僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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ここ最近の出来事。

友人達と飲んでいる時に私はFGOをしていました。
ただ手持ち無沙汰になったからです。
するとそんな時、友人の一人が「なにしてんの?」と聞いてきました。 
彼はあまりゲームとかしない、超真面目な人間です。
 
そんな彼に『FGOで育て忘れたキャラを育ててる』と言って、一切手を付けていなかった『ブーティカ』を見せてしまいました。


そして――私は彼の人生を狂わせてしまったのかも知れない(;´・ω・)


第二十六話:反魂せし翠狼 その名は命狼竜

『AOooooooN!』

 

 命狼竜、動く。

 ビルの上から遠吠えと共に跳び、0p改の頭部を踏みつけて横切る様に再び跳ぶ。

 しかし、その瞬間に雷光虫――改め、幽明虫が一斉に機銃やミサイルポッドに群がるや、機銃やミサイルポッドに謎の異常が発生。

 琥珀色の雷を放電したと思いきや、そのまま沈黙。そのまま作動する事はなかった。

 

『一体、なにごとなのさ!?』 

 

 僅か数秒の出来事。

 その刹那の中で起こった一斉異常に根津は混乱を隠せなかった。

 モニターに映るエラー・異常発生・大破の文字の数々。

 頭部への一撃のせいか、0p改のカメラは異常が起こり、ずっと乱れが消えない。

 優勢から一転、一気に追い詰められた根津だったが、これぐらいで降参するようでは雄英の校長は務まらない。 

 

『生徒の成長は喜ぶのさ! しかしそれで勝てる程、我々も情けなくはないのさ!』

 

 ここで根津も少しだけ本領発揮。

 ハイスペックの真髄を披露するかのように、コントローラーを目にも止まらぬ速さで操作を行う。

 異常が出たからなんだ? それによって誤差やラグが出るからなんだ?

 ならば、それらも計算して操作すれば良いだけの事。

 

 根津はコントロールの全てをマニュアルへと変更し、0p改の全ての権限を己に委ねさせた。

 そして、命狼竜が再び接近するタイミングを狙い、鉄球の腕を目掛けて振り下ろす。

 

『――ッ!?』

 

 振り下ろす強の一撃。 

 特別性であって見た目ほど鉄球としての威力ないが、その一撃は命狼竜を確実に捉え、そのまま建物へ叩き付けた。

 その衝撃により崩れる建物やパイプ。水も吹き出し、そのまま命狼竜は沈む。

 

 そんな光景を蛙吹は離れた場所で見ていた。

 

「雷狼寺ちゃん……!」

 

 流石にこれはやりすぎとも思い、蛙吹は心配した様子で崩れた場所を見るが、異変はすぐに起こった。

 

『AOoooooooN!!!』

 

 命狼竜復活。

 激しい雷と共に残骸を吹き飛ばし、激しい遠吠えを周囲へと放つその姿は、まるで怪我をした様子でもない。

 

――雷狼竜・不死種。

 

 その名に恥じぬ、命狼竜の動き。

 モロに一撃を受けても、まるで不死身と思わせる様にダメージを感じさせない存在。

 

『これは……彼の個性の届けに書かれていないのさ!』

 

 これには確実に一撃を入れたと確信していた根津も戸惑いを隠せず、やや震える腕だがコントローラーから離さずに耐えていた。

 しかし、そんな暇はない。

 牙竜種――そう呼ばれる存在の前で、そんな悠長な事をする時間は。

 

『GAU――!』

 

 電光石火。――今度は鉄球の腕を引き裂いた。

 先程よりも動きが違う。速さが上がっている。

 

――身体が纏う過剰な雷・逆立つ体毛・展開する翡翠の様な輝きの甲殻。

 

――超帯電状態。

 

 俗に言う、そのモードとなった命狼竜は全てが違う。動きもパワーも全てが。

 

『AOoooooooN!!』

 

 駆ける。狭き工場密集地を薙ぎ倒し、破壊しながら己の道を築く命狼竜。

 それは弱者が勝手に開く道ではない、強者が自ら作り出す戦いの道。

 周囲の建物は揺れ、パイプは倒れ、貯水タンクは破裂して残骸となって降り注ぐ。

 

