428買いました。
キングダムハーツⅢ予約しました。
――財布が泣きました。
竜牙と塩崎の戦いの後も、トーナメントは続いて行った。
――第四回戦:切島VS鉄哲。
両者ともに個性の能力が被っており、更に性格もあってか互いに一歩も引かずのインファイトの結果、両者共にダウン。
その後に目を覚まし、腕相撲の結果――勝利を勝ち取ったのは切島。
つまり、竜牙と次に戦う相手は切島となった。
――他の試合も続々と決まる。
第五回戦は、芦戸が青山のベルトを壊した事でそのまま青山を撃破。
第六回戦は、常闇が八百万に隙を与えずに速攻をかけて勝ち上がった。
第七回戦は、上鳴が初っ端に全力攻撃を仕掛けるが、それを飯田は読み、最初から最高速度を出せる技レシプロバーストで瞬殺。
――そして“問題”の第八回戦:麗日VS爆豪。
浮遊能力故に純粋な戦闘では爆豪には敵わないと皆が思う中、爆豪は手を抜く筈もなくモロに攻撃を当て続けた。
だが麗日も何度も突撃し、それを爆豪に反撃されるの繰り返しを続ける。
結果、一方的な爆豪の試合はヘイトを集めた。
すると流石に見ていられなくなったのか、一部のヒーロー達から爆豪へブーイングが巻き起こる。
――しかし。
『今、言った奴、何年目だ? 本気でそう言ってんなら帰って転職しろ。もう見る意味ねぇから――ここまで勝ち上がって来た奴等だぞ? だからこそ警戒してんだろ?』
相澤がブーイングを黙らせる。
爆豪の為だとか、うるさいからとかじゃない。――当然の行動故に。
そして、その警戒は正しかった。
麗日はずっと空に“瓦礫”を浮かしていた。やがて時満ちる。
まるで流星群の如く爆豪へと一斉落下させた。
逆転。誰もそう思っただろう。しかし、爆豪は“才”は持っていた。
巨大な爆破で瓦礫を一斉に粉砕。それにより麗日は限界により、彼は勝利を得た。
――どこがか弱いんだよ
客席に戻った爆豪の言葉を、竜牙は聞き逃さなかった。
▼▼▼
(――緑谷と轟か)
まるで運命の様に決まっていた対戦相手。
緑谷と轟の二人が立つスタジアムを竜牙は控室のモニターで静かに、そして集中して見ていた。
ハッキリ言えば緑谷が勝つ確率は低い。
直撃すればチャンスはあるが、それでも緑谷へ反動ダメージが起こり、同時に轟がそれを理解していない訳がないという事。
(……勝利への道。それは轟のあるかどうかの弱点――その可能性に賭けるしかない)
個性も身体機能であり、それぞれに限界はある。
竜牙でさえ、身体の一部を雷狼竜にしなければ電気は使えず、同様に発電量が少ないという弱点もある。
ずっと短期決着をしてきた故に、竜牙が思う轟の弱点の予想。
――それは体温。
(人間である以上……冷たければ体温は下がる。その常識を、轟の個性がどれだけ可能にしているかが問題だ)
もしも轟の半冷が寒さすらも抑えているならば、緑谷の勝つ可能性は絶望的。
ただ、もしも体温が下がるならば炎を使わない轟には致命的な弱点となり、それが付け入る隙となる。
(どういう戦いをするのか。見せてもらうぞ緑谷……)
今までのあくまでも竜牙の考え。
緑谷の選択は、今から始まるのだ。
▼▼▼
『全力で掛かってこい!!!』
「――緑谷……!」
竜牙が釘付けになる程の光景――モニターが映すは己の個性でボロボロになりながらも轟へ心の叫びをぶつける緑谷の姿だった。
ボロボロになりながらも、轟からのダメージではない。己の個性で傷付ついた身体で、緑谷は轟を殴り、強烈な一撃を入れる。
窮地の中での緑谷の一転攻勢に場内は騒ぎ出すが、竜牙は騒ぐ事など出来なかった。
――それ程までに緑谷の肉体はズタズタで、限界を迎えているのだ。
「緑谷……たとえそれで勝っても、その先には俺はいないぞ……」
リカバリーガールがいるから、大抵の怪我でも治してもらえる。
