僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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ヒーローアカデミアで雷光虫との共生設定は作れませんでした


第三話:激戦! 戦闘訓練

 

 入学式――否、個性把握テストの翌日。

 意外にも、翌日から普通の授業は始まった。 

 マイクの英語の授業など、あまりに普通過ぎて“何か”が逆についていけなかった程に普通。 

 お昼も何かあるかと思いきや、普通にクックヒーローの料理を安価で食べることができ、普通に良かった。

 

――が、普通なのはここまで。

 

「わーたーし――が!!!――普通にドアから来た!! HAHAHAHA!!」

 

 午後から遂に始まる“ヒーロー基礎学”――先生は勿論、オールマイトだ。

 そんな彼の登場にクラスは大盛り上がり。

 

「すげぇ! 本当にオールマイトだ!」

 

「銀時代のコスチューム来てるけど、本当に教師やってるんだ!?」

 

「……胸熱」

 

「嬉しい時は素直に喜びなって……」

 

 周りとの温度差。

 静かに胸を熱くする竜牙に耳郎は苦笑する中、画風が違うオールマイトは一気に加速する。

 

「早速行くぞ――“ヒーロー基礎学”!! ヒーローに必要な知識を教えるぞ!! あっ単位多いから気を付けて!」

 

 素早く必要な事を説明するオールマイトに皆、付いて行けず、聞き返すよりも先にオールマイトは早速今日の内容を示した。

 

「今日は早速やるぞ!――戦闘訓練!!」

 

――戦闘訓練!?

 

 その言葉に全員が身を引き締める。好戦的な者達は既に瞳もギラつかせていた。

 

「更に入学前に貰った“個性届”と“要望”に沿って作られた――」

 

――戦闘服!!

 

「おぉ!!」

 

 オールマイトが叫びや否や、教室の壁が飛び出し、中には細かく収納された戦闘服。

 その登場にクラスのボルテージも更に上昇。

 

「さぁ! 着替えてグラウンド・βに集合だ!!」

 

 オールマイトの言葉に全員が頷き、それぞれのコスチュームを持ち、そして纏った。

 それによりグラウンド・βへと現れたメンバーは皆、コスチュームを纏った一人のヒーロー。

 その中に竜牙の姿もあった。

 

「要望通り……良いな」

 

 竜牙の戦闘服。

 それは全身が狼の様な毛皮、竜の様な鱗や角がある野生的な物。

 だが和の要素の陣羽織も纏っており、意外なデザイン性も残していたが、その真骨頂はデザインや丈夫さではない。

 

――発電機能もあり、提供した“雷狼竜”の素材もちゃんと生かされている。

 

「――満足」

 

「確かに凄いね。あんたのコスチューム」

 

「個性も使えばフル装備だな……」

 

 竜牙が満足していると、声を掛けたのは戦闘服に身を包んだ耳郎と障子だった。

 耳郎は一見軽装だが、靴が普通のよりも違う装備重視。

 障子もまたシンプルだが、彼の個性的に動きが制限されない性能重視なものだ。

 

「……二人も装備と性能を考えられてるな」

 

「うん。うちの場合はプラグは伸ばせても接近戦になるし、遠距離用の装備が欲しかったから」

 

「俺も複製する以上は動きに制限をしたくないからな」

 

 それからも互いにここが望んだ、そこはもっと何か欲しかった等と会話を続けて行く。

 他も同じ様な会話であり、それはオールマイトが到着するまで続いた。

 

「さぁ!! 有精卵共!!――戦闘訓練の時間だ!!――内容は“屋内の対人戦闘”さ!」

 

 オールマイトの説明が始まった。

 今の世の中、凶悪敵との出現率は屋内が高く、それらを想定したヒーロー組・ヴィラン組に分かれての2対2の屋内戦を行うとの事。

 そしてルールも次の通り。

 

・制限時間内に『核兵器』確保。敵を全員を確保すればヒーローの勝ち。

・制限時間内まで『核兵器』守護。ヒーローを全員を確保すれば敵の勝ち。

 

 以上のルールの下に訓練は行われる。 

 場所も訓練用のビルで行い、チーム決めも公平にくじ引き。

 

「……【I】か」

 