――ヒーローではない。その姿はヒーローではなく、全ての敵の存在を許さぬ“自然の強者”だ。

 

「ケロォ……」

 

 その光景に蛙吹は謎の恐怖心を抱きながら見ていた。

 己の“蛙の個性”が恐怖しているのか、蛙吹は謎の恐怖で身体が動かない。

 

 また、その光景を見ているのは彼女以外にもいた。

 

 

▼▼▼

 

 リカバリーガールのいるモニター部屋。

 そこには試験を終えた生徒達が集結し、リカバリーガールと共に試験の様子を眺める事が出来ていた。

 

 そして、現在までに試験を合格して終えた者達は以下のメンバー。

 

・緑谷&爆豪――担当:オールマイト

・八百万&轟――担当:イレイザーヘッド

・耳郎&常闇――担当:プレゼント・マイク

・麗日&青山――担当:13号

・飯田&尾白――担当:パワーローダー

 

 この計5組は試験を終え、皆は誰も赤点を出さないで林間合宿に行ける様に信じ、見守る様にモニターを眺めていた。

 終わった事でホッとしたメンバーは最初はそれぞれの内容を話し合い、賑やかな雰囲気があったが今は皆、あるモニターの画面に釘付けとなり、黙る様に重い空気が流れている。

 

――そして、そのモニターの画面に映る者こそ、竜牙――命狼竜だった。

 

『AOoooooooN!!』

 

 モニター越しでも伝わる、他者を震わせる迫力。

 巨大な機械を追い詰めし竜の姿に、緑谷達は困惑を隠せなかった。

 

「ら、雷狼寺くん……?」

 

「な、なんなんあの雷狼竜?……体育祭の時とは全く違う……!」

 

「ウム……あの時よりも、明らかに何かが違う存在。あれが雷狼寺の奥の手、覚醒した眠りし竜なのか?」

 

 緑谷・麗日・常闇。――この三人は体育祭で竜牙と騎馬戦を組み、そして雷狼竜の存在感を安全圏から直に感じる事が出来ていた者達。

 そんな三人だからこそ、モニターに映る命狼竜が“原種”とは何かが違う事を素早く感じ取る事が出来た。

 

 肉体も大きく、雷も雰囲気が全く違う。

 どこか神聖さを感じると同時に、謎の儚さもある。

 

 だが、外見や少しの違いだけでここまで雰囲気が重くなる事はない。その理由がある。

――それは、命狼竜の戦いにあった。

 

『OoooN!!』

 

 命狼竜が0p改の攻撃で叩き潰され、再び瓦礫の中へ埋まる。

 

「っ!」

 

「雷狼寺!?」

 

 その衝撃の勢いは凄まじく、モニター越しでも伝わった事で八百万と耳郎が思わず身体を震わす。

 また、彼女達だけではない。青山も個性を使ってないのに表情が優れず、尾白も絶句していた。

 明らかに、この試験だけ何がおかしい。

 狂気の様な、謎の不安感がずっと見ている者達の胸に巣くっている。

 

 やがて、そんな光景ばかりに我慢ならないと、飯田がリカバリーガールへ抗議の声を出す。

 

「リカバリーガール先生! いくらなんでも、これはやりすぎなのでは!?」

 

「そうですわ! あの状態とはいえ、過剰なのではありませんか!」

 

 飯田に続くように八百万も抗議をし、A組の委員長と副委員長が立ち上がる形となる。

 

 すると、リカバリーガールは落ち着かせるようにい始めた。

 

「まあ、落ち着きな……根津も生徒を無暗に傷付ける様な事はしないさぁ」

 

――まぁ昔に、人間達に色々と弄られて多少の“恨み”はあるかもしれないけどね。

 

 最後に何やら聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたが、飯田と八百万も冷静になってみれば納得は出来た。

 環境に慣れてきて麻痺しているが、ここは天下の雄英高校。

 入学最難関の最強倍率のヒーロー学校であり、根津はその校長であって過剰な事はしないだろうと緑谷達は思い出す。

 何だかんだでこれは試験であり、大丈夫だろうと緑谷達が思っていると、リカバリーガールだけはどこか疑う様な視線でモニターを見つめていた。

 

