僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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第十五話:閉会! 新たな力・雷光虫!

「それではこれより表彰式に移ります!」

 

 花火が打ちあがり、観客の歓声の中でミッドナイトは表彰式へと進め、参加生徒達も全員が表彰台に集合。

 1~3の数字が刻まれている表彰台。そこに3位には轟と常闇が、1位には竜牙が佇んでいた。

 しかし生徒達、そして教師や観客達はドン引きしている。

 晴れの舞台の終演にも関わらず、全員の表情は引きつり、その元凶である2位――爆豪へ目を奪われていた。

 

「$%”!%$!$%#$%!!!」

 

 コンクリートの柱に身体を、両腕・口を拘束具で抑えられながら暴れ続ける爆豪。

 拘束されながら噛みつかんばかりに竜牙へ迫ろうとしているが、当の竜牙が目を閉じながら佇む――つまりは流している事が更に油を注ぐ事で更に活発化。

 そんな締まらない2位に皆が呆れる中、表彰式は始まる。

 

「メダル授与!――贈呈する人は勿論この人よ!」

 

――私が!!

 

「メダルを持って来――」

 

「我らがヒーロー!!――オールマイト!!」

 

 屋根から格好良く登場したオールマイトだったが、悲しきはミッドナイトとセリフが被ってしまった事だ。

 互いに気まずい感じなり、謝りながらもメダル授与は始まった。

 

 まずは第三位の轟と常闇だ。

 

「轟少年!――おめでとう。――トーナメント戦、特に準決勝では素晴らしい戦いだったね!――今までは授業でも左側は使っていなかったが、今回から使用したのにはワケがあるのかな?」

 

「……緑谷戦で切っ掛けを貰いました。あいつは敵である俺を救おうとしてくれた……だから、あなたが緑谷を気に掛ける理由が分かった気がします。……そして雷狼寺戦では全てを忘れてぶつかり合えることが出来たんです。本気で勝ちたい……本気で挑みたい……そんな相手に出会えて、俺は本当の自分で戦えました」

 

――ですが。

 

「それは雷狼寺だから……他の奴だったら俺は左を使えなかったと思います。これからも恐らく……だからまずは清算……向き合いたいと思います。俺も貴方の様なヒーローになる為に」

 

「――顔が以前とまるで違うな。深くは聞くまい。――だが君なら向き合えるさ!」

 

 オールマイトはその大きな身体で轟を抱きしめると、後押しする様に背中を優しく叩き、轟も「ありがとうございます」とだけ返すが、その表情には決意が表れている。

 

――そして次は常闇だ。

 

「常闇少年おめでとう! 君も十分強かったぞ!――だが相性を覆すには個性だけに頼っては駄目だ。――地力を鍛えればまだまだ選択肢を見付けられる筈だ!」

 

「御意!」

 

 爆豪戦が余程に堪えたのだろう。何もさせてもらえない程の相性差、それを覆すには黒影ではなく常闇自身の能力の問題。

 オールマイトのアドバイスに常闇は真剣な表情で頷く。

 

――そして次が問題だ。

 

「!#$&%’!$%!!」

 

「爆豪少年!……っと流石にこれはあんまりだな!」

 

 銀メダルを授与しようとオールマイトは爆豪の口に付けられた拘束を解くが、それと同時に爆豪から放たれるのは自我を失った様な叫びであった。

 

「オォォォルマイトォォォォ!!! 2位に価値なんてねぇぇぇぇ!!! 1位以外には何の価値もねぇんだよ!! しかもあんな決勝ぉぉぉぉ周りが認めても俺はぁぁぁぁ!!!」 

 

「お、おう……!」

 

 異形系の如き形相。しかも周りに3位や表彰されなかった者もいる中で凄い発言だ。

 流石のオールマイトも引いてしまうが、そこは教師でありNo.1だ。

 いつもの笑顔で対応を試みる。

 

「うむ! 今の世の中で不変の絶対評価を持てる者は少ない!――受け取っとけ“傷”として!」 

 

「いらねぇ!!! この白髪と俺の何がちげぇんだぁぁぁぁ!!!」

 

