僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

25 / 54
お久しぶりです(;´・ω・)

現実が忙しく、書く余裕がありませんでした。
忙しくなる割に待遇は変わらず、暗く辛いニュースばかりで、色々と不安になる今日この頃。

――ペルソナ無双的なのが、マジで出るとは……(;゚Д゚)


第二十四話:開幕、演習試験

 オールマイトの授業も終わり、時間は放課後。

 各々は帰宅する者達、帰りにどこかに寄ろうとする者達に分かれていた。

 

「この後どうする? 前の反省会みたいにどこかに寄るか?」

 

 そう皆に提案したのは障子だった。

 今日の授業の反省会、職場体験での事。それらを皆から話し合うには、流石に学校の休み時間では足りないのだ。

 そして、その想いは皆もみ同じだったのだろう。

 皆、嬉しそうな顔をしながら次々と手を上げ始めた。

 

「あっ、ウチ行きたい」

 

「オイラも行くぜ!」

 

「私も行く~!」

 

「待て待て! 俺も行くって!」

 

 耳郎を筆頭に、峰田・芦戸・上鳴も手を上げて行くと、他の者達も手を上げる者が増えて行った時だ。

 その輪に入ろうとせず、荷物を纏めて教室を去ろうとする者が一人。――竜牙だ。

 それに耳郎が気付き、彼女はそんな竜牙を呼び止めた。

 

「あっ、雷狼寺はどうすんの? 色々と聞きたいから、良かったら――」

 

「用がある……」

 

 彼女の呼び止める声に、竜牙はそれだけ言って見向きもせずに教室から出て行こうとする。

 そんな彼の姿に、耳郎は呆気になって「あっ……」とだけしか声が出ず、再び呼び止めるタイミングを逃してしまった。

 そして、その竜牙の態度がとうとう他の者にも異変を知らせる事となる。

 

「な、なぁ?……なんか雷狼寺の奴、少し変じゃないか?」

 

「う、うん……なんか怖かったよね?」

 

 上鳴と葉隠が冷や汗を流しながら、どこか困惑気味に去っていった竜牙の方を指差してそう言った。

 

 体験明けだから雰囲気が変わったと思った者達だったが、それでも所詮は一週間しか経っていない。

 だから周りも竜牙の雰囲気が確実に変わった事に気付けたのだ。

 

「変わったといや……今日、雷狼寺の腕って黒かったよな?」

 

「むっ……確かに、鮮血で染めし闇の腕だったな」

 

 切島や常闇の二人は今の光景よりも、先程の授業での竜牙を思い出して異変と結び付けた。

 竜牙の動きに気を取られ疎かになっていたが、今までの雷狼竜とは違う腕の変化は無視できるものではなかった。

 

「確かにいつもの雷狼寺さんらしくありませんでしたわ。様子もそうでしたが、ずっと何か考え事でもしているかの様に周囲に無頓着でしたわ」

 

「職場体験で何かあったのかしら?」

 

 八百万と蛙吹も相談するが、やはり考えられるのは前日までの職場体験しかない。

 だが彼等にはそれ以上の発想はない。

 

 職場体験での問題。

――それはヒーロー殺しの一件。情報規制でそれしか聞いていない彼等には、既にそれはエンデヴァーとリューキュウによって解決している認識であり、竜牙の異変の原因とは誰も思っていなかった。

 

 だが、緑谷達は別だ。

 

 緑谷・轟・飯田は口には出さなかったが、三人共表情は暗く下を向いたままだ。

 先程まで三人の中では轟だけが竜牙の異変に気付いたが、今の光景で緑谷と飯田も気付いてしまったのだ。

――しかし、緑谷だけは更に特別。昼休みにオールマイトから聞いた“内容”がその理由だ。

 

 

(雷狼寺くんの変化……その理由はきっと――)

 

【オール・フォー・ワン】

 

 

▼▼▼

 

 緑谷はオールマイトから全てを聞いた。

 彼とオールマイトの個性『ワン・フォー・オール』の原点。

 その原点に潜む巨悪――オール・フォー・ワンの存在を。

 

『ワン・フォー・オールは……謂わば、オール・フォー・ワンを倒す為に受け継がれた力なのさ』

 

 いつもの雰囲気ではなく、真剣過ぎた事で重くなった空気。

 そんな空間を作り、そして座りながら語るオールマイトの姿もあって緑谷は話してもらった言葉を全て覚えていた。

――竜牙の一件もその会話の中の一つ。

 

『ハッキリと言っておこう。……緑谷少年、既に奴は動き出している。――更に言うなら、奴は一人の生徒へ接触する為に脳無を引き連れ、そして大きな傷を与えたんだ』

 

『ま、待ってくださいオールマイト!――脳無を引き連れて一人の生徒に接触って、それってまさか……!』

 

 緑谷は一つ一つを意味深に語るオールマイトの言葉に対し、身体を乗り出して問い詰めるかの様な姿で聞き返していた。

 

――()()()()()()()()()()()()と接触。

 

 その内容を聞けば、意味深にせずとも緑谷も気付く。

 身を乗り出す緑谷の姿に、オールマイトは申し訳ない――否、後悔するように苦痛の表情を浮かべながらその重い口を開いた。 

 

『……そうだ。オール・フォー・ワンが接触した生徒、それは“雷狼寺”少年の事なんだ……!』

 

 オールマイトは自分の知っている事を全て話した。

 理由は分からない。目的も分からない。

 それでも、オール・フォー・ワンが竜牙に接触した可能性はあまりにも大きく、目を付けられているかもしれない。

 オールマイトはその事を緑谷へ言い終え、聞き終えた緑谷もどう反応すればよいか分からず、嫌な汗を流しながら困惑を隠せないでいた。

 

――しかし、それだけではなかった。オールマイトの話は。

 

『私が気になっているのはそれだけではないんだ。今日の授業で私は、雷狼寺少年の目を見て……恐怖したよ』

 

 体育祭表彰式で見た竜牙の瞳。

 それは希望に満ちた瞳であり、お世辞抜きでオールマイトは竜牙に偉大なるヒーローの姿を重ねたのだ。

 

 だが、先程の授業で見た竜牙の瞳は別物となっていた。

 ヒーロー故に持ちし信念・誇り・良心等の善なる――否、人として持ちし物を全て捨てたかのような狂気の瞳。

 

――堕ちた(雷狼竜)としか言えない。その瞳は。

 

『奴が彼に何かしたのか……奴との接触で変わってしまったのか。それは私にも分からない。――だが! 今の彼の進もうとしている道は間違っている事は私にも分かる!――止めねばならないんだ。緑谷少年!』

 

 

▼▼▼

 

「……オールマイト、僕は――」

 

 緑谷はオールマイトからの真剣な言葉と表情を思い出す。

 しかし、そこから前には進めなかった。

 どうすれば良い? 何て言えば良い?