「あっ私と一緒! よろしくね!」

 

 竜牙が引いたのはIのくじ。そして相方は手袋とブーツだけを着用した透明女子――葉隠 透だ。

 

「雷狼寺 竜牙だ。――所で、葉隠はなんで手袋とブーツだけ見える? コスチュームと同じ様にステルスにしてもらえば良かったんじゃないか?」

 

「えっ……あぁ! これ違うよ! 私のコスチュームはこの手袋とブーツだけ。後は全部脱いだの!」

 

「……脱いだ?」

 

 葉隠の言葉に竜牙は思考が停止する。

 脱いだ?――何を?――服を全部?

 

「……全裸?」

 

「うん全裸! 私だって本気だよ!」

 

 本気になる所が違う気がする。

 竜牙は葉隠の言葉に女子的にどうなのかと悩む。確かに透明的には正しく、見た所で何も分からないがやはり複雑だ。

 そんな風に悩みながら竜牙がジッと葉隠を見ていると、手袋とブーツがやや離れて行く。

 

「雷狼寺君……流石にちょっと恥ずかしいかな……」

 

「!」

 

 竜牙が冷静に己の行動を思い出してみる。

 いくら透明だからといっても、己のやっているのは全裸の女子高生をガン見しているだけだ。

 明らかに不審者であり、竜牙は冷静に謝罪しようと考え、そして――

 

「ありがとうございます」

 

 何故かお礼を言ってしまった。

 そして互いに沈黙する事数秒……竜牙は自分の言葉に気付き、葉隠も我に返った。

 

「も、もう! 雷狼寺君!!」

 

「……す、すまない」

 

 葉隠にポカポカと叩かれながら謝る竜牙。

 そんな二人は端から見ればイチャついてる様にも見え、少し離れた場所で峰田は血涙を流し、そして耳郎もまたそれを見ていた。

 

「ねぇ……うちの時と対応違くない?」

 

「……俺に言われてもな」

 

 チームは違うが、傍にいた障子が巻き添えをくらう。

 やきもちではないが、耳郎からすれば何か凄く納得できない対応の差。

 そんな訓練前に今にも奇襲を掛けそうな耳郎を障子が止めていると、オールマイトが箱から番号を引き当てていた。

 

「良し!――まずはAチームがヒーロー! Dチームがヴィランだ!――それ以外の皆はモニター室へ行こう」

 

 第一回戦:Aチーム・緑谷&麗日VS Dチーム・爆豪&飯田

 

(……緑谷と爆豪。どんな訓練になるのか……やや不安)

 

 不安定な緑谷。そしてそんな緑谷に過剰な反応を見せる爆豪。

 竜牙は組み合わせ最悪の展開に胸騒ぎを覚えながらも、皆に合わせて移動を始めた。

――が。

 

「雷狼寺君……! まだ話は終わってないよ!」

 

「……ごめん」

 

 まだお説教は終わっていなかった。

 

 

▼▼▼

 

 結果だけ言えば勝ったのは緑谷のAチーム。

 緑谷と爆豪がタイマンで戦っている間に麗日が核に接近、飯田がそれを防衛。

 しかし過剰な爆豪の攻撃の中、一瞬の隙をついて緑谷が麗日を援護。そのまま攻勢にでて麗日が核を確保して勝利したのだ。

――その代わり、緑谷は保健室へとそのまま運ばれてしまった。

 

(……緑谷の作戦勝ちだ。だが実戦ならば双方共に負け――いや、ただ被害が出ていただけか)

 

 竜牙は先程の映像を見て、純粋にそう思った。

 既に八百万が評価を話し、訓練と言う名の甘えによる“勝利”だと言っている。

 だが、勝利は勝利。爆豪はショックで顔を下に向けている。

――しかし、それでも訓練は続いて行く。

 

「次は場所を変えて!!――ヒーローはBチーム! ヴィランはIチームだ!」

 

「!――雷狼寺か」

 

「……障子のチームか」

 

 竜牙の番。相手は障子&轟。

 特に障子は実技試験で竜牙の力を知っており、既に無意識に表情を険しくしていた。

 そんな双方は対峙する。

 

「……負けるつもりはない。本気で行くぞ障子」

 

