僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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ヒロアカ完結おめでとう
仕事が忙しいですが、その記念で復帰(不定期)


第三十六話:枷無き獣

 

――雷狼竜達には意思がある。

 

 竜牙の個性届けに記載されていない事実に相澤は驚愕しながらも、プッシーキャッツ達が用意した合宿所へと辿り着いていた

 そんな彼を出迎えたのは残りのプッシーキャッツのメンバー二人だ。

 

「やっほー! 久しぶりだねイレイザー!」

 

「待ち侘びたぞ!!」

 

「……世話になります、ラグドールさん、虎さん」

 

 派手なメイクのラグドールに性別とキャラが何か違う虎に二人の出迎えに、相澤は胸焼けっぽい感覚に襲われる。

 しかしB組を含めたヒーロー科の子供達を短期間で強くする為にプッシーキャッツの力が必要だった。

 だから胸焼けや気疲れぐらい相澤は受け入れる気だ。

 

「それで生徒共はいまどこら辺だ? 予定では夕方ぐらいになる筈だが」

 

「それに関して……一人、予定外の生徒がいまして」

 

「雷狼寺 竜牙。例の少年がピクシーボブの土魔獣を突破して、もうすぐそこまで来てるの」

 

 腕組みで佇む虎の問いに対し、相澤とマンダレイが現状を説明すると、虎とラグドールの表情が僅かに険しくなった。

 

「それはつまり……雷狼竜化している、という事だな?」

 

「でもそれも予定通りだけどね!」

 

 事前に雷狼竜の個性についてプッシーキャッツで話が行われていたのだろう。

 二人からは険しい表情だが予定通りでもあると、確かな余裕も感じられる。 

 

「あの子の事はあちしにお任せ! 体育祭で『サーチ』して正解だったよ!――さぁて、()()()()()になったのかなぁ!」

 

 そう言ってラグドールは自身の個性『サーチ』を使用し、竜牙の居場所の把握する。

 彼女が見た100人までの人間、その弱点や居場所を含めた情報を得られる個性により、その正確な位置を捉えると想像以上の速さで迫る雷狼竜に僅かに冷や汗を流す。

 

「……あぁ、あと15分程度で着くね。今は原種だけど、土魔獣じゃ時間稼ぎにもならない感じ!」

 

「それも一応の予定通りだったでしょ! だから今は土魔獣の大半は他の子達に差し向けてるところ」

 

 ラグドールの指摘にピクシーボブも土魔獣を増産し、急いで緑谷達へと差し向けていく。

 少しでも余れば竜牙へも差し向けるが、適当な動きの尻尾だけで薙ぎ払われる始末にピクシーボブは頭を抱えた。

 

「あぁ……これ以上の妨害は無駄みたい。秒も持たないし、もう土魔獣は彼以外に送るけどイレイザーも良いでしょ?」

 

「……仕方ないです」

 

 相澤も小さく溜息を吐きながら納得した。

 同時に不安の種が大きくなるのも感じていた。クラス内で竜牙の力だけが突出し過ぎている事に。

 何とか対抗できる轟や爆豪ですら、確かな差があるのが厄介でしかなかった。

 

「クラスメイトを眼中に無し。そんな状態になれば厄介な事になりそうだ……」

 

 既になっている状態だが、相澤としては竜牙の悪い孤立を止めたかった。せめて仲間の話を聞くぐらいには。

 無気力な感じである相澤だったが、内心では人一倍今回の合宿に意気込でおり、同時に生徒達の事を誰よりも悩んでいた。

――そんな時だ、雷狼竜は現れた。

 

 静かに真っ直ぐ、落ち着いた様子で歩いて来る雷狼竜に、相澤とプッシーキャッツ達が出迎える。

 ただマンダレイの傍にいる小さな少年は、雷狼竜の存在感に呑まれたのか驚愕しながら僅かに震えていた。

 それは雷狼竜の生み出す地響きが原因ではないだろう。

 

「ほら洸汰。大丈夫だけど怖いなら下がってな」

 

「……こ、怖くねぇよ。あんな……ヒーロー志望の奴なんかに!」

 

 マンダレイが気に掛けるが、洸汰と呼ばれた少年は反発する様に強きで答えた。

 だがその感情はマンダレイよりも竜牙の方へと向けられており、雷狼竜の野生に呑まれているが、少年の鋭い視線だけは雷狼竜から外れることもなかった。

 

「なら良いけど、刺激はしちゃダメだよ?――それにしても、あの雷狼竜の大きさって」

 

「うむ、体育祭で見た時よりも一回り以上、大きくなっているな」

 

 洸汰を庇うマンダレイだったが、その意識は目の前まで迫る雷狼竜の変化へと向けられており、彼女の言葉に虎も頷いた。

 体育祭の時よりも確実に巨大になっている雷狼竜。虎達も少し驚いたが、それも一応は想定内なのが救いだ。

 やがて目の前に到着し、自分達を雷狼竜が見下ろして来ても、その意志は変わらなかった。 

 

『……Grrr』

 

