僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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不定期的な更新

原作熱が再燃したので投稿です(`・ω・´)ゞ


第三十五話:土獣蹂躙

 

 崖を降りた先で目的の人物達はいた。

 

「いたぞ」

 

 竜牙が耳郎と障子を抱えて降りた先に緑谷達が立っていた。

 皆、土で汚れて口の土を吐き出す者や現状を確認する者に分かれている中、竜牙達が降りて来た事に緑谷達も気付いた。

 

「雷狼寺君! 耳郎さんに障子君も!?」

 

「ごぉらぁ!! 雷狼寺ぃ!! なに自分らだけ助かってんだ! しかも貧乳(女子)と合法で接触しやがって!!」

 

「ケロ……でも三人共来たんだから良いじゃない。あと峰田ちゃん、最低よ」

 

「そして死ね」

 

 血涙を流す峰田を蛙吹が軽蔑し、竜牙から離れた耳郎が制裁。

 これでA組の面々が集合となり、竜牙達は峰田の叫び声をBGMにしながら周囲の様子を確認し始めた。

 

「周囲は木ばっかだな。最早、樹海じゃん」

 

「これ遭難すんじゃねぇの? 本当に雄英ってこういうの多いよな」

 

「愚痴ってもしゃあねぇって……結構慣れたろ」

 

 瀬呂と上鳴があまりの理不尽さに不満を言うのを切島が抑えるが、少しでも油断すると二人の言う通り、方向感覚が失いそうになるのは確かだった。

 だが八百万がコンパスを作成し、周りと向かう場所の方角に相談するのを見て切島達は少しは安心するが、今度は飯田が悩む様に考え込んでいた。

 

「ただ徒歩で合宿所へ行けば良いだけなのだろうか?」

 

「そんな簡単な訳ねぇよな……それこそ()()じゃねぇよ。――お前はどう思う雷狼寺?」

 

 飯田に同意しながら轟はコミュニケーション、そして信頼も兼ねて竜牙へ問いかけた。

 すると竜牙も、先程ピクシーボブの言った森の名前を口にした。

 

「【魔獣の森】……ピクシーボブはそう言っていた」

 

「おいおい、なんだよドラクエのダンジョンなのかここ?」

 

「わりぃ上鳴、オレFF派」

 

「おれは聖剣伝説やってた」

 

「私はクロノトリガー!」

 

「僕はスターオーシャン★!」

 

「いや何だって良いから……」

 

 上鳴の適当な発言に砂藤・尾白・葉隠・青山がそれぞれの好みを口にし、それを耳郎が心底どうでもよく見ていた時だった。

 竜牙は森に入ってから感じていた、自身の肉体への違和感を気にしていた。

 

――なんだこの肩の荷が下りた様な開放感は?

 

 違和感と言っても不快感ではない。寧ろ最高の気分だった。

 体中の邪気が払われた様な気分。同時に感じる漲る力を竜牙が自覚した時――その瞳は雷狼竜のモノへと変わった。

 それと同時だった。耳郎の制裁から解放されたが、出発前から満身創痍の峰田がフラフラと近くの木へ近付いて行った。

 

「いてぇ……チクショウ。どうしてオイラばっかりエロい目に遭わないんだよぉ。――やべっ、尿意が」

 

 誰もエロい目に遭っていないが、峰田はボロボロになりながらバスの中で既にあった尿意を解消しようと、そのまま木の影へ向か――

 

『――!』

 

「……はっ?」

 

――それは叶わなかった。木の影、峰田の目の前には巨大な四足歩行の生物?がいたから。

 

「出たぁぁ!!」

 

「魔獣だぁぁぁぁ!!」

 

 瀬呂と上鳴が同時に叫んだ。

 目や鼻らしいものない能面で、巨大な牙と禍々しい歯並びだけがある四足歩行の怪物。

 その存在が魔獣の森の由来なのは誰もが察する事ができたが、状況の理解が遅れたA組の大半はまともに動けない中で魔獣が峰田へ飛び掛かろうとした。

――瞬間、魔獣目掛けて飛び出した者達がいた。

 

「くっ!」

 

「だぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

「死ねッ!」

 

 その四人は緑谷・飯田・轟・爆豪の四人だった。

 A組の中で実戦経験あり・能力も高い四人がそれぞれの個性を魔獣へとぶつけると、魔獣は木っ端微塵と消えた。

 その光景で他の面々も我に返って一斉に身構えると、森の木々から次々と先程の魔獣の群れが生える様に現れた。

 

