ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

99 / 324
第98話〝正体不明(アンノウン)

 海兵たちから逃れ、反乱軍と国王軍が激突する首都アルバーナに向けて、ルフィたちが急ぐ。

 だが、その距離はあまりにも遠すぎることにエドワードが気付く。

 

「おい‼ もしかしてこのまま走ってアルバーナへ行くなんてことねェよな‼」

「そうだ〝マツゲ〟‼〝マツゲ〟はどこに行ったの⁉」

「この町に馬小屋とかあったぞ!!? 馬、もらおう‼」

「――でも町には海軍が…」

「ご安心あれ…前を見な‼」

 

 人の足で間に合うはずもないと一味は愕然とするが、サンジはそれに不敵な笑みを見せる。

 頼れるもう一人の仲間が、もうすぐ到着するからだ。

 

「あっ‼ いたぞ!!! お―――――い!!! みんな――――――――‼」

 

 ナミの香水の匂いを嗅ぎつけたチョッパーが、手綱で操る巨大な生物を停止させる。

 ガシャガシャと似合わぬ速さで現れた巨大な甲殻類を目の当たりにし、ルフィたちは驚愕で目を見開いた。

 

「カニ!!!?」

「これは…‼〝ヒッコシクラブ〟!!!」

「うまそ――!!!」

 

 一味全員が乗れそうなほどに大きいそのカニは、どことなくいやらしい顔つきで一味を見下ろす。

 その上にはチョッパーだけではなく、マツゲも得意げな顔で乗っていた。

 

「乗ってくれよ‼」

「乗れるのかァ⁉ うほーっ!!!」

「顔が、でもちょっとやらしーわよ⁉」

「またスゲーの連れて来たな」

「〝マツゲ〟の友達なんだ‼ マツゲはこの町の生まれでこの辺には友達がいっぱいいるんだ‼ エロいけど」

「すごいっ‼〝ヒッコシクラブ〟はいつも砂に潜ってるからほとんど幻のカニなのに‼」

「コイツ、結構速ェんじゃねェか⁉」

 

 たのもしい援軍にビビは歓喜の表情になる。

 少なくとも人の足よりは格段に有効だろうと、一味は急ぎヒッコシクラブの背中に飛び乗っていく。

 

「よ――し、行くぞ―――っ!!! 出発!!!」

 

 頭と胴体が一体であるため、口の端に括り付けた縄を操ってチョッパーが発進を命じ、ヒッコシクラブが走り始める。

 だがその瞬間、ビビの体に砂が巻き付いたことに、ルフィとゾロが気付いた。

 

「止めろチョッパー!!!」

「ビビ!!! あいつだ!!!」

 

 突然のことで誰もが硬直してしまう中、いち早く動いたルフィがビビのもとに駆け寄り、引っかかったフックを引きはがす。

 しかしそのかわりに、ルフィがヒッコシクラブから引きはがされてしまった。

 

「ルフィさん!!!」

「お前ら先行け!!! おれ一人でいい!!!」

 

 砂漠の王のフックに捕まったルフィが、宙を舞いながらゾロたちに告げる。

 その顔に浮かぶのは、格上の敵を前にした恐怖ではなく、仲間をただ信じて勝利を確信している笑みだった。

 

「ちゃんと送り届けろよっ!!! ビビを宮殿(うち)までちゃんと!!!」

「バカが…このまま進めチョッパー!!!『アルバーナ』へ!!!」

「わ‼ わかった!!!」

「おい、ゾロ‼ あいつら二人とも置いてくのか⁉」

 

 組織最強のエージェント二人の足止めを買って出たエレノアと、組織のトップに立ち向かうルフィ。放置するには、あまりに不安が大きすぎた。

 

「ルフィさんっ!!!」

「大丈夫よビビ‼ あいつらなら大丈夫っ!!!」

 

 自分の代わりになったルフィを心配するビビだが、ナミがそれを止める。

 自身も不安を抱きながら、それでも笑みを浮かべてビビを安堵させようと努める。

 

「気の毒なのはあいつらの方‼ 今までルフィとエレノアを敵に回して…無事でいられた奴なんて一人もいないんだから‼」

 

 これまであらゆる強者たちと戦ってきたが、ずっと彼らは勝利を掴み取ってきた。どれだけ危険な敵であろうと、それだけは揺るがない事実だと、ナミはビビや自身を鼓舞察せる。

