ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「ルフィ‼ てめぇがエサ食っちまうからいけねェんだろうが‼ エサがなきゃ釣れるもんも釣れねェよ!!!」
「お前らだって食っただろ」
「おれ達はエサの箱のフタの裏についてたヤツ食っただけだ‼」
じりじりと肌を焼く天気の中、青年たちのギャーギャーと騒がしい声が聞こえる。
船室から顔を出したビビは、食糧調達を命じられた仲間達がどれだけの戦果を得られたのかを確かめに向かった。
「ルフィさん、ウソップさん、エドワードさん、何か釣れ…カル~~~~~~~~ッ!!!」
「グエ―――――ッ!!!」
「あなた達カルーに何してんのよ!!!」
しかし、餌の代わりに釣り糸でぶらさげられる自分の相棒の姿に目を剥き、ビビが思いっきりルフィたちをぶん殴る。
たんこぶを作って伸びた三人を鼻息荒く睨んでいると、船の進行方向上を見やったビビの目に奇妙なものが映った。
「あれは何? 煙…!!!」
「何だ、ありゃ」
「わたあめかな」
「ナミさん来て‼ 正面に何かあるみたい‼」
海面上にもくもくと上がる白い何かに、ビビが慌てて海に詳しいナミを呼ぶ。
それより先に、エドワードがちらりと目をやっただけで、何ということはないというように息を吐いた。
「…ああ、気にすんな。大丈夫だ、ただの蒸気だからな」
「ただの蒸気が海から!!?」
「ええ、ホットスポットよ」
「何だそりゃ」
「マグマができる場所のこと。あの下には〝海底火山〟があるのよ」
「海底なのに火山なのか?」
「そうよ。火山なんてむしろ地上より海底の方にたくさんあるんだから」
「海の面積は惑星の表面の7~8割だって言うからね」
「へ―――」
「どうでもいいや、食えねェんじゃ」
初めて知る知識に、ビビとチョッパーがへーと感嘆の声を上げる。
ナミはどこか楽し気な笑みを浮かべ、白く不確かな蒸気がしっかりと存在を示している光景を見つめた。
「こうやってね、何千年何万年後、この場所には新しい島が生まれるの」
短命な人間にも、長命な巨人族にさえ決して見る事はできない、遠い未来。
それを思い浮かべるだけで、何とも言えない高揚が胸の内から沸き立つようであった。
「…ナミさんステキ♡」
「なにか…すごい場所みたい。ここは…」
「そうよ」
「〝
「何万年って…おれ生きてられるかな」
「…そこは死んどけよ、人として」
「不老不死とかさすがに笑えねェよ」
感動するビビやエレノアとは真逆に、空腹が頭の中を占めているルフィはつまらなそうに舌を出す。
そうこうしているうちに、メリー号は件の蒸気の中に真正面から突っ込んでいった。
「うわーっ」「ウェホッ」「エホッ」
「硫黄くせぇ‼」
「なんも見えねェ、湯気だらけだ‼」
「我慢して…すぐ抜けるから」
上記の規模がかなり広いために、辺りは霧の中のように真っ白に染まる。
さらにはひどい匂いと熱さで苦しめられつつも、何とかホットスポットを突っ切った時だった。
釣り糸でぶらさげられたままだったカルーの首に、見覚えのない奇天烈な格好の大男が掴まっていた。
「「「オカマが釣れたあああ!!!」」」
「シィ~~まったァ‼ あちしったら、なに出合いがしらのカルガモに飛びついたりしてんのかしら!!!」
ハッとなって手を離した騒がしいオカマは、そのまま海に向かって真っ逆さまに落ちていった。
「いやーホントにスワンスワン」
ぽたぽたと全身から雫を垂らした、バレリーナのような変態的な格好のオカマは、片手を掲げてルフィたちに深く頭を下げる。
一方思わず彼を助けたルフィたちは、心底呆れた視線を向けていた。
「見ず知らずの海賊さんに命を助けてもらうなんて、この御恩一生忘れません‼ あと温かいスープを一杯頂けるかしら」
「ねェよ!!!」
「こっちがハラへってんだ‼」
妙に図々しいオカマにみんなでツッコミを入れ、そのせいでさらに空腹がひどくなることに険しい顔になる。
オカマはふと視線を移し、ビビを見つけると気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「アラ‼ あなたカ――ワイ――わねー好みよ♡。 食っちゃいたい、チュッ♡」
