僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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PC帰ってきたよー♪
ロックマンダッシュ3なんででないんだよー(´;ω;`)
ゼロを未だに諦めてない私は異端だよー(T_T)


第十四話:決勝

「はいよ。これで大丈夫だよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 轟との試合後、竜牙は余りの控室に出張所を出しているリカバリーガール。その彼女からの治療を受け終えていた。

 リカバリーガールの個性。その反動ゆえに仕方ないが、やや怠そうにしながらも竜牙は隣のベッドで眠っている轟へ視線を向けた。

 

(“超帯電状態”まで使ったか)

 

 そう心の中で呟く竜牙の表情は、どこか悔しさを滲ませていた。

 

 ハッキリ言えば雷狼竜化自体が奥の手であり、超帯電状態は更なる奥の手なのだ。

 それを既に披露してしまい、竜牙は轟の執念に敬意を抱くと同時に己の未熟さが情けなかった。

 雷狼竜状態でも勝てたかもしれない。だが、最後の轟の出した炎の火力は凄まじく、例え勝てていたとしても余計なダメージは残っていたと竜牙は確信する。

 

 そして、自己嫌悪と反省をし終えると竜牙は気が抜けた様にベッドへ倒れこむ。

 

「この受難に感謝する……轟」

 

「……俺もだ雷狼寺」

 

 竜牙の呟きに反応したのは目を覚ました轟だった。

 ベッドから身体を起こさず、天井を見つめたままで轟は呟いたのだ。

 

「……起きてたのか?」

 

「ついさっきな。――雷狼寺、お前と緑谷には本当に感謝している。緑谷は俺に大切なことを思い出させてくれた。――お前は全力で俺と向かい合って、親父の事を忘れさせてくれた。ありがとな」

 

「……気にするなとしか言えない。俺はただ、お前に勝つ為に全力だっただけだ」

 

「……それが俺は嬉しかった。初めて競い合いたい相手……ライバルになりたい相手に会えたんだ。――だから言わせてくれ」

 

――この受難に感謝。次は負けねぇ。

 

――あぁ感謝。次も負けない。

 

 両者はそう呟くと、互いに拳をぶつけ合った。

 その行動で両者が認め合っているのだと分かり、そんな二人をリカバリーガールは優しく見守っていた時だ。

 不意に扉が叩かれ、見慣れたメンバー達が顔を出す。

 

「失礼しま~す。……雷狼寺、大丈夫なの?」

 

「どうなんだ?」

 

「雷狼寺くん! 轟くん! 具合はどう?」

 

「二人とも大丈夫かい!!」

 

 耳郎・障子・緑谷を筆頭に入ってくるA組の面々。

 心配と労いの為に来てくれたらしく、心配するの声に混じって明るい声をちらほらと聞こえてくる。

 

「無事か! 二人共本当に凄かったな!」

 

「ホントホント! 見てた私達なんて手に汗握ってたもん!」

 

「……そうか」

 

 切島と葉隠が興奮気味に話し、竜牙は恥じない戦いが出来たことを教えられていると、耳郎が竜牙の傍の椅子に腰かけながら心配するように問いかける。

 

「それでどうなの今の気分は?――試合が終わったと同時に倒れんだから心配したよ?」

 

「……あぁ問題ない。ただ疲れた」

 

「……まぁそんな事だと思ってた。――ミッドナイト先生に手を握られてニヤけてたし」

 

 竜牙の言葉に耳郎は、どこか不貞腐れた様に顔を逸らしながら呟いた。

 それは一見、彼女の機嫌が悪くなった様に見えてしまうが、竜牙がその理由を理解することはできず、同時に譲れない感情の昂ぶりが彼の中にはあった。

 

「――良いモノは良い」

 

 抗うことが出来ない男子高校生の性だ。今も竜牙は握られた“手”の感触を記憶している。

 ミッドナイト――全身タイツである彼女の数少ない生身の部分。ひんやりとした気持ちよさの中、確かに感じ取れる温もり。

 心の臓に響く衝撃。手を握られた瞬間、確かに接近を許す彼女の胸。

 年齢が30?――全身タイツ?