「……しかし、マズイのはあの坊やよりも、根津の方かもしれないねぇ」

 

『……えっ?』

 

 不意に呟かれるリカバリーガールの言葉に、全員の意識が集まった。

――時だった。

 

『AOoooooooN!!』

 

 命狼竜、再度復活。

 瓦礫なんぞ、まるで木くずや葉の様に吹き飛ばし、ダメージを受けている筈がそれを感じさせない動きを再び見せつける。

 0p改の各種の装甲を引き裂き、噛み裂き、破壊する。

 一撃は双方共に大きいが、命狼竜はそれを直撃しても平然と動き、0p改は蹂躙されている。

 

 そんな違和感が残る光景を見て、メンバーもそれに気付く。

 

「さ、流石におかしくないかい☆……?」

 

「あぁ、流石に雷狼寺君もダメージを受けている筈だ……」

 

「けど、そんな様子じゃねえぞ」

 

 青山・飯田・轟がその違和感を代弁する。

 特に体育祭で直に戦った轟は、己の物差しとはいえ雷狼竜に対するデータもあり、尚の事にそんな違和感が大きい。

 通常ならば、怯むぐらいはするだろうが、そんな少しの様子もない。

 まるで不死身。死なない不死の竜に見えてしまう。

 

「まさか……本当に不死身というわけではあるまい?」

 

「そりゃ、そうだけどさ……いくら雷狼寺でも、あんな攻撃を受けて平気でいられんの?」

 

 常闇と耳郎も、あまりの違和感に伝る汗を拭う事もせずにモニターへ視線を固定。

 そんな中でだ。尾白はどこか感心する様にも思いながら見ていた。

 

「最近、雷狼寺の腕が黒かったりしたから、個性の地力を伸ばしたと思ってたけど、今度は白くなったんだな……?」

 

「黒……? 白……?」

 

 緑谷はその言葉に、ある引っ掛かりを覚えた。

 

 思い出してみれば、竜牙がおかしくなり始めたと感じたのは学校に来てからではない。

 同時に、黒と白の雷狼竜を見たのもそうだ。

 病院――あそこで竜牙に見せられたのが初めての事。

 

――もしかして……?

 

 その違和感をいよいよ考察しようとした時、緑谷の脳裏に()()()()の言葉が過った。

 

『もしかしてだけど……あなた達の言っている雷狼竜って、体育祭で見た原種の事だけを言っているの?』

 

 それは竜牙の母親――雷狼寺そまり、彼女の言葉だった。

 

(……ずっと、あの言葉が気になっていた)

 

――原種。確かにそう言った。

 

 祖先型にあたるものを意味する言葉。

 つまり、体育祭で見せてきた雷狼竜が原種ならば、いま目の前で映されている白い雷狼竜(命狼竜)は亜種型と呼べる存在なのか?

 

「……違う、そうじゃないよ」

 

 緑谷はそんな名称が分かった事で納得しそうなったが、事の事実はもっと凄まじい事に気付く。

 原種が純粋に雷を操っていたが、その派生種とも呼べる存在も何か特殊な能力を得ているのではないか?

 

 そして、竜牙の母親は言っていた。――()()()()()()、と確かに。

 ならば、その意味が示しているのは――

 

「他にも存在する……? そして雷狼寺くんの両親が、雷狼寺くんから離れたのは個性が原因って事は……まだ亜種みたいな種類がいて、しかもその中に()()()()()()()()()()がいた? でもそれはどう意味での事なんだろ? 力、能力の様な何か特別な――」

 

「なんか……また緑谷がブツブツ言ってんだけど?」

 

「デクくん、なんか集中するとあんな感じだから……」

 

 いつの間にか緑谷は自分の世界に入り込んでしまい、その姿に耳郎達はやや引いており、麗日は分かっているからか若干のフォローを入れた時だ。

 ツンツンと、麗日は誰かに肩を触れられ、呼ばれるように後ろを振り向くと青山がいた。

 

「へ……?」

 

 麗日は先程まで組んでいた相手とは言え、少し予想外の相手が固定された笑顔で自分を見ている。

 黙ってジッと、そしてやがて小さくこう呟いた。

 

「……やっぱり、彼の事が好きなの?」

 

――はぁっ!?

