチョッパーに、エレノアは驚愕と感心で笑みを浮かべる。

 かつてはただ力任せに突っ込むことしかできなかった。しかし今のチョッパーは己の能力をさらに進化させた、戦う医者へと成長していた。

 その勇姿は、ルフィのドツボにはまっていた。

 

「な…七段変形面白トナカイ!!!!」

「どうしちまったんだい、あいつは」

「七段変形と聞いて嬉しさの限界を超えちまった様だ」

「てめェおれとの勝負はどうしたァ!!!」

 

 キラキラと目を輝かせ、その場に正座してチョッパーの戦いを観戦するルフィに、放置されたワポルが怒鳴る。攻撃をせず待っているあたり、律儀なのか馬鹿なのか。

 

「「そんなみせかけに惑わされはしねェぞ!!!」」

「みせかけじゃないさ、〝腕力強化(アームポイント)〟」

 

 今度は二本足で立ち上がったチョッパーの両腕が、分厚い筋肉で膨れ上がる。

 直後、高速で振るわれたチョッパーの蹄が、一瞬でチェスマーリモの大槌を粉々に砕いて見せた。

 

「言っとくけどおれの〝鉄の蹄〟は岩だって砕けるんだ‼」

 

 武器を破壊され、簡単に対応させない数々の変形を見せるチョッパーに、チェスマーリモさすがに警戒を深め始める。

 そんな中、後方に控えていたタッカーが舌打ちし、モブソンに命じた。

 

「ならば重火器はどうですかねェ…?」

 

 モブソンの体から生えた重火器の照準が、エレノアからチョッパーに向けられる。

 一対一の攻防だと思い込んでいたチョッパーが目を見開いた時、謳うような声がその場に響いた。

 

「標的設置……発火、磔刑茨冠(ギルティ・ソーン)〟!!!

 

 パチンと指を鳴らす音が聞こえ、火を吐こうとしたモブソンの砲身が、その瞬間真っ赤に熱を帯びる。

 ギョッと目を剥いた直後、毛カバの周囲で強烈な閃光が走った。

 

 ドカン‼と凄まじい轟音と衝撃波が走り、モブソンに備わった大砲がまとめて吹っ飛んだ。

 

「モ"ブゥゥゥゥゥ!!!」

「なっ…!!?」

「あんたの相手なんて、ここから動く必要もないさ」

 

 自分の手駒が一瞬にして丸裸にされ、絶句するタッカーにエレノアが小馬鹿にするように告げる。

 何が起こっているのかわからない様子のタッカーに、エレノアは気だるげに手袋をはめた指を構えた。

 

「細い銃口ならともかく、そんなバカデカい派手な武器で助かったよ……狙い撃ちするのに、大した労力を使わずに済んだよ」

 

 理解が追い付かず、立ち尽くすタッカーから興味が失せたように、エレノアは痛みで苦しむモブソンを見やる。

 危機を脱したチョッパーは、もう一度人獣型に戻ると自身の蹄の先端を合わせて身構えた。

 

「お前の弱点はもう診た。これで終わりさ‼『診断(スコープ)』」

 

 蹄の間を覗き込み、照準を合わせるようなポーズをとる。

 それを見たルフィは、全く見当違いな期待を寄せ始めた。

 

「ビ……!!! 光線(ビーム)だ…絶対光線(ビーム)だ!!!」

「でるかアホ」

「うっさいなお前っ‼」

 

 サンジによる冷静なツッコミを受けるルフィは放置し、チョッパーはチェスマーリモを見据える。

 チェスマーリモは構わず、新たに備えた四つの戦斧を振り回しながら突撃を始めた。

 

「「おれを見ただァ!!? それがどうした!!! このおれに死角などないぞ!!! 攻撃もできねェ変形バカが、終わるのはてめェの方さ!!!」」

 

 巨大な四つの刃が、生意気な化け物を切り刻んでやろうと迫る。

 ようやく再起動を果たしたタッカーも、苦悶の咆哮を放つモブソンに慌てふためきながらも命じ、少しずつ後ろに下がった。

 

