ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第92話〝倒すべき敵〟

「ジョ~~~ダンじゃな――いわよ~~う!!!」

 

 地下深くのとある一室に、彼らはいた。

 アラバスタ王国に毒牙を突き立てている秘密組織のエージェント、その実力者たちが集結していた。

 

「一体いつまで待たせる気なの!!? タコパぐらい出しなさいよう‼ 回るわよ!!? 回るあちしは白鳥の如し‼」

「Mr.2静かにお待ちなさいよ」

「ホンッッとだよこの〝バッ〟‼ 腰にくるんだよおめーが騒ぐと!!!」

「あなたもよ、ミス・メリークリスマス」

「フォ――フォ――フォ――………‼」

 

 Mr.2ボン・クレーを筆頭に、個性豊かな暗殺者たちが同じテーブルにつき、騒いでいる。

 そこに姿を現したのは、二人の美女と丸い体の男だ。

 

「フフフッ…みんな仲良くってわけにはいかなそうね…」

「…………もっとも、その必要はないのだけれど……」

「ないない」

 

 触れるだけで怪我をしそうな蠱惑的な美女と異様な風体の男に、エージェントたちが一斉に振り向く。

 

「ミス・オールサンデー…と、ああ…噂の新入り」

「あらサンデーちゃん、最近ドゥー!!? 新しい子はよろしくねい!!!」

「うっさいっつってんだよこの〝バッ〟‼」

 

 ハイテンションに自分たちの上司を迎えるMr.2をよそに、Mr.0.5ペアが席につく。

 要員全員が揃っていることを確認し、ミス・オールサンデーが笑みを浮かべた。

 

「長旅御苦労様、よく集まってくれたわね。 これだけの面子が集まるとさすがに盛観」

「ここはどこなんだ、ミス・オールサンデー」

「そうね…あなた達はバンチに引かれて裏口から入ったのよね」

 

 Mr.1の問いに、ミス・オールサンデーは疑問も当然だとばかりに頷く。存在そのものが秘密の組織ゆえに、集合場所も他人には秘されなければならないのだ。

 

「町はわかると思うけど…ここは人々がギャンブルで一獲千金を夢見る町、〝夢の町〟『レインベース』。そしてあなた達のいるこの建物は…『レインベース』のオアシスの真ん中にそびえる建物。この町の最大のカジノ〝レインディナーズ〟、その一室よ」

 

 アラバスタの民も想像できまい。ある英雄が経営するカジノの真下に、国を揺るがす悪人たちのアジトが設立されているなど。

 

「他に質問がなければ話を進めるわ」

「そ――ともさ‼ さっさと始めな、それ始めな、やれ始めな」

「だけどその前に………紹介しなきゃね」

 

 せっかちなミス・メリークリスマスが促すも、ミス・オールサンデーは焦らない。

 計画の黒幕について語るのに、口上を省略することなど無粋な行為であるからだ。

 

「あなた達がまだ顔も知らない我が社の社長(ボス)‼ …今までは私が彼の〝裏の顔〟として、あなた達に働きかけて来たけれど、もうその必要はなくなった…わかるでしょ?」

「いよいよというわけだ………」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、ミス・オールサンデーが口にした直後、その男が口を開いた。

 アラバスタ王国において絶大な支持を受ける、〝王下七武海〟の一人にして砂漠の絶対的強者が。

 

「作戦名『ユートピア』――これが我々バロックワークス社の最終作戦だ」

「ク…クロコダイル!!?」

 

 戦慄がエージェント全員に走る。

 予想をはるかに超える大物の登場に、誰もが自分の目が信じられない様子で固まってしまっていた。

 

「………さすがに御存じのようね…彼の表の顔くらいは…」

「…こいつはえらい大物が出て来たもんだね」

「知ってるも何も…なぜ〝七武海〟の海賊が!!?」

「あちし達は海賊の手下だったわけなの!!?」

「フォ…………」

「確かに…そう考え着かない絶好の隠れ蓑よね」

「かくれみのー…」

「あんたがおれ達の社長(ボス)なのか?」

 

