僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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取り敢えず投稿できました(;´・ω・)


第三十七話:敵を見る者と見ない者

 

 あの後、施設に入った竜牙と峰田は指定された部屋で荷物を降ろすと、相澤達から風呂に入る様に言われて大浴場へと向かった。

 大浴場は典型的な露天風呂で、自然の綺麗な空気と開放感により二人は何の不満もなく汗を流すことが出来た。

 竜牙は峰田と共に湯にも浸かったが、意外なのは峰田が特に何も聞かなかった事だった。

 

「あぁ、気持ちいいなぁ。これで女湯に女子がいれば覗きに行くのによぉ」

 

 などと彼らしい言葉は言っていたが、峰田が竜牙に何かを言う事はなかった。

 それは風呂から出て食堂に行った後も同じであった。

 

「ほらほら食べなさい! 世話を焼くの今日だけだよ! 明日から全部自分達でやらせるからね!」

 

 そう言ってプッシーキャッツ達は自然の幸を利用した食事を大量に二人の前へと並べる。

 木製の長テーブルに置かれる土鍋、川魚の塩焼き、キノコ焼きや豚汁。更に山菜のお浸しや天ぷらを竜牙は峰田と共に腹へと次々と入れていく。

 育ち盛りの高校生故の食欲と、更に雷狼竜化した事で身体が食事をこれでもかと欲していたのだ。

 数人分の食事を平らげる竜牙にプッシーキャッツ達も驚きながらも、食べっぷりが良いのもあって嬉しそうに食事を追加して世話を焼いてくれる。

 

 ただ意外なのは、その食欲に峰田も付いて来ている事だ。

 その小さな身体のどこに入るのかと、彼は竜牙と同じ食事量を平らげていく。

 

「知ってたか雷狼寺? 母ちゃん以外にも食事を残しちゃいけねぇ時があんだ。それは美人の飯だ」

 

「……同感だ」

 

「あぁ~あ、これでプッシーキャッツ達の髪の毛や体液が入ってればオイラは何も言わねぇのによ」

 

「……そうか」 

 

 一応は親友であり峰田の言葉に僅かに食欲を無くし、プッシーキャッツ達もドン引きした様子で峰田に視線を向けるが、峰田は一切怯まずに竜牙と食事を続け、やがて完食。

 食べた食器もプッシーキャッツ達が下げるからと、二人は自由時間という名の休息をする様にと言われ、そのまま部屋へと戻っていくのだった。

 

 

▼▼▼

 

 部屋へと戻った竜牙と峰田は寝間着用のジャージに着替えると、互いに頭を向け合う様に布団を敷いて既に横になっていた。

 だが二人は寝ておらず、暗くなった部屋で互いに天井を見上げながら何も言わずに黄昏ていた時だ。

 竜牙は峰田の呼吸音が寝息じゃないと気付いて、気になった事を口にした。

 

「……なんで何も聞かない、峰田?」

 

「聞いたら答えんのかよ? お前の性格からして聞いても言いたくねぇんだろ?」

 

 竜牙の言葉に峰田はすぐに返答した。

 それは聞かない事の方が当然だと言わんばかりの口調で、その言葉に竜牙は目を細めた。

 図星だったからだ。

 

「……分かるのか?」

 

「当たり前だろ、オイラ達は親友で既にオイラはお前の性癖9割を把握してんだぞ? 性癖はそいつの人間性を写す鏡だ。性癖9割を把握しているオイラが、お前の事が分かんねぇわけねぇだろ?――言えねぇ理由じゃなく、言いたくねぇ理由があんだろ?」

 

「……あぁ」

 

「だったらオイラが出来ることは、そんな意味ねぇことじゃねぇよ。普通でいることだ、今まで通りにお前とエロ談話したりエロ本、グラビア雑誌を立ち読みしたりよ。――確かに最近、付き合い悪かったり、少し怖くなったりしてたけどよ。どんなに変わっても、お前の変わらねぇ部分があっから安心できる」

 

 成程な、と峰田の言葉に竜牙は納得できた。

 峰田には確かな恐怖があるだろうが、それでも自身の変わらない部分を察して信頼を崩さないのだろう。

 でなければ雷狼竜にくっついてまでゴールなんてできない。

 全てではない。オール・フォー・ワンの事は峰田は絶対に知らない事だからだ。けれど、それでも峰田はほぼ察してくれている。

 そして今は竜牙自身と峰田の二人しかいない。僅かに吐き出すのは今しかなかった。

 

