僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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RAVEのレオパールって凄い良いよね(´・ω・`)


第三十一話:あなたはだれ?

 敵連合との接触。それはA組の者達が思っている以上の事態となり、ショッピングモールは閉鎖された。

 竜牙自身も緑谷と共に事情聴取の為、まるで護衛の様に集まったミッドナイト達・警察に連れられ、そのまま警察署へと行くことになった。

 

 その道中、パトカーで竜牙は緑谷と共に一緒になったが、緑谷は事態に困惑しているのか何も話さず黙ったままだ。

 けれど時折、何かを聞きたそうに視線を向けて来てもしたが、竜牙はオール・フォー・ワンの言葉に意識を使っており、敢えて緑谷からの視線を無視していた。

 

――オールマイトも、オール・フォー・ワンも、一体何があるんだ? 

 

 秘密。恐らく誰にも知られてはいけないパンドラの箱。

 竜牙はそんな箱の蓋に触れている様な感覚を抱きながらも、その開け方を分かっていない愚者の様な気分だった。

 けれど知っていたとしても、竜牙は自身の意思で開ける事はないと、情けないが分かっていた。

 怖い、背負いきれない、自身に関係していたとしても同じ答え。恐らく()()で開かない限り、竜牙は悩み続ける。

 

 そんな事を考えていた竜牙だが、やがて警察署に到着。

 警察・ミッドナイト・マイク等、雄英の教師陣に見守れながら緑谷と分かれ、別々の個室に案内された。

 

――緑谷と一緒じゃないんだな。まぁ事情聴取ならそんなものか。

 

 しかも今回のは敵連合の主犯の者達。詳しい内容、遭遇したヴィランも違う以上、その方が都合が良いのだろう。

 竜牙は特に意識せず、猫の異形系警官に「座って待ってて」と言われ、言われるまま部屋の椅子に腰を掛けると、その警官は部屋を出て行ってしまう。

 

「……何なんだ?」

 

 今の状況の様子に違和感を抱く。

 警官のどこか余裕のないピリピリとした雰囲気と、過剰に息苦しさを誘う、場の重い雰囲気。

 個室での事情聴取は初めての経験の竜牙だが、限界まで場を張り詰めさせたような感覚が別の意味で場違いに感じ、困惑していた時だった。

 

「やぁ、待たせてしまったね」

 

 一人の男が個室に入ってくる。

 その男は竜牙にとって見覚えのある男だった。

 

「塚内さん……」

 

「やぁ雷狼寺くん、今回は災難――いや、そんな話じゃないな」

 

 途中で何とも言えない表情し、話を変える警察の塚内。

 職場体験の時、その入院中に他の警察同様に話を聞きに来ていた一人であり、中でも深く話を聞いて来た事もあって竜牙の印象に深く残っていた。

 

「無事で何よりだよ。話を聞く限り、また君の下に現れたって聞いたよ?」

 

「……はい。本人が直接来た訳ではありませんでしたが、敵連合の黒霧は本人でした」

 

「……なる程。じゃあすまないけど、詳しい話を聞かせてくれないかな?」

 

 竜牙はその言葉に静かに頷くのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

「そうか……こう言うのもあれだけど、(オールフォーワン)は君に執着しているようにも見える」

 

「……執着」

 

 違う。そんな簡単な話じゃない。

 竜牙はその言葉を反射的に否定していた。

 

「……違う。あの男は、そんな単純な言葉で俺に関わっていない」

 

「……う~む」

 

――これは。あまり余裕はなさそうだな。

 

 塚内は竜牙の短い呟きを聞いただけで、オール・フォー・ワンが心の深い所までに侵食したと見抜いていた。

 伊達に警察側とはいえ、オールマイトの友として共に巨悪を追いかけていた訳ではない。

 直感的に分かってしまう。このままでは、目の前の少年も手遅れになってしまう。

 

――早く来てくれ。

 

 塚内は色々と聞きながら、内心で呼んだ人物が来るのを今か今かと思っていた時だった。

 不意に勢いよく個室の扉が開くと同時、大柄なシルエットが竜牙達の前に現れた。

 

「私が来た!!」

 

「オ、オールマイト……?」

 

 ダイナミック入室をし、竜牙の目の前でオールマイトは「HAHAHA!」と笑っているが、竜牙は心の衝撃が収まらず、塚内も呆れた様に溜息を吐いた。

 これではサプライズを通り越し、最早奇襲だ。それだけのインパクトは間違いなくあったと、塚内は疲れた様子で肩を落とす。 

 