 

――だからなんだというのだ。

 

 良いものは良い。まるでSM女王の様な彼女の中にある確かな優しさと、一目見れば分かるセクシー・妖美さを竜牙は確かに一番近くで感じた。

 故に竜牙は恥じない。寧ろ、誇りにすら思っている。

 嘗て、男性ヒーローばかりが台頭していた時代に突如として現れ旋風を巻き起こしたミッドナイトもまた、竜牙からすればオールマイトとは違うベクトルでNo.1ヒーローだ。

 

 そんな彼女からの施し。それを受けた者は恥ずかしがるよりも誇りに思え。

 そう考えながらベッドに大の字で横になる竜牙だが、眼力は雷狼竜になる程に堂々とした態度。まさに恥じる事などないと体現させたかの様。

 

――だが、見る者によってはただの()()()()による開き直りである。

 

「いよいよ自重しなくなったな」

 

「……ば~か」

 

 マイペースなのは相変わらず。そんな竜牙の姿に障子は溜息を吐き、耳郎は拗ねた様子で呟いた時だ。

 部屋に備え付けのモニターが、試合に動きが起こった事を知らせる。

 

『おぉっと! ここで爆豪が一気に攻勢に出たぁ!! 常闇と黒影は打つ手がねぇ!!』

 

『黒影が小さくなってるな……流石に相性の差はひっくり返せなかったか』

 

 プレゼント・マイクと相澤の解説を聞きながら全員がモニターを見ると、小さくなった黒影を爆破で黙らせ、常闇に馬乗りになって掌で爆破し続ける爆豪の姿。

――やがて、常闇は諦めた様に降参してしまい、これで決勝の相手は爆豪で決まった。

 

「――やっぱり爆豪か」

 

 竜牙はベッドから起き上がり、ゆっくりと立ち上がって軽いストレッチを始めた。

 

「……大丈夫なの?」

 

「まだ時間はある……ギリギリまで休んだらどうだ?」

 

 あの激闘の中、そして治癒の為に体力を使っているのを知っており、耳郎と障子は心配している。

 他のメンバーもそうだ。なんせ、相手はあの爆豪だ。

 真意は分からずとも、他クラスには喧嘩を売って敵を作り、女子だろうが関係なく爆破する。

 ハッキリ言って容赦しないタイプ。例え竜牙が本調子じゃなくとも徹底的に勝利を取りに来るのは想像に容易い。

 

「雷狼寺……俺も耳郎達に賛成だ。俺との戦いでお前の足を引っ張りたくない」

 

 轟も心配の声を漏らす。

 ライバルの足を引っ張りたくない。純粋な彼の想いを背中越しからでも竜牙は理解する。

 

「大丈夫だ。流石に万全ではない……が、ずっと感じていた事はある」

 

――爆豪には()()()()()()()() 

 

『――えっ!?』

 

 竜牙のその言葉にメンバー達は絶句する。

 今、竜牙がなんと言ったか? 負ける気がしない?――誰に?

 

『死ねぇぇっ!!!』 

 

『消えろやモブ共ッ!!!』

 

――あの爆豪に?

 

「本気なの雷狼寺くん!? あのかっちゃんだよ!!? ツンツン爆破ヘッドのかっちゃんなんだよ!?」

 

「下水を煮込んで更に三日寝かして百時間煮込んだ様な性格の爆豪だぜ!?」

 

 酷い言われ様である。緑谷と上鳴の言葉の内容、そして全員がその言葉に頷いている事で更に酷い。

 しかし、竜牙が言っている爆豪はその爆豪で正解だ。

 

「あぁ、その爆豪だ。――ハッキリ言って俺は爆豪が()()だ」

 

『えぇっ!!』

 

 竜牙が口を開く度に皆が絶句する。

 確かに苦手な人間もクラスにいるが、こんな堂々と宣言するのは竜牙くらいだろう。

 少なくとも、衝撃的過ぎて緑谷は泡を吹いていた。

 

「ケロッ――でも気持ちは分かるわ。爆豪ちゃんって被災地とかでも絶対に人助けとかしなさそう」

 

『自分で歩けや!!』

 

「――とか絶対言いそう」

 

 蛙吹も中々に言葉の針を刺してくる。実際、言いそうだから困るレベルであり、クラスメイト達も脳内再生が余裕なのだろう。

 全員が『あぁ~確かに……』と呟きながら不安な表情を浮かべている。

 しかし、こんな時に立ち上がる者がいる。――飯田だ。

 