この体育祭で誰もが頭には入っている考えだろうが、緑谷の怪我は既に一回の回復で治る領域を超えている。
――にも関わらず、緑谷は力を抑える気配はなかった。
寧ろ逆だ。更に緑谷は轟へと叫ぶ。
『君の力じゃないか!!!』
――瞬間、モニター一面を覆うは“炎”だ。
轟が散々に憎んだ力。――母を追い詰めてしまった左の力。
それを轟が使った。緑谷の叫びに応えるかのように。
そして、その光景に竜牙は緑谷の意図を理解してしまう。
「轟を救うつもりなのか。そんな身体になってまでお前――」
結果的なのか、それとも考えてなのかは竜牙には分からない。
だが、一つ言える事はある。
モニターから強烈な爆音。そして勝敗の結果。
『緑谷くん場外!――よって勝者は轟くん!』
「――ヒーローか。本当に……」
緑谷は己の事を省みず、轟の中からエンデヴァーを消した。
勝ち負けではない今の戦い。竜牙は悟った様に、静かに頷きながら控室を後にする。
今度は己の番だからだ。
▼▼▼
「修理できたよ……」
『ありがとなセメントス!!――じゃあ話を戻して早速二回戦を始めっぞ!!!』
修理されたスタジアム。そこに立つは竜牙と切島。
「……雷狼寺。お前とは一度で良いから戦ってみたかったぜ!」
「……俺もだ切島。お前はお前で油断できない奴だと思っていた」
肌を硬化する個性。シンプル故に手強い力であり、切島の性格も合わさって尚の事手強い相手。
そんな相手ゆえに、竜牙は無意識の内に力が入ってしまう。
やがて、瞳だけを雷狼竜へと変化させ、竜の眼光が切島へと向けられた。
「……へへ」
そんな竜牙の眼光に対し、切島は汗を流しながら笑みを浮かべ続ける。
――やっぱ怖ぇな。
切島は内心で恐怖していた。思い出すは騎馬戦。
圧倒的な存在感を示し、包囲網を蹂躙した竜牙の姿。切島はそれが未だに脳裏に焼き付いていた。
元々、竜牙の実力の高さは分かっていた事だが、それが本当に理解させられたのはUSJ。
『どけろ馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉッ!!!』
今でも覚えている竜牙の自分と爆豪に向けた叫び。
あの時は最初に竜牙が仕掛け、その攻撃で敵が動きを止めた事をチャンスと思ってしまった。
だが実際は13号の意図に気付いた竜牙の行動を無駄にし、13号の邪魔をしただけ。
――結果、皆を危険に晒してしまった。
全てが終わった後、切島は爆豪の制止も聞かずに竜牙の下へと訪れ、そして頭を下げた。
『すまねぇ!! あの時……俺等が余計な事をしちまったから……!』
『……いや、俺も勝手に動き過ぎた。――怒鳴って済まなかった』
逆に謝られた事で切島は困惑してしまう。
当時はまだ竜牙の事を理解出来ていない事もあり、完全に見限られたとも感じてしまった。
だが竜牙と仲の良い耳郎と障子から話を聞き、あの様子は怒っていないのだと分かった。
一見、無表情で何を考えているのか分からないが、思った事は陰口ではなくハッキリ言うのだとも聞いた。
しかし、それでも切島は竜牙を理解出来なかった。
実力は高い、しかしやはり何を考えているのか分からず、どちらかと言えばクールな人間なんだろうと自己判断。
そんな事を思っている内に峰田に誘われるまま、切島はせめて強さの秘訣が聞けたらと思って盗聴に参加してしまった。
だが、聞けたのは――
『俺は両親に捨てられたんだ』
聞きたい事じゃなかった。同時に己への怒りが沸いた。
――こんな事をしている時間があんなら、もっと努力するべき事があんだろうが!!
そう切島は己へ心の中で叫び、そして受信機を破壊した。
結果的には盗聴は許されたが、それゆえに切島は竜牙を理解する事が出来た。
――俺が怖いか?
