僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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週間ランキングも8位でしたし、ありがとうございます(^^♪


第九話:雷狼竜

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

――それは突如現れた。光る眼光。大気を揺るがす咆哮と共に。

 大岩の如き鱗に覆われた巨体。威圧感を示す鋭利な爪。鎧の様に巨大な甲殻。威厳を示す体毛。

 それらを持つ存在――雷狼竜が。

 

「なんだ……これ?」

 

 だが、轟達からすれば何が何だか分からないのが現状。

 観客のプロヒーローも、実況のプレゼント・マイクから見てもそうだった。

 

『はっ?――ハァァァァァァッ!!? なんだありゃ!! 何が起こったんだ!? 雷狼寺の個性……つうか緑谷達はどうしたんだぁ!!』

 

「あれはなんだ! 個性なのか!?」

 

「生物!?――あの形状は……狼?」

 

「よく見ろ! 覆っているの鱗と甲殻だ! 狼じゃないぞ!」

 

 プレゼント・マイク、そしてプロヒーロー達は共にパニック状態。

 唯一冷静なのは相澤だけだった。

 

『覚悟を決めたか、雷狼寺』

 

『へっ……? あれやっぱり雷狼寺なのかよ!!』

 

『なんでお前が知らないんだ?』

 

 プレゼント・マイクの言葉に相澤は呆れた様子で見つめている。

 竜牙の資料は全教員に渡されており、勿論プレゼント・マイクも例外ではない。

 

『……わりぃ忘れたから教えて!!』

 

『お前な……』

 

 最早、視線すら合わせなくなった相澤であったが、プレゼント・マイクの今の言葉は同時に観客席の声でもあった。

 

「一体、彼の個性は何なんだ!?」

 

「教えてくれ!!」

 

 叫び出す観客の声に相澤は黙るが、その視線は会場にいる雷狼竜――竜牙へと向けられていた。

 

『……GRRRR』

 

 相澤は竜牙が自分の方を見ている事に気付く。視線はすぐに外れたが、相澤はそれだけで“覚悟”を察する。

 

『……雷狼寺があの“姿”を出した以上、本人も承知の上だろう。――もう隠す理由もない』

 

 そう言うと観客はやや静かになり、相澤の声に耳を傾ける。

 

『雷狼寺は、両親の個性とは関係ない個性――突然変異系。だが雷狼寺はその中でも更に特殊過ぎた。何故ならばこの世に()()()()()()生物だったからだ』

 

『……マジか?』

 

『マジだ。ゆえに、雷狼寺の個性を調べる際には“個性学”や“生物学”の権威や学者共が集まり、何とかそれを調べようとした。だが出来たのは()()()()事だけだったらしい。雷の狼の竜。それが雷狼寺の力――『雷狼竜』の個性だ』

 

――雷狼竜……!

 

 相澤の言葉に誰かが呟き、それを皮切りに次々と会話が起こる。

 聞いた事もない“生物”――その個性の持ち主である竜牙の話題で。

 

『あぁ……なんか見たなそんな資料。つうかあれが雷狼寺なのは分かったけどよ!? 肝心の緑谷達はどこにいんだ!?』

 

『……“背中”を見て見ろ』

 

 相澤の言葉にそれぞれが雷狼竜の背を見ると、そこにはいた。――驚いた様にポカンとしていた緑谷達が。

 

▼▼▼

 

 雷狼竜の背。体毛と甲殻に掴まりながら、凡戸の個性からも解放された緑谷達も相澤の言葉を聞いていた。

 

「“雷狼竜”……! それが雷狼寺くんの個性の“正体”!」

 

「ほんまにビックリ……!」

 

「これがお前に宿る、内なる獣か!」

 

 緑谷達も驚きが隠せない。いきなり視界が浮いた思えば、気付けば周りを見下ろせる場所にいるのだから。

 しかも不思議と恐怖はない。寧ろ、何故か“安心”出来てしまう。まるで世界で一番安全な場所にいるかの様に。

――だが、そんな緑谷達とは真逆の者達がいる。勿論、轟達だ。

 

 先程までの激闘が嘘だったかの様に静まり、全員がただただ目の前の雷狼竜を見上げていた。

 