 半ば探るように、もう半分は疑うようにMr.1が尋ねると、クロコダイルの目が細められる。

 そしてーーー凄まじい殺気がその場にいた全員に襲いかかった。

 

「不服か?」

 

 その瞬間、エージェントたちにぞくりと寒気が走る。

 何人もの猛者を相手取り、そしてその首を獲ってきたベテランの強者たちが、向けられる気迫に息を呑む。

 格が違うと、一瞬で理解した。

 

「…不服とは言わないけど、〝七武海〟といえば政府に略奪を許された海賊。なぜ、わざわざこんな会社を…」

「おれが欲しいのは金じゃない、地位でもない、〝軍事力〟」

「軍事力…⁉」

「順序良く話していこう…このおれの真の目的、そしてバロックワークス社最終作戦の全貌」

 

 不敵な、そして何より不気味な笑みを浮かべ、クロコダイルは語り始める。国どころではない、世界をも揺るがす壮大な野望の全てを。

 全てを聞き届けたエージェントたちの表情に浮かぶのは、恐怖ではなく高揚だった。

 

「そんなものが本当にこの国に存在するのう!!? それを国ごと奪っちゃおうって訳なのねい⁉」

「――つまり、おれ達の今回の任務は…その壮大な計画の総仕上げというわけか」

「そういう事だ。バロックワークス社創設以来、お前らが遂行してきた全ての任務はこの作戦に通じていた。そして、それらがお前達に託す最後の指令状」

 

 ミス・オールサンデーの手によって、エージェント全員に一通ずつ司令書が配られていく。

 それぞれが封を切り、内容を頭に刻み込み、そして笑みを浮かべる。これまでの仕事の集大成、興奮しないわけがなかった。

 

「いよいよ、アラバスタ王国には消えてもらう時がきた…」

 

 ボゥ、とテーブルの上の燭台で蝋燭の火が揺れる。

 エージェントたちが受け取った司令書が火に呑まれ、一切の痕跡を消去されていった。

 

「それぞれの任務を貴様等が全うした時、このアラバスタ王国は自ら大破し…!!! 行き場を失った反乱軍と国民達はあえなく我がバロックワークス社の手中に落ちる……‼ 一夜にしてこの国は、まさに………‼ 我らの〝理想郷(ユートピア)〟となるわけだ!!!」

 

 自身も高揚を覚えているらしく、クロコダイルは満面の笑みを浮かべて目をギラつかせる。

 そこにいるのはただの海賊ではない。野心も実力も上に座す、とてつもない悪党だ。

 

「これがバロックワークス社最後にして最大の『ユートピア作戦』。失敗は許されん。決行は明朝7時!!!」

「了解」

 

 そしてここには、同じ理想を掲げる悪党たちが8人同席している。

 あまりにも危険で、恐ろしい雰囲気が漂っていた。

 

「武運を祈る」

 

 

「あ!!? 何やってんだ、お前」

 

 最初にそれに気づいたのは誰だったか。

 最初は意気揚々と砂漠を歩いていたルフィが、突然ぶすっとした様子で立ち止まってしまったのだ。

 不意のことで、ビビは訝しげにルフィを見つめた。

 

「……? どうしたの……? ルフィさん」

「やめた」

「は!??」

 

 予想外の一言に、ルフィ以外の全員が絶句し目を瞠る。

 いきなり想像だにしないことを考えるのはいつものことだが、今回に限ってはそれどころではない。

 

「〝やめた〟って………⁉ ルフィさんどういうこと!!?」

「ちょっとルフィ、こんなとこでお前の気まぐれにつき合ってるヒマはないんだよ‼ ホラ立って!!!」

 

 エレノアが先へ促そうとするものの、ルフィはその場で腕を組んだまま動かない。

 それどころか、ビビに対してなぜか咎めるような視線を向け、眉間にしわを寄せていた。

 