「気を付けて! この魔獣は生物じゃない! ピクシーボブの個性で作られた土の魔獣だよ!」

 

「ケロッ……ってことは」

 

「これが合宿所までの試練ですわ!」

 

 緑谷の言葉により魔獣はピクシーボブが操ってる事を把握するA組。

 蛙吹と八百万を筆頭に、これが相澤の用意した受難だと認識して戦闘態勢に入る。

――のだが、A組の面々に()()()()が過っていた。

 

『なぜ雷狼寺は動かない?』

 

 A組随一とも呼べる戦闘能力を持つ竜牙が先程の攻撃時、何故か混ざらなかった事に冷静になった者達は違和感が拭えない。

 だから自分達の背後にいるであろう竜牙へ視線を向ける。それは必然の行動だった。

 そして竜牙を見た瞬間、全員は再び動きが止まった。何故ならば――

 

『……Grrrr』

 

 竜牙でなく、森の木々の隙間から差し込む光を浴びる原種・雷狼竜の姿があったからだ。

 だが雷狼竜は大人しかった。寧ろ、顔を天へと上げて光をシャワーの様に浴び、森の空気に癒されてるのかリラックスしている雰囲気がある。

 

「……怖くない?」

 

 耳郎は思わず思った事を口にした。

 今までの様な恐怖がない。USJ、体育祭や戦闘訓練等で見た死を連想させる恐怖が無かった。

 自分達には害がない。そう思う程に雷狼竜は落ち着いて、それを見た轟は違和感を覚えた。

 

「雷狼寺……?」

 

 その自然の一部。とも見えた雷狼竜の姿に轟は、竜牙の気配を感じる事ができなかった。

 まるで最初から竜牙という存在はおらず、雷狼竜だけがいたかのように。

 ただその違和感に轟が気付いたのは竜牙と近いからだ。他の者達の中には別の違和感に気付いていた。

 

「お、おい……周り見てみろよ」

 

「あぁ? どうした上……鳴……」

 

 不安を隠さない声色の上鳴に、瀬呂が聞き返そうとしたが聞くよりも先に気付いてしまった。

 

「……()()()()()

 

 芦戸もまた気付いた。土獣ではなく、自分達を鹿やイノシシといった()()()()()達が取り囲んでいる事を。

 

「鹿にイノシシもそうだけど……」

 

「ク、クマもいるじゃねぇか――」

 

「馬鹿叫ぶな峰田! 刺激すんな!」

 

 震える葉隠と熊といった危険動物も平然と混じっている事に叫びそうになる峰田、を止める切島。

 誰もが平静を保とうとするが誰がどう見ても非常事態。緑谷もそうだが、爆豪ですら構えを解かずとも冷や汗を流しながらも徹底的に(けん)に回っている。

 

「プッシーキャッツに少なくとも動物を操れるメンバーはいない。つまりこれは――」

 

「アクシデントと言うことか!」

 

「……いえ、皆さんちょっと待ってください!」

 

 緑谷と飯田にも焦りが見え始めた時、八百万は動物達の纏う雰囲気に気付いて皆に待ったを掛けた。

 

「落ち着きましょう……動物達がこんなに集まるのは異常ですが、どうやらすぐに危険がという訳でないようですわ」

 

 八百万の言葉にA組は周囲を再度を観察すると、動物達も緑谷達を見たり警戒した様子は確かにあった。

 けれど野生動物でありながら、その行動をすぐに止めて別の方へと意識を向けていく。

 それはクマの様な種類も例外ではなく、臆病で危険な動物ですら落ち着いた様子で別の方を見ていた。

――竜牙改め、雷狼竜の方を。

 

『AoooooooooooN』

 

 雷狼竜は気付いてるかどうかは分からないが、咆哮とは違う落ちついた様な静かな遠吠えを出す。

 未だに木々から漏れる光を浴び続け、ただただ天を見上げる雷狼竜へ、動物達はまるで敬意を示す様に静かにじっと綺麗に整列しながら見守り続けた。

 

 

「……一体なにが」

 

 緑谷も一体目の前のこの現象は何なのか全く理解できず困惑しかない。

 唯一分かっているのは野生動物が雷狼竜へ、何か特別な想いを抱いているのは確かな事だけ。

 けれど、それも終わりがあった。満足したのか雷狼竜は日光浴を止めると、僅かに鼻でヒクヒクさせて周囲を見渡した。

 そして答えを得たかのように一つの方向を向くと、静かに歩き出す。

 その重量故に僅かな地響きを生みながら、それでも静かに、ゆっくりと、まるで王者の様に堂々と。

 