そういう事か。切島は竜牙をようやく理解する。
ずっとただ周りに気を使っていただけで、竜牙はずっと不安だった事に。
(……ようやく友達になれた気がしたぜ)
――あの“笑顔”を見れば誰だってそう思うだろう。
切島はそう思い出しながら、静かに深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
そして――
「全力で行くぜ……雷狼寺!!」
「――来い!!」
『試合開始!!!」
ミッドナイトが告げる開始の合図。
それと同時に切島は全身を硬化。どんな攻撃だろうと防ぐという決意の現し。
竜牙も両手足を雷狼竜化させ、まるで受けて立つと言わんばかりに両腕を胸へと構えた。
「打って来いってか! 俺の硬化とお前の鱗……どっちが硬てぇか勝負だ!」
切島は受けてたった。右腕を最大まで硬化させる全力攻撃で。
ハッキリ言って切島は、この試合が長期化しない事を察していた。
それだけ竜牙との実力差を理解しているからだ。
だがそれは諦める理由にはならず、逆に思い出させるのは先程の言葉。
『……俺もだ切島。お前はお前で油断できない奴だと思っていた』
切島も最初の控室で見ていた。竜牙と緑谷と轟の宣戦布告を。
だから竜牙が頭の中に置いているのは、その二人。自分達は手強い程度で、ライバルとは思われていないだろう。
だからこそ、今ここで示すのだ。自分もまたライバルだと。
切島 鋭児郎――という一人の男がここにいるという事を。
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
切島の一撃。それは竜牙の両腕に直撃した。
それは何の邪魔もなかった故に、切島本人も満足のいく渾身の一撃だった。
――だが。
「……強いな切島。だが俺は一番強い」
「マ、マジかよ……!」
切島の渾身の一撃。それは竜牙の甲殻によって防がれた。
見る限り、甲殻には傷一つない。
その結果に思い知らされるは圧倒的な力の差。そして竜牙の反撃。
「決めるぞ――」
次は俺の番だと、竜牙が巨大な爪の手に雷を纏わせ、そのまま切島へ攻撃を放とうとした時だ。
――衝撃が竜牙の頭部を襲う。
「なんだ……と……!」
不意の衝撃により竜牙は困惑。何が起こったのか理解が遅れるが、冷静になれば攻撃できたのは一人しかいない。
竜牙は歯を食いしばり、眼力も高めて眼の前の強者を睨む。
「切島……!」
「へへっ……!」
竜牙の声に切島は白い歯を見せ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
たった今、竜牙を襲った衝撃の正体。それは切島の左ストレートの拳だった。
甲殻に防がれた攻撃だが、それで諦めて心が折れる程、切島の心は弱くはない。
折れぬ限り、最後まで諦めずに切島は前に出る。
――だが。
「ガハッ!!?」
今度は切島が強烈な衝撃に襲われた。
意識が飛ぶ。食いしばっていた歯も、いとも簡単に離してしまう。
そんな強烈なダメージを与えた正体。それは竜牙の右ストレート。
しかし、ただの拳ではない。雷を纏い、常人の数倍の大きさとなった雷狼竜の拳。
それが顔の側面から放たれ、今も拳は顔に付けられている。
だが切島の心は折れず、寧ろ更に笑みは深くなっていた。
(一撃でこれかよ……!)