「あぁ……俺も全力でお前に挑む」

 

 対峙する二人に周りは男らしいと評価され、葉隠も羨ましいと思って見ていた。

――轟を除いて。

 

「……俺はヴィランだ。先に行く。――行こう葉隠」

 

「うん!――よっしゃ! 私も本気で行くよ!!」

 

 そう言い終え、竜牙は葉隠と共にビルへと向かった。

 そしてその後を追う様に、障子達もその場を後にする。

 

 

▼▼▼

 

 ビルの最上階。そこにハリボテの核は置いてあった。

 防衛するヴィラン役の竜牙と葉隠は、そこで作戦会議を行っていた。

 

「よっしゃ! 私も本気出すよ!!」

 

 そう言って葉隠は手袋とブーツすら抜き、小型無線機を除いて完全に透明となり戦闘準備を整えた。

 その隣では竜牙もまた、耳を変化させており、既に態勢も整えている。

 出来る限りの全力。建物の破壊も最低限と言われている以上、全ての手札は切れない。 

――しかし、負けるつもりは更々ない。

 

「……油断するな葉隠。障子は肉体の部位を複製する。耳も然り……索敵は得意だろう」

 

「大丈夫!まっかせて!……でも、問題は轟君だね。推薦組って話だし」

 

「……確か“氷”だったな個性は」

 

 思い出す限り、轟は個性把握テストで氷を使って記録を出していた。

 竜牙にとってはそれが“問題”だが、だからといって諦める前提の程ではない。

 なにより、恐らく轟は……。

 

「――葉隠。ブーツは履いといてくれ」

 

 “可能性”を考え、葉隠にブーツを履くように促す。

 そんな竜牙が思い出すのは轟の“目”だ。警戒はしているが、明らかに眼中になし。――見ている相手が違う者の目を竜牙は知っている。

 轟の目はまさにそれだったのだ。

 

「えっ……うん分かった」

 

 葉隠はブーツを履いてくれた。

 これで万が一は大丈夫だろうが、この決着は恐らく短時間で終わるだろう。

 

「更に向こうへ……」

 

 竜牙は静かにその場で佇み、訓練開始を待つことにするのだった。

 

 

▼▼▼

 

――訓練開始。

 

 障子は轟共にビルの中に入り、早速索敵を始める。

 耳を複製し、細かく判断しようとするのだがヴィラン側に動きはなく、障子も相手の警戒の高さを感じていた。

 

「殆ど動きがない……どうやら俺の索敵は警戒されている様だ」

 

「関係ねぇよ……お前には悪いが、外に出ていてくれ」

 

――すぐに終わる。

 

 轟の言葉に取り敢えずは外に出た障子。

 しかし次の瞬間、障子は我が目を疑う。まさに一瞬――

 

――ビルは一瞬で凍り付いた。

 

 その光景に障子。そしてモニターで見ていた者達も驚きを隠せなかった。

 

「なんて事だ……仲間、核、建物も傷付けずに制圧するとは。これならば敵も弱体化できる!」

 

「無敵じゃねぇか!!」

 

「入試1位と推薦組の戦いだから見物だと思ったけど……これじゃ勝負になんねぇぜ……!」

 

 ビルを丸ごと凍らせた。その光景は衝撃的過ぎて、見ている者達は轟達の勝利を疑わなかった。

――オールマイトと耳郎を除けば。

 

「――む!!」

 

「いない……?」

 

 二人は気づく。本来ならば氷漬けにされているであろう竜牙と葉隠がいた筈の場所。

 核の部屋に少し前までいた二人の姿がない事に。

 気付いた他の者も一斉に探し始めた。

 

「どこだ!」

 

「さっきまでそこにいたよね!?」

 

 皆が探している間にも轟達は核の部屋へと向かう為、廊下を歩いている。

 歩き方にも余裕はあり、倒せなくとも弱体化した事を確信した様子だ。

――だが、そんな時に“それ”は現れる。

 

「あっ――見つけた!」

 

 見つけたのは尾の生えた尾白。

 二階の廊下。そこで手足を変化させ、四足歩行で佇む竜牙と背に乗っかるブーツ、つまりは葉隠の姿があった。

 竜牙は身体が凍り付いており、身体も震えている。

――しかし、その時は訪れる。

 