「ダメに決まってんでしょ」
やや引き攣った顔になるビビの前に立ち、エレノアがジト目でオカマを睨む。
それを気にせず、ルフィが海に沈んだ時のオカマを思い出して呟いた。
「お前、泳げねェんだなー」
「そうよう、あちしは悪魔の実を食べたのよう」
「へー‼ どんな実なんだ?」
「そうねい。じゃあ、あちしの迎えの船が来るまで、慌てても何だしい。余興代わりに見せてあげるわ」
期待の視線を向けられ、オカマは雫を払いながら立ち上がると、その場で大きく腕を振り上げた。
「これがあちしの能力よーう!!!」
そう叫んだオカマが振り上げた手を突き出し、なんとルフィの顔面に強烈な張り手を見舞いする。
ルフィはたまらず吹き飛ばされ、船室の壁に勢い良く激突した。
「うべっ!!!」
「ルフィ!!!」
「何を…」
突然のことにやはり敵か、と身構える仲間達。
しかしその表情は、次の瞬間驚愕に変わり固まっていた。
「待――って待――って待――ってよ――う。余興だって言ったじゃな――いのよ―――っ!!!」
「な…!!?」
「ジョ~~~ダンじゃな―――いわよ―――う!!!」
やたらと高いテンションのまま手で制するオカマが、聞き覚えのある声で笑う。
小馬鹿にするような表情で騒いでいるのは、格好こそ違うもののルフィと寸分たがわぬ姿だった。
「………はっ⁇ おれだ!!!」
「そっくり!!? びびった⁉ ビビった⁉ が――っはっはっはっは!!!」
ルフィが目を白黒させる前で、オカマはルフィの顔でしてやったりと爆笑する。格好が奇天烈なままなだけに、その異様さが際立っていた。
「左手で触れればホラ元通り。これがあちしの食べた〝マネマネの実〟の能力よ――う!!!」
「声も…」
「体格まで同じだったぜ………!!!」
「姉弟子みてェだ……でもこっちの方がもっとすげェ…!!!」
「スッ、スゲ――――ッ‼」
「まァ、もっとも殴る必要性はないんだけどね――いっ」
全員が驚愕で絶句し、騒いでいると、オカマは順々に仲間達の顔に触れていく。
そしてまた右手で自分の顔に触れ、自分の姿までもを変えてみせた。
「この右手で……」
まずはウソップに。
「顔にさえ」
次にゾロに。
「触れれば」
次はチョッパー。
「この通り」
今度はエドワード。
「誰の」
さらにエレノア。
「マネでも」
ガリガリに痩せた金髪の青年に。
「で~~~きるってわけよう‼ 体もね♡」
そして最後にナミに変わり、性別まで超越していることを前をはだけて示して見せ、全員を吹き出させる。
その後、鬼の形相のナミに思いっきりしばかれた。
「やめろ‼」
「ア~~ウチ!!!」
涙を流して崩れ落ちるオカマ。
しかしエレノアとエドワードは、オカマの能力とは別に驚愕の表情を浮かべていた。
「あれ…今の…⁉︎」
「どういうこと…⁉」
「さて、残念だけどあちしの能力はこれ以上見せるわけに」
目をこすりながら絶句するエレノアたちをよそに、オカマは名残惜しそうに居住いを正す。
するとルフィたちが、面白い芸の持ち主を揃って持ち上げ始めた。
「お前すげー‼」
「もっとやれー」
「さ~~ら~~に~」
「ノリノリじゃない」
「メモリー機能つきぃっ‼ 過去に触れた顔は決して‼ 忘れな~い」
オカマが右手でポンポンと顔に触れるたびに、面白い様に様々な顔に変化していく。
その中の顔の一つに、ビビが目を見開くのも気づかないまま。
「ど―――うだったあ!!? あちしのかくし芸っ‼ 普段、人には決して見せないのよう⁉」
「「「イカス――!!!」」」
「ジョ――ダンじゃな―――いわよ―――う‼」
「「「ジョ――ダンじゃな―――いわよ―――う‼」」」
「やってろ」
あっという間に意気投合したルフィたちが、肩を組んではしゃぐのを横目にナミが肩をすくめる。
すると彼女の目が、遠くから近づいてくる一隻の船を捉えた。
「それよりさ、なんか船が近づいてきてるけど…あんたのじゃない?」