 

「いいかビビ。クロコダイルは…あいつが抑える。〝反乱軍〟が走り始めた瞬間にこの国の〝制限時間(リミット)〟は決まったんだ。〝国王軍〟と〝反乱軍〟がぶつかればこの国は消える!!!」

 

 向かう先、アルバーナのみを見つめるゾロが、有無を言わさぬ厳しい口調で告げる。ただならぬ覚悟を、その声ににじませながら。

 

「それを止められる唯一の希望がお前なら…何が何でも生き延びろ…………!!!! この先、ここにいるおれ達の中の……誰が…‼ どうなってもだ……!!!」

「ビビちゃん…コイツは君が仕掛けた戦いだぞ。数年前にこの国を飛び出して、正体も知れねェこの組織に君が戦いを挑んだんだ」

 

 いつも仲が悪いサンジも、この時ばかりはゾロに賛同するように告げる。

 仲間を想い、立ち止まりかけたことを咎められたようにビビは口をつぐむが、サンジはさらに優しく付け加えた。

 

「………ただしもう、一人で戦ってるなんて思うな」

「ビ…ビ、ビビビ!!! 心配すん…パイスン…スンぱいなよ!!! おれガツ…ガッツいて…」

 

 ガクガクブルブルと脅えっぱなしのウソップが、それでも虚勢を保とうと勇ましさを示す。

 仲間達全員が、ビビに先へ進むことを促す。何よりも、残してきた二人の仲間の想いを無碍にさせないために、それをビビに気に病ませないように。

 

「ルフィさん!!!『アルバーナ』で!!! 待ってるから!!!!」

「おォオ!!!!」

 

 覚悟を決めた仲間の叫びに、ルフィも雄々しく吠えることで応えた。

 

 

「くあっ…‼」

 

 吹っ飛ばされたエレノアが、小さくうめき声をあげて地面を転がる。

 すぐに立ち上がるが、向かってくる敵の姿を映した目には焦りが滲んでおり、徐々に彼女から余裕が奪われていることがわかった。

 

壊神剛槌(カトヤンガ)〟!!!!

 

 バンッと閃光を纏った手で地面に触れ、作り出した巨大なトゲ付きの鉄球を振り回し、眼帯の美女に向けて撃ち放つ。

 凄まじい重量と硬度を持つ、当たればひとたまりもない威力のそれが迫るも、美女に狼狽する様子は見受けられない。

 

「〝黎明の手〟」

 

 ミス・リープデイがヒュンと腕を振るうと、眼前に迫っていた鉄球が一瞬でバラバラに切り裂かれる。まるで紙でできていたかのように、あっさりと抵抗もなかった。

 

「やわらかそうな肉~!!!」

「うにゃっ!!?」

 

 唖然としていたエレノアに、今度はMr.0.5が大きく口を開けて襲い掛かってくる。

 幸いミス・リープデイよりも遅かったために簡単によけられたが、躱されたMr.0.5が噛みついた家屋の壁がごっそりと食いちぎられるのを見て、顔を真っ青にさせた。

 

「フフッ…‼ 最初の勢いはどこに行っちゃったのかしら? そんなものじゃ私達は死ねないわよ…!!!」

「…おいおいふざけないでよ。なんなのさ…そのとんでもない爪……‼」

 

 じりじりと追い詰めるように、恐ろしく長く伸びた爪を見せつけ、蠱惑的な笑みを浮かべて近づいてくるミス・リープデイに、エレノアは悪態をつく。

 相手を見くびっていたわけではない。しかしそれを踏まえても予想を超えた強さに、驚愕が勝っていた。

 

「エドのヤツゥ…‼ 情報は正確に伝えやがれっての……!!! あいつら本物(マジ)の化け物じゃないのさ…‼︎」

 

 この場にいない弟弟子たちに苛立ちを感じるが、ぼやく間もなくミス・リープデイの爪が振るわれる。

 間一髪で交わしたエレノアは、さっきまでいた場所が大きくえぐられている光景にぞっと背筋を震わせる。

 

「困ったわね…本当はあなたには死んでもらうわけにもいかないのだけど……社長(ボス)からの命令だからね。妥協案として四肢でも斬り落とさせてもらおうかしら?」

「お断りだよ!!!」

「そう…じゃあ殺すわ」

 