「一応ここは警察署なんだけどね……」

 

「HAHAHA! ごめんごめん!――まぁそれはそうと色々と差し入れを持ってきたんだけど……」

 

 笑いながらも申し訳なさそうに腰を低くしながらオールマイトは、手に持っていたビニール袋を小さく見せた。

 大の大男が可愛く持つのはギャップのあるユーモアだが、塚内は何かを察した様に椅子から立ち上がる。

 

「少し席を外させてもらうね。緑谷君にも聞きたい事があるから、ここはオールマイトに任せるよ」

 

 そう言ってオールマイトの横を通り過ぎる塚内だが、その時に竜牙は聞き逃さなかった。

 オールマイトが彼に向かって小さく『ありがとう……』と呟いたのを。

 

「……仲が良いんですね?」

 

「うん、まぁね……彼には雄英に教師として来る前から世話になっていてね。いやいや頭が上がらないよ」

 

 無駄のない流れを見て、そう思った竜牙。

 その言葉を聞いたオールマイトは照れ臭そうに笑いながら言った。

 警察とヒーロー。それ以上の絆を竜牙は確かに感じていると、オールマイトは真剣な表情を浮かべる。

 

「それはそれとして……雷狼寺少年、災難だったね。無事で良かったよ。――そしてすまない」

 

「……今回の一件は事故みたいなものでした。向こうは危害を加える気がなかったらしいですが、それでも回避する術も、それでオールマイトが責任を感じる事もないです」

 

「違う!……違うんだよ雷狼寺少年。今回の事だけじゃなく、今までの事も……何よりオール・フォー・ワンの件は私の責任なんだ」

 

 その言葉を聞いた竜牙は目を大きく開いた。

 竜牙はオールマイトが№1だから生徒への危機に責任を感じたと思ったが、オールマイトは深い意味での謝罪。

 けれど竜牙は、その話を聞いて腑に落ちた。

 

「やはり……あなたもオール・フォー・ワンを知っていたんですね。あの巨悪を」

 

「……本当なら話してはいけない事だが、君は既に奴と深い関係にある。――聞いてもらえるかい?」

 

 いつもユーモア溢れるオールマイトとは違い、かなり真剣な雰囲気と口調で話す彼を見て、竜牙も静かに頷いた。

 

 

▼▼▼

 

 オールマイトの話は15分程度で終わった。

 

 オール・フォー・ワンとの長い因縁、激闘、死んでいたと思っていたが最近になって生存を確信し、少しずつ探っている事を。

 そしてオールマイトは話を終わった後、テーブルに頭を付けて竜牙に謝罪した。

 

「本当にすまない!! 君の過去も聞いた……恐らく、それにも奴が関係している筈だ。今も君に関心を向けているのが証拠とも思える。本当に……すまなかった!」

 

「あの事件の件は……まだ記憶が曖昧でしたが、断片的に記憶が戻って来ています。だからオール・フォー・ワンと接触したのは微かにですが、確かな筈です。――けど因縁があるとはいえ、オール・フォー・ワンが起こした件を全て責任を感じる事はない筈です」

 

「違うんだ……まだそれもあるが、私は最近の君の異変にも気付いていた。個性の変化や、君の変化、その全てだ。けれど私は教師として、君にどうしてあげるのが良いのか分からず、そうこうしている内に再び奴を君と接触させてしまった……!」

 

 オールマイトの謝罪。それはヒーローと教師としての謝罪だった。

 オール・フォー・ワンの因縁の未解決。教え子の誤り始めた道の未正し。

 それら全てを含んだ謝罪を聞いた竜牙は静かに首を振った。

 

「オール・フォー・ワンの件は過ぎた事……今の俺の生き方の自身で決めた事。どれもあなたが悔やむ事じゃないです」

 

「だが……それでは駄目だ雷狼寺少年! それは……そんな風な力の成長は目的以外の被害も必ず出る。そして必ず君は後悔してしまう! 雷狼寺少年……成長に近道はないんだ。力の成長ならば尚の事だ」

 

「これは成長じゃないんですよオールマイト……解放です。俺が本来持つ雷狼竜の個性……忘れていた力を解放しているだけです」

 