 緑谷は迷いに迷っていた。――轟の時とは違い、明確な情報が少なすぎるし制限もあるからだ。

 オール・フォー・ワンの存在がカギだが、それに対して竜牙にどう話せばよいか分からず、更にはこれは誰にも言えない事。

 

 そんな事を考えながら、緑谷が顔を下に向けながら真剣な表情で悩んでいた時だった。

 

――ここで一人の男が立ち上がった。

 

「ふっ……仕方ねぇな。俺の出番か?」

 

「み、峰田ぁっ!?」

 

 上鳴が彼の名前を叫ぶと同時、峰田は皆まで言うなと言わんばかりに立ち上がると、己の鞄に手を突っ込み、ガサゴソと漁りながら話し始めた。 

 

「ふっ……情けねぇ連中だぜ。一週間でちょっと雷狼寺が変わって、帰りを断られただけでこのありさま。――そこでよく見てな。この真の友である峰田様の雄姿を!」

 

 そうハッキリと言い切る峰田の姿はまるで、新米ハンター達の成長を見守る熟練ハンターのそれだった。

 そんな謎の圧倒的、余裕の姿に耳郎達は今までで感じたことのない様な信頼感を抱いてしまう。

 セクハラを生業とする峰田が、八百万の尻に抱き着き、ジャンプして真上から葉隠の下着を覗く、あの峰田が今は途轍もなく頼りに見えるのだ。

 そして同時に不思議でもあった。何故、孤高の雰囲気を醸し出し、黒い雷狼竜の腕を出す竜牙に対し、峰田は心を一切乱さないのか。

 

――それは峰田が竜牙にとって本当に親友の分類であるからだ。

 

 実はこのクラスの中で、竜牙の家に行った事があるのは何を隠そう、この峰田だけ。

 期間は短くとも、ムッツリを極めた男子と性欲を極めた男子が友情を結んだ結果、それは濃い友情を結んでしまった。

 エロ本のトレードから、DVD等の交換も行っており、少なくとも峰田は竜牙の性癖の7割は把握している。

 

 因みに余談だが、竜牙が峰田の次にこの手の友情を結んでいるのは意外にも上鳴ではなく、轟であったりしている。

 轟が真なる意味で同志になる日も近い。

 

 そして話は戻り、そんな峰田が竜牙になにをしようと言うのか。

 周りが思わず息を呑む中、峰田は鞄からある物を取り出し、そして――

 

「お~い! 雷狼寺!!――俺とお前が推してた異形系アイドルがとうとう脱いだぞっ!!」

 

『異形系淫乱録~駄目、角ばっかりいじらないで♡~』

 

 ほぼ半裸の異形系女性のパッケージのDVDを掲げながら、峰田は竜牙の下へと駆け寄った。

 そして同時に、その光景にA組の大半がズッコけた。

 

「何が俺の出番か?――だぁ!!?」

 

「ただのエロDVDだろ!」

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

「やっぱり最低だわ……!」

 

「なんてものを持ってきているんだ峰田君!! ここは学校だぞ! なのにそんな破廉恥なものを……君は恥ずかしくないのか!」

 

 切島・障子は怒り、八百万は貌を真っ赤にして叫び、耳郎は極限まで軽蔑した目で峰田を見つめ、委員長の飯田はそんな峰田へ当然の注意を訴えた。

 しかし、相手は峰田。性欲の権化である彼にはそんな正論は無意味でしかなかった。

 

「うるせぇっ!! テメェ等、誰一人として賢者ぶってんじゃねえ!! 男も女も万国共通で本性はドエロなんだよぉ!! だから俺等は今、ここに存在してんのを忘れんなっ!!」

 

「おい馬鹿止めろ!?」

 

 血涙を流す峰田は一切怯まずにそう叫び、それを聞いた上鳴が流石に聞くのも気まずい内容に待ったを掛けた。

 高校生にもなって――否、高校生になった故に両親の“ナニ”に関する話なんて聞きたくない。

 現に案の定、クラスの雰囲気は竜牙の異変以上に気まずい感じになり、誰一人として目すら合わせない。

 轟に関してなんか、何故かエンデヴァーのキーホルダーに唾すら吐いていた。

 

 だが、そんなクラスの雰囲気なんてなんのその。

 峰田からすれば、友である竜牙の異変に何も出来ない連中に代わり、この親友(同志)である己が立ち上がったのにこの扱いだ。

 故に峰田は悲しみ、そして猛りを抱く。

 その気持ちは、関ヶ原で徳川に着いた福島正則・加藤清正を見る石田三成の様な思いだ。

 大一大マン〇大好き。――それを旗印として掲げた峰田は親友の下へ走り出す。

 

「ケッ!――雷狼寺はオイラが止めたらぁ! お前等なんか勝手に真面目のふりして、誕生日から266日逆算した日に両親の間に何があったか想像してろ!」

 

「だから止めろその言い方!!?」

 

「ほんっとに最低……!」

 

「……ケロ。最低以外の言葉が出ないわ峰田ちゃん」

 

 顔面蒼白の上鳴が叫び、芦戸と蛙吹がゴミを見る目で峰田を見つめるが、当の峰田は竜牙の横で急停止して辿り着き、そのままDVDを竜牙へと掲げた。

 

「見ろよ雷狼寺!! 俺等の予想通り、とうとうこのアイドルが脱いだぜ!!」

 

「……!」

 

 竜牙の動きが止まった。足を止めたのだ。

 そして、まるで磁石の様に峰田が掲げるDVDに顔の向きを吸い寄せられてしまう。

 

「大丈夫そうじゃないか?」

 

「……うん。ウチの声には一切止まらなかった癖に」

 

 障子と耳郎はそんな見慣れた光景にどこか安心半分、呆れてしまった。

 何だかんだでいつものムッツリ竜牙だ。

 他のメンバーもその光景にどこか一安心し、未だにDVDを掲げながら瞳を輝かせている峰田も手応えを感じていた。

――しかし。

 

「……すまない峰田。それは来週にしてくれ」

 

「……はっ?」

 

 首の向きを直し、そう呟くように言った竜牙はそのまま教室に出て行ってしまった。  

 そんな言葉と姿に、峰田は信じられない様にショックの表情の浮かべ、そのままDVDを落とすと同時に膝を折って沈んでしまう。

 何故に峰田はそこまでショックを受けているのか周りは理解出来なかったが、皆は皆で今の光景で十分安心していた。

 

「やっぱり大丈夫そうか……?」

 

「う~ん、まあ雰囲気にも違和感なかったし……大丈夫そう?」

 

「大丈夫大丈夫! 雷狼寺くんってあんな感じだったって!」

 

「内なる欲望を雷狼寺は制御したと言う事だろう」

 

 障子と耳郎はやや不安を全て拭えなかったが、葉隠や常闇は考え過ぎだと二人を安心させた。

 それで場の空気が融和されるのを皆は感じ取り、轟も今は大丈夫なのかもと思い、取り敢えず解散しようとした時だった。

 

 膝を付いていた峰田が突如、叫びながら立ち上がった。

 

「ちげぇぇぇぇ!! あんなの雷狼寺じゃねえよ!!」

 

「はっ? いや、大体あんな感じだったろ雷狼寺は?」

 

「様子は変だったけどよ、DVDを来週に借りるって言った時点で俺はいつも通りだって安心したぜ?」

 

 峰田の言葉を否定する砂藤と上鳴の言葉に皆も頷くが、当の峰田もその考えを否定した。

 

「だからそれがちげぇんだって!!? 雷狼寺とオイラはな……このアイドルは絶対に脱ぐって、絶対にその方が人気が出るってずっと話してたんだ。――つまりは、このDVDはオイラと雷狼寺の悲願なんだ!」

 

(あっ、確かにあのパッケージのアイドルは……)

 

 ぐしゃぐしゃな泣き顔を晒しながら叫ぶ峰田の言葉を聞き、ここで轟も思い出す。

 この数日、竜牙と轟は親友と呼べる関係を築いており、その時に借りていたグラビア雑誌に確かに表紙のアイドルが載っていたのだ。

 そしてそのアイドルを竜牙が勧めていたのも覚えており、訓練以外は疎い轟にとっては印象に残っていた。

 

――因みに余談だが、竜牙から借りている雑誌系を取り敢えず形だけだが部屋に隠している轟だが、彼の部屋の掃除をしている冬美が高確率で見つけてしまい、その度に羞恥な目に遭っているのは二人は知らない。