(見たことある、入試の時……この間のUSJの時も、雷狼寺はこの姿でうち達を守ってくれた)

 

(これが……お前の本当の力なんだな雷狼寺)

 

 シルエットだけならば初めてではない耳郎と障子。二人はまだ驚愕する中で、まだ冷静を保っている者達。

 

――だが他は違う。

 

『GRRRRRR……!』

 

 唸り声を上げ、静かに動き出す雷狼竜。骨抜が作った沈む地面も、まるで水浴びから出るかのように楽々突破。

 そんな事にも気付かない轟は走馬灯の様に、競技前に八百万と上鳴との会話を思い出していた。

 

 自分が1000万――緑谷と雷狼寺に狙いを定めていると言った時の諫言。

 

『おそらく雷狼寺さんは……とんでもない奥の手を持っていると思いますわ。――ですから、出来る限り追い詰め過ぎずに攻めるのが得策かと』

 

『それじゃ意味がねぇんだ。あいつの全てを引きずり出す。そうじゃなきゃ、アイツに勝つ意味がねぇ』

 

『いや轟!? お前、USJの時の雷狼寺を知らねぇからそんな事が言えんだって! 大量のヴィランも一蹴したんだぜ!?』

 

『それぐらい俺もやった……』

 

 八百万と上鳴はその後も説得を続けたのだが、緑谷を超えたいと言う飯田の要求もあって何とか承認させた。

――しかし、実際に引き出した轟はというと。

 

「これが……雷狼寺?」

 

 何とか声を出すのが精一杯だった。存在感と威圧感が凄まじく、冷や汗が止まらなくて仕方がない。

 尾の方も、既に衝撃で蛙吹は舌を引っ込めているが、瀬呂・塩崎・八百万のそれぞれの武器は薙ぎ払われ、とっくにゴミとなっている。

 

――動け。動けよ

 

 誰もが内心でそう思ったが彼等の中の、人としての本能が邪魔をする。

 野生動物に出会った時の様に、動けば死ぬぞ。刺激するなと。

 雷狼竜が出た瞬間、既に彼等は弱者となってしまったのだ。

 

(動け……動け……! 動きやがれ!!)

 

 轟は動かない己へ激を飛ばす。散々、雷狼寺に言ってしまっているのだ。

 

『……そうかよ。だったら俺が引きずり出しやる……お前の“個性”の全てをな!』

 

 子供みたいな挑発までし、自分で宣言しておきながら、いざ竜牙が全力を出したらビビッて動けない。

 こんな無責任な事はない。轟は無理矢理にでも心を動かし、右へ力を込める。

 

(仮想敵のデカブツすら凍らせた力だ!――俺は……絶対に負ける訳にはいかねぇ!!)

 

「いく――」

 

『GAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 轟が動こうとした瞬間。雷狼竜の咆哮が轟チームへと放たれた。

 先程までの全体に轟かせた咆哮とは違う。個に対する竜の咆哮。

 轟を、八百万を、飯田を、ウェ~イを骨の芯から震えあがらせ、轟達の身体が悲鳴をあげた。

 そのまま飯田達は耐えられず、騎馬のまま膝を突いてしまう。

 

「こ、こんな……これが雷狼寺くん……の力なのか……!――僕は……緑谷くんすら……まだ……」

 

「こんなにも……差が……ありますなんて……!」

 

 八百万は尾を抑えていた故、その力を直に感じてしまった一人。

 あの下水の様な性格の爆豪すらも抑えた相澤の布。それを八百万なりに再現したが、まるでTシャツを破くかの様に安易に引きちぎられた。

 何ならば防げるか考えだすが、八百万の本能がそれを拒否。――無理だと判断してしまうのだ。

 上鳴に関してはアホになりながら泡を吹いていて例外。

 

 そんな中、雷狼竜は大きく再び遠吠えを行う。

 

『AOOOOOOOOON!!!!』

 

 吠えるや否や、同時に周囲に無差別で降り注ぐ落雷。

 偶然なのか、天気もやや曇りになってきたようにも見える。

 

――そして最強チームの一角の惨状&無差別落雷が、他チームをも一気に我に帰らせる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! やべぇよ!! あいつだけジャンルがちげぇよ!! おいら達じゃ絶対に無理だ!!! 逃げるぜ障子!!?」