白鳥の船首を持つ船の存在と、聞こえてくる船員たちの声を示すと、オカマはハッと表情を変えて振り向いた。
「アラ! もうお別れの時間⁉ 残念ねい」
「「「エ"――――ッ!!!」」」
「悲しむんじゃないわよう。旅に別れはつきもの‼ でも、これだけは忘れないで」
オカマは見事な跳躍で自分の乗っていた船に飛び移ると、涙で濡れた目を向けて親指を立てる。自分自身の寂しさにも蓋をしながら。
「友情ってヤツァ…つき合った時間とは関係ナッスィング!!!」
「「「また会おうぜ―!!!」」」
「さァ行くのよお前達っ!!!」
「ハッ!!! Mr.2・ボン・クレー様!!!」
泣きながら別れの言葉を送るルフィたちを背に向け、オカマ―――Mr.2は船員たちに告げてあっという間に去っていく。
あまりにもさりげなく聞こえてきた単語に、ルフィたちは危うくそれを聞き逃しかけた。
「Mr.2!!!」
「あいつが………Mr.2・ボン・クレー!!!」
「そんな…!!!」
「ビビ‼ エド‼ アル‼ お前、顔知らなかったのか!!?」
「すまねェ…Mr.1とMr.2のペアの情報はまだ手に入ってなかったんだ」
「噂には聞いてたのに…Mr.2は…」
目を見開くルフィたちに、エドワードとアルフォンス、ビビは申し訳なさそうに眉間にしわを寄せる。
噂でしか聞いたことがないのなら仕方がない、とルフィたちは自身らの迂闊さを呪いかけた、が。
「大柄のオカマでオカマ口調、白鳥のコートを愛用してて背中には〝おかま
「気づけよ」
どう考えてもたった一人を表していそうな情報の多さに、全員が呆れた視線を集める。
しかしビビはそれどころではなく、Mr.2がみせた顔の一つに戦慄の表情を浮かべていた。
「…さっき、あいつが見せた過去のメモリーの中に…父の顔があったわ…‼ あいつ一体…父の顔を使って何を……⁉」
「………てめェが例えば王になりすませるとしたら…相当よからぬこともできるよな…」
「そりゃ厄介な奴を取り逃がしちまったな」
「あいつ敵だったのか…?」
「迂闊だった…‼ 何であんなホンワカしちまったんだ…⁉」
「確かに…敵に回したら厄介な相手よ…‼」
頭を抱えるエドワードらに、不安を隠せないウソップたち。
敵に回すと恐ろしい能力を前に、一体どうしたらいいのかと思考が詰まりかけていた。
が、ある男がそれを否定した。
「そうか?」
何を困った顔をしているんだ、と片眉を上げるルフィに、全員ががっくりと肩を落とす。
この男の能天気さは今に始まったことではないが、今はやめてほしかった。
「あのねェ、ルフィ…」
「まァ待ちなよ。確かにこの人の意見に根拠はない。でもそう臆する必要はないのは正しいさ」
「今あいつに会えたことをラッキーだと考えるべきだ…対策が打てるだろ」
しかし、何とエレノアとゾロがルフィの肩に手を置き、彼の言葉を肯定する。
その顔には、勝利の糸口を見つけたような不敵な笑みが浮かんでいた。
数日後なる日、麦わらの一味の背後にとある訪問者の姿があった。
「ニ"ャ――――ッ」
「なんか出たァ!!!」
ウロコの生えた巨大な猫が、招き猫のようなポーズで浮上してきたのだ。
悲鳴を上げるウソップとチョッパーのそばで、エレノアがどこか懐かしそうに感嘆のため息をついていた。
「海ねこかァ…」
「っっア"ア"~~っ!!!」
「海獣だ~~っ!!!」
「4日ぶりのメシだァ!!!」
「メシだァ!!!!」
「進路よし…と。そろそろ着いてくれないかな…」
「メシ――!!!」
空腹のあまり化け物のような目で吠えるルフィに、海ねこは本能的な恐怖を抱いたのかザザッと後ずさる。
船の進行方向とは真逆に距離をとられ、ルフィたちは慌てだした。
「うおっ、引きやがった!」
「船、バック‼ バック‼」
「できるかァ‼」
「逃がすんじゃねェぞ、確実に仕留めろ!!!!」
「はい、やめー」
しかし狩りに集中していた男たちは、背後から近づいてきたエレノアによって欄干に蹴り飛ばされる。
海ねこはその隙に、冷や汗をぬぐうようなしぐさを見せて海中へと逃げていってしまった。
「騒がしてごめんねー」
「な…なんで⁉ エレノアちゃん…!!!」
「食べちゃダメなの!」