 

 青山の言葉に麗日は小さく叫びながら真っ赤に顔を染めた。

 これは試験中にも彼に言われた事であり、緑谷への好意を指摘された事が禍を転じて福と為して13号を撃破している。

 しかし、何故に今このタイミングでなのか。

 

「いや!? 青山くんなにいうてんの!?」

 

「だって君、彼の事を理解してる感じだったしね☆」

 

「だからって、うちがデクくんの事がぁ……ぁぁ」

 

 恋愛に疎ければ異性との関りが殆どなかった事もあり、麗日は顔が熱くなって仕方なかった。

 混乱しているともいえ、そんな彼女の変化に緑谷も気付いてしまう。

 

「あれ? 麗日さんどうしたの?……顔が赤いけど――」

 

「ふええぇ!?」

 

 背後からの緑谷の声に過剰反応してしまった麗日は、変な声と共に一気に距離をとってしまう。

 

「なっ、なんでもないよぉ!!」

 

「えぇ……なんでもない事はない気がするんだけど。……青山くんは何か知ってるの?」

 

「さぁね☆」

 

 戸惑う緑谷に、元凶である青山は笑顔で一蹴。

 A組で一番、謎を纏うのは彼なのかもしれない。

 

――だが、そんな事をしている間にも時が流れている事を緑谷は忘れている。

 

『AOoooooooN!!』

 

「――あっ! 雷狼寺さんが捕まりましたわ!?」

 

「校長の奥の手か……!」

 

 命狼竜の咆哮で我に返り、八百万と轟の言葉でモニターへ視線を戻した。

 

 そこに映っていたのは、0p改から小さな腕が何本も飛び出しており、そのサブアームで命狼竜を捉えていた。

 身体を大きく揺らし、捻りながら抵抗する命狼竜だが、0p改は主力の腕である研いでないブレードを命狼竜へ振り下ろし、その一撃を浴びせた。

 そして強烈な鈍い音と共に、命狼竜の声が室内へ響き渡る。

 

『AOoooooooN!!!』

 

「これは……魔犬を封じたというのか!」

 

「っていうか、やっぱり不利じゃないのか!? 蛙吹はどうしたんだ?」

 

「いてもどうしようもできねえだろ……0p改はあんなんで、雷狼寺も既に超帯電状態だ。巻き添えに遭うだけだ」

 

 常闇と尾白が戸惑いの声をあげ、その中で轟は冷静に状況を判断する。

 0p改も動きがヤバイが、命狼竜の動きも暴れる様に派手に動いていおり、いくら蛙吹でも近付こうものならば怪我は確実に負う。

 裏で動いているかもしれないが、少なくとも皆は命狼竜と0p改の戦いに集中している。

 

『AOoooooN!!』

 

 暴れる命狼竜だが、0p改は機械故に怯むことはしない。

 そのままブレードを振り続け、命狼竜に攻撃を仕掛け続けてゆく。

 

 一撃、また一撃とブレードを振るい、命狼竜は動けない故にその攻撃を受け続ける。

 そんな光景に皆の表情も青く、険しくなってゆく。試験とはいえ、見ていて気分が良くなる映像ではない。

 やはり、少しやり過ぎなのではないかと誰もが考えた時だ。

――リカバリーガールが不意に呟いた。

 

「……()()()()ね」

 

 リカバリーガールは、どこか納得した様子。

 その様子に緑谷達も反応し、全員の視線がリカバリーガールへと集まると、リカバリーガールはモニターから顔を逸らさず更に呟いた。

 

「……あの坊や、傷が“再生”しているね。しかも、とんでもない速度で」

 

「再生……? ――えっ! 再生しているんですか!?」

 

 緑谷の驚いた声に周りも反応し、ざわざわと騒ぎだす。

 

「再生って……雷狼寺の個性は雷狼竜じゃん? 生き物の自己再生って事?」

 