 

 泣き叫び敵前逃亡を進言するのは峰田だ。

 目の前であり得ない速度で一気に周囲を駆けまわる雷狼竜。尾で一気に薙ぎ払い、包囲網を一掃。

 落雷の中でも颯爽と動く雷狼竜。だが、真の恐ろしさはそこではない。

 

「速い! 速すぎるぞ!!」

 

「あの巨体でなんて動きだ!!?」

 

 観客たちの目に写る光景。それはまさに規格外。

 あの巨体で動きが鈍くなるどころか、スピードは寧ろ加速しているのだ。

 なのに動きは繊細。背中の緑谷達は苦痛の表情を見せておらず、気を配ってもいる。

 

「ふざけんな!! ここで逃げたら本当に臆病者だろうが!!!――塩崎! 骨抜!」

 

「はい!」

 

「任せろ!」

 

 迎え撃とうと包囲陣の生き残り、鉄哲チームが雷狼竜に立ちはだかる。

 更には凡戸チームに拳藤チームのB組も参戦。

 そんな自分達を見ていないのが幸いと、峰田が障子へと伝えるが肝心の障子は拒否。

 

「ふざけるな……雷狼寺が本気を出したからこそ挑むべきなんだろ!」

 

「気持ちは分かるけど障子ちゃん……緑谷ちゃん達はあの背中の上。私たちじゃ届かないわ」

 

 熱くなる障子へ現実を言い渡す蛙吹。常闇も健在な中、峰田チームに手は残されていなかった。

 そんな言葉に障子は『だが……』と納得できない様子だったが、その間にも現状は変わっている。

 

「ふざ……けんな……!!」

 

 未だに動けない一つの組。――爆豪チーム。

 目の前で圧倒的な力を見せつける竜牙へなのか、それとも動けない自分へなのか。

 どちらにしろ、爆豪の形相はもはや歪みきって表現すら出来ない。

 だが、そんな中でも切島は何とか動こうと試みていた。

 

「逃げっぞ爆豪! あれじゃ……悔しいが、今はどうしようもねぇ!」

 

「うんうん!! Pはあるんだからさ!」

 

「俺のテープも見てくれよ……」

 

 ズタズタになったテープの先端を見せながら瀬呂も撤退したい雰囲気を醸し出す。

 その間にも雷狼竜とB組チームとの戦いは始まっていた。

 

「シッ!」

 

 まず動いたのは骨抜。先程の比ではない規模で地面を“柔らかく”し、雷狼竜の脚を沈めた。

 更に塩崎の棘が束となって前足を拘束。凡戸も粘着。拳藤チームもバックアップへと回る。 

 B組がここで総力戦を仕掛けたのだ。ここでA組からも──

 

「再度リベンジだよ!!」

 

「うちだって……いつまでも頼りっぱなしじゃないから!」

 

「再度行きなさいベイビー達!」

 

「俺……必要あるのか?」

 

 葉隠チーム参戦。耳郎のプラグと発目のアイテムが雷狼竜の背中の緑谷を狙う。

 

「させません……」

 

 そこに塩崎も更に棘を追加。横取りさせまいと一気に伸ばす。

 だが――。

 

「笑止!――黒影!」

 

『アイヨ!』

 

 相手をしているのは雷狼竜ではあらず。――緑谷チームだ。

 常闇がここで防御に再度専念。ハチマキを狙う者達を一気にガードする。

 

「背中は任せろ雷狼寺!――お前の力はそんなものではないのだろう!」

 

「こっちは大丈夫だから!」

 

「僕達を信じて……思うように動いて雷狼寺くん!」

 

『!――GUOOOOOOON!!!』

 

 緑谷達の声に応えるかの様に、雷狼竜は咆哮をあげながら力を入れる。

 同時に背中が光り出し、それに気付いた緑谷達は雷狼竜の行動を理解。

 

「麗日さん!」

 

「うん!」

 

 麗日はすぐに己を含めた三人に触れ、一気に無重力で背中から離れる。

 その直後、雷狼竜は一気に放電を放った。その威力に凡戸の粘着は粉砕され、同時に塩崎の棘の束が焼き切れる。

 最後には柔らかくなった地面から自力で脱出を果たす。

 

『GUOOOOOOON!!!』

 