 

『あれ? これって……えぇっ!?』

 

『きゃあっ!? ま、また……焦凍も年頃だもんね』

 

『この載ってる女の人……お母さんに少し似てる?』

 

 轟家に波乱が訪れるのはもう少し先になるのを、轟はまだ知らない。

 そんな轟が記憶を思い出していると、峰田は未だに叫んでいた。

 

「だからこそ! 雷狼寺がこのDVDを来週まで待つなんてありえねぇんだよ!!」

 

「良い加減にしないか峰田君! 間もなくテストもあるのに、君はいつまでそんなものを出しているというんだ!」

 

「雷狼寺さんが借りなかったのは、流石に時と場合を理解しているだけなのでは?」

 

「うんうん。逆に峰田はどんな時でもセクハラしてくるから、少しは落ち着いて欲しいよね」

 

「うん……透明だから匂いも無臭か確かめないと。――そう言ってお尻に抱き着かれた時、本当に気持ち悪かった」

 

「峰田ちゃん……大人になるときよ?」

 

「……あれ?」

 

 事態の変化に峰田は困惑した。

 気付けば八百万・芦戸・葉隠・蛙吹から怒られており、竜牙の話はどこに行ったんだよと峰田は思い、なんでこうなったのかと男子達に視線を向けるが、皆はその視線を綺麗に回避した。

 

 悲しきかな。友人達に見捨てられた峰田。

 だが、峰田の日頃のセクハラは疑いのない事実。

 弁明の余地もない現行犯ばかりであり、誰も口を挟むことはできなかった。

 

――結果、峰田には学校内にエロDVDをただ持って来たという校則違反だけが残ったのだった。

 

「――ケロ。でも、確かに心配ね」

 

 しかし、竜牙の後ろ姿を見ながら呟く蛙吹には、誰も気付くことはなかった。

 

▼▼▼

 

 

 教室で峰田が女子に制裁を受けてから数分後。

 竜牙は職員室を訪れており、自分の席に腰かけている相澤と対峙していた。

 

「……相澤先生。訓練所の鍵をお借りします」

 

「却下――雷狼寺、お前はまだ病み上がりだ。リカバリーガールに治してもらったとはいえ、万全と言う訳じゃない。まずは身体を休ませろ」

 

 訓練所の鍵を借りに来た竜牙だったが、相澤はどこか咎めるような雰囲気でそれを却下した。

 謎のヴィランからの襲撃を受けた竜牙の身体を心配したのも理由であるが、合理主義者の相澤が却下した理由は他にもある。

 

「……ですが、俺達に()()と言ったのは相澤先生、貴方です」

 

――これだ。

 

 相澤は、まるで詩でも詠むかの様に表面上は雑味もない様に言う竜牙の姿に、意識していても思わずドライアイでも目が強張ってしまった。

 表面上で言葉も感情も抑え込んでも、その()()()()()までは全てを抑え込められていない。

 

――狂気に満ちた紅い瞳・人では纏えぬ圧倒的な強者の威圧。

 

 これが相澤が竜牙を大人しくさせたい理由だ。

 恐らくは、竜牙も気付いていない。それを無意識でやっているのだろう。

 

 オールマイトから授業での映像を見て欲しいと焦った様子で言われたのは、その授業が終わってすぐだった。

 その場にはオールマイトを始め、相澤本人と校長、そしてミッドナイトやマイク・13号もいて、その教員で映像を見たのだ。

 そして、オールマイトが何が言いたいのか相澤達は理解した。

 

――黒い雷狼竜の腕。そして竜牙が纏う狂気。

 

 前者は特に問題はない。寧ろ、個性が伸びるのは良い事だ。

 だが、問題は後者だった。

 観てきた期間はまだ短いが、その中身はとても濃いものだ。だから相澤や他の教師達は竜牙の変化に気付き、そして険しい表情を浮かべてしまった。

 

 日頃から表情の変化はないが、それでも授業や体育祭で見て来た竜牙からは確かに熱い心があった。

 それが目の前の同一人物の少年にはそれがない。

 

 ヒーローの様な優しさ・頼もしさの様な柔らかな雰囲気ではない。

 ヴィランの様な不安・恐怖の様な悪意の雰囲気でもない。

 

 それは言い表せない圧倒的な何か。

 “異物”としか思えず、別の存在の者達では絶対に理解できないとすら思わせる、そんな雰囲気を竜牙は無意識――否、意識をしようとすら思わずに纏っている。

 だからこそ、相澤は首を縦には振らなかった。

 

「確かに焦れとは言った。――だが、俺は()()()()とは一言も言った覚えはない」

 

「同じことです」

 

「違う」

 

 間なく答える竜牙に、相澤も同じ様に間なくハッキリとした口調で返答した。

 

「焦る事でお前達は自分の可能性を必死で探し、少しずつだが見付けてきた。お前達には可能性があるから俺も言ってきた事だ。――だが、死に急ぐのは違う。死に急ぎに可能性は何もない。どの道を行こうが、文字通り死への到達が早くなるか遅くなるかだけだ。何もない、その先には何もないぞ雷狼寺」

 

「それも違う」

 

 雰囲気よりも言葉に重みを混ぜた相澤だったが、竜牙は間をあけずに素早くまた返答した。

 

「生を……真に命が危機に迫りし死と隣り合わせの世界。――“死地”にこそ、本当の強さへの道があります。ぬるま湯では“ぬるま湯の可能性”しか見えない。死地でこそ、死に近づいたからこそ、目覚める力がある」

 

――俺の様に。

 

 そう呟くと同時、竜牙は己の両腕を相澤に示すかの様に変化させた。

 左腕は黒・右手は白。左右が対極の色に染まった雷狼竜の腕。

 見せているのは腕のみ。だが、それでも両腕が纏う存在感はあまりにも強烈。

 特に目の前で見せられた相澤に関しては、その両目を険しくせざる得なかった。

 

(白い腕だと……?)

 

 相澤は未確認の情報に警戒を抱いた。

 授業映像で竜牙が黒い腕を出せるようになったのは知っていたが、白の情報は聞いてもいない。

 未確認の力だからともあるが、同時に個性の派生が二つも目覚めた事にも相澤は悩むように考える。

 

(個性の成長が早すぎる……)

 

 竜牙の変化した身体を観察すると、両腕の馴染み方が前よりも上がっており、放電も確かに抑えられていた。

 それにより、相澤は既に竜牙が周りの者達よりも個性が成長している事を確信する。

 これからの課題にするつもりだった“個性の成長”だが、竜牙は既に自力で進んでいる事に相澤は成長の喜びよりも、その成長に竜牙自身すら取り残されているのではいないか、そんな不安を抱く。

 

 オールマイトすら竜牙の変化を心配しており、己の個性の成長速度に竜牙自身が追い付いていない。

 それが相澤が出した答え。力に呑まれた結果の変化。

 故に、不用意に個性を使用させるべきか、それとも発散させる意味で使用させるべきなのかが問題だった。

 

「……」

 

 考える様に数秒だけ目を閉じた相澤は、その目を開くと同時にデスクの傍に置いていた鍵を竜牙へと向けた。

 

「……二時間だけだ。それが守れない様なら今日は諦めろ」

 

「いえ、十分です。――ありがとうございます」

 

 時間制限があるとはいえ、竜牙は特に抵抗の様子も意思も見せなかった。

 言葉通り、二時間も貰えるだけで十分だからだ。

 

 竜牙は腕を戻すと、相澤から鍵を受け取った後、一礼してから職員室を後にする。

 そして、その場に残っているのは相澤と他の教員達だけで、一部始終を見ていたプレゼント・マイクとミッドナイト達が相澤の下へと近付いて口を開いた。

 