「しかし駄目だぞ雷狼寺君!! 嫌いだからといってそんな事を言っては! 小学校や中学校の先生達から教わってきたはずだ!!」

 

「いや信用薄い人種じゃん」

 

「っていうかだったら盗聴もそうだよね!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 瀬呂、というよりも葉隠の言葉に飯田とついで八百万が撃沈。

 竜牙が「もう気にしてない……」と慰めて何とか立ち直ってくれたが、それと重なって飯田の携帯が鳴った。

 

「むっ……すまない家からの様だ」

 

 そう言って飯田は控室から出ていき、竜牙も一通りストレッチを終えると爆豪嫌いの真意を口にする。

 

「……爆豪が嫌いなのは別に感情論だけじゃない。純粋に、爆豪は俺のヒーロー像にかけ離れているからだ。雷狼竜の俺でも認めてもらい、助けに、安心させ、笑顔にできるそんなヒーロー。それが俺のヒーロー像」

 

「感動ですわ雷狼寺さん……!」

 

「けどそれ聞くと確かに爆豪とは正反対だな」

 

「自分じゃなく、周りが合わせろの奴だからな……」

 

 竜牙の理想に感動する八百万を峰田達が「ちょれ~」と言い、砂藤と障子が呟いているとテンション高めに芦戸が竜牙に問いかける。

 

「まぁ爆豪の事は分かったから良いけど。雷狼寺さぁ、本当に何か頼みたいこととかない? 丁度いるんだから色々としてあげられるよ!」

 

「ッ!――なら俺のリトル峰田を――」

 

「峰田ちゃんには聞いてないわ」

 

 暴走寸前の峰田だったが、蛙吹が踏み潰して黙らせる。

 倒れながらも『これはこれで良い……』――そう呟きながら興奮するのは流石と言うべきか。

 

「……頼みたい事か」

 

 しかし、そんな中で当の竜牙は困ってしまう。

 力になりたい気持ち。それは嫌と言うほどに伝わってくる。――というよりも、瞳を輝かせながら接近してくる芦戸がいるのだから当然だ。

 しかし考えても考えても、今竜牙が望んでいる事は――

 

「せめてもう一度だけ、ミッドナイト先生が手を掴んでくれれば……!」

 

「あんたは本当に……」

 

 無表情で欲望丸出しの竜牙に耳郎が溜息を吐くと、今度は耳郎が熱い視線に気づく。

 一体なんだと思い、そちらを向くと……。

 

「チャンスチャンス!」

 

「チャンスチャンス!」

 

 芦戸と葉隠の二人が、瞳を輝かせながら自分を見ていた。

 しかも、その言葉の意味を理解できない程に鈍い耳郎ではない。

 

「えっ……えぇ!! いやいや無理だから!」

 

「何言ってんの耳郎! このままじゃミッドナイト先生に取られちゃうよ!」

 

「もうがぁーと掴んでぎゅうーってイケェ!」

 

「出来るかぁぁぁぁ!!」

 

 叫ぶ耳郎の顔はもう真っ赤。がぁーの時点で勇気がいるのに、ぎゅうーってもう無理の領域。

 耳郎は素早く芦戸と葉隠を捕まえると、耳元でささやく。

 

(だからそう言うんじゃないから!)

 

(またまた~無理があるって!)

 

(あるって~!)

 

(ケロ!――あからさま過ぎるわ耳郎ちゃん?)

 

(あ、憧れからの恋ですわ……!)

 

(大人になってるわ耳郎ちゃん……!)

 

(女心と秋の空じゃなく……男心と秋の空だよ若いの)

 

 いつの間にか女子全員が周りを包囲。何故かリカバリーガールも交じっており、全員が耳郎にあぁだこうだとアドバイス祭りだ。

 しかし、耳郎は自分のこの気持ちが何なのか分かっていない。

 確かに竜牙がB組の女子と会話していた時は怒りが沸いて峰田を殴り、ミッドナイトが竜牙の手を掴んだときはモヤモヤし、再度峰田にプラグをぶっ刺したがだから何なのか?

