僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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結構、感情移入しまくっている人が結構多いのにびっくりです(;・∀・)
あとあくまでもこれはSSなので、凄く追及している方がいますが、これはあくまでもSSですよ(´;ω;`)
まぁ、盗聴はやり過ぎちゃったけど、そうじゃないと主人公の過去を教える時のタイミング逃しそうだったし(;゚Д゚)

――後悔はない!何よりも息抜き投稿だってばΣ(・ω・ノ)ノ!


言う訳で宜しくです(^^♪♪


第十話:やり直し

――両親に捨てられた。

 

 竜牙の告白に緑谷達三人、彼等の全身に冷たい何かが駆け抜ける。

 

「捨てられた……?」

 

 口元を抑える麗日。表情に出さない様にするが、汗が一滴流れている常闇。

 唯一、緑谷だけが何とか口を開けた。

 

「まぁ……正確には莫大な生活費と過剰な住居は貰ってるが、最後に会ったのは覚えてる限り5才の時だ。だから両親とは、俺が雄英に入った事も知らない程に関わりがない。――ずっと家政婦の人達が俺を育ててくれていたからな」

 

「むっ……なら、そう言う表現は正しいか。だが、まさか雄英に入学した事さえも知らないとは……」

 

 竜牙の言葉に常闇が言葉を選ぼうとしてくれているが、竜牙は別に気にしていないので普通に話してくれて良いと思っている。

 しかし、そこは常闇の優しさ。素直に受け取る竜牙に、声を震わせながら麗日が口を開く。

 

「で、でも……生活費や住む場所はご両親はくれているんだよね? だったら、ただ意固地になってしまっているだけかも」

 

「――俺もそう思った事がある。だから……昔、家政婦の人達に無理を言って聞き出した事があった。その時、家政婦の人達が泣きながら……申し訳なさそうに教えてくれた」

 

――両親は、俺からの“報復”を恐れている。だから莫大な金と家を渡し、恩を売っているのだと。

 

「!」

 

 麗日は完全に沈黙。おそらく、麗日の両親は良い人なのだろう。

 それを竜牙も理解できた。それだけ彼女の顔が悲しみで満ちているからだ。

 

 そんな中だ。緑谷が気付いた様に呟いたのは。

 

「……もしかして、その原因が『雷狼竜』の個性?」

 

「あぁ……相澤先生が言っていたろ? 俺は突然変異系だと。――覚えている限り、母は『物の色を変える』個性で、父は『目利き』の個性だった。……あぁそう言えば、5才になる“双子の妹”が産まれてたとも聞いてたな。その二人の個性は分からん。顔も名前も知らないからな」

 

「雷狼寺くん……」

 

 緑谷は思わず言葉を失う。

 両親の個性の話はまだ良い。だが問題は、双子の妹の事だ。

 まるでどうでも良い事を思い出したかの様な竜牙の口調。それで緑谷は、実の家族と竜牙がどれだけ疎遠なのかを理解してしまう。

 

「話がズレた。戻すぞ。……結局、両親的にも世間的にも、俺の個性は異質過ぎた。だから両親も最初は、俺の個性を調べようと躍起になってくれた。大病院に研究機関、色々と連れてかれたな」

 

――そして、そんな時だ。両親が莫大な金を使って一つの研究所に連れてってくれたのは。

 

「そこで俺は特殊なトレーニングをしたり、制御の研究をしてもらってた。――けどある日、いつもと“違う”研究員の人が担当になったんだ。俺はそれを、特に疑問に感じず、素直にその日のトレーニングを行った。そして研究の時……“注射”を一本打たれた。――そこで俺の記憶は消えたんだ」

 

「消えた……?」

 

「あぁ……聞いた事ないか緑谷? 昔、個性の力を強める薬が出回った事があるのを。俺はどうやらそれを打たれたらしい。――そして気付けば、研究所は全壊。研究員も重症を負っていた。――どうやら俺の個性が“暴走”したらしい」

 

――破壊の限りを尽くし、薬の効果が切れた時に奇跡的に無事だったが、疲労困憊になっていた母から言われたよ。

 

『もう勘弁して!! 私じゃあなたを育てられない!!』

 

