僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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PCが壊れました。古いのを引っ張り出してます。
泣きました。(´;ω;`) 皆さまも、万が一の時はお覚悟を。


第十三話:大激突! VS轟

 

 

 竜牙は轟目掛けて駆け出す。一気に接近戦へ持って行き、自分に流れを持っていくつもりだった。

 雷狼竜の自慢の脚ならば速度は保証済みで、接近戦ならば轟の方が不利だ。

 

「――来い」

 

 勿論、轟も想定内。一定範囲に入れば即座に氷結させ動きを止める気だった。

 しかし、その警戒こそ竜牙の策だ。

 

――今!

 

 竜牙は一定の距離――轟の攻撃範囲寸前で跳び上がり、己の溜め込んだ電撃を弾として2発射出。

 身構えていた轟の意表を突く。 

 

「そう来るかよ……!」

 

 しかし轟も即座に反応。盾の如く、目の前に分厚い氷の壁を精製。

 電撃弾は氷壁の表面に激突。二つの大きな傷痕を残すが、見た目こそ巨大な氷のブロック。

 威力は轟まで届かない。――が、好機は存在する。

 

――パキッと、鋭利な割れる音と共に氷の壁に亀裂が走った瞬間、轟は反射で右へ跳んだ。

 

 同時に、分厚い氷の壁が砕けた。

――否、破壊された。竜牙の手に持つ、雷狼竜の面影を残すハンマーによって。

 

「視覚を無くしたのは失策だった……!」

 

 氷の壁は確かに攻撃を防いだが、厚く作った分視界を遮ってしまう。

 竜牙はこれを好機と判断。右腕から生やすように巨大なハンマーを作製。一気に氷の壁へと叩き込み、粉砕する。

 

「逃がさん」

 

「――チッ!」

 

 巨大な鈍器を所持しようとも重量という枷をものともせず、竜牙は轟目掛けて振り下ろす。

 

「王鎚――カミナリ!」

 

 思いついた名を、まるで技名の如く叫びながら放つ一撃。

 轟は回避するが、床を破壊すると同時に発生する電撃の余波にバランスを崩す。

 破壊力の轟音・放電――それが合わさり、まさに“カミナリ”の様な威力。

 

「くそッ……!」

 

 轟は肝を冷やした。あんな威力で直撃すれば、確実にその場でノックアウト。

 接近させまいと、四方向から竜牙へと氷結を放った。

 

「……フンッ!」

 

 竜牙は囲まれ様としても冷静に反撃。

 ハンマーを力任せに、しかし正確に振り回して迫る氷結を薙ぎ払う。

 迎撃成功と共にハンマーを身体に戻し、右腕を鋭利な爪へと変化。

 そのまま近くの氷塊に突き差し、掬い上げる様に轟へ投げ飛ばす。

 

『考えたな……氷を排除出来ない者からすれば、残った氷塊はただ邪魔でしかない。――だが雷狼寺の力であれば、逆に投石代わりとして利用できる』

 

『こんな試合でちゃんと実況するお前も凄ぇな!!』

 

 会場は派手な攻防に大騒ぎ。冷静に語る相澤にプレゼント・マイクも大騒ぎ。

 主審のミッドナイトやセメントスも、万が一の為に構えている程に。

 

「……出すっきゃねぇな」

 

 己が出した氷塊が自身に迫る。それでダメージを受けるなら笑い話にもならない。

 だから轟は“左”を――解禁する。

 

「加減は無しだ」

 

――俺はお前に勝ちたい。

 

 放たれる炎が迫る氷解を溶かし、そのまま竜牙へも迫った。

 

「ッ!」

 

 竜牙は左手を変化させた。大きく、面積の広いそれは鱗と甲殻で出来た盾へ。

 それを前方に掲げて轟の炎を反らすが、長時間防ぎ続ければ熱で竜牙がやられてしまう。

 だからこそ、竜牙も更なる手を打つ。

 

「……当てる」

 