「普通の生き物ではありませんから、自己再生能力も高いのでしょうか?」

 

「それか、リカバリーガールの見間違い?」

 

 耳郎と八百万は自分の言葉にも違和感を持ち、尾白は単純にリカバリーガールの判断違いと思っていた。

 しかし、聞き捨てならんと、リカバリーガールがすぐに反応した。

 

「何年この仕事してると思ってんだい!――見間違うものかい……そしてもう一つ分かったよ。あの坊やの再生力は、明らかに“異常”な速さだね」

 

「普通じゃないって……じゃあ、雷狼寺君のあれはなんなんですか?」

 

「さあね……個性の成長の恩恵なのか、それとも別の何かなのか? 少なくとも、本当の事は本人にしか分からないさ」

 

 飯田からの問いにもリカバリーガールだけは冷静に答えたが、その言葉を聞いた者達はモニターへ釘付けとなって固まってしまう。

 暴れる命狼竜。どれだけ攻撃を受けようが止まる事はなく、死なぬ限り止まる事はないのかも知れない。

 

――死んでも尚、生き返らなければの話だが。

 

 そして、そんな光景にリカバリーガールの言葉を聞いた者達は、個性の成長という点に違和感を抱く。

 

「あれは、本当に個性の成長なのかい☆……?」

 

「……インフレの闇を感じる」

 

「アリエネェ~」

 

「俺の尻尾も昔よりは筋肉ついたり、素早く動く様になったけどさ……雷狼寺のを見ると、少し自信なくすなぁ」

 

 青山も常闇・黒影も冷や汗を拭いながら、圧倒的な何かの差を感じ取る。

 尾白も個性の違いで、ここまで差が出るとは思っておらず自分の尾を撫でながら溜息を吐いた。

 

 しかし、緑谷を筆頭に残りのメンバーはそう単純に理解は出来なかった。

 明らかに何かが違う、違うとしか言えないが、本当にそれしか言えない立証できない違和感だけを抱いていた。

 また、八百万や飯田等は表情を険しくし、竜牙を後に越えなければならない存在と認識して自分を追い詰めていたが、緑谷・轟・耳郎は腑に落ちていなかった。

 

 すると、リカバリーガールはどこか悲壮感を纏ってお茶を飲むと、やるせない口調で呟いた。

 

「どうしたら、あんな風になるんだろうねぇ。まだ若いのにぃ……」

 

「えっ……リカバリーガール、今度はどうしたんですか?」

 

「……あんた達、よく聞いときな。こういう仕事しているとね、時折だけど出会う事もあるもんさ。――『再生』の個性を持つ人達にもね」

 

 リカバリーガールはそう言うと話を続けて行く。

 再生持ち、それだけで周囲は重宝するが、現実は中々に非情ともいえる。

 リカバリーガールは、そんな個性の患者から相談を受ける事が稀にある事を話した。

 

「デメリットがあるかないかは関係なくさ……再生の個性の人達は皆、同じことを言うんだ――」

 

――()()ってね。

 

「痛い……?」

 

「そう……再生するからって、“痛覚”が無くなる訳じゃないさ。痛覚は生物に危険を知らせる信号、すぐ治るからって消えるもんじゃない。――そんな、傷は再生しても痛みが引かないって相談を受けるんだよ」

 

 緑谷の声に答えながらリカバリーガールはまた、意味ありげにモニターを眺めると緑谷達はその言葉の意味に気付く。

 

「じゃあ、雷狼寺くんも……!」

 

「例外なんていないさ……」

 

『AOoooooooN!!』

 

 モニターでは0p改から未だに命狼竜は攻撃を受け続けているが、やはり優勢は命狼竜。

 ブレードを何度その身に浮けようが、屈する姿勢を見せない孤狼。寧ろ、進んで傷付いている様にもみえる。

 

 だが攻撃を受けながらも首を伸ばし、0p改の首に喰らいついて配線を肉の様に引き抜く。

 爪で装甲を何度も裂き、0p改の首のダメージも更に拡大してゆく。

 攻撃を受けている回数も、機械でもなく生身で受けている以上はダメージも大きい筈。

 その命が、悲鳴をあげてもおかしくない筈なのに……。

 

