僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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息抜きも出来たんで、そろそろペルソナ4の執筆に戻りますね_(:3」∠)_


第二十一話:明かされぬ答え

 保須総合病院。そこは竜牙達が運ばれた病院であり、その中の優遇された特別病室で竜牙は眠っていた。

 全身を治療し、包帯やギブス等で包んだ竜牙をリカバリーガールが傍で見ている。他にはグラントリノ、警察の『塚内』という男の計三人。

 担当だったリューキュウは外に出されており、その理由である男もようやく到着した。

 

「ハァ! ハァ!――雷狼寺少年の容体は!?」

 

 病室の扉を勢いよく開けてその男――オールマイトが入ってきた。

 息は乱れており、急いで来たのは目に見えて明らかだが、それでも1時間は過ぎている。

 

「遅いわ! 俊典!!」

 

「ひぃ!! すみませんグラントリノ!!……や、やべぇ震えが止まらねぇよ……!!」

 

「あんた達、ここは病室だよ? 静かにしな!」

 

「二人共、それどころじゃないだろ?」

 

 オールマイトのトラウマであるグラントリノ。伊達に嘗ての彼をシバいて吐かせまくっただけはあり、オールマイトは震えがある。

 そんな二人をリカバリーガールと塚内が呆れながらも止めに入ると、オールマイトはハッと我に返った。

 

「そうだった!……リカバリーガール、雷狼寺少年の容体は!?」

 

「……目立った怪我は両足と左腕の骨折や打撲ぐらいだね。まぁ見た目より命に別状はないよぉ」

 

「そうですか……」

 

 リカバリーガールの診断にオールマイトは安心するが、その表情は晴れない。寧ろ、深刻そうに嫌な汗を流し続けながら、意を決して更に問いかけた。

 

「……それで“個性”の方は?」

 

 その問いに病室の空気が重くなったのは気のせいではないだろう。

 塚内が診断結果を手に持ち、それを口にするまでの間が凄く長い時間に感じて仕方がない。

 

「結果を言えば――」

 

 オールマイトは思わず息を呑んだ。今回の件に関わっているヴィラン――それが自分達の思っている通りの相手ならば、竜牙の個性は既に――。

 結果はまだなのに、オールマイトが無意識のうちに拳を握り締めた時、塚内がその答えを口にした。

 

「雷狼寺くんの個性は――()()()()()()()

 

「ナッ!?――馬鹿な……ありえん……!――何故だ? 奴ならば間違いなく雷狼寺少年の個性を奪う筈だ!!」

 

「落ち着け俊典!……気持ちは分かるがな」

 

 狼狽える様に叫ぶオールマイトをグラントリノが抑える事で、オールマイトは拳を全力で握り締めながら感情を抑えた。

 そして、自分が最も抱いている疑問を口にした。

 

「本当に奴が――『オール・フォー・ワン』が動き出したのですか?」

 

「……信じたくねぇが間違いないだろ」

 

「あの怪我でよもや生きていたとは……!」

 

 五年前、終止符を打ったと思っていた因縁の相手。

 その存在がグラントリノからの電話で知らされたのは丁度一時間前であり、遅れた理由でもある。

 己同様に“カリスマ”を持ち、グラントリノすら戦慄させたステイン。彼の存在に感化される者は必ず現れ、その受け皿が『敵連合』であり、思想ある集団へと開花してしまう。

 そして、そんな外堀を埋めるようなやり方をする者を二人は知っている。

 

――この絵を描いた者こそが。

 

「オール・フォー・ワン……!」

 

「雷狼寺くんも意識が失うまでずっと呟いていたよ。――“みんなはひとりのために”ってね……」

 

「むぅ……!!」

 

 オールマイトは塚内の言葉に堪えそうにない怒りを覚えた。

 オール・フォー・ワンはオールマイトの恩師を殺害しており、しかも今度は竜牙の様な少年にも手を出した事に怒りを覚えると同時、オールマイトは自分にも怒りを抱いた。

 

「なんと情けない……!! 教え子すら守れずに何が“平和の象徴”か!!」

 

「仕方ないさ……こうなるなんて誰も分からないからね。――取り敢えず、この坊やの命があった事を今は喜びな」

 

「……そうですね。――そういえば彼の担当のリューキュウは? 彼女はどうなるんですか?」

 