 今度は竜牙の右手が変化する。それは筒状の形であり、まるで大砲に見える。

 砲身には雷がチャージされており、竜牙は炎の壁の向こうにいる轟を狙い、撃ち放った。

 

 電撃弾よりも蓄電に時間を取られるが、故に威力は大きい。

 炎の壁を貫通し、轟の不意を再度突いた。

 

「――ガッ!?」

 

 見てからの回避には限界がある。

 咄嗟に炎を引っ込めて横に跳んだ轟だったが、その時に足に電撃弾がかすった。

 実弾でも問題あるが、これは実体のない電撃。触れただけで轟の全身に衝撃が走る。

 騎馬戦で上鳴にさせた作戦が今、彼自身に返ってきた。

 

(……好機)

 

 竜牙は動きが鈍った轟の姿を捉え、一気に駆け出した。

 自身の発電量の少なさ、蓄電量を考えればいざと言うときにしか放電が出来ない。

 あくまで接近戦での決着が理想。

 雷狼竜の力がそれを可能にしているのもあるが、並大抵の者ならば、その迫る気迫に臆してしまい、更に竜牙の勝利を確実にする。

 

 元々、竜牙・轟――両者の攻撃力は高い。

 高威力攻撃の応酬となればダメージも多く、戦いは短期戦になると誰もが思っていた。

 特に実戦演習・騎馬戦。それで放電を受けた者、見た者、ウェイな者達がだ。

 

「雷狼寺くんが押してる!」

 

「轟くんは今まで左を使ってない。だから雷狼寺くんの方が手札が多いんだ……!」

 

「威力は轟君だって負けてない!――が、雷狼寺君の個性は幅が広すぎる! 確かな練度があるぞ……!」

 

 麗日・緑谷・飯田達は手汗を握る。

 

「行け……勝ってよ雷狼寺!」

 

「そのまま勝て!!」

 

 耳郎と障子は勝利を祈る。

 

「雷狼寺さんは私の様にあらゆる物の創造は出来ませんわ。あくまで形だけに近い。――ですが」

 

「それだけじゃねぇ……! 素の身体能力に雷狼竜化しての強化。鬼に金棒ってやつだ」

 

「やべぇよ……やべぇ! なんで雷狼寺は轟に……じゃなく轟が雷狼寺相手……つうか両方やべぇって!! あんな戦い俺だったら生き残れる気がしねぇよ!!」

 

「ケロッ! 明らかに危険な戦いね。途中で先生達が止めそう」

 

 八百万・切島・峰田・蛙吹は戦いの壮絶さに身体を固くする。

 

 しかし、壮絶な戦いでも押しているのは竜牙の方。

 人前で見せないだけで、お手伝いさん所有の山では雷狼竜化している事もあり、ここに来て練度の差が浮き彫りとなる。

 

(――行ける)

 

 竜牙は右手の甲に雷狼竜の爪を生やし、ゴツイ手甲の様に装備。

 未だに動きが鈍い轟を押し出して終わらせる気である竜牙と、轟の距離が縮まった時だ。

 

「負けねぇ……!」

 

 轟がこのタイミングで反撃にでる。

 左から再び炎を放射。範囲は竜牙の腰から下、左右にはできるだけ広く放った。

 

「俺にとっても予想通りの展開だ……!」

 

 轟は察していた。竜牙は勝機が見えた時は距離があっても接近戦を行う事を。

 勿論、竜牙の能力ならばそれでも支障はない。だが、轟は今までの戦いで竜牙の弱点も考えていた。

 

(雷狼寺……お前、もしかして――)

 

――発電量が少ないんじゃないのか?