――だが、それ故の不死種。

 

 倒れぬ、果てぬ、敵を討つまでその鼓動を止ませない。

 敵となるものを排除せずに死んだのならば、何度でも蘇ろう。

 敵となるものを排除したならば、その鼓動と共に死から遠ざかろう。

 

――戦う事なかれ、幽明に生き、不死に導かれし“反魂せし翠狼”と。

 

『AOoooooooN!!!』

 

「……痛い筈だよ。なのに、何があったらあんな悲しい戦い方が出来るんだい? 何が起これば、こんなに自ら傷付く事が出来るんだい?」

 

――命が可哀想だろうに……。

 

「!」

 

 気付けば身体が動いていた。

 緑谷は駆け出し、モニターの真ん前へと立ち止まると、顔を上げてモニターの映像を瞳に映した。

 

 映るのは命狼竜。

 傷付き、すぐ再生し、敵を喰らい廻す姿。

 捨て身――己の命など、傍から捨てていると示すかの様な悲しき姿。

 

――ヒーローの姿ではなかった。

――体育祭で見せてくれた、笑顔を浮かべた竜牙の姿はどこにもいなかった。

――オールマイトの様に、他者を安心させる存在がモニターにはいない。

 

――違うよ……!

 

「それじゃあ駄目だよ!! 雷狼寺くんっ!!」

 

『AOoooooooN!!!』

 

 目に涙を溜める緑谷の叫びは竜牙には届かない。

 緑谷以外、誰も言葉を発せない。

 

――済まない……雷狼寺少年……!

 

 影から映像を見ていたオールマイトさえ、心の中でしか声を出せなかった。

 悔しさを、悲しさを、これでもかと抑え込むように、己の拳を震わせながら握り絞めて……。

 

 そして、そんな緑谷達の願いも虚しく、事態は動き出す。

 

 

▼▼▼

 

『AOoooooooN!!!』

 

 その咆哮と共に命狼竜が纏う電力が極限まで達した。

 鉄すら焦がし、破壊する雷。

 

――サポートアイテムにより、命狼竜の素材より生まれし存在――「幽明虫」

 

 不老の再生能力を可能とした幽明虫・電力を授ける雷光虫。

 この二つの存在が命狼竜の強さの源。

 

 その力を受け、増幅させた命狼竜の雷が0p改のサブアームを破壊し、とうとう命狼竜を放してしまう。

 首からスパークし、箇所もボロボロになっている0p改。

 だが、命狼竜は動きを止めない。

 周囲に五発の巨大な弾を生成した。

 

――幽明虫が集まって作られた弾――幽明虫弾。

 

 威力は雷光虫弾の比ではない。

 琥珀色の弾丸が一斉に放たれた姿は、まるで美しき星の様だ。

 

 だが、その星は輝きを生まない。

 0p改を貫き、大きな爆発と共に0p改を沈めた。

 

『!……0p改が破壊されたのさ!?――しかし、これで終わりではないのさ!』

 

 根津は冷静だった。

 0p改が破壊されるのは想定内でもあったが、試験内容は脱出か己を捉える事。

 脱出するか、それとも今からでも自分の居場所を探そうとするか。

 どちらにしろ時間は少ない。もう無駄な時間は使えない。

 

 根津はカメラで命狼竜も様子を確認すると、命狼竜は壊れた0p改の残骸には目もくれず、建物の屋上へと上がると静かに佇みながら顔を空へと向けていた。

 

 静かに、ただそれだけの行動。

 一体、何をしているのかと根津は首を傾げるが、ある()()()に気付き、思わずマグカップを落としてしまった。

 

『ま、まさか……?』

 

 雷狼竜――つまり“狼”の力もある。

 ならば、もしあの()()が通常の生物よりも高い能力だったならば……?

 

――私を匂いで探している?