 冷静になった事で視野が広がり、オールマイトは問題を一つずつ理解する事にすると、まずは担当のリューキュウの事を問いかけた。

 事前にグラントリノから給料半分やらの処分が下されるとは聞いていたが、竜牙の場合はそれ以上の失態でもあってリューキュウの処分は変わるかもしれない。

 しかし、相手はあのオール・フォー・ワン。奴が相手だったのだから仕方ないといえ、オールマイトは心配になったのだ。

 すると塚内はやや悩むような表情を浮かべながら話し出した。

 

「最初……彼女は責任を取ってヒーロー自体を辞職しようとしてたんだ」

 

「ムッ!? それはいけない! 奴が表に出るならば一人でも優秀なヒーローが必要になる!」

 

「ああ。こちらも同意見だ。だからどうにか説得してグラントリノ達と同じ処分にしてもらった」

 

 オールマイトは安心した。

 受け入れた子に大怪我をさせてしまったのだ。責任を重んじ、リューキュウ自身も傷付いただろう。

 そんな彼女の想いを捻じ曲げるようで申し訳ないが、それでも今は優秀なヒーローを失う訳にはいかない。

 

「そうか……」

 

 教え子の無事・トップヒーローの引退回避。

 色々と情報を整理できた事で安心したのか、オールマイトは息を吐きながら近くの椅子に腰を掛けて気付いた。

 椅子は備え付けの割にはフカフカで、病室はとても広く、中々に豪華で快適なのだ。

 

「今、気付いたが……凄い病室だね。緑谷少年達は一般の病室なのに何故、雷狼寺少年だけ?」

 

「ああ……それは助けた双子の両親が坊主の為に用意したんだ」

 

「助けたお礼って事ですか?」

 

 竜牙が双子の女の子達を助けた事もオールマイトは聞いており、そのお礼なのかと思ったがグラントリノ達の表情から察するに違う様子。

 

「……そうじゃねぇんだ。その助けた双子がなぁ」

 

「――雷狼寺ルナ・雷狼寺ミカ。どっちも五歳の女の子だけど、気付かないかい?」

 

「ん?――雷狼寺って……まさか?」

 

 グラントリノと塚内の話す内容にオールマイトも気付き、グラントリノは頷く。

 

「助けた相手が実の妹だったとはな」

 

「そうだったのですか……しかし、確か雷狼寺少年は――」

 

 オールマイトは竜牙の読んだ限りの資料を思い出すと、どういう事かとリカバリーガールへ視線を送ると、リカバリーガールは冷静な様子で頷いていた。

 

「……まぁ家族の縁なんて当人達が思う程、簡単に切れるもんじゃないさ。後ろめたいからこそ、可愛く思えて仕方ないのかもね」

 

 伊達に長く生きておらず、全てを見透かしたようにリカバリーガールは語る。

 事実、双子を保護して両親も病院で合流すると、助けたのが竜牙だとすぐに伝わる事になった。

 そしてその事実にミキリ達、両親は複雑な表情しながら竜牙をこの特別病室に入れさせたのだが、その真意までは誰にも分からない。

 ただの罪悪感や恐怖なのか、それともリカバリーガールの言う通りなのか。誰にも……。

 

「では……雷狼寺少年のご両親は?」

 

「娘さん達も念の為に入院しているからね。別の特別病室に母親は付いているらしいが、父親は多忙らしく一旦ここに顔を出してから帰ってしまったよ」

 

 塚内の言葉にオールマイトは不思議な気持ちを抱く。

 竜牙が実家とは個性の件で疎遠なのを知っているからか、その竜牙の両親の行動が心配している親に思える。

 オールマイトは体育祭で皆の心を燃やさせ、いつかは自分すら超えると言ってくれた竜牙がどうか幸せにあってもらいたいと願った。

 そして「そうか……」と呟いて納得するが、冷静になった事でいよいよ理解できない事が浮き彫りとなる。

 

「しかし、いよいよ分からない。奴は何故、雷狼寺少年から個性を奪わなかった。――いや、それ以前に何故に雷狼寺少年へ接触を……!」

 

「さてね……ただ坊やは体育祭で活躍したからねぇ」

 

「グラントリノ達から聞いた脳無の動きを聞く限りでも、明らかに雷狼寺くんに接触する気だった可能性が高い。……しかし、オール・フォー・ワンが雷狼寺くんを知れるタイミングで可能性があるのはやはり体育祭」

 

「それで個性を知ったから接触を……?」

 

 リカバリーガールと塚内の言葉にオールマイトは頷きそうになるが、すぐに払った。

 もし体育祭で竜牙を見たの理由ならば、尚更に目的は個性だろう。

 しかも、脳無を使ってまで誘き寄せたのだ。ただ生徒を襲撃するなんてオール・フォー・ワンからすれば無意味な行動にしかない。

 教師になった自分へ対する宣戦布告ならば少しは可能性は高くなるが、やはり違和感が残る。

 

(奴め……何を企んでいる?)