 

「いやいや絶対にないない!――ないって……うん……」

 

 分からない。この心の中でザワザワする気持ちは何なのか。

 否定する自分はいるが、そんな自分を竜牙に捕まえてほしい自分もいる事に耳郎は気づいている。

 しかし、何故だか恥ずかしくて何も言えない。

 

「うんうん違う。ロックじゃない……これはうちじゃない……!」

 

「もう見ててじれったいな!――雷狼寺ちょっと来て!」

 

「?……どうした」

 

 間もなく試合控室に向かおうとしていた竜牙を芦戸が呼んだ。

 一体なんだと竜牙も疑問を抱くが、女子の集団の前まで来るや否や芦戸達が耳郎を無理矢理引っ張り出し、竜牙の前に立たせた。

 

「えっ! えっ!? なに!?」

 

「良いから何も聞かずに雷狼寺の顔をジッと見なって。雷狼寺もジッと見てて」

 

「……別に良いが」

 

 主語が抜けている会話の以上、ハッキリ言って何が目的なのか竜牙は分からなかった。

 それも仕方なし。今の重要人物は耳郎だからだ。

 

――別に顔ならいつも見てるから問題ないから……!

 

 耳郎は芦戸達の狙いを把握。自分に竜牙の顔を見せて反応を見せるつもりなのだろう。

 そんな手に乗るかと。耳郎は覚悟を決め、竜牙の顔を本気で見つめた。

――瞬間。

 

――えっ……。

 

 耳郎に静かなる“衝撃”が走る。

 

(ら、雷狼寺って……こんなに格好良かったっけ……?)

 

 個性の影響故に日本人離れの“瞳”や“表情”

 風が吹くと爽やかに靡く“白髪”

 

 最近は障子も合わせてよく帰りに遊びに行く仲であり、姿もよく見ている。

 なのに、今はジッと見つめると何故か格好良く見え、自分の事を見てくれている。

――その事実に安心すら抱いてしまう。

 

――恋する少女なのだ。だから全てが自分に良く見えてしまう。

 

『……それじゃ、今逃げているあの連中が“私が来た”って言っても――人々は“安心”するのか?』

 

 ここで更に後押しが。

 耳郎が竜牙に憧れた切っ掛けの入試の時の言葉・後姿が彼女の脳内に過る。

 それを思い出してしまい、更に顔が熱くなる耳郎。

 

――やばいやばい。顔が熱くなりすぎて本当にやばい!

 

 人生初の事に耳郎混乱。

 自分には縁がないと恋バナとかあまり興味がなかった彼女だが、ここにきてようやく自覚を始める。

 

「はぁ……ふぅ……!」

 

 しかし、ここで判断するのにはまだ早い。最後に……本当に最後にしなければならない事が“一つ”だけあるのだ。深呼吸をした耳郎は意を決して――

 

――竜牙の手を()()()

 

「……耳郎?」

 

「……あぁごめん。ちょっと確認したくてさ……その、雷狼寺……」

 

 下を向いたまま呟くような小さな声の耳郎。

 竜牙も何かを察したのか、ただジッと彼女からの言葉を待っていると、やがて顔を上げながら耳郎は口を開いた。

 

「ミッドナイト先生じゃなく……()()じゃ駄目……?」

 

「!」

 

 手を握るのが、傍にいるのが自分じゃ駄目か。

 自分を見上げ、頬を染める耳郎の表情に竜牙の中にも()()が起こり、応えるかのように空いている手を、自分のもう一つの手を掴んでいる耳郎の手へと重ねた。

 

『……』

 

 二人共そのまま黙ってしまう。

 女子達もさっきの勢いは消え、顔を真っ赤にして固まってしまい、男子も目の前で起こった光景に固まる。

 

「……?」

 

「ニクイィ! ニクイゼェェェ……シンユウゥ……!!」

 

 何が起こったのか分かっておらず首を傾げる轟。

 血涙を流してモノノ怪化した峰田。

 そして一仕事終えた仕事人の様に、謎の貫録を示すリカバリーガールが例外だ。

 

――しかし不思議な甘い空間に飲まれていない例外はいない。

 

 そんな実際は短いが、長く感じる時間を竜牙達が体験した時だった。

 

『あぁーあぁー!――アァァァァァァ!! マイクのテスト中!――雷狼寺 竜牙は至急スタジアムに来るように!!――もう始まんぞぉ!!!』

 