「ぶ、武器がだめなら…踏み潰せ‼ いけよ早く!!!」

「モ"ブゥゥゥ!!!」

「…………ごめんね、私の力でも、君を助けてあげることはできない。ニーナと違って、生物でも兵器でもなくなった君は…長くても数時間と生きられない…‼ だから………痛みの中で苦しみ続けるよりは、いま楽にしてやることが一番の救済なんだ」

 

 パンッ、と合わせたエレノアの両手のひらが、青い閃光を走らせ周囲の空気を酸素と水素にわける。

 

 パチンともう一度指を鳴らすと、エレノアの右手に業火が生まれる。

 見る見るうちに一振りの剣の形をつくるそれを、エレノアは両手で掲げながら頭上に構える。

 

「……己の罪を、業火の中にて悔やむがいい」

 

 高速で接近したチョッパーが、チェスマーリモの真下で強靭な両腕を構え。

 ドスンドスンと猛烈な勢いで向かってくるモブソンに向けて、エレノアの備える炎の剣が威力を増しながら振り下ろされる。

 

〝刻蹄〟……‼『(ロゼオ)』!!!

反逆滅剣(クラレント)〟ォ!!!!

 

 チェスマーリモのあごに蹄が食い込み、桜のような跡を刻みつけると、モブソンが凄まじい威力の炎の渦に焼き焦がされる。

 相当な実力者である幹部と自慢の技術を使用した兵器が宙に舞い、タッカーは大きく目をあけて言葉を失った。

 

「んなっ…!!?」

 

 思考が停止している様子の彼にも、爆炎が容赦無く牙を剥く。

 悲鳴もあげることなく炎に飲み込まれたタッカーに、高速で接近したエレノアは渾身の回し蹴りをたたき込んだ。

 

「これは……ニーナの分だ!!!」

 

 顔面に強烈な一撃を食らった黒焦げのタッカーは、骨ごとほとんどの歯をへし折られながらゆっくりと倒れていく。

 その際、懐から零れ落ちた赤い宝石付きのペンダントを見つけると、エレノアは何も言わずにそれを両手で挟み、青い閃光を走らせて破壊した。

 

「フンッ…! 石を使っても、やっぱり雑魚は雑魚だったね」

「3分」

「やった―――――――‼ トナカイ――!!!」

 

 ハットに着いた雪を払い、人獣型に戻るチョッパーと着地するエレノアの姿に、ルフィは思いっきり歓声を上げる。

 しかしただ一人ニーナのみが、倒れてピクリとも動かなくなったタッカーを見つめ、悲し気に立ち尽くしていた。

 

「……おと、う、さん」

「……本気、出させやがって…!!!」

 

 うつむいている合成獣(キメラ)にやりきれなさを覚えながら、限界を迎えたエレノアがどさりと倒れ伏す。

 服の下に見える包帯から血が滲んでいく姿に、くれはは心底呆れた様子だった。

 

「やっぱり…無茶してやがったね………とんだ激痛だっただろうに、ばかな小娘だ」

 

 ドクターストップを受けたサンジのように止められないように、痛みを必死でこらえて戦っていた錬金術師の女。

 くれははその姿に、少しだけ表情を綻ばせた。

 

「だがその頑張りに免じて……少しは認めてやるよ、お前たち錬金術師をね。ヒ――ヒッヒッヒ‼」

 

 

 余談ではあるが、二人の戦闘中に姿を消したワポルに今さらながらきづいたルフィが猛然と駆け出していくのだが、あえて語る必要はあるまい。

 

 

「おい、ちょっと乗りすぎじゃねェのか⁉」

「傷を負ったドルトンさんを放っておけるか‼ おれ達だって戦うさ‼」

「わかったけど進まねェぞこれじゃあ‼」

 

