ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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今回はちょっと好みが分かれる展開があるやも知れません。
ご注意を。


第85話〝君に加護あれ〟

「兄ちゃん⁉ さっきの奴は…お前の兄貴なのか⁉」

「ああ、おれの兄ちゃんだ」

 

 メリー号に戻った麦わらの一味は、船長が語った事実に驚愕をあらわにする。

 ルフィは誇らしげに、先ほど助けてくれた青年を思い浮かべた。

 

「まァ別に兄貴がいることに驚きゃしねェがよ、なんで、この〝偉大なる航路(グランドライン)〟にいるんだ」

「海賊なんだ。〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を狙ってる。エースはおれより3つ年上だから、3年早く島を出たんだ」

「しかし兄弟そろって〝悪魔の実〟を食っちまってるとは…」

「うん、おれもびびった。ははは」

 

 それ以上の言葉を失くしていたウソップの前で、ルフィもまた予想外といった反応を見せている。訝し気に振り向く仲間に、ルフィは驚きの言葉を放ってみせた。

 

「昔はなんも食ってなかったからな。それでも、おれは勝負して一回も勝ったことなかった。とにかく強ェんだ、エースは‼」

「あ…あんたが一度も…⁉ 生身の人間に⁉]

「やっぱ怪物の兄貴は大怪物か」

「そ~~さ負け負けだった、おれなんか。だっはっはっはっはっは。でも今やったらおれが勝つね」

「それも根拠のねェ話だろ」

 

 愉快そうに笑うルフィに、全員の呆れた視線が集まる。この青年の絶対的ともいえる自信はどこから来るのだろうか、と。

 しかしその余裕の笑みは、次の瞬間別のものに変わった。

 

「お前が、誰に勝てるって?」

「ただいま~」

 

 ひょいっと気軽な素振りで、二人の男女が船の真下から飛び移ってきた。

 件の兄は欄干の上に、仲間である天使はバサバサと翼をはばたかせて甲板に降り立ち、一味ににやりと笑みを見せた。

 

「エ~~~~~ス~~っ!!!」

「よう。あー、こいつァどうもみなさん。ウチの弟がいつもお世話に」

「「「「「「「「や、まったく」」」」」」」」

 

 歓喜の声を上げるルフィをよそに、その兄エースは一味にぺこりと頭を下げる。それにつられてゾロたちも、思わず礼儀正しく対応していた。

 

「エース。何で、この国にいるんだ?」

「ん? 何だ、お前らドラムで伝言聞いたわけじゃねェのか」

「ドラムで? いたの?」

「あー、いいさ別に。たいした問題じゃねェから。とにかくまァ、会えてよかった。おれァちょっとヤボ用でこの辺の海まで来てたんでな。お前らに一目会っとこうと思ってよ」

 

 不思議そうに尋ね返してくるルフィとエレノアに手を振り、エースは話を変える。

 エースは不意に不敵な笑みを浮かべ、二人にある誘いを持ちかけた。

 

「エレノア…おれと一緒に〝白ひげ海賊団〟に帰るか? ルフィと仲間も一緒に連れてよ」

「ううん、まだ帰るつもりはないよ」

「おれもいやだ」

「プハハハ…あー、だろうな。言ってみただけだ」

 

 断られることは承知で言ったのか、エースに落胆する様子はない。

 その提案を間近で聞いてしまったウソップは、先ほどの攻防で一瞬見えたエースの背中を思い出して、ごくりと息を呑んでいた。

 

「〝白ひげ〟…〝白ひげ〟って、やっぱその背中の刺青(マーク)本物なのか?」

「ああ、おれの誇りだ…」

 

 本気でそう思っているらしく、エースはその名を噛みしめるように頷く。

 その誇らしげな眼は、弟であるルフィにも向けられていた。

 

「〝白ひげ〟はおれの知る中で最高の海賊さ。おれは、あの男を〝海賊王〟にならせてやりてェ…ルフィ、お前じゃなくてな…‼」

「いいさ! だったら戦えばいいんだ‼」

「返事なんか聞かなくてもわかってるくせに…」

 