「!――しまった……」

 

 竜牙を我に返したのはプレゼント・マイクからの放送だ。

 モニターを見れば既に爆豪はスタンバイしており、完全な遅刻であった。

 

「急げ雷狼寺! 決勝出ないなんて格好はつかないぞ!」

 

「……ああ、その通りだ」

 

 障子の言葉に竜牙は急いでその場を後にしようとし、すぐに足を止めて耳郎の下へ早歩きで向かい目の前で止まる。

 

「……勝ってくる」

 

「……えっ?――あ、あぁうん……がんばれ」

 

 耳郎のそう返すと、竜牙は頷いて急いでその場を後にする。

 そして竜牙が出ていった後、まるで嵐が過ぎ去った後の様に静かになる空間。

 その中で耳郎は腰が抜けた様に突然と座り込んでしまう。

 

『!』

 

 女子メンバーが一斉に駆け寄って心配するが、当の耳郎は芦戸達を見上げ……。

 

「ねぇ……うち……どこまでやっちゃった?」

 

 困惑気味に呟く耳郎へ、芦戸達ですら苦笑するしかなかった。誰も分からないからだ。

 

「みんなここで見るのか?」

 

 いつまでも残ったままのクラスメイトに轟のマイペースな声だけが響き渡るのであった。

 

 

▼▼▼

 

 

『やっぱりさっきの戦いはやばかったか!!――ヒーローは遅れてやってくる!――ちょいと遅めの登場だ!――さっきの戦いで燃え尽きたんじゃねだろうな!? 本当の決勝は今からだぜ!』

 

 竜牙が入場すると、既に会場は盛り上がっており、彼の登場に更に盛り上がる。

 最初から最後まで話題を引っ張ってきた竜牙。まるで彼が主役の様な盛り上がり、それに不満を持つのが――爆豪だ。

 

「――とっとと出せやクソ()()()をよ!」

 

「……雷狼竜だ。――なんでもっと普通にできない? 二週間前だってそうだ。俺達は皆、ライバルであって“敵”じゃない。なのになんで周りを巻き込み、勝手な真似をする?――いつか取り返しのつかない事になるぞ?」

 

「うっせぇ!! んな事関係ねぇんだよ!!……俺はあの状態のテメェに勝つ事しか考えてねぇ! テメェを潰して俺が獲るんだよ!!」

 

――トップは俺だ!!

 

 爆豪から放たれる執念。それは貪欲のレベルであり、誰の横槍も許さない。

 歯を剥き出しにし、敵意の全てを竜牙へとぶつける。

 己だけしか世界におず、他者は全て知った事ではない。――それが爆豪。

 

 しかし、だからこそ竜牙は負ける気が微塵もしなかった。

 

「……お前は()()()()()()()んだな。自分の思い通りにだけ生き、周りもその力故に止めなかった。――それがお前の受難であるが……感謝はまだ出来ない」

 

 爆豪はずっと周りからその強個性でチヤホヤされてきた。

 その結果、気に入らなければその個性で黙らせ、自分の望むがままに生きてきた。

 中学生時代も彼の周りの友人が煙草に手を出す中、彼は手を出さない等の一線は守ってきたが、寄ってくる人種はそういうのしかおらず、誰も彼の事を考える人間はいなかった。

 

 しかし竜牙は逆だった。両親からは見捨てられたが、我が子の様に育ててくれた家政婦の人達が竜牙に教え続け来た事がある。

 強個性故に、訓練・制御はしてもそれを無暗に振るわない。他者にぶつけてはならないと。

 家政婦の人達は竜牙が良い子だと分かっていた。しかし、もし道を踏み外してしまえば両親だけではなく、周りからも見捨てられてしまう。

 それだけはさせまいと、家政婦の人達の“愛”があったからこそ今の竜牙がいる。

 

――これが周りに恵まれた者・恵まれなかった者の差。

 

「意味分かんねぇ事ばっかり言ってんじゃねぇ!! とっとと竜になれやぁ!!!」

 

 しかし爆豪に竜牙の言葉は響かない。

 先ほどのVS轟との戦いで観客が満足している事に不満なのだ。

 爆豪も竜牙・轟両者を認めていない訳ではない。寧ろ、自分よりも上だとすら思っていた。

 だがだからこそ、周囲に認めさせるには雷狼竜の竜牙を叩き伏せるしかない。

 