「雷狼寺少年……しかしそれは――」

 

――大きすぎる力だ。

 

 オールマイトは思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。

 何か言うべきなのは分かっていた。しかし竜牙にその言葉は彼自身の否定と同意義。

 教師でもあるがオールマイトも優し過ぎた。器用では事も災いし、オールマイトは何とか言葉を考える。

  

 けれど、その間に竜牙にもある考えが過っていた。

 

――やっぱりそうだ。何故かオールマイトへの絶対的な壁を感じない。

 

 竜牙はオールマイトと二人だけという空間から感じ、そして抱いたのはオールマイトとの実力の距離の縮まりだった。

 以前ならば確かに感じたオールマイトとの越えられない壁の存在。圧倒的な実力差。

 今も実力だけならばオールマイトの方が遥かに上。だが竜牙は本能だけで、その壁は無くなっていると確信を得ていた。

 

 同時に思い出すはオール・フォー・ワンの言葉だ。

 

『オールマイトを信頼し過ぎては駄目だ。彼は限界だからね』

 

 竜牙は言葉の真意は分かっていない。だが限界と言った意味とオールマイトへの印象の変化が関係しているなら確かめねばならない。 

 

「オールマイト……一つ聞いても良いですか?」

 

「えっ? あ、あぁ……勿論良いとも!」

 

 考えていたオールマイトは我に返って頷くが、竜牙は次に発した内容で内心は微かに乱れる事になる。

 

「では聞きますが……何か隠していませんか? ヴィランの件ではなく、オールマイト自身の事で」

 

「!……何の事だい?」

 

 いつもの笑顔で返答するオールマイト。

 しかし竜牙にはそれだけで違和感を抱くには十分だった。

 オールマイトは何かを隠そうとし、敢えて真剣に答えた為に空気がピリ付いた。 

 

「オールマイト。オール・フォー・ワンは俺にこう言いました。オールマイトは限界だと。そして俺の中の雷狼竜が教えてくれます。今の瞬間、空気が張り詰めたのを」

 

「奴の言葉に一切耳を傾けては駄目だ。少しでも心を開いてしまえば、奴は一気に君の心に流れ込ませてくる! そしてと空気が変わったのは、ただ私も少々奴の件だからと気を……ッ!――ゴホッ! ゴホォッ!!」

 

「オールマイト!?」

 

 オールマイトは放している最中、突然背を向けて苦しそうに咳き込んだ。

 誰が聞いても普通の咳ではない。竜牙は思わず立ち上がり傍に行こうとするが、オールマイトは手でそれを制止した。

 

「大丈夫……! 最近、忙しかったから疲れている様だ。HAHAHA……私も歳かな?」

 

 

 調子を崩さない様にしているオールマイトだが、竜牙が少し嗅覚に雷狼竜の力を加えれば意味を為さない事だ。

 竜牙には確かに嗅いだ。オールマイトの口と手から――血の匂いを。

 

「オールマイト……! 血の匂いが! まさか病気を患っているんじゃ――」

 

「!?――HAHAHA!! そんな訳ないだろ! 私は毎年、健康診断で何かに引っ掛かった事はないんだぜ! こ、これは来る途中で捕まえたヴィランのだろうね! けど消臭しないのは良くないね! ファンから貰った香水を付けないと!」

 

 オールマイトはそう言って慌ただしく香水を取り出した。

 そしてこれでもかと、自身に何度もプッシュする。それは香水の瓶から液が減ったのが目で分かるほどであり、密室も手伝い、竜牙は気分が悪くなった。

 

「に、匂いが……頭痛い……!」

 

「おぉぉっと! すまない! 大丈夫か雷狼寺少年!!」

 

 ついやり過ぎてしまったと、オールマイトは慌ててデスクに突っ伏した竜牙を介抱する。

 だが竜牙は不調の中でも確かに見た。オールマイトに唇に血液の拭き残しを。

 

――オールマイト。やっぱり何かあるんだ。

 

 

 天下のオールマイトが隠さなければならない事。

 不安を抱く竜牙の脳内でオール・フォー・ワンが、あの嫌な笑みを浮かべていた。

 

 

▼▼▼

 

 

「竜牙さん!!?」

 

「心配を掛けました、猫折さん」

 