 

 轟はずっと気になっていた。

 実戦演習・USJ・障害物競争・騎馬戦・トーナメント。

 このどれもに、本当ならば周囲を制圧する能力を持つ筈の竜牙が派手に放電をしたのは僅か一回。

 

 上鳴の無差別放電の時だ。

 今まで小出しにするような、節制しているような使い方だったが、その時はまるで"充電"したかの様に派手に放電した。

 

――結果、轟は行き着いた。竜牙は節電していることを。

 

 だからこそ轟は確信した。竜牙ならば絶対に接近戦を仕掛けて来る事に。

 

「……甘いな轟」

 

「――お前もな雷狼寺」

 

 竜牙が絶対に回避する為に、大きくジャンプする事も確信していた。

 これが轟の狙っていた光景だった。

 隙を突いて迫り、竜牙が大きく跳ぶのを轟は待っていた。

 

――瞬間、スタジアムに巨大な"氷山"が現れる。

 

 跳んだ竜牙すらも呑み込む、会心の一撃。

 瀬呂の時よりも派手な一撃。竜牙が呑み込まれた事で周囲はザワつき始める。

 

『やべぇ!! 雷狼寺が呑まれたぁぁ!!?』

 

「おい! 大丈夫なのか!」

 

「いくらなんでも凍死しちまうぞ!!」

 

 プレゼント・マイクの声を皮切りに、一部のヒーロー達から不安の声が出る。

 中にはすぐに中止して助けるべきだとの声もあった。

 

――が、それはあくまで"一部"の声に過ぎない。

 

 客席で、テレビで、それぞれ見ている一流ヒーロー達の思いは一つだ。

 

『始まる』

 

 その思いはA組・B組も同じ。

 

「始まる……!」

 

「こっからだからね……雷狼寺」

 

「……来るぞ」

 

 緑谷・耳郎・障子。そして他のクラスメイト達も何かを察した様に息を呑む。

 

「始まるのですね……これもお導き」

 

「終わる訳がねぇぜ……!」

 

 塩崎・鉄哲も理解していた。これが終わりではない事を。

 また、それを一番理解しているのは誰でもない。轟自身でもあった。

 

 轟は無表情ながらも顔には警戒があり、己が放った氷山を見上げていた。

――時だった。

 

――ピシリッと、氷山に突如として亀裂が入る。

 

 最初は小さな亀裂。しかし徐々に拡大し、氷山が地震の様に揺れ始める。

 騒ぐ観客は異変に気付き、察していた者達も確信へと変わった。

 ここからが本番だと。エンデヴァーもそれを理解しており、口元を歪ませる。

 

 その時、氷山の亀裂が収まった。

――瞬間、氷山の上部が一気に弾け飛ぶ。

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

 竜牙の真骨頂。現れたのは雷狼竜化した竜牙だ。

 その咆哮・衝撃・放電によって残骸が周囲に飛来。

 ダイヤモンドダストを生み出しながら、鋭い眼光で轟を見下ろす存在感に、轟は空気が重苦しくなるのを感じながら汗を拭った。

 

「……やっぱりすげぇな」

 

 存在感だけで足がすくむ。

 

――怖い。

 

 目の前の雷狼竜は、騎馬戦の時とは別物だ。

 騎馬戦ではその威圧を周囲に発散していたが、今は個に向けられている。

 そう、轟一人だけで雷狼竜の全てを受け止めなければならない。

 

『GRRRRRR……!』

 

 轟も理解している。身構えて、左右どちらも動ける様にする。

 しかし、そうしている間に雷狼竜は尋常じゃないパワーで力んでいた。

 土台となる氷山の下部には亀裂が入り、今度は素早く崩壊。

 力の差を見せ付ける様な雷狼竜の姿に、轟の取った行動――まずは距離取りだ。

 氷を上手く使い、一気に雷狼竜から距離を取る。

 

『なんだ轟の奴、いきなり逃げか!!』

 

『距離を取ったんだろ。接近戦では分が悪い、妥当な判断だ。━━だが、それだけじゃ足りん』

 

 相澤は理解していた。竜牙は雷狼竜化した方が速いことを。

 巨体であるにも関わらず、人間体以上の驚異的な俊敏性。

 騎馬戦とは違い、轟はそれを一人で捌かなければならず、対応を誤れば騎馬戦の時の様に動けなくなるかも知れない。

 