 あくまでも受け取ろうとしない爆豪だが、そこはオールマイトだ。「まぁまぁ」と言いながら無理矢理押し通し、最終的に彼の口にはめて完了。

 

 そして次はとうとう1位の竜牙の番。

 

「……雷狼寺少年!」

 

「……はい」

 

 金メダルを持ち、向かい合うNo.1と1位。

 不思議と周りが静かに感じるのは感慨深いからだろう。

 頷く竜牙に、オールマイトも満面の笑みを浮かべる。

 

「まずは伏線回収おめでとう!――全くこの欲しがり屋さんめ! あんな事を言われちゃ私も思わず燃え上がって参加しそうになっちゃったよ!」

 

「……ありがとうございます」

 

 雄英体育祭。その始まりを切り、皆を刺激した宣誓。

 

――“俺が”ここで一番強い。

 

 その発言を現実のものにし、竜牙はここにいる。

 オールマイトもそれを聞いた時、思わず笑みを浮かべてしまった程だ。

 自分だけで燃えるのではなく、周りも燃えさせた事にオールマイトは嬉しく思い、同時に自分の心が刺激されてしまった事が楽しくて仕方なかったのだ。

 

「思えば最初から最後まで君は突き進んでいたね!……特に騎馬戦。轟少年の様に何か切っ掛けがあったのかい?」

 

「……オールマイト。俺は……最初はこの体育祭で雷狼竜になるつもりはありませんでした。――俺は怖かった。あの姿の俺が皆に受け入れてもらえるのか……怖がらせるんじゃないかと……けど俺は雷狼竜になりました」

 

――緑谷達のおかげです。

 

「……俺はあの包囲網の時に諦めてしまった。けれど緑谷達は諦めておらず、同時に分かっていました。俺が雷狼竜化すれば勝てるのを……だから俺は雷狼竜を解禁しました。俺のせいで緑谷達が負けるのが許せなかった。俺を信じてくれた緑谷達のおかげで俺は向き合えたんです。――クラスメイト達もこんな俺を受け入れてくれた」

 

「……君にも事情は色々とあったのだろう。しかしそれでも私は思う。君の取った選択は素晴らしいものだと。他人の為に……守る為に個性を使った君に私は断言する!」

 

――君もヒーローになれる!!

 

「ッ!――ありがとうございます……!」

 

 抱きしめられながら言われたオールマイトの言葉に竜牙は目元が熱くなるのを感じた。

 ずっと不安で、実の両親からも拒絶された個性。

 その個性の自分にオールマイトは言ってくれた。ヒーローになれると。これ以上に嬉しいことはない。

 

「オールマイト……!――俺はいつか必ず貴方を超えるヒーローになってみせます。貴方に頼るだけじゃなく、対等に並んで……支えて……貴方が安心できるヒーローに……!」

 

――俺()いる。俺()来た!

 

「……そう言えるヒーローにきっとなってみせます……!」

 

「そうか……ありがとう……本当にありがとう!――未来の世界も安泰だな!……HAHAHAHAHA!」

 

 竜牙の言葉にオールマイトは高らかに笑う。  

 その心の中は本当に嬉しく思いながら。本当は目元に涙が出そうになる程、安心できるぐらいに。

 

「……オールマイト。俺は本当にこの雄英に来て良かったと思っています。仲間が……友が出来た。受け入れてもらえた。だからこそ言わせてください」

 

――“Plus Ultra”……今日までの“受難”に感謝……!

 

「素晴らしいな雷狼寺少年!」

 

 オールマイトは拍手し、周りの先生・観客と耳郎達も拍手を送る。

 そしてオールマイトはそれを見届けると、大きく振り向きながら叫ぶ。

 

「さぁ皆さん! 今回は彼らだった! しかし! この場の誰にもここに立つ可能性はあった! 競い合い……高め合い……次代のヒーロー達は確実に芽を伸ばしている!!」

 

 オールマイトは腕を高らかに上げ「皆さんご唱和下さい」と叫び、会場中の心が一つとなった。

 

――せーの!!!