 その後、香水が充満した個室から脱出した竜牙は、戻って来た塚内に らながら緑谷の部屋へ向かうオールマイトと別れた。

 警察署に来て数時間は経っており、既に日は暮れていた。

 オールマイトが来た事が関係あるのかミッドナイト達は既におらず、そんな署の前で沢山の警察官に見守られながら竜牙は保護者の猫折さんと再会を果たしていた。

 

「良かったぁ……本当に良かったぁ……!」

 

 事情を聞いていた猫折さんは涙を流しながら竜牙の無事に震えていた。

 我が子の事の様に心配してくれていた猫折さんの姿に、竜牙も流石に申し訳なさからの罪悪感を感じてしまう。

 

「……俺は無事です。クラスメイト達も皆」

 

「竜牙さん……! 本当に良かったです……ですが雄英に入学してからこんな事ばっかりで、私は耐えられませんよ……!」

 

 USJ襲撃・職場体験でのひと悶着・そして今回の一件。

 立て続けに起こる通常では考えられない事件ばかりで、雄英合格の時に喜んでいた猫折さんの姿はもうなかった。

 大事な子供がいつ死んでもおかしくない。そんな気が気でない状況に耳と尻尾も下がって元気がない。

 

「それもまた……俺の選んだ道の結果です。俺はこの受難に感謝しないといけない立場なんです」

 

「竜牙さん……! でもあなたはまだ子供なんですよ! 今度またヴィランが来たら本当にどうなるか……!」

 

 竜牙の言葉に納得できず不安を増す猫折さんだが、竜牙には譲れない部分もあった。

 オール・フォー・ワンの気まぐれによっては猫折さん達も標的になる可能性もあり、竜牙には受難を糧にするしか選択肢はない。

 そして、少し重い空気が流れ始めた時、二人の前に一人の警官が今後の事について話しに来た。

 

「少々宜しいでしょうか。その事で暫くは警察や特定のヒーローが近所をパトロールする事になりまして――」

 

「はい……はい……そうですか。それは助かります」 

 

 猫折さんは警官の話を真剣に聞く中、竜牙は無関係でないのを知りながらも少しその場から離れた。

 そして落ち着く様に入口付近の柱の影に背を預け、深く深呼吸をしながら夜空を見上げた。

 黄昏る様にボォ~っと見上げる内心で思うのは、今日までの変化だった。 

 

――随分と変わった気がする。

 

 個性、歩む道、行動。

 蛙吹・緑谷から言われていた時も本当は気付いていた。間違ってきている事に。

 だが、ならばどうすれば良い。ステインの言う通り、既に本物のヒーローは殆どいない。

 誰が守り、誰がオール・フォー・ワンに対抗できるというのか。

 

「どの道……後悔は後からしか感じないさ」

 

 後悔、先に立たず。

 ならば全てを終わらせた後で良い。その結果、もうヒーローの道を歩む事を諦めたとしても。

 

「それにオールマイトもいる……信じるのはそこだけか」

 

 オールマイトから圧倒的な壁を感じなくなった事、オール・フォー・ワンの言葉も気にはなる。

 けれど№1の名は伊達ではない。他のヒーローと違うのはまさしく彼だけだ。

 オールマイトがさっきの言葉通り、オール・フォー・ワンを何とかするならば自身が無理をする理由もなくなる。

 

――信じれば良い。ただそれだけ。

 

 

「竜牙さん、少し良い?」

 

 竜牙は不意に声を掛けられて我に返った。そして声の主の方を向くと、そこには猫折さんが立っていた。

 

「今後の事で詳しい話を聞かないといけないので署内に戻りますが、竜牙さんはどうされます?」

 

「……もう少し外の風に当たってる。――大丈夫、流石に警察署にヴィランも来ないさ」

 

 竜牙は嘘を付いた。もう少し一人でいたいが為、並みのヴィランならば言う通りでもオール・フォー・ワンならば関係ない。

 だから警察署にいようが安全ではないが、猫折さんは少し悩んだが納得した様に頷いた。

 

「分かりました。でも、決して一人でどこかには行っちゃダメですよ?」

 

 まるで見ていないと安心できない子供に言い聞かせる様に言うと、猫折さんは他の警官と一緒に署内へと入って行く。

 残された竜牙も言った通り、柱の陰からは動かず背を預けたまま空を見上げた。

 

Grrrrrrrrrr

 