「オイオイ……良かったのかイレイザー? 身体も心配だが――()()はマズイだろ?」

 

 心配する様に言ったのはマイクだ。

 教員達も竜牙の異変に気付いており、相澤ならば必ず竜牙を止めると思っていたが、その相澤が許可した事が意外でしかなかった。

 

 無論、周りが言わんとしている事は相澤自身も理解しており、仕方ないという雰囲気を出しながら相澤はデスクの上にある安価な書類入れから一枚の書類を取り出し、マイクからの言葉には独り言の様に返答した。

 

「……雷狼寺の事だ。ここで俺が断れば、恐らくは身内の所有地などで行動するだろ。……最悪、そこで問題が起きてからでは遅い。なら、まだ目の届く範囲でやらせた方が合理的だ」

 

「しかし、僕は雷狼寺くんが心配です。USJ、体育祭の時の彼を見てますから、職場体験から帰ってきた彼の変わり様には何て言えば良いか……やはり、彼を襲ったヴィランとの間に何かあったんでしょうか?」

 

「それを言ったら他の子達も同じじゃない?――でも、そうね……確かに、今日は()()熱い視線を私に向けてくれてないのよねぇ」

 

 13号とミッドナイトもそれぞれの胸の内を話すが、ミッドナイトだけは何か違う気がする。

 

「ハァ!? 雷狼寺って“年増好き”なのか! HAHAHA――」

 

「もう一度言ってみなさい?」

 

 言わなきゃ良いのにマイクは言ってしまい、そのままミッドナイトに首を絞められながら持ち上げられ、相澤の視界外でずっと「ヘルプミィィ!」と叫んでいる。

 だが、相澤はそんなアホに付き合いはせず、取り出した書類に何やら記しながら静かに溜息を吐くのだった。

 

▼▼▼

 

 ヒーロー科・B組、物間は下校しようと廊下を歩いていた。

 特に何かを思う訳でもなく、何かをしようとしていた訳でもなく、ただ下校の為に歩いており、後ろには何人かのB組のメンバーがいるだけだった。

 そこからも、特に何もなければ彼は普通に下校しただろう。

――彼にとって、気に入らない“存在”が視界に入らなければ。

 

「ん? あれって……」

 

「あん? どうした?」

 

 物間の呟きに、彼の後ろにいた鉄哲や塩崎達も前方に意識を向けると、そこにいたの訓練所に入る竜牙の姿があった。

 

「おっ! 今の雷狼寺じゃねえか!」

 

「どうやら訓練をするご様子……」

 

「職場体験明けなのにすごいなぁ」

 

 鉄哲と塩崎は騎馬戦やトーナメントで接点が出来ている事で、どちらかと言えば親しい感じで、接点がない庄田は純粋に体験明けからの自主訓練に驚いた様子だった。

 

 やはり、これぐらいしているからこそ体育祭でも優勝しているのだろう。

 そんな簡単に思う庄田だったが、ここで塩崎が思い出した様に口を開いた。

 

「そういえば、雷狼寺さんはよく相澤先生に頼んで訓練室を使わせてもらっている様です」 

 

「へっ? そうなのか? っていうか、なんで塩崎がそんな事しってんだ?」

 

「雷狼寺さんとは連絡先を交換していますので、互いに訓練や勉強の意見交換を行っているのです」

 

 鉄哲の疑問を塩崎は簡単に説明すると、鉄哲も庄田も納得した様に頷くと同時に今度は庄田が思い出す。

 

「そういえば、ニュースで彼やA組の人達がヒーロー殺しと接触したって言ってたね」

 

「あっ! そういえば切島も言ってたな。友達がヒーロー殺しと接触したってよ! 雷狼寺達の事だったのか!」

 

 切島と同じ体験先だったので、鉄哲は全て思い出して自己完結の様に納得した。

 

「話によければリカバリーガール先生も病院に向かった様なので、メールで言っていたよりも重傷だったのでしょう」 

 

「でも無事でよかったよ。――それじゃ、そろそろ帰ろう。声を掛けたかったけど、流石に訓練の邪魔になったら嫌だから」

 

「そうだな! んじゃ今回は帰っか……ほら、物間も早く行くぜ?」

 

 邪魔にならない様にその場を後にしようとする鉄哲達は、先程から黙ったまま立ち尽くす物間に声を掛けながら顔を見ると、鉄哲達は思わず顔を歪ませた。

――なぜならば、物間の表情は凄く嫌らしい笑みで染まっていたからだ。

 

 

▼▼▼

 

 雄英高校の訓練室。

 そこは一般の学校の体育館よりも広く、訓練には快適な設備が整っている。

 しかも、そんな訓練室が他にもあるのだから雄英の設備は凄いのだが、今回の場合は使用者も普通ではなかった。

 

――GRRRRR……!

 

 室内にはずっと獣の様な唸り声、バチバチと電気の放電音、そして時折激しくショートする音も聞こえていた。

 空気も殺伐としており、まるで凶暴な生物の檻の中だ。

 そんな折の中の中心に竜牙はおり、その周辺には肉片の様に仮想ヴィランの残骸が散らばっていた。

 

『ニ……ニンゲン……』

 

『ブッコロ……*?!……ヒューマン……ヒト……モドキ』

 

『ハイジョ……ブッコロス……』

 

 訓練用に使用されている仮想ヴィラン。

 壊れてもサポート科の材料や修理の練習に使われるだけだが、装甲の裂かれ方があまりにもエグい。

 ギザギザな三本線が所々にあり、機械だが生々しいという表現が出てくる。

 

 そんな光景を生み出した張本人である竜牙。

 彼の雰囲気も息が詰まりそうな“刃”を纏い、安易に触れようものならば斬られてしまうだろう。

 

 一つの選択ミスで“死”へ招かれるようなこの空間。 

 こんな空間で下手なことをする者等、余程の愚か者しかいない。

 

――だが、ここは天下の雄英高校。そんな愚か者が一人はいる。

 

「あれれ~! 変だなぁ! ここはヒーロー科が使用する訓練室なのになんで動物園みたいな匂いがするんだろ!?――ん? あれれ~!! そこにいるのは体育館で優勝したのに職場体験で重傷を負って帰って来た“負け犬”かなぁ?」

 

 歯に衣着せぬ嫌味が室内に響き渡る。――身体を全力で逸らし、狂った笑みを浮かべながら叫ぶ物間がその発生源。

 ハッキリとした口調とわざとらしい演劇風で悪意が目立ち、相手を不快にさせる気持ちを隠すつもりもないのが尚、質が悪い。

 こんな休戦中の戦場で爆竹を投げるような所業に、流石の竜牙も動きが止まる。

 

「……」

 

「おっかしいぃよね!? A組はB組よりも優れてる筈なのに、職場体験でプロ達の足だけを引っ張って来ただけなんてね! あれれ! そういえばUSJでヴィランと戦った筈なのに、ヒーロー殺しにボロボロにされた学年主席って変だよねぇ!!」

 

 動きが止まるが、同時に何も話さなくなった竜牙の反応が気に入らないのか、物間の挑発はヒートアップ。

 不快にさせる気満々の笑い声を混ぜながら、マシンガンの如く暴言を吐きまくった。

 

 命からがら帰還した竜牙に、何故に物間はここまで言うのか。

 それは彼の性格もあるが、同時に周囲のB組へのイメージも関係していた。

 

 USJ襲撃・体育館の表彰台独占・ヒーロー殺しヴィラン『ステイン』との交戦。

 

 これらの出来事、それは全てA組が巻き込まれ、そして突破してきた事件とイベント。  

 つまりは結果でもあり、A組が濃い経験ばかりしている事で、周囲や世間のB組の印象は謂わば“二軍”の様な、ついでのイメージ。

 更にこれに爆豪の敵作りもブースターとなってしまい、不謹慎だろうが関係ない物間のA組への恨みが誕生してしまった。

 

 B組への世間の印象には流石に同情は出来る。

 しかし、物間は()()()()()()()()()

 

――森の中で、熊と遭遇して大声を出せばどうなるか?