『!』

 

 モニターで見ている者達が竜牙の変化した耳が大きく動いたと思った瞬間――

 

――竜牙は己が佇む床を破壊した。結果、どうなるかと言うと……。

 

 

▼▼▼

 

 

「ッ!?――上だ!!」

 

 障子が叫ぶと同時、天井が崩れて何かが共に落ちて来た。

 しかし、轟の反応は僅かに遅れてしまう。速い、そう速いのだ落ちて来たものが。 

 

『グオォォォォォッ!!』

 

 遠吠えの様な声と同時に、障子は強烈な衝撃に襲われる。

 障子は咄嗟にそれが巨大な“尻尾”である事を認識するが、衝撃に混ざった痺れで身体に支障。同時に更なる衝撃に襲われる。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 何かが叫びながら自分に迫って来ているのだ。

 だが、その声に聞き覚えはある。そう葉隠の声だ。

 

「透明の奴!?」

 

 崩れた天井の粉塵が邪魔だが、確かに拘束テープが浮いている。

 捕まってなるものか。そう思い、障子は痺れた体に鞭打つが、そこでまさかの事態。

――足を滑らせたのだ。床の氷で、思いっきり……。

 

「しまっ――」

 

「取ったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 最後に聞いたのは葉隠の叫び。

 結果、呆気ない取っ組み合いの結末は自分が拘束され、テープでぐるぐる巻きにされると言う結末に障子は無念そうな表情を浮かべるのだった。

 

――その頃、轟は焦っていた。

 入試1位、雷狼寺 竜牙の事を侮っていた訳ではなかった。だが、初撃を防ぐ事は出来ない。確実に弱体化はしただろうと確信を持っていた。

 事実、竜牙は氷結に弱っていたのは正しく、身体の負担は通常よりも増していた。

――だが、それで勝てると思ったのが轟の油断。

 

『グオォォォォォォン!!!』

 

 竜牙は個性に身を委ね、本能のまま遠吠えの如く咆哮を鳴らし、人の姿の大半を捨てて轟に飛び掛かった。

 落下と同時に尾で障子を攻撃し、その隙に背中に乗っていた葉隠が突撃。

 問題はそこからだ。真下に落ちたが、轟は緊急回避。だがそれは想定済み。

 前足を放ち、轟に強烈な一撃をお見舞い。更に両前足から放電。前方広範囲、轟が回避する術はない。

 

(……回避出来るものならばしろ。俺を止める事が出来るなら!)

 

「くッ……なめんな」

 

 強烈な痺れを感じても尚、轟は勝利は諦めていない。パニックにもなっていない。

 目の前の人の姿を捨てかけた存在。獣人の様な不可思議な存在に負けじと、再び己の個性、右側の半冷を放った。

――瞬間。

 

『!』

 

 竜牙は即座に察知。

 宙に飛ぶことで、地面から生える無数の氷柱を回避。

 その驚異の動きに轟は勿論、オールマイト達も息を呑んで見守っていた。

 

「何が起こっているんだ! 轟君達が優勢と思えば、障子君が捕まって! 轟君が追いつめられてるじゃないか!」

 

「やべぇ!! 轟もやべぇけど、雷狼寺もやべぇ!!!」

 

「爆豪も才能マンだったけど、雷狼寺と轟は更に才能マンじゃねぇか!」

 

 飯田も理解が追い付かず、切島と上鳴が叫ぶ。

 他の者達も衝撃な展開と戦闘に目を奪われ、八百万や爆豪ですら呆気にとられてしまう。

 

「……こんなにも差がありますの?」

 

「……クソッ」

 

 八百万も爆豪も確実に周りより頭一つ出ている才を持っている。しかし、そんな彼等でさえ雷狼寺と轟の戦う姿を見て、自分達では勝てない。――そう思ってしまった。

 ビルを一瞬で凍らす者。それに立ち向かい、劣勢からも諦めずに瞳に闘志を宿す者。そんな者達の戦い。

 そんな中でだ。オールマイトもまた、いつもの笑顔を浮かべながらも竜牙の動きに衝撃を受けている人物。

 

(彼の個性届は目に通していた……だが、 これ程とは )

 

 オールマイトが見た竜牙の個性届。それは特殊の中の特殊。

 知っている者は当然ながら先生達のみ。

 

(“突然変異”で誕生した個性!――この世に存在し得ない生物!!――これが『雷狼竜』の個性か!)