 

 考えれば考える程、オールマイトは袋小路に追いやられている様で悩む。

 今までもオール・フォー・ワンのせいでこんな気分になった事がいくつもあった。

 組んだ両手を額に付け、オールマイトが深く悩んだ時だった。

 

「……もしかしたらって可能性なんだが。この小僧、一度オール・フォー・ワンと会ってんじゃねぇか?」

 

「グラントリノ、何故そんなことを?」

 

 突然に近いグラントリノの言葉にオールマイトも、二人も雰囲気が鋭くなった。

 

「覚えてっか俊典……五年前、奴と戦った時のことを」

 

 忘れる訳がない。その時に自分は腹に穴を空けられ、ヒーロー生命が断たれた様なものだ。

 オールマイトはそれを鮮明に思い出し、深く頷くとグラントリノは続けた。

 

「じゃあ……これも覚えてっか? 奴の腹部にあった――」

 

――でかい獣にでも付けられた様な“傷痕”をよ。

 

「傷痕……?」

 

 その言葉を聞いてオールマイトは無意識に記憶を遡り、オール・フォー・ワンとの戦いを思い出した。

 詰め将棋の様な一つの間違いが手遅れとなる、まさに生死を賭けた死闘であったのは間違いない。

 当時は他の事に意識を向ける余裕はなかったが、オール・フォー・ワンの事ならば忘れる筈もなく、記憶の光景が写す中でオールマイトはその“傷痕”を探していると、ある光景が過る。

 それはオールマイトが拳を振り上げ、オール・フォー・ワンを吹き飛ばした時だ。

 相手の服が吹き飛んだ時、その腹部に確かにあった。獣が付けた様な傷跡が。

 

「あった……確かにあった! 奴の腹部に三本線の傷が!?」

 

 一度思い出せば後は簡単だ。

 肉を抉られた痛々しい治り方をした傷が確かにオール・フォー・ワンの腹部にあった。その事を思い出したオールマイトだったが、同時にグラントリノの意図に気付いた。

 

「まさかグラントリノ……あなたはあの傷は雷狼寺少年が付けたものだと?」

 

「無理矢理だが、それしか接点を繋げるもんがねぇんだよ」

 

「確かにそうですが……しかしそうなると雷狼寺少年は過去に事件に巻き込まれた?――いや例えそうでも、雷狼寺少年では奴に傷を負わせることはできない。あなたも体育祭で彼を見ていて分かってる筈です!」

 

 汗を流し、焦った様子でオールマイトは言った。

 確かに威圧感で圧倒的な力の差を見せた雷狼竜だったが、その弱点もあった。

 しかし、グラントリノもそれは承知の上の様に頷きながら言い返す。 

 

「分かってる……確かに雷狼竜は凄まじかった。――だがその分、攻撃の一つ一つの後に必ず隙があった。あんな動きじゃ、オール・フォー・ワンには通用しない」

 

「理解した上でしたか……」

 

「当たり前だ! 儂はまだボケとらんわ!!――また吐かすぞ俊典!!」

 

「ヒィィィィ……!!――ゴホッ! ゴホッ!」

 

 グラントリノの怒りの言葉にオールマイトの足が震えあがった。

 大のマッチョをここまでビビらせる。小柄な老人であるグラントリノの底は知れない。

 すると、そんなオールマイトとグラントリノの話を聞いていた塚内は、まるで納得したような表情である資料の束を鞄から取り出した。

 

「もしやと思い、持ってきて正解だったようだ。オールマイト、これを見てくれないか?」

 

「これは……『個性制御研究所・爆発事故』に関するまとめ?」

 

 渡された資料をペラペラとめくりながらオールマイトは真剣に読み始める。

 内容はある研究所の爆発事故の資料で、関係者・事故現場写真等がまとめられていた。

 個性制御の研究所。その手の施設はオールマイトも知っていた。世の中には強すぎる個性や制御が難しい個性の子供も多く、その制御を手伝う施設。

 大学や病院にもあり、時折に個性の制御を間違って事故が起きるのも珍しくない事件内容だ。

 