 

『プルス・ウル――』

 

「お疲れ様でしたぁ!!!!」

 

『ええぇぇぇぇッ!!!?』

 

 まさかの言葉。ここは校訓だろうとオールマイトに会場中から大ブーイング。

 

「い、いやぁ疲れたかなぁって……HAHAHAHAHA!」

 

 締まらない終わり。しかしそれがどこかオールマイトらしく、ブーイングの中でもそれは大きな笑い声に変わる。

 No.1の彼らしい笑顔での終わり。

 

――英体育祭・閉幕である。 

 

 

▼▼▼

 

 その後、クラスに戻った竜牙達は相澤から二日の休みを聞かされて帰宅。

 そして家に戻った竜牙はと言うと……。

 

「竜牙さん優勝おめでとう~!!」

 

『おめでとう!!』

 

 猫の個性の家政婦――猫折さん率いる家政婦さん達と、そのご家族にお祝いされていた。

 格好良かった。あそこはもっと行けた等、寿司・フライドチキン等のご馳走を食べながらもみくちゃにされていた。

 やがてそれも収まり、自分だけの時間を取ると竜牙は一人、携帯電話ではなく備え付けの電話の前で静かに佇んでいた。

 目的は電話。家族へだ。雷狼竜の件で一皮むけたと竜牙は思っていたが、現実は甘くはなかった。

 そんな竜牙に気づき、家政婦リーダーの猫折さんは声をかけた。

 

「竜牙さん……旦那様達に何か一言だけでもご連絡してはどうでしょうか?」

 

「……俺もそう思ったけど……やっぱり駄目だった。――何も()()()()

 

 変化が《こちら》にもあると思ったが、現実はそうではない。

 もう十年ぐらい会ってもいないのだ。両親の顔すら怪しいレベルであり、そんな遠縁となった家族に何かを想うと言うことがまず無理だ。

 結局、何かを言いたげな猫折さんを残し、竜牙は自室へと戻る。

 

 そしてベッドへ仰向けで倒れると、今日の事を静かに思い出してゆく。

 波乱の障害物競走・騎馬戦・レクレーション・トーナメント。

 雷狼竜の事も踏まえ、思い出すにつれ今になってどっと疲れが出てしまい、冷たいベッドが心地良く感じながら重くなる目蓋を抗うことはなかった。

 

(……そう言えば)

 

 眠る直前、不意に竜牙は思い出した。彼女――耳郎の事を。

 

『ミッドナイト先生じゃなく……うちじゃ駄目……?』

 

 あれはどういう意味で言ったのだろう。竜牙の心にそれが引っ掛かる。

 

(……可愛かった)

 

 男勝り……とまでは言わないが、耳郎にも女子らしいところはあり、あの時の彼女は可愛かった。

 そんな彼女の言葉・あの場の空気から察するに自分に――“好意”があったのではと、竜牙は可能性を考える。

 

――だが竜牙は、それを好意は好意でも()()()()なのではとも悩んでしまった。

 

『ッ!――あんたに“憧れて”んだから思う訳ないじゃん!!!』

 

 原因はこの言葉だ。耳郎の好意は純粋な“憧れ”からの可能性がある。

 もし、それが正しくて異性としての行為と勘違いならば――

 

『えっ――ごめん……うちヒーローとしては良いけど、異性としてはちょっと……』

 

 等と言われでもすれば一番恥ずかしい勘違いであり、次の日から確実に“勘違いに吠える”の二つ名がついてしまい、もう峰田とエロ本交換する事しか楽しみがなくなってしまう。

 

(……俺も男子だな)

 

 眠りに入る意識の中、竜牙は自分がそこは歳相応の男子なのだと自己分析。

 そんな事はとっくに皆が知っているのだが結局、何の答えも出ないまま眠りについてしまった。

 

 

▼▼▼

 

――体育祭から三日目。

 登校日である今日、二日の休みを休息に費やした竜牙はいつも通りに時間帯に家を出た。

 朝は涼しい風が吹き、鳥が鳴いているいつもと変わらぬ朝なのだが……“変化”は突然として起こる。

 

(ん……?)