 

――ライオンの檻の中で、狂った様に叫べばどうなるか?

 

『――GRRRRR……!』

 

――雷狼竜の()()()を侵せばどうなるか?

 

「――はっ?」

 

 頭が認識すると同時、物間(獲物)は全てを諦めなければならなかった。

 手遅れだから。彼では逃げる事が出来ないからだ。

 

「GAOooooooN!!」

 

 気付けば物間は強烈な衝撃を背中に受けた。

 それが、訓練室の扉を吹き飛ばし、廊下の壁に叩き付けられたという事実だというのに物間は気付いたが、そんな事はどうでもよかった。

 物間の意識は目の前の竜に持っていかれていた。

 

 自分の身体を押さえながら壁に突き刺している黒い腕。

 頭部だけが黒い雷狼竜と化している存在。

 

 そんな姿をした竜牙の紅い瞳が、今もずっと物間を捉えている。

 逃げられない。圧倒的な圧で逃げる事も物間には叶わない。

 身体は震えあがり、まさかここまでしてくるとは思わなかった物間はせめてもの抵抗で笑みを崩さなかったが、汗も表情も崩れていた。

 

「ハ、ハハッ……! ちょっ、ちょっとした冗談じゃないか?……そ、それぐらいでキレるなんて……A組はやっぱり爆豪と同じ――」

 

『AOooooooooN!!!』

 

 竜牙の遠吠えを至近距離で受けた物間は、下から上まで震え上がった。

 同時に自分を押さえつけている左腕が徐々に閉じて行き、物間も流石にシャレじゃすまなくなってきたと焦った時だった。

 

「――はい、そこまで」

 

 そう言って誰かが竜牙の巨大な腕を、同じぐらい巨大な手で掴んだ。

 それと同時、トゲのツルと金属の腕も同じ様に竜牙の腕を掴む。

 

――そう、B組の拳藤・鉄哲・塩崎の三人だ。その後ろには庄田もいる。

 

 鉄哲達三人は物間の企みに気付くと、彼の抑止力でも【B組の姉御】――拳藤一佳を呼びに行っていたのだ。

 

「……なんで、こんな状況になってるか分からないけどさ。まぁ物間が何かしたんだろうね。――けど、流石にこれ以上はやりすぎだから、個性を引っ込めて欲しいんだけど?」

 

「物間は後で拳藤がシバクし、ちゃんと謝らせるから頼むぜ?」

 

「あぁ……雷狼寺さん。その怒りをお鎮め下さい」

 

 目の前の現状に取り敢えずは止めようとする拳藤達だったが、誰も物間は擁護しないの彼の日頃の行いなのだろう。

 けれども、こんな状況をそこまで深刻に感じていないのは竜牙の性格を分かっているからでもあった。

 体育会を始め、その後の学校生活。塩崎や鉄哲からも拳藤に竜牙の話はもたらされており、話せば分かると拳藤は本気で思っていた。

 

――だが、竜牙が腕を放す事はなかった。それどころか、拳藤達の事なぞ見てすらおらず、物間を捉えている腕の力を更に強める。

 その光景に拳藤も流石にマズイと思ったらしく、やや強引に放そうと巨大化した腕に力を入れた時だった。

 拳藤は気付いた。

 

(!――止められない……!?)

 

 拳藤の個性は『大拳』

 それは自らの両手を巨大化させ、その大きさに比例してパワーが上がる個性なのだが、竜牙の腕を強く掴んでも止まらなかった。

 しかも、これは拳藤以外にも鉄哲や塩崎も加勢してこれだ。

 全く止まらず、壁ごと物間を握り潰すかのように動く竜牙の姿に、ようやく拳藤達も事態の異変に気付く。

 

「ちょっと……これってマズイんじゃ!」

 

「オイオイ! 雷狼寺! ちょっと待てやぁ!!」

 

 額に汗を浮かべながらも踏ん張る拳藤の隣で、鉄哲は声を荒げながら竜牙に叫ぶが、今の竜牙の頭部は“黒い雷狼竜”であり、人の頭部ではない。

 しかも、竜牙はこの状況から一度も拳藤達に顔も視線すらむけていない。

 まるで、敵として認識すらしていないかの様な態度であり、現に力負けしている拳藤達では全く止められない。

 

「おいおいおい! 早く助けてくれよ!?」

 

「やってるって……!! つうか、物間あんたさ……雷狼寺になに言ったの!?」

 

 物間に問い詰める拳藤だが、当の物間は目を逸らして何も言おうとしない。

 どうせ、ろくなことを言っていないと拳藤達は想像しているが、本能でもっとヤバい事が起きていると感じていた時だった。 

 

 突如、“赤い閃”の様に素早い動きで彼女達の下に駆け付けた者が現れた。

 その人物はB組にかかわりが強く、拳藤達も頼りにしている人物。

 

「ブラド先生!」

 

「事情は分からんが、恐らく物間が何かしたんだろう。――だが、流石にこれはやり過ぎだぞ雷狼寺!」

 

 そう言って鋭い眼光を向けるのは、十字傷を頬に刻みしヒーロー・ブラドキング――B組の担任だ。

 彼は騒ぎに気付き、教え子の為に駆け付けたのだ。

 

 直属の教え子を救おうと、竜牙に咎める様に叱りながら、ブラドはその腕に触れて個性を発動する。

 その個性名は『操血』と呼ばれ、文字通り“血液”を操る事が出来る。

 そして、彼の特性の籠手から血液が放出、竜牙の雷狼竜の腕を包むように血液が形を変えて捉えた。

 ブラドはこの手の技でヒーロー時代を生き抜いており、その実力はかなりのもの。

 

 だが、状況とは言え生徒が相手。

 流石に本気で抑える訳にもいかず、ブラドは手加減していたのだが、その判断をすぐに後悔する事になる。

 

(むッ!――これは……!)

 

 ブラドは驚愕した。

 竜牙はブラドが押さえても止まらず、未だに物間を壁ごと握ろうとしているのだ。

 手加減しているとはいえ、ブラドもプロヒーローであり、本来ならば竜牙を止める事は容易だったが、今は状況が違う。

 

 野生と共に“獰猛”を纏う黒き雷狼竜。

 不完全な状態とは言え、それは嘗めた覚悟で押さえられる存在ではない。

 

 結果、ブラドはその鋭い眼光を竜牙に向けるしかなかった。

 

(相澤め……だからもっと生徒とは親身に接しろと言っていたんだ)

 

 獰猛な赤き瞳。地獄の様なドス黒さを彷彿させるそれを見て、ブラドは自分とは対極な指導をする相澤を軽く恨んだ。

 目の前にいる、狂気を纏うこんな生徒。少なくとも自分だったら放ってはおかず、ちゃんと話を聞いていたとブラドは思ったが、今は物間の安全確保が最優先。

 

 ブラドは一旦、個性を解除し、竜牙を直接止めるつもりで顔に近づいた。

――時だった。

 

「――!」

 

 ブラドは全身に強烈な寒気を感じ取った。

 視界は真っ暗で、血の気も引いている。

 嫌な汗も同時に流し、これが強烈な“殺気”や“恐怖”から来るものだと理解した時、ブラドは同様に目の前の“闇”の正体を知った。

 