「戻るんだろ」

「そうだよ。昨日来た道を戻ってカトレアって町で、反乱軍を止めなきゃお前、この国の100万の人間が激突してえれェ事態になっちまうんだぞ!!! ビビちゃんのためだ‼ さァ行くぞ!!!」

「つまんねェ」

「何を!!? コラァ!!!」

 

 言うことを聞かないルフィにサンジがキレるが、それでもルフィは動かない。

 ルフィはビビを見つめたまま、厳しい表情で口を開いた。

 

「………ビビ」

「なに?」

「おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてェんだよ!!!」

 

 アラバスタ王国に着いたときから口にしている言葉に、ビビはドキッと動悸が激しくなるのを感じる。

 見ないようにしていた真実を、突きつけられたように。

 

「反乱してる奴らを止めたらよ…クロコダイルは止まるのか? その町へついてもおれ達は何もすることはねェ。海賊だからな、いねェ方がいいくらいだ」

「………それは………」

「お前はこの戦いで、誰も死ななきゃいいって思ってるんだ‼ 国のやつらも、おれ達もみんな‼」

 

 図星だったのか、ビビの表情に悲痛げな顔色が混じる。視線がそれてしまうところが、嘘が苦手な彼女らしい。

 仲間たちもルフィが言いたいことがわかったのか、黙って船長の話を聞き続けた。

 

「〝七武海〟の海賊が相手で、もう100万人も暴れ出してる戦いなのに、みんな無事ならいいと思ってるんだ!!! 甘いんじゃねェのか」

「ちょっとルフィ‼ あんた少しはビビの気持ちも…」

「ナミさん‼ 待った…」

「だけど…っ‼」

 

 正論とはいえ、ズケズケと遠慮なしに告げるルフィに、たまらずナミが口を挟むが、意外にもそれをサンジが止める。

 彼自身言わなければならないと思い、言えずにいたことを、ルフィが代表して口にしているからだ。

 

「何がいけないの⁉ 人が死ななきゃいいと思って何が悪いの!!?」

「人は死ぬぞ」

 

 その言葉に、ビビの頭にカッと血がのぼる。

 決して言われたくない、考えたくなかった真実を突きつけられ、ビビは激情のままにルフィに殴りかかっていた。

 

「やめてよ!!! そんな言い方するの!!! 今度言ったら許さないわ!!! 今それを止めようとしてるんじゃない!!!」

 

 息を呑む仲間たちをよそに、ビビは溜め込んできた悲痛な思いを口にする。

 ずっと言えずにいて、溢れ出すのをこらえていた感情の全てが、堰を切ったようようにぶちまけていた。

 

「反乱軍も‼ 国王軍も!!! この国の人達は誰も悪くないのに!!! なぜ誰かが死ななきゃならないの⁉ 悪いのは全部クロコダイルなのに!!!」

「じゃあ何で()()()命賭けてんだ!!!」

 

 今度はルフィが、我慢の限界だと言わんばかりにビビを殴りつける。

 目を剥いたみんなが制止しかけるが、すかさず殴り返したビビの剣幕に押され、誰も手が出せずにいた。

 

「この国を見りゃ一番にやんなきゃいけねェことぐらい、おれだってわかるぞ!!! お前なんかの命一個で賭け足りるもんか!!!」

「じゃあ一体、何を賭けたらいいのよ!!! 他に賭けられるものなんて私、何も…!!!」

 

 必死にルフィを殴るビビの目に、涙がたまっていく。

 それをこぼれないように耐えるビビに、ルフィは凄まじい形相で吠えた。

 

おれ達の命くらい一緒に賭けてみろ!!! 仲間だろうが!!!!