 

 竜牙は変わらぬ日常に起こった“変化”に気づく。

 

『あれってもしかして……?』

 

『そうよ! 体育祭に出てた!』

 

 道行く人々からの視線や声。それが自分に向けられているのだ。

 まるで有名人にでも出会った様な反応。

 思い出せば雄英体育祭はオリンピックの代わり。結果を残した生徒に反応をするのは仕方なく、更に言えば竜牙は優勝している。

 だからこそ……。 

 

「あ、あの……がんばってください!」

 

「……ありがとう」

 

 こんな風に登校中の小学生達にすら応援されるのだ。

 勿論、応援されることは竜牙も嬉しい。――嬉しいのだが、ここで一つの不安が過る。

 

――電車、無事に乗れるのか?

 

 普通の道でこの反応。満員気味の電車の中ならばどうなるのか。

 

(……問題ない)

 

 嫌な予感が過った竜牙だったが、そこは自意識過剰になっていると思って無理矢理納得させる。

 皆、毎日が忙しい世の中だ。たった一人に意識など向ける筈がない、そう思いながら竜牙は駅へと急ぎ、逃げるように早歩きで移動するのだった。

 

――だが、竜牙はまだ世間の恐ろしさを分かっていなかった。

 

 

▼▼▼

 

 

「……つ……着いた……」

 

 学校に辿り着き、校門の前で肩で息をする竜牙。

 彼の姿はまるで満身創痍の様に疲労しており、長い旅からの帰還の様な疲れた声量で思わず呟いていた。

 

(……甘く見ていた)

 

 大丈夫だろうと高を括っていた竜牙だったが、現実は凄まじかった。

 

『テレビ見たよ!! 優勝おめでとう!』

 

『凄い個性だったね!』

 

『憧れたっス! 握手してください!』

 

『うちの孫が君のファンになっちゃってね……次の駅までお話してくれませんか?』

 

――等の事が満員気味の電車でまきおこり、ハッキリ言えばもみくちゃにされたのだ。

 老若男女。色んな人からの応援や握手。あしらい方など知らない竜牙は出来る限りの対応で対処したのだが、その結果が“クエスト失敗した狩人”の様なありさまだ。

 

――だが大変ではあったが、その分の嬉しさもあった。

 

『格好いい“個性”だったね!』

 

 周りから言われた言葉。それらに沢山の個性に関する声も多く、その全てが受け入れてくれた言葉だった。

 

(……受け入れられている……俺も雷狼竜も)

 

 心の弱さと言えばそれで終わる。

 両親の――過去の事で個性に対し長年抱いていた不安のせいで、世の中からどう見られるかが気になっていた。 

 だが、そんな不安を緑谷達がぶっ壊してくれた。――受け入れられた事実を体験する事が出来た。

 

――君もヒーローになれる!!

 

「……俺のヒーローアカデミアか」

 

 表彰式でオールマイトに言われた言葉。今日、色々な人と触れ合え、受け入れられた事実。

 いつも通っている校門。それがいつもと違うように見える。

 輝いて、そしてどこか清々しいく感じる。

 だから、ようやく竜牙は気づけた。

 

――そうか、俺はスタートラインに立てたんだ。

 

 全てをさらけ出し、本当の自分でヒーローになる。

 それが可能となった今、竜牙は嬉しそうに笑みを浮かべながら校舎の中に入ってゆく。

 

▼▼▼

 

 

 校舎に入った竜牙だったが、向かっている場所は教室ではない。

 少し早めに登校しており、どうしても相談したい事があり――パワーローダー先生がいる開発工房へ来ていた。

 

 目的は純粋な己の弱点――“発電量”に関してだ。

 

 体育祭では上鳴のおかげで充電できたが、超帯電状態を使ったことで決勝ではスッカラカン。

 ハッキリ言えば雷狼竜とは名ばかりとも思える発電量の少なさ。

 肉体は電気に対応できているが、肝心の発電量は少なく日頃から“充電”しなければまともに放電も出来ないのが現実だ。

 力押しでも何とかしているが、やはり強力な武器である電気は常に使える武器にしたい。

 