 

 オールマイトが竜牙の個性に考える中、竜牙と轟の戦いに動きが起こる。

 

『グオォォォォォォン!!』

 

 宙に回避した竜牙。そのまま身体を素早く回転、そして落下。

 その肉体で強烈な一撃。人外レベルの反射神経、身体動作に轟の対応が間に合わない。

 

「ガハッ!!」

 

 強烈なボディプレスが直撃し、身体の酸素を吐き出す轟。だが、彼はまだ諦めない。

 轟もまた執念を持ちし少年。最後の最後まで諦めない。諦めることはない。

 

(負けてたまるか……!――こんな所で負けんなら、俺の今までの苦労は――!)

 

――だが。

 

『……終わりだ』

 

――放電。竜牙が放ったトドメの技。彼の体内に蓄電されている電気を解き放ったのだ。

 

「!!」

 

 小さな叫びを最後に、轟は意識を失った。

 拘束テープを巻くまでもなく、勝敗は決まった。

 

『勝者!!――ヴィランチィィィィィィィィム!!!』

 

 オールマイトの放送。それを聞いた時、竜牙は身体を人へと戻した。

 そして息を乱しながらも、気を失う轟に肩を貸しながらゆっくりと歩き出した。

 

(少しは……俺や葉隠を見れたか?)

 

 気を失う轟へ、竜牙は僅かに表情を崩しながらそう思うのだった。

 

 

▼▼▼

 

「今回のベストはぁぁぁ!!――雷狼寺少年!!――分かる人!!」

 

「はい!――それは今回、雷狼寺さんが突破口を開いたからですわ」

 

 手を挙げたのは八百万。

 彼女は先程までの戦いについての評価を話し始めた。

 

 まずは轟。轟は最初の攻撃は良かったが、その後の油断で結局は形勢を逆転されてしまった。

 最後までどんな状況にでも対応できなければならない。ヒーロー側ならば尚の事。

 

 次は障子。障子もまた轟と同じ、轟の氷結に油断を生んでしまったのだろう。

 

 雷狼寺。氷結の中、葉隠を背に乗せて、床を破壊して奇襲と氷結脱出を果たす。

 その後は、障子に一撃。そして一気に轟を制圧して勝利まで持っていた。

 

 そして葉隠。ある意味では、本当のベストは彼女かも知れない。

 雷狼寺の奇襲後、一気に障子を確保。破壊等の点を除けば、シンプルな活躍故に彼女がベスト。しかし、逆にそれ以外の行動をしていない事が残念。

 

 

「――という感じです。破壊行動、立場が逆ならばまた評価は変わりますが……」

 

「いや! それぐらいで十分だ!!――さぁ! このまま次に行こうか!!」

 

 八百万の評価も終わり、オールマイトは少し急ぎ気味にまき始めた。 

 思ったよりも時間がかかり過ぎたのだろうか。そう思いながらも竜牙も疲労しており、腰を下ろしながら次の訓練へ目を向けて行くのだった。

 

――その後、全ての訓練が終わり、オールマイトは緑谷の下へ向かうと言って素早くその場を後にしてしまう。

 あっという間の授業終了に竜牙達も困惑しながらも、やる事もなく、そのまま教室へと戻って行くのだった。

 

▼▼▼

 

「ほんと強ぇな! 轟に勝つなんてよぉ!!」

 

「凄かったね! 何が起こったか分からなかったよ!」

 

「一体、どんな個性なんだ?」

 

「狼の様で少し違ったわね……」

 

「獣の力を持つ者か……」

 

「葉隠の感触について洗いざらい全て!」

 

 時間は授業も終わり下校時間。

 しかし竜牙は帰る事が出来ず、クラスメイト達に取り囲まれていた。

 切島、芦戸、砂籐、蛙吹、常闇、峰田。個性豊かなクラスメイト達は先程の戦闘訓練の事が聞きたくて仕方なかった。

 推薦組。しかも雄英のヒーロー科のだ。それだけでも一般組とはレベルが違う者達。

 それを竜牙が圧倒した事実。そしてその個性の正体が聞きたいのだ。

 