 相澤とプッシーキャッツ達の前まで来た雷狼竜は、小さく唸りながら鼻をヒクヒクさせてプッシーキャッツ達の匂いを確認する。

 その行為は警戒する野生生物そのもので。相澤は先程のマンダレイの言葉を思い出し、もっと早く気付くべきだったと自身を恥じた。

 

――常闇よりも個性自身の我が強い。雷狼寺自身が変わっただけじゃなかった……それプラス、雷狼竜の何かが雷狼寺へ影響を与えていたのか。

 

 個性届けには記されていなかった。そんな事を言い訳に相澤はしたくなかった。

 信じてやるべきだったのだと、竜牙がクラスメイト達すらも平然と襲う時点でもっと親身に、雷狼寺ミキリにすらも、もっと喰らい付くべきだったと相澤は後悔した。

 

――しかし宿主の雷狼寺に多大な影響を及ぼす個性か。取り返しのつかない所まで行ってなきゃ良いが。

 

 内心で相澤はハッキリ言って悩んでいた。

 個性に意思があるだけでも珍しいのに、そんな個性を、その持ち主をどう扱い導いてやれば良いのかと。

 自身の個性『抹消』では、きっと雷狼竜化自体は抹消で防げるが、雷狼竜化した後は抹消できるか分からない。

 

「……増えたな最近」

 

 ただの異形系ならば抹消不可と諦めも早かったが、それ以外でも条件次第では抹消できない個性も徐々に増えてきていると、相澤は小さく呟いた。

 竜牙の様な特殊な個性にもアドバンテージを得られてきたが、新たな世代の者達の個性は間違いなく相澤世代よりも強力になっている。

 

「……この歳になって伸びしろがあるとは思えんが」

 

 昔の様に鍛え直そうかと、そう思う相澤だったが自身へのこれからの伸びしろに自信はない。

 戦闘スタイルや戦術、サポートグッズも全てが完璧に仕上げているからだ。

 自身の個性故に戦闘に関して0から自らの手で作り上げ、教師生活が始まってからも現場に出ているから訛ったとかはない。

 生徒だけではなく、自身の今後に相澤は悩んでいると、丁度雷狼竜がプッシーキャッツ達の匂いを嗅ぐのは止め、静かに見下ろしていた所だった。

 

『……Grrr』

 

「……まずは大丈夫そうじゃない?」

 

 徹底的に敵意を無くし、野生動物と同じ対応をした事で雷狼竜からの露骨な威嚇はなく、ピクシーボブもまずは大丈夫だと安堵した。

 それに対してマンダレイも黙って頷き、ラグドールへ視線を送った。

 

「それで彼の中で支配権が強いのは?」

 

「今のところは原種だけど、遅かれ早かれだねぇ! 事前に貰ってた授業映像を見る限り、隠せてないし!――獰猛さが」

 

 不思議系の様な狂った感じにテンションの高いラグドールは、最後の獰猛という言葉だけはハッキリとした口調で言った。

 そして分かってると言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべると、彼女は雷狼竜の前へと立つ。

 

「かなりガス抜きにはなったんじゃない? こっちには敵意も無い以上、そろそろ雷狼寺 竜牙を出して欲しいんだけど。少なくとも、君達の宿主の為になるんだから間接的に君達の為にもなるからさ」

 

『――AaoooooooooooN!!!』

 

 ラグドールの言葉に雷狼竜は少しの間が空いた後、大きく吠えた。

――瞬間、雷狼竜のいた場所に落雷の様な轟音と僅かな放電生まれ、それが収まると相澤達の目の前に現れたのは雷狼竜ではなく膝を付く竜牙の姿だった。

 

 あとついでに峰田。

 

「……ふぅ」

 

「初めましてかな、竜牙くん。まさか本当に三時間以内に来るなんて思わなかったよ」

 

「だがそれも、あくまでも貴様の個性頼りの結果に過ぎん。そんな個性頼りの貴様を鍛え、雷狼竜との関係性も鍛えるの我等の仕事だ」

 

「まっ、それも明日からだけどね。取り敢えず、まずは昼ごはん食べちゃいな。準備はしているからさ」

 

 ラグドールと虎の言葉に対し、竜牙は特に返答せずに立ち上がると相澤は隣にいる峰田へと目を向ける。

 

「お前もだ峰田。今回は楽に行ったが、明日からはこうはいかない。死ぬほどキツイことになるから今の内に休め。今日は特にやらせる事はない。――あぁ、バスから自分の荷物は降ろしとけよ」

 

「う、う、うっす……!」

 

 最後の雷狼竜の放電にやられたのか、峰田も痺れながらも立ち上がると竜牙と共にバスに向かって自身の荷物を以て建物へと歩いて行く。

 そんな時に竜牙と峰田は洸汰の存在に気付いた。

 

「子供?」

 

「あっ? プッシーキャッツが子持ちなんてオイラのセンサーには引っかかってないぜ。オイラぐらいなればエロい人妻かどうか判別できるしよ」

 