 

 その瞬間、ビビは息を呑み、涙が一気に溢れ出す。

 考えもしなかった、乱暴ながら優しい言葉に、ビビは声も発することもできず、その場に泣き崩れてしまった。

 

「…なんだ、出るんじゃねェか。涙。本当はお前が一番くやしくて、あいつをブッ飛ばしてェんだ‼」

 

 散々殴られ、鼻血を垂らすルフィは、ポンポンとビビの肩を叩いて彼女を慰める。

 感情のままに泣き続けるビビの姿を見て、エレノアたちの表情にも活力が漲っていく。大切な仲間の涙に、戦意が滾っていた。

 

「教えろよ、クロコダイルの居場所!!!」

 

 遥か遠い砂漠の先を睨み、ルフィは帽子に手をかける。

 その目に、揺るがぬ闘志を燃やして。

 

 

 場所は変わって、『カトレア』。

 現在は反乱軍の拠点となっているその町を、ある少年が訪ねていた。その少年が向かい合っているのは、一人の青年だった。

 

「たのむよ!!!」

「ダメだ」

「何でだよ、おれだって反乱軍に入る権利はあるはずだぞ!!! 国王が憎いんだ!!! 一緒に戦わせてくれよ!!!」

 

 小さな体に、トンカチやらノコギリやらありったけの〝武器〟を担ぐ少年カッパに、青年・コーザはにべもなく告げる。

 カッパは納得できず、すぐさま厳しい表情のコーザに噛み付いた。

 

「おれも戦いたいんだよ‼ ケガだって死ぬことだって恐くねェ!!!」

「じゃあ…帰れ…意見の不一致だ。おれ達は、みんな恐いし…戦いたくねェんだ」

 

 思わぬ言葉に、カッパは一瞬言葉を見失って目を瞠る。しかしすぐに我に返り、不満の丈を思い切りぶつけ始めた。

 

「…じゃあ何で戦うんだよ!!! おかしいじゃねェか‼」

「戦いが始まっちまったからさ…国が、それを望んだんだ……戦いたいんじゃない、戦わなきゃならなかった。理解できようができまいがお前には関係ない…帰れ…‼」

 

 コーザの隣には、肩と右腕を失った男がいる。戦の最中、コーザをかばって負った重傷であり、決して消えぬ痛みである。

 少年の想像をはるかに超える痛みと悲しみが、この先の戦場にはあるのだ。

 

「帰れと言ってるんだ!!!! ここは子供(ガキ)の来る場所じゃない!!!」

 

 大人でさえ臆するほどの剣幕で、コーザは少年に怒鳴りつける。

 カッパは怯え、いまにも泣き出しそうな様子で踵を返し、立ち去るのだった。

 

 

「……どうした、コーザ。子供相手に怒鳴りちらすとはお前らしくもない…」

 

 拠点のテントの中で、額に×字型の傷がある、褐色の肌でサングラスをかけた男が呆れた様子で尋ねる。

 コーザの態度が、彼なりの優しさだと理解しながら、それでも厳しいと思わせる態度を訝しく思ったらしい。

 

「…昔のおれを見てるみたいで…腹が立った……!!! ………おれは何も変わっちゃいないな……」

 

 コーザも自分自身を嫌悪し、険しい表情で俯いている。

 何年も続く反乱で、何百何千もの同志が斃れているのに、いまだに決着のつかないことが不甲斐なくて仕方がないと言うように。

 褐色の男は、そんなコーザに物憂げな目を向けていた。

 

「すまねェな…旦那。あんたを巻き込んじまって…」

「……この国の者達には、恩義がある」

 

 そう呟いた褐色の男が、サングラスを外して顔を上げる。

 赤い瞳が目立つその男は、重苦しい表情で眉間にしわを寄せ、ゴキゴキと手の骨を鳴らしてはっきりと告げた。

 

「ゆえに、これ以上この国が醜く腐ってしまう前に……神の御許へ導くまで」

 

 その男の目には、そう簡単には拭い去れない憎悪がこびりついて見えた。




読者の方から、大人バージョンのエレノアの身長やスリーサイズなどに関する質問があったので、ここでお答えしておきます。

身長は169cm、体重は49kg(機械鎧込)。
B:87 W:56 H:86くらいですかね。
年齢は21歳を想定していますが、大人か子供かは微妙なところです。
巨人族という長寿の種族の例がありますので。
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