僅かでも優勢になったと思いきや、そんな差は容易にひっくり返された。
自分よりも重い、たった一撃で。
だが、そんな事は切島は分かっていた。竜牙の強さにも納得すらしていた程に。
(雷狼寺……実は俺、雄英受験前まで、まともに個性の特訓もしてなかったんだ)
切島は受験前までの、己の生き方を思い出していた。
雄英に入ってからの自分を知る者は信じられないだろう。中学までの自分は、ここまで硬化も出来なければ、ただ夢を見ていただけの少年だった事に。
無論、変わりたいと思って努力はした。その結果が雄英入学。
そんな自分とは違って竜牙は、もっと努力していたのだろうと切島は分かっていた。
――両親に捨てられた。
それは、自分達にとっての当たり前がない事を意味していたからだ。
帰宅すれば母親が夕飯を作ってくれている。
帰ってきた父親と他愛もない話すらできない。
当たり前が、当たり前じゃない。それは他者が思うよりも孤独で、過酷で、寂しいものだろう。
(そんな状況だ……強くなるしかねえよな)
ただ辛く寂しい環境。最も理解してくれる筈の“両親”がいない。
それでもヒーローに憧れたのなら、強くなるしかない。
きっと自分が思っているよりも壮絶な訓練を、長くずっと行ってきたんだろう。
竜牙の強さに、そう切島は思っていた。
「……そりゃつえよ」
ならば、今の状況は当然の事だ。
進路先を決める時期で選び、そして努力した自分とは違う存在。
ずっと努力し、己を高め続けていた竜牙に勝とうなんて、きっとおこがましいレベルなのだろう。
だが――
『受難に感謝……』
竜牙の言葉が、切島の脳裏に過る。
ヒーローならば乗り越えるのだ。乗り越えなければならないのだ。
切島は歯を食い縛ると、顔にめり込む竜牙の拳に意識を向け直す。
「プルス……ウルトォラァァァァッ!!!」
「グゥッ!!?」
叫びながら竜牙の拳を押し返した切島。
その勢いに竜牙は体勢を崩し、その僅かな隙を目掛けて切島は再び拳をぶつけると、態勢もあってか竜牙の身体がその場から後方に飛ばされる。
そんな試合状況を誰が見ても、竜牙が押されていると見えるだろう。
切島の実力は皆も分かっているが、竜牙に勝てる程とは誰も思っていなかった。
だからこそ、そんな切島の奮戦に観客達も驚きを隠せない。
「雷狼寺 竜牙が押されている!?」
「切島……シンプルな個性でガッツもある子だったが、まさかここまで戦える子だったか!?」
「行けぇ! 切島ぁぁぁ!!」
ざわつく観客に紛れ、彼と同じ中学だった芦戸が声援を送る。
芦戸だけじゃない。他の観客も声援を送り、鉄哲も気合の入った声援を送っていた。
「お前と今、この場で戦えた事がぁ!! 俺にとっての感謝すべき受難だぁ!! 雷狼寺ぃぃぃ!!」
切島は吠え、竜牙に接近して両腕で拳を放ち続けた。
努力でも、時間でも負けていても、“心”では負けてはいない。
乗り越える時、だからこそのプルス・ウルトラ。
「俺にとっちゃこの試合が決勝だぜ!!」
歩み続けろ。乗り越えろ。切島の心が叫び続け、身体を滾らせる。
そして最大の硬化を額に集中させ、渾身の頭突きを放った。
――瞬間。
「GAaaaaaaaaaaa!!!」
竜牙も渾身の頭突きを放った。
その一撃はやはり重く、切島は容易に吹き飛んでしまう。
だが切島は満足して、笑みすら浮かべた。
なんせ余裕を持っていた竜牙を咆えさえ、瞳も雷狼竜にさせる程まで追い詰めたのだ。
今の自分ではここまでだ。けど切島は、満足そうに笑みを浮かべながらも身体に力を入れて迎え撃とうする。
それと同時、竜牙が両足に力入れ、身体全体にスパークを発生させながら飛び出した。
――そのまま切島の頭を掴み、一気に場外へと押し駆ける。
「ぐぅぅぅぅぅおおぉぉぉぉぉ!!!」
諦めるつもりはない。悪足搔きだろうが諦めない切島は、身体全体を固くしながら踏ん張る。