「峰田、俺には雷狼竜の力が必要なんだ」

 

「だろうな。最近のお前、見てる側からすればすっげぇぞ。なんつうか、慈悲はないって感じだな。いくらオイラでもリョナ系はNGだ。安心からこその究極のエロスが生まれると思うぜオイラは」

 

「……そうか。で、話を戻すが。俺には力が必要なんだ。この雷狼竜達の力を俺は解放しないといけない」

 

「それはお前自身の為なのか?」

 

「あぁそうだ……そして多分、間接的にお前達の為にもなると思う」

 

「つまり守る為ってことか?」

 

 峰田の言葉に竜牙は頷く。

 あの巨悪とやり合う為には雷狼竜の真の力が必要なのだ。

 原種ですら今の状態では勝てなかった。だから目覚め、そして怒っている。自身の中にいる『獰猛』こそが気質の雷狼竜が。

 雷狼竜達を解放する事に僅かの不安もないといえばウソだ。だがもうオールマイトにも頼れない以上、竜牙に頼れる相手も、縋る相手もいないのだ。

 雷狼竜だけなのだ、自身を、周囲を、オール・フォー・ワンに対抗できる力は。

 

「オイラは盗聴の件とかあるからよ、お前に深くは聞けねぇよ。けど耳郎達には話しといた方が良いんじゃねぇのか? オイラ以上に心配してんぞ? ただでさえお前、話通じねぇ時あっからよ」

 

「……余裕がない」

 

 悪いとは思っている、そう竜牙は内心で呟くが雷狼竜化すると最近は気質や思考も雷狼竜の影響が大きくなっていた。

 だから闘争本能や凶暴な一面が制御できなくなる事もあったが、確かな成長も竜牙は感じていた。

 間違っているとオールマイトも緑谷も言っているが、じゃあどうすればと竜牙は答えを求める。

 綺麗ごとでは何も救えない。救えないからこその綺麗ごとなのだ。

 

「だったらそう言えよ。余裕がない、助けてくれってよ。疲れすぎると性欲無くすぞ雷狼寺?」

 

「……助けてくれ、か」

 

 峰田の何気ない言葉が竜牙を絶望へと導く。

 助けてくれ、それはつまりオール・フォー・ワンからだ。だがそれは出来ない、無謀の極み。

 言う事すら許されない。オールマイトの現状を知る者として許されないのだ。

 竜牙が助けてくれ、と言うと言葉の意味が変わってしまう。友へ助けてくれという事、その意味は――

 

「……峰田、俺には言えない。皆に()()()()――」

 

「オラァァァァァァァッ!!! テメェ等!!」

 

「なに既に修学旅行の夜の雰囲気出してんだゴラァ!!」

 

 突如、扉を蹴破る勢いで怒号と共に入って来たのは瀬呂と切島であった。

 二人の姿はボロボロで、泥や汗に塗れた彼等からは疲労一色の雰囲気しかなく、叫んだ後も肩で息をして呼吸もこれでもかと乱れている。

 きっと到着したのだろう。他のクラスメイトと共についさっき。

 

「ん? おぉ、瀬呂に切島じゃんか……お前ら遅かったな。もうとっくに夜――」

 

「夕! 圧倒的に夕方だ!!」

 

「ゼェ……ゼェ……窓見てみろって……カーテン開けろよ」

 

 瀬呂と切島に言われた峰田は、わざとらしく目を擦りながらカーテンを開けると夕日が部屋を照らす。

 夜ではなく文句なしの夕方を見た峰田は瀬呂達に振り返ると、まるで強者の如くニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「あぁワリィ、余裕のゴールで時間余ってたからよ。つい夜だと思っちまったよ」

 

「ガァァァァ! その笑み止めろ!!」

 

「雷狼寺に引っ付いてたお前にだけは言われたくねぇぞ峰田!!」

 

「やっぱ真の強者ってのは差が開いちまうんだなぁ」

 

「無敵かお前!?」

 

 瀬呂と切島へ一切の妥協をしない峰田に二人も驚愕からの敗北感を味わい、思わず疲労もあって膝を付いてしまう。

 