 

 ここでようやく根津の冷静の砦に亀裂が走る。

 額に汗を流しながら感じるこの不安。それは長らく忘れていた、野生の弱者の時の記憶。

 強者達に狙われていた時の感覚。

 

――動いてはならない。今は息を殺し、気配を殺し。脅威が去るのを待つのだ。

 

 それがハイスペックと根津の野生の経験が出した答え。

 しかし、今回はそれでも足りない。

 

――感じる。空気に紛れ、水に紛れ、鉄に紛れ、工場密集地に確かに感じる“異物”の匂いが。

 

『!!』

 

――獲物の匂いが。

 

『バレたのさっ!?』

 

 命狼竜の首が不意に一点を捉え、その顔が根津のモニタリングしているカメラと向き合う。

 確実に捉えられて、根津はハンマークレーンを操作して建物を崩そうとする。

 だが、それよりも命狼竜の動きが変わった。

 

 不意に命狼竜から竜牙に戻り、何やら左腕の形状が変わって、何かが腕から生えてきた。

 それは一言で言えば――

 

――弓。

 

 雷狼竜を素材にした弓。

 

「“武具作成”――王弓・エンライ……!」

 

 雷狼竜の面影を所々にある弓を竜牙は構え、先程まで根津がいるであろう方向へと向ける。

 その方向の先には、ハンマークレーンがそびえ立っており、竜牙は己の身体を材料に矢を作成し、極限まで弦を引いて一気に放った。

 

 矢は荒ぶりながら飛んでゆくが、それは確かに真っ直ぐ向かう。

 そして、ハンマークレーンの足であり鉄骨を射抜く。

 足を貫かれたハンマークレーンは揺れるが、それで終わる事はなかった。

 

 竜牙、矢を連射。

 次々と飛んで行くその姿は生物の群れにも見えるが、鉄骨を次々と抉ってゆくのは災害レベル。

 そして、鉄骨が虫食い状態になった事でとうとう耐久力が限界を迎え、崩壊よろしく崩れ始めた。

 

『マズイのさ!――脱出!』

 

 根津は椅子に座ると、備え付きのスイッチを押す。

 すると、天井が開いてポーンッと発射。そのまま脱出を果たし、椅子からはパラシュートが展開。

 フワフワとゆっくり地面への旅が始まった。

 

――平和にいけば尚、良かったのだが。

 

『AOooooooooN!!』

 

 命狼竜再臨。

 再びその姿を変え、建物を薙ぎ倒しながら根津目掛けて駆けて来る。

 その姿は凄まじく、圧倒的な覇気を身に纏っての蹂躙駆け。

 

「ネズミにも慈悲は欲しいのさぁぁ!?」

 

 迫力が半端なく、何よりも自分のネズミとしての本能が命狼竜を恐れており、根津も本来の判断が出来ないでいる。

 予算の都合で椅子に防衛機能を付けなかったのも災いし、地面に辿り着く前よりも先に着くのは命狼竜。

 

「夢も希望もないのさぁ!?」

 

『AOoooooN!!』

 

 根津絶対絶命。

 地面に辿り着いたと途端に目の前には命狼竜が、その牙を根津へと向けた。

 

「ネズミも今では愛されるマスコットなのさぁぁ!!」

 

 最後には謎の叫びをあげ、根津は両手を上げていたが、命狼竜はそれに関わらず飛び掛かった。

 そして――

 

――ガチャ。

 

「終わったわ……雷狼寺ちゃん」

 

 蛙吹が、手錠を付けた根津を両手で抱えていた。

 それと同時、牙が蛙吹達に接触する直前で命狼竜も停止。

 

――蛙吹はずっと行動していた。

 

 この竜牙を止めるには試験を早く終わらせる為、崩れた建物を辿って変な動きをするハンマークレーンを発見し、根津の居場所を突き止めていた。

 それは倒すのが綺麗過ぎた根津のハンデであったが、それに気付けたのは動きと判断力がある蛙吹だったから気付けたのもある。

 

 そして、先回りして命狼竜よりも早く接触して手錠をかけられた。

 これで試験は終わり、未だに命狼竜のまま固まっている竜牙に蛙吹は舌で軽くペチッと叩いてみた。

 

「雷狼寺ちゃん、終わったのよ?」

 

『!』

 