「ちょっ――雷狼寺!」

 

 勝手に動き始める雷狼竜へ、耳郎が咄嗟に声を掛けた。

 だが雷狼竜は動きを止めず、僅かに耳郎達へ視線を向ける程度で終えた。

――が、そんな雷狼竜を妨害する存在達がいた。

 

『―――!!』

 

 緑谷達を取り囲んでいたピクシーボブの作った土獣達だ。

 雷狼竜の背後に三体、左右に一体ずつ、前方に二体の計七体が、歩く雷狼竜を阻むかの様に取り囲む。

 しかし、それでも雷狼竜が足を止める事はなかった。まるで土獣を見えていないかの様に自然に歩き続ける。 

 それに痺れを切らしたかのか、背後の三体が一斉に雷狼竜へ飛び掛かった。

 

『――Grr』

 

 背後から迫る土獣に対し、雷狼竜は僅かに喉を鳴らす程度の声を出した時だった。

 雷狼竜は己の尾を横一線に振った。まるで動物が纏わり付く虫を払うかの如く、ただ自然な動きだが今回は虫ではなく土獣だ。

 尾に薙ぎ払われた土獣達はそのまま薙ぎ飛ばされ、空中で崩壊か、木々や地面にぶつかって崩れ散った。 

 

「っ! あの土獣をあんな――」

  

 その光景に緑谷を筆頭に皆が驚愕する。

 緑谷を始めとした最初に土獣に掛かった者達は理解している。所詮は土とはいえその丈夫さを。

 体験をしているからこそ、実感してしまう力の差。それを雷狼竜は更に見せつける。 

 

『#$%&$#!!』

 

 奇音を発しながら左右の土獣が挟む様に飛び掛かったが、瞬間、雷撃が土獣を襲い一瞬で砕け散る。

 最後の前方にいた二体に対しても、雷狼竜はただ歩みを止めず、そのまま左右の脚で踏み砕いてしまった。

 

「お、おいおい……嘘だろぉ」

 

「あの土獣の耐久力は結構あったぞ……それをあんな簡単に」

 

 目の前の光景に峰田は息を呑み、飯田もあんな優雅に倒せるものじゃなかったと信じられない表情だ。

 他の者達も同じ表情を浮かべている。耳郎も障子も目の前の出来事が戦闘と思えなかった。

 ただ、それでも最も表情を歪ませていたのは爆豪だった。

 

「あ、あ、あの白髪野郎ぅぅ……!!」

 

 爆豪は顔を真っ赤に染め、歯を全力で食い縛りながら雷狼竜を睨みつける。

 爆豪の性格、それは間違いなく多少の難があり、同時に高いプライドを生んでいる。

 けれど高いバトルセンスがあるのも事実。だからこそ自身への嘘が付けない。

 

――ただ必死に、全力で、力を使い、飛び掛かった自分達。

 

――ただ歩く。変哲もないそれ以外に目的のない動き。その過程で土獣を処理した雷狼竜。

 

 爆豪は怒り、そして恥をかいた。雷狼竜に比べ自分達はなんて弱く、滑稽な動きなのかと。

 そんな彼の屈辱を証明するかのように雷狼竜が去った後、野生動物達も静かに姿を消していく。

 それは爆豪を始めとしてA組の面々に興味などなく、森を訪れた雷狼竜(強者)を称えに来たかの様だった。

 

「雷狼寺……一瞬でこの森の頂点に立ったというのか」

 

 冷や汗を流す常闇の言葉に誰も返答はしなかったが、息を呑み、未だに雷狼竜の背を見送る緑谷達。

 彼等の沈黙こそが同意と見なせた。

 

「マ、マジかよ()()()

 

 その中で信じられないものを見たと、驚愕していたのが上鳴だった。

 彼は見た。見てしまった。まるで干支の牛に乗る鼠の如く、雷狼竜の尻尾にくっ付いて共に去っていった峰田の姿を。

 

 

 

▼▼▼

 

 そして同じ頃、その状況を見ていたのは緑谷達だけではなかった。

 ピクシーボブは自身が付けているゴーグル型のデバイスでA組達の状況を把握していた。

 その結果、流石に驚きを隠せなかった。

 