しかし、力は圧倒的に竜牙の方が上だ。
まるで線路の様な傷をスタジアムに作りながら竜牙は押し続け、とうとうその限界ラインへと押し出した。
『切島くん場外! よって……ってあら?――待った! まだ試合は終わっていないわ!』
「――!」
ミッドナイトの言葉に竜牙は驚きながら切島の足下を見る。
すると、まさにギリギリのライン。土俵際と呼べる場所で切島は踏ん張っており、切島は場外へと出ていなかった。
『試合続行よ!――ってあら?』
再び何かに気付いた様で、自分達の下に来るミッドナイトに竜牙は不思議に思ったが、竜牙も理解した。
そう切島は既に――。
『切島くん気絶! 戦闘不能により勝者は雷狼寺くんよ!!』
竜牙の力・雷によって既に気を失っていた。
『すげぇな……最後の最後で踏ん張ったのかよ!! 本当にどんな教え方してんだイレイザー!?』
『俺は関係ない。――アイツ等が勝手に焚き付けあってんだ』
A組の活躍の大きさに驚くプレゼント・マイクは、担任の相澤へと問いかけるも、相澤は特に自慢するような事は言わない。
純粋に生徒達自身の成長だと思っているからだ。
そんな中、ロボに運ばれてゆく切島の姿を見送りながら竜牙は静かに息を吐く。
(戦いには勝ち……勝負には負けたって事か)
――切島。次は勝たせてもらうぞ。
切島の最後の意地に敗れたと言える竜牙は、彼を見送りながら静かに再戦に燃えていた。
だが竜牙の想いとは裏腹に、客席のヒーロー達は既に準決勝の話で持ち切りだった。
「やっぱりこうなったか準決勝の組み合わせは……!」
「半冷半燃の轟……雷狼竜の雷狼寺……!――事実上、次の準決勝が決勝だぞ!」
「録画の準備だ! 勝っても負けても、今度のサイドキック争いは加熱するぞ!」
竜牙に轟。どちらも群を抜いて来た生徒。
そんな彼等の戦いを事実上の決勝と謳い、試合が終わったばかりで、まだかまだかと既に我慢が出来ない様子。
そんな光景をA組の者達は見て聞いていた。
「切島の奴……やっぱり負けちまったな」
「ケロ! でも仕方ないわ上鳴ちゃん。雷狼寺ちゃんも本気で試合をしているんだもの」
「まぁそうだよね。でもそうなると……次はとうとう雷狼寺くんと轟くんが戦うんだよね? 実戦演習の時は私達が勝ったから、やっぱり有利なのは雷狼寺くんの方なのかな?」
「いや! それは分からないぞ葉隠君! 轟君は緑谷君との戦いで遂に炎を使った。次の試合でも使うならば、雷狼寺君も油断は出来ない筈だ」
「ですが雷狼寺さんは先程の様に武器も作り出しますわ。 そうなると、接近戦に持ち込まれたら轟さんも不利なのでは?」
「実際そうだと思うぜ……オイラ的に考えてもやっぱ雷狼寺だぜ。 お前等も覚えてんだろ……あの雷狼竜の姿をよ?」
「……うん。実際に背に乗ってたけど、凄い存在感やったもん……そう思うと、雷狼寺くんが負ける姿が想像つかない」
A組それぞれの考えを持って話し合う。
今までの戦い、そして緑谷戦で見せた驚異的な氷と炎の力の轟か。
圧倒的な力と威圧を放つ、雷狼竜の力を持つ竜牙か。
皆、それぞれが二人の強さを知っており、あれやこれやと想像を膨らませながら話し合って行く。
――しかし、そんな中でも耳郎と障子の二人だけは竜牙の勝利を願っていた。
「どうなるかなんて分かんないけどさ……雷狼寺には勝ってほしいかな」
「惚れた弱みってやつだね!」
「うん――って違うから!!」
さり気なく葉隠の奇襲攻撃に耳郎は猛抗議。
他の女子もそういう話が好きゆえに、顔を赤くしながら耳郎を取り囲んだ。
『憧れから始まった恋なんですのね……!』
『あわわ……! 耳郎ちゃん大人や!』
ここに芦戸がいないのが唯一の救いだったが、それでも周りの反応はハッキリ言って面倒だと思いながら周りと言い争う耳郎だった。
(うちだって、この気持ちがどういう意味なのか分かんないだって……!――って言うか、どこで惚れる所があった!?)