(……コスチュームにも発電機はある。……だが)

 

 竜牙がこの場に来たもう一つの理由。それはコスチュームの発電機が()()()()()()からだ。

 性能は良くも悪くもないからまだ良い。しかし、サポート会社側が無駄な機能を付けている分重く、性能も活かせない。

 コスチュームの性能は竜牙自ら素材を提供しているので高いが、補助の粗がやはり目立つ。

 

(……要望は書いたんだが)

 

 サポート会社に直して欲しい箇所を伝えているが、発電機だけはやはり大きな動きをする為、耐久性を重んじるとこれ以上の改良は難しいという答えが返ってきた。

 しかし、場合によっては生死に関わる箇所だ。

 悩んだ竜牙は閉会式の後、相澤に相談し、その結果がパワーローダー先生の工房。

 

(……出来れば早めに解決したい)

 

 発電量の問題さえ何とかすれば更に幅が広がる。

 竜牙は内心で解決できるよう、祈る様に工房の扉に手をかけた時だ。 

 

「おや! あなたはいつぞやの!」

 

 不意に竜牙は背後から声を掛けられた。

 聞こえた限りでは声的に女子であり、竜牙が振り向くとそこにいたのは予想通り女子だった。

 桃色の髪・特徴的な瞳。――そう、体育祭の騎馬戦で葉隠組にいたサポート科の女子。

 

「確かサポート課の……桃髪」

 

「発目 明です! あなたは優勝した……すみません名前を忘れました!」

 

「雷狼寺 竜牙だ。……そしてすまないが俺は急いでいる。“装備”の件でパワーローダー先生に用がある。だから失礼する」

 

 竜牙は発目を流し、工房の扉を開けて中に入ろうとした時だった。

 素早く発目が竜牙の前に回り込ん出来た。

 

「装備!? 興味あります!!」

 

「……そうか、良かったな。俺はパワーローダー先生に――」

 

「興味あります!!」

 

 流す竜牙の言葉を無視し、瞳を輝かせながら顔を接近させる発目。

 竜牙は素早く移動して突破しようとするが、発目も負けじと目の前に立ちふさがる。

 

「……出来るな」

 

「何の装備ですか!? 私のベイビー達の出番――」

 

「朝からうるさいぞ……発目……」

 

 工房からゆっくり現れる一人の男性――パワーローダー。

 特殊なマスクを付け、資格を持っている為、自分でアイテムを作れる実力者。

 勿論、コスチュームも弄ることが可能で彼を信頼する生徒は多い。

 

 そしてパワーローダーは鋭い眼光で発目を一睨みすると、そのまま竜牙の方を向いた。

 

「イレイザーから話は聞いているよ……己の発電量を何とかしたいんだったね?」

 

「……はい。サポート会社からの発電機は今後が不安」

 

「うむ……まぁまずは入りなさい……」

 

「では遠慮なく!!」

 

「お前は遠慮しろ……」

 

 慣れているのか、パワーローダーと発目のやり取りに無駄はない。

 いつもあんなやり取りでもしているのかと、やや困惑気味に竜牙は中へと入った。

 

▼▼▼

 

 工房の中にはディスプレイ・工具・機材等が大量にあり、まさに工房と呼べる場所だった。

 その工房内で竜牙は腰かけながらパワーローダーへ事情を話すと、既にコスチュームを見てくれたらしく、パワーローダーは溜息を吐いた。

 

「……確かに無駄が多いな。サポート会社にも当たりハズレはある。今度イレイザーに相談して会社を変えた方が良いな……」

 

「……分かりました。それで本題……どうですか?」

 

「……何とかこの発電機よりも良い物は作れる。だが体育祭でも見たが君の動きに合わせるとなると、やはり耐久性は無視できないな……」

 

 実物とディスプレイを見比べながらパワーローダーは悩むように呟く。

 下手に耐久性を無視し、発電量を大きくしてもそれは危険な爆弾と変わりなく、そんな物を装備させる訳にはいかない。

 竜牙も現実は甘くはないかと悩んでいると……。

 