「んなことよりお前ら、なんかあったのか? 早く風呂か飯行って来いよ?」

 

「ハァ……ハァ……呼びに来たんだよお前等を。俺等は昼夜兼用の飯だけど、お前等は夕飯だって」

 

「ちくしょう……昼には着くって自分らだとって事らしいぜ? 弱音は漢らしくねぇけど、マジでしんどいな」

 

 叫んだ事でなけなしの体力を使い、そして一度膝を付いた事で二人は一気に脱力感に襲われる。

 体力だけではなく、いつ土獣が襲ってくるか、本当にゴールはあるのかと精神的な疲労も大きかったのだ。

 

「けど、雷狼寺が先に行ってくれたのはある意味助かったよな? 足跡で迷う事はなかったから」

 

「感謝しろよ!」

 

「峰田、マジでしばくぞお前……!」

 

 峰田のドヤ顔に瀬呂と切島は殺意の眼光を向けるが身体は動かず、そんな二人へ笑みを浮かべながら峰田は竜牙へと振り返った。

 

「雷狼寺、夕飯だって――」

 

「――先に行く」

 

 峰田が振り返ったと同時だった。

 竜牙は三人の傍を横切って行き、あっという間に三人へ背を向けた。

 

「雷狼寺、マジで体力すげぇな……」

 

「あぁ、差が広がってると思うとやっぱ焦るよな」

 

 瀬呂と切島は竜牙がいつもと変わらない様子も実力差を見せつけられたと、少しショックを受けながら見送っていると、峰田はハッと思い出しように竜牙を呼び止めた。

 

「あっ、そういや雷狼寺。お前、さっき何て言おうとしたんだ? ほら、瀬呂達が来た時によ」

 

「……別になにも」

 

「……そ、そうか」

 

 峰田も何かを察したのか、何も言うな背中から圧を放つ竜牙へ冷や汗を流しながらそう言うしかなかった。

 けれど竜牙は瀬呂達を見てから、静かに呟いていた。

 自分と同じことをしながらも、こんなに差があるのだ。やはり無理だと。

 

「……峰田、俺からは何も言えない。やはり無理だ」

 

――俺よりも弱い仲間に()()()()()なんて。

 

 誰にも聞こえることなく竜牙の言葉は周囲にかき消される。

 そして竜牙は夕飯時に姿を見せる事はなかった。

 

 

▼▼▼

 

「ハァ……流石にうちも疲れたぁ」

 

 夕飯という名の昼食。そして峰田女湯覗き騒動もあった忙しない入浴を終えた耳郎は一人、気分転換も兼ねて寄り道しながら部屋へと戻っていた。

 本当に疲れた一日だったが、耳郎の中には疲労に包まれながらも竜牙の事があった。

 

「雷狼寺の奴……どうしたんだろ」

 

 夕飯時にも、入浴にもいなかったと男湯側の話を耳郎は聞いていた。

 だから心配――否、心配や不安は今に始まっていない。露骨にこんな気分を味わうのは間違いなく職場体験以降の竜牙を見てからだ。

 

――アイツ、うちの事も全く見てくれない。

 

 耳郎も敏感に感じていた。竜牙が自分を、自分達を全く見ていない事は。

 ずっと違う何かを見ている。その正体は分からない。聞いても話してくれない。

 

「……どこでこうなったんだろ」

 

 不意に零す耳郎の虚しさの呟き。

 耳郎が竜牙に意識を始めて向けたのは入学試験時、誰よりも存在感を纏って佇んでいた時だ。

 その後はプレゼント・マイクの開始に真っ先に反応して仮想敵を蹂躙していた竜牙を見て、少し焦ったのは良い思い出だと耳郎は思い出す。

 

 けれど、彼女の心が竜牙に向けられたのはその後だった。

 自身も、誰もが0P敵に対し逃げの一手のみ選んだ中、一人逆方向に佇む存在――それが竜牙だった。 

 その彼の背中に耳郎は憧れを抱いた。同じクラスになってからも徐々に気持ちが大きくなっていく。

 USJで守ってくれた時、自身の生い立ちを盗聴した自分達を責めず、もう一度やり直してくれた時を経験し、気付けば心のどこかにいつも竜牙がいた。

 

 けれど、それは自身だけなのかもと耳郎は不安が大きくなっていた。

 

――うちの中にアイツはいるけど、雷狼寺の中にウチは、ウチ達はいるの?

