ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
長い長い、砂漠の旅。
国を救うため、大きく進路を変えたその道は、ついに終わりを迎えようとしていた。
「見えた‼ ――あれが『レインベース』よ‼」
「着いたのか~~~~~~~~っ⁉」
オアシスを中心に発展している町を見つけ、ルフィが歓喜の声を上げる。
どんなにのどが渇いても、腹が減っても耐え続けた彼は、ついにその努力が報われたことでため込んだ涙を解放した。
「よ――――し‼ クロコダイルを!!! ぶっ飛ばすぞ!!!」
「みドゥ―――(水)!!!」
「うるせえなァ、お前ら…」
泣きながら喜ぶ二人に、ゾロやエレノアは深いため息をつく。
だがその目からは、いまだに鋭い光が消えてはいない。
「ところでよ、バロックワークスはおれ達がこの国にいることに気づいてんのか」
「………おそらくね」
コクリと頷き、ビビはレインベースを見やる。
向かう先にあるのは、真の敵が我が物顔で経営するカジノがある敵の懐だ。
「Mr.2にも遭ってしまったし…Mr.3がこの国に入っているのだから…まず知られていると考えて間違いないと思うわ」
「それがどうしたんだ」
「顔がわれてるんだ、やたらな行動はとれねェってことさ」
「何でだよっ‼」
「『レインベース』には、どこにバロックワークスの社員が潜んでるかわかんねェんだ」
「私達が先に見つかったら、クロコダイルにはいくらでも手の打ちようがあるでしょ?」
「暗殺は奴等の得意分野だからな…‼」
誰にでも化けられる男のほか、強さも能力も未知数のエージェントたちが潜んでいる。警戒しすぎるに越したことはないはずだった。
「よ――し‼ クロコダイルをぶっ飛ばすぞ――っ!!!
「聞いてたのかよてめェ!!!」
ずっと同じことしか吠えていないルフィに、いい加減頭にきたウソップがツッコミを入れる。
しかし他でもないビビが、ルフィの決意に対して同意を示した。
「…でもね、ウソップさん。私も…やっぱりルフィさんに賛成っ‼ 今はとにかく全てにおいて時間がないの。考えてるヒマなんてないわ」
「……『虎穴に入らずんば虎子を得ず』…か」
小耳にはさんだ、大事を成すためには自ら危険を冒す必要があるという意味のことわざを呟き、眉間にしわを寄せる。
やがてその顔に、不敵な笑みが浮かべられた。
「どちらにせよ後で暴れるんだ…‼ せいぜい派手にやろうじゃないの」
―――では我輩は一度ここから離れる。
部下や同僚たちにこの事実を伝えねばならぬからな‼
ビビ王女をどうかよろしく頼むぞ‼
麦わらの一味とエルリック兄弟!!!
町に着くと、砂漠を同行していたアームストロングは、キリッと姿勢を正してルフィたちに告げる。
途中にさしたる危険はなかったものの、強者が一人加わっていたという安心感はかなりのものだった。
―――こっちは任して、さっさと行ってくれ少佐。
―――じゃあな、ヒゲのおっさん‼
―――短い間であったが…楽しい時間であった!!!
寂しくなるが無事を祈っておるぞ―――っ!!!
―――ギャ―ッ!!!
エドワードが熱い抱擁の犠牲となっていたが、もはや慣れたもので誰も気にしない。恨みがましい視線を受けながら、一行は豪傑といったん別れた。
「……大丈夫かな、少佐のやつ」
「まァ…なんとかするしかないでしょ」
何よりもこちらの動きを悟られないようにすることが重要だが、少佐の見た目では非常に難しく思える。
しかしそうは言っても、唯一の海軍側の味方。一人でも頼れるものがいることを喜ぶべきだった。
「あいつらにまかせて大丈夫かな」
「お使いくらいできるでしょ。平気よ」
「そうかね…どうせ、またトラブル背負って帰って来んじゃねェのか?」
「…準備運動でもしておきましょうか」
「かるぅ~くな!」
疲労を回復するため、一味はルフィとウソップに水の確保を頼んで小休止を取っていた。
が、嫌な予感は当たるものなのか、騒がしい声が聞こえて来たと思えば、ルフィたちが猛スピードで向かってくる姿が見えた。いつか見たような光景である。
「あァ…案の定…」
「ゲッ…あいつら海軍に追われてるぞ‼」
「ウソでしょう!!? ――で何でこっちへ逃げてくんのよ‼」
「ねえっ‼ トニー君がまだ来てないわ‼」
「放っとけ、てめェで何とかするさ‼」
小用をたしに行ったのか、姿の見えないチョッパーが気がかりだが、今はそれどころではない。
ここで海兵に捕まるわけにはいかず、一味は休憩も半ばに走り出す羽目になっていた。
「おい、みんな!!! 海軍が来たぞォ!!!」