 震えあがり、狂気の目で見ていた母の言葉。

 今でも竜牙は鮮明に覚えている。――恐らく忘れる事もないだろう。

 

 そう思い出す竜牙が、更に話を続けようとした時だった。

 

――突然、強烈な音が響いた。まるで誰かが鈍器で壁を殴ったかのような。

 

 

▼▼▼

 

 皆が話の内容に唖然としていた中、動いたのは切島だった。

 八百万から取り上げた受信機。それを硬化した腕で壁ごと殴りつけたのだ。

 

「──いつまで聞いてんだこんな事をよ!!」

 

 切島の怒号に皆が我に返る。既にこの場を去っている者もいる。――耳郎、障子、飯田だ。

 三人は家族の件ですぐにこの場を離れてしまった。残されたのは困惑して動けなかった者のみ。

――因みに尾白と青山は最初からいなかったが、誰も気付いていない。

 

「……情報戦どころじゃないわ。これ私達が聞いちゃ駄目なやつよ?」

 

 蛙吹の視線は、顔色が酷くなっている峰田へ向いた。

 それに気付いた峰田は、キョドリながらも口を開く。

 

「お、おいらだって!……こんな話になるなんて思ってなくって、体育祭でこんな話をするなんてよ……」

 

 ただの興味本位。そう言ってしまえば話は簡単だった。

 ずっと気にはなっていた竜牙の個性。それが少しでも聞けるかと思っただけだった。

 しかし、内容はあまりにも重かった。爆豪ですら、表情が晴れていない程に。

 勿論、轟もだ。轟は顔を下に向けたままこの場を去ってしまう。

 

「私のせいですわ。安易に作ってしまいましたから……!」

 

「や、ヤオモモ……だ、大丈夫だから!……大丈夫……だから……」

 

 肩を落とす八百万に芦戸は何とか慰めるが、流石に言葉が続かなかった。

 だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。

 ひとまず、状態を整えようとメンバー達はその場を後にするのだった。

 

 

▼▼▼

 

「何の音だ……?」

 

「何かの催し?」

 

 竜牙と麗日が先程の衝撃音に首を傾げるが、そんな二人に常闇が待ったをかけた。

 

「待て雷狼寺。普通に流したが、なんでお前は研究員にそんな薬を打たれた?」

 

「あぁそれか。――主犯の研究員は、俺の担当だった人の助手だったらしい。因みに、担当の人とは今も連絡を取り合っている仲だ。――話を戻す。まず普通に考えても、俺の雷狼竜の個性は当時でも“珍しい”部類だったらしい」

 

「うん。僕もそう思うよ。異形系とも言える力や発動系も勿論、色んな個性が混ざり合った様な個性だし。あまり例はないのかも……」

 

 竜牙の言葉に緑谷は納得した様に頷きだす。

 まるで複数の個性持ちの様で、ヒーローオタクの緑谷でさえあまり例を知らない程だ。

 十年以上前ならば、更に重宝されても不思議はない。

 

「そうみたいだ。そんな中で、助手は結果を出せない人間だったらしく功を焦ったって訳だ」

 

「む?――それとお前への薬品投与と何の関係がある?」

 

「どうやら、研究所側は俺の個性の“可能性”に気付いた様だ。将来的に鍛えれば更なる“変異”を起こす可能性が高かったらしい。だが……功を焦っている奴は、少しでも材料が欲しかったんだろう」

 

――結果。雷狼竜の可能性の暴走。可能性は危険性へ裏返り、甚大な被害で終わってしまった。

 

「担当のオジサンは俺を最後まで庇ってくれたが、両親的には暴走した俺は“恐怖”でしかなく、そして“未来”でもあったんだろ。――それからだ。俺が雷狼竜を隠すようになったのは。他の人も恐怖させてしまうかも知れない。そう思うと、今の世の中でも見せるのが怖かったんだ」

 

 竜牙のその言葉に、三人は理解する。

 今の世は超人社会。異形型の個性もいる中で、何故ここまで竜牙が己の個性を隠していたのかを。

 

「雷狼寺くん……どうしてそんな話を僕達に?」

 