「ハッ? ヤバ! あの雷狼寺って子、思った以上に早くゴールするかも」

 

「うそ!? 土魔獣はどうしたの?」 

 

「壊された、七体も一瞬で。迷子防止で土魔獣で誘導するつもりだったけど、どうやら自力で場所を把握してみたい。――聞いてた話よりもヤバいかも、この雷狼竜の個性」

 

 ピクシーボブの報告にマンダレイも予想外だなと首を傾げながら、悩んだ仕草をしていると相澤は想定内だと言わんばかりに目を閉じて落ち着いた様子で口を開いた。

 

「今回は自衛の力を習得させる為……でしたが、こちらの想定通り雷狼寺が突出しましたか」

 

「そうみたいだね。他にも良い感じの子達もいるけど比較にはならないレベルで攻略されちゃったし、既に並みのヴィラン相手だと過剰の自衛力だよ、イレイザー」

 

「それは分かっているつもりです。雷狼寺は体育祭で殻を破り、雷狼竜化への迷いを乗り越えました。これに関しては良い影響です。――ですが、その後のヒーロー殺しとの接触や謎のヴィランとの襲撃に遭って以降、雷狼寺の中でタガが外れてきている。最近では完全な雷狼竜化に戸惑いもなく頻繁に使用しているのも問題点となっています」

 

「既に力という点では合格ラインは超えてるってことニャンだね。つまり、彼に関しては今回の目的は自衛力の取得ではなく――個性のコントロール」

 

 ピクシーボブの言葉に相澤は頷いた。

 

「えぇ、実戦式とはいえ授業で雷狼寺はクラスメイト相手にも過剰に力を振るい始めています。アイツの過去が複雑なのも承知の上ですが、それでもヒーローとして生きるなら絶対な一線を雷狼寺に自覚させなければなりません。――ですので、今回の合宿ではな皆さんの力を借り、何としてでも雷狼寺には雷狼竜の個性を()()させるつもりです」

 

「あの合理主義のイレイザーがそこまで肩入れするなんて、よっぽど大切な生徒みたいだね」

 

「……過剰に贔屓はするつもりはありません。いよいよとなれば除籍も止む無しと思っていますので」

 

 マンダレイの言葉に相澤は声色を変える事なく否定した。

 確かに竜牙は生徒として優秀で、教師的に見ても面白い。

 自身が与えた理不尽を受け入れる適応力。自身が教えた事をしっかり学ぶ学習力。相澤としても本音を言えば長い目で見てあげた生徒だ。

 

――だが一生徒だけに肩入れは出来ん。きっと碌な結果にならんし、何より合理的じゃない。

 

 相澤はそう決めていた。そうするしかないからだ。

 雷狼寺もそうだが、緑谷・轟を筆頭に色んなジャンルの問題児が多過ぎる。

 そんな彼等を導く為にも一人だけに構う事はできない。だからこそ、その時になった時の覚悟を決めなければならない。

 

『雷狼寺 竜牙――除籍だ』

 

 その言葉を言わないで済む事を内心で望みながら、相澤はゆっくりを目を開ける同時に今度はマンダレイは話を続けた。

 

「う~ん、今のままじゃ確かに除籍になりそうね。けど彼の場合は本当に難しいからイレイザーも覚悟しなよ? そもそも、雷狼竜の個性は()()で何とかなるもんじゃないし」

 

「――ハッ?」

 

 マンダレイの言葉に、再びを目を閉じようとしていた相澤の眼がバッと開く。

 

「どういう事ですか、その言葉は?」

 

「……あれ、事前に言ってなかったっけ? ()()()()()()()の彼の個性の件」

 

「聞いてません」

 

 竜牙の個性の件は相澤達もやや敏感にアンテナを張っていたぐらいだ。

 何か情報があれば忘れるという事はない筈だった。

 

「連絡ミスはこっちに非があるけど、本格的に合宿を始める前に分かって良かった」

 

 やや非難めいた視線を送る相澤へ、マンダレイは冷や汗を流しながらも誤魔化して呼吸を整えた。

 そして――

 

「じゃあ単刀直入に言うけどさ。雷狼竜の個性……いや彼の中にいる雷狼竜達には――」

 

――意思があるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとして質問回答。

1:両手足、口元だけを雷狼竜化した姿をイメージできません。どんな感じですか?
回答:ロックマンエグゼのグレイガフォームみたいなものです。

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