「お前らが連れて来てんだよっ!!!」
大きな水樽を担いで走るルフィだが、災難の元凶たる彼が言うのでは苛立ちが募ってしまう。
一気に騒がしくなってしまう街中を走り、エドワードが険しい顔で舌打ちした。
「マズイんじゃねェか⁉ 町の中を走るとバロックワークスに見つかっちまう」
「―もう手遅れだと思うぜ」
そう呟くゾロの視線の先には、道の端に腰かける人相の悪い男たち。
その手にあるのは、誰かの人相書きか顔写真か、とにかくこちら側に不都合なもののはずである。
「じゃ、行こう‼」
「え……」
「クロコダイルのとこだ!!! ビビ!!!」
ルフィの宣言にビビは一瞬言葉を失くすも、こくんと頷いて前を向く。
決意を秘めたビビの目に映るのは、ワニのオブジェが屋根に飾られた、オアシスの中心に座している建物だった。
「あそこに…‼ ワニの屋根の建物が見えるでしょ⁉ あれがクロコダイルの経営するカジノ〝レインディナーズ〟‼」
行くべき目的地を確認した一味は、徐々に周囲に集まり始める海兵たちに顔をしかめる。
考えなしに走っていては、間違いなく包囲されかねない速さだ。
「散った方がよさそうだぜ」
「そうだな」
「よしっ‼ じゃあ後で…‼〝ワニの家〟で会おうっ!!!」
ルフィの号令に従い、一味は全員バラバラに方向を変える。海兵たちの数を何か所にも分散させつつ、向かう先を悟らせないためだ。
エレノアはかなりの人数が自分に向かっていることを察しながら、近くにいるエドワードとアルフォンスに目を向けた。
「エドくん、アルくん‼ そっちは頼んだよ!!!」
「おう‼」
「姉弟子も気をつけて!!!」
合流を約束し、三人の錬金術師は全力で逃走を図る。
二人に関しては別に見つかっても問題はないが、ここで目立つわけにもいかなかった。
そうして一味は、幾度もピンチを乗り越え、カジノの中へと足を踏み入れていた。
「クロコダイル――――っ!!! 出て来い――――――っ!!!!」
一番に室内に突入したルフィが、カジノの中に向けて大声で叫ぶ。
だが中にいるのはまっとうな客たちだけで、迷惑そうに軽く目を向けるだけで、何の反応もなかった。
「そんなんで出てくるわけないでしょ⁉ バカねっ‼」
「相手は国の英雄だぞ‼ 店の客まで敵に回す気かよ‼」
「よし‼ じゃ……どうする⁉ おい、ちょっと待て‼ ビビがいなきゃ誰がクロコダイルだかわかんねェぞ」
「そういえばビビはどこにいるの⁉」
「「「ビビ――――っ!!! クロコダイル―――――っ!!!」」」
「オイ」
結局ルフィと同じことをしているナミとウソップに、ゾロが呆れた視線を向ける。
そこでエドワードとアルフォンスが懐に手を入れ、得意げな顔で一枚の手配書を取り出して見せた。
「こんなこともあろうかと…‼ 姉弟子がクロコダイルの昔の手配書をよこしてくれた」
「おーっ‼ でかした‼」
「ホントにできる女だな、あいつ……」
簡単というか呆れた声を上げるゾロだが、当のエレノアやサンジ、ビビとチョッパーの姿が見えないことに思わず顔をしかめる。
だが、この場にいない四人を待っている暇は、残されていないようだ。
「追いつめたぞ麦わら!!!」
「困りますお客様、当店政府関係者は立入禁止に…」
「湖に囲まれたこの店じゃあもう逃げ場はねェ‼」
「ゲ、ケムリンだ―――っ!!!」
カジノの従業員を押しのけ、突っ込んでくるスモーカー大佐を見つけ、ウソップが目を剥く。
途端に悲鳴がこだまする惨状となったカジノの奥で、従業員が一人の美女、ミス・オールサンデーのもとに駆け寄った。
「大変です、
「VIPルームへお迎えしなさい」
「え……」
「クロコダイル
ぽかんと呆けた顔になる従業員に、ミス・オールサンデーは蠱惑的な笑みを浮かべてみせた。
「おい、あれ見ろ‼」
スモーカーから逃れようと、カジノの中を駆けるルフィたちは、カジノの奥で何やら動きがあることに気づく。
従業員たちが列になり、一つの通路にルフィたちを手招きしていたのだ。
「どうぞこちらへ‼ VIPルームでございます‼」
「〝かかって来い〟ってことじゃないかしら?」
「話のわかる野郎じゃねェか‼」
「うっし!!! 行くぞー―っ!!!」
あからさまな挑発を真に受け、ルフィがさらなる闘志を燃やして、迷わずVIPルームに向かって走る。
スモーカーはそれを見て、ルフィに対する敵意をさらに強めた。
「
まったく異なる理由での闘志を燃やし、海賊と海兵は黒幕の懐へと突入していった。
そうして一行は、全員仲良く檻の中にお邪魔することとなった。
鋼鉄の格子に囲まれた中で、ルフィとウソップは間抜けな顔を晒し、無言で立ち尽くしていた。