 ようやく竜牙は動いた。

 まるで我に返った様に動きだし、静かに命狼竜を解いて人の姿へと戻った。

 しかし、竜牙は何も発さず、ただ蛙吹と根津へ背を向ける。

 顔も見えないまま、竜牙が何を考えているのかも分からず、試験は終わりを迎えた。

 

――雷狼寺&蛙吹ペア、条件達成によりクリア。

 

『タイムアップゥゥゥ! 期末試験! これにて終了だよ!』

 

 リカバリーガールの放送により、全てのテストは終わりを迎える。

 だが、根津も蛙吹も――否、この竜牙の試験を見ていた者達の表情は晴れない。

 

「雷狼寺……やっぱりアイツ、何かあったんだ」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 ただ耳郎と轟の二人だけは、何かを悟っていた。

 

 

▼▼▼

 

 

 とある研究室。薄暗く、他者の侵入を拒む悪の探求室。

 その通路を車椅子を押しながらドクターは、車椅子に座る顔のない男――オール・フォー・ワンへ話しかけていた。

 

「やれやれ……流石にアメリカからのロシアは堪えるよ先生」

 

「ハハハ……済まなかったねドクター。私の我儘に付き合わせてしまって」

 

「まあ、先生のやる事には絶対に意味があるからねえ、別にいいさ」

 

 そう言ってドクターはオール・フォー・ワンを固定の椅子に座らせ、前の様にチューブや医療器具を彼の身体に刺し始めて肉体の異常を調べ始める。

 長年してきた慣れた動きであり、ドクターはやがて安心する様に頷く。

 

「これで良い……特に問題はなかったよ先生?」

 

「そうかい、ありがとうドクター。――それじゃ、次はぁ……」

 

 オール・フォー・ワンが顔を向けた先、目はないのにその先にいる存在達を見て満足そうに笑みを浮かべる。

 

――それは大量の液体が入ったカプセルで、中には()()()()()が衣服を着たまま入れられていた。

 

 溺れない様に口と鼻に呼吸器のマスクが付いているが、誰も目を覚ます様子はない。

 そんな彼等を見ながらドクターは少し納得しない様子で眺めていた。

 

「それにしても、本当に今回の件に関しては意図が分からないよ。コイツ等も脳無の材料にすれば、質の良い新型が作れると思うんだけどね」

 

「ハハハ……勘弁してくれよドクター。彼等は必要な存在なんだから、手は出さないでくれよ?」

 

「それは分かってるが、本当にそんな力があったのかい? その割には簡単に先生に倒されて捕まったが?」

 

 ドクターは理解が難しかった。

 目の前の五人は、今では移動が難しくなっているオール・フォー・ワンが無理をしてでも連れて行きたいと言って、わざわざ海外まで行った目的。

 しかし、結果はオール・フォー・ワンが少し本気を出してみれば、あっという間に倒され捕まった連中。

 ハッキリ言ってリスクの元が取れていないとドクターは感じていた。

 

「まあ、それは仕方ないよドクター。彼等と戦った時、基本的に人混みがなかったとはいえ街中だった。だからヒーローである彼等は本気で戦えず、呆気なく捕まってしまったのさ。――まぁ、ロシアは街の外だったから“アレ”になられて苦労したけどね」

 

「……先生が満足している儂は何も言わんよ。それで、今度はどこに向かうつもりだい? フランス、中国、ポーランド……または真下のブラジルかな先生?」

 

「……いや、今回はもう彼等5人で満足だよドクター。――これ以上は死柄木の事も放っておく訳にはいかないからね」

 

 オール・フォー・ワンはそう言い終えると、手を動かしてモニターを操作すると、一人の少年の映像が映し出された。

 そして、その映像を聞きながらオール・フォー・ワンは再び笑みを浮かべる。

 

――さあ、彼も僕の生徒の様なものだ。ちゃんと、導いてあげなければ……。

 

「もう少しだよ……()()() ()()()――そしてオールマイト」

 

――もう、()()()()()は堪能しただろう?

 

 歪んだ笑みを浮かべ、今、再び巨悪が動きだす。

 

――平和なんて、一度も訪れていなかった。

 

 

 

END


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