胸の中に存在する複雑な想い。それを感じ、その答えを探せるのは耳郎だけ。
誰にも悟らせない想いを抱きながら、耳郎の葉隠達との言い合いは続く。
「障子君! 君はどう思っているんだい? 雷狼寺君か轟君か!」
耳郎達との裏では、飯田が竜牙と付き合いの長い障子へと問いかけていた。
すると、退場する竜牙の姿を見ながら障子は静かに呟く。
「雷狼寺だ。俺も耳郎も、雷狼寺の背に憧れたヒーロー達を重ねた。――だからか、雷狼寺が負ける姿は想像が出来ない」
0Pを破壊した時の話は飯田も耳郎達から聞いていた。
周りが逃げる中、唯一立ち向かった竜牙の姿に憧れたという話。同年代であり、ライバルであろう筈の学生に憧れを持ったという事実。
そんな障子の呟くような声を聞きながら、飯田達は少し竜牙の事が羨ましく感じるのだった。
▼▼▼
『勝者!――常闇くん!!』
「……芦戸を下したか、常闇」
周りがそんなに騒いでいるとは知らず、竜牙は控室が空くまで通路に備えてあるモニターで試合を鑑賞していた。
芦戸の酸を黒影で防ぎ、そのまま戦闘不能に持って行った常闇が勝者としてモニターに映っている。
光さえなければ中・長距離では無敵に近い常闇の個性。
流れさえも彼の味方をするならば、決勝に立つ可能性は高い。
――だが竜牙は決勝のビジョンはあれど、準決勝の相手を無視している暇などはなかった。
(殻を破ったか……轟?)
本音を言えば、氷だけしか使わない轟に負ける気は全くなかった。
しかし殻を破り、炎すらも迷いなく使う本気の轟ならば話は変わる。
「騎馬戦での上鳴のお陰で“充電”には余裕はある。だが、もし轟が本気になっているなら俺も余力を考える暇はなさそうだ」
腕を雷狼竜にし、小さな放電をしながら竜牙は心の中で決意を固めていた時だった。
モニターに爆豪と飯田の二人が現れる。
『試合開始!』
その合図と共に二人の戦いは始まり、同時に控室が空いた事を示していた。
「……行くか」
集中力を高めようと、控室へ竜牙が歩き出した時だった。
「おぉ、ここにいたのか?」
竜牙は背後から誰かに声を向けられた。
明らかに男の声であり、同時に自分よりも上の方から声が聞こえた以上、大柄な男性。
(――聞き覚えがある)
しかも竜牙からしても初めて聞く声ではない。
まさかと思い、竜牙は振り向くと、そこにいたのは――
「“エンデヴァー”……?」
No.2ヒーロー『エンデヴァー』だった。
「初めましてだな、雷狼寺 竜牙君。君の活躍は見せてもらった。――増強系・肉体強化の発動系・異形系以上の力。並みの獣を遥かに超える能力。挙句には“雷”まで扱えるとは素晴らしい個性だ!」
「……ありがとうございます」
まるでご機嫌取りの様な話し方をするエンデヴァーに、竜牙はいつもの無表情で返答する。
しかし、それでも内心では警戒をしていた。
それは轟の話を聞いたのもあるが、竜牙の理想のヒーロー像。エンデヴァーはそれから最も離れているのが一番の理由だった。
「『雷狼竜』――実に興味深い個性だ。既に君の実力は並みのヒーローを超えている。特に騎馬戦で見せた完全なる雷狼竜の姿は特に素晴らしかった。間違いなく“最強の個性”の一つと言えるだろう」
「……すみませんが、話が見えません」
竜牙の警戒心は更に上がる。身も蓋もないが、エンデヴァーは世間話をする様な人物ではない。
ファンへの対応もあまりにも酷く、子供にも容赦しない姿勢もあってアンチの数だけならば間違いなくNo.1だろう。
そんな相手が個性と結果を見せているとはいえ、赤の他人を探した様な口ぶりまでし、呼び止めて話し掛けるのは違和感しかない。
――故に竜牙はエンデヴァーの意図が分からず、気味が悪かった。
そんなエンデヴァーも竜牙の様子に気付いた様子で答える。
「む? あぁ、そうか試合前に済まなかったね。……ただ、私の用事も次に君が戦う轟 焦凍の事だ。無関係ではあるまい」
エンデヴァーのその言葉に、竜牙は何を言われるのかと気になり、彼に正面から向き合った。
「……轟?」
「あぁそうだ。焦凍にはオールマイトを超えると言う義務がある。――今までは反抗期から私の左側を使わなかったが、先程の緑谷と言う少年のお陰でようやく本気を出した様だ」
まるで自分自身の活躍の様に語るエンデヴァー。
その姿に竜牙は、轟から聞いた通りの人物である事を理解する。
対象の全てを知っている訳ではなく、うわべだけで判断しているとも竜牙は思ったが、だからといってエンデヴァーの行った事は許される事ではない。
「そんな焦凍の相手であり、周りの者達を圧倒してきた君に、手を抜いたまま焦凍の相手をしないでほしいのだよ」
「……結局、話は見えません」
勝手に話を押し付けるエンデヴァーに、竜牙は素っ気なく返答した。
しかし、エンデヴァーはそんな竜牙に見抜いていると言わんばかりに、小さな笑みを浮かべる。
「……フフ、私が気付いていないとでも思っているのかね? 君は力を
――全力の君と戦い、勝ってこそ意味があるのだよ?