 触れただけであらゆるものを切り裂いていく爪に、もはやエレノアは接近を諦める。

 どこまで伸びるかもわからない爪に戦々恐々としながら、攻撃の合間を見計らって地面に両手のひらをついた。

 

「攻撃がダメなら…‼〝界滅竜毒(ハーラーハラ)〟!!!」

 

 ボコン‼とミス・リープデイとMr.0.5の周囲で土が盛り上がり、見る見るうちに鋼鉄の棺のような物が作り出されていく。

 女性を模したそれは、一切の隙間なく塞がれて完全にエージェントたちを閉じ込めてしまう、が。

 

「〝黎明の腕〟!!!」

 

 振るわれた爪が、それすらも簡単に斬り裂いてしまう。

 呼吸もできないよう密閉した封印を破られ、さすがのエレノアも大きく目を見開いて絶句する。

 そんな彼女に、美女は残酷な笑みを浮かべてみせた。

 

「フフ…‼ もうおしまいなの…?」

 

 あまりの衝撃に動けなくなるエレノアに向かって、Mr.0.5が再び口を開けて飛び掛かっていく。

 だがその時、Mr.0.5のこめかみから鮮血が噴き出し、遅れて甲高い破裂音が響き渡った。

 

「…!!? グラ…Mr.0.5!!!」

 

 突然の出来事に、ミス・リープデイの表情が変わる。

 しかし次の瞬間、彼女の周囲から強烈な熱波と衝撃が襲い掛かった。

 

「〝業火絢爛(ザ・クイーン・アントワネット)〟!!!」

 

 白に近い赤がミス・リープデイを飲み込み、華奢な体に食らいつく。地面を焦がすほどの熱がその場一帯に充満し、ミス・リープデイを吹き飛ばした。

 咄嗟に顔を腕で覆ったエレノアは、凄まじい炎を放ってみせた相手に思い至り、驚きで目を見張った。

 

「手を貸そうか…?〝妖術師(ウィザード)〟!!!」

「大佐……」

「〝焔〟の錬金術師……マスタング・ロイ!!!」

 

 家屋の壁に叩きつけられた美女が、忌々しげにマスタングを、そして続々と現れる海兵たちを睨みつけながら呟く。

 憤怒を抱いていたその顔はすぐにとりつくろわれ、ハッと鼻で笑いマスタングに皮肉をこぼした。

 

「海兵が海賊と共闘するなんて……知られたら一大事じゃなくって?」

「なに…利害が一致したから利用しているまでのことだ」

 

 肌に火傷を負った美女は、さほど気にした様子もなく立ちあがる。

 しかし顔を上げるよりも前に、先ほどのMr.0.5と同じように片足から鮮血が噴き出し、がくんと膝をついた。

 

「ぐっ…‼」

「……‼ この命中精度は…中尉か!!!」

 

 見えない攻撃に、狙撃されたのだと直感したエレノアは、それを可能とする海軍有数の狙撃手(スナイパー)に思い至って納得の声を上げる。

 マスタングは驚嘆の声を上げるエレノアに、得意げに笑みを見せた。

 

「本当の意味で〝鷹の目〟と評される中尉ならば、この程度造作もないことだ」

『近くに水場があるのでどうしても不安になってね…』

「ああ……濡れると役に立たねェからな」

「湿気たマッチとかいうなよ!!!」

 

 小電伝虫越しにホークアイから、部下の一人のハボックからバカにするような視線を向けられ、思わずマスタングは声を荒げる。

 部下たちからさんざんいじられたマスタングは気を取り直すように咳ばらいをし、エレノアに呆れた視線を向けた。

 

「貴様が苦戦するのだからどれほどの脅威かと思えば……拍子抜けだったな」

「違うよ大佐………そうじゃないんだよ」

「……やってくれるじゃないの」

 

 肩をすくめていたマスタングは、冷や汗を流すエレノア、そして美女の声に思わず目を見張る。

 ミス・リープデイは、足を撃たれたとは思えぬほどスムーズに立ち上がり、マスタングを見据えていた。撃たれた傷跡も、いつの間にか見えなくなっている。

 

「困ったわね………人柱候補が次々に」

「食べていい?」

「食べちゃダメ……でも、そうね」

 

 Mr.0.5までもが、けろりとした様子で戻ってきている。

 涎を垂らして見つめてくる相棒に、ミス・リープデイは何事か考えながら、にやりと笑みを浮かべた。

 

「逃げられないように両足を食いちぎるくらいならいいかしら」

 

 その笑みに、エレノアの背筋に本能的な寒気が走る。

 同じくマスタング達も表情を変える横で、パチンと指を鳴らして火種を起こし、灼熱の炎の斧を作り出した。

 

「喰らえ…‼羅刹王斬(ブラフマーストラ)〟!!!!