「……轟は油断していた。そして障子も、轟の力に呑まれていたからな。障子が油断していなかったら俺の奇襲もバレていただろう」

 

「ぐっ……」

 

 冷静に語る竜牙のその言葉が障子に突き刺さる。

 互いにぶつかり合う事を約束したが、実際は轟の一強であった。

 流石にそれには障子も思うところがあり、そのまま肩を落とし、そんな障子を耳郎が肩を叩いて慰めた。

 

「まぁ受難に感謝ってやつでしょ。あれは仕方ないって……」

 

「だが……実際、俺は何も出来ていなかった。そんな自分が許せん。――だから、次は負けん」

 

「……次も負けない」

 

 あまり表情を出さない障子と竜牙。

 しかしそんな二人の間には確かな熱い繋がりがある事、それをクラスメイト達も分かっている。

 

「男らしいぜ!!」

 

 何故か切島が一番感動しているが、話はそれで終わらない。

 カエルっぽい女子。蛙吹がひょこっと竜牙の前に顔を出して来た。

 

「ところで雷狼寺ちゃん?」

 

「……なんだ蛙吹ちゃん」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。――あなたの個性ってなんなのかしら? モニターだとあなたの攻撃で見づらかったけれど、姿は狼ぽかったわ。でも、狼に鱗はないわよ?」

 

 見た目からは察せなかったが、意外に斬り込んで来る蛙吹に竜牙も悩む。 

 ハッキリ言って竜牙的には言いたくない。“昔”の事が原因で、己の個性に少し敏感な所があり、出来ることなら流したい問いだ。

 しかし、竜牙は己の個性の“真の力”を、まだ雄英では人目の少なかった0Pの時にしか使っていない。

 これからも人前では使いたくないが、少なくとも“あの状態”を見せていない以上は言い訳は作れる。

 

「……狼の個性。南米の奥地にいる新種」

 

「新種?」

 

「マジか! 南米に新種の狼っていんのか!?」

 

 竜牙の言葉に蛙吹は首を傾げるが、切島は見事に騙された。

 これで安心。――かと思ったが、話を聞いていた耳郎が現れ、疑いの眼差しで竜牙を見つめる。

 

「……うちも初耳なんだけど?」

 

「……俺も初耳」

 

「嘘じゃねぇか!!」

 

 耳郎の言葉に思わず正直に吐いてしまい、切島にも流石に気付かれた。 

 しかし、強ち全部が嘘ではない。本当でもないが、少なくとも竜牙的にはこれが限界。

 すると、そんな竜牙の様子に耳郎は溜め息を吐き、呆れた様子で竜牙の頭へ軽くチョップを喰らわした。

 

「……全く。変な嘘つくなって……言いたくないんでしょ?」

 

「あまり表情を出さない分、逆に雰囲気で分かりやすいからなお前は」

 

 耳郎の後ろから障子も現れ、庇う様に竜牙の心を代弁する。

 まだ長い付き合いどころか、日数的には一週間も過ごしていない。

 だが、その短い付き合いは確かに濃かった。

――実際、試験が終わった日の夜。耳郎も障子も、何故か竜牙の存在が頭から離れなかった程だ。

 

――あんな奴もいるんだ。

 

 二人の共通の思い。

 周りは逃げ、自分達も逃げようとした中でただ一人残った受験生。

 その時に言った言葉も覚えていた。

 

『……それじゃ、今逃げているあの連中が“私が来た”って言っても――人々は“安心”するのか?』

 

 そう呟き、0Pへ挑もうとする竜牙の後ろ姿。

 それは確かに、嘗て自分達が憧れたヒーローの後姿。――格好よかったのだ。あの時の竜牙が。

――無表情でマイペース過ぎるのがキズだが、それでもそう思ったのは耳郎と障子の偽りなき意思。

 

――だから分かったのだろう。竜牙が“個性”の話になった時、悲しそうな雰囲気になる事に。

 