――だからこそ先手を受けてはならない。

 

 轟は氷で滑りながら移動し、機動力で対応しようと考えていた。

 距離を取っての渾身の一撃でのヒット&アウェイ。それが轟の作戦だ。

――しかし。

 

(……分かるぞ轟)

 

 竜牙も分かっている。素早く動き、己の視界から逃げている轟の動きが。

 音・匂い・肌触り。五感の全てが優れている雷狼竜状態が教えてくれる。

――故に先読みも容易。全ての脚に力を入れ、一気に飛び出した。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するのは轟だ。

 距離を取り、速さも緩めていないのに一瞬で距離を縮められ、目の前には前脚を振上げている雷狼竜がいるのだ。

 次に自分が受けるのは衝撃。咄嗟に氷で直撃は防ぐが、それでも衝撃は凄まじい。

 轟は地面に叩き付けられた。

 

「がっ!――ちっ!」

 

 形だけは受け身を取ったが、ダメージは大きい。

 しかし轟はすぐに立ち、急いで動く。

 次の一手は分かっている。確実に“あれ”がくる。

 

『ダイナミックお手だ!!』

 

 誰かが叫んだ。

 轟の背後に迫る雷狼竜の姿。まるで全力で飼い主にお手をしている様に見えたのだろう誰かがそんな事を言うが、攻撃を受けている側からすればとんでもない。

 あんなコンクリをクッキーの様に砕くお手があって堪るか。

 しかも今回のは騎馬戦とは違い、直撃狙い。

 轟は背後から迫る存在感から避けるように走り、そしてすぐに横へ跳んだ。

 

――瞬間、今さっきいた場所に雷狼竜の一撃が放たれる。

 

 地面を抉り、凶悪な陥没を生み出す一撃。

 直撃した場合を想像すると恐怖しかない。

 

「!」

 

――だが振り向いた轟は気付き、動いていた。

 雷狼竜の顎に強烈な蹴りの一撃を。

 

『GAU――!』

 

『い、入れたぁぁぁぁ!!? あの状態の雷狼寺に一撃入れたぜぇ!!』

 

 

 プレゼント・マイクの声に観客は一瞬の間から大歓声。

 あの独壇場であった雷狼竜に一撃入れたのだ。しかも顎に強烈な蹴りを。

 

「良いぞぉぉぉぉ!!! 焦凍ぉぉぉぉぉぉ!!――いずれはお前のモノにもなるその雷狼竜を超えるのだ焦凍ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 エンデヴァーもテンション最高潮。

 息子の一撃に、周りの歓声を掻き消さんばかりの大声を発している。

――が、当の轟は聞いていない。

 

「――やった」

 

 轟は確かな手応えを感じ取っていた。

 見つけたのは僅か一瞬の隙。雷狼竜の竜牙は確かに強いが、轟はその攻撃の合間合間の隙をみつけたのだ。

 

『あの存在感に惑わされるが……プロの中にも気付いた奴はいるだろう。雷狼竜化した雷狼寺の攻撃――一見すると俊敏性に目をとられるものの、大振り気味のため一瞬だが隙が出来る。臆した奴に決して掴めない一手を、轟は確かに手に取った』

 

「……すごいよ轟くん」

 

 相澤の言葉に緑谷も呟き、周りの者達もその光景に絶句する。

 誰もが臆す雷狼竜へ、轟が一人で挑んで一撃入れたのだ。

 控室で見ている爆豪も驚愕しており、攻撃を受けた雷狼竜の動きは確かに鈍る。

 その瞬間を轟は見逃さない。一転攻勢に出た。

 

「貰うぞ――雷狼寺!!」

 

 轟は一気に雷狼竜の下部全体を凍結。動きを止めた瞬間、一気に頭部へ集中攻撃を行う。

 怒涛の連撃。雷狼竜の防御力は轟も分かっている。

 

――だが頭ならばどうだ?