 世界でもっとも有名な海賊の一人の名を聞いても、ルフィは勇まし気に挑戦する意思を見せる。

 エレノアも意地の悪い質問をぶつけたエースに、呆れた視線を返していた。

 

「私達はみんな……あの人を〝父〟と呼んで慕う家族。私はまだリハビリが終わってないし、()()()の航海に耐えられる状態じゃないけど………私が帰る場所は最初から決まってるよ」

 

 エレノアの返答もエースにとっては望ましい答えだったらしく、満足げな眼差しで彼女を見つめていた。

 しばらく三人の様子をうかがっていたサンジは、不意に船室の方を指さした。

 

「オイ、話なら中でしたらどうだ? 茶でも出すぜ」

「あーいや、いいんだ。お気づかいなく。おれの用事はたいしたことねェから。ホラ。お前に、これを渡したかった」

「ん?」

 

 エースは懐を探り、白い何かを探し出すとルフィに渡す。

 受け取ったルフィがそれを広げてみるが、それは何も書かれていない、何の変哲もない紙にしか見えなかった。

 

「そいつを持ってろ! ずっとだ」

「なんだ、紙きれじゃんか」

「そうさ。その紙切れがおれとお前をまた引き合わせる」

「へ――…」

「いらねェか?」

「いや…いる‼」

 

 兄が渡すものなのだから、きっと何かしらの意図があるのだろうと、ルフィは何も聞かずに受け取る。

 エースはじっとルフィを、そしてエレノアを見つめ、ふっと優しい笑みを浮かべた。

 

「できの悪い弟と危なっかしい女を持つと………兄貴は心配なんだ。おめェらもコイツにゃ手ェ焼くだろうが、よろしく頼むよ……」

 

 その言葉の全てから感じる温かい想いに、一味は思わず言葉を失う。

 海賊らしからぬ優しさに閉口していると、エースは欄干を降りて、メリー号の真下に停めてあった奇妙な小舟に飛び降りた。

 

「ええっ!!? もう行くのか!!?」

「ああ」

「もうちょっとゆっくりしてけばいいじゃねェか‼ 久しぶりに会ったんだし」

「言っただろ。お前らに会いに来たのはコトのついでなんだ」

 

 欄干から身を乗り出して引き留めようとするルフィに、エースはどこか殺気を纏いながら答える。

 そのただならぬ様子に、エレノアは悲痛な表情で確かめた。

 

「……あの人を追うんだね」

「ああ…あいつは海賊船で最悪の罪…〝仲間殺し〟をして船から逃げた。隊長のおれが始末をつけなきゃならねェ。………おれは、あいつだけは許さねェ」

 

 固い決意を感じさせる声で答えると、エースは遠い海の彼方を見つめる。

 次いでエースは、ルフィとエレノアにまた頼もしい不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「次に会う時は、海賊の高みだ」

 

 エースの言葉に、ルフィもエレノアもニッと笑みを浮かべて応える。

 言葉はいらない、何を思っているかなど口にしなくともわかると、そう伝えるように。

 

「ウソよ…ウソ………‼ あんな常識のある人がルフィのお兄さんなわけないわ‼」

「おれはてっきりルフィにワをかけた身勝手野郎かと」

「兄弟ってすばらしいな…ニーナ元気かな」

「弟想いのイイ奴だ…‼」

「わからねェもんだな…海って不思議だ」

「あれもまた……この世の謎だな」

「解明できる気がしないや」

「ちょっとみんな…」

 

 存在も名も初めて知った、ルフィとは似ても似つかない兄に、ビビを除いた全員が戦慄の表情を見せる。止めようとするビビ自身も、いまだに信じられてはいなかったが。

 出航の準備を進めるエースを見下ろしていたエレノアは、やがて意を決して飛び降りた。

 

「エースっ‼ ちょっと待って」

「ん?」

 

 振り向いたエースは、眼前に真っ白くて温かい、柔らかいものが降ってきたことでと動きを止める。

 大きく翼をはばたかせて降り立ったエレノアは、エースの頬を両手で挟むと、やさしい微笑みを浮かべながら。

 