 

「……なんにも言ってくんないよね、あんたはいつも」

 

 今思えば、竜牙から何か言ってくれた事はなかった気がした。

 そもそも頼ってくれた事もない。ショッピングモールで敵連合と出会った時も竜牙は耳郎に何も言ってくれなかった。

 

「ウチが弱いから……?」

 

 それが理由だったら何も言えない。弱い自身が許せなくなってしまう。

 耳郎がそんな事を思いながら歩いていると、彼女はやがて玄関付近までやって来ていた。

 そして、そこで見覚えのある人物の姿を見付けた。

 

「あれ、障子じゃん? どしたのこんな場所で?」

 

 そこにいたのはラフなTシャツを着た風呂上がりの障子だった。

 障子は玄関の柱の身を潜める様に佇んでおり、耳郎に気付いた障子は口元に指を立て、静かにする様にジェスチャーしながら耳郎を自身の傍へと誘導する。

 

「こっちだ、あと少し静かに。みつかる」

 

「えっ、なに? 誰に?」

 

 場違いな展開に耳郎は困惑するが、日頃の相澤のお陰か適応は早く、声を潜めながら障子へと聞き返す。

 すると障子は無言で玄関から外の方を指差すと、そこに一人の青年が森を前にし佇んでいた。

 

「ハァ? あれ雷狼寺? 何やってんのアイツ……」

 

 そこにいたのは竜牙だった。何もせず、夜風に髪を靡かせながら佇んでいた。

 けれど、耳郎はすぐに異変に気付いた。それは竜牙の足が雷狼竜化していたから。

 

「雷狼寺……?」

 

「……だけじゃない」

 

 耳郎は竜牙の違和感を抱くが、障子はいるのは竜牙だけじゃないと別の方にも視線を向けると、そこには緑谷が立っていた。

 最近増えた組み合わせの二人だが、それでも耳郎達からすれば珍しい事に変わりはなく、反射的に二人へ意識を向けていた。

 

「雷狼寺君……皆、心配してたよ」

 

「……緑谷か、別に心配される謂われはない」

 

 竜牙へ近付きながら緑谷は語り掛けるが、竜牙は緑谷へ背を向け続ける。

 まるで背後にも目があるかの様で、見えないのに驚きや感情の変化が一切なかったが、緑谷は意を決した様に竜牙へ言葉を続けた。

 

「……あるよ。僕達は仲間だし、僕も皆も君に助けられたから。だから雷狼寺君が苦しんでいるなら助けたいんだ」

 

「……助けられる謂われもない。前にも言ったか? 余計なお世話にも程がある」

 

「ヒーローの本質は余計なお世話なんだって……この言葉、オールマイトが教えてくれたんだ」

 

「……オールマイト」

 

 オールマイトの名が出た事で僅かに竜牙は反応するが、すぐに何も言わずに黙ってしまう中、緑谷は話を続けようとする。

 

『緑谷少年……雷狼寺少年を頼む』

 

 オールマイトから合宿前に言われた言葉だった。だがオールマイトから言われなくても緑谷は結局、こうしていただろうと自身に確信があった。

 

「雷狼寺君……僕は何度でも言うよ。今のままじゃいけないって、このままじゃ君の言っていた雷狼竜を含めて皆に認められるヒーローになれないよ!」

 

「忘れたか緑谷? 俺は夢の為に夢を捨てられるって言った筈だ。どれだけ過程が過ちだったとしても、結果が正しければその過程も正しさに変わる」

 

「夢は捨てられないんだよ雷狼寺君! もし本当に捨てたとしても、傷付くのは君の筈なんだ……だけど一人だからなんだよそれは。理解者が、本当に大切な人達が支えてくれたらきっと、雷狼寺君も――」

 

「――何故、お前は焦らないんだ緑谷?」

 

 緑谷の言葉を遮った竜牙の声には僅かに怒気が混じっていた。

 

「お前は何故焦らない。オールマイトに近い場所にいるお前がなんで、今の状況に何とも思わないんだ? もうオールマイトに頼ってはいけないんだぞ……!」

 