 

 確かに固いが確実にダメージを受ける部分。

 雷狼竜もそんな轟へ首を動かして噛み付こうとするが、そこは推薦組の轟だ。

 流れは己にあると、回避しながら連撃を止めない。

 

『もしかして――勝てるのか?』

 

 周りが逆転攻勢の轟にまさかの興奮を抱く。

 体育祭から存在感を示す雷狼竜。B組が総力を持っても勝てなかった存在に、轟が初めて追い詰めているのだ。

 

――勝つ!

 

 轟の確かなダメージを与えていると感じていた。

 このまま畳み掛ける。もう隙を与えさせない。

 轟が今度は炎を顔面へ放とうとしたその時――

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

「があぁっ!」

 

 ここで雷狼竜の反撃。

 今日最大にして、強烈な咆哮に至近距離の轟は思わず耳を塞ぐことに全力を尽くす。

 衝撃で全身に、咆哮は耳にダメージを与える。無防備になろうが、反射的にしてしまう行動。

 

――しかし、その無防備は雷狼竜に与えてはいけない。

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

 咆哮と共に雷狼竜は己を縛る氷結を粉砕。

 そこから助走を付ける様に回転し、後ろ脚を一気に前へ、そして上空へと跳びあがる。

 その姿を見た者は誰もが驚愕してしまった。

 

「嘘だろ……!」

 

「あの巨体で……!」

 

 峰田は絶句し、尾白も我が目を疑う。

 否、A組全員もそうだ。雷狼竜の動き、それは――

 

『“サマーソルト”だとぉ!!?』

 

 後ろ脚からの一回転。それはまさにサマーソルトの型であり、いくら俊敏とはいえあの巨体でこなす身軽な動きに観客は驚く事しか出来ない。

 だが、一番の問題は轟がそれをモロに受けてしまった事だ。

 

「ガァッ!?」

 

 轟にとっても、この展開は予想の遥か彼方。

 気付けば強烈な衝撃と共に上空へと舞い上がり、そのまま落下するだけ。

 

――意識が朦朧とする。

 

 あまりの衝撃に混乱に陥る轟。

 下では雷狼竜が止めを刺す為に待ち構えており、ミッドナイト達も万が一に備えて待機。

 

(負けんのか……俺……)

 

 轟は身体の脱力感を感じる。

 興奮やアドレナリンで何とか戦えていたが、今の一撃は凄まじかった。

 だが後悔はない。左右の力を全力で使い、エンデヴァーの姿は今も忘れているからだ。

 轟は静かに終わりの時を待つ。

 

『良いのよ……お前は。血に囚われることはない』

 

――なりたい自分になって良いんだよ……。

 

「!――うおぉぉぉぉ!!」

 

 轟を呼び覚ましたのは母の言葉。

 不思議と力が湧き出る。負けたくないと心が燃える。

 轟は宙で体勢を整えると、右を雷狼竜へ放つ。

 

『GUOOOON!!?』

 

 全ては無理だったが、身体だけは覆う事が出来た。

 これで雷狼竜の動きを再び抑える事ができ、轟は氷で一気に距離を取りながら着地。そして最後の一手を出した。

 

「勝つぞ……お前に勝ちたい――雷狼寺!」

 

 解き放つ左。それは巨大な炎の壁となり、雷狼竜が氷を砕いた時には轟の準備は完了していた。

 コンクリすらも溶かす業火の壁。それが段々と雷狼竜へと迫り、近付いただけで判断できる熱気に雷狼竜も後退りするしかない。

――だがそれ以上の後退は“場外”を意味していた。

 

『考えたな轟……どれだけの個性があろうが、あくまでも肉体は生身。雷狼竜化することで巨体になった雷狼寺を、場外へ押し出すのは有効だ』

 