「この資料がどうしたと言うんだ……?」

 

 オールマイトはタイミング的に違和感しかなかったが、塚内が意味もなくこの資料を準備するとも思えず、慎重に資料を見ていた時だった。

 “関係者”のページで腕が止まった。

 

「これは……」

 

――雷狼寺 竜牙(5才)

 

 見覚えのある名前があった。目の前で眠っている少年の名前だ。

 これがどういう意味を現しているのか疑問を抱き、塚内へ顔を向けると彼はしっかりと頷いた。

 

「うん。この研究所爆発事故に彼は関わっているんだ。――しかしこの事故はおかしな点がいくつもあったらしいんだ」

 

「どういう事だ……?」

 

 グラントリノも険しい表情で聞き返す。

 事故は事故。事件性もなく、オール・フォー・ワンとの関係は極めて薄く感じるが塚内は話し始めた。

 

「この事故なんですが、当時に担当していた方から話を聞きました。すると色々と分かりました」

 

 塚内はそう言って説明を始めた。

 担当してい者曰く、爆発の割には発生場所が分からず、機材や建物の残骸にもこれと言った痕跡もなかった事。

 聞き込みでは、爆発音ではなく獣の様な声・雷が落ちた様な轟音しか聞いていない事。

 そして挙句には――

 

「どうやら“雷狼寺グループ”から圧力があって早々に事故で片づけられたらしい。――変じゃないか? ただの事故なら夫婦も彼も被害者でしかないのに、なんで圧力をかけるんだ?」

 

「この獣の声と轟音も気になるな……まるで――」

 

 塚内の説明にグラントリノは竜牙を見つめる。

 獣と雷の轟音――明らかに雷狼竜に共通していたのだ。

 

「雷狼寺夫妻は何か隠したかったのかい?」

 

「僕はそう思っている。それに話はまだ終わりじゃなく……竜牙君の個性制御に関わっていた研究員の助手が研究所より少し離れた場所で“殺害”されていた様なんだ」

 

「殺害!?……ただの事故ではないのか?――それにしてもよくこんな準備ができたね?」

 

「話を聞いて少しでも情報を探る為に警察のデータを漁ったんだ。そしたら出て来たのがこの事故だった」

 

「……そうか。――どちらにしろ、雷狼寺夫妻とこの研究所の関係者に話を聞くべきだろう」

 

「そう思ってたけど、夫妻は娘さんの件で話どころじゃない。ただ研究所の所長さんには話が聞けそうだよ」

 

 微かな喜びを浮かべる塚内の言葉にオールマイトは「流石だ」と呟く。

 行動も早く、そして優秀な友人なのがこの塚内だ。オールマイトにとっても自慢の一つ。

 どうやらこの謎は塚内が引き取ってくれるようで、オールマイトは肩の力を抜くことができた。

 これで一旦は話が終わり、オールマイトは一先ず竜牙の無事を喜ぶ事にした時だった。

 

「話は終わってないぞ俊典」

 

「グラントリノ……?」

 

 目を鋭くし、重い空気を切り裂くようにグラントリノが言った。

 

「テレビで見てずっと気になってんだ。この坊主の武器を作る能力……それって雷狼竜の個性とは違うんじゃねぇのか?」

 

「……と言うと?」

 

 オールマイトは聞き返す。しかし表情は苦しそうにし、額からは汗を貯めいていた。

 本当は何を言いたいのか分かっている。だがオールマイトはそれを受け入れることは出来なかった。

 グラントリノが言いたい事、それは雷狼竜と武器の製作は別々の個性だと言う事だ。

 つまりは――

 

「この坊主……オール・フォー・ワンから個性を()()()()()んじゃねぇのか?――【ヴィラン側】としてよ」

 

「なっ!?――グラントリノ!」

 

 オールマイトは力強く立ち上がり、グラントリノへ食って掛かった。――両足が生まれたての子ヤギの様にプルプルさせながら。

 

「あなたは分からないでしょうが……雷狼寺少年はいつか私を超えたいと! 皆を私の様に守りたいと言ってくれたんです!――彼は緑谷少年と同じ、将来に皆を救ってくれるヒーローになるんだ! あの時の瞳に嘘はなかった!」

 

「例えその時はそうであっても……奴には歪んだカリスマもある。それ魅せられてたらどうする? 洗脳って可能性もあるぞ?――目を覚ましたらヴィランになっていた……じゃ笑えねぇんだぞ?」