「こうみょうなわなだ」
「ああ、しょうがなかった」
「敵の思うツボじゃない‼ 避けられた罠よ‼ バッッカじゃないの!!? あんた達!!!」
大真面目にアホみたいな言い訳を口にする二人に、ナミがそれ見たことかと泣き叫ぶ。
止められなかった自分自身が、恐ろしく情けなくて仕方がないようだ。エドワードもアルフォンスも、その場で膝をついて項垂れるほどに。
「それより、おれさっきから力が抜けて…」
「何だ、ハラでも減ったのか?」
檻の格子を掴んでいたルフィが、いつもの覇気を失くして眉尻を下げる。
燃料切れかとあきれた視線を向けるウソップだが、どうやらそうではないようだと訝し気に首を傾げる。
その時、黙り込んでいたスモーカーが立ち上がり、突然ルフィに足払いをかけて十手をのどに食い込いませた。
「ぐわっ!!!」
「ギャ――‼ ルフィ!!! て…てててめェ‼ やるならやるぞ煙野郎っ!!!」
「スモーカー大佐…!!! 今はそんな場合じゃ…!!!」
いきなりの暴挙に、というか海兵としては当然の行動にウソップが身構え、アルフォンスが止めようとする。
だがすぐに、今の彼からはさほどの敵意は感じられないことに気づいた。
「…なんだ…? 力が入らねェ………‼ ……水に落ちた時みてェに…」
「…ああ、だろうな…」
「な…なんだてめェ、ルフィに何をした!!?」
急に弱ってヘロヘロになっているルフィに、ウソップがスモーカーに向かって吠える。
スモーカーは顔色一つ変えず、ルフィとルフィを押さえつける十手に目を向けた。
「この〝十手〟の先端には〝海楼石〟って代物が仕込んである。とある海域にのみ存在する不思議な石だそうだ…おれより詳しい奴はそこにいるだろ」
「………ああ」
スモーカーに睨まれ、エドワードが居心地悪そうに頷く。
彼がここにいることに、すぐにでも詰問が始まりそうな気迫を感じたが、スモーカーもさすがに状況を読んだようで何も聞かない。
「海軍本部の監獄の柵の全てに使われてるコイツは、〝悪魔の実〟の能力を封じ込めちまう力を持ってる…!!! まだまだ謎が多い鉱物だが、この石が海と同じエネルギーを発してることはわかってる。ようは〝海〟が固形化したもんだ…」
「それでルフィが弱っちまうのか………‼」
「まだ成分の解明も終わってねェもんで、おれ達にも分解はできねェ…!!!」
解説を終えたエドワードが、悔し気に檻を睨みつけて歯を食いしばる。
まさに、悪魔の実の能力者にとっての天敵、そして錬金術師にとっても難敵である物質であるということだ。
「…じゃあこの柵も同じもので………」
「――でなきゃおれは、とっくにここを出てる。お前らを全員、二度と海へ出られねェ体にしてからな…」
「ギャ~~~~~~~待て待て、おい、こんな状況で戦ってどうすんだ!!!」
「スモーカー大佐…‼」
すぐに復活するスモーカーの敵意に、ゾロが反応して刀に手をかける。
その時、緊張が走る檻の中に不意に、味めて聞く声が届いた。
「その通りさ、やめたまえ」
聞こえてきたその声に、ルフィたちは一斉に振り向く。
豪華な装いに身を包んだその男は、優雅に椅子に座って小馬鹿にするような笑みを向けた。
「共に死にゆく者同士、仲良くやればいいじゃねェか……!!!」
「クロコダイル………!!!」
「オーオー…噂通りの野犬だな、スモーカー君。おれを
凄まじい殺気を放つスモーカーに、クロコダイルはむしろ楽しそうに語る。
どれだけ寒気を催す殺気をぶつけられようと、檻に囚われた狂犬は手も足も出せない。その構図が、たまらなく愉しいようだ。
「てめェにゃ〝事故死〟してもらうことにしよう。〝麦わら〟って小物相手によく戦ったと政府には報告しておくさ、ハハッ。何しにこの国へやってきたのか知らねェが、どうせ独断だろ。政府はおれを信じてるからな、ここへ海兵をよこすハズがねェ…」
「あいつが〝七武海〟の一人か…」
「お前が、クロコダイルか……‼」
初めてその姿を目にした麦わらの一味が、一斉に怒りの感情を抱く。
ビビを、大切な仲間を悲しませ続けた元凶が今、目の前にいるのだと実感して。
「おい!!! お前ェ!!!! 勝負しホ…」
「だからその柵に触るなって‼」
「〝麦わら〟のルフィ。よく、ここまで辿りついたな…まさか会えるとは思ってもみなかった。ちゃんと消してやるからもう少し待て…」
また檻を掴んでヘロヘロになってしまうルフィに、クロコダイルはにやにやと下卑た笑みを浮かべる。
その顔はまさに、悪党の親玉と評するにふさわしい醜悪なものだった。
「まだ主賓が到着してねェ。今おれのパートナーに迎えにいかせたところだ」