 相澤の解説通り、轟の狙いはそれだ。

 巨体故に動きの制限されるフィールドを、更に制限されれば雷狼竜は本来の動きが出来ない。

 灼熱の壁で更に狭くなるならば尚の事。巨体故に突破しようものならば強烈な業火の餌食。

 なによりも、轟も絶対に突破されない様、上昇する己の体温を無視した全力全開。――決死の最終攻撃だ。

 

「こいつは決まったぜ……!」

 

「ハァッ! まだ分かんないでしょ!」

 

 客席で呟いた峰田に耳郎が猛反論。

 まだ勝負は終わっていないのに既に竜牙の負けを決めつけた事に耳郎は納得できないと、怒りを見せた。

 

「だって見ろよ雷狼寺の様子をよ!? あんな無駄な抵抗みたいに()()()()だけだぜ!?」

 

「だけど……!」

 

 納得は出来ない。だが確かに峰田に言う通りでもある。

 無慈悲に迫り続ける炎の壁に雷狼竜は吠えているだけで、特に攻撃らしい事はしていない。

 万策尽きた。そう思えても仕方ない。

 

「能力なら雷狼寺君が確かに上だった……しかし今回は場外アリの試合。――今回は轟君の粘りに軍配だ」

 

「本当にこれで終わりなのか雷狼寺……!」

 

 飯田の言葉に障子も歯がゆい想いがある。しかし、それで状況が変わる訳ではない。

 

「轟さんの執念ですわ……」

 

「あぁ……誰も雷狼寺を止められなかったんだ。なのに轟はたった一人で雷狼寺を止めた」

 

 八百万と切島。そして他の者達も轟の執念の勝利を疑わない。

 

――たった一人を除いて。

 

 ずっと色んなヒーローを見てきたゆえの観察眼と思考を持つ――緑谷だけが疑問を抱いていた。

 

「本当にそうなのかな……?」

 

「デクくん?」

 

「いやいや本当かどうかも、見れば分かんだろ……あの雷狼寺が吠えるだけの抵抗しか出来ないんだぜ?」

 

「うんうん!……何か策があるなら雷狼寺だって既にやってるって!」

 

 緑谷の呟きに麗日・瀬呂・芦戸が反応するが、当の緑谷はその吠えると言う行為に疑問を抱いたのだ。

 

「でも……僕はそうは思わないんだ。――今までの雷狼寺くんを見てるから思う。――あの雷狼寺くんがただ“無駄な抵抗”をするなんて思えない」

 

 USJの時の最善な行動を実行する思考と能力。騎馬戦で見せた騎馬に直接当てない様にする冷静な行動。

 そんな事ができる竜牙が無駄な事をする。それが緑谷はどうにも納得できず、ずっとある“可能性”を考えていた。

 

「もしかしてだけど……あれって“ルーティーン”なのかも」

 

「ルーティーン?――ってあのスポーツ選手が集中する為の決まった行動みたいなやつだっけ?」

 

「うん。――気付いたんだけど、雷狼寺くんは炎に吠えてるって言うよりも……その場で吠えてるだけの気がするんだ」

 

 麗日の言葉に答えながら呟く緑谷の言葉に、全員の視線はすぐに雷狼竜の下へ移動。

 言われて気付く状況。確かに緑谷の言う通りに見えなくもなく、雷狼竜はその場で吠えている気がする。

 しかし、そうなると新たな疑問が生まれる。

 

「雷狼寺ちゃん……何のために吠えているのかしら?」

 

 蛙吹の呟きに全員が頷いた。

 こんな土壇場で何の意味があって吠えているのか、皆も疑問を抱くようになった時だ。

 

――上鳴が気付いた。

 

「な、なぁ……なんか雷狼寺が纏ってる電気の威力が上がってないか?」

 

『――えっ?』

 