「アラバスタで海ねこは神聖な生き物だからさ」
抗議の声を上げる惨事たちに、エレノアはやれやれと肩をすくめる。
空腹に苦しむルフィは、無意味にガシガシと欄干にかじりついて涙を流した。
「く…食いもんが逃げた…」
「だけど安心して。もうすぐお腹いっぱい食べられるから」
「本当か⁉ 今度は何ネコが出るんだ⁉」
態度を豹変させ、ルフィが歓喜の表情でビビに振り向いた時、進路を確認していたナミが急いでビビのもとに顔を見せた。
「ビビ! 風と気候が安定してきたみたい」
「アラバスタの気候海域に入ったな。海ねこが出たのもその証拠だ」
目的地が着実に近づいてきていることに、思わず笑みを浮かべるビビとエドワード。
そこでゾロがさらに後方を見やって、不敵な笑みを浮かべる。
「後ろに見えるあれらも…アラバスタが近い証拠だろ」
その言葉に、ビビは視線を上げて表情を引きつらせる。
水平線上のあらゆる方向から、何隻もの帆船が向かってきていたからだ。それも、すべて同じマークの刻まれた帆を張って。
「船があんなに‼ いつの間に!!?」
「おい、あれぜんぶバロックワークスのマーク入ってんじゃねェか!!!」
「社員たちが集まり始めてるんだわ…‼」
「あれは、おそらく『ビリオンズ』‼ オフィサーエージェントの部下達ですよ…」
「敵は200人はかたいね…」
「それも、ウィスキーピークのザコとはわけが違う」
「い…いい…‼ 今の内に砲撃するか!!!」
「行ってぶっ飛ばした方が早ェよ! いや待て‼ メシ食うのが先だろ‼」
オロオロと気をはやらせるウソップと無謀に突撃しそうなルフィ。
ゾロとサンジがそれに待ったをかけ、不敵な笑みを浮かべた。
「バカ、気にすんな。ありゃザコだ‼」
「そうさ! 本物の標的を見失ったら終わりだぜ。こっちは8人しかいねェんだ」
そう気持ちを改めて引き締めた彼らは、敵に備えて考え出した案を実行に移すのだった。
「とにかくしっかり締めとけ。今回の敵は謎が多すぎる」
「相手が海賊ならともかく、暗殺者だの殺し屋だのが多いんじゃ顔も能力もわかんないもんねー」
ぐるぐると左腕の二の腕に包帯を巻き、ゾロとエレノアが告げる。
きっちりと、外れないようにまかれた自分たちの包帯を見て、ナミとビビは感心した表情を見せた。
「なるほど」
「これを確認すれば仲間を疑わずに済むわね」
「やるなァお前…」
「そんなに似ちまうのか? その…〝マネマネの実〟で変身されちまうと……」
「そりゃもう〝似る〟なんて問題じゃねェ。〝同じ〟なんだ。おしいなー、お前見るべきだったぜ」
「おれァオカマにゃ興味ねェんだ」
「おれ達なんか思わず躍ったほどだ」
「あんな奴が敵の中にいるとわかると、うかつに単独行動もとれねェからな‼」
一人だけ、船室の中にいて邂逅することがなかったサンジが訝しげに尋ねるが、実際に目の当たりにしたウソップたちは舐めて見ることを許さない。
多少過大評価になろうとも、厄介な能力者に警戒しすぎることはないはずだった。
「なあ、おれは何をすればいいんだ⁉」
「できることをやればいい、それ以上はやる必要ねェ。勝てねェ敵からは逃げてよし‼ 精一杯やればよし‼」
「お前それ、自分に言ってねェか?」
「間違ってはいませんけど……」
「クエ!!!」
「おれにできることか…わかった‼」
不安げな顔でチョッパーが拳を握ると、ウソップもそれで自分を鼓舞する。
ルフィは全員が包帯を巻き終わったことを確認すると、立ち上がって拳を突き出した。
「よし! とにかく、これから何が起こっても左腕のこれが仲間の印だ」
全員が包帯を巻いた左腕を突き出し、準備が完了したことを示す。
この先、これ以外の何も信用してはならない。決して揺るがぬ絆の証が、彼らの間に出来上がった。
「………じゃあ、上陸するぞ!!! メシ屋へ!!!! あとアラバスタ」
「「「「「「「「ついでかよ!!!」」」」」」」」
主に船長による大きな不安と、救国の決して揺るがぬ願い。
様々な想いを乗せ、まだ見ぬ敵の本体が待ち受ける砂漠の王国へと、麦わらの一味はついに足を踏み入れるのだった。