「……雷狼寺君。僕だって焦ってない訳じゃないよ。ただ君が心配なんだ! 周りに助けられてる、そんな僕だからこそ分かるんだよ。このままじゃ雷狼寺君、本当に取り返しのつかない事になりそうで怖いんだ!」

 

「何度も言わせるな……! 自身の力も満足に扱えないお前の言葉に何の意味がある……!」

 

「僕だけだったらそうだよ! そんなの僕が一番分かってる! だからこそ僕だけじゃなく皆を頼ってよ! 君だって今まで僕達を助けてくれたじゃないか!」

 

 それは緑谷にとっては切実な想いであった。

 オールマイトとの出会い、個性に目覚めてからの母の想い。そして友との想い。

 無論、それに竜牙も入っている。けれど、竜牙にそれは届かなかった。

 

「……緑谷、本当に分かってないなお前は。助けることが出来るのは()()()だからだ。強いからこそ助けるという行動がとれる。逆に弱い者に助けを求めると、その意味が変わる」

 

「意味……?」

 

 緑谷は竜牙が何を言いたいのか分からず、小さくオウム返しするだけだった。

 そんな彼に、竜牙は静かに、そしてハッキリとした口調で言った。

 

「覚えておけ緑谷……自身よりも弱い者に助けを求めること。――それは、彼等に()()()()()って頼む様なものなんだ」

 

『『――ッ!』』

 

 竜牙の言葉に思わずドキッとしたのは緑谷ではなく、耳郎と障子だった。

 同時にガツンと衝撃を受けた気がした。それだけ竜牙の言葉はショックでもあったのだ。

 自身よりも弱いから頼れない、助けを求められない。それだけ自分達は弱いのかと、竜牙から見てそんな頼れないのかと。

 

――友達なのに。

 

 この際、二人はオールマイト云々の話は頭から消えていた。

 だが今までの竜牙の雷狼竜の力のみで全てを破壊する様な行為が、何かが変わった様な行動の全てが自分達の弱さだと思ってしまった耳郎と障子にはキツイものがあった。

 

「……っ!」 

 

「……」

 

 耳郎は目元が潤むのを感じ、障子は何も言わずに下を向いたまま拳を握り締めていた。

 

「なっ! それは違うよ雷狼寺君!」

 

 緑谷は耳郎達の存在に気付いていない。

 だが彼の性格上、その言葉を否定するのは当然の行動だったが、その言葉は竜牙に届く事はない。

 

「もう何も言うな緑谷。()()()許せるが、それ以上は()()は許さないぞ」

 

 竜牙がそう言った時だった。

 緑谷へ背を向けている竜牙の左腕が肩から急激に変形したと思えば、その部分は巨大な雷狼竜の頭部となって緑谷へ唸りながら鋭い眼光を向けて来た。

 

Grrrrrrrrr……!

 

「く、黒い雷狼竜……!?」

 

 その頭部は、ヒーロー基礎学で切島・八百万を完膚なきまでに叩きのめした時の雷狼竜に似ており、緑谷の脳内にもあの時の獰猛な動きが過った。

 

「雷狼竜達は許さない……自身よりも弱い存在、弱い生き物の声を。だが、だからこそ実感もできる。雷狼竜達の声を聞けば聞くほど、力が増してることに。そして見える、倒すべき存在も……!」

 

 そう言って竜牙は左腕を払う様に動かすと、雷狼竜の頭部は消えた。

 そうしてようやく竜牙は振り返るが、彼の長髪によって緑谷は竜牙の目元を見る事は叶わなかった。

 けれど緑谷は、今の言動によってある確信を得た。

 

「雷狼寺君……! 今の、もしかして雷狼竜の個性は常闇君の個性と一緒で――」

 

「……緑谷、俺とお前の違いは()()()()しているか、していないかだ。お前もいつか本当に倒すべき、対峙する存在と出会った時、俺の気持ちが分かる……!」

 

 そう言って竜牙は緑谷の傍を横切って玄関から施設内へと戻る。

 

「……ん?」

 

 その時、僅かに竜牙は慣れ親しんだ()()を感じ、柱の方へ視線を向けるがすぐに戻し、そのまま部屋へと戻って行った。

 その柱に隠れている耳郎と障子の姿を見ずに。

――そして誰も気付いていなかった。そんな彼等のやり取りを聞いていた者達の存在を。

 