 

 生み出された斧が回転し、リング状の炎の刃へと変わる。

 大気をも焼き焦がすそれを頭上に掲げたエレノアは、それを迷わずミス・リープデイとMr.0.5に向けて思い切り投げ飛ばした。

 

「ねーラスト。アレ…食べていい?」

「ええ…いいわよ」

 

 強烈な熱を持ったそれが迫りくるも、やはり二人の表情が劇的に変化することはなかった。

 今度は涎を垂らしたMr.0.5が前に立ち、大きく腹を見せて立ち塞がった。

 

「〝亡者の扉(オープンセサミ)〟!!!」

 

 にんまりと異形の男が嗤った直後、放たれた炎の刃に変化が生じる。

 Mr.0.5の腹の中心に向けて飛んでいったそれが、あっという間に勢いを失って最後には跡形もなく消えてしまったのである。

 あんぐりと口を開いて呆ける一同の前で、Mr.0.5は不満げに腹を撫でた。

 

「味はいまいち…がっかり」

「ウソでしょ……!!?」

 

 さすがのエレノアも、目の前の光景に絶句せざるを得ない。

 ミス・リープデイは、そんな彼女たちにつまらなそうに目を細めていた。

 

「こんなところで()()()()()()いられないのよ…遠くからちょっかいかけられるのもうっとうしいし……そうだわ」

 

 名案を思いついた、とでもいうように、ミス・リープデイは相棒にちらりと目を向ける。悍ましい黒い笑みを浮かべて。

 

「Mr.0.5、食べておいで」

 

 Mr.0.5はその言葉に嬉しそうに口角を上げ、素早い動きで宙に飛び上がる。

 唖然となる一同の目の前を飛び越し、ホークアイがいるであろう方角へあっという間に駆け抜けていってしまった。

 

「悪魔の実の能力者か!!?」

「オイオイ…‼ こりゃちょっと分が悪すぎりゃしやせんかィ!!?」

「それならもっとやりようがあったんだけどね…」

 

 戦慄の表情を浮かべるハボックやマスタングをよそに、エレノアの表情は彼らよりも悪くなる。

 その手には、素早く錬成された石の槍が握られていた。

 

「〝不毀剛槍(ドゥリンダナ)〟!!!」

 

 生み出した石槍を振り回し、エレノアがミス・リープデイの体を薙ぎ払う。

 きゃしゃな体は骨を砕かれながら宙を舞い、カジノのあるオアシスの中に叩き落とされる。

 だがすぐにまた、平然とした様子で水中から這い上がってみせた。

 

「ヒドイじゃない。せっかくの晴れ着が台なしだわ」

「水に落とされても平気なのか…!!?」

「マジのバケモンかよ…!!!」

 

 悪魔の実の共通の弱点であるカナヅチ、それが通用しないとわかり、余計にマスタング達に動揺が走る。

 悠然と立つミス・リープデイに、エレノアが頬を引きつらせながら尋ねた。

 

「さっきから思ったんだけどさ……あんた。()()()()()()()()()()?」

 

 不意の質問に、マスタングが訝しげな横目を向ける。

 構わずエレノアは、意味深な笑みを浮かべるミス・リープデイを、正確にいえばその胸の中心に目を向けて冷や汗を垂らしていた。

 

「ざっと()()()だけでも数百から数千……いやもう数万はいるよね。どこからそんな大量に取り込んできたのさ……怨嗟の声で耳がおかしくなりそうなんだけど」

「待て〝妖術師(ウィザード)〟……何を言っている」

「……そのえげつない再生能力と赤い錬成反応、そして私が感じる無数の気配……信じがたいけど間違いないわ」

 

 エレノアが初めて見せる、余裕を失くした狼狽の表情。

 その事実に気づいてしまったがために、エレノアは足止めを買って出た自身の軽率な考えを激しく後悔していた。

 

「賢者の石持ってんでしょ……しかも完全な」

「…あら、バレちゃった?」

 

 エレノアの問いに、ミス・リープデイは愉し気な笑みを見せつけるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。