「ふむふむ……なる程! 体格はガッチリしていますね!!」

 

「……」

 

 竜牙は何故か発目に身体をあちこち触られていた。

 しかし意外にある彼女の二つの果実。それを当てられるのは役得であり、竜牙は無表情で和んでいると発目は何かを考え付いたのか工房の奥に引っ込んで行く。

 そして少し経った後、何やら色々とアイテムを持って現れる。

 

「フッフッフッ……!――話は分かりました! 今こそ私のベイビー達の出番の様ですね!」

 

「いや今回は引っ込んでろ発目」

 

 何やら自信を持って現れた発目だったが、悲しき事にパワーローダーによって一蹴されてしまう。

 

「いえいえ遠慮せずとも!」

 

「いやそうじゃない……お前の今ある発明品はパワードスーツ系だったろ?……なら必要はない」

 

 パワーローダーの言う通り、見た限りでは確かに纏う様なスーツやらばかり。

 竜牙の求める発電機能のあるアイテムには見えなかった。

 しかし発目も引かず「失敗は成功の母です!」等と引く気配を見せず、パワーローダー先生と言い争いを始めてしまう。

 その様子に竜牙はもう諦めてしまい、暇潰しの為に発目の持って来たサポートグッズを眺め始める事にした。

 

「……しかし凄い」

 

 必要ではないが、客観的に見ればどれもこれも細かく作られている。

 少なくとも自分には作れる気はしない。竜牙は分野が違うとはいえ、実物を見たことで発目の凄さを僅かだが理解した時だった。

――グッズの山。その隅に転がっている場違いな“箱状”のグッズに気づく。

 

(……箱?……虫かご?)

 

 まるでそんなデザインの箱。場違いゆえに目立ち、興味本位で竜牙が思わず拾った瞬間。

 

「それが気になりますか!!」

 

「……あぁ、興味本位だ」

 

 突然に発目の意識がこちらに向けられる。

 興味がある事にしか反応しないのか、明らかに食いつき具合に熱意がある。

 しかしパワーローダーは「また始まった」と呟き、面倒そうにマスクを弄っている事からこれも彼女の日常の風景なのだろう。

 竜牙が見つけた箱を掴むと、発目は掲げる様に上げた。

 

「フッフッフッ!……何を隠そうこれは――」

 

「粗悪な“ゴミ箱”だ」

 

 発目の説明を遮り、パワーローダーが割り込む。その表情はどこか機嫌が悪そうだ。

 

「こいつはな……本来、片付けもまともにしない発目の為にせめて屑かごをと思って作ったんだが……こいつは何を思ったのか」 

 

 パワーローダーはそう言うと、近くにあった小さな鉄くずなどを掴み、箱の中へと放り込むと何やら機械音が発生。

 しかしそれは数秒で止み、パワーローダーが箱をデスクの上に置いて蓋を開けた。

 

 すると……箱の中から虫の様に小さな機械が何体も現れ、羽虫の様に飛び回る。

 だがすぐに落下し、動きを停止してしまう。

 

「……これがゴミ箱?」

 

 竜牙は思わず首を傾げる。

 パワーローダーの言葉通りにならこれはゴミ箱なのだが、ゴミを捨てると別の何かが製造される。

 しかもその製造された小型の機械はすぐに動きを停止してしまい、明らかにリサイクルにもなっていなかった。

 

「分かったか? 発目の奴は何を思ったのかこれを勝手に改造しやがって……捨てたゴミを“素材”にして変な物が生まれる箱にしたんだ。案の定、片付けも相変わらずだ……くけけ」

 

「いえいえ! パワーローダー先生! このベイビーは言わば先生との合作。素材によってはもっと活動も出来る小型ロボットになります! 素材は何でも良いのですから私のベイビー達も新たなベイビーとなる素晴らしいベイビーです!」

 

「んな事よりも片付けはどうした? 俺は片付けもする様に言った筈だぞ発目? なんでいつも話を聞かないんだぁ……!」

 

 マイペースな発目にパワーローダーの声質が重くなる。

 どうやら一見散らかっている様に見える工房だが、その大半は発目が原因の様だ。

 集中すれば周りが見えなくなるタイプ。――それが発目という少女。

 パワーローダーとの会話も流している様にも見え、自分本位ここに極まる。

 

 そんな感じでパワーローダーと発目の言い合いをBGMにする竜牙だったが、そんな彼の興味は目の前にある箱に移っていた。

 

(……素材によって変わる?)