 ぎしぎしと軋みを上げるゴンドラの中で、ウソップが必死に漕いでいる住民達に苦言をこぼす。

 ワポルが城に向かったと知った人々が、ならば自分体も決着をつけると乗り込んだはいいが、重すぎてなかなか進まないでいた。

 

「ドルトンさん、無理しないで」

 

 ギャ―ギャと騒がしい中、ビビがゴンドラの隅で荒い息をつくドルトンに向けて声をかける。

 イッシー20の手によって蘇生したドルトンは、本調子ではないにもかかわらずワポルとの決着を望み、住民たちの制止を押して乗りこんだのだ。

 

 ―――何様のつもりだ、ドルトン。

    バカにつける薬がない…⁉

    この、おれに…バカだと⁉

    民を救う正義の使者にでもなったつもりか!!!

    つけあがるな一家来が!!!

 

 思い浮かぶ、かつてヒルルクの件の直後にワポルに戦いを挑み、敗北した時の記憶。

 圧倒的な戦力を誇るワポルに手も足も出ず、地に伏した自分にワポル達が吐いた言葉だった。

 

 ―――国民の信頼もあるお前は優秀な守備兵だ。

    考え直せよドルトン。

 ―――あのイカレ医者にそそのかされて少し夢を見ただけだ‼

    地位を捨て、国を滅ぼし、てめェに何のメリットがある‼

 ―――ごめんなさいと一言、言えたら許してやるぞドルトン君。

    まっはっはっはっはっは。

 

 思い出すたびに、その浅ましい姿に怒りが募り、自分自身の情けなさも許せなくなる。

 一体自分は、どれほど長い間目を曇らせていたのか。どれだけの事実から目を背けていたのか。

 

「何が地位だ………!!! 何が王だ!!!!」

 

 鬼のような形相で悔しさをあらわにするドルトンに、ビビやエドワードはかける言葉が見つからない。

 誰よりも国を想い、誰よりも苦しんだ男の慟哭は、聞く人の胸を締め付けた。

 

「必ず…この国を終わらせてやる…!!! 歴史が何だ…!!! 国の統制が何だ!!! 国に〝心〟を望んで何が悪い!!!!」

 

 きつく歯を食いしばるドルトンは、しばらくして懐に手を伸ばす。

 自身の腹にまいたあるものを取り出し、マッチを用意して使う準備を整えようとした。

 

「いいか、みんな。城へついて…私が城内へ入ったら……」

「もういいって…ドルトンさん」

 

 体にまいたダイナマイトを出そうとした時、それをエドワードが片手で止める。

 考えを見破られていたような態度に驚くドルトンだが、一度決めた覚悟を早々曲げられないと出された手を押し返そうとした。

 

「エドワード君…‼ 止めてくれるな……ここは、私の手で決着を」

「だ~からもういいんだって…‼ あんたが城に行って自爆したところで………この国はすでに滅んでる」

 

 苦笑するエドワードが、そしてアルフォンスが見つめる先にあるのは、ワポルがいると思われる城。

 その天辺から伸びている、肌色をしたなにかだ。

 

「………見ろ‼ 城のてっぺんに誰かいるぞ!!!」

「兄さん。この国は………ドクロに敗けたんだね」

「そういう事だ…………あいつらを敵に回した時点で、この国は終わっちまってんだよ。ほんっと…最初から最後までバカな王様だぜ」

 

 住民たちが見上げる中、城の天辺から伸びたそれが勢いよく引き戻されていく。

 先端に硬く構えた手のひらを備えたそれは、なぜか城の尖塔から顔を出したワポルに向かって迫る。涙目で喚くワポルに、やがてその一撃は炸裂した。

 

「〝バズーカ〟ッ!!!!」

 

 放たれた両の掌底が、再びワポルを空に輝く星屑へと変える。

 

 

 国を捨てて逃げ出し、傲岸不遜に舞い戻ろうとした愚王は今度こそ追い出され。

 名も無き国は、本当の意味で自由を手に入れたのだった。

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