「そんな凄い個性なのにか? 勿体無いって!」

 

「俺も尻尾の個性だから参考にもしたいし、余計に気になるな」

 

 疑問に感じ、そう言ったのは瀬呂と尾白。

 瀬呂に関しては野次馬根性だが、尾白に関しては尻尾の個性故に竜牙の尻尾捌きが気になっての事。

――しかし、それでも竜牙の意志は変わらない。

 

「……悪い。いつかは言えると良いんだが……今は言いたくない」

 

 別に内緒が良いとか、個性秘密主義とかではない。

――ただ思い出すのだ。昔の事を……。

 

『もう勘弁して!! 私じゃあなたを育てられない!!』

 

『理解してくれ……お前と私達は違うんだ……!』

 

――幼い頃に放たれた言葉。だからか記憶がそれを薄れさせず、鮮明に覚えているのだ。

 その原因こそが――竜牙の持つ“個性”だ。

 そして、力なく答える竜牙の声に察したのか、止めに入ったのは切島だった。

 

「もう良いだろ! 無理矢理なんて男らしくねぇ!」

 

「そうだぜ。それにもっと聞かなきゃならねぇことがあんだろ!」

 

 ここで意外な伏兵現る。それは峰田の存在。

 男らしく止める切島に続けと言わんばかりに峰田も止めに入ったのだが、何故か彼の鼻息は荒く、眼も血走っている。

 明らかに異常。だが、そんな彼を止める者はおらず、竜牙の前に降り立った。

 

「葉隠の感触どうだったんだよぉぉぉぉ!! ブーツだけの全裸JKに乗ってもらえるとか!! 最早羨ましすぎて犯罪だろうが!!――で、どうなんだ? 感触は? 全裸は? 全部話せぇぇぇぇぇ!!!」

 

 血涙をまじかで見ることになるとは、A組の誰も思っても見なかっただろう。

 そして同時に、女子がゴミを見る様な目でクラスメイトを見つめる光景も同じく。

 

「……黙秘する」

 

「ハァッ!! 紳士ぶってんじゃねぇぞ雷狼寺!! この世の男に紳士なんか存在しねぇ!! 存在すんのは“スケベ”か“むっつり”だけなんだよッ!!!」

 

 竜牙は思った。一体、どんな恨みを買えば出会って間もないクラスメイトに血涙を流されながら、ここまで追及されるのかと。

 ハッキリ言って怖い。この小柄なケダモノが、翌日笑みを浮かべながら家の前にいるかもしれない。

 そんな想像をするぐらいに。

 

(……仕方ない)

 

 竜牙は決めた。このまま何も言わなければ、この峰田は確実に何かを起こすだろうと。

 しかし、そうと決めても困ってしまうのが現状。

 あんな神経を使う演習の中、そんな事を気に出来るのは目の前の峰田ぐらいなもの。

――だが、そんな時に竜牙の“記憶”が覚醒する。

 

「……詳しくは言えない。――だが、結構()()()……とは言っておく」

 

――竜牙がそう言った瞬間、峰田の動きが止まる。

 身体は揺れ、白目を向いて何かをブツブツと呟き続ける。

 妄想の世界にトリップでもしたのだろう。これで静かになり、万事解決と言えよう。

 

――否、そんな訳がなかった。

 

「雷狼寺く~ん!」

 

 背後に迫る存在。しかし、そこには何もいない。宙に浮いた制服だけ。

――つまりは葉隠だ。葉隠はプリプリと怒っている様で、見えない手で後ろから竜牙の両頬を引っ張った。

 

「そんな事を言う口はこの口か~!!」

 

「……だきふいたのわ、おまへふぁ」

 

 竜牙の覚醒した記憶の内容。

 それは演習が終わり、轟を保健室に向かわせるロボットに乗せた時の事だった。

 

『よっしゃー! 勝ったよ雷狼寺くん!!』

 

 ブーツだけの葉隠が喜びながら抱き着いて来たのだ。

 首に手を絡められた感覚。そして胸に当たる“ポヨン”の存在。――確かにそこには“あった”のだ。

 

「もう! こうなったら何か奢ってくれないと許さないよ!」

 

「ケンタ〇キーで良いか?」

 