 いつまでも雷狼竜化しない竜牙に爆豪の怒りがピークに近付いた。

――その時だ。

 

「……竜にはならない。――それでも同等の力……!」

 

「!」

 

 爆豪の目に映るのは雷狼竜の鱗・甲殻・体毛に包まれる竜牙。

 けれどもそれは“人の姿”のまま。人の姿を捨てずに雷狼竜の力を扱える形態。

 

『雷狼竜――フル装備』

 

『ハァァァァ!? あいつまだ奥の手みたいなのあんのか!?』

 

『己の個性を鍛え続けた結果か。……恐らく一年に限れば最も個性の幅を伸ばしているのは雷狼寺だな』

 

 プレゼント・マイクは驚愕し、相澤は純粋に評価。

 周りのヒーロー達も「まだ魅せてくれるか!」と興奮し、客席に間に合った緑谷達も驚きを隠せない。

 特に緑谷は別の気持ちも抱いていた。

 

(……本当に凄いな雷狼寺くんは)

 

 包帯でグルグル巻きにされた腕を見ながら緑谷は思う。

 対等の相手だと思われた。それだけで少し自分は満足していたことが情けない。

 

(来年は……あそこに立っているのがかっちゃんじゃなく僕になる為に……雷狼寺くんと本当に対等になる為に“この力”を……!)

 

 竜牙の姿。それは見せるだけでも他者へ影響を与えている。

 頭部の角は強靭な兜の様に、全身も鎧の様に凄まじい。――まるで“武者”の様な堂々とした威圧感・存在感に爆豪は満足そうに凶悪な笑みを浮かべた。

 

「それで良いぜ白髪野郎……!」

 

『……』

 

 両手を構える爆豪。黙に徹する竜牙。

 その両者の間にミッドナイトがウズウズした様子で現れ、静かに片手をあげる。

 そして――

 

「それでは試合開始よ!!」

 

 始まる試合。爆豪は全身に力を込める。

 

「行くぜオ――」

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

 咆哮と共に強烈な衝撃が爆豪を襲い、彼の身体が宙に浮きながら、そのまま背後に風圧を受けながら爆豪は押される。

 竜牙がラリアットの様に右腕で爆豪の身体に一撃。そのままただ突き進む。

 既に電力はない。ならば雷狼竜の筋力にものを言わせる純粋な力による攻撃だ。

 

「ふざっ――!」

 

 爆豪も竜牙の思惑を察知。

 自分の真横にある竜牙の顔面に爆破を喰らわすが、竜牙は怯まない。顔も動かさず、ただ真っ直ぐに見据える。

 爆豪の身体を離さない。絶対に離さない執念の一撃。

 

――ふざけんな!! こんな……こんな終わりがあってたまるか!!

 

 爆豪は叫ぶ。心の中でただ叫ぶ。

 観客は目を奪われる。まさかと、まさかこのまま――と期待する。

 耳郎達も手に汗を握り、まるで自分の事の様に力が入ってしまう。

 轟も医務室で無表情ながら応援し、オールマイトもミッドナイトも、エンデヴァーすらも驚愕しながら目を離せない。

 

(――負けるつもりはない。今なら言える……自信を持って言おう。俺が――)

 

――一番強い!

 

 爆豪の身体がラインの外に出る。

 同時に静寂が支配。竜牙も爆豪も、その状態から動けない。

 その中で最初に言葉を発したのは――相澤だ。

 

『……決着だ』

 

「ッ!――爆豪くん場外!! よって優勝は雷狼寺くんよ!!」

 

 我に返ったミッドナイトの声に周りの時も動き出す。

 そして――爆発した様に歓声が上がる。

 

 同時に竜牙は確かに聞いた。彼女の耳郎の声を。

 

「よっしゃぁぁ!!」

 

 客席で叫ぶ耳郎や障子達の声を確かに聞きながら、竜牙は未だに放心状態の爆豪に背を向けてその場を後にする。

 

「さぁ!! まだ終わってないわよ!! この後は表彰式よ!!」

 

 ミッドナイトの声に歓声は更に上がる。

 これで雄英体育祭は終わりを迎えるのだった。

 

 

END


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