――これは口だ。……と。

 

 その頭部は人のサイズから雷狼竜本来に近い大きさとなり、ブラドを呑み込むかの様に大きく口を開けていた。

 

 捕食される。ブラドの状態はそれ以外に表わせない。

 本当ならば反撃等して回避も出来ただろうが、ブラドは教師でもある。

 ここで反撃しようものなら、それは押さえ込むレベルではなく、本気の戦闘。

 そうなれば両者共に無事では済まないが、教師でもあるブラドは生徒に手を出す選択肢を選べるわけがなく、そのまま頭が真っ白となって思考停止。

 

――周りの空気が止まった気がした。誰もがそう感じた時だった。

 

「雷狼寺!!!」

 

 止まった空間を揺らす何者かの一声。

 それがこの最悪の状況に一石を投じ、竜牙の動きも停止した。

 

『――!』 

 

 動きが停止すると、竜牙は腕を、頭部を徐々に大きさが戻り始めた。

 徐々にだが、それにも理由はあった。

 

「皆、無事かブラド?」 

 

「……あ、相澤」

 

 ブラドの視線に先にいたのは、瞳が赤く染まっている相澤だった。

 瞳の色から個性を発動しているのが分かり、竜牙が人の姿に戻ると同時に目薬を使用しながら竜牙の下へと近付くと、当の竜牙はどこか上の空の様子。

 

「雷狼寺……“自我”はあるか?」

 

「……はい」

 

 相澤の問いに竜牙は間があったが返答した。

 一応、意識はハッキリとしており、竜牙はゆっくりと立ち上がるがしっかりとしている。

 だがこの時、相澤は竜牙の“呟き”を聞き逃さなかった。

 

――()()()()()……まだ足りていなかった。

 

 個性に身を委ねた。雷狼竜に身体を預けていた。

 身体に馴染ませる為か、新たな潜在能力を起こす為か。

 どちらにしろ、それはあまりにも危険な道。

 それを理解した相澤の眼も微かに険しくなりながらも、竜牙に語り掛ける。

 

「雷狼寺、まだ二時間は経っていないが……今日はもう帰宅しろ。後始末は学校側がする。――理由は言わなくても良いな?」

 

「……はい。――大体は把握しました」

 

 顔を真っ青にしているB組の者達。壊れた壁と、その目の前で腰を抜かしている物間と、額に汗を浮かべているブラドの存在。

 竜牙は大体はそれで理解したが、その内心は穏やかではなかった。

 

――これでは駄目だ。これでは巨悪(本物)には勝てない。

 

 今よりも力がいる。技術がいる。

 その為の考察を既に頭の中で考え始めており、竜牙はそのまま訓練室へ足を向けて歩きだした時だ。

 触れなければ良いものを、一言も言わない竜牙に物間が再び食らいつく。

 

「ハ、ハハッ……! 何もないのかい……!――好き勝手した割にこんな対応なんて、A組は本当にヒーローを目指しているのかなぁ!?」

 

 ただでは転ばないと言うべきか。

 物間の行動に拳藤達は勘弁してほしそうだったが、当の竜牙はそうではない。

 

「……()()()()()?」 

 

「……はっ?」

 

 何事も無いように呟く竜牙に、物間は呆気になった。

 なんと言ったのか? 攻撃してきた相手を知らなかったのか?

 

「なんだそれ……B組は眼中にないって事――」

 

「お前が誰だろうがどうでもいい。――ただ」

 

――俺の()()()()()()

 

 物間の声を遮った冷たい竜牙の声。

 だが、竜牙は物間を一切、その赤い瞳の視線には入れていない。

 己のテリトリーに入った瞬間に敵対状態。

 人では許されない掟でも、雷狼竜の――自然の掟ではそれは許される。

 

 そして、竜牙が去った後では物間も何も言わなくなった。

 心が折れた様にも見えるが、そんな彼を拳藤と庄田が連れて行き、竜牙と仲が良い塩崎と鉄哲は未だに呆然としている。

 

 そんな中、竜牙の後ろ姿を見ながらブラドが相澤へ話しかけた。

 

「相澤……他クラスの事で俺が口を出すのは筋違いと思っているが、今回の件を見る限りでは、雷狼寺の今の状態は大丈夫なのか?」

 

「……クラスにいた時、そして戦闘訓練以外の授業では比較的落ち着いていた」

 

「戦いになると血が騒ぐ……そう言う事か? 獣系の個性の者には稀にいるらしいが」

 

 ブラドは思い出すように言うが、相澤は心の中で否定していた。

 そんなものではない。この超常社会、親が匙を投げる程の個性『雷狼竜』であり、自分達の常識では測れない“何か”があるのかもしれない。

 

「……どうやら、色々と予定を変えなければならない様だ」

 

 近々訪れる日に備え、相澤は静かにその思考を動かすのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

――数日後。

  

 あれからの事、竜牙は今日まで殆ど訓練に身を委ねていた。

 耳郎達からの誘いも断り、只々、己が望むがままに鍛えた。

 内側から溢れてならないのだ、内なる力が、それを発散したくてならない。

 それを解放する様に生活し、そして今日の日となり、同時に竜牙がその成果を確認できる日でもあった。

 

――期末テスト。

 

 その当日、竜牙は自宅でニュースを見ながら猫折さんの作った朝食に箸を伸ばしていた。

 

『逮捕されたヴィラン名『ステイン』の与えた影響は多く、模倣犯を始め、ヒーローの質低下の問題など、数多くの傷跡が今も残されています』

 

「あらぁ……怖いですね。近くの学校では集団で下校する様にも言っているみたいです」

 

 実の子供と竜牙がいる為、この手のニュースを見ると不安そうに呟く猫折さん。

 そんな彼女の言葉に相槌を打ち、竜牙は“ニラ玉の味噌汁”に温玉を入れながら、ニュースを見続ける。

 

 問題は取り上げるが、その解決策などは一切言わず、何だかんだで誤魔化すようにステインの過去を、もう何度目だと言わせたいかの様に、また放送している。

 ヒーローの救助活動を“妨害”してまでも取材する割に、内容の質が合っていない。

 

 無論、逆もまた然り。プロを名乗る割に、まるで雑兵の様に一人のヴィランに返り討ち、又はどうする事も出来ずに静観しかしていないヒーローも多くいる。

 ヴィランも同じだ。強個性を持ちながら、コンビニ強盗を始め、最悪は殺人等を犯すが、所詮はその程度なのだ。

 目先の罪だけを犯す割に、その後は何の影響も世に及ぼさないただの小悪党だけ。

 

――そう、世の中に“贋作”が多過ぎる。

 

 そんな連中では巨悪(本物)は倒せない。

 そんな連中ではオールマイト(本物)は倒せない。

 

 竜牙はそんな事を思いながら、味噌汁に入れた温玉を割っていた時だ。

 ここで新たなニュースが始まった。

 

『続いてのニュースです。――先月より世界各地で起こり始めた“プロヒーロー連続失踪事件”に関する続報です。アメリカのプロヒーローが失踪してから数日、今度はロシアでヒーローが失踪しました。これで失踪したヒーローは四ヶ国で五人目となります』

 

「……ヒーロー失踪?」

 

 ここ最近、耳に入っていない事件に竜牙が反応すると、猫折さんは思い出すように説明した。

 

「えぇ、先月から有名なヒーローが行方不明になってるみたいです。イギリスで二人、日本でも京都のご当地ヒーローが一人。そして今度はアメリカとロシアで一人ずつ……本当に最近、どうなってるんでしょう?」

 