「殻を破る切っ掛けをお前達から貰ったからだ。――あの時の緑谷達を見て、俺は勇気をもらった。だから、そんなお前達にこそ最初に聞いて欲しかった」

 

「それは嬉しいけど……耳郎ちゃんと障子くんは? 二人共、雷狼寺くんの友達やん!」

 

 思い出した様に麗日は叫んだ。

 彼女から見てもいつも一緒にいる三人は本当に仲良く見え、ハッキリ言って“親友”に見えていたのだ。

 だから、今の言い方から察するに耳郎と障子には伝えていないのが分かった。

 そして、麗日の言葉に竜牙も頷いた。

 

「勿論話すつもりだ。――いや、クラスの皆にな。ずっと俺は怖かったんだ……また両親の様に恐怖を植え付けてしまうんじゃないか。嫌われてしまうんじゃないかってな。――だが、三人に話せた事でまた勇気をもらえた」

 

「……気にするな。お前とはあまり話す機会は少なかったが、俺達は互いを理解した。――もう同士だ」

 

「ありがとう……常闇」

 

 そう言って常闇と握手を交わす竜牙。そんな二人を緑谷と麗日も嬉しそうに見ていた。

 試合前、竜牙がどこか悲しそうに見えた緑谷だったが、表情は相変わらず変化しないが竜牙から何か憑き物が取れた様に見えた。

 

 そして、そこで話も一区切りついたことで、取り敢えず、お昼にでも行こう。

 

――そう緑谷が思った時だった。

 

「雷狼寺くぅぅぅぅぅん!!!!」

 

『!』 

 

 それはまさに突然の登場だ。

 通路の奥から、エンジン全開で飯田が走ってきたのだ。――しかも、号泣しながら。

 

「えっ! 飯田くん!?」

 

「僕はぁ!! 僕はぁ……!!!――すまないぃぃぃぃ!!!」

 

 緑谷達を無視する形で、何故か竜牙は飯田に両肩を掴まれて謝罪されてしまう。

 

(……謝罪の押し売り?)

 

 どんな押し売りだ。聞けば誰もが思う様な事を考える竜牙だったが、目の前の飯田の様子は尋常ではない。

 

――もしかして。

 

 ここで竜牙は一つ、心当たりが生まれる。ハッキリ言って、飯田の登場はタイミングが良すぎるのだ。

 

(そういう事か……)

 

 竜牙は察し、静かに口を開いた。

 

「……聞こえてしまったか?」

 

「ッ!――ほんとぉぉぉにぃ!!! すまないぃぃぃぃ!!! そして違うんだぁぁぁ!!!」

 

『えぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 “立ち聞き”したと誰もが思った中、まさかの飯田の言葉に思わずビックリ。

 ならばなんだと、竜牙達が飯田の言葉を持っていると、ようやく落ち着いてきた飯田が口を開く。

 

「実はぁ……!」

 

――飯田は先程までの事を全て吐いた。

 

「えぇぇぇぇぇぇ!!!――“盗聴”してたのぉ!!?」

 

「エッ!――あっ! これや!!」

 

 緑谷の絶叫の中、麗日も自分の背中にくっついていた小型の盗聴器に気付く。

 

「むぅ……なぜそんなことを?」

 

「最初は峰田君が雷狼寺君がまだ切り札を持っているから、ここは雷狼寺君の話を聞いて情報戦だぁ!!――って事だったんだ。だが実際は盗聴……僕は止めることが出来ず、君のそんな過去をぉ……すまない!!!」

 

「そんなぁ……」

 

 緑谷達はショックを隠せなかった。確かに竜牙が色々と隠していたが、まさかそこまでするなんて思っても見なかったからだ。

 だが一番ショックなのは竜牙だろうと、緑谷達は恐る恐ると視線を移すのだが、当の竜牙は何か考え事をしながら聞いていた。

 

「……皆が聞いていたのか?」

 

「あぁ……その通りだ」

 

 実際は“尾白”と“青山”はいなかったのだが、誰もそれには気付いておらず、竜牙の言葉に飯田は答えながらずっと頭を下げている。

――だが竜牙はと言うと。

 