「――チッ!」

 

「……」

 

 爆豪と轟が建物の影から一部始終を見ていた事に。

 そして、そのままその日は終わりを告げる。友達の誤った道を止める事が出来ず、どうすればと緑谷に迷いを残して。

 

 

▼▼▼

 

 

 合宿二日目。朝の5時30分。

 昨日の疲労からの早朝起きは学生にもかなりストレスを与えていたが、雄英にそんな慈悲はない。

 全員が雄英指定の体育着に着替え、相澤の前へと整列する中、相澤はある事に気付いた。

 

「……まったく」

 

 竜牙や緑谷、そして耳郎と障子達一部の者達の表情が暗い。少し険しくもある。

 昨晩の内にまた何かあったなと相澤は察しながらも、ならば話が早いと早速、合宿の本題へと移った。

 

「さて、早速だが始めるぞ。今日から君達には蠢く悪意ある敵に対処する為に鍛えて行く。――ってな訳で爆豪、これを投げてみろ」

 

 相澤は爆豪へどこか見覚えのある球体を投げ渡し、爆豪もそれをキャッチするとすぐに正体に気付いた。

 

「あぁ? これって個性把握の時の……」

 

「そうだ、前回のお前の記録は705mだったな。そして今回は雷狼寺じゃなく、お前にやらせる事に意味があるんだ」

 

「――チッ!」

 

 前回、最初に投げたのは竜牙だったが、それを分かっていて相澤が爆豪を先にやらせると言った事で爆豪はチラッと竜牙を見て舌打ちをするが、すぐに構え、そのまま一気に爆発させながら投げ飛ばす。

 

「くたばれぇぇぇぇ!!!」

 

「――はい709m」

 

――えっ?

 

 爆豪が山の向こうへと投げ飛ばしたボール。誰もが800~1000は平然と行くだろうと思っていたが、相澤の告げる現実は非情であった。

 

「これで分かったと思うが、君達は成長している。ただ()()を除いてだがな。あとこれは意外と知られていないが、普通に体力や精神、技術を鍛えるよりも個性を鍛えるってのは地獄だから、精々死なない様に――冗談抜きでだ」

 

「つまり、今回の合宿の目的は……!」

 

「ケロっ! 個性を伸ばす為ね」

 

「その通りだ」

 

 飯田と蛙吹が合宿の目的を理解した事で相澤はニヤリと笑って頷いた時だ。

 相澤は一瞬の隙を突き、拘束布を竜牙へと投げて拘束。そのまま自分の傍に引き寄せて組み伏せると、何やら黒い骨組みの様な物を手に持ち、そのまま竜牙の背中へと押し付けた。

 

「なっ!?」

 

「雷狼寺!?」

 

 咄嗟の事で竜牙も隙を突かれ、耳郎が思わず叫ぶが相澤が安心させる様に手で制止する。

 そして、そのまま骨組みの機械は竜牙の身体に、まるで外部骨格の様に全身に装着された。

 

「これは……!」 

 

 竜牙は咄嗟に右手を雷狼竜化するが、その巨大化した手に比例して外部骨格も大きさを変え、雷狼竜化した腕にすら装着され続ける。

 体積を変えて壊す。少なくともそんな事は出来ず、しかもあまりに動きが制限されるのを竜牙は感じた。

 一定の所まで普通に動くが、一定の範囲、力を使おうとすると、強力な力で抑えつけられる感覚があった。

 

「これは拘束具……?」

 

「パワーローダーとサポート科の生徒が作った、雷狼竜専用の拘束骨格だ。耐電仕様・耐久性は勿論、雷狼竜の体積変化にも対応可。――雷狼寺、お前はこの合宿で雷狼竜の力をものにしろ。食事、風呂、就寝以外はずっと付けるんだ。その状態で雷狼竜化は当然してもらう」

 

「グッ……グゥ……Grrrrrrrrr!」

 

 拘束に耐える竜牙の顔の半分が雷狼竜へ変化し、雷狼竜は相澤を睨むが、相澤は同じ様にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さて諸君、死ぬほどキツイだろうが頑張る様に」

 

 あの竜牙すらも制御下に置いた現状を見て、他のメンバーも思わず息を呑んで自覚する。

 この合宿、本当に地獄になるのだろうと。

 

 

END

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