「あぁ、違う違う! この子は私の従甥で名前は洸汰。仲良くしてあげてね。――ほら、洸汰も挨拶しな」

 

 峰田の言葉を否定する様にマンダレイが答え、洸汰にも挨拶する様に手招きするが、洸汰は動こうとせず、代わりに通り道だからと竜牙と峰田が彼の前に出た。

  

「よっ! オイラは峰田。プッシーキャッツのエロい情報か写真くれんなら、オイラがお前の思春期を明日にしてやるぜ!」

 

「――フンッ!」

 

 最低な訳の分からない事を言う峰田へ、洸汰は彼の股関目掛けて蹴りを放った。

――が、それを紙一重で、だが確かな動きで後方へ飛んで峰田は回避する。

 

「ワリィけどよ、オイラのリトルビッグ峰田に触れんのは女だけなんだ。自力でエロ本拾ってから出直してきな!」

 

「チッ! ヒーロー志望のやつらとつるむ気なんてねぇよ!」

 

 そういって洸汰は峰田を無視し、隣に立っていた竜牙の足へ蹴りを放ち、そのまま直撃した。

 

「ちょっ! コラ! 洸汰!」

 

 流石に見逃せないとマンダレイが注意したが、洸汰は返事しなかった。

――否、出来なかった。

 

「なっ……何なんだよお前!」

 

 洸汰は自身が蹴った筈の足に強烈な痛みを感じた。それ程までに竜牙の足が硬かったのだ。まるで強靭な鱗を纏っているかの様に。

 同時に感じる全身を巡る鳥肌と寒気。それが殺気から来るものだと彼はまだ分からなかったが、確かな恐怖を感じ取った。

 

「……おい、雷狼寺」

 

 不穏な空気を感じ取った相澤が竜牙へ忠告を兼ねて言葉を投げるが、竜牙は僅かに顔を相澤へと向けるだけだった。

 そして、顔の向きを戻すと小さく呟く。

 

「……どうでもいい」

 

 そう言って歩き出す竜牙だったが、まるで気付かなかったの様に洸汰にぶつかってしまう。

 洸汰は尻餅を着くが、竜牙に呑まれている為、何も言えずに竜牙を見上げるだけで、竜牙もそのまま歩みを止めなかった。

 

「ただ()()()の――邪魔 ヲ スルナ

 

 そう言って施設内へと入っていく竜牙へ、洸汰は確かに見た。

 彼の纏う雰囲気、横顔に、彼の影に潜む()を。

 

「……バ、バケモノ」

 

 冷や汗が身体の意思を無視して流れ出す。

 あれは触れてはいけない存在だ。洸汰は子供ながらにそれを人の本能として察した。

 だから洸汰は竜牙が去るのを待つしかできない。待つまで行動を許されない。

 尻餅を着いたまま、手やズボンに着いた泥を落とす事もなく。ただジッと。

 

「……雷狼寺」

 

 相澤も自身の言葉へ届いていないと分かってはいた。

 この合宿で何もなければ良い――否、変化を起こさなければならない。

 けれど、その変化が起こった時、何かとんでもない事が起こる予感だけは相澤も察している。

 

「……この合宿、もしかしたら俺は生きて帰れないかもな」

 

 竜牙の背を見送りながら相澤は目を細め、自身にしか聞こえない声量で呟いた。

 勿論、冗談――ほんの僅かな冗談だ。それだけの覚悟をしなければならないと相澤は決める。

 それだけの覚悟をしなければ、竜牙は変わらないかもしれないと静かに、そして彼の牙と雷が緑谷達へと向く事が無いことを祈りながら。

 

 また相澤とは別に離れて見ていたプッシーキャッツの虎もまた、腕を組みながら確信に至っていた。

 

「……う~む、あれはこの合宿中に出てくるだろうな」

 

「時間の問題だったもんね。だったら私達がいるうちにさせるべきよ」

 

 虎の言葉にマンダレイも同じ事を察していた様に頷いた。

 既にプッシーキャッツ達で事前の情報共有はしてあるからだ。特に竜牙に関して、彼女達にとっても重要案件なのは間違いない。

 

「どうだラグドール?」

 

「……檻は開いてる。いや彼自身がもう手綱を握る気ないのかもね。欲してるんだよ力を……『亜種』の力を」

 

 ラグドールは自身の個性もあって既に察している。

 雷狼竜の存在が竜牙へ影響を及ぼしていることを。だが同時に竜牙がそれを多少でも抑える事が出来る事も。

 しかし試験から今日に至るまでの様子を見て分かっていた。竜牙自身、雷狼竜へ枷を付ける気がない事を。

 

「こりゃ荒れるかもねぇ……」

 

 後頭部に腕組みしながらピクシーボブは楽しそうに呟く。

 だが彼女達の目は決して笑ってはいない。険しく真剣な眼差しで竜牙を見ている。

 何かはある。誰もがそれを察している中、強化合宿が幕を開けた。

 

――だがこの時までは誰も思ってもみなかった。この合宿が終わりが、あの様な悲惨な結果になる事には。

 

 

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