 

「私は雷狼寺少年を信じる!――彼は友の為にヒーロー殺しへ挑めるヒーローです!」

 

 グラントリノの言いたい事も分かると、オールマイトは理解していた。

 実際、そうやってオール・フォー・ワンは手駒を増やしていたからだ。

 しかしオールマイトはそれを否定する。己が平和の象徴だから、皆を信じているからこそオールマイトはNO.1ヒーローなのだ。

 そんなオールマイトの姿にどう思ったのか分からない。だがグラントリノは静かに椅子から腰を上げると、病室を出ていこうとする。

 

「小僧の様子を見てくるぜ……だが忘れるなよ俊典?」

 

――次は腹に穴を空けられる程度じゃ済まねぇぞ?

 

 そう言ってグラントリノが病室を出て行った直後だ。

 オールマイトの肉体から煙が放出され、それが晴れるとそこには筋肉に包まれたオールマイトの姿はなかった。

 いたのは骨の様にガリガリな姿をした男――オールマイト・トゥルーフォームだ。

 本来の姿となってしまったオールマイトはその場で膝をついてしまう。

 

「ゴホッ……ゴホッ!」

 

 咳をし続け、抑える手には血がこびり付いていた。

 これが今の平和の象徴。殆どの者が知らない真実であり、知っている数少ない人物達のリカバリーガールと塚内が傍へ駆け寄った。

 

「全く無理するんじゃないよ……」

 

「大丈夫かい?」

 

「あぁ……大丈夫さぁ」

 

 こんな所で倒れている場合ではない。

 オールマイトはゆっくりと立ち上がると、眠っている竜牙の傍へと行く。

 包帯に包まれた姿はどこか、嘗ての自分を彷彿とさせる。

 一歩間違えれば、竜牙が自分の様になっていかもしれない。そう思うと、オールマイトは無意識のうちに力が入って仕方がなかった。

 

(……彼等の未来にオール・フォー・ワン、貴様は必要ない。必ず私の命に代えても終わらせるぞ……!)

 

 その決意を胸に抱き、オールマイト達もやがて病室を後にする。

 そんな明かりが消え、暗くなる病室の中で静かになると同時に動き始める物体があった。

 蛍の様に光ながら飛び回る虫達は、ゆっくりと眠っている竜牙の身体に纏わりつき始め、再び発光を始めると竜牙の身体に変化が起こる。

 

 身体の一部一部が鱗に変化するが、その鱗の色は通常時と違う色。エメラルドの様な緑ではなく“白”だ。

 真っ白な鱗。そして虫達の発光に応えるように竜牙の傷は徐々に消えてゆく。

 それはその夜の間、ずっと行われた。ずっと、ずっと……まるで命の輝きを竜牙へと送る様に。

 

 

▼▼▼

 

 

 モニターや色んな精密機械がある暗い部屋に二人の男がいた。

 その内の一人は眼鏡を付けた老人で、その老人はもう一人の男を特殊な椅子に座らせ、身体や首・喉にチューブを差し込ん行く。

 そう、この二人は竜牙を襲った男達だ。

 

「さてこれで良い。――それにしても先生も不思議な事をする。なんであの子供の個性を奪わなかったんだ?」

 

『ハハハ……彼はそう言うのじゃないんだよドクター。彼はヒーローとも違う特別な存在なんだ』

 

「なるほど……いずれは“こちら側”に来るって事かい」

 

 ドクターはそう言って先生と呼んだ男の言葉に納得し、再び医療機器を操作し始めた。

 だが男はドクターの言葉に大きく笑い出す。

 

「ハハハ!……違うよ……違うんだよドクター。彼はヴィランでもないんだよ。ドクターは知らないだろうけど――」

 

 久し振りに聞いた懐かしき咆哮と殺気。しかし、それは望んだ姿ではない。

 彼はもっと動ける。もっと強い存在だ。

 そう思いながら己の腹部を撫でて、男は愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「あぁ……ドクターにも見せたかったよ。あんな安っぽく、脆弱な雷ではない――」

 

――大気すら轟かす金色の雷を……全てを壊す白銀の咆哮を……!

 

「アァァァ……!――もう見れないのは残念だけど……彼には頑張ってもらわなきゃねぇ……!」

 

――弔の成長の為にも。

 

 その日、その部屋にはずっと男の笑い声が響き渡っていた。

 

 

 

 

END


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