「飯田……雷狼竜に俺はなった。――だから俺の事は怖いか?」

 

「え……?」

 

 飯田も、緑谷達も竜牙の言葉に呆気になってしまう。

 盗聴されていたのだ。普通ならば罵倒どころでは済まないだろうが、竜牙は特に気にしていない様に問い掛けていた。

 

「いや……確かにあれには驚かされてしまったが、だからといってそれで君の事を怖いと思う事は決してないさ!」

 

「盗聴はしたがな」

 

「ウオォォォォ!!!」

 

 自信を持って言い放った飯田だが、ぼそりと呟いた常闇の言葉に再度撃沈。

――しかし、当の竜牙は。

 

「それが分かれば良い……俺は特に盗聴された事は気にしていない」

 

「なんだって!? しかし雷狼寺君!! 僕達は許されない事を――」

 

「俺が個性を隠したり、宣誓で煽ったのもある。何より感覚が麻痺してるんだろ。――俺は言うほど両親の事は気にしていない。気になっているのは――」

 

――雷狼竜を見せた事で、皆に嫌われていないかって事だ。

 

「!」

 

 緑谷は思い出す。

 竜牙は雷狼竜暴走時の惨状と、母の表情がトラウマになっている事を。

 ゆえに雷狼竜になる事により、周りに嫌われていないか、それが一番の問題になっているのだと。

 

「雷狼寺君、君は許すというのか……こんな僕達を!」

 

「あぁ……ビックリはしたが、俺は気にしていない。それに俺が本当にしなければならない事も分かった。――飯田、緑谷達にも“頼み”がある」

 

『……?』

 

 

▼▼▼

 

 A組の控室に、耳郎と障子はいた。

 やや無気力な感じに、ただただボ~としながら。

 

――ただ力になりたかった。

 

 それだけの事だった。いつも何を考えているのか分からない表情の竜牙。

 だが雰囲気で何か悩んでいるのは分かっていた。

――しかし、それが。

 

――俺は両親に捨てられたんだ。

 

 聞いた瞬間、耳郎と障子はすぐに飛び出してしまった。

 力になりたいだけ。知りたかったが、こんな形じゃない。

 

「うち、何してんだろ……」

 

「……正しい事じゃなかった」

 

 力なく呟く二人。昼休憩だが食欲もない。

 そんな状態で二人は考えていた時だった。――不意に控室の扉が開く。

――現れたのは“竜牙”だ。

 

「雷狼寺……!」

 

「!」

 

 思わず反射的に驚いてしまう耳郎と障子。

 罪悪感の反射ゆえに、一目で何かをしてしまったのが分かる。

――だが。

 

「……探した。――ちょっと来てくれ」

 

 二人に近付くや否や、竜牙は二人を何処かへと誘おうとする。

 だが、二人は今言わねばならない事がある。

 

――謝らねば、正直に話さねば。

 

「……ごめん。それより先に聞いて欲しい事が――」

 

「後で聞く」

 

「へっ……?」

 

 己の身体が浮き、そのまま何かに乗せられる。

――耳郎が己が担がれた事実に気付くのは控室を出てからだった。

 

「ちょっ!? なんで担いでんの!」

 

「ら、雷狼寺……!」

 

 耳郎を担いで控室を出て行く竜牙を、障子も慌てて追いかける。

 竜牙はそのままスタジアムへと入ると、通路の奥――先程まで緑谷達と共にいた場所に連れて来たのだ。

 

「えっ!? どこに連れて来て……ってあれ?」

 

「みんなも……いるのか?」

 

 耳郎と障子は目の前の光景に驚く。

 そこにいたのは、緑谷達と共にいる轟・爆豪、そして八百万達+尾白と青山だった。

 そんなメンバー達も竜牙達の登場に顔を驚きに変えた。

 

「なっ!……麗日ぁぁぁ!! これどういう事だよ!! 人目のない場所でイチャイチャウフフじゃねぇのか!!」

 

「そんな事言ってない!!?」

 

「えっと……緑谷さん。これは一体……」

 

「ごめんね……雷狼寺くんに頼まれたんだ」

 

「常闇……もしかして……」

 