 雷狼竜が吠える中で緑谷達も背中に乗り、酔った麗日を二人が介抱する中で雷狼竜の眼光がB組達を捉える。

 

「……マジかぁ!!」

 

『AOOOOOOON!!!』

 

 鉄哲の叫びは意味がなく、雷狼竜は右前脚をあげ、まるで飛び掛かる様にB組達へ距離を詰めて全力で手前の地面を叩きつけた。

 次は左前脚、また右前脚と。その衝撃と素早い動きに対応できる訳がなく、B組チームはそのまま騎馬が崩れてゆく。 

 

「ち、ちくしょう……!!――今のありかぁ!!」

 

『直接ではなく、衝撃でだから……アリ!!』

 

 鉄哲の抗議も虚しく、ミッドナイトのセーフ判定にB組は完全撃墜。

 

「無念です……」

 

「やられた……!」

 

 そんな光景を爆豪はずっと見ていた。

 未だに止める切島の言葉も聞かず、爆豪はずっと雷狼竜の蹂躙を。

 

「ふざけんな白髪野郎……!! ずっと……ずっとそんな力隠して舐めプしてたってか!!――俺は眼中にねぇってか!!!」

 

「待て爆豪!!」

 

 止める言葉も虚しく、爆豪は空へと飛んで行く。

 距離はあるが、そんなのは関係ない。一気に爆発を喰らわせ、1000万を奪取。

 そして教えてやるのだ。真に見る人物は轟ではなく、自分だという事に。

 

――だが。

 

「は――?」

 

 爆豪の思考は停止した。

 世界がスローモーションに見えながら、爆豪は理解出来なかった。

 

(なんで……目の前にいんだよ?)

 

 先程まで背中を見せ、距離もあった筈。

 なのに雷狼竜は爆豪の目の前におり、右前足を振り上げていた。

 その巨体に見合わない驚異的スピードに、爆豪は付いて行けない。

 容赦なく振り下ろされる前脚。爆豪は叩き落された様に飛ばされ、己の騎馬達へ激突。

 そのまま騎馬は耐える事なく崩れた。

 

「ってて……!――おい、無事か?」

 

「く……そ……がぁ!!!」

 

 切島の言葉に応えず、爆豪はただ無念の咆哮を叫ぶ。

 これで主だった者達は撤退か撃沈。葉隠チームも凡戸チームも尾の叩きつけの衝撃波で撤退。

 騎馬が崩れようが終わらない騎馬戦。だが、爆豪を筆頭に騎馬を組み直そうとする者はいなかった。

 

『AOOOOOOOOON!!!』

 

 雷狼竜の縄張りに抗う者はもういない。それを雷狼竜が許す筈がないと察しているから。

 離れていて難を逃れた者達もそうだ。

 

「……全く。調子にのったA組には良い薬か。――まぁ、傍迷惑な存在しかいないのは変わりないけど」

 

「なに呑気に言ってんだ物間! あれを“コピー”したらお前にもチャンスがあるぞ!」

 

 仲間の言う通り、物間の個性であるコピーを使用すれば雷狼竜の力を5分使用できる。

 それならばチャンスもあるだろう。

――だが。

 

「……無理だね。今にも誰か殺しそうな獣に誰が近付くんだ……!」

 

 雷狼竜を見つめながら物間は苦笑し、冷や汗を流す。

 

「A組にこんな事を言いたくないけど……僕だって普通に怖いさ。全く、余計な事をするよ」

 

 情けないと自覚しながら物間はこの惨状を招いた、もう一つの元凶へ視線を向ける。

――未だに立ち直れない轟チームに。

 

「どうしたんだ轟君! まだだ! まだ試合は終わっていないんだぞ!!」

 

「轟さん!」

 

「……」

 

 二人の言葉に轟は応える事が出来ない。

 自分の力。――氷の力だけでは倒せる気がしない。氷が弱点だと竜牙が言っていたが、勝てるヴィジョンが想像できないのだ。

 

(――使うしか……ねぇのか? この“左”を……!)

 

 絶対に使わないと決めた左。だが右だけではどうしようもないのは確か。

 

(ふざけんな……これじゃ、あの野郎の思う壺だろうが……!)

