ピピピ!ピピピ!ピピピピピピ!
目覚ましが鳴る。だけど、まだ眠い。眠くて仕方がない。なにせ、4時まで起きていたんだから。
ピピピ!ピピピ!ピピピピピピ!
うるさい。SNSのめんどくさいやつよりうるさい。ちなみに僕は青い鳥のやつは鍵をつけて使っている。あと、フォロワーは奥沢1人だけだ。フォローしてるのも奥沢のみ。いいねもリツイートもしないでただ見るだけだ。無料で通話が出来るやつはゆりさんと奥沢にりみに家族だけしか登録していない。
「魁斗ーそろそろ起きなー」
姉さんがドアをノックしながら起こしにくる。これも意外とうるさい。例えるなら蚊が耳元で飛んでる時ぐらいだ。そう考えると近所迷惑になってるんじゃないか?
「入るよー」
ほんとは部屋に入ってほしくないけど寝てるフリをしてるのだからしかない。
「起きろー……って起きてるじゃんか」
僕の顔を見るなりそんなことを言ってきた。そして、目覚ましを流れるように消す。
「なんで分かったの?」
体を起こしながら普通に返してしまった。だって、気になるでしょ?顔を見ると同時に起きてるって分かるなんてすごくない?体を揺すって起きてるかどうかを確認するはずなのに。なのに、なのに!起きてるのが分かるってハンパないって。姉さんがハンパないって!
「魁斗のことならなんでも分かるよ?」
「じゃあ、質問していい?」
「いいよ」
「僕が好きな人は誰だと思う?」
「それはもちろん私だよ!」
中くらいの大きさの胸を張って答える姉さん。でも残念ながらその答えは不正解だ。これは関係ないけど、姉さんはまだ大きくなると言いながら僕の部屋であの部分のマッサージをするもんだから引き篭もってたとして1人になる時間は意外と少ないのだ。
「はずれ」
「そんな!」
「そもそも、なんで僕が姉さんのことが好きになってることになってるの?」
「え?だって、小さい頃私が好きだって言ってたじゃん」
「小さい頃じゃん!今は違うから!」
「でも、私は魁斗のために恋人作ってないんだよ?」
「意味わかんねぇ!」
「分かってよ!」
無理だ。絶対に無理だ。姉弟の恋愛なんてほしい人なんているはずがない。僕だっていらない。いらなすぎる。義理ならまだ良いと思うけど実の姉弟はありえない。近親相姦じゃん!子供に障害が出るじゃん!そんなことより、今は9時だよな。セットした時間が9時だから9時のはず。
「ちなみに、今は8時」
「なんで?」
「私が昨日部屋に忍び込んで勝手に変えた」
「なんで?」
「暇だった」
「なんで?」
「えっと……ね。あの……「なんで?」……お姉ちゃんをほったらかし遊びに行こうとしてたからかな」
「なんで?」
「うぅぅ、魁斗がお姉ちゃんをいじめるー!」
そう言い残して部屋の外に走っていった。みんなに言っておく、こうすると弟に激甘の姉は逃げていくと思うよ。ほんと困るよ。毎日のように抱き着いてくるし。寝て起きると隣にいることがあるし。風呂にも入ってこようとするし。この家の姉は異常すぎるのでは?と思っている。話す相手が奥沢しかいないがこんな話をしても面白くもないので、家族についてはたいていのことがない限り話さないようにしている。
「…………」
あとちょっと寝ても問題ないよな。そんなことを思った時だった。姉さんが壁からぴょこっと顔を出してきた。
「言い忘れてた。魁斗に可愛いお客さんが来てたよ」
伝言が終わると姉さんは戻っていった(今度こそリビングにいてほしい)。姉さんが去った後は物凄く静かになる。その時間がずっと続いてほしいのだが、そんなことは絶対に起きない。なぜかって?それは簡単だ。姉さんが何かがある限り部屋にきたり、連絡がくるからだ。姉さんが修学旅行に行ってる時も何も頼んでいないのに写真やメッセージを送ってくる。ブロックすると怒るし無視すると連打で連絡がくる。どうすればいいだろうか。
着替えてリビングに向かおう。
黒の服にジーパンという比較的ラフな格好でリビングに向かっていると普段よりも賑やかな声が聞こえた。賑やかになっている理由が知りたかったので早歩きをして向かった。
リビングに繋がっている扉を開けると今日会う約束をしていたゆりさんがいた。
「……なんで?」
いやいやいや、あのゆりさんだぞ。戸山じゃないんだぞ。集合時間の2時間前に来るなんてましてや、家に来るなんておかしいだろ。いや、戸山よりマシか。あいつは集合の3時間前に家に迎えに来るからまだいい方だと思う。なんであいつが来ることができたかはまた今度に。
夏に近付いているのでリビングにはエアコンが付いているのでしばらくの間扉の近くですずんでいた。
「あっおはよう魁斗くん」
「おはようございます」
「じゃあ、行こうか」
「まだ朝御飯食べてないんですけど」
「じゃあ、コンビニに寄っていこう」
「そうですね……って、何でいるんですか?」
「昨日電話した時いつもと違う感じがしたから」
あれだけで気付いたのかよ。ゆりさんってほんとすごいな。
「そんなことより昨日美咲ちゃんとデートしてたでしょ」
「デート?」
「うん」
デートなんてしてないと思うんだけど。一緒にカフェになら行ったけどデートはしてないはず……はず…………あれ?あれがデートしていることになっているのか?
いや、でも、僕達は付き合ってないし。付き合っていたとしてもあの奥沢だし。容姿はいいんだけど弦巻を抑えることが出来る性格だからなぁー。
「美咲ちゃんを悪く言うんじゃないの」
「何も言ってない……はず」
「言ってないよ?」
「なら、なんでそんなことを?」
「なんとなく?そんな感じがしたから」
なんとなくって……ゆりさん何者だよ。
「私?私は、君を救う人だよ?」
アニメとかの主人公が言いそうな台詞を言ってこっちに向かってくるゆりさん。ゆりさんの周りからは、今すぐにでも抱きしめたいみたいなすごいオーラが出ているが姉さんと母さんは気付いていないフリをしているのか分からないが僕とゆりさんの2人だけの空間を作るために2人で話し始めた。
というか、ゆりさん。貴女は母さんと姉さんにどういう関係って伝えた!もし、もしだ。恋人とか言ってたら後で姉さんに心が殺される。
「ご心配なく。2人には高校の先輩と後輩って関係って伝えてるから」
「ほんとですか?」
「ほんとにほんと。だって……」
そこから耳打ちをしてきた。
「そう言わないとお姉さんにヤラレちゃうから」
「えっ……」
背筋に電撃が走った。こんな情報姉さんしか知らないのに、というか姉さんが心の声を出すのが悪いだけなんだけどね。
「じゃあ、下で待ってるね」
「えっ…あっ、一緒に行きます」
2人で一緒に家を出た。
外に出てコンビニに行きSPACEに向かってる時少しだけ足を止めどんどん進むゆりさんの背中を見ながら思った。
狂ってる
その言葉を初めて知り合いに向けて言ったかもしれない。でも、その狂いはどこか安心出来てしまうそんな気がした。
「どうしたの?」
ゆりさんがくるりと半回転をして笑顔で言ってきた。
「なんでもないです」
そう言いながら走ってゆりさんの隣に向かった。でも、そんな狂いに安心する時がきたら僕は……
あの人への気持ちは消えて全てゆりさんのことを好きになれるんだろうか?
ありがとうございました。