「全力で轟と戦って欲しい。それを言う為に……?」
竜牙はエンデヴァーの言いたい意味を察した。
確かに竜牙は力を抑えているが、それでも相手を侮辱しない様に全力で戦っている。
それに、力を抑えているとは言うが、それは“殺意”を抑えての事だ。
雷狼竜は凶暴な野生を秘めた個性。――もし
だからこそ、竜牙はそれを否定しなければならない。
「あなたが何を言いたいのか分かりません。――ただ言える事は、今の轟は俺にとっても油断できる相手ではないという事」
「そうか。それを聞けて安心したよ」
エンデヴァーは満足そうに頷きながら呟く。
そんな彼を残し、竜牙がその場を離れようとした時だった。
「ああ、最後にもう一つ良いかな?――雷狼寺……その名には聞き覚えがある。もしやヒーローグッズからサポート系も行っている<雷狼寺グループ>ではないのかね?」
「……はい。俺の実家です」
――事実とはしてはだが。
竜牙はエンデヴァーの話に己の実家が出て来るのは内心では驚き、そして冷めた様に呟いていた。
ヒーロー界では有名でな会社だ。エンデヴァークラスからその手の話をされるのも、ある意味では納得できる。
「そうか!――ならば聞きたい事があるのだが、君には“許嫁”の類はいるのかな?」
「……そんな話は聞いていません」
ある筈もない。援助はあるが、事実上は他人の様な扱いだ。
会社の道具としても使うつもりはないだろう。
だが、しいて言えば竜牙が気になったのはエンデヴァーが何故にそんな話をしてきたかという事だ。
しかし、竜牙がそんな事に足を止められている時、爆豪と飯田の試合が決着してしまう。
『飯田くん戦闘不能!――よって爆豪くんが準決勝の進出よ!』
これでベスト4――轟・雷狼寺・常闇・爆豪が揃った。
そして、その先陣を斬るのは竜牙と轟だ。
「――失礼します」
「ああ、時間を取らせて済まなかった」
竜牙とエンデヴァーはそれだけで別れを済ませると、竜牙は急いで控室へと向かった。
背後でエンデヴァーが笑みを浮かべている事に気付く事もなく。
▼▼▼
控室で待つ事、10分。
時間となり、呼ばれた竜牙と轟はスタジアムで対峙している。
『さぁ始まるぞ!!――って言うかもうこれが事実上の決勝だろ!!?』
プレゼント・マイクの言葉に会場中のボルテージは一気に高まる。
それは皆が同じ意見と思える行動。
「……チッ!」
そんな中で控室にいる爆豪は舌打ちがでる。
まるで自分の事は蚊帳の外。竜牙と轟だけの為の様な場の雰囲気が気にいらないから。
「始まるね、とうとう二人の戦いが……!」
「うん。どっちが勝つんだろう……!」
「これは目が離せないぞ!」
「――勝ちなよ雷狼寺」
「……勝てよ」
客席では緑谷・麗日・飯田・耳郎・障子。――その他の者達も全員が息を呑んで試合が始まるのを待っている。
B組もそうだ。サポート科・経営科・普通科。そして名のあるプロヒーロー達も会場で、テレビで両者の激突をまだかまだかと待っていた。
けれど、当の二人は互いに対峙したままだった。
「……ついさっき、エンデヴァーが俺の下に来た」
「!……何か言われたのか?」
「俺の実家の事や許嫁の有無。そして俺に、本気で戦って欲しいと言って来た」
「……そうか。嫌な予感はするが、悪かったな試合前に」