 不安というより困惑を隠せない猫折さんは、思わず深い溜息を吐いていた。

 ただでさえ、最近では“敵連合”の事もある中、世界規模でこんな事があったら安心なんてとても出来ない。

 

 そんな猫折さんの話を聞き、竜牙はやや興味を抱いたが、時間が迫っており、今は食事を終える事にした。

 

『現在、確認されている失踪のヒーロー達ですが、まずイギリスでは兄妹ヒーロー・リオ――』

 

「……行ってきます」

 

 竜牙はそう言いながらテレビを消すと、制服を整えて鞄を持ち、玄関へと歩いてゆくと背後から猫折さんに声を掛けられた。

 

「竜牙さん……」

 

「……はい」

 

 優しい声。そしてその中に混じる“心配”の感情が竜牙へ向けられる。

 だが、長い付き合い故に竜牙も猫折さんの心情を理解しており、振り向くことはしなかった。

 

「気を付けて、いってらっしゃい」

 

 だからだろう。それは猫折さんも同じであり、深くは追求もなければ、他の言葉も言う事はなかった。

 最近の竜牙の異変を感じ取っているが、それを止める事は自身には出来ない事を分かっている故の歯がゆさか、何とも言えない表情の猫折さんの言葉に、竜牙もただ普通に返答するだけだった。

 

「……行ってきます」

 

 そう言って竜牙は出て行った。

 不思議と、辺りの音がハッキリと聞こえる様な感覚を猫折さんは感じ、同時に虚しそうに深い溜息を吐いていた。

 

 

▼▼▼

 

 

 期末テスト・筆記試験。

 

 A組はメンバー達は期末まで、それぞれの勉強会を開いて対策を整えていた。

 竜牙も耳郎達に誘われていたが、筆記は最低限の備えはしており、少なくとも赤点を取る事はないだろう。

 実際、クラスメイト達も筆記は手応えを持っている様子であり、問題は次だろう。

 

――演習試験。

 

 実技の期末テストと言えるこの試験に、エリア移動用のバス停に集まる竜牙達A組と既にいる先生達。 

 しかし、演習試験でも一部の者達はどこか余裕の様子だった。

 

――ロボロ~ボ!

 

――余裕で突破してやるぜ!

 

 主に芦戸と上鳴だが、何やらずっとロボロボと騒いでおり、竜牙は気にする様に視線を向けていると、それに気付いた耳郎と障子が声をかける。

 

「気になる?……どうやらさ、今日の演習試験って入学試験と同じロボットが使われるんだって」

 

「ロボット……?」

 

「恐らく、1~3pヴィランは当然だが、雄英なら0pヴィランも投入するんじゃないのか?」

 

 どうやら竜牙以外は知っていたらしく、二人はそれがB組から聞いた事や、今日までの事を話すが、当の竜牙は別の事を思っていた。

 

「……あの仮想敵か。じゃあ、期待外れになるか」

 

 少しは期待していた演習試験。試したい力を発揮できる良い機会と思っていたが、既に仮想敵程度は竜牙の敵ではない。

 

 己の力を発揮できない。不完全燃焼でしかなく、満足に行く事はないと判断すると竜牙の瞳が赤く染まる。

 同時に雰囲気も若干変わると、それに気付けたのは耳郎と障子だった。

 二人は互いに顔を合わせて頷き合うと、耳郎が竜牙へ声を掛けた。

 

「雷狼寺……あんたさ――」

 

「全員、揃ってるな?――試験を始めるぞ?」

 

 しかし、耳郎の言葉は集まった教師陣の一人。担任の相澤によって閉じるしかなかった。

 

「静かになるのに4秒かかったな。――取り敢えず言っておくが、この演習試験にも無論、“赤点”は存在する為、筆記で手応えがあっても油断しない様に。――まぁ林間合宿に行きたくなきゃ別に良いがな」

 

 相澤の言葉に竜牙達は気を引き締め直すが、事前情報のロボ試験である以上、油断ではないが余裕はやや多い。

 現に芦戸と上鳴のテンションは高く、相澤の前でもイケイケ状態だった。

 

「林間合宿に行きたいでーす! どんと来いやロボ無双!!」

 

「どんとこい夏イベ!!」

 

 今は怖いものなし。そう現すかのように二人はテンションを高めるが、そんな二人を相澤はどこか哀れな視線で見ていた。

 何故ならば……。

 

「恐らくだが、諸君らは事前情報を得ていたのだろう。――しかし、ここで“悲しいニュース”があります」

 

――!

 

 相澤の言葉に芦戸と上鳴の身体が固まる。

 他の者達も表情が険しくなり、無意識の内に身構えている者もいる中、相澤の首に巻く拘束布から根津校長が飛び出した。

 

「演習試験は今期より内容を変更をしちゃうのさ!」 

 

――!!!

 

 表わすならば、雷が直撃したというべきか。

 赤点ギリギリである芦戸と上鳴は衝撃が強かったらしく、固まったまま白目を向いていた。

 しかし、今はそんな二人に構う暇もなかった。

 

「えっ……内容変更って……?」

 

「どういう事でしょうか?」

 

 瀬呂と八百万が質問する様に手を上げると、根津は頷きながら説明を始める。

 

「うんうん、実はね……最近の出来事から察するに、“敵活性化”の可能性が高いのさ! 事前に防ぐのは当然だけど、学校側は万全を期したいのさ。つまり、これからは――」

 

――戦闘も活動も、対人に重点をおきたいのさ。

 

「そう言うことだ。より実戦に重視する以上、ロボでは程遠い。だから今回から内容を変更し、以下のものとする」

 

 そう言うと相澤はリモコンを操作し、映像を宙に映し出した。

 

 演習試験・内容。

 

・二人一組による、教師陣との戦闘。

・対戦する教師は既に決定済み。

・ペアは、行動・成績・親密度等により独断で決定。

 

「マジかよ……!」

 

「先生とはいえ、プロだろぉ……!」

 

「……どうりで多い筈だ」

 

 突然の事にざわつく中、切島も峰田も驚きを隠せず、竜牙も何故にこんなに教師陣が多くいたのか、ようやく納得していた。

 しかし、生徒達の準備が整っていなくても、相澤はもうペアを発表する。

 

「まず轟・八百万ペア!――相手は俺だ」

 

『!』

 

 相澤からの発表に二人は息を呑む。

 二人共、強個性故の実力者だが、個性を抹消する相澤が相手では当然ながら油断は出来ない。

 そして、轟達の名を呼んだあと、相澤が次に視線を向けたのは――

 

「……雷狼寺」

 

「……はい」

 

 返事をしながら前に出る竜牙に、相澤は頷きながら先日のペア決めの会議を思い出していた。

 

 

▼▼▼

 

 

 試験の数日前。

 学校の一室で教師陣はA組のペア決めの会議を行っていた。

 だが、最初から相澤が殆ど決めているので無駄はなく、殆ど簡単な説明で済んでいた。

――一人を除いて。

 

『……雷狼寺についてですが』

 

 竜牙の名が出ると、周りの視線が相澤へと集まる中で説明を始めた。

 

『既に察している先生方もいらっしゃると思いますが、ステイン・謎のヴィラン両名と交戦して以来、個性が急激に成長し同時、様子に異変が起こっています。つい先日も、B組の生徒と問題を起こしています』

 

『あれについては……うちの物間にも原因がある。だから、全てが雷狼寺のせいと言いづらい』

 

 相澤の説明に頷きながら聞く中、先日の件の話になったブラドはやや何とも言えない様に迷った様子でそう言うが、相澤は首を振る。

 

『この際、物間はどうでもいい。――問題は、雷狼寺はあの時、我を失っていた事でもある。怪我もなかった為に大事にはならなかったが、あれが街中で、しかもヒーローという立場で行えば問題だ』