 

 唇を、重ねた。

 

 

「「「「「「「「!!??」」」」」」」」

 

 突然の事態に、メリー号の上にいたルフィ以外の全員が目を見開いて絶句する。

 ルフィのみが嬉しそうに笑うその前で、唇を離したエレノアは強くエースを抱きしめた。

 

「おまじないっ‼ 君が無事に帰って来られますようにって…」

「ぷはは…‼ そいつは、よく効きそうだな」

 

 エースも全く驚いた様子を見せず、天使からの抱擁を受け止め、頼もしく答えてみせる。

 久方ぶりの再会を果たした二人は、またしばらくの別れを惜しむようにきつく抱きしめ合うのだった。

 

「安心しろ、エレノア…‼ おれは絶対にお前の前から消えたりしねェ…!!! 約束だ…!!!」

「うん…!!!」

 

 永い様な短い様な時間、二人はかたく触れ合う。

 ようやく離れると、エレノアはメリー号の錨に飛び移り、エースの出航を見送る。満面の笑みを浮かべて離れていくエースに、慈愛に満ちた笑みを見せながら。

 

「またな―――――っ!!!」

 

 船上が異様な沈黙に支配されていることも気にせず、ルフィは暢気に兄の出発を見送る。

 その下で錨の上に乗ったエレノアは、愛しい男の背中に熱く濡れた眼差しを送り続けていた。

 

「……元気そうでよかった」

 

 エースの姿が見えなくなった段階で、エレノアは名残惜しそうに視線を背け、錨綱を登ってみんなが待つ甲板に戻った。

 

「…さ‼ 私達は私達のやるべきことをこなさなきゃ‼ ほらみんないつまでも衝撃受けてないで持ち場に戻って…」

「ちょお~っと待ちなさい…!!!」

 

 全員が黙り込んでいるのは、エースという常識的な兄と出会った衝撃と勘違いし、エレノアは厳しめに叱咤しながら持ち場に向かう。

 が、いきなりその肩をがっしりとナミがつかんで止めた。

 はっ‼と自分がやらかしたことに我に返るが、時すでに遅かった。

 

「さっきのルフィのお兄さんとの関係…………詳しく聞きたいんだけどなァ…?」

「…………も、黙秘権を行使します」

「却下します…!!!」

「ビビ!!?」

「何よ何よあの意味深なやり取りに別れ際のキス……気になって仕方ないじゃないの!!!」

 

 顔を真っ赤にしたナミとビビに両側を固められ、エレノアは羞恥に固まりながら連行されていく。

 奇妙なテンションの向上を見せる娘二人に、ウソップが戸惑い気味に視線を向けた。

 

「オ…オイ、いきなりどうしたんだよお前ら?」

「一度でいいからやってみたかったのよ、コイバナ」

「わ…私も…‼ そういう話に縁がなかったから…‼」

「たっ…助けっ…」

「変なことに興味持ってんなーお前ら…」

 

 波乱万丈の人生やら使命やらで一時忘れかけていた乙女の感情が爆発し、涙目になるエレノアに迫るナミとビビにルフィが呆れた視線を向ける。

 ナミは小さくため息をつき、ルフィに面倒くさそうな視線を返した。

 

「女心にうとい朴念仁は黙ってなさい。どうせ理解なんてしてないでしょ」

「バカにすんなよ!!! そんなもん…‼ おれにだってわかるぞ!!!」

 

 明らかに見下されているのは心外だったのか、ルフィが険しい表情で待ったをかける。

 そしてルフィは、自分なりに解釈した兄との関係について一言告げた。

 

「エレノアがそのうち、おれの姉ちゃんになるって話だろ?」

「ふぎゃああああああああああ!!!!」

 

 よりによってルフィが、自分たちの関係を正確に言い表した表現を口にしたことで、エレノアの羞恥は限界に達する。

 顔どころか全身を真っ赤に染める勢いで、ゴロゴロと甲板を転げまわるエレノアを見て、男性陣は戦慄の表情を浮かべていた。

 