 雷狼竜の声が聞こえる。心の底から聞こえてくる。

 オール・フォー・ワンとの再会以降、雷狼竜の気持ちがよく分かってきた。

 雷狼竜は怒っている。何故負けるのか、何故暴れないのか、何故に弱者に従い自身等の檻を開けないのか。

 

「弱者は死ぬ為だけの存在……」

 

 野生の認識なのか、こう言う事も思う様になってきた。

 敗北、嘗められる、過小と判断される。その時点で雷狼竜からすれば許せない領域。

 個に対して、強いては自身の種族の敗北を意味する。

 

「もう……小出しじゃ許してくれないか雷狼竜」

 

 今までの様なやり方も、もう通じない許されない。

 だが更なるやり方は本当に獣の領域。人からは恐怖として見られる世界。

 竜牙は僅かな迷いを抱えながら空の移動する雲を見ていた時だ。背後――正確に言えば署の入口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「オールマイト……オールマイトは誰かを助けられなかったことはありますか?」

 

「あるよ。今までもいたし、今こうしている時もそうさ。私の目の前にいない、手の届かない者達を守る事は私にもできない」

 

 緑谷とオールマイトの声だ。鼻や耳を雷狼竜にしなくても聞こえるし、強烈な香水の匂いで分かる。

 そして二人の言葉から悲しみや後悔のような感情も察する事ができる。

 

 №1ヒーローも一人の人。神でもなければ人だからこそのヒーロー。

 それでも助けられない人への想いもある優しき頂き。けれど、オールマイトはそれで終わらない。

 

「だからこそ笑うんだ。笑って立つ……それが人も、ヒーローも、悪人も、全ての人々の心を灯せる事を信じてね」

 

――これが№1の言葉か。

 

 オールマイトの言葉を聞いた瞬間、竜牙は温かい感じを受け、心の重りが軽くなったのを感じた。

 思い出すのは緑谷・耳郎達――仲間と、ねじれちゃんやリューキュウ達の師の顔だ。

 皆、不安そうに自分を見ていた。けど分かる。それは同時に必死に自身の心へ灯そうとしてくれていた事に。

 

『勘弁して! 私じゃもうあなたを育てられない!』

 

『分かってくれ……お前と私達は違うんだ』

 

「その通りだよな……今でもあの頃のままなら」

 

 不思議と両親の言葉が思い出される。

 嘗て自身でも扱いが分からず、記憶障害もあるほどに好き勝手に動いた雷狼竜の個性。

 だが今は自身の意思で使用している個性。ヒーローの道も自身で選んだ道。

 蛙吹が言った様に、このままでは両親が正しかった事への証明でもある。

 

「……俺一人でやろうとしてる事が間違いなのか?」

 

 雷狼竜と自身だけでは駄目だ。しかし今だって背後にいる。

 緑谷もそうだし、あのオールマイトだってそうだ。

 竜牙は迷いを抱えながらも、軽くなった迷いでもある。その迷いを打ち明けようと柱から顔を出し、オールマイト達へ声を掛けた。

 

「緑谷、オールマイト……すまない、今――」

 

 だがそこにいたのは緑谷とオールマイトだけではなかった。

 先程も会ったばかりの塚内もおり、緑谷もいた。だが()()()()明らかに違う人物がいた。

 

「ら、雷狼寺くん!?」

 

「!」

 

 竜牙の存在に気付いた緑谷はあからさまに驚き、塚内も挙動に乱れが起こる。

 けれどそこはどうでも良い。竜牙は思わず固まってしまう。

 原因である存在。目に写ったのがオールマイトから匂っていた筈の香水を纏った()()()()()オールマイトとは明らかな別人。

 

「……えっ?」

 

 竜牙は自身の記憶と耳を疑う。

 先程までいたのは間違いなくオールマイト。言葉もそうだし、香水だってそうだ。

 緑谷だってオールマイトの名を呼んでいた。

 けれど、あのマッチョで画風の違う№1ヒーローの姿はない。

 

「……貴方は一体だれですか?」

 

 無意識に問いかける竜牙の問いに男は驚いた様子もなかった。

 まるで諦めたかの様に冷静で、静かに口を開いた。

 

 

「私の名はオールマイト。……さっきは済まなかったね()()()()()。もう気分は大丈夫かい?」

 

 

 変わり果てた平和の象徴は一切竜牙から目を逸らさず、ハッキリとそう言い切るのだった。

 

 

 

END


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