「黙って聞くんだ」

 

 峰田や八百万、そして切島達。ここにいるのは全員が盗聴してしまったメンバー。

 竜牙が緑谷達と頼んだのは、全員をここに連れてくる事だったのだ。

 

「えっと……皆、昼なのにいないと思ってたけど、なんか空気重くないか?」

 

「君達――昼は抜くタイプかい!」

 

 全く蚊帳の外の尾白と青山だけは平常運転だったが、他のメンバーは全員が顔が暗い。

 まるで追い詰められた犯人の様に。

 だが竜牙はそんな中で耳郎を下ろすと、一人前に出て話し出した。

 

「皆に言いたい事がある。――俺がなんで雷狼竜を隠していたか。その話だ」

 

『!!?』

 

「どういう事だ雷狼寺?」

 

「もしかして……最後に見たあの大きな奴の事かい?」

 

 八百万達の表情が変わる中、尾白と青山はまるで“うろ覚え”の様に聞き返す。

 

「……俺がなんで雷狼竜を隠していたか。その話だ。簡単に言えば……俺は――両親に捨てられたんだ」

 

『……』

 

「えっ……どうしたんだいきなり……?」

 

「……チ、チーズが足りないのかい?」

 

 八百万達が黙る中、尾白と青山は驚いた表情で困惑を隠せない様子だった。

 そんな中で、切島の握る拳が強くなる。

 

「……もう良いぜ雷狼寺。――俺達、皆知ってんだ……」

 

「えっ……俺達、何も知らな――」

 

「俺達は!――お前と緑谷達の会話を“盗聴”しちまってたんだ!!」

 

『えぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 切島のカミングアウトに一番、驚愕したのは尾白と青山の二人。

 

「二人共。一々、話の腰を折るね……」

 

「仕方ないさ麗日くん……思い出してみれば、二人共ここにいなかったのだから」

 

 話の腰を折る二人にズバリと言い張る麗日だったが、飯田はそんな二人を擁護する。

 皆を探す中、偶然食堂付近で二人に出会わなければ、本当に忘れ去られていた可能性すらあった。

 話が折れた中でも、切島は話を続けて行く。

 

「言い訳になっちまって男らしくねぇけど、俺達……色々と気になっちまって八百万が作った盗聴器で――」

 

「知ってる。飯田から全部聞いた。――だから“やり直す”」

 

『えっ……?』

 

 竜牙の言葉に切島達の表情が固まる。爆豪と轟すらも固まっていた。 

 

「最初に言っておく。別に盗聴はビックリしたけど気にしてない。……家庭状況からして気にしていないからな」

 

「そ、それって……オイラ達の事を許すって事なのか……!」

 

「許すもなにもない。――何より、俺はもっと早く向き合うべきだったんだ。緑谷達にだけではなく、皆にもこの話を聞いて貰うべきだった」

 

「そんな……雷狼寺さんは悪くはありません!」

 

「いや、俺も思う事はあった。――それに、聞きたい事もある」

 

 すがる様な峰田を蛙吹が静かに黙らせ、八百万が申し訳なさそうにしながらも、竜牙の問い掛けに全員が黙った。

 

「雷狼竜を俺は皆に見せた。それで……俺の事は怖くなったか?」

 

『……?』

 

 竜牙の言葉に全員が首を傾げる。

 確かに壮絶な存在感を出してはいたが、だからといって竜牙を嫌う理由等全くないのだ。

 

「いえ……確かに凄かったですが、それで雷狼寺さんをどうとかありませんわ」

 

「あぁ……寧ろ、尊敬するけどな」

 

 八百万と上鳴は竜牙の言葉を否定し、寧ろ尊敬するとまで言った。

 

「うん! びっくりしたけど怖くはなかったよ!」

 

「ああ。凄かったよな……あの包囲を破られんだからよ?」

 

 葉隠と砂藤も思い出すように頷き合う。

 

「怖がるどころか格好良かったぜ! 男らしかったしな!」

 

「うんうん! 本当に切り札!って感じで凄かったよ!!」

 

「俺のテープもあっという間に切られちまったよ!」

 

「……スピードはムカついた」

 