轟はそう言って頭を軽く下げる。
「……別に良い。俺達の試合にエンデヴァーは関係ない」
「いや、それだけじゃねぇ。――体育祭前の控室で言った事だ」
『なめてるのか? 入試・個別テストも1位だったからこれも勝てるって……』
それは轟が緑谷と竜牙に言った宣戦布告。その竜牙の返答によって出た言葉だ。
「結局、舐めてたのは俺の方だった。周りが本気な中で、俺は中途半端にしか力を使わなかった。緑谷に気付かされ、そして忘れられた……緑谷との戦いの中で“あいつ”の事を忘れる事が出来たんだ」
「……そうか。それで今はどうなんだ? 使えるのか“左”は?」
「分かんねぇ……多分、使える気がする」
――多分?
轟にしては珍しくあやふやな表現に、竜牙も興味が湧いた。
「不思議な感じなんだ。今からお前と戦うと思うと……お前を前にしていると何故かあいつが、エンデヴァーの事が気にならねんだ」
「そうか。――なぁ轟。俺はエンデヴァーから言われたからとかじゃないが、ハッキリ言って氷しか使わないお前に負ける気はしなかった。ここに来たにも関わらず、ヒーローになる為とも言えず、この体育祭をエンデヴァーへの八つ当たりに利用しているお前になんかな」
――だが今は違う。
「今のお前には気を抜けば負けそうだ……!」
「……そうか」
――ありがとな。
竜牙は轟の小さな声を聞いた。
そして轟は構えながら、言えなかったあの“言葉”を口にする。
「雷狼寺。言えなかった言葉を言わせてくれ。――俺もヒーローになりたい。なりたいからここにいる!」
「ああ、それが聞きたかった。だからこそ
「俺もだ……俺もお前に勝ちたい!」
身体が火照る。血が滾っている様に、心が今にも踊りそうな程に。
竜牙も轟も、互いに我慢は出来そうにない。
戦いたい相手が、勝ちたい相手が、共に競い合いたい相手が――
――目の前にいる。
「GRRRRRRR……!」
竜牙の瞳は既に雷狼竜となり、眼光を轟に向けると同時に身体からスパークを発生させる。
同時に力むうちに両手足も徐々に変化させた。
「……!」
轟もそれに応えるかの様に力を解放した。
右側に地面は徐々に凍り付き、左側には陽炎が揺れ動く。
――両者、共に戦闘態勢を整えたのだ。
試合開始の合図を前にして、既にやる気十分な二人に会場の歓声は更に上がる。
ただ騒ぐ者。サイドキック候補・純粋な力を見定める者。
それぞれの想いを胸に、全国の実力派プロヒーロー達も会場と画面の前で二人を見守っている。
『ヤベェ……試合開始前だっつうのにスゲェなお前んとこの二人……!』
ここ数年でこんな生徒達を拝めた事はない。
プレゼント・マイクは驚きを隠せずに隣の相澤へ声をかけるが、相澤はそれに答えず、無言で竜牙と轟を見守っていた。
――そして会場のボルテージがMAXになった時、遂にその時は訪れる。
ミッドナイトが腕を上げ、それに合わせて二人も構えを深くする。
周りには己の雷狼竜の個性を、見世物の様に物珍しそうに見ている者達がいるが関係ない。
この会場の何処かにエンデヴァーがいるが、そんな事は関係ない。
――自分が見ているのは目の前の存在。
『試合開始よ!!』
――ライバルだけだからだ。
「GAAAAAAAA!!!」
「うおぉぉッ!!!」
――両者激突。
END