 上鳴の言葉に一斉に皆が雷狼竜へ視線を集中する。

 すると確かに、纏う電気が増している気がする。体毛も逆立ち始め、甲殻もどこか展開している様にも見える。

 そんな異変に周りも気付き始めた時、それは起こった。

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

 雷狼竜が一際大きく吠えたと同時、スタジアムに強烈な落雷の様な衝撃が巻き起こる。

 それは炎の壁を吹き飛ばし、轟も思わず膝を突いて耐えた。

 すぐに何が起こったのか確認しようと顔を上げた瞬間、轟は我が目を疑う。

 

「……ちくしょう」

 

 目の前いる存在――目視できる程の雷を纏い、全身の体毛が逆立ち、甲殻も展開して形状が変化した雷狼竜。

 存在感、放つ威圧感が最早理解することもできないレベル。感じる事を身体が諦めるレベル。

 

『超帯電状態』

 

 竜牙の本気の姿と言える状態。

 嘗ての学者達が、竜牙の個性を雷狼竜と名付けた由来の姿とも言える。

 この状態になった雷狼竜は力も上がるが、何よりも――“速さ”が上がる。

 

「なっ――」

 

 強い衝撃を受けた。

――そう轟が理解した時、彼の身体は場外へと落ちていた。そう、雷狼竜の本気の速度での突進を受けたのだ。

 

 しかし、周りが状況に付いて行けず、静かになるスタジアム。

 そんな中、ミッドナイトがいち早く状況を理解する。

 

「ハッ――轟くん場外!――よって勝者は雷狼寺くん! 決勝進出よ!」

 

 ミッドナイトの結果発表。それからワンテンポ遅れて生まれる歓声。

 竜牙も人の姿へと戻り、ロボに連れて行かれる轟を見送ると――。

 

「……限界だ」

 

 竜牙も静かにその場に倒れ込む。

 雷狼竜化からの超帯電状態は肉体への負担が大きく、騎馬戦からの疲労も蓄積していた 。

――そして、倒れた事に気付いたミッドナイトが慌てて駆け寄ると、急いで竜牙はロボにリカバリーガールの下に連れて行かれた事で準決勝は終わりを迎えた。

 

 

▼▼▼

 

 

 竜牙と轟の準決勝。それが終わった頃、富裕地に佇む一軒の豪邸。

 そのリビングのソファに座る四人の家族がいた。

 貫禄のある父親・儚さを纏う母親・そして双子なのだろう、似た容姿の5歳ぐらいで、それぞれ髪を左右にサイドテールしている女の子が二人。

 その家族はついさっきまで竜牙と轟の戦いを見ていたのだ。

 

「すごかったねぇ!」

 

「すごかったよねぇ!」

 

 双子の姉妹は先程の試合に大興奮。

 子供ゆえの無邪気さもあるが、彼女達がはしゃぐ理由はそれだけではない。

 

「あの大きな“お犬さん”になったほうって()()()()()なんだよねぇ!?」

 

「うんお兄ちゃんだって! すごいよねぇ! 幼稚園で自慢しようね!」

 

 まるで自分の事の様に喜ぶ双子の姉妹。ずっと興奮が収まらない程に喜んでいるが、やがて落ち着いた様に母親へ顔を向けた。

 

「ねぇねぇお母さん!……いつになったらお兄ちゃんに会えるの?」

 

「いついつ?」

 

「!……え、えぇ……いつかしらね……」

 

 母親は娘達の言葉に困った様に返答しながら顔を下へ向ける。

 その後も、父親と母親は二人に聞こえない様に何やら会話を続けていた。

 

『……まさか雄英に行っていたとは』

 

『……あの子はヒーローになりたいのね』

 

 等と会話を続けるが、姉妹は何を言っているのかが分からなかった。

 そして、両親の話につまらなそうにし、再びテレビに視線を戻すと竜牙がロボに担架に乗せられている。

 しかし、元気だと分かるように手を振っており、ミッドナイトに手を握られて凄く嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「はやく会いたいねぇ!」

 

「会いたいねぇ!」

 

 姉妹はそんな竜牙の姿を見ながら只々、嬉しそうに微笑み続けるのだった。

 

 

 

END


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