 

 竜牙が気になったのはそこだ。

 先程パワーローダーが入れたのは汚れた鉄屑ばかり。それでもまともに動いた事で竜牙にある考えが浮かび、それを実行に移した。

 右手を雷狼竜に変え、そこから鱗・甲殻・体毛の一部を投入。

 箱から機械音が発生するのを確認すると、箱を置いて状況を見守るだけ。

 

――あまりに小さな可能性。だが竜牙の中の本能がザワついていた。

 

 機械音が止まり、竜牙がゆっくりと蓋を開けた。

 

 そこから現れたのは――見た事のない形状。虫の様な姿だが、問題はここから。

 いつの間にか、パワーローダーと発目も竜牙の行っている事を見ており、好奇心によって目が離せないでいる。

 明らかに鉄屑と雷狼竜の素材の差。それによって何かが変わった。

 次々と出て来る虫型。飛び回るのは変わらないが、その変化はすぐに起こった。

 

――光った……!

 

 竜牙は驚いた。目の前の虫型達が蛍の様に光り始めたのだ。

 同時にパチッという静電気の様な音を捉える。だがそれだけで終わらなかった。

 まるで自分達の居場所が分かっている様に竜牙の、雷狼竜の腕へ集まる虫型達。

 

 そして現れた全てが腕に集まると、共鳴する様に“発電”・“放電”をし始めたのだ。

 

「これは……!」

 

 発目は己の個性『ズーム』を使い、竜牙に集まる虫型の一匹をロックオンした。

 発電と放電を行う謎の虫型の行動は徐々に活発になってゆき、竜牙の右腕も甲殻や体毛が変化する程に電力が高まっていた。

 一匹二匹では効果は薄い。しかし数が増えるごとに効果は増し、この小ささでこれだ。

 重量のない分、発電機よりも効率が良い。

 

「パワーローダー先生、発目……これを俺に下さい」

 

 竜牙は確信する。

 これは自分に適応したサポートグッズだと。

 

「くけけ……まさかこんな使い方が出来るとはな。俺は構わないがぁ……発目はどうなんだ?」

 

 新たな発見に嬉しそうなパワーローダーだが、持ち主は発目。

 選択が委ねられるのは彼女にだ。

 しかし、発目は話を聞いていない様に立ったまま。パワーローダーが「まただ……」と言って発目の頭をポンっと叩こうとした時だった。

 発目がいきなり動き出し、竜牙に接近して彼の雷狼竜の腕を掴む。

 そして――

 

「雷狼寺さんでしたね!――あなたの素材を私に提供してください!!」

 

「これくれるなら良いよ」

 

 満面の笑みを浮かべる発目の願いに竜牙は頷くと、互いに握手を交わす姿は商談を成立させた営業マンだ。

 

 その後、パワーローダーがコスチュームを提携している事務所に提出し、コスチュームに箱型――“雷光虫の巣”と名付けられたグッズを装備させる様にする。

 そして、発目に素材を大量に提供して話は纏まったのだった。

 

――ちなみにこの時、竜牙がパワーローダーと発目と連絡先を交換したのは余談である。

 

 

 

END




オリキャラ:猫折さん(ねおり)
 
個性:猫

大勢の家族や親類で経営している家政婦派遣会社から来ている人。
長年に渡り、雷狼寺家に仕えている家政婦さんであり、竜牙の良き理解者であり事実上の育ての親である。
両親と竜牙の両方の事情を知っている唯一の人物でもあり、竜牙の家族仲をずっと心配している。
だが同時に竜牙を実の子の様にも見ており、雄英入学などを大いに嬉しく思っている。
因みに三児の母でもある。

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