 

 轟の歪み。憎き人物――エンデヴァー。

 

『いつまでも意地を張るな。右ばかりではいずれ限界が来るぞ?』 

 

「……くそっ」

 

 競技中である事も忘れ、エンデヴァーの言葉と竜牙の前に屈した轟が動く事はなかった。

 

『試合終了!!!』

 

 プレゼント・マイクの試合終了の合図。それを聞いても轟が立ちあがったのは、少し経ってからだった。

 竜牙もまた、試合終了の合図にゆっくりと緑谷達を下ろし、巨大な体躯を一瞬だけ雷が包むと、そこにはいつもの竜牙の姿があった。

 

「雷狼寺くん……!」

 

「……ああ」

 

 互いに向かい合う緑谷と竜牙。

 そして緑谷は手の甲を上へ向けたまま伸ばすと、それに合わせる様に麗日と常闇、そして黒影も乗せて行く。

 

「……?」

 

 竜牙はそれが一体何なのか最初は分からなかった。だが、笑顔で自分へ向く三人を見てその意味を理解。

 ゆっくりと竜牙も円陣の中に入り、真ん中に手を置いた。

――そして。

 

『早速、結果発表だ!!!――1位は勿論、緑谷チーム!!』

 

「ッ!!――やったぁぁぁぁ!!!」

 

「やったよみんな!!」

 

「俺達の勝利だ!」

 

『オウヨ!』

 

「……みんなのおかげだ」

 

 発表と同時に重ねていた手を空へと上げ、一斉に喜ぶ緑谷、麗日、常闇、黒影……そして竜牙。

 

「そして2位は轟チーム!――3位は――ん? 普通科……心操チーム!? マジか!――そして4位は爆豪チーム!!――以上、4組が最終種目に進出だぁ!!!」

 

 発表に盛り上がる観客と緑谷チーム。だが、轟・爆豪の二人は沈んだままだった。

 そんな中で落ちたメンバーも含め、続々とA組は一か所に集まり始める。

 

「おめでとう麗日ちゃん。芦戸ちゃん」

 

「ありがとう梅雨ちゃん!」

 

「はぁ……でも私、殆ど活躍出来なかったからなんか実力にあってるか不安……」

 

「……そうですわね」

 

 女子は女子で会話が起こる中、八百万は表情は暗い。最後の最後に何も出来なかったことが悔しくてしょうがない様だ。

 

「すまない緑谷君!!! 僕は君に挑戦すると言っておきながらこんな事になるなんて!!」

 

「い、飯田くん!? 別に良いよそんな事!」

 

「けど実際大したもんだぜ緑谷!……攻めた側がいう事じゃねぇけど、1000万をあの状況で守り通すなんて男だぜ!」

 

「いやぁ……でも今回のMVPは間違いなく雷狼寺だろう。なぁ――」

 

 切島の言葉に瀬呂が繋ぎ、竜牙へも声を掛けようとした時だった。

 

「緑谷、麗日、常闇……少し、時間もらえるか?」

 

「えっ……別に大丈夫だよ」

 

「うん私も……」

 

「構わないが……ここじゃ駄目なのか?」

 

 竜牙の言葉に三人は頷くが、常闇が言いずらい事なのかを問い掛ける。

 

「……あぁ。他の皆には悪いんだが。――一緒に戦ってくれたお前達にまずは聞いて欲しい」

 

 そう話す竜牙の雰囲気はどこか暗く、大切な話だと言うのも切島達が察せる程だった。

 

「……お、おう! そりゃ戦友だもんな! 俺らの事は気にすんなって!」

 

「すまない……」

 

 竜牙はそう言うと緑谷達三人を連れていってしまう。

 その時に、耳郎と障子が声を掛けようとするが、タイミングを失ってしまって叶わなかった。

――しかし、そんな時だ。峰田が何かを思いついた様に笑みを浮かべ、八百万へ話しかけた。

 

「……おいおい八百万!」

 

「?……なんでしょう」

 

 峰田からの言葉に八百万は返答すると、峰田はその内容を話した。

 提案と呼べるそれに、やがて八百万は難色を示した。

 

「そ、そんな事……」

 

「これは体育祭だぜ八百万! 勝つ為には情報は武器だぜぇ!」

 