 切島・芦戸・瀬呂・爆豪も思い出しながら騒ぎ出す。

 

「オイラはチビッちまった……!」

 

「ビックリはしたわ。あんなに大きいんだもの」

 

 峰田・蛙吹も誰も怖いと言わない。

 寧ろ、なんでそんな事を聞くのか不思議がっている。

 

「……そうか」

 

 竜牙はそう呟くと、最後に一番聞きたかった二人の下へと向かう。

 

「耳郎……障子……」

 

「ごめん……雷狼寺。うち……ただ力になりたかったんだ。――あんた、いつも個性使う時、どこか悲しそうにしてたから……何か力になれるかもって……本当にごめん」

 

「……俺もだ。俺はいつもお前に挑戦しようとしたが……それも叶わなず、お前と競う事も出来ない奴が何の力になれるって……いうんだ」

 

「いや、謝るのは俺だ。もっと早く、二人には言うべきだった。そうすれば、皆にもこんな事させずに済んだんだ。――だが、俺はそれが怖かった。二人は俺にとっても特別だったからな」

 

 初めて肩を並べて共に戦った二人。

 その後も共に学び、対峙もした特別二人。

 だからこそ、二人へ話す事に一番勇気が必要だったのだ。

 しかし、耳郎と障子は首を横へと振る。

 

「怖いとか……思う訳ないじゃん」

 

「俺と耳郎は実技の0Pの時に見ているしな……なにより――」

 

 障子はそこまで言うと、視線を耳郎へと向ける。続きを話せと言っているのだ。

 だが、耳郎はその意図を察しても口を開こうとしない。

 表情を赤くしながら黙り続ける耳郎に、竜牙も首を傾げていると……。

 

「――れてんだから……」

 

「……ん?」

 

 竜牙は聞き取れず、顔を少し近づけた時だった。 

 

「!――あんたに“憧れて”んだから思う訳ないじゃん!!!」

 

「!……そう……だったのか」

 

 真っ赤な顔の耳郎の叫びに、竜牙も何とも言えない気持ちになる。

 だが不快と言う訳じゃない。寧ろ嬉しかった。

 

(……もっと早く伝えてよかったんだな)

 

 闇から出れた様な、身体が軽くなるのを竜牙は感じ、同時に初めてヒーローへの一歩を歩めたような気がした。

 そして、竜牙は緑谷達全員の方を振り向くと、今度は仲間への一歩を踏み出す。

 

「ヒーロー科・1-A――雷狼寺 竜牙……個性は『雷狼竜』だ。――よろしく頼むな!」

 

『!――雷狼寺くん……笑った……』

 

 緑谷は――皆は竜牙の顔に思わず固まる。

 ずっと無表情だった竜牙が、自己紹介をしながら曇りのない笑顔を浮かべているのだ。

 そんな表情の竜牙に。八百万達は申し訳なさそうに涙を流す。

 

「本当に……申し訳ございませんでし――」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!――雷狼寺ぃぃぃぃ!!! オイラが悪かったぁぁ!!!」

 

 八百万の渾身の謝罪をぶっ壊したのは、峰田だった。

 顔から液と言う液を流しながら、竜牙へと突っ込んで行く峰田によって、八百万、そして切島達も涙が引っ込んだ。

 緑谷達も絶句している。だが、峰田は竜牙の身体に抱き着いて謝罪を発する。

 

「すまねぇぇ!!! 耳郎や葉隠とイチャイチャしやがってとか思っててよぉぉぉ!!――詫びに秘蔵のエロ本貸すからオイラ達はずっと親友だぜぇぇぇ!!!」

 

「――ジャンルは?」

 

『雷狼寺くん!?』

 

 まさかのジャンルを聞き返す竜牙に周りは固まる。

 そんな皆に竜牙は――。

 

「俺だって男子だ」

 

 堂々と言い放つ、その姿は雷狼竜の時よりも誇らしかった(男子談)との事。

――因みに。

 

「――あと10分で昼休み終わるけど……言いづらい空気だな」

 

「自業自得さ!」

 

 尾白と青山は最後まで置いてけぼりであった。

 

 

 

END


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