 

『確かに雰囲気やばかったからな! つうか、誰が担当すんだ雷狼寺は?』

 

 相澤の言葉にマイクは本題を言えと言う様に、いつも通りのテンションながら真剣な目で相澤を見ていた。

 そして相澤もそんな視線に気付いており、本題を口にする。

 

『何人かの先生方を決めていますが、個性が個性だけに先生との相性を重視しています』

 

『つまり、まだ決めかねているのか?』

 

『はい』

 

 スナイプの問いに相澤はそう答えるが、内心では殆ど決まっていた。

 問題は誰に任せるかが悩みどころであり、相性次第では予想外の事態も招くだろう。

 

『まあ、殆ど決まってはいるんですが……』

 

 あと僅かな答えまでの距離に、相澤が思考を巡らせていた時だった。

 一人の教師が立候補する様に手を上げたのだ。

 

『フフッ……雷狼寺くんなら、私が担当してあげるわよ』

 

 立候補したのは堂々の18禁――ミッドナイト。

 腕を下ろし、小さなムチを鳴らしながら自信に満ちた表情を浮かべていた。

 

『雷狼寺くんなら、私の個性でも対応できるわ。今後の課題としても良いと思うし、何より――』

 

――良い機会だものねぇ……!

 

『――何をする気だ……』

 

 興奮した様に息を乱しながら話すミッドナイトに、他の教師達は別の意味で心配すると、相澤が首を横へ振った。

 

『いえ、ミッドナイトさんには他の生徒をお願いしたい。――峰田、アイツは少々欲望に素直過ぎるので、ミッドナイトさんが適任なんです』

 

『あら? だったら峰田くんと雷狼寺くんの二人で良いじゃない?』

 

 ミッドナイトの疑問に根津以外の教師達は頷いた。

 二人一組なんだから丁度良く、何だかんだで竜牙がムッツリなのは皆知っている事であり、尚の事ミッドナイトが丁度良いと判断。

 

 しかし、相澤は首を縦に振らなかった。

 

『ミッドナイトさんは当然、候補に入れてました。しかし、峰田では雷狼寺の相手は務まりません。――今の雷狼寺は、恐らく二人一組でも連携をしないでしょう。だからこそ、雷狼寺に臆することない生徒でなければなりません』

 

 ミッドナイトは相手ではありだが、峰田と竜牙の組み合わせは駄目だと相澤は判断していた。

 体育祭でのビビり様もそうだが、峰田では竜牙が殺気を出そうものなら戦意喪失して試験にならないだろう。

 だからといって峰田を放置も出来ず、結果的にミッドナイトは除外されてしまう。

 

 そして、その内容に納得したのか。ミッドナイトは残念そうに頷いた。

 

『あらぁ……それなら仕方ないわね』

 

『すいません。それで、他の先生に――』

 

『ちょっと待ってほしい……』

 

 相澤が説明しようとした時、オールマイトが手を上げながら話の腰を折った。

 

『……なんですかオールマイトさん?』

 

『雷狼寺少年は私に任せて貰えないだろうか……』

 

 オールマイトの指名に周りがざわつき、その中で相澤はジト目の様に疑いではないが、どこか微妙な視線を向けながら聞き返す。

 

『……どういう事ですか?』

 

『体育祭でも見たでしょうが、開会式、競技、そして表彰式で私は彼の心を聞いた。己の個性と向き合い、同時に現実とも必死に向き合おうとしている彼は、後に人々を助ける偉大なヒーローになれると私は確信している。――だから、平和の象徴としても、今の彼を見捨てることは出来ない』

 

『……一応、聞きますが、組ませる相手は?』

 

『――緑谷少年だ。彼はヘドロ事件の時の爆豪少年や、体育祭の時の轟少年の時の様に他者を助けるのに迷いなく動く。ならば、きっと雷狼寺少年にも同じ様に――』

 

『――却下です』

 

 相澤はオールマイトの提案を却下した。

 一言、却下で済まされたのはオールマイトも驚いた様子だが、相澤にも考えがないわけではなかった。

 

『オールマイトさん、私は雷狼寺については、他の生徒をニの三の次にする程、過剰に特別扱いするつもりはありません。――あなたが“お気に入り”にしている緑谷も例外ではない』

 

『……』

 

 相澤の言葉にオールマイトは何も言わなかったが、額に汗を浮かべており、明らかに嘘が付けない人間だと分かる。

 しかし、オールマイトも引けない理由はあった。

 

――オール・フォー・ワン。

 

 奴が雷狼寺に関わっている以上、因縁を持っている自分が指を咥えている訳にはいかないのだ。

 

『……だが相澤くん、今の雷狼寺少年はあまりにも――』

 

『オールマイトさん。……あなたにも何か考えがあるのは分かりますが、雄英にいる以上は平和の象徴と同時に、()()としても動いてください』

 

『……!』

 

 相澤の、緑谷や雷狼寺以外にも気を払え。――そう言っている様な言葉にオールマイトも流石に沈黙してしまい、場の空気が重くなった時だった。

 不意に、室内にパンパンと手を叩く音が響き渡り、周りの意識はその発生源である根津へと向けられた。

 

『皆、少し落ち着こう。――それに相澤くんも()()()()()のさ。合理主義な君が、ここまで話を伸ばすのも、本当は雷狼寺くんについて本気で悩んでいるから、周りの意見も聞きたかったんじゃないのかい?』

 

『それは……』

 

 表情も姿勢も変えない相澤だったが、根津の言葉を聞いて声を詰まらせるだけで周りは理解した。

 相澤も悩みながらも、教師として全うしようとしている事を。

 

『彼については私も気にはなっていたさ。プロに預けたとはいえ、ヴィランに襲撃され、重傷を負ったのは我々の責任でもあるのさ。担任は君さ、でも生徒一人に教師全員で考えてあげるのは何も悪い事じゃないのさ』

 

 教師は生徒一人の為に、教師は生徒全員の為に。

 根津の言葉に皆も思う事があったのだろう。教師達はそれぞれの思う表情を浮かべており、相澤もどこか納得した様に柔らかい雰囲気を纏う。

 そして、一息入れてから口を開いた。

 

『最初に言うべきでした。……雷狼寺と組ませる生徒ですが、結果的に言えばこれ以上はいないだろうという者が一人います。――近年では珍しく、これといった欠点もなく万能型とも言える生徒が』

 

『そんな生徒が……誰なんですか?』

 

 13号が意外そうに言うと、相澤は頷いた。

 

『……今までの授業の結果を見て、そう判断した。雷狼寺と組ませる生徒――』

 

――()()の名前は……。

 

 

▼▼▼

 

 

「雷狼寺 竜牙……そして()() ()()()! そして、相手は――」

 

――私なのさ!

 

 竜牙と蛙吹の前に出る根津校長。

 動物でありながら個性『ハイスペック』を持ちし、この雄英高校の代表。

 可愛い見た目とは裏腹に、気付かない間に敗北させる事も可能な力を持つ生物。

 

「……君達の相手をするのはこの私、根津なのさ! ネズミ好きの小人でもなければ、マスコットでもないのさ!――みんなの雄英高校の校長なのさ!」

 

 元気に飛び跳ねる根津だが、分かっている事だ。

 ただの小動物では雄英高校の校長は務まらない。雄英高校をここまで大きく出来ない。

 長い歴史を作ってきた一人である根津と言う存在を前に、竜牙と蛙吹はすぐに頭を切り替えた。

 

「……この受難に感謝」

 

「ケロ!……気が抜けないわね」

 

――演習試験、開始の時。

 

 

 

 

 

END

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。