「こ…こいつ!!! 話の重要個所を的確に理解してやがる…!!!」

「ありえねェだろ…‼ ルフィのくせに‼ バカのくせに!!!」

「ちくしょう…!!! いいなァ、ルフィの兄貴の奴…‼ 羨ましいなァおい…!!!」

「そっかー…姉弟子にも春がきたのかー…」

「なんだろうなァ…遠いところに行っちゃったなー…」

「しっかりしろ、弟弟子」

 

 エレノアに相手がいたことが発覚したこともそうだが、それをルフィが理解していることの方に驚愕が勝る。

 あっという間にメリー号の上では、妙に気恥ずかしい黄色い空間が形成され始めた。

 

「さァ吐きなさいエレノアァ!!!」

「許してえええええ!!!」

 

 渇いた砂漠の海に、エレノアの悲痛な叫び声が木霊するのだった。

 

 

 所変わって、『ナノハナ』の街中では無数のうめき声が響き渡っていた。

 その出どころは、思わぬ妨害により黒焦げになって、救護班による手当てを待つ海兵たちだった。

 

「甚大な被害だな。海兵の半数以上が戦闘不能の上、まかれるとは…」

「アラバスタは広い…一度逃がすと手に負えねェぞ。ポートガスにアイザック…‼ 余計なマネしやがって‼」

 

 特に負傷した様子のないマスタングとスモーカーが、被害を改めながら苦い表情になる。

〝麦わら〟を捕えるためにかなりを無茶を通したというのに、その結果がこれでは目も当てられなかった。

 

「スモーカーさんっ‼ 遅くなりました‼ 麦わらの一味は…‼」

「たしぎ、てめェどこに行ってた…」

「それが‼ 町のまったく逆に‼」

「ぐ…軍曹さんっ‼」

 

 自分の失態に恥ずかしそうに赤くなるたしぎだが、彼女がいても状況は変わらなかったと思われる。それだけ、〝火拳〟と〝妖術師(ウィザード)〟二人の協力は脅威であった。

 そんな中、スモーカーはまた別の理由で険しい表情を浮かべていた。

 

「……これをどう思う…奴らと一緒に〝ビビ〟がいたんだ」

「〝ビビ〟…!!? ネフェルタリ・ビビ王女が…!!? どうして麦わらの一味と一緒に!!?」

「それと…マスタング。お前のところのあの兄弟の顔も見えたぞ………どうなってる」

「エ…エルリック君達もですか!!?」

「さァ…見当もつかないな」

 

 咎めるような、というか詰問するような視線を向けられるが、マスタングはさして気にする様子もなくはぐらかす。

 スモーカーはいい顔をしなかったが、いつものことなのか諦めたようで視線を逸らす。その目は、麦わらとは別の者に敵意を向けていた。

 

「さらに…この国には一人…イヤな男がいる…おれは〝七武海〟が嫌いなのを知ってるよな」

「………サー・クロコダイルですか?」

 

 何故そんな事を聞くのかと、たしぎは不思議そうに問い返す。

 マスタングも表情こそ不思議そうだったが、その目に浮かんでいるのはスモーカーと同じ光だった。

 

「でも彼は立場的にいえば、政府や海軍の味方ですし」

「奴は昔から頭のキレる海賊だった…大人しく政府に従う様なタマではないよ、元からね」

「たしぎ…これだけは覚えておけ…‼〝海賊〟は…どこまでいこうと〝海賊〟なんだ!!!」

 

 スモーカーの目には、〝麦わら〟も〝妖術師(ウィザード)〟も〝砂漠の王〟も同じに見えているらしい。凄まじい敵意に、同じ海兵であるはずのたしぎも思わず息を呑んでいた。

 だがその圧は、マスタングに視線が移ったことで若干薄らいでいた。

 

「…おいマスタング。あの筋肉ダルマはどこにいった?」

「彼には少し………伝言を伝えてある」

 

 不意にそう尋ねたスモーカーに、マスタングはどこか悪戯をもくろむような意味深な笑みを浮かべ、応えるのだった。

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