「意外なチョイス!?」

 

「つうか俺も行きてぇ!!」

 

「私も私も! もうそこで反省会もしちゃおう!!」

 

 葉隠に言ったのだが、いつの間にか切島達も盛り上がって行った。

 竜牙が葉隠に対する詫び、そしてチキンが食べたかっただけ。

 

「おおい! 飯田も麗日も行こうぜ!!」

 

「ケンタ〇キー!?――でも私……あんまりお金が……」

 

「そうだぞ皆! 寄り道をするなんて親御さんが心配したらどうするんだ!!」

 

 切島の言葉に麗日と飯田も反応するが、麗日は行きたそうだが財布の事情で行きずらそうで、飯田は普通に真面目(飯田)だった。 

 

「店は俺が決めたんだ……全員分、俺が持つ。――あと、クラスメイトで反省会する事は良いことだろ? 親睦を深めるのは悪い事じゃない」

 

「う、ううむ……確かにそうだが、雷狼寺君だけに払わせるのは……」

 

「そうだぞ。少し高いが、自分の分は自分で出す」

 

「そうだよ! そこまでしなくて大丈夫だよ!」

 

 飯田は先程よりも受けが良いが、障子も葉隠も言う様に少し申し訳なさそうだ。

――しかし、竜牙にはそんな事は“些細”な事。

 

「だったらドリンク代だけ払え。それでも納得しないなら葉隠だけにするぞ?」

 

 そう言って荷物を纏める竜牙に焦り、結局切島達が折れた。

 

「しゃあねぇ……その代わり、これは借りって事にしてくれ! ただ奢ってもうのは男らしくねぇからな」

 

「うんうん! そういう事にしよう!」

 

「……好きにしろ」

 

 切島と芦戸の言葉に周りが頷く事で竜牙も折れた。

 そして飯田も麗日も行く。――と言うより、先に帰宅した者以外は全員参加が決まった中、麗日が思い出すように待ったをかける。

 

「あっ! 待って! まだデク君が!」

 

 緑谷がいない事を麗日が思い出したと同時、クラスの扉が開き、そこに緑谷が現れる。

 保健室では治りきらなかったのか。左腕はまだ包帯を巻かれているが、ある意味で今日のもう一人MVPである。

 そんな緑谷の帰還に切島達が彼の周りに集まって行き、緑谷がもみくちゃにされる中、耳郎と障子が竜牙の傍へと移動して来る。

 

「良いのあんな事言って……? 無理してんなら私も少し出すけど?」

 

「俺も少し出せるぞ?」

 

 二人は竜牙を心配してるらしく、そう言って財布を確認するが竜牙は特に動きを見せる事もなく、ただ小さく呟いた。

 

「……問題ない。――“両親”からは金()()は貰ってる」

  

 そう言って竜牙が己の財布を見せると、中にはあるわあるわ。――札束にカードの束。  

 明らかに学生の持つ金額ではなく、二人は当然驚いてしまう。

 

「ヤバッ!? なにそれ……」

 

「凄いな……親は会社の社長か何かか?」

 

「……そんなもんだ」

 

――本当に“欲しいもの”は貰えないがな。

 

 竜牙が心の中で呟く声を聞く者はいない。

 そして、竜牙は言い終えると、皆と同じ様に緑谷の下へと向かった。 

 

「……緑谷」

 

「あっ……えっと――雷狼寺君!」

 

「……よろしく。――これから反省会でケンタ〇キーに行くが、お前も来るか? 今なら奢りも付いてくる」

 

「いや、そんなおまけ付きみたいに言うなって……」

 

 変なところでズレている竜牙のコメント。それに突っ込んでくれるのはやはり耳郎だ。

 しかし、当の緑谷は申し訳なさそうにしていた。

 

「ごめん! ちょっとかっちゃんに大事な話が合って、また今度誘って!」

 

 そう言うと緑谷はそそくさと行ってしまい、残された竜牙はどうしようも出来ない。

 仕方なく、緑谷を抜いて残りのメンバーで竜牙達は反省会へと向かうのだった。

 

 

 

END




竜牙「すみません。骨なしのガーグァセット一つください」

クラスメイト「骨なししか食えないのか・・・」

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