 無駄に力説する峰田。その後もあれやこれやと言い包められ、結果……八百万は仕方なく“それら”を作り出した。

――そして。

 

「麗日さん! ちょっとお待ち下さい!」

 

 

▼▼▼

 

 スタジアム内の端。人通りはあまりにも少なく、内緒話には持って来いだろう。

 そこに竜牙と緑谷と常闇。少し遅れで麗日がやって来た。

 

「ごめん! ちょっと呼び止められちゃって!」

 

「いや良い……無理を頼んでいるのは俺だ」

 

 申し訳なさそうにやって来る麗日に竜牙は気にしていないといい、早速話を始める。

 

「雷狼寺くん。それで話って……?」

 

「あぁ……俺の“個性”の件だ」

 

 

▼▼▼

 

 

『あぁ……俺の個性の件だ』

 

「うおっ! マジで聞こえる!?」

 

「静かにしてください!」

 

 八百万と峰田。――と言うよりもA組全員が竜牙達から少し離れた場所にいた。

 八百万の手にはやや大きめのトランシーバーの様な物があり、そこから竜牙の声が聞こえて来ている。

 そんな機械に上鳴が反応し、八百万は咎めていたのだ。

 しかし、何故こんな事をしているかと言うと。発端は峰田。

 

「へへへ……これで雷狼寺の秘策を聞き出してやるぜぇ!」

 

「……作ってしまいましたが、本当に良いんでしょうか?」

 

「そうだよなぁ……盗み聞きなんて男らしくねぇ。麗日は何も知らないんだろ?」

 

 切島の言葉に八百万は俯く。

 毎年、最終種目は一対一の何かなのは決まっており、そこで峰田は雷狼寺の盗聴を考え出す。

 ハッキリ言ってしまえば、雷狼寺は強すぎた。

 ゆえに、ここは情報戦を仕掛けると峰田が言い出し、八百万に盗聴器を作って貰って、麗日に仕掛けたのだ。

 

「男らしくとかじゃねぇ! 今は全員がライバルだ! だったら雷狼寺の力の秘訣を聞くのも作戦じゃねぇか!」

 

「だが盗聴は犯罪だ!! しかもクラスメイトだぞ! 恥ずかしくないのか峰田君!」

 

「――そもそも、同じく落ちた峰田ちゃんが言うと裏があるとしか思えないわ」

 

 熱く語る峰田へ、飯田と蛙吹が反論。

 周りも確かにと思い、全員の視線が峰田へと向かい、そして……。

 

「――ぶっちゃけ。人気のない場所。そこに男三人に対し、麗日一人って……エロくね?」

 

『……』

 

 場の空気が固まった。被害者と言える八百万に関しては白目を向いている。

 峰田はやっぱり峰田。ハッキリ言ってゴミの考えだった。

 

「潰そう」

 

「徹底的にな」

 

「待て待て待ってくれぇぇぇ!!」

 

 ある意味騙された者と言える二人――耳郎と障子の二人が怒りの目で峰田を捉える。

 

『雷狼寺の事を知りたくねぇのかよ!』

 

 あんなに熱く言われ、心を動かされた自分達が馬鹿みたいだった。

 

「けど、意外なのは轟と爆豪もいる事だよなぁ……?」

 

「……」

 

「うっせ……」

 

 混乱し始める状況の中、瀬呂が話題を変えようと轟と爆豪の存在を口にする。

 二人は別に誘っていないにも関わらず、黙って付いて来た二人。

 そんな二人は、瀬呂の言葉に沈黙と不機嫌で返答。

 

「……私、一体何をしているのでしょうか……」

 

「き、気にしない方が良いって!」

 

 一人落ち込む八百万を芦戸が何とか慰め始める。

 しかし、そんな時だった。竜牙の声が聞こえ始めたのは。

 

『……俺がなんで雷狼竜を隠していたか。その話だ』

 

「おいおい!? 始まったぜ!」

 

『!』

 

 切島の言葉に反射的に全員が耳を傾ける。

 何だかんだで気にはなってしまう様だ。――そしてこれから一体、どんな話が始まるかと全員が意識を集中し始めた。

 

『簡単に言えば……俺は――』

 

 

――“両親”に()()()()()んだ。

 

 

――雷狼竜の原点であった。

 

 

 

 

END


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